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オバマ新政府の中国政策の分析--同舟相救う左右の手のように助け合うのか?

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オバマ新政府の中国政策の分析

─同舟相救う 左右の手のように助け合うのか?─

李 大 中

(淡江大学国際事務と戦略研究所助教授)

【要約】

選挙期間中、「変化」を高らかに謳ったオバマは、2009 年 1 月 20 日正式に就任を宣誓し、米国第44 代大統領になった。内外の切迫し た厳しい情勢に直面し、オバマは就任早々息つく暇もなく、米国を 早期に経済・金融の窮地から救い出し、一刻も早くこの不景気の波 の衝撃から脱出させなければならない。加えて、外交戦略の構図に おいても、如何なる新たな発想と新たな方法によって、米国の世界 的なイメージと、同盟国の中での名声とリーダーとしての地位を再 構築させるかが、新政府の当面の急務となる。新任の国務長官ヒラ リーが 2 月に行った東アジア四カ国歴訪は、米国政府がこの地域を 非常に重視していることをはっきりと示した。その中で、オバマ政 府の中国に対する重視度、中国政策の基本方針、米中関係の位置づ けと両国の対話の今後の動向が、注目の焦点となっている。本論文 では、予見できる限りの将来において、米中は「共通の利益」とい う現実的な必要性に基づき、現時点の協力と協調の姿勢を持続させ るであろうと考える。長期的には、双方がさらに強固で親密な両国

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関係を築いていけるかどうかは、互いに「共通の価値観」を一つ一 つ作り上げていけるかどうかにかかっている。

【キーワード】

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一 はじめに

本論文の主な研究目的は、米国のオバマ(Barack Obama)新政権 発足後、その中国政策の基本と今後米中関係が進むであろう方向に ついて検討することにある。本論文の主な論点は、以下の三点であ る。(1)オバマは米中関係を「敵でも友でもない。競争相手だ。」と 位置づけているが、昨今、米中の相互依存度が高まるにつれ、これ が動かしがたい事実となったことは否定できない。特に、世界的に 政治経済情勢が混迷を深めている現在、経済と金融危機に対処する ことは言うに及ばず、地球温暖化の防止や北朝鮮の核問題の解決に おいても、米国政府にとって中国の重要性はかつてないほどのもの となった。(2)貿易・人権・人民元の為替相場・台湾等の問題は、 これまでは両国関係の摩擦を生み出す主な要因であった。しかし、 台湾問題では近年中台関係の緩和が進み、短期的には台湾海峡情勢 の不安定化により米中関係が悪化する可能性は大幅に低下した。一 方、貿易・人権・人民元の為替相場等そのほかの問題については、 今 な お 米 中 関 係 が 発 展 す る か 否 か の 鍵 を 握 る 可 能 性 が あ る も の の 、 「協力すればともに利あり、決裂すればともに害あり」の強い認識 の下、米中間の「積極的な協力関係」の発展を中国政策の基本とす るオバマ政権にとって、重大な影響を及ぼすことにはならないだろ うと考えられる。(3)現段階においては、米国と中国は主に共通の 利益に基づき、協調・協力の姿勢を採っている。しかし、ともに手 を取り合って目の前の困難と問題を克服した後も、両国が引き続き このプラスのパワーを維持できるか否かは、より注目すべき点であ ろう。なお、章立てについてであるが、本論文は「はじめに」のほ か、主に四つの部分からなっている。二章では、米国の外交政策と アジア太平洋戦略の基本的な考え方について分析し、三章では、オ

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バマ政権の米中関係の位置づけ、双方を引き寄せる要因、双方の対 話メカニズムの再編に焦点をあてる。四章では、米中関係にとって の潜在的な変数について検討し、最終章では結論を述べる。

二 オバマ政権の外交とアジア太平洋戦略の特色

1 米国外交戦略の基本 オバマは大統領選挙期間、先制攻撃を主とするブッシュ主義に対 し強い疑問を呈し、就任後は米軍のイラクからの撤退計画を2009 年 8 月までに完成させると正式に宣言した。ただし、オバマはいかなる “オバマ・ドクトリン”なるものも存在しないことも合わせて強調し、 米国が民主主義、自由、安全保障等の基本原則に依拠し、漸進的で 正確、かつ実務的な行為によって、国家の安全と世界の平和を守ら なければならないことを主張した。一方、オバマは米国が多国間主 義をとり、ソフトパワーに関する議題をもっと重視すべきであると いう議論を支持している。また、オバマは米国が平和的な手段を使 わず、比較的慎重な態度を採り、行動に移す前に必ず先に脅威の所 在を確認し、武力に訴えるのは最後の手段とし、国際法の関連規範 を遵守すべきだと強調した。 米国新政府の外交政策の方向性について展望する上では、オバマ と新国務長官ヒラリー(Hillary Rodham Clinton)両人のメディアイ ンタビュー・言論・発表した政策声明を参考にするほか、ヒラリー が 2009 年 1 月 13 日に上院に召喚された際の公聴会での発言内容、 就 任 後 初 の 正 式 談 話 、 す な わ ち 2 月 13 日に『アジア協会』(Asia Society)で行われた東アジア四カ国歴訪前の演説-そのテーマは〈米 国とアジア:環大西洋と環太平洋の二つのパワー〉(U.S. and Asia: Two Transatlantic and Transpacific Powers, Remark at the Asia Society) であったが-からもその全貌を探究することとする。ポイントは以

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下のとおりである。第一に、ブッシュ政権がこれまで行ってきた失 政により、米国はただいたずらに強大なパワーがあるのみで、人心 を勝ち取ることができず、世界的な影響力の衰退を徐々に招いた。 したがって、軌道を修正する策を講じて、米国のかつての名声とリ ーダーとしての地位を回復し、重大な議論については、より平等で 相手を尊重する態度をもって外交パートナーに対処するべきである。 また、耳を傾け、コミュニケーションをとり、接触することの必要 性を強く訴え、コンセンサスに達した上で、一致した立場と行動を とる。合わせて、米国は同盟国もまたより大きな責任を引き受けて くれることにも期待する。第二に、米国はハードパワーに偏重した 外交路線を捨て、軍事的手段の優位性を妄信してはならない。それ に代わって、スマートパワー(smart power)の活用を強く訴え、文 化、価値観、政治、外交、経済、軍事等の多くのソフトパワーとハ ードパワーの要素と手段を組み合わせ、国益を増進させる。また、 米国の対外戦略はより実務主義に傾斜するべきで、感情的な要素あ るいはイデオロギー(neither impulsive or ideological)による拘束を 受けない。第三に、米国国務省の仕事は、国家安全保障戦略の中の 三つのD(Defense, Diplomacy, and Development)のうちの二つの D、 すなわち外交と発展に関係するが、後者は長い間著しく欠落してい た。したがって、このバランスを失った現状を是正する1

1 Hillary Rodham Clinton, “Nomination Hearing To Be A Secretary of State: Statement Before the Senate Foreign Relations Committee,” January 13, 2009, Available: http://www. state.gov/secretary/rm/2009a/01/115196.ht; Hillary Rodham Clinton, “U.S. and Asia: Two Transatlantic and Transpacific Powers,” Remark at the Asia Society (New York, NY), February 13, 2009. Available: (http://www.state.gov/secretary/rm/2009a/02/117333.htm).

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2 ヒラリー国務長官による初の外遊から見る米国のアジア太平洋 政策の方向性 米国のアジア太平洋外交戦略について、選挙期間中にオバマは、 米国は朝鮮半島の六者会合を引き続き支持し、域内の強固な多国間 枠組みの構築を支持し、米国の伝統的なアジアの同盟国を重視する ほか、より強固な二国間関係の構築を主張し、米国の利益を確保す べきであるという立場を表明した。一方、国務長官のヒラリーは2009 年 2 月に日本、インドネシア、韓国、中国等のアジア四カ国を歴訪 する就任後初の外遊を終えた。注目すべきなのは、これまでの国務 長官の多くが欧州あるいは中東地域の同盟国を第一に優先していた のとは異なり、アジアを初の外遊先に選んだ点であり、これはこの 40 年来ほとんど見られなかったことである。この伝統を突き破った 行動からは、米国新政府の外交プレゼンスにおける東アジアの存在 意義が見て取れる。国務省はこの訪問の目的には四カ国との間の二 国間関係の強化のほか、協議した議題もまた世界経済危機、国際テ ロ対策、人道援助、大量破壊兵器の拡散、エネルギー、環境保護、 医療、気候変動、人権保障等の世界と地域の議題が含まれ、非常に 包括的なものであったと強調している。ヒラリーのアジア四カ国歴 訪を観察すると、以下数点の意図が明らかである。 (1) 四カ国の位置づけの違い:アジアの地位はやはり重要であるが、 それが米国の外交政策の全てではない 四カ国歴訪の中でヒラリーが最初に訪問したのは日本であり、国 務省ロバート・ウッド(Robert Wood)報道官の声明では、ヒラリー が 日 本 の 麻 生 政 権 と 世 界 と 地 域 の 議 題 に お い て 、「 戦 略 的 な 二 国 間 同盟と協力」(strategic bilateral alliance and cooperation)について協 議し、麻生首相が 2 月末に訪米することに合意したことが言及され

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ている。米国政府がそのセッティングに意欲を示していることは明 らかであり、日本のパワーが突如として示されたのである。また、 最初の訪問国になるであろうともともとメディアが推測していた韓 国については、ニュースリリースでは「拡大グローバル協力パート ナーシップ」(expanding global cooperative partnership)と表現されて いる。一方、インドネシアについては、ウッド(Robert wood)報道 官は、米国は世界最大のイスラム国家と手を握る必要があり、米国 とインドネシアの関係は「緊密・成長パートナーシップ」(close and growing partnership)と描写できると強調している。最後の中国につ い て は 、 米 国 政 府 と 中 国 と の 関 係 を 「 積 極 的 協 力 関 係 」(positive, cooperative relationship)へとさらに一歩発展させることを期待して いるとした2。本論文ではポイントが二つあると考えている。第一に、 この四カ国の米国にとっての存在意義についてであるが、日本と韓 国はともに米国のアジア太平洋地域における伝統的な同盟国ではあ るが、日米同盟の地位は、米韓間の「拡大グローバル協力パートナ ーシップ」とは比較にならない。一方、インドネシアが米国の新た なパートナーになったことは明らかであり、反テロ対策の思惑以外 にも、イスラム世界の米国に対する求心力を引きつけるための象徴 という意味合いがないとは言えないだろう。最後に、アジア歴訪で 最後の訪問国となった中国については、「積極的協力関係」とだけ表 現されている。しかし、世界情勢がいつまでも混乱を極め、重要な この時期に、中国のパワーと米中関係の動向を軽視する人などいな い。したがって、中国がヒラリーの四カ国歴訪の真の主軸であり、

2 Robert Wood, U.S. State of Department (press release), “Secretary of State Hillary Rodham Clinton’s Travel to Asia,” February 5, 2009, Available: (http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/ 2009/02/116159.htm).

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中核を占めていた。第二に、たとえ米国にとってのアジアの存在意 義について強調したとしても、それは決して米国政府がその他の地 域(欧州、南アジア、中南米、中東等)を軽視していることにはつ ながらないという点である。例えば、米国は早くからホルブルック (Richard Holbrooke)を南アジア担当(アフガニスタン・パキスタン) 特別代表に、ロス(Dennis Ross)をイラン担当特別代表に、ミッチ ェル(George Mitchell)を中東(イスラエル・パレスチナ)特別代表 にそれぞれ任命していたが、これはその他の重要な地域の議題を軽 視していないというオバマ・ヒラリーの外交体制を表している3。加 えて、ヒラリーの外遊前に、副大統領のバイデン(Joseph Biden)は すでに欧州訪問を展開しており、第45 回ミュンヘン安全保障会議に おいて米国新政府の外交戦略の重要政策を詳述した。さらに、ヒラ リーはアジア歴訪後、休む間もなく 3 月初めには中東を訪問し、エ ジプトで開催されるガザ回廊再建会議に参加する機会を利用して、 EU、国連、ロシア代表とともに中東情勢について協議し、道すがら ヨルダン川西岸とイスラエルを訪問した。一方、オバマ自身は北隣 のカナダへの初外遊の日程を終えている。3 月末にはプラハを訪問し、

3 外交特別代表、南アジア、北朝鮮、中東、イラン担当ら特別代表を多く設置したこ とは、オバマがヒラリーにこれらの重要地域の議題を処理する権限(あるいは信任) を完全に与えないことを意味する。つまり、後者は外交政策の決定における権力を 大幅に縮小したのだと考える政治専門家もいる。ただし、米国の著名ジャーナリス トのフリードマン(Thomas L. Friedman)は、これは正確且つ賢明な戦略であり、米 国が直面する国際的な挑戦が複雑で難解なものである今日、オバマ政府は上述した とおり、国務長官を補佐するポストに地位の高い有力な特別代表を任命し、全身全 霊で特定地域の重要議題を処理させることにより、米国政府が重視していることを 象徴できるほか、ヒラリーの重責の分担にも協力でき、その分身になれるのだと指 摘している。Thomas L. Friedman, “Super (sub) Secretaries,” International Herald Tribune, March 1, 2009, Available: (http://www.iht.com/articles/2009/03/01/opinion/edfriedman.php).

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EU 首脳会談に出席する。換言すれば、オバマ政府は四カ国歴訪によ り、米国にとってのアジアの戦略的意義を特に明確に示そうとした。 しかし、世界の米国となるべく、その外交戦略上の意向は全方位的 でグローバルな視点に基づき、単一地域に偏重することはない。実 際の方法では、多くの外交政策を同時に進めることを強調している。 ただし、アジアの重要性が日増しに高まってきていることは、紛れ もない事実である。なお、初のアジア歴訪では四カ国しか訪問でき なかったが、国務省の声明とこれに関連するヒラリーの談話では、 タイ、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、シンガポール、 ベトナム等のその他のアジアの国家の重要性への言及も忘れていな い。 (2) 日本側の疑念を払拭:日米同盟は悠久にして強固 取って代わ るべきものもなし ヒ ラ リ ー は ア ジ ア 歴 訪 前 、 日 米 同 盟 の 地 位 は 不 動 の も の で あ る (unshakable)ことを特に強調した。ヒラリーはかつて上院で任命さ れた公聴会の場でも、日米関係の維持はアジア太平洋地域の繁栄と 平和のための礎であると表明したことがある。加えて、オバマ政権 はこれまで多くの有力知日派を政府の要職に就くよう任命している。 例えば、ハーバード大学ケネディスクール前学長で、クリントン時 代の元国際安全保障担当国防次官補ナイ(Joseph Nye)は駐日大使に 任命されると見られている。また、前戦略国際問題研究所(CSIS) 上級副所長で、元アジア・太平洋担当国防副次官補キャンベル(Kurt M. Campbell)は、東アジア・太平洋担当国務次官補に任命された。 いずれも「米国のアジア太平洋での戦略的プレゼンスにおける日本 の重要性」が低下しているという外部からの疑念を払拭することを 狙ったものである。一方、ヒラリーはこの外遊で、日本政府との「グ

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アム協定」(Guam International Agreement)に署名したほか、8,000 人 の在沖縄米軍をグアムに移転させるとともに、北朝鮮の拉致被害者 家族と面会した。このことから、米国が北朝鮮との交渉過程におい て、日本の立場と利益を軽視するようなことはないであろうことは 間違いない。このほか、ヒラリーは日本が政府開発援助、アフガニ スタンでの反テロ対策、国連の平和維持活動でより幅広く、さらに 一歩踏み込んだ貢献をすることなどを要求した。 実際に、近年では世界的な反テロ対策、朝鮮半島問題がきっかけ となり、米中関係はかなり改善してきた。しかし、一部には双方の 対話をさらに前進させるには、依然として弾道ミサイル防衛計画、 人権保障、武器拡散、貿易摩擦、台湾問題における矛盾の制限を受 けることから、互いの相違点を短期的に一致させるのは容易ではな いと考える人もいる。したがって、中国の潜在的脅威に対処する上 で、日米同盟の重要性は低下せず、むしろ高まるであろうとする意 見もある。例えば、2000 年に米国国防大学が発表した第一次『アー ミテージ報告』では、『米国と日本:成熟したパートナーシップに向 けて』(The United States and Japan: Toward A Mature Partnership)の文 章中で、日本の役割を「アジアの英国」になぞらえ、日米同盟を英 米の特別な関係と類似するレベルに引き上げ、中国の絶えず強まる 影響力との均衡を保つよう訴えかけた4。一方、戦略国際問題研究所

が2007 年に発表した第二次『アーミテージ報告』では、『日米同盟: 2020 年 に 向 け て ア ジ ア を 正 し く 導 く 』( The U.S.-Japan Alliance: Getting Asia Right through 2020)の文章中、日米同盟が米国のアジア 太平洋の戦略プレゼンス上、不可欠であることをさらに強調してい

4 U.S. National Defense University, The United States and Japan: Toward A Mature Partnership. Available: (http://www.ndu.edu/inss/strforum/SR_01/SR_Japan.htm).

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る。日本は米国経済に強く依存しており、予見できる限りの将来変 わることはないだろう。しかも、米国は日本の力を借りてリーダー としての地位を確固たるものにし、日米両国の共通の利益、オープ ンな市場と自由貿易経済体制の維持だけでなく、中国の台頭という 可能性への脅威に立ち向かうためにも、米国政府のリーダーが日米 同盟の強化に尽力すべきことが提案されている5 ブッシュ政権時代、日本は米国のアジア政策の中で最もカギとな る拠りどころだった。しかし、その一方で、米国の政策決定者が日 米同盟の機能に過度に依存していることに疑念を抱き、米国のアジ ア太平洋戦略における日本の比重を検討し、米中関係の安定化を優 先すべきと強調し、日本の国力低下という事実を直視するとともに、 地域の安定を維持する上で中国が演じるプラスの役割についても認 めるべきだと異なる主張を持つ人もいる。そして、「米国のアジア太 平洋戦略プレゼンス上における中国の地位を強化すべきだ」、「日米 同盟の重要性について見直すべきだ」という見解に共感する人は、 日本と中国というアジアの両大国のパワーバランスをいかに保つか という問題になると、後者に傾くことは明らかである。例えば、新 任の六者会談特使ボスワース(Stephen W. Bosworth)6と米国元駐タ

5 この報告は、米国元国務副長官アーミテージ(Richard Armitage)の手によるもので、 前国務省アジア太平洋次官補ケリー(James Kelly)、前国務省アジア太平洋次官補代 理シュライバー(Randy Shriver)、元国防副次官補キャンベル(Kurt Campbell)、元国 防次官補ナイ(Joseph Nye)等、民主、共和両党の元政府高官と学者の十数名が共同 で執筆したものである。Center for Strategic and International Studies (CSIS), The U.S.-Japan Alliance: Getting Asia Right through 2020, Available: (http://www.csis.org/ media/csis/pubs/07016_asia2020.pdf).

6 米国の朝鮮半島六者会合代表ヒル(Christopher Hill)は、すでに離職が確定しており (同氏は2005 年 2 月から同職に従事していた)、クラッカー(Ryan Crocker)に代わ って米国駐イラク大使となる。新任の米国六者会合特使の人選については、現任の

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イ大使アブラモビッツ(Morton Abramowitz)は、かつて米国のアジ ア太平洋戦略上の日本の比重を検討するよう主張し、米中関係の安 定を優先し、地域の安定を維持する上で中国が演ずる役割を認める べきだと強調した7

タフツ大学フレッチャー法律外交大学院(The Fletcher School of Law and Diplomacy, Tufts University)院長であるボスワース(Stephen W. Bosworth)の名が挙がっている。 ボスワースの早年の職業は外交官で、フランス、パナマ、スペイン等の地で公職に 従事した。かつては米国駐チュニジア大使(1979~81 年)、国務省政策企画局局長、 経済管理担当次官補代理等の職を担当したことがある。同氏の名が挙がった主な要 因は、同氏がアジアの実務に長けており、地域と反拡散を議題にした実務経験があ るという二つの優位性を具えていたことにある。ボスワースのアジアに関する最も 重要な経歴には、レーガン時代に務めていた駐フィリピン大使(1984~87 年)と、 クリントン時代に務めていた駐韓国大使(1997 年 11 月~2000 年 2 月)がある。この ほか、同氏は1987~1995 年の 7 年という長きにわたり、非営利組織「米日財団」(The United States Japan Foundation)の総裁を務めていた。その間、豊富な人脈を確立し、 その後は「朝鮮半島エネルギー開発機構」(Korean Peninsula Energy Development Organization/ KEDO)の事務局長を務め(1995~97 年)、この 20 年近くに及ぶアジア での実務経験が、オバマ政権に好感を持たれる原因の一つとなった。

7 ボスワースとアブラモビッツは 2003 年の『フォーリン・アフェアーズ』(Foreign Affairs)に「新アジアへの適応」(Adjusting to the New Asia)という政策論文を共同で 発表した。それが内部収録され、2006 年に出版された『太陽を追いかける:東アジ ア政策の再考』(Chasing the Sun: Rethinking East Asian Policy)の中には、冷戦が終結 して以来、米国が直面しているアジア太平洋戦略上の環境には、重大な質的変化が あり、それを突き動かしているのは、アジアの内部と外部のそれぞれに起因する要 因であるという核心をついた論述がある。アジア内部の要因については、(1)地政 学的および経済的意義において台頭する中国、(2)日本経済の持続的な疲弊および その影響力の漸進的な陰り、(3)その他の国家(韓国、台湾を含む)の地位のさらなる 上昇がある。地域外部の要因については、911 事件後、世界の反テロ戦争に勝つこと が、米国政府の外交政策の最優先目標となり、その重要性は地域の平和と安定の維 持に対する米国の伝統的な関心をも凌駕するまでになった。一方、このような情勢 は自ずと米国の同盟国の安全保障に対する承諾に疑念を抱かせることになったが、 このような転換は、米国政府に1990 年代以来の戦略認知を今一度見直させることに なったことである。なお、これまでアジア太平洋地域の安定と繁栄は、一種の「ハ ブアンドスポーク」(hub and spokes)に似たシステムに基づいていた。また、米国と

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言い換えれば、今回の日程で日本を最初の訪問先に選んだことに は、言うまでもなく意義がある。中国が日本に取って代わり、米国 の東アジア地域における最も頼りになる国家になるとの水面下での 推測が国際的にも日本にもあった。長い間、一部の日本人は米国の 民主党は共和党ほど日米同盟を重視しないと固く信じてきたし、こ の懐疑は決して根も葉もないうわさというわけではなかった。特に、 民主党の大統領立候補者争いの際、ヒラリーは『フォーリン・アフェ ア ー ズ 』 で 発 表 し た 「21 世 紀 の 安 全 保 障 と 機 会 」( Security and Opportunity for the Twenty-First Century)の論文中で、明らかに「日 本 軽 視 」 の 印 象 を 与 え て い る 。 中 で も 、 同 論 文 の 「 同 盟 強 化 」 (Strengthening Alliances)の章では、最初の議論の対象は、米国の欧 州における伝統的な同盟国であり、環大西洋同盟のメンバー国であ る仏、独、英などの三カ国であった。続いて、ようやく米国のアジ アにおけるパートナーの議論がされる。ただし、アジアの部分で、 当時上院のインド議員連盟(India Caucus)に所属していたヒラリー が、最初に言及した国家は米国の古くからの盟友である日本ではな く、インドの特殊な役割を明らかにするものだった8。ヒラリーは総 合国力が上昇している大国に目を向け、国連(米国はインドの常任 理事国入りを支持するべきであるという意味を指す)をはじめ、米

この地域の主要国が構築してきた二国間同盟関係と、米国、日本、中国間の三角関 係という枠組みは、現段階では依然として極めて重要なものである。ただし、ポイ ントは、米国の戦略に対する日本の価値の低下に基づき、米国はアジア太平洋地域 のパワーバランスを採る役割を終え、中国とのより積極的かつ緊密な関係の構築を 追及するよう転換するべきだとしている。参照 Morton Abramowitz and Stephen Bosworth (2003), “Adjusting to the New Asia,” Foreign Affairs, Vol. 82, No. 4 (July/August), pp. 119-131.

8 Hillary Rodham Clinton, “Security and Opportunity for the Twenty-First Century,” Foreign Affairs, (November/December) 2007, p. 6.

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国はインドの地域的な国際組織と国際組織における代表性と地位を 認めるべきであると強調した。続いて、ヒラリーはようやくテロと の戦い、経済発展の深化、気候変動への対応、エネルギー供給の確 保などの面で、オーストラリア、インド、日本などの三カ国を一括 りにして、その米国にとっての重要性を取り挙げた9。つまり、全文 を概観してみると、単独の段落を取り上げても、一句一行を取り上 げても,どこにも日米関係と日米同盟に特化して対策が講じられて いるところが見当たらず、「中国寄り、インド接近、日本離れ」の印 象を与えることは免れない。クリントン(Bill Clinton)が日本を通 り越し中国を訪問した当時の記憶をも思い起こさせる。 (3) 訪韓から見た米国の北朝鮮政策:アメとムチ 六者会合が主な メカニズムであることを強調 韓国は米国にとって第二次世界大戦後における東アジアの伝統的 同盟国であり、その地位は日本に次ぐ。2009 年 1 月 17 日、オバマ就 任前夜、朝鮮人民軍総参謀部報道官は、韓国に対し全面的な対決状 態に入ると発表した。1 月 30 日、北朝鮮の祖国平和統一委員会はよ り強硬な声明を発表した。南北間の政治軍事的対決状態の解消に関 するすべての合意事項を破棄すると表明した。さらに、北朝鮮政府 は情報衛星試射の準備を進めていると表明しているが、米韓情報当 局は北朝鮮軍が平安北道鉄山郡東倉里のミサイル基地で長距離弾道 ミサイルのテポドン 2 号(あるいはその改良型)の試射準備(組み 立て)を進めているさまざまな兆しがあることを実証している10。続

9 Ibid. 10 実際に、北朝鮮は 2006 年 7 月にこのミサイルを試射したことがある。発射地点は咸 鏡北道花台郡舞水端里のミサイル基地であった。しかし、最終的には失敗に終わっ た(発射40 秒後に墜落大破)。

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いて、2 月 11 日、北朝鮮軍部の高級幹部の大幅な人事異動があり、 金永春次帥が人民武力相に任命され、李英浩大将が総参謀長に任命 された。この二人は金正日の側近将校と見られており、ともに実践 強硬派であると言われている。また、北朝鮮の一連の軍事行動は、 外部にとっては念入りに臨戦ムード作りをしているようにもうつる。 よって、今回ヒラリーが韓国を歴訪した最も重要な目的は、李明 博政権との強固な米韓同盟を支持するためだけではなく、北朝鮮が 自制し、挑発的な行為を行わないよう警告し、米国が既存の六者会 合という多国間の枠組みを通して、北朝鮮問題を解決する用意があ ることを重ねて表明するためでもあった。ただし、米国は重大ない かなる決定を下す前にも、必ず前もってパートナーとの密接な協議 とコミュニケーションをとることも決して忘れてはいけない11。しか も、米国は北朝鮮当局に対し協議と懲罰(アメとムチ)を交互に用 いる戦略を採っている。もし北朝鮮が核兵器を完全に放棄し、国連 安保理の関連決議を守り、国際的に実施される厳格な核査察を真摯 に受け入れ、協力すれば、米国政府には両国の関係正常化を推進す る意思があり、朝鮮半島の停戦協定に代わり、恒久平和条約の締結 をも検討し、経済・エネルギー協力を行う。しかし、北朝鮮が譲歩 しなければ、より厳格な外交・経済制裁を採ることなど、さらなる 懲罰措置を採ることも辞さない。現在のところ、核拡散(シリアな どの国への核技術輸出)以外にも、プルトニウムの処理問題、それ に、現在は確認できていないが、存在する可能性が大いにあるウラ ン濃縮計画は、すべてオバマ政権が注視している点である。重要な 点は、北朝鮮が「関係正常化を通して非核化を実現する」という主

11 Hillary Rodham Clinton, “Putting the Elements of Smart Power Into Practice,” February 19, 2009, Available: (http://www.state.gov/secretary/rm/2009a/02/119411.htm).

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張とは異なり、オバマ政権が朝鮮半島の非核化と北朝鮮の核兵器放 棄が米国と北朝鮮の関係正常化の前提であると強調している点であ る。ヒラリーも適当な時と場合を選び、いかなる外国の指導者とも 面会する意思があることを強調している。また、米国は六者会合と 米国と北朝鮮との直接対話を同時に推進する用意があることも強調 している。

三 米中関係の位置づけと展望

1 大統領選挙期間におけるオバマの米中関係の位置づけ -敵でも友でもない 中国は主要な競争相手- オバマの中国政策の方向性は、間違いなく米国新政府のアジア政 策の核心の一つである。実際、過去 8 年のブッシュ政権時代の対中 政策からも分かるように、就任当初は国際問題において米国が優勢 に指導する単独主義を採っていたのみならず、中国政策をアジア太 平洋政策の一環とみなし、全体的としてではなく、中国政策のレベ ルとし、米国のアジア太平洋戦略全体への考慮を凌駕すべきではな いとしていた。当時、ブッシュはクリントン政権期の「関与して変 化を促す」という期待を抱く政策から、中国に対する姿勢を転換し た。ブッシュは米国が全体の利益を考えて、怒りをこらえて我慢し たり、不満を抑えて事を丸く収めようとする必要はないと考え、米 中関係の定義もブッシュ政権下では「建設的戦略パートナー」から 「戦略的競争相手」(strategic competitor)へと改め、米中関係を新た に解釈した。2001 年 4 月に米軍機が中国軍機と海南島上空で衝突事 件を起こすまで、ブッシュ政権は米中関係のトーンを、あまり敏感 でない「建設的協力関係」(constructive and cooperative partnership) に調整していた。911 事件後、米中両国は朝鮮半島情勢の安定の維持 および反テロ問題において共同の利益を有していると理解するよう

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になったが、双方の意見の相違は完全に解消されていない。米国が 中 国 に 対 し 関 与 政 策 (Engagement ) を 採 る か 、 封 じ 込 め 政 策 (Containment) を 採 る か 、 コ ン ゲ ー ジ メ ン ト 政 策 ( Containment + Engagement = Congagement)を採るかに関わらず、国力が依然として 米国が最終的に依拠するところである。中国としては、厳しく且つ 慎重に米国政府のリーダーが如何に米中関係を位置づけるか見守っ ている。中国は「平和的発展」の善意の意思を繰り返し強調するほ か、米国の真の戦略的意図-すなわち、米国の中国に対する敵意や 警戒心が解かれているか否か、中国を潜在的な仮想敵や無法な相手 とみなさず、協力・理解・相互利益を両国関係の基本とみなしてい るかという点を慎重に見極めようとしている。一般的には、ブッシ ュ政権最後の2 年間は、米中関係に明らかな改善が見られ、1 期目よ りも順調であったと考えられている。特に、台湾海峡の安定確保や 朝鮮半島をめぐる六者会合進行の支持、「米中戦略経済対話」の枠組 み確立といった方面において、連携・協調する場面が比較的多く見 られた。 しかし、クリントンやブッシュ政権下の米中関係の位置づけとは 異なり、オバマは選挙期間中に「建設的戦略パートナーシップ」、「戦 略的競争相手」、「建設的協力関係」、あるいは「責任あるステークホ ルダー」といった外交用語を用いず、中国を「アメリカの主要な競 争相手」(a major competitor)と呼んだ。2007 年 4 月 23 日、オバマ は「シカゴ国際問題評議会」(Chicago Council on Global Affairs)の講 演において、中国の台頭に関する問題に言及している。オバマは「ア ジアにおける経済的に活発で、政治的にもさらに積極的な中国の出 現は、繁栄と協力の新たなチャンスをもたらすが、米国および当該

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地域の米国のパートナーには新たな課題をもたらす」12と指摘した。

同年4 月 27 日、民主党内で初めて開催された大統領選候補討論大会 において、米国にとって最も重要な三つの同盟国について問われた 際、オバマは EU、NATO、日本と答えたが、話が変わって国力が絶 えず増強している中国について話が及ぶと、初めて「敵でも友でも ない。競争相手だ。」(They’re neither our enemy, nor our friend. They are competitors)と述べ、米中関係を明確に位置付けた13。しかし、オバ マは東アジア情勢を安定させるために、中国とさらなる軍事関係と 交流を進める必要があると主張している14。オバマは中国との健全で 積極的な関係の発展を強調しているが、両国間には人民元の為替相 場・知的財産権・人権問題・中国のイランとスーダンに対する姿勢 をめぐって依然として見解に相違がある。米国は中国に対し明確に 立場表明することを惜しまず、確固とした姿勢で中国との協議を進 め る こ と を 示 し て い る 。2007 年 末 、『 フ ォ ー リ ン ・ ア フ ェ ア ー ズ 』 (Foreign Affairs)に発表された「アメリカのリーダーシップを刷新 する」(Renewing American Leadership)の文章において、オバマは中 国がより責任ある役割を果たすよう促し、米国とともに21 世紀の共 通の問題に対処することを希望するとした上で、改めて米中間には 競争があるが、協力できる分野もあるとした15。しかし、米中の貿易

問題においては、上院議員の投票記録をみるとオバマとヒラリーは

12 Barack Obama, “Remarks to the Chicago Council on Global Affairs,” April 23, 2007, Available: (http://www.presidency.ucsb.edu/ws/index.php?pid=77043).

13 “Democratic Presidential Candidates Debate at South Carolina State University in Orangeburg,” April 26, 2007, Available: (http://www.presidency.ucsb.edu/ws/index.php? pid=74349).

14 Ibid.

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共に、中国からの輸入品に対する課税法案を成立させようとしたこ とがある。さらに、2008 年 3 月のチベット事件発生後は、二人とも 中国を激しく非難し、中国当局がチベットに対し「自治」の名にふ さわしい地位を与えるよう訴え、ブッシュ大統領に手紙を送り、胡 錦涛に圧力をかけるよう求めた。 2 大統領就任後、中国政策をさらに実務的なものに -相互依頼・相互の必要性が顕著- ① 米中の積極的で協力的な関係を深化 実際、ヒラリーは「21 世紀の安全保障と機会」の一節で、「われわ れと中国との関係は、今世紀の世界において最も重要な二国間関係 で あ る 」(Our Relationship with China will be the most Bi-lateral Relationship in the World in the Century)16と包み隠さず述べた。ヒラ

リーは、さらに踏み込んで、「米中間には価値観や制度上に違いがあ り、また人権・宗教の自由・労働・チベット問題において意見の相 違があることは、事実である。しかし、北朝鮮の核放棄および朝鮮 半島の安定において、米国は中国の支持を必要としている。北東ア ジアに安全保障メカニズムを構築するためにも、米国は中国が国際 システムに参与するよう促し、国際規範や主流となっている価値を 遵守するよう奨励すべきである。また、中国がすでにアメリカを超 えた世界最大の温室ガス排出国となったことから、急速な経済発展 を遂げた中国にもたらされる後遺症、すなわち環境保護の重要性に 高い関心を払い、双方が協力してクリーンエネルギー・より効率的 なエネルギー・再生エネルギーの開発やこれに関連する科学技術の 開発に尽力し、力を合わせて地球温暖化の脅威に対抗するべきであ

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ると述べた17。要は、ヒラリーとオバマの見解は一致している。中国 の行為が米国の利益と矛盾すれば、米国政府は確固としたそれ相当 の態度をとる必要があり、その立場を中国に厳粛に通告するが、基 本的には、オバマ政府の米中関係に対する見方は、依然としてクリ ントン政権期に見られた全面的な関与政策であり、同工異曲の感が ある。コミュニケーションを強化して相互理解を促進し、共同の利 益を拡大し、少なくとも「異なる中で共通点を見つける」や「協調 の中に異あり」を成し遂げ、主要な地域や国際問題においてできる だけ協力的で協調的な立場をとることを望んでいる。 ② 双方を引き寄せる動力の源 1) グローバル経済と金融危機を共に克服する 1979 年、米中の二国間貿易額はわずか 30 億ドルにも満たなかった が、国交が結ばれて 30 年たった今日、二国間貿易額はすでに 4000 億ドル規模に達し、米中はそれぞれ世界第1 位、世界第 3 の貿易主 体となった。現在、米国は中国にとって 2 番目の貿易パートナーで あり、中国も米国にとって 3 番目の貿易パートナーであり、相互依 存度は高く、両国の GDP は合計で全世界の 3 割以上を占めている。 特に2008 年 9 月末以降、中国はすでに米国最大の債権国となり、7000 億ドル近くの米国公債を保有している。これに加え、中国の外貨準 備高は 2 兆ドルもあり、また中国にとって米国が最大の市場である

17 今回、ヒラリーはアジア歴訪中に中国の温家宝総理と会談した際、中国の成語を「臨 渴掘井(手遅れのたとえ)」(dig the well before you are thirsty)を引用し、環境保護問 題に直面したときには、各国がすばやい行動をとることが必要で、その場に及んで 慌てふためくべきでないと強調した。Hillary Rodham Clinton, “Dialogue on U.S.-China Partnership on Clean Energy,” Available 21, 2009, Available: (http://www.state.gov/ secretary/rm/2009a/02/119433.htm).

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という事実により、オバマの就任後、中国の鍵となる役割について 再評価が迫られることは 必至となる。ヒラリーは今回の訪中に乗じ、「健全な体質」の米国 国債を引き続き購入するよう中国に働きかけた。これに対し中国の 楊潔箎外相は、中国は安全保障、貨幣価値の保存と流動性などの原 則を考慮し、将来における外貨資産の処理方法を決定すると表明し た。したがって、両国の経済と経済貿易の往来、政策レベルでの相 互協調、支援と協力は米中の二国間関係と密接に連動しているだけ でなく、世界がこの経済衰退の波から抜け出せるよう導いていける かとも大いに関係している。 2) 北朝鮮の核危機を共に解決する 前述したように、イラン・アフガニスタンとパキスタンなどの問 題以外に、オバマ政権は朝鮮半島の六者会合および北朝鮮の核放棄 問題において、米中の利害は一致しており、協力が必要であると明 確に示している。北朝鮮の過去のやり方を振り返ってみると、基本 的には「危機の創造・協議交渉・妥協譲歩・報酬(褒賞)獲得・コ ミットメントの破棄・再度挑発」という循環モデルに帰納でき、す なわち、絶えず対立レベルを高めたり、核による脅しや瀬戸際外交 の策略を用いて操作を繰り返し、自身のカードを多くしようとして いるのである。しかし、その矛先は李明博政権に向けられるだけで なく、最も重要なターゲットはやはり米国であり、オバマ政権に対 して力を誇示しようとしている18。もっと踏み込んで北朝鮮の主張を

18 2008 年 2 月に李明博が大統領に就任して以来、韓国の対北朝鮮政策は明らかに転換 した。金大中および盧武鉉政権下の過去10 年間に見られた太陽政策や和解路線から、 比較的強硬な姿勢をとるようになったほか、例えば、「非核・開放・3000」の対北朝 鮮政策3 原則を掲げている。その計画とはすなわち、北朝鮮が全面的に核を放棄す

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検討すると、北朝鮮は「米国と北朝鮮の関係を改善してから、核問 題を解決する」、「朝鮮半島全体(北朝鮮に対する単独のものであっ てはいけない)に対して全面的な核査察を行う」、「米国と対等な立 場で核兵器の取り締まり交渉を展開する」などと訴えている。これ らはどれもカードを競うもので、将来の交渉のテーブルにおいて、 経済的・政治的利益を最大化することを望んでいる。また、ヒラリ ーが再三述べているように、オバマ政権は六者会合を北朝鮮核問題 を処理する鍵となるメカニズムととらえており、よって引き続き多 国的な枠組みを維持していくであろう。ヒラリーの就任前後の政策 表明および今回のアジア歴訪、また六者会合の米国特使にボスワー スを任命したことも、米国がより積極的且つ実務的な態度で北朝鮮 の核放棄問題に取り組み、朝鮮半島問題を解決していく固い決心を 示している。一般的に、ヒラリーであれ、ボスワースであれ、北朝 鮮の核放棄問題についての態度は、ブッシュ政権 2 期目より比較的 強硬であると見られており、米国政府は東アジア各国とのコミュニ ケーションをはかり、コンセンサスに達した後、北朝鮮政府との接 触を図ると考えられる。要は、米国が誠意と忍耐力を示すが、その

るか否かを南北朝鮮の協力と和解の前提とし、仮に北朝鮮が改革開放路線を歩むな ら、韓国は北朝鮮の平均国民所得が10 年以内に 3000 ドルという目標を達成できる よう協力するというものである。当然ながら、北朝鮮は、2000 年の「六・一五宣言」 や2007 年の「十・四宣言」の精神に大きく反しているとして李明博政府を何度も批 判しており、こうした動きに対して金正日も強烈に反発している。金正日が韓国が 敵視政策を開始したととらえたことで、ここ 1 年間で南北関係は急速に悪化し、政 府間対話の中止、経済協力範囲の縮小などを招き、去年から現在に至るまで、軍事 的緊張が高まる情勢となっている。一般的には、李明博政府は現在、北朝鮮の軽々 しくコミットメントし、それを翻すといったやり方、金正日が慣用的に用いる瀬戸 際外交や核による脅しに対して、「見て見ぬふり」、「変化を静観する」かたちで控え めに対応していると判断され、基本的には変化はなく、ある一定のレベルで韓国政 府はその北朝鮮政策を米国主導・米国によるマネージメントに任せている。

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最終目的は金正日を自主的に譲歩あるいは軟化させることにある。 現在の北朝鮮半島の緊張した局面を緩和させるために、六者会合が 正常な軌道を回復してその役割を果たせる策を講じたい、つまり難 題を「処理」するのではなく、一度苦労すれば「解決」できる方法 を考えたいわけである。しかし、相手から前向きな回答が得られな ければ、米国が北朝鮮に対し棍棒外交を採る可能性もある。 また、朝鮮半島六者会合の米国の特使に新任されたボスワースの 見解は、参考に値するものがある。ボスワースと前米国駐タイおよ び ト ル コ 大 使 で あ る モ ー ト ン ・ ア ブ ラ モ ウ ィ ッ ツ (Morton Abramowitz)は 2005 年 2 月の「ファイナンシャル・タイムズ」に共 著で「六者会合は行動を一致させるべき」(The Six Parties Mush Act Together)と題する論文を発表した。その中で、六者会合の最大の障 害は東アジア 5 カ国の朝鮮半島問題における利益が一致していない ことであり、これが各国の足並みを乱し、一致団結して一つの個体 として結束することができないでいると指摘した。また、ボスワー スは、中韓両国が六者会談のルートを迂回するだけでなく、直接北 朝鮮当局と接触し、さらには米国も六者会談以外の枠組みを利用し て北朝鮮と直接往来(交渉)するよう要求していることを批判して いる。ボスワースは北朝鮮当局を真に満足させうる唯一のものは、 依然として米国政府が提供する政策(武力を用いない、その地位を 認める、正式な外交関係の構築)の保証であると強調している19。ボ スワースが強調する論点には、その他の国によるエネルギー協力・ 経済支援・核査察および協定の執行といった重要性を否定する意味 はない。しかし、そのポイントは如何なる立場あるいは行動であれ、

19 Stephen Bosworth, “The Six Parties Must Act Together,” Financial Times, February 21, 2005.

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東アジア 5 カ国が高い協調性と協力を維持する必要があるというこ とであり、これが米国の当面の急務であるとし、また米国指導の下 での5 カ国の一致を強調している20。米国政府は依然として中国の協 力と支持を必要としており、オバマの北朝鮮政策が成功するか否か は、経済やエネルギー援助のレベルのみならず、中国が地政学的な 利点、その友情や歴史などの影響力を発揮し、北朝鮮の立場を軟化 できるかにかかっている。 3 米中対話の枠組み再編

「米中戦略経済対話」(US-China Strategic Economic Dialogue)はブ ッシュ政権下のヘンリー・ポールソン(Henry Paulson)財務長官の 構想によるものである212006 年 9 月、ポールソンは 4 日間にわた って訪中し、中国国務院副総理・呉儀と会談して、同メカニズムを

20 Ibid. 21 66 歳で石油エンジニア出身の呉儀(中国側の第 1 回から第 4 回の米中戦略経済対話 の指導者)と比較すると、ポールソンは過去にゴールドマンサックスの最高経営責 任者を勤めたことがあり、その業務が中国と密接な関係にあったことから、1990 年 以来、70 回近く訪中している。中国語はできないが、「実務的で漸進的な知中派」と 言える。中国の彼に対する評価もこれに似たようなもので、前任のポール・オニー ル(Paul O’Neill)やジョン・ショー(John Snow)に比べると、ポールソンはブッシ ュ政権後期には地位・政策決定権もあった。内閣では対中政策の統合や協調を担う 重要人物であり、その影響力は財政部が管轄する財政・経済分野にとどまらず、エ ネルギー・健康と環境保護など異なる分野にも及んでいる。また、「米中戦略経済対 話」の推進はポールソン個人にとっても以下 3 点の意義がある。①既存の行政部門 内にある異なるメカニズムの意見の統合が可能となる。②自身のブッシュ政権にお ける対中政策全般の主導的な立場を確立する。③比較的安全で漸進的なステージで あることから、外界からの米中二国間貿易に対する過度な期待を短期的に引き下げ ることができる一方、同時に米国内部の保護貿易主義者の不満の声を若干でも緩和 することができ、少なくとも議会に対して説明がつき、米中両国間のコミュニケー ションと交渉が進められる。

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正式に立ち上げた。毎年 2 回、米中両国が持ち回りで開催し、マク ロ的且つ安定したメカニズムの構築をして、両国の共同利益の拡大 という基礎の上、双方の経済貿易政策における意見の相違を解決し たり協調することを主要目的としている。ブッシュ政権下での「米 中戦略経済対話」の運用は、2005 年 8 月から始まった両国の副大臣 レベルによる「戦略対話」(strategic)や「ハイレベル対話」(high-level dialogue)に影響を与えることもなく、両者は平行した枠組みとみな されていた。「米中戦略経済対話」で討論される主要テーマは広範な もので、2006 年 12 月 14 日、15 日に北京で開かれた双方の代表団に よる初めての対話以降、その協議内容は環境保護・エネルギー・証 券・金融・投資・産業・航空・衛生などさまざまな分野に及んでい る。2008 年 12 月初めに開かれた第 5 回対話を例にとって見ると、議 論はエネルギー協力・環境保護・貿易促進・投資の開放・国際経済 協力などの分野に集中していたが、厳しいグローバル経済の問題に 対し如何に両国が共に立ち向かい、国際金融市場の信用を回復させ るかというのが対話の焦点であったことは、疑うべくもない。 オバマが正式に就任する前、米国のメディアはオバマ政権の政権 移行チームがすでに米中関係の対話レベルを引き上げ、計画の見直 しを進めていると報じた。また、オバマ陣営が大臣レベルの「米中 戦略経済対話」と副大臣レベルの戦略対話の両者を一つにまとめ、 レベルアップを図る可能性について検討しているとし、また、バイ デン次期副大統領と中国の温家宝総理が定期的に協議を行っている と報じたメディアもあった。この報道の確証がとれ、楽観的に判断 すると、両国の経済貿易関係は競争性を具えながらも、高い依存性 を持ち、コンセンサスの並存とは矛盾するものの、両国は協力の必 要性を理解しているといえる。実際、「米中戦略経済対話」の過去2 年間の成果を見くびってはいけない。というのも、同対話は両国の

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ハイレベルな経済貿易担当の高官が定期的且つ制度的に協議するプ ラットホームを構築したばかりでなく、貿易・金融・人民元の為替 相場・環境保護など異なる政策のコミュニケーションや交流の場、 あるいは意見の相違を解決するチャンネルともなっている。グロー バル経済が低迷する悲観的な雰囲気が漂う今日、同メカニズムはと りわけ象徴的な意義を具えている。オバマ政権はこの精神を維持す べきであるとしているが、その形式や内容については強化や修正が 必要であるとしている。例えば、ヒラリーは今回の訪中を利用して、 現行の両国の対話メカニズムを全体的に見直し、現在両国の財務大 臣が担当している「米中戦略経済対話」と副大臣レベルの「戦略」(ハ イレベル)対話メカニズムを、米国国務院が主導する「全面的戦略 対話」に統合するよう中国政府に正式に提案した22。言い換えれば、 その議論の範囲をブッシュ政権下のように経済問題に限定せず、地 域安全保障・反テロ・核不拡散・エネルギー協力・気候変動および そ の 他 米 中 関 係 に 横 た わ る 重 要 な 問 題 を 含 む こ と を 望 ん で い る 。 2009 年 4 月にロンドンで開催される G-20 金融サミットでのオバ マ・胡錦涛会談について討論するため、ヒラリーは楊潔箎に2009 年 3 月上旬に訪米するよう招請した。オバマが大統領に就任後、米中両 国の首脳はここで初めて正式に接触することになる。今回、両国は 新しい対話メカニズムの正式名称・運用方式・これに関連する詳細 の実施について公表することになるだろう23

22 Hillary Rodham Clinton “Dragon TV Interview: Developing a Comprehensive, Integrated Dialogue with China,” February 22, 2009, Available: (http://www.state.gov/secretary/rm/ 2009a/02/119434.htm).

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四 米中関係にある潜在的な変数

1 人権 1995 年 9 月、ヒラリーはファーストレディーとして北京で開催さ れた第 4 回世界婦女大会に参加し、大会中、中国の計画出産と人権 問題を激しく批判した。今回、民主党の大統領候補者に初めて選出 された時、オバマとヒラリーはブッシュが北京オリンピックの開幕 式に参加しないようそろって訴えた。しかし、ヒラリーは東アジア の 4 カ国を歴訪する前の「アジア協会」での講演では、中国の人権 問題を強調しなかった。中国の楊潔箎外相と会談した際には、自発 的に人権問題やチベット問題について言及し、米国が高い関心を払 っていることを示し、中国を離れる前には米国駐中国大使館(米国 の領土)で中国の人権グループの代表との会合を持ったが、こうし た言動は、相変わらず控えめ且つ面子をつぶさない方法だと理解さ れ、ヒラリーの訪中時のパフォーマンスは大いに自制したものであ り、特に「人権は米中の往来に影響を与えない」、「人権はグローバ ル経済の危機・気候変動・地域安全保障といった問題を解決する妨 げとはならない」といった発言は、米国の人権団体からの抗議に遭 っている。 しかし、ヒラリーがアジア各国を歴訪してから 2 週間もたたない うちに、人権問題は再び米中の焦点となった。2 月 25 日、国務省に 属する民主主義・人権・労働局(Bureau of Democracy, Human Rights, and Labor)が『2008 年国別人権報告書』(2008 Country Reports on Human Rights Practices)を発表した。その報告書の序言で、ヒラリー は人権の促進は米国の外交政策における不可欠の要素(an essential piece)であるばかりでなく、米国が他国と人的交流を進める上で信 じ、維持していく価値であると強調した。同報告の中国の部分(チ

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ベット・香港・マカオ地区を含む)では、中国を独裁国家であると 露骨に形容した上、中国政府はオリンピック前にその人権問題の環 境を改善するとしたコミットメントを実現していないと指摘し、人 身・旅行・言論(インターネットの規制も含む)・出版・報道・宗教 の信仰・結社集会・デモ抗議・労働組合の結成および自由な政治参 加などの各方面において政府から深刻な損害や制限を受けていると 指 摘 し た 。 こ れ に は 政 治 的 に 異 議 を 唱 え る 者 や 民 主 化 運 動 家 の 鎮 圧・公正性を欠いた審判および訴訟過程・囚人に対する非人道的な 待遇・不法な逮捕・嫌がらせと監禁、および社会の各レベルと各領 域に対する取締り行為なども含むほか、女性・子供・少数民族や社 会的弱者に対する中国政府の保障が不足していることも挙げた24。こ の報告書は過去のものと変わりなく、中国の人権環境を非難するも のであるが、発表後にはやはり中国も強硬に反撃した。中国国務院 新聞弁公室は翌日(26 日)、『2008 年米国の人権記録』(これは 10 年 連続で発表されている)を発表し、同様に米国の人権問題を批判し た。米国政府は反テロと国家安全保障という名の下、公民権や政治 的権利を大きく抑圧し、司法と情報機関が違法な盗聴やインターネ ットの監視を行っているばかりでなく、米国には社会暴力犯罪(銃 の氾濫)・警察による公権力の乱用・婦女の安全および家庭内暴力の 深刻さに加え、驚くべきことに、深刻な貧富の差や拘留中の犯人の 犯罪率は世界ランキングで「先頭を行く」とし、米国には他国の人 権状況をあれこれ口出しする資格はないと指摘した25

24 US Department of State, “2008 Human Rights Report: China (includes Tibet, Hong Kong, and Macau),” Available: (http://www.state.gov/g/drl/rls/hrrpt/2008/eap/119037.htm). 25 中 華 人 民 共 和 国 国 務 院 新 聞 弁 公 室 『 2008 年 米 国 の 人 権 記 録 』、 Available:

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2 貿易

伝統的に、人権問題を除いて、経済貿易面においても民主党は共 和党よりも保護主義の傾向がある。オバマは何度も自由貿易の精神 を擁護しているが、議会の圧力に屈し、最終的には経済刺激法案で ある「バイアメリカン」条項(“Buy American” clause)を否決しなか った。長きに渡る米中貿易の深刻なアンバランス現象は、従来米国 政府が最も懸念していた議題であり、これが両国の摩擦の主な原因 であったことは否定できない。2008 年についていえば、米国の対中 貿易赤字はすでに1700 億ドルにも達し、2008 年における中国の全貿 易黒字額はドイツを上回り、中国は世界最大の貿易黒字国となった。 よって、悲観的な人は、たとえ保護主義反対が米中のコンセンサス であったとしても、オバマが大統領に就任すれば、国内の景気は引 き続き低迷して、経済や金融関係の各指標も下落し、失業率の上昇 に伴って複雑な社会的・政治的問題が生じ、オバマが史上最大の景 気刺激法案や政府支出拡大などの措置により必死に劣勢を挽回しよ うとしても、最終的には議会・企業・労働組合といった利益団体か らの圧力により、保護主義の旗下ろしを迫られて、市場開放と人民 元の切り上げを中国に迫り、さまざまな手段、例えば環境保護基準 や責任の引き上げを求めたり、中国製製品の検疫強化などにより中 国に圧力をかけることになると予測している。 3 人民元の為替相場 ブッシュ政権時代、人民元の為替相場は米国政府と中国政府の交 渉の焦点となっていた。例えば、ここ何回かの「米中戦略経済対話」 でも、米国は人民元を切り上げるよう中国に再三申し出、これに対 し中国政府は中国は管理変動相場制を採用しており、段階的に人民 元を切り上げていくと強調していた。実際、過去数年間には、米国

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からの圧力の下、中国は人民元の相場とドルを徐々に切り離し、為 替 相 場 の 制 度 改 革 を 緩 や か に 行 っ て き た 。 こ こ 3 年 間 で 人 民 元 を 21%切り上げたが、米国政府はこの切り上げ幅では焼け石に水で、 国際社会が期待する目標とは大きな隔たりがあると考えている。人 民元の過小評価は中国政府が人為的に関与した結果であり、政府が 直接輸出手当てを出しているにも等しく、これでは両国の巨額な貿 易赤字の改善にまったく役に立たないとしている。 2009 年 1 月 21 日、新財務長官のティモシー・ガイトナー(Timothy Geithner)が、上院財政委員会の書面報告の答弁において、中国は人 民元の価値を操作しており、中国政府が態度を改めるよう(為替市 場に干渉しないよう)、米国はあらゆる外交手段を用いると指摘し、 この発言に対し中国は強烈に反発した。温家宝は 2 月 1 日に「ファ イナンシャル・タイムズ」のインタビューを受けた際、米国が中国 が人民元の為替相場を操作していると非難したことに対し、根も葉 もない非難だと反発し、人民元相場が暴落・高騰するのを避ける必 要があると述べた26。そして、中国の金融システムの安定は、中国と グローバル経済に有利なものであり、「彼ら」(米国を暗に指す)は 高額な借金をしながら過度に消費するという習慣があり、また二重 の赤字や政府の怠慢と管理の甘さのため、金融危機の波に呑まれた のであり、米国の中国に対する批判は全くもって「自分の過失を認 めず、逆に他人のあらを探している」ものだと批判した。ホワイト ハウスと行政部門は危機管制を布き、1 月 31 日にオバマが自ら胡錦 涛に電話をかけ、2 月 4 日、米国財務長官・ガイトナーが中国の王岐 山副総理と電話で話し合い、この騒ぎは一旦収束した。

26 “Premier Wen Jiabao’s Interview with the Financial Times,” February 2, 2008, Available: (http://www.chinaembassy.org.in/eng/zgbd/t535971.htm).

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4 台湾 ヒラリーがアジアを歴訪する前、米中両国は、米国の台湾への武 器売却を受けて中国が抗議したため 2008 年 10 月から中断されてい た米中軍事協議「米中国防政策対話」を再開すると発表した。2009 年2 月 27 日、28 日に米中双方は北京で 2005 年以来 5 回目となる軍 事対話を行い、米国側は米国防省アジア太平洋担当副次官補デービ ッド・セドニー(David Sedney)が、中国側は国防部外事弁公室主任・ 銭華利がリーダーを務めた。会談では、台湾への武器売却というお なじみの問題に加えて、両国はアデン湾での海賊共同取り締まり、 中央アジア・アフガニスタンとパキスタンなどの情勢についても協 議した27

27 オバマ政権でアジア太平洋問題を担当する重要な人事異動についてみると、米国防 総省アジア太平洋担当次官補にはデービッド・セドニー(David Sedney)に代わりデ レク・ミッチェル(Derek Mitchell)が選任されると考えられる。彼は 2001 年初めに 戦略国際センター(CSIS)に入所し、国際安全保障部(ISP)でアジア問題を担当し た。これには、台湾海峡問題、日米同盟、米韓関係および米国の東アジア政策など が含まれ、2008 年 8 月からは CSIS に新設された東南アジア研究プロジェクトを担当 し、以前にはマサチューセッツ州のエドワード・ケネディー(Edward Kennedy)上院 議員のシニア外交顧問アシスタントを務めたこともある。1993 年から 1997 年の間に は米国民主党国際研究所で、アジアと旧ソ連問題に関する研究企画も担当した。ク リントン政権2 期目には、国防省に入り、国防部アジア太平洋担当特別補佐官、中・ 台・港・モンゴル部長、地域安全保障部長、フィリピン・インド・マレーシア・ミ ャンマー・シンガポール問題部長および日本部長などの要職に就いた。デリック・ ミッシェルの新しい上司には、国防省のアジア太平洋担当国防次官補には退役海兵 隊中将で太平洋海兵軍司令官を務めたウォレス・グレッグソン(Wallace Gregson)が ジェームズ・シン(James Shinn)に代わって任命された。このほか、前米国国防外 交関係者が予想したとおり、ジェフリー・ベイダー(Jeffrey A. Bader)が再び国家安 全保障会議に入り、アジア上級部長となった。彼は以前から中国通且つ東アジア問 題専門家であり、2005 年からはブルッキングス研究所(The Brookings Institution)の 中国部門を統括し、また選挙期間中にはオバマ陣営の東アジア政策統括者の一人で あった。外交官出身で、30 年近くの公職のうち多くは中国とアジア問題を担当し、

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選挙期間中、オバマは台湾問題についてあまり触れなかったが、 2008 年 3 月に馬英九が総統に就任した際には、オバマ陣営が祝賀声 明を発表し、中国がさらに建設的且つ前途を見据えた思考と方法で 馬英九が示した実務的且つ非対抗的な両岸政策に応えることを希望 すると表明した。また、中国に対しては中国大陸東南沿海の軍隊を 削減し、台湾への武力による威嚇を減らすべきであると呼びかけた。 台湾が国際社会へ参与する空間を合理的に獲得し、これを両岸の相 互信頼発展の基礎とすることを支持するとした。同時に、米国の対 台湾政策は依然として「一つの中国」と「台湾関係法と三つのコミ ュニケ」を礎としたものであり、その安全保障を維持するため、米 台関係を引き続き強化し、防御的武器を引き続き台湾に提供すると 強調した28 また、米中台の三者関係についてみると、2001 年に発生した 911 事件以後、米中関係には徐々に改善の兆しが見られ、双方は地域情 勢の安定・グローバルな経済協力・反テロといった議題で、一定の 信頼を醸成してきている。2008 年 5 月以降、この三者関係におきた 重大な変化といえば、何をおいても台湾海峡情勢の大幅な緊張緩和 である。両岸関係正常化の「チャンスの窓」が生まれたことに伴い、

以前、リチャード・ホルブルック(Richard Holbrooke)のアシスタントを勤めたこと もある。1979 年の米中国交正常化のプロセスにも関わり、1980 年代初期には米国駐 中国大使館に勤め、その後、国連大使メンバーとなった。1978 年から 1990 年に国務 院中国部の副部長・部長を勤めた。そして、国務院の東アジア担当の国務次官補代 理を引き継ぎ、国家安全保障会議のアジア太平洋部門の主管に就いた後、ナミビア 大使に任命された。ブッシュが政権を担ってからは、2001 年から 2002 年に貿易代表 部に入り、中国と台湾の世界貿易機関加盟に関する問題の処理を担った。

28 Barack Obama and Joseph Biden, “Obama Statement Congratulating Taiwanese President- Elect Ma Ying-Jeou,” March 22, 2008. Available: (http://www.barackobama.com/2008/03/ 22/statement_congratulating_taiwa.php).

參考文獻

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