第
2 次安倍内閣の「積極的平和主義」
における日台関係の展望:「台湾問題」
から「台湾カ-ド」への変容
李
易 璁
(台北商業大学経営学科兼任助理教授)【要約】
安倍晋三首相は第 2 次安倍政権発足後、「積極的平和主義」に基づ く 外 交 と 安 全 保 障 政 策 を 推 し 進 め て い る 。「 新 安 保 法 制 」 の 制 定 、 「日米同盟」の強化、「国家安全保障会議」の設置など、具体的な行 動でその政治理念を一歩一歩実現させている。「日米同盟」を主軸と する外交‧安保体制の構築には、積極的、実務的、計画的という第2 次安倍内閣の特色が現れている。「積極的平和主義」はアジア太平洋 地域における政局の変容をけん引し、「日台関係」の発展にも影響を 及ぼす。本稿ではまず、「積極的平和主義」について整理し、次に安 倍 首相の対台 湾政策、日 台両政府の 協力状況、 政治指導者 同士の 交 流 などに焦点 を当て、外 交政策と安 全保障政策 が「日台関 係」に 及 ぼす影響と役割について分析する。そして第 2 次安倍内閣の「積極 的平和主義」における日台協力の展望と課題を明らかにしたい。 キーワード:積極的平和主義、第 2 次安倍内閣、新安保法制、安倍 晋三、日台関係一 はじめに
安倍晋三首相は2012 年 12 月末に再び政権を担って以降、「積極的 平 和主義」を 外交政策と 安全保障政 策の基本理 念に掲げて いる。 国 連総会演説、シンクタンク交流訪問、国会答弁、国際記者会見、「戦 後70 年談話」などでは、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」 を外交政策および安保政策の主軸に据えて、「新たな安全保障体制」 を構築し、アジア地域および国際社会における役割を確立し、「テロ リ ズム」や「 歴史認識問 題」に対す る原則を立 てると宣言 した。 ま た、 内閣府の『 首相官邸 』、外務省の『 外交青書 』、防衛省‧自衛隊 の『防衛白書』、自民党の『重点政策集』など、公式ホームページや 刊行物においても、たびたび第2 次安倍内閣1の重要外交政策と安保 政 策は「積極 的平和主義 」に基づく と説明し、 具体的には 「国家 安 全保 障会議」の 設置、「日米 同盟」の強 化、「安全保 障法案」の 改 正 などの政策を1 つずつ実現させていくことにより、「日米同盟」を主 軸とする外交安保体制を構築するとしている。 安倍首相が「アベノミクス」の「3 本の矢」を打ち出し世界の注目 を集めた際、「積極的平和主義」が周辺諸国に及ぼす影響に殊の外関 心 が寄せられ 、その関連 政策は国内 外で論議を 呼んだ。特 に「集 団 的自 衛権」の行 使容認、「日 米防衛協力 のための指 針」の改定 、「 防 衛装 備移転三原 則(武器輸 出三原則 )」の解禁、「海洋安全保障 」 の 強 化などの政 策に対して 、東アジア 周辺諸国が 敏感に反応 し、そ の 影 響は「東‧南シナ海の主権争い」や「台湾海峡問題」など、中国1 本稿で言う「2 次安倍内閣」は安倍晉三が 2012(平成 24)年 12 月 26 日に第 96 代內 閣總理大臣に就任して以降の内閣改造後を含む政権を指す。
の 核 心 的 利 益 に ま で 及 ん だ2。「 積 極 的 平 和 主 義 」 を 基 本 理 念 と す る 政策や関連法の修正には、積極的、実務的、計画的という第 2 次安 倍内閣の特色が現れており、「集団的自衛権」の行使容認を中心とす る 安 保 政 策 改 革 は 、 周 辺 諸 国 の 国 家 戦 略 に 影 響 を 与 え る と 同 時 に 、 「日台関係」の発展をもけん引する。 安 倍首相 の「 積極的 平和 主義」 に関 する声 明の 中には 、台 湾に関 連す る事柄或い は台湾の位 置づけにつ いて言及し ている部分 もある 。 安倍 首相が再度 政権を担っ て以降、「新 たな安全保 障法制」(以 下 、 新安 保法制)に 関する違憲 論争、「日米 同盟」の発 展動向、「積 極 的 平和主義」に対する中国の反応、「防衛装備移転三原則」の影響など、 さまざまな議題が各界の注目を集めているが、第2 次安倍内閣の「台 湾友人」発言、日台政治指導者間の交流、政府間協力状況など、「積 極 的平和主義 」における 「日台関係 」の良好ぶ りも目立っ ており 、 台湾が「台湾問題」として議論の俎上に上がることは少なくなった。 一 方で、緊密 な「日台関 係」を「台 湾カ-ド」 として主張 したり ア ピ ールしたり する学者、 官僚、メデ ィアもよく 見かける。 本稿で は 安倍首相の「積極的平和主義」の視点から、第 2 次安倍内閣発足後 の 台湾に関す る重要発言 、政治指導 者同士の交 流、日台協 力状況 を まとめ、「日台関係」が日本の外交政策および安全保障政策の変動に より受ける影響を明らかにしたい。そして第 2 次安倍内閣における 日台協力の契機と課題を示し、「日台関係」において「台湾問題」が 「台湾カ-ド」へと変容を遂げる流れをを明らかにする。
2 「第Ⅰ部 わが国を取り巻く安全保障環境」『平成 27 年版 防衛白書』防衛省‧自衛 隊、35 ページ、2015 年 8 月 14 日、http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2015/pdf/ index.html。
二 「積極的平和主義」の形成と意義
1 安倍政権の「積極的平和主義」 安 倍首相 は就 任後、 民主 党政権 によ る「外 交敗 北」と いう 苦境か ら いち早く抜 け出すべく 、外交と領 土問題にお いて強硬な 姿勢で 臨 むことを宣言した3。そして「積極的平和主義」を新政権の基本理念 に 据え、日本 を「積極的 平和主義の 国」にし、 国民を「積 極的平 和 主義のための旗」の誇らしい担い手となるよう促していくと述べた4。 ま た、外交政 策と安全保 障政策に関 する論述の 中で、米国 の「リ バ ランス」を支持し、国連平和維持活動(peacekeeping operation, PKO) に 協力すると ともに、テ ロリズム、 感染症、自 然災害や、 気候変 動 な ど 、 世 界 的 な 問 題 に と も に 取 り 組 ん で い く と 表 明 し5、「 日 米 防 衛 協 力のための 指針」を通 して自衛隊 と駐日米軍 の役割分担 を定め 、 日 本の「安全 保障関連法 案」の整備 を進めると 強調した。 北朝鮮 の 核 開発問題、 国際的なテ ロ行為の横 行、中国に よる南シナ 海‧南沙 ( スプラトリ ー)諸島の 岩礁埋め立 てなど、日 本を取り巻 く安全 保 障 環境は厳し さを増して いる。故に 日米はアジ アの平和と 繁栄を 共 同 で守るとい う共通認識 に達してい るほか、中 国に対して 大国と し て の義務を果 たすよう協 力して求め 、地域の発 展を促した いと考 え3 安倍首相は「外交敗北」という言葉で民主党政権の 3 年間、日本が尖閣諸島(中国 語名、釣魚台列嶼)、竹島、北方領土等の主権に関する議題において多くの失敗をし たほか、日米同盟、日中‧日韓関係の全面的悪化を招いたことを形容した。安倍晋 三『新しい国へ‧美しい国へ』(文藝春秋、2013 年)、246~250 ページ。 4 「安倍內閣總理大臣 2013 年赫爾曼‧卡恩獎獲獎感言」日本國首相官邸、2013 年 9 月 25 日、http://www.kantei.go.jp/cn/96_abe/statement/201309/25hudsonspeech.html。 5 「米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説」首相官邸、2015 年4 月 29 日、http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0429enzetsu.html。
ている6。 「積極的平 和主義」は 安倍首相の 「対テロ政 策」および 「歴史 認 識」を基調としており、「中東政策スピーチ」では「国際協調主義に 基 づく積極的 平和主義」 を基本理念 とすること を明言した 。国際 的 な テロ組織に よるテロ行 為が日に日 に拡大し、 シリアやイ スラム 国 など中東の動乱では1,000 万人を超える難民が発生している。これに 対し安倍首相は、日本は主要な難民受け入れ国と連携協力し、資金、 食糧、医療面などで積極的な人道支援を行っていくと表明した7。ま た、国際平和協力に対する貢献については、PKO への参加を通じ「積 極的平和主義」の理念を実現していくと主張した8。安倍首相の「戦 後70 年談話」は「積極的平和主義」の旗を掲げることでその全文が 締 めくくられ ており、日 本のメディ アは安倍首 相が「歴史 問題」 と 向き合い「積極的平和主義」を行動規範とすることを報じた9。 安倍首相の側近らは第 2 次安倍内閣の外交政策や安全保障政策に つ いて、常に 「積極的平 和主義」に 立脚した発 言を行って いる。 菅 義 偉官房長官 は尖閣諸島 や竹島の領 有権問題に ついて、次 のよう に 述べている。「確かに日中‧日韓間の難題ではあるが、安倍首相が強 調 しているよ うに日本は 『国際協調 主義に基づ く積極的平 和主義 』 の 下で主張を 貫き、一歩 も退かない 構えであり 、各国が我 が国の 立
6 安倍晋三「和解と誇りと希望と新時代の日米同盟へ」『正論』No. 523(2015 年 7 月)、 59 ページ。 7 安倍晋三「積極和平主義の具体内容(国会答弁)」『外交』No. 33(2015 年 9 月)、34 ページ。 8 「安倍總理大臣在第 70 屆聯合國大會上的一般性辯論演說(中文版)」日本國首相官 邸、2015 年 9 月 29 日、http://www.kantei.go.jp/cn/97_abe/statement/201509/0929enzetsu. html。 9 「「積極的平和主義」発信を強化:日中韓首脳会談へ調整加速」『産経新聞』2015 年 8 月 15 日、15 面。
場を理解し、互いが対話ドアを開けることを望んでいる10。」 内 閣官房 は「 積極的 平和 主義」 を「 国民の 生命 を守り つつ 、世界 の 平和と安定 のために積 極的に取り 組んでいく こと」と説 明して い る11。外務省の『外交青書 2014』には「国際協調主義に基づく『積 極 的平和主義 』に立脚し た『地球儀 を俯瞰する 外交』を展 開し、 国 際社会の平和と安定の確保に貢献する」と記載されている12。また、 その具体的な実現方法として「国家安全保障会議」の設置、「国家安 全保 障戦略」の 策定、「新た な防衛計画 の大綱」の 策定、「集団 的 自 衛 権」の「憲 法」との関 係の研究な どを挙げ、 二国間及び 多国間 の 多 層 的 な 安 全 保 障 協 力 関 係 の 構 築 を 目 指 す と し て い る13。 防 衛 省 の 『平成26 年版防衛白書』には「わが国が掲げる理念──国際協調主 義に基づく積極的平和主義」と明記され14、日本が「基本的人権の尊 重 」といった 普遍的価値 を重視する 国家であり 、平和国家 として の 歩 みを引き続 き堅持し、 アジア太平 洋地域の安 定を実現し つつ、 国 際 社 会 の 平 和 と 繁 栄 の 確 保 に 寄 与 し て い く と 表 明 し て い る 。『 自 民 党重点政策2014』を見ると「地球儀を俯瞰する外交」を軸とした「積 極的平和主義」が打ち出されており、米国‧オーストラリア‧ASEAN 諸 国‧インド等との協力を一層強化するとともに、中国‧韓国‧ロ
10 菅義偉「安倍政権は 2014 年 日本をこう変える」『文藝春秋』「2014 年 02 月号、 110~118 ページ。 11 「積極的平和主義 日本の安全保障の基本理念です」首相官邸、http://www.cas.go. jp/jp/siryou/131217anzenhoshou/kiji2.pdf。 12 「第一章 概觀 2013 年の国際情勢と日本外交の戦略的展開」『外交青書 2014』外務 省、2014 年、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2014/pdf/pdfs/1.pdf。 13 「 日 本 の 安 全保 障 政 策 積極 的 平 和 主 義」 外 務 省 、 http://www.mofa.go.jp/mofaj/ p_pd/dpr/page1w_000072.html。 14 「第 2 節 国家安全保障の基本理念」『平成 26 年防衛白書』防衛省‧自衛隊、2014 年、http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2014/pdf/26020302.pdf。
シ アとの関係 を改善し、 さらには南 シナ海‧東シナ海等における法 の 支配等の共 通の価値に 対する挑戦 には、関係 諸国とも連 携した 上 で、秩序の維持に努めることなどが書かれている15。 2 「積極的平和主義」の出自と評価 「積極的平和主義」という言葉はもともとノルウェーの「平和学」 学者、ヨハン‧ガルトゥング博士(Johan Galtung, 1930~)が 1960 年 に 提唱したも のである。 ガルトゥン グ博士は、 アフリカの 貧困問 題 の 解決に協力 して取り組 もうと国際 社会に呼び かけ、単に 戦争の な い 状態を「消 極的平和主 義」と呼ん だのに対し て、貧困と いった 構 造 的な問題を 積極的に解 決してこそ 長い平和が 訪れるとし 、この よ う な状態を「 積極的平和 主義」と定 義した。一 方、安倍首 相の掲 げ る 「積極的平 和主義」は 、武器の使 用も含んだ やり方で国 際秩序 を 維持し、外交や安全保障の問題を解決しようというもので16、ガルト ゥ ング博士が 国際社会に 貧困問題の 解決を呼び かけている 人々の 暮 らしの問題とは明らかに異なる。 日本で「積極的平和主義」という言葉が初めて登場したのは 90 年 代、伊藤憲一17の主張である。伊藤は、20 世紀末の日本は「吉田ド ク トリン」の 下、平和維 持は他人( 米国)の仕 事と思って おり、 そ れ は偽りの平 和である「 消極的平和 主義」にす ぎないと述 べた。 そ し て「ポスト 冷戦時代」 および無差 別テロの時 代にあって 、安全 保 障と国際平和維持を実現するためには、憲法第 9 条第 2 項「戦力不
15 「自民党重点政策集 2014」自民党、http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/126585 _1.pdf 16 毛里和子「日中関係 対抗から対話へ」『外交』No. 33(2015 年 9 月)、111 ページ。 17 伊藤憲一は、日本のシンクタンク「日本国際フォーラム」の理事長であり、元外交 官、青山学院大学名誉教授。
保持(集団的自衛権)」を見直し、一日も早く「積極的平和主義」政 策をとるべきだと強調した18。具体的には「非核三原則」の再検討、 「武器輸出三原則」の見直し、「集団的自衛権」の行使容認、情報収 集や分析能力の強化など、外交政策と安保政策の改革を提言した19。 ここには既に安倍首相の「積極的平和主義」のひな形が見られる。 中野邦観は 「日本は情 勢の厳しい 東アジア海 域に位置し 、エネ ル ギ ーや食糧も 輸入に頼ら なければな らない。こ のような状 況の中 、 も し世界が『 平和状態』 から脱離す れば、日本 は国力を維 持する こ と はできない 。それ故『 積極的平和 創造主義』 を目指すこ とを国 家 戦 略に据える べきで、声 高らかに『 戦争放棄』 を叫んでい るだけ で は平和は維持できない。それに日本は唯一の被爆国であり、『積極的 平 和主義』を 実現させる ために被爆 国という立 場を活かす べきだ 」 との考えを示した20。佐橋亮は東アジア情勢を分析し、次のように指 摘する 。「日本は『 朝鮮半島問 題』、『台湾 海峡問題 』、および東シ ナ 海 と南シナ海 における主 権争いなど の難題を抱 えているだ けでは な く 、新たな脅 威である『 国際的なテ ロ活動』や 、さらには 中国を 中 心 とする新興 国の軍事拡 大などの問 題にも直面 している。 これま で は 必要最小限 度の範囲を 超えるため 行使できな いされてき た『集 団 的自衛権』の解釈を変更する必要がある21。」村上正泰は、「日本が憲 法第 9 条の『戦争放棄』の制限を受け、国家戦略的思考の欠如した
18 伊藤憲一『新‧戦争論―積極的平和主義への提言』(新潮社、2007 年)、172~177 ペ ージ。 19 日本国際フォーラム政策委員会『積極的平和主義と日米同盟のあり方』(日本国際フ ォーラム、2009 年)、7~11 ページ。 20 中野邦観「憲法改正と日本の戦略」『読売クオ-タリ-』No. 4 冬号(2008 年 1 月)、 108~120 ページ。 21 佐橋亮「平和主義と安全保障の交錯―集団的自衛権と安全保障‧開発援助をめぐる 近時の情勢」『自由と正義』Vol. 65, No. 9(2014 年 9 月)、16~21 ページ。
『消極的平和主義』をとり、『平和憲法』を守り続ければ、世界或い は 地域の平和 を恒常的に 維持するこ とは不可能 である。日 に日に 厳 し さを増す国 際情勢を前 に、日本は 早期に戦略 方針を転換 し『積 極 的平和主義』をとるべきである」との考えを示した22。 し かし、 安倍 首相の 「積 極的平 和主 義」は 「違 憲」で ある との論 争も絶えない。「中国脅威論」への牽制戦略であると表現されること も しばしばあ る。清水克 彦は「安倍 首相がたび たび「積極 的平和 主 義 」持ち出し てきて外交 戦略と安保 戦略を語り 、憲法解釈 の変更 に より行使を可能にしたい『集団的自衛権』は、『国連平和維持活動』 と 国際救援救 助活動の範 疇をとうに 超えている 。平和とい う名の 旗 を 高く掲げて いるが、実 際にしたい ことは『武 器輸出三原 則』の 解 禁、『憲法第9 条』の解釈変更、自衛隊の活動範囲の拡大といった軍 事 行動の積極 化で、ガル トゥング博 士が提唱す る『貧困や 差別と い った構造的な暴力をなくす』という理想とは大きくかけ離れている」 と指摘した23。小沢一郎生活の党代表(当時)は「『積極的平和主義」』 と 言 う な ら 日 本 国 憲 法 の 理 念 に 立 ち 返 る べ き だ 。『 国 連 平 和 維 持 活 動 』と『国連 が正式に認 めた多国籍 軍による軍 事活動』の みが『 積 極 的平和主義 』と呼べる 。安倍首相 のように『 積極的平和 主義』 を 装 って『集団 的自衛権』 を行使可能 にし自衛隊 を海外派兵 するこ と は『積極的平和主義』とは言わない」と厳しい口調で公に批判した24。 上 述のよ うな 「積極 的平 和主義 」を 軸とす る「 集団的 自衛 権」の
22 村上正泰「日本における戦略的思考の不在―日本はなぜ対米開戦に突き進んだのか」 『読売クオ-タリ-』No. 9 春号(2009 年 4 月)、90~97 ページ。 23 清水克彦『安倍政権の罠:単純化される政治メディア』(平凡社、2014 年)、126~127 ページ。 24 堀茂樹『今だから 小沢一郎と政治の話をしよう』(祥伝社、2015 年)、188~189 ペー ジ。
行使容認を「違憲」とする意見がある以外に、台湾の学者の間では、 こ れを機に日 本は安全保 障や外交の 場面で本当 に主導権が 握れる の か 、或いは自 衛隊は台湾 と防衛協力 を行うため の軍事行動 が取れ る の か、といっ た疑問の声 も上がって いる。何思 慎は日本が 「日米 防 衛 協力のため の指針」の 改定を理由 に自衛隊の 活動範囲を 広げる こ とは、実際には諸刃の剣であると分析し、次のように述べた。「自衛 隊 が活動範囲 を広げたこ とはグロー バル的な戦 略において は頭角 を 現すが、同時に戦争に巻き込まれるリスクも背負わなければならず、 且 つ『積極的 平和主義』 を根拠に安 保法制整備 を進めても 、違憲 の 疑いは拭い切れない。また、『日米同盟』の拡大がアメリカが東アジ ア の突発的な 事態に対応 する際に吉 と出るか凶 と出るかは 、今後 の 日米中3 か国の関係性にかかっている。さらに、『集団的自衛権』の 行 使範囲は台 湾を含む東 南アジアに まで拡大し たが、日本 が台湾 と 防衛協力を行うかどうかは、結局のところアメリカ次第である25。」 ま た陳永峰は 「安倍首相 は『積極的 平和主義』 と『新たな 安全保 障 法 』を、戦後 日本が長き に渡り放置 してきた『 アイデンテ ィティ 』 に関わる歴史的反動だとし、『積極的平和主義』の名の下に戦後の戦 争 をしない日 本からいち 早く抜け出 し、戦争が できる新た な法律 作 り をしたがっ ている。ま た、この新 たな安保法 制は違憲で あるだ け で はなく、ア メリカが主 導している 『日米が連 携して中国 を牽制 す る 』戦略を具 体化したも のであると 多くの学者 が考えてお り、日 本 は 外交、安全 保障のおい て今後もア メリカの指 図を受ける 」と分 析 している26。関係する論述はすべて「新安保法制」に違憲の恐れがあ
25 何思慎「近期日相安倍訪美與日內閣通過『新安保法』之意涵」『展望與探索』第 13 卷第6 期(2015 年 6 月)、頁 11~18。 26 陳永峰「新『安保法案』通過後的日本政治」『展望與探索』第 13 卷第 10 期(2015 年 10 月)、頁 12~16。
る こと、自衛 隊が台湾海 峡情勢に介 入するか否 かはアメリ カにか か っていることが指摘されている。 中国では「 積極的平和 主義」を否 定的にコメ ントしたり 辛辣な 言 葉 で批判する ものが多い 。黄大慧と 趙羅希は安 倍首相の「 積極的 平 和 主義」につ いて「国際 平和維持、 対テロ活動 、航行の安 全など の 名 の下に、周 辺諸国(と りわけ中国 )の脅威を 大げさに表 現し、 国 際 社会の注意 を『中国脅 威論』に向 けさせよう としている 。日本 は こ のような手 を使って戦 後体制から 脱却、およ び『軍事正 常化』 を 目指している」と批判した27。廉徳瑰は安倍の「価値の外交」政策を 「 簡単に言え ば一方で地 政学を利用 して『中国 包囲網』を 形成し て 中 国を牽制し 、一方で中 国と交渉す ることで、 これを対中 外交の 切 り札にしようとしている」と批判している28。毛利亜樹は第2 次安倍 内 閣に関する 中国メディ アの報道を 整理し、そ の内容を次 のよう に まとめた。「安倍は日本の景気が後退している最中に政権を握り、ナ シ ョナリズム の旗を高く 掲げ軍事力 を増強し国 際秩序に挑 戦して い る。第 2 次世界大戦前の軍国主義の日本と非常によく似ている。ま た、アメリカは日本の軍事拡大、『中国包囲網』の構築を容認してい る 。これは戦 後の世界秩 序を破壊す るものであ り、まるで 『日米 同 盟』を通して日本の『再軍事主義化』を促しているようだ29。」 安倍首相が「積極的平和主義」を主張している最中の 2012 年 11 月中旬、習近平が中国共産党総書記に就任した。その後2013 年 1 月
27 黃大慧、趙羅希「日美強化同盟關係對中國周邊安全的影响」『現代國際關係』2015 年 第6 期(2015 年 6 月)、頁 30。 28 廉德瑰「地緣政治與安倍的價值觀外交」『日本學刊』2013 年第 2 期、(2013 年 3 月)、 頁45。 29 毛利亜樹「習近平中国で語られる近代戦争」『アジア研究』Vol. 60, No. 40(2014 年 10 月)、43~44 ページ。
28 日に外交方針として「平和発展の道」を発表し、「中国は平和発展 の 道を堅持す るが、決し て正当な権 益を放棄す ることはで きず、 決 し て国家の核 心的利益を 犠牲にする こともでき ない。多国 間協力 に 積 極的に参加 し、他国と の協力関係 を強化し、 災いや困難 を他国 に 押しやることは断じてしない」と強調した30。飯田将史は当該政策内 容について分析し、次のように述べた。「習政権は始動するやいなや 直 ちに『核心 的利益』に 対して強硬 な態度を示 した。これ は中国 の 各 外交政策部 門の方針に 強い影響を 与え、当局 が東シナ海 と南シ ナ 海 の問題にお いて、日本 、アメリカ 、東アジア の国々に対 して更 に 強硬な態度に出てくることが予想される31。」また、天兒慧は習近平 政 権 の お け る 中 国 の 対 日 政 策 を 分 析 し 、「 中 国 が 新 し い 国 際 秩 序 の あ り方を追求 する際、も し日本が低 姿勢で交渉 に臨み歩み 寄るこ と をしなかったら、この膠着状態を打開するのは難しいかもしれない」 と述べた32。安倍の「積極的平和主義」と習近平の「平和発展の道」 は 、両者とも 平和を主張 しているが 、双方の平 和に対する 解釈に は 違いがあることが分かる。 3 「積極的平和主義」の日台関係に係る研究 安 倍首相 の「 積極的 平和 主義」 の理 念は「 新安 保法制 」が 整備さ れたことで具体的に実現した。2015 年 9 月 19 日未明に参議院本会議 で『自衛隊法』など、10 の関連法案が可決、成立し、アメリカ軍に
30 「更好統籌國內國際兩大局 務實走和平發展道路的基礎」『新華網』2013 年 1 月 29 日、http://news.xinhuanet.com/english/bilingual/2013-01/29/c_132136438.htm。 31 飯田将史「日中関係と今後の中国外交──『韜光養晦』の終焉?」『国際問題』No. 620 (2013 年 4 月)、53~54 ページ。 32 天児慧「日中の外交態様の相違と中国の外交行動」『アジア研究』Vol. 60, No. 1(2014 年1 月)、6 ページ。
限 られていた 自衛隊の支 援対象が「 他国」へと 、活動範囲 は「周 辺 事 態」から世 界中へと広 がった。武 器使用が可 能な「存立 危機」 の 基準もこれに伴い緩和された33。緒方林太郎衆議院議員は日本の外交 政 策、安全保 障政策は台 湾と密接に 関連してい ると指摘し 、次の よ うに述べた。「日本は『台湾有事』および『朝鮮半島有事』という 2 つ の潜在的要 素を抱えて いる。故に 『集団的自 衛権』の行 使容認 を 検 討した。も し日本が『 他国』から の攻撃を受 けたら、或 いは『 他 国 』を防衛す るとしたら 、台湾はそ の『他国』 に含まれる か否か 。 これは『一つの中国』というイデオロギーの問題にも関わってくる。 同 様の問題は 国会で『周 辺事態法』 が審議され た際にも議 論とな っ た。もしこの議論を避けて『周辺」』を変更したら、法律適用範囲は 極 東アジア太 平洋地域に 限られ、自 衛隊の活動 範囲も縮小 してし ま う 恐れがある 。従って前 述の問題は 法改正の際 には非常に 慎重さ を 必要とした34。」 前 述から 、日 本の「 集団 的自衛 権」 の行使 容認 は、日 本の 対台湾 政策および安保政策と密接な関係があり、「日台関係」を研究する上 で 非常に注目 されている テーマであ ることが分 かる。郭育 仁は 第 2 次 安倍内閣の 外交政策と 安保政策に おけるさま ざまな側面 、およ び 台湾への影響を分析し、次のように指摘した。「安倍首相は 2012 年 に再び政権を担って以降『積極的平和主義』政策を推し進め、『日米 同 盟』を主軸 とする外交 路線に回帰 し、アメリ カがアジア 太平洋 地 域 において多 層的な新た な同盟関係 を構築する 協力をし、 情勢を 日 本 の国家安全 保障にとっ て最も有利 に転換させ ている。こ れこそ が
33 「『平和安全法制』の概要」内閣官房、2015 年 9 月 19 日、http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/ jimu/pdf/gaiyou-heiwaanzenhousei.pdf。 34 緒方林太郎「集団的自衛権の議論の『隠れた主役』」『グローバル‧フォーラム会報』 No. 63 夏季号(2015 年 7 月)、2 ページ。
『 安倍イズム 』であり、 それは『安 全保障体制 』の強化( 日本自 身 の戦略強化を含む)、アメリカのアジア太平洋地域における軍事力の 再配置への協力、切れ目のない『日米同盟』の構築、『日米同盟』の 重層的な役割分担へのシフトという 4 つの戦略からなる35。」郭はま た、第 2 次安倍内閣の外交政策の 2 大原則は「先内而外(国内問題 を先に、外交問題は後から)」と「先易後難(解決しやすい問題を先 に、難しい問題は後から)」であると述べた。前者の「先内而外」は、 第2 次政権発足当時、「アベノミクス」における「三本の矢」政策を 積 極的に推進 するなど、 まずは内政 改革で勢い をつけて参 議院選 挙 に 勝利し、そ の後安保改 革と外交政 策を進めた ことである 。後者 の 「 先易後難」 は、まず関 係が良好な 国々に対し 「地球儀を 俯瞰す る 外交」(戦略、経済、エネルギーを主軸とする)を展開し、日本に有 利 な国際環境 を作り出し た後、中国 や韓国など の難題を抱 える国 々 との関係改善に努めるというものである36。安倍首相が「積極的平和 主義」に基づく主体的な外交政策や、「集団的自衛権」の行使容認を 含 む安保改革 を推進し続 ければ、中 国は今後、 自衛隊が東 アジア 情 勢 (中台問題 と南シナ海 問題を含む )に主体的 に介入して くるか も し れないとい う複雑な戦 略的計算と 兵棋演習を 迫られる。 そうな れ ば 中国が一方 的な軍事行 動を取ろう とする意志 は大幅に削 がれる だ ろう37。この他、「新安保法制」の施行で、台湾海峡や朝鮮半島を含 む 周辺情勢の 変化により 迅速に対応 できるよう になった。 つまり 、
35 郭育仁「日本新安保法對日『中』關係及東海爭議之影響」『亞太評論』第 1 卷第 6 期 (2015 年 11 月)、頁 24~25。 36 郭育仁「第二次安倍內閣之外交政策走向」『全球政治評論』總第 46 期(2014 年 4 月)、 頁46~47。 37 郭育仁「第十章 『中』日安全對話及其影響」趙春山主編『東亞區域安全形勢評估 2014-2015』(兩岸交流遠景基金會、2015 年)、頁 170~171。
自 衛隊は「台 湾海峡問題 」に介入す る主体的な 要因となっ た。故 に 日 本の政策転 換後の中国 に及ぼす主 体的な牽制 効果は注目 すべき で あ る。また、 日本が東シ ナ海と南シ ナ海の問題 に主体的に 介入す る 際 、中国と二 国間交渉を 行えば、台 湾の戦略的 空間は激減 する恐 れ が ある。故に 台湾は日米 が構築した 常態的な双 方向の安全 保障対 話 の 構造を積極 的に追求し 、今後日本 と安全保障 協力を行う 上での 適 切 な政策とプ ラットフォ ーム、およ びその中で アメリカが 果たす 重 要な役割を積極的に考えていくべきである38。 前述の関連論述は第 2 次安倍内閣における外交政策と安保政策の 主 要 原 則 お よ び 戦 略 的 枠 組 み が 系 統 立 て て ま と め ら れ て お り 、「 積 極 的平和主義 」が東アジ ア情勢や台 湾海峡情勢 に与える影 響、中 国 に 及ぼす主体 的な牽制効 果、さらに は台湾の戦 略的空間が 圧縮さ れ る恐れも指摘している。「積極的平和主義」が「日米同盟」への回帰 を 主軸とし、 日本がアメ リカのアジ ア太平洋地 域における 軍事力 の 再 編成に積極 的に協力す れば、日本 の外交と安 全保障にお ける台 湾 の 戦略的位置 づけは変更 を伴う可能 性がある。 関連論述の 分析で は また、安倍首相が「積極的平和主義」を実現するために整備した「新 安 保法制」が 日本国内で 論争を生じ ていること や、日本が 集団的 自 衛 権を行使す るか否か、 および自衛 隊が台湾と 防衛協力を 行うか 否 か は、アメリ カと中国の 関係性や態 度を見極め る必要があ るとし て い る。つまり 、これらの 関連議題は すべて「日 台関係」の 発展に 言 及している。次節では前述した第 2 次安倍内閣の政策方針、特色、 原則 を基に、「日 台民間漁業 取決め」な どの日台交 流の現状 、「戦 後 70 年談話」などにおける安倍首相の台湾に関する重要発言、李登輝
38 郭育仁「日本的戰略憂慮:新安保法與安倍主義」台北論壇、2015 年 11 月 12 日、頁 7~8、http://140.119.184.164/view_pdf/252.pdf。
と蔡英文の訪日などの影響を分析する。そして以降の節で、「積極的 平和主義」が台湾海峡情勢に及ぼす影響、および安倍首相が 2 度目 の 首相に就任 した後、対 台湾政策で ある「台湾 カ-ド」を どのよ う に利用して中国を牽制しているのかを明らかにする。その上で、「積 極的平和主義」における日台協力の展望について検討し、第 2 次安 倍内閣の「日台関係」と「台湾カ-ド」の発展動向を探りたい。
三 第
2 次安倍政権の「基本的価値を共有するパート
ナー」における台湾の位置づけ
1 安倍首相の台湾に関する発言 安 倍首相 が再 び政権 を担 って以 降、 前政権 時と 比べ、 比較 的敏感 な 台 湾 に つ い て の 話 題 も 公 の 場 で 取 り 上 げ る よ う に な っ た 。「 東 日 本 大震災二周 年追悼式」 では指名献 花に台北駐 日経済文化 代表処 の 沈斯淳代表を招待した39。「フェイスブック」上では「東日本大震災」 に対する台湾からの義援金が 200 億円を超え、最高額だったことに ついて、感謝の言葉を記すとともに、2012 年の追悼式では台湾を指 名 献花から外 した件につ いて、大切 な友人をき ちんと処遇 をしな か っ たことは実 に失礼であ ったと率直 に詫びた。 また中国大 使のボ イ コットに対しては遺憾の意を示した40。安倍首相が中国側の抗議と圧 力 に屈するこ となく台湾 を公に招待 し感謝を表 したことは 、台湾 に 対する政治的スタンスを明確に表していると言える。39 2013 年、台北駐日経済文化代表処の沈斯淳代表は、東京の国立劇場において日本政 府が主催した「東日本大震災二周年追悼式」に来賓として招かれ、台湾が「指名献 花」に加えられたことから、中国がこれに反発し、代表が欠席して抗議を表明した。 宮嶋茂樹「宮嶋の現場」『正論』No. 496(2013 年 5 月)、174~175 ページ。 40 安倍晋三「3 月 11 日の東日本大震災慰霊式典に「台湾の代表の取り扱い」を理由に 中国が欠席…」Facebook、2013 年 3 月 13 日、https://www.facebook.com/abeshinzo?fref=ts。
安倍首相は2013 年 1 月 28 日の衆議院本会議で外交政策について、 「 自由、民主 主義、基本 的人権、法 の支配とい った、基本 的価値 に 立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本である」と述べ41、「価 値観外交」の戦略方針を示した。その後、2015 年 7 月 29 日には、参 議 院特別委員 会で「日台 関係」につ いて「台湾 は基本的価 値観を 共 有 するパート ナーであり 、大切な友 人である。 どのような 協力や 対 話 を進めてい くか、わが 国の基本的 立場を踏ま えつつ、検 討して ま いりたい42」と堂々と述べた。これらの発言から、安倍首相が「価値 観外交」を進める上で台湾を重要視し、外交政策において台湾が「大 切 な友人」の 役割を果た すと評価し ていること が分かる 。「 戦 後 70 年談話」では次のように述べている。「我が国はインドネシア、フィ リ ピンをはじ め東南アジ アの国々、 台湾、韓国 、中国など 、隣人 で あ るアジアの 人々が歩ん できた苦難 の歴史を胸 に刻み、… …我が 国 は 、自由、民 主主義、人 権といった 基本的価値 を揺るぎな いもの と して堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、『積極的平和主 義 』の旗を高 く掲げ、世 界の平和と 繁栄にこれ まで以上に 貢献し て まいります43。」村山内閣や小泉内閣など、歴代内閣の「終戦記念日 の 談話」には 台湾は言及 されていな い。台湾は 「安倍談話 」で初 め て 被害国とし て列挙され 、先の戦争 で受けた損 害に対して 初めて 正 式にお詫びを表明された。 櫻 井 よ し こ は 、「 安 倍 首 相 は 正 式 な 国 交 が な い 台 湾 の た め に 『 隣
41 安倍晋三「第百八十三回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説」首相官邸、 2013 年 1 月 28 日、http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement2/20130128syosin.html。 42 「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」参議院、2015 年 07 月 29 日、http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?swd=966713&type=recorded。 43 「平成 27 年 8 月 14 日内閣總理大臣談話(中文版)」首相官邸、2015 年 8 月 14 日、 http://www.cn.emb-japan.go.jp/bilateral/bunken_2015danwa.htm。
国 』ではなく 『隣人』と いう言葉を 用いて被害 国を呼び、 さらに は 台 湾を韓国と 中国より先 に挙げてア ジアの列強 に並べた。 これは 国 民 レベルで見 ても国家レ ベルで見て も、安倍首 相が台湾と の関係 を 非常に重視していることを示しており、安倍首相の在任期間中は「日 台 関係」の安 定且つ強化 に力を入れ ることが予 測できる」 と強調 し た44。 日本のメディアは藤井厳喜の発言を引用し、「『安倍談話』で台湾 と 中国の名が 並んでいる ということ は、安倍政 権が(中国 の一部 で は ない)台湾 の政治的実 態を認めた ということ で、中国に とって は 強烈な1発になったはずだ」と論じた45。呉明上は日本の各メディア の 世論調査を 分析し、次 のように指 摘する 。「安 倍首相は『 戦 後 70 年談話』で日本国内の支持を獲得した。『安倍談話』では最後に『積 極 的平和主義 』の旗を高 く掲げ、世 界の平和と 繁栄に貢献 してい く と言 及している ほか、『日米 安全保障体 制』を引き 続き深化さ せる 。 し かし、中国 はそれを中 国を包囲す るための軍 事同盟とみ なして い る 。日本が今 後双方の安 保領域にお ける衝突を いかに解決 するか 、 引き続き観察していく必要がある46。」
44 櫻井よしこ「日台の未来を語る:日台で『対中国包囲網』を!」『WILL』No. 132(2015 年12 月)、75~76 ページ。 45 「 専 門 家 も 驚 い た 台 湾 “ 厚 遇 ” の 背 景 : 日 米 台 に よ る 中 国 包 囲 網 へ の 布 石 か 」 『ZAKZAK 夕 刊 フ ジ ( 政 治 社 会 版 )』( デ ジ タ ル 版 )、 2015 年 8 月 18 日 、 http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150818/plt1508181830003-n1.htm。 46 吳明上「安倍首相戰後七十週年談話:積極和平主義與東亞外交」『戰略安全研析』No. 124(2015 年 8 月)、頁 42~43。
2 第2 次安倍政権と馬英九政権下での日台交流の成果
第 2 次安倍内閣の「積極的平和主義」の下では日台交流が盛んに
行われている。2013 年 4 月 10 日に「第 17 回日台民間漁業協議」が 開 催され「日 台民間漁業 取決め」が 署名された 。これによ り尖閣 諸 島 の 外 側 に 位 置 す る 日 本 に と っ て の 「 排 他 的 経 済 水 域 」(exclusive economic zone, EEZ)部分、総面積 7.4 万平方キロメートルを取決め 適用水域(従来と比べて約4,530 平方キロメートル拡大された)とし て台湾漁船の操業が認められた。この水域では年間約 800 隻の台湾 籍漁船が操業しており、漁獲量は4 万トン増えると予測される47。日 本 のメディア は同取決め を「尖閣問 題」で中国 を孤立させ るため だ と 報じた。台 湾にとって は主権問題 はしばらく 棚上げされ ること に な ったものの 、実質的な 漁業権益を 獲得できた ことで、日 本と実 質 ウ ィンウィン の関係にな り、日本の メディアは 「日台関係 」が大 き な成果を上げたと評した48。馬英九は「『日台関係』は新段階に進ん だことを意味する。また非常に喜ばしいことである」と述べた49。林 賢参は「『日台民間漁業取決め』は馬英九が提案した『東シナ海平和 イニシアチブ』の具体的実現であり、『日台関係』を妨げる不安要素 を取り除いた」と評した50。矢吹晋は「日台民間漁業取決め」を分析 し、次のように述べた。「馬英九総統は2013 年 11 月、国民党全国代 表 大会で、台 湾は漁業権 問題を解決 したが、主 権は全く譲 歩して い
47 「台湾『妥協して合意』政府、ル-ル作成へ意欲」『琉球新報』2013 年 4 月 12 日、5 面。 48 「操業の安心評価:台湾各紙 領有権取引否定も」『琉球新報』2013 年 4 月 12 日、5 面。 49 石原忠浩「『日台民間漁業取決め』の締結と第四原発建設の可否をめぐる展開」『交 流』No. 866(2013 年 5 月)、18 ページ。 50 林賢參「第十一章 東海和平倡議的實踐與東海情勢」趙春山主編『東亞區域安全形勢 評估2014-2015』(兩岸交流遠景基金會、2015 年)、頁 183~184。
な いと言明し た。同取決 めが主権争 いの棚上げ に成功した のは、 中 台が『九二共識、一中各表(92 年コンセンサス、一つの中国の解釈 を各自表明する)』により平和を維持しているのと同じである。尖閣 諸 島の主権争 いにおいて 『ひとつの 尖閣/釣魚 台』という 『日台 各 表 』が、東シ ナ海の平和 を維持する 道ではない などという ことが あ ろうか51。」 馬英九は 2008 年に総統就任後、「台日特別パートナーシップ」を 発表し、「日台関係」の強化を対日政策の主軸に据えた。福田円はこ の馬英九の動きについて、「自らの『反日』イメージを払拭すると同 時に、『連合号事件』による膠着状態を打開するためで、この対日外 交戦略は確実に成果を上げている」と分析した52。馬英九政権が発足 した 2008 年から 2015 年の間に日台間で調印された重要な協定や交 わされた覚書は26 に上る。第 2 次安倍政権が発足した 2012 年 12 月 末から2015 年 12 月までの 3 年間では計 13 の重要な協力協定が結ば れた53。「日台関係」は双方のトップが協力と交流を強化し、まさに 実質的で迅速かつ包括的な進展を見せている。丹羽文生は、「自民党 の 『日本‧台湾経済文化交流を促進する若手議員の会』は岸信夫会 長 の下、台湾 との実務関 係を強化す るための日 本版『台湾 関係法 』 の 策定を目指 すことを打 ち出してい る。これは 安倍首相の 実弟を ト ッ プとする議 員連盟が打 ち出した重 要構想であ り、短期間 での実 現 は 難しいもの の、その意 義には特別 なものがあ り、関連政 策がも た
51 矢吹晋「米中新型大国関係の形成と展望――安全保障‧経済依存‧国際政治」『中国 研究月報』68 巻 1 号(2014 年 1 月)、16~21 ページ。 52 福田円「馬英九政権の『台日特別パートナーシップ―中台和解の下での対日関係推 進―』」『問題と研究』第 41 巻 4 号(2012 年 12 月)、69~72 ページ。 53 「簽署協定(協議、備忘錄)」亞東關係協會、2015 年 12 月 13 日、http://www.mofa.gov. tw/aear/cp.aspx?n=4810D2C08B273D5E。
らす影響は決して軽視できない」と述べた54。 第 2 次安倍内閣下では中央レベルだけでなく、日台の自治体間の 交 流も盛んに なっている ことが分か っている。 日本メディ アの対 台 湾交流状況のまとめによると、2012 年 12 月 16 日の衆議院議員総選 挙から2015 年 11 月までの間に、計 19 の日台自治体が友好協力協定 を 締結した。 これは安倍 内閣が台湾 との友好姿 勢を示した ことに よ り 、日本の各 地方自治体 も中国の妨 害に遠慮す ることなく 安心し て 台 湾との交流 を進め始め たからであ る。また、 南シナ海で 軍事的 挑 発 を続ける中 国に対して 、安倍首相 は国外にお いては外交 を通じ て 各 国の理解を 獲得するこ とにより、 国内におい ては日台の 自治体 同 士の親善交流活動により「対中包囲網」の構築を加速している55。日 台 外交政策の 背後には必 ず中国とい う要素がつ きまとうが 、実際 の データと本稿の論述から、第 2 次安倍内閣の「積極的平和主義」下 で は日台自治 体間の友好 都市提携が 急増してお り、中央か ら地方 ま で その交流は 以前と比べ 明らかに活 発になって いることが 分かる 。 こ のような「 日台関係」 を「中国包 囲網」と形 容するメデ ィアも あ る。そして、これまで「日台関係」、「日米関係」或いは「日中関係」 に おいて常に 議論に上が っていた「 台湾問題」 は、ほとん ど言及 さ れなくなった。
54 丹羽文生「安倍外交と積極的平和主義について―高まる近隣諸国との緊張関係―」 日本新防衛政策與東亞情勢國際研討會發表(台北:國立政治大學東亞研究所、2015 年5 月 28 日)。 55 「台湾との友好都市急増 第 2 次安倍政権発足後、中国の妨害滅る」『産経新聞』2015 年11 月 7 日、15 面。
四 「積極的平和主義」における日台協力の契機
1 李登輝前総統の訪日と「積極的平和主義」への声援 「 積極的 平和 主義」 が日 本で争 議を 巻き起 こし ていた ころ 、台湾 政 界リーダー の発言が国 際メディア の注目を集 めた。それ は「安 全 保 障法制」に 関する重大 な議論が交 わされてい た最中に訪 日した 李 登 輝元総統と 民進党の蔡 英文主席の 当該法制に 関する発言 である 。 李登輝元総統は訪日のたびに必ず各界から論議を呼ぶが、それは「日 台関係」における重大な意義を象徴している56。彼は第2 次安倍政権 が始動してから2015 年までの間に既に 2 度訪日し、いずれも格別な 礼遇を受けた。安倍政権は2015 年、衆院特別委員会において「新安 保 法制」関連 法案を「自 公連立政権 」の「数の 力」で強行 採決し 、 国民の強い反発を招いた57。そんな中、李登輝は7 月 21 日から 26 日 まで日本を訪問し、「新安保法制」の策定を通じて「集団的自衛権」 の 行使を可能 にする必要 性を見抜い た安倍の先 見の明を称 賛しエ ー ルを送った。22 日は衆院議員会館で講演を行い、日本と台湾がとも に 歩んできた 歴史と文化 を通して両 国の緊密な 関係を強調 し、ア ジ ア の安定と平 和を守るた めに手を携 えようと呼 びかけた。 会場に は 300 人を超える国会議員や秘書が集まっていた58。続いて開かれた記56 小枝義人は、李登輝元総統の訪日問題を、日本の国会と外務省はそれぞれ「日台関 係」と「両岸問題」の立場から見ており、李登輝政権時代から主張されている「台 湾主体性」について、しばしば各界で論争が起こっていると指摘。台湾と日本は特 殊な関係であることから、台湾が日本に対してとりわけ高い期待を寄せていること が感じられるほか、李登輝の訪日申請に対する評価や待遇から、日本川が台湾の特 定の立場をどのように見ているかを見て取ることができる。衛藤征士郎‧小枝義人 『檢證‧李登輝訪日:日本外交の転換点』(星雲社、2001 年)、87 ページ。 57 「安保採決 自公が強行」『朝日新聞』2015 年 7 月 16 日、1 面。 58 李登輝「来日記念講演 台湾は台湾、中国は中国」『歴史通』No. 38(2015 年 9 月)、
者 会見では、 安倍内閣が 努力の末に 採決した「 新安保法制 」は世 界 の平和に貢献すると述べるとともに、「ひとつの中国」には決して同 意 で き な いと 強 調 し た。23 日にも「日本外国特派員協会」(foreign correspondents’ club of Japan, FCCJ)の質疑応答の席で、安倍首相が 主 張する「積 極的平和主 義」と「新 安保法制」 はアジア太 平洋地 域 お よび世界平 和の維持に 貢献すると 繰り返し、 安倍首相の 理想 が 1 日でも早く実現することを心待ちにしていると述べた59。李登輝発言 と 前述した「 積極的平和 主義」を支 持している 日本の学者 の論調 は 一 致している 。いずれも 、日本の目 下最大の課 題は「憲法 改正」 で あ り、日本は 米国の軍事 力にその重 要な国防安 全保障を依 存して い る ことで自主 性を損なっ ていると考 えている。 また、日本 国憲法 が 戦後60 年を超えて 1 度も改正されていないというのは、一般的な正 常 国家の常態 ではあり得 ないことで 、安倍首相 の安保関連 の主張 を 支持するというものである60。 日 本のメ ディ アは国 会内 での演 説の 盛況ぶ りか ら、李 登輝 が日本 の 政界におい て依然とし て高い人気 を誇ってい ることが伺 えると 報 じ た。また、 国会におけ る李登輝へ の支持と重 視が、日本 政府の 親 台 ム ー ド を ま す ま す 高 め て い る と も 報 じ た 。 一 方 、「 在 日 中 国 大 使 館」はかつて、産経新聞の取材に対し、「中国と国交を持つ国が台湾 と の 政 府 間 関 係 を 発 展 さ せ る こ と に 反 対 す る 」 と 表 明 し て い る61。 「 新安保法制 」が日本国 内外で論争 を巻き起こ していた最 中、李 登
138~147 ページ。 59 「首相、李登輝氏と会談:東アジアの安定 協議」『産経新聞』2015 年 7 月 24 日、15 面。 60 李登輝「日台新連携の幕開け」『VOICE』No. 453(2015 年 8 月)、36~45 ページ。 61 「第 2 次安倍政権発足後 台湾との友好都市急増 中国の妨害滅る」『産経新聞』 2015 年 11 月 7 日、15 面。
輝 は「積極的 平和主義」 と「新安保 法制」関連 法案を支持 すると 発 言 し安倍首相 に強いエー ルを送った 。この発言 は日本国内 の反対 意 見 と真っ向か ら対立して おり、当時 の日本国内 で注目を浴 びた声 援 だ った。李登 輝が帰国後 すぐに書い た記事には 、次のよう なこと が 書 か れ て い る 。「 日 台 は 歴 史 的 に も 文 化 的 に も 深 い 絆 で 結 ば れ て お り 、より緊密 に協力して いかなけれ ばならない 。日本の研 究開発 能 力 に台湾の『 生産技術』 が合わされ ば、それは 「アベノミ クス」 の 重要な柱となり、日台共栄の新局面を作り出せる62。」李登輝は訪日 の たびに各方 面で多くの 議論を呼び 、その発言 に対しては 日台お よ び 国際間で物 議を醸した が、世界か ら注目を浴 びる彼の安 倍の改 革 への支持は決して変わらなかった。 2 蔡英文の日台協力宣言 李 登輝が 日本 での演 説で 「積極 的平 和主義 」と 「新安 保法 制」に つ いて公に支 持を表明し 、各界の高 い注目を集 めたのに続 き、蔡 英 文が10 月 1 日、「訪日記者会見」で次のように述べた。「成立した『新 安 保法制』に ついて、日 本が地域の 平和にさら に重要な役 割を果 た すことを期待する。また日台双方が産業技術交流の推進、『高齢化』 と『国際化』問題の解決、農水産業改革の推進、『環太平洋戦略的経 済連携協定』(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPP)への加盟問題などでも協力できることを期待する。台湾は、長 年 課題となっ ている『潜 水艦の取得 計画』につ いて、米国 経由の 完 成 品購入から 『自主建造 』へとかじ を切ってい る。将来、 日本へ の 技術提供要請も排除しない63。」
62 李登輝「日台新連携の幕開け」、36~45 ページ。 63 「『日台の経済連携を強化』民進党の総統選候補‧蔡英文氏」『産経新聞』2015 年 10
蔡 英文が 訪日 直前、 日台 軍事産 業協 力に言 及し たのは 偶然 ではな いだろう。蔡英文が訪日記者会見を行った10 月 1 日、日本では装備 の 管理、研究 開発、輸出 入や移転な どを一括し て担う防衛 省の外 局 「防衛装備庁」が発足し、これに対して一部メディアは「『軍拡競争』 を助長しかねない64」と批判したり、市民団体らが抗議活動を行った りした65。陳水扁政権の8 年間はアメリカからの武器購入を国民党が 反 対して予算 が通らず、 調達規模は かつてに及 ばなかった 。馬英 九 政 権下では、 中台間の関 係改善を狙 ってか、中 国政府の反 応を気 に し てか、台湾 の国防に必 要としてい た戦闘機や 潜水艦の購 入にあ ま り積極的ではなかった66。蔡英文が訪日した際、その地位はまだ民進 党 主席兼総統 選候補で、 公的な肩書 きがなかっ たため、比 較的制 限 を 受けずに発 言ができた 。潜水艦の 調達を計画 している台 湾にと っ て 、この話題 は日米台の 軍事協力が 期待できる 。安倍首相 が「積 極 的平和主義」を基本理念として実現した「新安保法制」から、「防衛 装 備移転三原 則」が正式 に法制化し た後、日台 が将来武器 の共同 開 発 を行う契機 や、日米台 の多岐にわ たる軍事産 業協力の可 能性が 広 がったことが分かる。話題性の面から見ても実務性の面から見ても、 こ れらの軍事 協力戦略は 上手く行け ば多くのメ リットがあ り、日 米 台 にとっては 外交の切り 札にもなり 得る。今後 日台間の外 交と戦 略
月2 日、15 面。 64 「防衛装備庁が発足 「平和」名目に武器輸出促進」『東京新聞(夕刊)』、2015 年 10 月 1 日、http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201510/CK2015100102100017. html。 65 「武器輸出にノー」『東京新聞(夕刊)』、2015 年 10 月 1 日、http://www.tokyo-np.co.jp/ article/national/list/201510/CK2015100102000249.html。 66 松田康博「馬英九政権下の米台関係」小笠原欣幸、佐藤幸人編『馬英九再選―2012 年台湾総統選挙の結果とその影響―』(日本貿易振興機構アジア経済研究所、2012 年)、 115~116 ページ。
展開に及ぼす影響は軽視できない。 蔡英文は2015 年 10 月 6 日から 10 日まで訪日し、その日程に注目 が集まった。6 日は「日華議員懇談会」関係者と会合し、「日本とと も に地域の平 和と安定、 安全を維持 していきた い」と述べ るとと も に、第 2 次安倍内閣の外交政策と安保政策について支持する考えを 再度表明した67。また、岸信夫衆院議員の招きで山口県を訪問したほ か 、李登輝と 同様に安倍 首相とも接 触したとみ られている 。当時 、 民 進党の総統 選候補だっ た蔡英文の 台湾政界に おける影響 力は言 う ま でもない。 訪日期間中 、李登輝と 同じ破格の 厚遇を受け たこと か ら 、日本政府 が李登輝と 民進党主席 を非常に重 視している ことが 分 か る。また日 本が総統選 挙直前に蔡 英文の訪日 を受け入れ たこと で 蔡 英文への認 知度も高ま った。さら には「積極 的平和主義 」の下 、 日 台政治家同 士の交流も 盛んになっ た。安倍首 相が進める 「新安 保 法 制」が国内 外で議論を 呼ぶ中、李 登輝と蔡英 文が相次い で訪日 し 安 倍の主張に エールを送 った。台湾 政界のリー ダーが安倍 に対す る 支持の立場を表明したことは、第 2 次安倍内閣における日台政界リ ーダー同士の交流の重要な記録である。 3 第2 次安倍内閣の「台湾問題」と「台湾カ-ド」 第 2 次安倍内閣発足後、「台湾問題」という言葉が「日台関係」が 議題に上る席で聞かれることはめったになくなった。一方で、「台湾 カ-ド68」や「中国牽制69」といった言葉がそれに替わってメディア
67 「台湾総統候補 蔡氏が来日」『読売新聞』2015 年 10 月 7 日、14 面。 68 岡田充「民進党の政権復帰と両岸関係(上):安倍政権の台湾カードを懸念 章念馳 がみる台湾と国際関係」『海峡両岸論第64 号』2016 年 3 月 12 日、http://www.21ccs.jp/ ryougan_okada/ryougan_66.html。 69 鈴木玲子「台湾:民進党主席、日米で厚遇 外交力、内外に誇示」『毎日新聞』2015
や 学者の間で 取りざたさ れるように なった。李 登輝と蔡英 文が相 次 い で訪日し、 安倍首相の 「積極的平 和主義」に 関する発言 に支持 を 表明したことは、「新安保法制」が違憲との指摘を受ける中、異なる 意 見を提示す ることとな った。これ についてメ ディアは日 台間の 緊 密な交流や対中政策に影響力を発揮すると論じた70。「積極的平和主 義 」下の日台 交流は日本 の外交交渉 に影響を与 える重要な 要素で あ り 、中国を牽 制する「台 湾カ-ド」 と見なすの に十分であ る。阿 南 友 亮 は 次 に よ う に 指 摘 す る 。「 習 近 平 は 中 国 が 実 効 支 配 し て い な い 尖閣諸島に対して日本側に譲歩を要求している。その上『尖閣諸島』 や台湾などを『失った領土』と表現し、『国族主義』を操作して共産 党 に対する国 民の不満を 尖閣問題へ と逸らして いる。さら には海 警 局 所属の船や 軍艦を派遣 して周辺国 に威嚇、牽 制も行って いる。 日 本 は信頼でき る関係国と の関係強化 を図り外交 協力を進め るべき で ある71。」同じ東アジアの島国である台湾が阿南の指摘する範疇に当 てはまることは間違いない。 台湾の位置づけについて第 2 次安倍内閣では各方面から関心が寄 せ られている 。例えば前 述した学者 や政府関係 者が、勢い を増す 中 国 を前にして は、利害の 一致する周 辺国と利害 の一致する 議題に お いて協力を強化すべきであると指摘しているのもその 1 つである。 本 稿が分析し た関連報道 や論述から 中国の反応 を注視して みると 、
年10 月 12 日、6 面。 70 「安倍首相、李元総統と会談 軍事力増強の中国などについて協議か」『産経ニュ- ス』2015 年 7 月 24 日、http://www.sankei.com/politics/news/150724/plt1507240003-n1.html。 村上智博「最大野党の蔡英文候補、安倍首相の地元‧山口訪問へ…親日をアピール」 『產經WEST』2015 年 9 月 29 日、http://www.sankei.com/west/news/150929/wst150929 0010-n1.html。 71 阿南友亮「海洋に賭ける習近平政権の『夢』『平和的発展』路線の迷走と『失地回復』 神話の創成」『国際問題』No. 631(2014 年 5 月)、53~54 ページ。
日 本が「台湾 関係」を親 密化する「 外交カ-ド 」を使うと 、中国 は 確 かに関心を 寄せ不満を 抱く。これ は「台湾カ ード」がそ の影響 力 を 持っている ことを証明 している。 しかしなが ら、ただ単 に「台 湾 カ -ド」を出 し続けて中 国に対抗す ることは、 日台中問題 を根本 か ら 解決する方 法ではない 。毛里和子 は「積極的 平和主義」 が「日 台 関係」にとって影響する場合を分析し、次のように指摘した。「『日 中 関係』を中 心とした日 本の東アジ ア外交政策 において、 台湾は 重 要な役割を果たす。ただ、中国をずっと脅威と見なし続けていると、 最 終的に本当 に『脅威化 』し、脅威 としての役 を務め始め てしま う か もしれない 。日本がも し『日中関 係』をもう 一度見直し たいの な ら 、周辺諸国 との関係性 を再検討す るところか ら始めなけ ればな ら ず 、それに台 湾は最も重 要な一端を 担っている 。日本、台 湾、中 国 の 三者交流は 『日中関係 』の発展に 間接的に影 響すること は疑い 入 れない。三者間の交流方法として最も良いのは対抗では決してない。 も っと広い視 野で物事を 捉え『非対 抗の新秩序 』を見つけ ること こ そが最良策である72。」毛里の主張する「非対抗の新秩序」をどうや って見つけ出すのか。これが目下3 者の最大の課題である。
五 おわりに―「台湾問題」から「台湾カ-ド」へ
「積極的平和主義」は第 2 次安倍内閣の外交政策における基本理 念 である。重 要な公式の 場面や政府 文書ではた びたび「積 極的平 和 主 義」を主軸 とした外交 政策、安全 保障政策、 対テロ政策 および 歴 史 認識に関す る発言がな され、日本 の対外発展 戦略を積極 的に展 開 している。「新安保法制」の策定と「日米同盟」の強化を通してこの 政 策理念は一 歩一歩具体 的に実現さ れ、それに 関連する戦 略展開 は72 毛里和子「日中関係 対抗から対話へ」、111~113 ページ。
周 辺諸国やア ジア太平洋 地域情勢に 影響を与え 続けるだろ う。そ の 「日台関係」に対する重要性は言うまでもない。第 2 次安倍内閣の 下 で「日台関 係」は明ら かに発展し た。中央政 府から地方 自治体 ま で 包括的な交 流が見られ る。安倍首 相が何度か 台湾を大切 な友人 だ と 発言したこ とで、それ まで台湾と の外交でネ ックだった いわゆ る 「台湾問題」は鳴りを潜め、「日台関係」は新段階へと突入した。 本稿の分析を総合的に観察してみると、第 2 次安倍内閣の「積極 的平和主義」における「日台関係」の現状と展望は 4 つにまとめる ことができる。1 つ目は「集団的自衛権」の行使容認により、今後自 衛隊は「台湾海峡問題」に介入する主体的な要因となる73。無論自衛 隊 が台湾の防 衛に協力す るか否かは アメリカの 態度次第で あるが 、 自 衛隊の活動 範囲が広が ったことで 日本が「台 湾海峡問題 」にも 影 響 を及ぼす参 加者となる 可能性もあ り、中国は 東シナ海戦 略にお い て考慮しなければならない要素がさらに複雑になった。2 つ目は「防 衛 装備移転三 原則」が策 定されたこ とで、台湾 の武器調達 および 軍 事 産業協力の 選択肢が広 がったこと である。こ れにより今 後安全 保 障‧防衛政策や国防産業において日台が協力する可能性も出てきた。 実 現の可能性 はアメリカ と中国の態 度によるが 、話題性の 面から 見 て も実務性の 面から見て も、将来軍 事協力戦略 が上手く行 けば、 日 米 台にとって は外交の切 り札となり 、日台間の 外交と戦略 展開の 幅 は拡大する。3 つ目は、安倍首相が 2 度目の首相に就任した後、「日 台 民間漁業取 決め」をは じめ多くの 協力協定が 結ばれ、日 台関係 が 大 いに発展し たことであ る。日本の メディアは 安倍首相が 台湾は 日 本 の友人だと 発言してか らは、各地 方自治体も 中国の妨害 に気兼 ね す ることなく 台湾との交 流、協力の 強化を始め 、その交流 と協力 は
73 郭育仁「日本的戰略憂慮:新安保法與安倍主義」、頁 7。
継 続している と報じた。 このような 動きは中国 を牽制する 「台湾 カ ー ド」となっ ているよう で、中国の 外交に一定 の牽制作用 を生み 出 している。4 つ目は「新安保法制」が憲法第 9 条に反するとして議論 を巻き起こしていた最中、李登輝と蔡英文が相次いで訪日し、「積極 的 平和主義」 に関連する 政策に対し て肯定的な 評価を与え エール を 送 ったことで ある。この 「新安保法 制」に対す る日本国外 からの 支 持の声は、反対の声とは一線を画する台湾政治指導者の発言として、 国 際政治やメ ディアの間 で注目を浴 び、台湾お よび台湾の 政界リ ー ダーの影響力と存在感を示す形となった。前述した 4 点は中国の外 交 政策にプレ ッシャーを 与え、ひい ては安全保 障戦略にも 変動を 引 き 起こす可能 性があり、 中国の外交 政策或いは 安全保障政 策に影 響 を与える「台湾カ-ド」効果を備えている。 本 稿が分 析し た日本 の学 者、官 僚お よびメ ディ アの「 日台 関係」 に 関する発言 から、日本 は勢いを増 す中国を前 に、周辺国 と利害 一 致を見る分野において協力を強化し、「日台関係」の強化を「台湾カ ード」の主張としていることが分かる。第2 次安倍内閣が発足し「新 安 保法制」が 策定された 後、自衛隊 の役割は「 日米同盟」 のサポ ー ト から世界の 平和の確保 へと広がっ た。台湾海 峡情勢に影 響を及 ぼ す 議題は「日 台関係」の 発展にさら なる可能性 をもたらす だろう 。 ア ジア太平洋 地域情勢の 未来は「積 極的平和主 義」の下、 引き続 き 変 動が予想さ れ、日本は アジア太平 洋地域およ び世界の平 和の確 保 に おいてさら に重要な役 割を果たし ていくこと になるだろ う。台 湾 は 「積極的平 和主義」の 下、いかに より多くの 日台協力機 会を模 索 し てくのか。 日本、台湾 、中国はい かにより広 い視野で未 来を見 据 え 、東アジア における競 争局面にお いて自身の ポジション を獲得 し 利益のバランスを図り、「非対抗の新しい秩序」を見出していくのか。 今、各リーダーの知恵が試されている。