「東浩紀 村上春樹を語る」
:あ、そうだ。「1 Q 84」と言えば、先日、評論家で哲学者の東浩紀さんが「1 Q 84」につい て、こんなお話をされてましたね。
:売れてますよね、「1 Q 84」、すごい勢いで。
:売れてますね。
:あっという間に買って、読みましたけど。なんでこんなに売れてるんですか、まず第一 に。
:いや、これ、分析するまでもなくて、まず第一にこれ、小説が出る前から売れてたわけで すよ。それでもう、いきなり売り切れてたわけで、内容…。
:予約だけってこと?
:んー、予約だけだし、予約だけでアマゾンで 1 万部売れてたんじゃなかったかな、確か。
:うん。
:まあ、つまり、作品の内容とは全く無関係に加熱してたってことですよね。
:なんで加熱したんでしょう?
:まあ、昔から春樹の名前知ってる人からすると、まあ別に春樹って 80 年代から「ノルウ ェイの森」にかけてくらいが絶頂期で、その後どうなったんだっけ、なんか「オウム」に ついてやってたらしいぞ、なんて感じとかなんでしょうけど、逆に全然普通の人からす ると、どんどん知名度上がってるんだと思うんですよね。(世の中的には…)だから、ノー ベル文学賞候補っての、毎年毎年報道されるし…。
:すごい馬鹿な質問ですけど、村上春樹ってのは、なんで世界的に有名になったの?どこ らへんから?
:えっとね、僕もね、それ、どこらへんからって調べてないからわからないんですけど、た だ、あの、よく言われてるのは、春樹っていうのは、とにかく世界中で同じように読まれ る小説だと。つまり、消費社会がある段階まで来ると、大体どこの国でも売れて、例えば、
韓国でもある時期になると春樹が売れる、中国でもある時期になると春樹が売れる、み たいな感じで、消費社会の進展がある段階まで来ると、春樹的物語ってのは受けるって いう、そういうある種のテンプレート(定型的なデータやファイル)として世界中で流通 してるってのは、よく言われることですね。
:おもしろい。
:だから、あの、まあある意味では日本が生み出した初めての世界文学でしょうね、この 作家は。まあ、だから、何て言うかね、その、「1 Q 84」なんてまだけっこう、東京の描写 とかがあって、後あの「ふかえり」っていう少女小説作家の芥川賞受賞の顛末とか、まあ すごい日本のドメスティックな話ですけど、村上春樹の文学って、なるべく無国籍且つ なるべく匿名的に、彼は物語の空間を作ってたわけですよね。特に初期の頃は。「ノルウ ェイの森」が、初めてなんかそれこそ固有名として主人公が出てきた小説だ、長編小説 だって言われてたくらいで、そういう匿名的な都市の寓話みたいなものを志向するって
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いう…、後、決め台詞みたいなもんですよね、もう春樹ってなると決め台詞みたいなも のばっかなわけですよ、なんかそれっぽい深いような浅いような、なんか、後、パスタ作 ったりとか。で、そういう感じの、あの、なんか雰囲気…、だから、あれ、すごい漫画的な んですよ。簡単に言うと。で、その春樹の漫画性っていうのが、まあ、ある種、彼のグロー バル化っていうか、普遍性を支えてるんだと思うんですよ。だから、世界中の人が、日本 人が書いたものだと思わないで読んでいる作家だと思いますね。
:なるほどね。
:例えば、女性のテロリスト。テロリストって言うか、この、女性の…。
:殺し屋ね。
:殺し屋。ああいうところとか、あと、「ふかえり」っていう美少女キャラの設定とかって いうのは、本当にある意味で、その、今の漫画・アニメ的な想像力にすごく近いので、そ れはすごくおもしろいことですね。つまり、村上春樹っていう人が漫画とかアニメを見 てると思わないので、おもしろいんですよ。で、あの、これ、どういうことかって言うと ね、すごい簡単に言うと、日本の漫画とかアニメってのは、春樹の影響がすごくあるわ けですね。一般には知られてないことですけど。
:ええ!?
:つまり、あの、むしろ、日本の純文学作家で唯一、本質的な影響を与えてる作家だと思い ます、日本の漫画とかアニメとかゲームに。だから、春樹から影響を受けた作家たちが 作り上げてきたキャラクター造形と、老境を迎えた春樹が作ったキャラクターが、結局、
こう、元が同じなので、一致してきたってことだと思うんですよ、これ。例えば、その、
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」だったらば、ハードボイルドな現実 世界と、その向こう側にある、突然ポーンと行ってしまう…。
:牧歌的というかね。
:彼方の幻想世界ですよね。あの二項対立っていうのは、基本的には 90 年代の後半から 2000年代にかけてゲームで言われてる〈セカイ系〉っていう言葉があるんですけど、一 群の作品の基本フォーマットは春樹ですからね。だから、春樹は〈セカイ系〉って言われ てるものの起源ですから、例えば。
:今、初めて知りました。〈セカイ系〉って、要するに非常に身近な…。
:身近な恋愛と…。
:世界の終末がリンクしたりするっていうことでしょう?
:で、あれの基本的な、一番最初にはっきりと作品で示されているのが「世界の終りとハ ードボイルド・ワンダーランド」ですね、どう見ても、日本文学史的には。
:すごい。なるほど。
:ただ、これも、さっきから繰り返しているとおり、春樹自体は漫画やアニメの影響なん か受けてないですよ。春樹が勝手に影響与えてるだけですから。
:そうでしょうね。
:だから、ここがすごい重要なところで、例えば、春樹にインタビューとかで、こういうも のがあって起源だって言われてるんですけど、とか言われても、何じゃそりゃ、ってい
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う話になりますよね。
:多分、村上春樹さん、〈セカイ系〉って言葉すら何それって言いそうですよね。
:何だそれって話に…。
:何じゃそれ、って言いそうですよね。
:でも、実は丹念に見ていくと、影響関係ははっきりあるし、構造的にも似てますね。
:なるほどね。
:結局、漫画的とか、アニメ的って人が言う時って何かっていうと、その、例えば、人間を キャラクターの絵にしてしまった瞬間に生々しい肉体とか時代性とか歴史性とか土地 性とかって、消えてしまうわけですよね。
:たしかに。
:で、ただ、春樹って最初からそれを、消える作品を書いてる人ですから、春樹的なものっ ていうのは、漫画とかアニメの表現形態の方に、むしろ親和性が高いんですよ、やっぱ り。ああいう、なんか、匿名的な物語っていうのは、まあね、ここ 10 年、15 年、やっぱ大 衆にはすごい、支持されていくようになってるわけですよね。土地に根差しているって いうよりも、交換可能な自分、交換可能な土地、交換可能な物語、そこで、なんか、展開さ れる泣ける話、そして深そうに見える話みたいなものが、まあ、受けるっていうのが、ま あ、大体大きな傾向で。
:極めて春樹的ですね。
:ええ、で、あの、これはまあ、すごく僕今、大雑把に言ってるので、例外あるじゃないかと かって言おうと思えば言えると思いますけど。これはだからもう、文学だけの話じゃな いですよ。もうアニメーションとかそういったものを全部ひっくるめて、そういうある 種の匿名性とか交換可能な物語みたいな方向に大きく行ってるって僕は思いますね。
:それは例えば、どんな街にもスターバックスがあってっていう、その土着性と違う概念 の中で今の子供たちは育ってきてるじゃないですか。
:おっしゃるとおりです。
:極端なこと言やあ、ホンコン行ったってニューヨーク行ったって…。
:そのとおりです。
:ルースクリスステーキハウスはあるわ、スターバックスコーヒーはあるわって…。
:そのとおりですね、本当に。
:それも、だから今、ロンドンとか、あの、ニューヨークとかっていう例を出すと、それは 高額所得者だけだろうっとかって思うと、またこれが違ってて、例えば日本の国内だっ たら、それをジャスコが担ってるわけですよね。
:ああ、はいはいはい。
:どこに行ってもジャスコがある。
:確かにね。
:これはもう、実際もうよく言われている話で、つまりもうジャスコ世代みたいな人たち がいてですね、彼らはその、まず、物心ついた時、ジャスコがあって、子供の頃は親がジ ャスコに連れてってくれて、ジャスコでおもちゃ買って、中学生になったら、ジャスコ
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で屯って、ジャスコでデートして、ジャスコで遊んで、そして育ってるわけで、そういう 人たちは本当に東京とか出てきてもジャスコ見るとほっとするらしいわけですよ。
:同じでしょう?
:同じだからね。だから、あの、日本中どこにでもある、なんか、プチ故郷みたいなものが、
ジャスコという形であるわけですよ。で、こういう感受性っていうのは、その、高額所得 者から低額所得者まで、ブランド名が違うだけで、けっこう同じなんですよね、今。
:わかる気がする。
:だから、あの、消費社会が作ってしまった、土地とか土地を横断したなんかある種普遍 的なテンプレートみたいなものがあって、そのテンプレートこそが彼らにとってのオリ ジナリティーになっていると。だから、そうすると、結局、その、土地に根差した物語、土 地の固有性とか時代の固有性っていうよりも、むしろその匿名性の空間の方がリアルに なるわけですよね。
:そういうことか。
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