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第四章、 非意図的な他動詞文の多義性と制約

4.3 外項と受身化の制約 . .

今まで見てきたように、非意図的な他動詞文は分類の傾向として三つのタイ プがあり、それぞれ「他動的」、「自発的」、「受動的」の意味合いを含んでいる。

また、このような多様性を示していると同時に、各タイプのもつ制限も一様で はないと考える。以上のことを踏まえて、本節では、外項との関係をめぐり、

非意図的な他動詞文が受身化55する制約について論じたいと思う。

まずこれから言及する外項というのは、動作主か意味上の主語の役割を担う ものである。項構造の中では、<x <y>>の“x”で外項を表現していて、

語彙概念構造では、上位事象である[x ACT (ON y)]や[x control …]

などに現れる主語“x”が外項に相当する。一般的な他動詞文においてはガ格 名詞いわゆる主語が外項となり(目的語が内項となる)、常に動作主として機 能しているが、非意図的な他動詞文では、タイプごとによって性質が変わって いる。また、<Burzio の一般化>による“外項を取る動詞は目的語に対格を 与えることができる”という概念から逆に考えると、対格の有する他動詞文が 外項を持つことになる。

さて、非意図的な他動詞文の場合はいったいどうなのか。影山(2002:140)

は受身化との成り立ちに関して、『目的語の存在と受身化の成否とは、切り離 して考えることが必要になる。目的語が現れるかどうかは対格の付与という

「格」の問題であり、受身化できるかどうかは外項の有無に関わっている。56』 と述べているが、筆者はそれについて説明がまだ足りないと思われる。実際非 意図的な他動詞文においては、外項があるものの、受身化できない例は尐なく なく見られる。例えば、「彼が足を折った。」→「?足が彼に折られた。」、「彼 女が涙を流した。」→「?涙が彼女に流された。」などである。

以下では、各タイプの例を挙げ、外項と受身化との関わりを見て検証してい きたい。(統語的な受身としては、外項を付加詞「~に/~によって」に格下げ することができるから、その点についてチェックする。)

「A-1 タイプ」X≠Y

55 ここでの「受身」は主に「直接受身」を指しているが、場合によって「間接受身」も入れ て考慮する。

56 林(2008)では、筆者と同じく影山氏の説明が不十分であると述べていて、さらに「外項 の有無」を「意志性を持つ外項の有無」と修正した。が、筆者はそれだけで「彼がうっかり 花瓶を割った」という意志性を持たない外項である例に当たっては、解釈しにくいから、ま だ改正する余地があると思う。

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(42)(非意図)長男が誤って近所の家のガラスを割った。

⇒(受身化)近所のガラスが長男によって割られた。

(43)(非意図)僕が思わず弟を殴った。

(http://ashiyasei.seesaa.net/article/134461605.html)

⇒(受身化)弟が僕に殴られた。

(44)(非意図)裁判がファールを見逃した。

⇒(受身化)試合中彼はバルセロナの DF エリック・アビダルに対してレッ ドカードで退場を命じたこと、さらにチェルシーの主張によれば合計 4 回のペナルティー・キックに相当するファールが見逃されたことが強く批 判された。(http://www.goal.com/jp/news/1867/)

(45)(非意図)読影者が病変を見逃した。

⇒(受身化)他に,CAD の併用で CTC によるポリープ検出能が向上し,読 影時間の短縮効果が得られるとする報告や,CAD が検出していながら読影 者によって見逃された病変を検討した報告が興味深く思われました。

(http://medicsight.co.jp/world_events/20091222_RSNA2009.html)

「A-2 タイプ」X≠Y X⊃Y

(46)(非意図)女性が足の骨を折った。

⇒?(直接受身)足の骨が女性によって折られた。

(47)(非意図)消防隊員2人が左手の指を切った。

⇒?(直接受身)左手の指が消防隊員2人によって切られた。57

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「B-1 タイプ」X⊃Y 発生

(48)(非意図)娘が高熱を出した。

⇒*(直接受身)高熱が娘に出された。

(49)(非意図)ボランティアが汗を流した。

⇒*(直接受身)汗がボランティアに流された。

57 ただし、A-2 の場合は文の中に「不注意で」などを書き加えることで、以下のように受身文 としての許容度が上がることも見られる。例えば、

(46a)自分(女性)の不注意で、足の骨が折られた。

(47a)自分(消防隊員)の不注意で、左手の指が切られた。

A-2 は強いて言えば、A-1 と B、C タイプの間にある中間的なものなので、受身化の可能性 においては両方の傾向を兼ね、状況に応じ揺れが存在しているともいえる。この点については、

さらなる検討する余地があると考える。

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(50)(非意図)僕が鳥肌を立てた。

⇒*(直接受身)鳥肌が僕に立てられた。

「B-2 タイプ」X⊃Y 消失

(51)(非意図)美香は言葉を失くした。

⇒*(直接受身) 言葉が美香に/によって失くされた。

(52)(非意図) 彼は 9 歲の頃自転車から落ちて 5 分ほど意識を失った。

⇒*(直接受身) 意識が彼に/によって失われた。

(53)(非意図)私は父を亡くした。

⇒*(直接受身) 父が私に/によって亡くされた。

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「C タイプ」

(54)私たちは空襲で家財道具を焼いた。

⇒*(直接受身)家財道具が私たちに/によって焼かれた。

⇒ (間接受身)私たちは空襲で/によって家財道具を焼かれた。

(55)勇二は教師に殴られて前歯を折った。

⇒*(直接受身)前歯が勇二に/によって折られた。

⇒ (間接受身) 勇二は教師によって前歯を折られた。

(56)僕は地震で駐車場の車を壊した。

⇒*(直接受身) 車が僕に壊された。

⇒ (間接受身) 僕は地震によって車を壊された。

(57)陽子は風で帽子を飛ばした。

⇒*(直接受身)帽子が陽子に/によって飛ばされた。

⇒ (間接受身)陽子は風によって帽子を飛ばされた。

以上からわかるのは、非意図的な他動詞文においては、A-1 の場合を除いて ほとんど直接受身にならないということである。しかしその中には、C タイプ だけはある程度に間接受身が許容されて、被害的な意味を呈している。そのよ うな差異が出てくる理由は、まず事象の主語いわゆる外項の性質によって決め られると考える。それぞれ既に前の分類に触れたものであるので、ここで簡潔 に非意図的な他動詞文の主語を次の表にまとめた。

(58)

統語構造ガ格に現れる主語 x

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A 動作主(=外項)

B 動作主ではない(経験者)。意味上の主語として作用している。(=外項 C 動作主ではない(経験者)。意味上の主語として作用しているが、

実質の外項は「地震、空襲…」などの外在原因事象(の主語)によるもの。

したがって、A のように(実質 A-1 のみ)外項は動作主であるとき、直接 受身化が可能であるといってもよいと思われる。が、A-2 の場合は同じく外 項が動作主という条件を満たしつつ、実際受身ができないものである。それ はなぜなら、A-1 と比べれば、A-2 以降のタイプ(B、C を含む)は例外なく ガ格(主語)とヲ格(目的語)が“全体部分の関係”を持つことである。それに よって A-2 と B タイプは、事象の流れにおいてヲ格名詞に働きかけることが 自分(ガ格)に戻り、再帰的に見える。事象全体が自動詞的な意味を表して いるので、受身にならないわけである。それに対し、C の場合はやや違う。C においては、事象を起こす実質の外項が通常外在原因として存在し、さらに 統語構造に現れるヲ格(目的語)との間に“全体部分の関係”を持たない。

ゆえに、A-2 と B の事象と違って他動的な事象を成していて、受身の可能性 も考えられる。しかし、実際統語上に出現する主語はただ見せかけ経験者で あるから、直接受身に当然できない。(そもそも事象に参与しない点から考え ても、それが成り立たない)逆にヲ格名詞との関連性によって、間接的に影 響を与えられ、間接受身ができるわけである。

以上述べたことは、次のようにまとめることができる。非意図的な他動詞 文の(直接)受身化できるかどうかは、「意志性を持つ外項の有無」58(外項 のない場合は当然できないが、元々意志性を持たない無情物の外項もできな い。59)以外に、「全体部分関係」も関わっているということを言っておきた い60

58 林(2008:47)を参照する。

59 一般に日本語の使役構文では無情物いわゆる「無生物主語」が成り立ちにくいといわれる が、影山(1996)は次のように-AS-、-OS-という使役化接辞をもつ他動詞文が可能であると述 べている。よって、この場合での受身化も考えられる。「無生物主語文」(-OS-、起こす):

(非意図)間違い電話が僕を起こした。(受身化)間違い電話に僕が起こされた。

60仁田(1982)はすでに再帰構文という概念を提出していて、このような他動詞文が主体から 発した働きかけの影響が結局は主体そのものに戻り、主体の動きを表すものであるという点に おいて、自動詞文と類似性があると主張している。故に、まともの受身(直接受身)もできな いわけである。天野(1987)も仁田の主張を取り組み、以下のような条件の場合における他動 詞文が直接受身と対応しないと述べた。それぞれは、①再帰構文の場合②まともの受身文のガ 格名詞が無生名詞になる場合③経験者 a がガ格の文の場合。④状態変化主体他動詞文の場合。