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第二章、 非意図的な他動詞文の認定

2.2 典型的な他動詞文の定義

2.2.3 他動性の意味特徴から

2.2.3.3 山梨正明(1995)

山梨(1995)も、H&Tで提案されている他動性の基準に沿っている が、H&Tの「肯定性」と「アスペクト」などのパラメータは自・他動詞構 文の相互関係の規定には直接的には関係しないと述べている。それを除いて、

プロトタイプの観点からみた自・他動詞構文の規定としては、次のA,Bが 可能であると主張している。16

A、<他動詞構文のプロトタイプ>

①内在項が2つ存在する。(基本的には、主体と対象)

②a.主体:能動的、意図的、有生の動作主 b.対象:被動作主

③行為の影響は直接的

④変化は瞬時的、実現的、完結的 ⑤一次的責任:動作主

⑥単一事象的

B、<自動詞構文のプロトタイプ>

①内在項が1つが存在する(基本的には、対象)

②対象:被動作主

③変化は自律的、内在的 ④一次的責任:被動作主 ⑤単一事象的

2.2.4 LCS と事象の意味構造の観点から 2.2.4.1 影山太郎(1996)(2009)

影山(1996)は Vendler(1967)の動詞4分類17を語彙概念構造の概念に

16 山梨は、ABの規定は自他動詞構文のプロトタイプの絶対的な基準ではないが、日常言語 のさまざまな構文の他動性自動性を考察していくための1つの目安であると述べている。

17 Vendler(1967)は、動詞を①状態動詞②到達動詞③活動動詞④達成動詞という四種類に分 類している。それぞれの意味は以下のようである。

15

より、自動詞・他動詞の分類に対応して、図②のような1つの動詞が表し得 る事象の全体を示した語彙概念構造と提案している。(影山 2002:120 より)

そして、その中の“ACT”のある活動動詞を非能格動詞とし、状態・到達(変 化)動詞を非対格動詞と称していて、 “ACT ON”をもつ活動動詞を働きか け他動詞とし、達成動詞を状態変化他動詞(使役変化動詞)と名付けている。

(下線筆者)

図②18

動詞の分類、自他動詞の対応とそれぞれのもつ語彙概念構造を整理してみ ると、以下の(23)(24)のようになる。

(23)動詞の分類と自他対応:

自動詞 他動詞 | |

上位事象のみ :〈非能格動詞〉 働きかけ動詞 下位事象のみ :〈非対格動詞〉

上位+下位事象: 使役他動詞

①状態動詞(state):時間的な制限に縛られない恒常的な状態を意味する。(know など)

②到達動詞(achievement):なんらかの目標(状態)に至るという行為の終了点を重点的に 述べる動詞である。(recognize、spot など)

③活動動詞(activities):意図的に開始したり終了したりできる行為を表し、進行形をつける と、その活動が目下、継続中であることを意味する。(run、walk など)

④達成動詞(accomplishments):なんらかの活動の結果、最終的な目標(状態)に至ることを 意味する。(paint a picture、make a chair など)

18“?”クエスチョン部分だけ自他の対応関係が欠落しているということは、影山によりこの 部分に相当する「他動詞」を「非対格他動詞」と呼ばれ、日本語にも英語にも存在することと 述べられている。

16

(25a)行為連鎖による事象の意味構造

<行為> → <変化> → <状態>

父が包丁の刃を スイカに切れ目 スイカが真っ二 スイカに当てて ができでくる つの状態になる 力を加える

(24)自他動詞の語彙概念構造:

自動詞:

非能格動詞 [x ACT]

非対格動詞 [(y) BECOME[ y BE AT-z]]

他動詞:

働きかけ他動詞 [x ACT ON-y]

使役変化他動詞 [x ACT ON-y] CAUSE[y BECOME[STATE y BE AT-z]]]

また、影山は事象の意味を扱うために、意味構造としてさらに行為連鎖

(action chain)を用いて分析している。たとえば、次の例には文の意味が次 のように分解できることが見られる。

(25)父が包丁でスイカを真っ二つに切った。

つまり「切る」という動作を<行為>→<変化>→<状態>という連鎖過程 でとらえることができる。影山は、こうように事象を<行為>、<変化>、<

状態>という三つの局面に分けることのは、単に「切る」という単語の意味を わかりやすく表すためだけではなく、統語上や副詞の修飾関係なども明確に説 明することができるからである。例えば、(25b)のように、

「包丁で」と「真っ二つに」は同じ副詞であるが、意味構造の中で異なる修飾 位置を表している。また、「切る」とは違って、「たたく」のような動詞は<行 為>しかもたないから、「スイカをたたく」という事象には結果状態を表す副 詞が出現しないわけである。例えば、次のようになる。

(25b)包丁でスイカを真っ二つに切る

<行為> → <変化> → <状態>

↑ ↑

「包丁で」 「真っ二つに」

(道具) (結果状態)

17

18

小柳により、以下の三つの分類が挙げられる。

<A> 意味論的には自動詞なのに他動詞文になるもの。

Ex: 太郎が腕を折った。(=小柳 2008:47)

Ex: 私は、落雷で家を焼いた。(=天野 1991:196)

<B> 形態論的には自動詞なのに他動詞文19になるもの。

Ex:与太郎が口をあいて寝ている。

与太郎が口をあけて寝ている。(=須賀 1981:)

<C> 実際の動作主を無視する他動詞文20が成立するもの。

Ex:田中さんが虫歯を抜いた。(=小柳 2008:47)

筆者は、本研究の目的とする非意図的な他動詞文を小柳が提案した<A>タ イプの下位に属するものと考えるが、意図性に関与する事象を中心にするとい う点においては異なる分析を行うのではないかと思われる。また、今の段階で 意味的に自動詞的な他動詞文以外は、本研究の検討対象外となる。次は非意図 的事象に関わる先行研究を紹介していきたいと思う。

2.4 非意図的な他動詞文 2.4.1 先行研究

非意図的事象は他動詞構文で言語化された状況において、主に「所有」概念 に求めるのと「責任」概念に求めるのという二つの異なる説が見られる。し かし、次は従来各説に関する先行研究を取り上げ、さらに検討していきたい と思う。

2.4.1.1 密接関係の「所有」説:天野みどり(1995)佐藤琢三(2005)

19このタイプには、以下の三つの場合が見られる。

① 有対自動詞で、同じ形の自動詞がヲ格目的語を取る場合 EX:「口ヲ あける /口ヲ あく(-口ガ あく)」など

② 自他両用動詞で、同じ形の動詞がヲ格目的語を取る場合 EX:「(仕事が)危険ヲ伴う/(仕事に)危険ガ伴う」など

③ 複他動詞と単他動詞の関係にある動詞で単他動詞がヲ格目的語をとる場合。

EX: 山田さんは鈴木先生に英語 ヲ教わった。 「ヲ 教わる /ヲ 教える」

山田さんはコート ヲ着た。 「ヲ 着る /ヲ 着せる」

(奥津(1967:60~61)は「教える」に対する「教わる」を「複他動詞の自動化」、「着 る」に対する「着せる」を「単他動詞の他動化」と名づけ、さらに複他動詞のほうが3項 述語で、単他動詞のほうが2項述語をもつと述べている。)

20佐藤(1994)が「介在性の表現」と呼んだものである。

19

(27)私たちは空襲で家財道具を焼いた。

天野(1995)

天野(1995)は例(25)のような文を、述語の他動詞がヲ格をとるという 他動詞の形態を持つにも拘らず、自動詞の働きに近いと見なし、さらに「他 動詞文の形式を備えながら、ガ格名詞が動きの引き起こし手ではなく21、他 者の力によって、ある状態へと変化する主体を表す文である。」と定義して、

主体から客体への働きかけの意味を持たない他動詞文を状態変化主主体の 他動詞文と呼んでいる。つまり、これらの文の特徴は意図性を持たず、構文 から見ると一般の他動詞文とは区別しがたい。

また、天野(2002)は「状態変化主体他動詞文」の成立条件として、次の ことを挙げている。

(Ⅰ)a.述語の他動詞が主体の動きと客体の変化の両方の意味を表し、主体 の意志性を無化することが可能な動詞である。

b.事態の直接の引き起こし手を言語的に明示することが可能である。

(Ⅱ)ガ格名詞句とヲ格名詞句が密接な意味的関係を持つと解釈されなけれ ばならない。

佐藤(2005)は天野が提出したの二つの制約について、(Ⅰa)における「述 語の他動詞が主体の動きと客体の変化の両方の意味」を表す動詞を変化他動 詞と考えている。また、「主体の意志性を無化すること」というのは意志性 が弱い動詞であることと解釈し、例えば「殺す」などの動詞はこのタイプの 文にならないと述べる。しかし、実際佐藤は「あやまって殺した」といった 言い方が何ら不自然な文ではないとして、反例を挙げ、その意志性の強弱を 認定する根拠は不明であるとも主張している。

(Ⅰb)の場合は、例(25)における「空襲で」といった原因を表す部分を 明示することが可能である。さらに、(Ⅱ)における「密接な意味的関係」

の制約とは「Y の変化が X にも影響を及ぼし X 自身の変化を招くような、密 接な関係にあると解釈されうるもの」(X はガ格名詞句、Y はヲ格名詞句)(天 野氏によると、主体 X と客体 Y は『ある事態を所有する』という意味をもつ 全体部分の関係になければならない)ということである。故に、次の例(28)

21経験者主体である。

20

(29)は成立するが、(30)は非文になるわけである。

(28) 勇二は教師に殴られて前歯を折った。

(29) 気の毐にも、田中さんは昨日の台風で屋根を飛ばしたそうだ。

(天野 1995)

例(28)の「前歯」は「勇二」の「前歯」で、(29)の「屋根」は「田中さ ん」の所有物である。両者の場合友を書く名詞句(Y)の変化ガが書く名詞 句(X)の状態変化を招く。

(30)*尾川氏は落雷で木を焼いた。

(天野 2002)

天野氏によると、例(30)が成立しないのは、X である「尾川氏」と Y で

天野氏によると、例(30)が成立しないのは、X である「尾川氏」と Y で