非意志性他動詞句之分析-從多義性與限制的觀點探討分類法- - 政大學術集成
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(2) 謝辭 2008 年的 7 月某天,我身處在政治大學憩賢樓 2F 的餐廳內。那天是第 一次的導生聚餐,一群未來的新生們個個帶著有點緊張的感覺,輪流地向老 師介紹著各自的方向以及目標。而當輪到我的時後,才清楚地意識到,我即 將是政大日研所的一份子了。2005 年從東吳大學日文系畢業後,苦苦等待 了半年好不容易得以入伍朋役,卻因退伍時間衝突而趕不上該年研究所的考 試,直到隔年才能如願報考。這中間整整隔了 3 年,脫離了書本的空白、遠 離了學生的感覺,讓當時剛開始研究生生活的我,對自己能否順利畢業,充 滿著懷疑、焦慮跟不安。但是,至尐我想證明自己是可以做到的,即使要多 花一點時間,多繞一點遠路。若是沒有當初這股堅持,我想今天就沒有在這 裡寫謝辭的自己了吧! 在這裡首先我要感謝的是東吳大學的王世和老師跟林文賢老師。王老師 曾經是我大學的導師,當時就已接受老師的諸多指導,而在論文審查時更給 我了許多寶貴的意見,帶給我很大的鼓舞。而林老師,則是我透過跨校選修 機制,而有幸能夠接受老師的指導,雖然只有短短一學期,卻讓我得到了很 多未來可能的方向。 再來我要感謝政治大學的老師們,首先是王淑琴老師。雖然到了研究所 2 年級才有機會開始上王老師的課,但透過老師所教導給我們的 CORPUS 相 關資訊,對我在撰寫論文中的例句收集有著很大的幫助。接著我要感謝吉田 老師,在研究所這幾年來,吉田老師雖然嚴厲但是教學認真,比誰都關心學 生們的課業,對於大家的問題點也都將之仔細地修正,給予了我們正確的研 究方向。還有我要感謝我的指導老師,蘇文郎老師。從進研究所之後,大部 分的課程都在蘇老師的指導之下度過,實是受益良多。承蒙老師的不嫌棄, 願意擔任我的指導老師,在往後的每次討論裡不斷地給我意見,同時也給予 了我很大的空間去發揮,讓我能寫出自己想要的內容。此外,還有日文系所 裡我所認識的每一位老師,感謝您們的支持跟鼓勵,增加了我繼續下去的動 力。 另外,我要感謝每位學長姐、同學以及學弟妹們,在這三年中說長不長 說短不短,能夠認識你們,是我的榮幸、也是我的福氣。在那些日子裡,偶 爾與大家在研究生室聊天談心,或是一同參加各大大小小研討會、熬夜為報 告跟論文打拼,甚至是一起唱歌出遊的體驗,每一個都令人永生難忘。最後, 感謝我的家人,願意耐心地等我到完成學業,還要感謝一個人,謝謝妳的支 持跟鼓勵,很多事情有妳才完整,希望妳也能夠順順利利,達成理想中的目 標。 最後的最後,感謝每一位撥冗閱讀此論文的您。.
(3) 非意志性他動詞句之分析-從多義性與限制的觀點探討分類法摘要 本論文旨在研究日語非意志性他動詞句之多義性、限制以及其分類基準的依 據。研究方法主要以「他動性原型」的概念,對非意志性他動詞句所擁有的事象 流程進行分析及分類。再以「語彙概念構造」(LCS)比較各類別之差異,並檢證 非意志性他動詞句所存在的連續性。 本文共分為五章。第一章為緒論,簡述本論文所使用的研究方法。第二章則是 從典型的他動詞句跟非意志性他動詞句的之過往相關文獻進行研究,並針對其分 析提出尚未解決的問題。在第三章裡,以因果關係的觀點說明非意志性他動詞句 所擁有的事象連鎖過程。並透過他動性特徵的「意志性」「制御性」「受影性」 ,區別並分類日語的非意志性他動詞句。在第四章,則是以「語彙概念構造」進 一步對第三章導出的分類基準進行檢證,並分析非意志性他動詞句所帶有的多義 性和連續性。最後第五章為結論。 在過去多數的研究裡,對於有著多樣性質的日語非意志性他動詞句往往不多加 以區分,均將之視為同一種現象。而本文則是為了檢證其多義性的存在,藉由他 動性原型和語彙概念構造的種種分析,說明了日語非意志性他動詞句在性質上亦 可分為三種類別。 關鍵字: 他動性原型、意志性、制御性、受影性、LCS、因果関係、事象構造、 多義性、連續性.
(4) 非意図的な他動詞文についての研究 ―多義性と制約から分類へ― 要約 本論の目的は、日本語の非意図的な他動詞文の分類の基準、制約さらに多義 性を研究することである。本稿では、方法論として他動性プロトタイプと語彙 概念構造に基づいて、非意図的な他動詞文が持つ事象過程、区別および連続性 と下位分類を明らかにする。 本稿は 5 章で構成される。まず、第一章は序論で、使用する方法論を述べる。 第二章「非意図的な他動詞文の認定」においては、まず典型的な他動詞文と非 意図的な他動詞文の認定に関する先行研究を検討し、さらに問題点と筆者によ る定義を提出する。第三章「非意図的な他動詞文の事象連鎖による分類」にお いては、因果関係の観点から非意図的な他動詞文が有する事象連鎖を論じ、ま た、他動性特徴の「意図性」 「コントロール性」 「受影性」という概念を用いて、 非意図的な他動詞文の下位分類をする。第四章「非意図的な他動詞文の多義性 と制約」においては、語彙概念構造により第三章で得た分類をさらに検証し、 非意図的な他動詞文の多義性・受身化および連続性を分析する。最後の第五章 は結論である。 従来の研究では、日本語の非意図的な他動詞文は異なる性質を持つものの、 すべて区別なく同一ものと見なされている。本稿では、その多義性を検証する ために、他動性プロトタイプと語彙概念構造の概念で一連の分析をし、非意図 的な他動詞文が三つのタイプに分類されることを明らかにした。 キーワード:他動性プロトタイプ、意図性、コントロール性、受影性、語彙 概念構造、因果関係、事象構造、多義性、連続性.
(5) 目次 第一章、序論 1.1 研究の動機と目的..............................................01 1.2 研究方法と範囲................................................02 1.2.1 プロトタイプ論と他動性.....................................02 1.2.2 語彙概念構造...............................................03 1.3 本研究の構成..................................................04 第二章、非意図的な他動詞文の認定 2.1 はじめに......................................................05 2.2 典型的な他動詞文の定義........................................06 2.2.1 ヲ格の有無.................................................06 2.2.1.1. 奥津敬一郎(1967)......................................06. 2.2.1.2. 森田良行(1987)........................................06. 2.2.2 受身化するかどうか.........................................07 2.2.2.1. 三上章(1972)..........................................07. 2.2.2.2. 寺村秀夫(1982)........................................08. 2.2.3 他動性の意味特徴から.......................................08 2.2.3.1. ウェスリー・M・ヤコブセン(1989).......................08. 2.2.3.2. 角田大作(1991、2007)..................................10. 2.2.3.3. 山梨正明(1995)........................................14. 2.2.4 LCSと事象の意味構造の観点から...........................14 2.2.4.1. 影山太郎(1996)(2009).................................14. 2.3 非典型的な他動詞文の定義......................................17 2.4 非意図的な他動詞文............................................18 2.4.1 先行研究と問題点..........................................18 2.4.1.1. 密接関係の「所有」説:天野みどり(1995)佐藤琢三(2005)...18. 2.4.1.2. 因果関係の「責任」説:中右(1998)..........................20. 2.5 本研究における非意図的他動詞文の条件設定......................22 2.6 従来の研究にける問題点........................................23 2.7 おわりに......................................................28 第三章、非意図的な他動詞文の事象連鎖による分類 3.1 はじめに......................................................29.
(6) 3.2. 非意図的他動詞の事象連鎖が持つ他動性の意味特徴について........30. 3.2.1. 動作主のプロトタイプからの拡張............................30. 3.2.2. <意志性>、<コントロール性>と<受影性>にする理由......31. 3.2.3 意志性と受影性の二段階性についての再検討..................34 3.2.4 意志性とコントロール性の位置づけ..........................35 3.3 非意図的な他動詞事象における連鎖過程の分類....................38 3.3.1. Aタイプ「事象引き起こし手+、コントロール性+」..........42. 3.3.2. Bタイプ「事象引き起こし手+、コントロール性-」..........45. 3.3.3. Cタイプ「事象引き起こし手-、コントロール性-」..........50. 3.4. おわりに......................................................54. 第四章、非意図的な他動詞文の多義性と制約 4.1 はじめに......................................................55 4.2 非意図的な他動詞文の LCS と項構造による分析....................55 4.2.1. コントロール性と CONTROL の対照............................56. 4.2.1.1. 両者を取り上げる理由..................................56. 4.2.1.2. 基本義の対照..........................................56. 4.2.2. 外項による分類............................................58. 4.2.2.1. 他動的Aタイプ:外項=動作主..........................58. 4.2.2.1.1. ガ格が動作主であるA-1............................59. 4.2.2.1.2. ガ格が動作主であるA-2............................63. 4.2.2.2. 自発的Bタイプ:外項=単純な経験者.....................65. 4.2.2.2.1. B-1 タイプ:対象の「発生」........................65. 4.2.2.2.2. B-2 タイプ:ヲ格の「消失」........................69. 4.2.2.3 4.2.3. 受動的Cタイプ:外項=みせかけの経験者.................71. LCSと事象過程による比較................................74. 4.3 外項と受身化の制約............................................77 4.4 非意図的な他動詞文が拡張過程による連続性......................81 4.5. おわりに......................................................85. 第五章、結論 5.1 日本語の非意図的な他動詞文について............................87 5.2 今後の課題....................................................89 参考文献...........................................................91.
(7) 第一章. 序論. 本論の目的は、日本語の非意図的な他動詞文の分類の基準、制約さらに多義 性を研究することである。本章では、専らに研究の目的、範囲と方法論につい て述べる。 1.1 研究の動機と目的 英語などの「スル型」言語に対し、日本語は「ナル型」言語であることが一 般に知られている。それは、日本語では事物において「おのずから然る」よう に表現しようとする傾向があるからである。この場合に(1)(2)のように、 よく自動詞を使用して、行為者などが現れず、物事が自然に発生するような表 現が見られる。 (1) 出発の日が決まった。 (1a)We have decided date of our departure. (2) メリルと友達になった。 (2a)I`ve made friends with Meryl. (影山 1996:9) しかし、こういった自動詞表現を好む日本語1が非意図的な事象を表す文に おいては、ヲ格を取る他動詞構文で表現することがある。例えば、以下の例の ようである。 (3) 私たちは空襲で家財道具を焼いた。 (4) 勇二は教師に殴られて前歯を折った。 (天野 1987:151) (5) 子どもが急に熱を出した。 (「届け出ハンドブック: 手続きだけでお金がもらえる!」 PHP 研究所) これらの例は、意味的に他動詞というよりも、実に自動詞に近いといっても よいと思われる。統語上からすれば、次のように自動詞と対応する形態を持つ ことが観察できる。. 1. 影山(1996)を参照のこと 1.
(8) (3a)私たちは空襲で家財道具が焼けた。 (4a)勇二は教師に殴られて前歯が折れた。 (5a)子どもが急に熱が出た。 それは、一般の他動詞文の場合と違って、このような文においては、ガ格で 表示される名詞は意図性を持つ動作主(Agent)2ではなく、意図性を持たない 経験者(Experiencer)の一種と見なすべきだと思われるからである。 日本語では、こういった非意図的な事象は統語的には典型的な他動詞文と同 じ形態を持つことがあるが、意味的な側面から見れば、他動性のプロトタイプ 3. から逸脱した非典型的なメンバーの一員であると見なされている。これらの事. 象は何故他動詞文で表示することができるのか、つまり、非意図的な他動詞文は. 典型的なプロセスに反しているゆえ、他動詞構文を選ぶのは必ず何かの理由や 関係性があるはずである。したがって、本研究では、それについて疑問を抱き ながら、主としてヲ格をとる非意図性他動詞文の現象を考察し、再分類を試み たいと思う。さらに非意図的事象の多義性を比較することによって、一般化の 規則を見出し、非母語日本語習得者が他動詞文の種類を見分けることに役に立 てたいと望む。 1.2 研究方法と範囲 本研究では、非意図的な他動詞文について、主に2つの方法論の観点を導入 して、考察していきたいと思う。 1.2.1 プロトタイプ論と他動性 まず 1 つ目はプロトタイプ論と他動性の観点である。プロトタイプという のは、あるカテゴリーの中において、もっとも代表的な事例(あるいは成員) と呼ばれるものである。物事を中心となるプロトタイプから周辺事例まで広 がる考え方はプロトタイプ理論(prototype theory)である。他動詞の場合 から見れば、プロトタイプの位置に据えるのは通常、他動性の高い表現4で ある。これにしたがえば、非意図的な他動詞文は、プロトタイプいわゆる典. 2. 井上(1976)は他動詞文の主体の基底の格を(1)動作主、(2)原因、(3)経験者の三つに 分類している。 3 ヤコブセン(1989)は、他動性プロトタイプのアプローチにおいては、他動性は連続的に表 れ、動作主性や意図性が高ければ高いほど他動詞文に、逆に低ければ低いほど自動詞文になり やすいと主張している。 4 学説によって違う見方はあるが、ここの場合では、暫く吉村(2004)の定義に従え、(ⅰ) 出来事への参与者が2つ以上(ⅱ)ひとつの参与者が意図をもち(ⅲ)はたらきかけ、ないし は動作を、もうひとつの参与者に対して行い(ⅳ)状態変化が明らかである。ということを指 すものである。 2.
(9) 型的な他動詞文から拡張され、意図性を含める他動性特徴をいくつか喪失す る周辺的な成員であることがわかる。そして、その拡張する過程は一様なプ ロセスではなく、多岐的であると考えられるから、ここで認知言語学で他動 性に関連する概念として Langacker(1991)による「アクション・チェーン」 (action chian)などの行為連鎖5を参考にし、非意図的な他動詞文がもつ 事象構造を、従来の二段階性の因果関係6(cause-and-effect relationship) にコントロール性を加える概念で、非意図的な他動詞文の類型、多義性と他 動性の階層性を分析しようとする。 1.2.2 語彙概念構造 もうひとつは語彙概念構造7(Lexical Conceptual Structure)の概念で ある。語彙概念構造とは、1970 年代の生成意味論から Jackendoff などの学 者により、発展させた意味理論で、動詞の意味構造と統語構造の関連性を分 析するために用いられるものである。語彙概念構造においては、意味述語(意 味関数)と x,y,z などの変項によって表示される。意味述語の表記また概念 構造の表し方は各学者によって異なっているが、基本的に影山(1996、1999、 2000)の表記に従い、その表示方式を用いる。また、状態を表す“BE”、変 化(位置変化と状態変化を含む)を表す“BECOME”、活動を表す“ACT”、上 下位事象を結合する使役を表す“CAUSE”の四つを基本としているが、状況 に応じて他の意味述語も見られる。さらに影山は「行為→変化→結果状態」 という行為連鎖を(6)のように公式化し、(7)の語彙概念構造の基本形を 挙げている。 (6). [x ACT (ON y)] CAUSE [(y)BECOME [y BE AT-z]]. <行為>. →. <変化> → <結果状態>. (7)語彙概念構造の基本形: a.状態(state)(アル型) [y BE AT-z] b.動き(ナル型) 1.変化(change) [BECOME[y BE AT-z]] 2.移動(motion) 5. Croft(1991)は使役連鎖(causal chain)と称する。それらは総称的にビリヤードモデル (billiard-ball model)と呼ばれている。 6 認知言語学においては因果関係が原因(=動作主-行為)と結果(=対象-状態変化)とい う推移を表すが、筆者はその間にコントロール性を入れて考慮すべきだと主張したい。 7 影山(1996)は「動詞が表す概念的な意味を抽象的な述語概念で表示した構造」と定義して いる。 3.
(10) [y. MOVE. VIA-z]. c.活動(activity)(スル型) [x ACT ON-y] d.使役(causation) [x ACT (ON y)] CAUSE [(y)BECOME [y BE AT-z]] 本研究では、他動性の特徴から導かれた多岐な類型を、さらに語彙概念構 造と対照することにより、非意図的な他動詞文の多義性を論証していきたい と思う。 1.3 本研究の構成 以上では、研究の動機、目的、研究方法論と範囲を簡単に紹介した。次はこ れから展開していく章節についての概要を紹介していきたいと思う。 まずは第二章「非意図的な他動詞文の認定」においては、大きく典型的な他 動詞文とそうではないもの(非意図的な他動詞文はここに属する)2 つに分け て、それぞれに関する先行研究と各説が残る問題点を検討し、筆者による主張 を提出する。 第三章「非意図的な事象における連鎖」においては、まず他動性のところに 絞って、意図性と受影性以外にコントロール性という概念の重要さを強調する。 事象過程の中に、従来の因果関係にコントロール性を入れることにより、非意 図的な他動詞文がもつ事象構造を新たな視点から観察し、さらに類型化したい と思う。 第四章「非意図的な他動詞文の多義性と制約」においては、第三章で導かれ た各タイプを取り上げ、個別に語彙概念構造で分析する。また、非意図的な他 動詞文が持つ多義性の間には、さらに一種の連続性をなしているという可能性 があるから、その現象をも把握することにより、さらに仕組みを明らかにする。 第五章においては、本稿で論じてきたことを整理して、今後の研究目標と課 題を述べる。. 4.
(11) 第二章. 2.1. 非意図的な他動詞文の認定. はじめに. 非意図的な他動詞文というのは、従来の研究では一般の他動詞文に対する一 種の周辺的な現象に属するといわれているものである。つまり、非意図的な他 動詞文を解明するためには、“他動詞文は何なんだ“という説明を欠かしては ならないと思う。その前に、動詞の自他認定の問題に立ち返って、自動詞・他 動詞の分類から見る必要があると考える。動詞の自他の認定については、山田 (1936)はヲ格を取ることが必ずしも自動詞・他動詞の分類の基準になるとは いえないと指摘し、さらに三つの理由8を提出して、動詞の自他の認定を否定 しいる9。 否定論である山田に対して、松下(1923)10をはじめとする一連の学者はそ れぞれ日本語における自動詞と他動詞の分類・認定の基準に関する研究をなし ている。筆者は、主としてこれらの学者が提出した他動詞文の定義に沿って、 次節の 2.2 の典型的な他動詞文を検討していきたいと思う。また、それらの説 を、さらに 2.2.1 のヲ格の有無、2.2.2 の受身化の可否、2.2.3 の他動性の意 味特徴、2.2.4 の影山(1996)による語彙概念構造という四つの基準に分けて 別々に紹介する。 2.3 では、小柳(2008)の分類基準を見てみる。小柳では、非意図的な他動 詞文は典型的ではない他動詞文における一種の下位分類に属することがわか ると指摘する。2.4 節では、非意図的な他動詞文をガ格とヲ格の間に所属関係 を要求する「所有説」と事象の過程の中で行為者に責任をもとめる「責任説」 という二つの代表的な説に分け、順次に紹介していきたいと思う。. 8. その理由は以下のように要約できる。 ① 語彙・形態的に自他が必ずしも一定の規則を伴って対応しないこと。 ② 助詞の「ヲ」が必ずしも他動詞を定義する標準とはなり得ないこと。 ③ 日本語では、いわゆる自動詞でも受身になること。 9 山田(1936)は「動詞の自他の研究といふのは...(略)...文法上殆ど一の規律も立 てられず、又何等の必要もなき事の如くに見ゆるに至れり。」と主張している。 10 松下(1923)は「ヲ格」を伴う動詞をすべて他動詞と称し、それにひきかえ伴わないもの をすべて自動詞としている。また、他動詞の中には「実質的他動」と「形式的他動」という二 種類があると主張している。 5.
(12) 2.5 では、主体が有情物である場合のみを対象とし、本研究においての非意 図的な他動詞文の範囲と条件をさらに細かく設定する。それに加えて、最後に 筆者は今まで述べてきた先行研究を踏まえた上で、特に 2.4 で紹介した「所有 説」と「責任説」の特徴を取り上げ、次章からの非意図的な他動詞文に対する 筆者自身の観点を述べる。 2.2. 典型的な他動詞文の定義. まず、日本語の他動詞文に関する研究では、異なる観点から以下のようにさ まざまな定義が見られる。 2.2.1 ヲ格の有無 2.2.1.1 奥津敬一郎(1967) まず、奥津(1967)は次のように動詞の自他の区分について定義している。 「動詞の自・他は、文構成の上で、自動詞は目的語をとらず、他動詞は目的 語をとる、という著しいちがいのあることをみとめなければならない。そし て名詞につく格助詞の「ヲ」が、目的語の目印となる。」 しかし、同じくヲ格を使用しているが、目的語でないものがある。たとえば、 (1)弁慶ハ. 安宅ノ関ヲ. (2)富樫ハ. 弁慶ヲ. 通ッタ。. 通シタ。 (奥津 1967 参照). 例(1)では、ヲ格が通過点や出発点を表す「移動格」として機能してい て、例(2)の対象を表す「目的格」とは異なることを示している。つまり、 前者のヲ格の場合は目的語をとらぬ自動詞と視され、他動詞と考えられるの は後者のヲ格(「目的格」)のみである。 2.2.1.2 森田良行(1987) 自他の認定について、森田(1987:155-157)は以下の両定義を提出して いる。(下線筆者). 6.
(13) (A)だいたい動詞の自他と言っても、日本語の場合、それほど明確な線が引 けるものではない。他の対象に対しての働きかけが他動詞で、その主体自 体の働きが自動詞だと一応は説明する…. (p.155-156). (B)今日、その動詞が自動詞か他動詞かを弁別する一つの目安として、ヲ格 の目的語を取り得るか否かということが判定基準となっている。(p.157) 上掲した二氏は基本的に目的語の「ヲ格」は他動詞文の主な特徴として、 自動詞と区別する基準であると主張している。 2.2.2 受身化するかどうか 2.2.2.1 三上章(1972) 奥津氏らの説とは異なって、三上(1972:104)は、日本語の動詞を二分化 して、受動文にならない動詞(所動詞)と受動文になる動詞(能動詞)に分 けて、さらにその中に受動文の種類をまた二分して、 「まともな受身」と「は た迷惑の受身」11に分けている。そして、三上は自他区分において他動詞を 次のように定義している。他動詞は「受動文が可能な動詞の中で、直接受動 文が可能なもの。(受動文を作れない動詞と、受動文は作れても間接受動文 しか作れない動詞は自動詞である。)」ということである。図で表すと以下の 図①のようになる。 図①. 所動詞(ある、いる) 自動詞 (死ぬなど) 能動詞 (殺すなど). 他動詞. また、「ヲ格」ではなく「ニ格」が付く「抱きつく」という動詞の場合は、 (3)能動文. :. (4)直接受動文:. 11. 太郎が花子に抱きついた。 花子が太郎に抱きつかれた。. 柴谷(1976)は「まともの受身」を「直接受動文」、「はた迷惑の受身」を「間接受 動文」と称している。 7.
(14) 直接受動文が可能なので、奥津氏らの説とは違って「ヲ格」を取らなくても、 他動詞である。つまり、他動詞はまともの受身(直接受動文)を作れる動詞 である。三上の定義は簡潔且つ明快であり、他の説の場合に生じるような問 題は見られない。しかし、他動性の特徴を考慮するときに、受身化というた だ一つの特徴だけで他動詞を決めるのは、まだ不十分であるといえる。 2.2.2.2 寺村秀夫(1982) 寺村(1982)は、日本語の文法における二者(「主体」と「対象」)の関係 を表す動詞はすべて対象の存在を前提とするもので、またその下位分類に A の「働きかけ」の動詞、B の「対面」の動詞と C の「相互動作」の動詞とい う三タイプが観察されると主張している。(下線は各タイプが取る助詞) A)人ヲ殺ス、物ヲコワス、山ヲ見ル、人ヲ愛スル、歌ヲツクル B)人ニ会ウ、先生ニ相談スル C)敵トタタカウ、彼女ト結婚スル (寺村 1982:88) 寺村によると、「直接受身」ができるAタイプの「働きかけ」の動詞類に 入っているものは典型的な他動詞である。また、A タイプの中には、主体の 「客体」に対する「働きかけ」の仕方の違い12によってさらに三つの型13が 分けられるが、共通点には「(i)主体が対象に向かって働きかける動作・作 用を表す。」、「(ii)対象を表す補語は助詞「ヲ」をとる。」、「(iii)直接受 身に転換できる。」という三つの特徴があるということである。 2.2.3 他動性の意味特徴から 2.2.3.1 ウェスリー・M・ヤコブセン(1989). 12. 寺村(1982)によると、その型の違いが、全体を受身に転じたときに能動文における動作 主のとる助詞の違いに反映している。 13 その三つの型についてはそれぞれ次のように整理した。 <A1>「物理的・心理的働きかけ」の動詞を述語とする文 (殺す、苦しめる…) <A2>「感情の動き・感覚の働き」を表す動詞を述語とする文 (愛する、見る…) <A3>「創ル」類の動詞を述語とする文 (書く、作る…) また、動詞の種類と補語の性質という文法的条件からいえば、その中に特に<A1>の「物 理的・心理的働きかけ」は、すべて直接受身に転じる(文法的)資格をもっているといってよ いものである。 8.
(15) ヤコブセン(1989)は他動性について、次のような伝統的定義14をしてい る。 (5)「他動的述語とは、ある対象に知覚可能な変化を起こすべく、ある動作 主が意図的かつ直接的にその対象にはたらきかける、という意味を表す ものである。」 たとえば、次の文はその典型的な例である。 (6)泥棒が鍵を壊した。 ヤコブセンはさらに(5)の定義を分解して、(7)のような意味要素で説 明している。 (7) (a)関与している事物(人物)が二つある。すなわち、動作主(agent)と 対象(object)である。 (b)動作主に意図性がある。 (c)対象物は変化を被る。 (d)変化は現実の時間において生じる。 ヤコブセンによると、日本語の他動性のプロトタイプは助詞「を」を伴う 名詞句が文中にあり、動詞が他動性を表す特別な形態をもつという二つの要 素からなる形をとるということになる。しかし、前述したプロトタイプに相 当する文法形式があるといっても、 (5) (7)に挙げた意味の特徴すべてと必 ずしも一致するとはいえない。そこで、ヤコブセンは助詞「を」を日本語の 他動性プロトタイプ要素の一つとして取り上げ、 (5)の他動性プロトタイプ から自動性へ逸脱した連続体を(8)のように表している。 (8)形態論上の他動性⇔形態論上の自動性. (ヤコブセン 1995:177). (a)二つの独立している実体が係わっており、それぞれの意味的役割が 14. ヤコブセンは伝統的な生成統語理論において「他動性」または「他動的述語」という言い 方が大きく分けて二つの違った定義による意味で用いられていると述べている。さらにそれら を「伝統的定義」と「命題論理学による定義」と称している。 また、後者は次の通りである。 「他動的述語とは、その意味が理解されるのに二つ以上の名詞句を必要とする述語である。さ もなければ、自動的述語とされる。」 9.
(16) 異なっている。(赤ん坊が花瓶を壊す) (b)二つの独立している実体が係わっており、それぞれの意味的役割が 異なっているが、動詞の表す変化の結果、それらが一体化される。(荷 物を預かる) (c)同一の実体(あるいは同一の実体の違った部分)が、二つの異なっ た意味的役割を担い、二つの違った名詞として文中に現われる。(再帰 的意味)(犬が尻尾を垂れる) (d)一つの実体のみが係わっており、それが一つの名詞句として文中に 現われながらも、二つの違った意味的役割を担っている。(意図的自動 詞)(お婆さんが屈む、敵が寄せる) (e)係わっている実体が一つであり、その意味的役割も一つにすぎない。 (非意図的自動詞)(花瓶が壊れる) つまり、他動性プロトタイプは実は自動性と対称して、さらに組んでこう した連続体をなしていて、より典型的な他動性か自動性表現はその連続体の 両極端に位置するということである。 2.2.3.2 角田大作(1991、2007) 角田(1991)によれば、他動性とは、他動詞だけではなく、自動詞にも関 連する言語現象を指すことである。伝統的には、他動詞文と自動詞文は以下 のように規定されている。 表① 他動詞文. 自動詞文. 目的語がある. 目的語がない. 動作が主語から目的語に向か. 動作が目的語に向かわない。. う、または、及ぶ。 しかしながら、他動性の研究に多くの進展があったことに従い、他動性と いう現象は、上記の表の内容から広まって、より多様な特徴が定義されてい る。ゆえに角田は他動性の定義を提案していて、また他動性に対し特に次の 二つの点に注意しなければならないと提示している。(下線筆者). 10.
(17) (9) (a) 他動性を考える際に、その意味的側面と形の側面をはっきりと区別する。 (b)他動性の問題は程度問題である。他動詞文と自動詞文は明快に区別でき ないで、連続体を成す。 角田はこの定義で他動詞文の原型(プロトタイプ)を設定し、さらにこの他 動詞文の原型を用いれば、ほかの文の他動性程度を測ることができると主張 している。また、(9-a)の定義については、まず意味的側面を以下の(10) のように設定してもよいと考えている。 (10)他動詞文の原型の意味的側面: 参加者が二人(動作者と動作の対象)またはそれ以上いる。動作者の動作 が対象に及び、かつ、対象に変化を起こす。(動作者と対象は無生物の場合 もある。従って、二人でなく、二つの場合もある。) そして形の側面において、角田によれば、日本語では意味の点から定義 した原型的他動詞文が「が+を」を取ると述べられている。「が+を」以外 は、「が+に」「が+が」「に+が」等は、原型的他動詞文の特徴ではないと されている。また、三上の主張とほぼ同じく、直接受動文になるかどうかと いう要素も一つの特徴として取り上げられている。最後の二つの特徴は、対 応する再帰文、相互文は作れるということである。たとえば、 (11)太郎が花子を殺した。 (12)太郎が自分(または、自分自身)を殺した。. (再帰文). (13)太郎と花子が(お互いに)殺し合った。. (相互文). (14)飛行士が宇宙を飛んだ。 (15)*飛行士が自分を飛んだ。. (再帰文). (16)*飛行士と宇宙がお互いを飛び合った。. (相互文) (角田 2008:82-83). (15)(16)が不適格になるのは、形の側面における他動性の特徴を備え ていないからである。以上のものを整理してみると、(17)の特徴が見られ る。. 11.
(18) (17)他動詞文の原型の形の側面:(日本語) (あ)「が+を」構文 (い)直接受動文になる (う)再帰文が成立する (え)相互文が成立する 次は(9-b)の定義に関して、Hopper and Thompson(1980)(以下はH& Tと略す)が提出した他動性の 10 の意味的特徴を参考にしている。その意 味的特徴は次の表②のようになる。 (表②). A.Participants(参加者). 高い他動性. 低い他動性. 2人以上(AとO). 1人(S). :動作者と対象 B.Kinesis(動作様態、動き). 動作. 非動作. C.Aspect(アスペクト). 動作限界あり. 動作限界なし. D.Punctuality(瞬間性). 瞬間. 非瞬間. E.Volitionality(意図性、意志性) 意図的. 非意図的. F.Affirmation(肯定). 肯定. 否定. G.Mode(現実性). 現実. 非現実. H.Agency(動作能力、動作主性). 高い. 低い. I.Affectedness of O(非動作性、. 全体的に影響. 部分的に影響. 影響性、受影性、対象への影響、動作 が対象に及ぶ度合い) J.Individuation of O(対象の個別 高い. 低い. 化、対象の個体化、個体性). また、H&Tは他動性を以下の2つの項目に規定した。 規定1:他動詞文と自動詞文は峻別できない。連続帯をなす。 規定2:他動性は表②に示す10の意味的特徴からなる。各意味的特徴は「他 動性が高い」と「他動性が低い」の程度を示す。. 12.
(19) 角田(2007)はH&Tの提案に基づき、二つの異なった論点を提出してい て、前述した意味的側面の定義を修正に入れる。まずは、「I.被動作性」 においてただ動作が対象に及ぶかどうかだけでなく、対象に変化を起こすか どうかというところも重要であると強調している。たとえば、例(18) (19) を比較すると (18)太郎が箱に触った。「主格:ガ+与格:ニ」 (動作が対象に及んだが、箱の変化については述べていない) (19)太郎が箱を壊した。「主格:ガ+対格:ヲ」 (動作が対象に及んだし、箱の変化もみられる) 角田は日本語では後者のほうが他動詞文の定義により近いと考えている。 また、H&Tの他動性仮説15に反することもあると述べ、 「I.被動作性」と 「E.意図性」などが食い違った場合には、「被動作性」が優先して、つま り表②における他動性の高い特徴同士が必ずしも共起しないと主張してい る。角田の考えによると、H&Tが挙げた他動性の意味の中で、「I.被動 作性」が最も重要である。また、英語の例を挙げて、表③で説明している。 (20)I hit him. (意図的かどうかは、述べていない). (21)I hit at him(命中したかどうかは、述べていない) 表③:「意図性」と「被動作性」 格. 意図性. 被動作性(受影). 例(20). 主格+対格. 言及無し. +. 例(21). 主格+at. +. 言及無し (角田 2007:5). 表③により、他動性の高い特徴同士が必ずしも共起しないことがわかった。 以上の点から、角田は、H&Tの説を踏まえ、さらに他動性の原型の意味的 側面を以下のように補足している。. 15. H&Tの他動性仮説は大まかに言うと、他動性の意味的特徴で、高い特徴同士が共起し、 低い特徴同士が共起するという主張である。 13.
(20) (22)他動性の原型の意味的側面(修正後) ⅰ、動作者と動作の対象がある。動作が対象に及び、かつ、対象に変化を起 こす。 ⅱ、10の意味的特徴の中に「I.被動作性」を重視している。 2.2.3.3 山梨正明(1995) 山梨(1995)も、H&Tで提案されている他動性の基準に沿っている が、H&Tの「肯定性」と「アスペクト」などのパラメータは自・他動詞構 文の相互関係の規定には直接的には関係しないと述べている。それを除いて、 プロトタイプの観点からみた自・他動詞構文の規定としては、次のA,Bが 可能であると主張している。16 A、<他動詞構文のプロトタイプ> ①内在項が2つ存在する。(基本的には、主体と対象) ②a.主体:能動的、意図的、有生の動作主 b.対象:被動作主 ③行為の影響は直接的 ④変化は瞬時的、実現的、完結的 ⑤一次的責任:動作主 ⑥単一事象的 B、<自動詞構文のプロトタイプ> ①内在項が1つが存在する(基本的には、対象) ②対象:被動作主 ③変化は自律的、内在的 ④一次的責任:被動作主 ⑤単一事象的 2.2.4. LCS と事象の意味構造の観点から. 2.2.4.1 影山太郎(1996)(2009) 影山(1996)は Vendler(1967)の動詞4分類17を語彙概念構造の概念に 16. 山梨は、ABの規定は自他動詞構文のプロトタイプの絶対的な基準ではないが、日常言語 のさまざまな構文の他動性自動性を考察していくための1つの目安であると述べている。 17 Vendler(1967)は、動詞を①状態動詞②到達動詞③活動動詞④達成動詞という四種類に分 類している。それぞれの意味は以下のようである。 14.
(21) より、自動詞・他動詞の分類に対応して、図②のような1つの動詞が表し得 る事象の全体を示した語彙概念構造と提案している。(影山 2002:120 より) そして、その中の“ACT”のある活動動詞を非能格動詞とし、状態・到達(変 化)動詞を非対格動詞と称していて、 “ACT ON”をもつ活動動詞を働きか け他動詞とし、達成動詞を状態変化他動詞(使役変化動詞)と名付けている。 (下線筆者) 図②18. 動詞の分類、自他動詞の対応とそれぞれのもつ語彙概念構造を整理してみ ると、以下の(23)(24)のようになる。 (23)動詞の分類と自他対応: 自動詞. 他動詞. |. |. 上位事象のみ :〈非能格動詞〉. 働きかけ動詞. 下位事象のみ :〈非対格動詞〉 上位+下位事象:. 使役他動詞. ①状態動詞(state):時間的な制限に縛られない恒常的な状態を意味する。(know など) ②到達動詞(achievement):なんらかの目標(状態)に至るという行為の終了点を重点的に 述べる動詞である。(recognize、spot など) ③活動動詞(activities):意図的に開始したり終了したりできる行為を表し、進行形をつける と、その活動が目下、継続中であることを意味する。(run、walk など) ④達成動詞(accomplishments):なんらかの活動の結果、最終的な目標(状態)に至ることを 意味する。(paint a picture、make a chair など) 18. “?”クエスチョン部分だけ自他の対応関係が欠落しているということは、影山によりこの. 部分に相当する「他動詞」を「非対格他動詞」と呼ばれ、日本語にも英語にも存在することと 述べられている。 15.
(22) (24)自他動詞の語彙概念構造: 自動詞: 非能格動詞. [x. ACT]. 非対格動詞. [(y). BECOME[. y. BE AT-z]]. 他動詞: 働きかけ他動詞. [x. ACT. ON-y]. 使役変化他動詞. [x. ACT. ON-y] CAUSE[y. BECOME[STATE. y. BE AT-z]]]. また、影山は事象の意味を扱うために、意味構造としてさらに行為連鎖 (action chain)を用いて分析している。たとえば、次の例には文の意味が次 のように分解できることが見られる。 (25)父が包丁でスイカを真っ二つに切った。 (25a)行為連鎖による事象の意味構造 <行為>. →. <変化>. →. <状態>. 父が包丁の刃を. スイカに切れ目. スイカが真っ二. スイカに当てて. ができでくる. つの状態になる. 力を加える つまり「切る」という動作を<行為>→<変化>→<状態>という連鎖過程 でとらえることができる。影山は、こうように事象を<行為>、<変化>、< 状態>という三つの局面に分けることのは、単に「切る」という単語の意味を わかりやすく表すためだけではなく、統語上や副詞の修飾関係なども明確に説 明することができるからである。例えば、(25b)のように、 (25b)包丁でスイカを真っ二つに切る <行為>. →. <変化>. →. ↑. <状態> ↑. 「包丁で」. 「真っ二つに」. (道具). (結果状態). 「包丁で」と「真っ二つに」は同じ副詞であるが、意味構造の中で異なる修飾 位置を表している。また、 「切る」とは違って、 「たたく」のような動詞は<行 為>しかもたないから、「スイカをたたく」という事象には結果状態を表す副 詞が出現しないわけである。例えば、次のようになる。 16.
(23) (26)スイカをたたく <行為>. ---------------------------------------結果状態がない. ↑. ↑. 「包丁でたたく」. 「*真っ二つににたたく」. 影山は、<行為>→<変化>→<状態>という流れ全体を表す動詞が(24) の使役変化他動詞であると述べ、このような意味構造を持っている他動詞には 次の二点の特徴が見られると主張している。①対応する自動詞があること② 「~が~してある」構文に使われること。逆に言うと、「たたく」のような< 行為>だけの働きかけ他動詞などが①か②にならない。影山による事象の意味 構造の観点から動詞を整理すると表①のようになる。 表① Ⅰ <行為>→<変化>→<状態>. Ⅱ <行為>. Ⅲ. a.目的語の状態変化を. 壊す、折る. 表す状態変化使役動詞. 温める、消す…. b.目的語の位置変化を. 出す、移す、. 表す位置変化使役動詞. 注ぐ、入れる…. a. 自動詞. 働く、遊ぶ、. (非能格動詞). 暴れる…. b. 他動詞. たたく、突く、. (働きかけ他動詞). 蹴る、押す…. a.状態変化の自動詞. 縮む、育つ、. <変化>(→<状態>). 枯れる… b.位置変化の自動詞. 流れる、進む、 入る…. Ⅳ. いる、ある、値する、(外国語が)できる <状態> (影山 2009 をもとにして、本稿の整理) 2.3. 典型的な他動詞文ではないもの. 小柳(2008)は、典型的な他動詞文に対し、自他動詞の構文の全体を概観す ることにより、従来の研究で問題とされる他動詞文を体系的にまとめている。 17.
(24) 小柳により、以下の三つの分類が挙げられる。 <A> 意味論的には自動詞なのに他動詞文になるもの。 Ex: 太郎が腕を折った。(=小柳 2008:47) Ex: 私は、落雷で家を焼いた。(=天野 1991:196) <B> 形態論的には自動詞なのに他動詞文19になるもの。 Ex:与太郎が口をあいて寝ている。 与太郎が口をあけて寝ている。(=須賀 1981:) <C> 実際の動作主を無視する他動詞文20が成立するもの。 Ex:田中さんが虫歯を抜いた。(=小柳 2008:47) 筆者は、本研究の目的とする非意図的な他動詞文を小柳が提案した<A>タ イプの下位に属するものと考えるが、意図性に関与する事象を中心にするとい う点においては異なる分析を行うのではないかと思われる。また、今の段階で 意味的に自動詞的な他動詞文以外は、本研究の検討対象外となる。次は非意図 的事象に関わる先行研究を紹介していきたいと思う。 2.4. 非意図的な他動詞文. 2.4.1. 先行研究. 非意図的事象は他動詞構文で言語化された状況において、主に「所有」概念 に求めるのと「責任」概念に求めるのという二つの異なる説が見られる。し かし、次は従来各説に関する先行研究を取り上げ、さらに検討していきたい と思う。 2.4.1.1 密接関係の「所有」説:天野みどり(1995)佐藤琢三(2005). 19. このタイプには、以下の三つの場合が見られる。 ① 有対自動詞で、同じ形の自動詞がヲ格目的語を取る場合 EX:「口ヲ あける /口ヲ あく(-口ガ あく)」など ② 自他両用動詞で、同じ形の動詞がヲ格目的語を取る場合 EX:「(仕事が)危険ヲ伴う/(仕事に)危険ガ伴う」など ③ 複他動詞と単他動詞の関係にある動詞で単他動詞がヲ格目的語をとる場合。 EX: 山田さんは鈴木先生に英語 ヲ教わった。 「ヲ 教わる /ヲ 教える」 山田さんはコート ヲ着た。 「ヲ 着る /ヲ 着せる」 (奥津(1967:60~61)は「教える」に対する「教わる」を「複他動詞の自動化」、「着 る」に対する「着せる」を「単他動詞の他動化」と名づけ、さらに複他動詞のほうが3項 述語で、単他動詞のほうが2項述語をもつと述べている。) 20. 佐藤(1994)が「介在性の表現」と呼んだものである。 18.
(25) (27)私たちは空襲で家財道具を焼いた。 天野(1995) 天野(1995)は例(25)のような文を、述語の他動詞がヲ格をとるという 他動詞の形態を持つにも拘らず、自動詞の働きに近いと見なし、さらに「他 動詞文の形式を備えながら、ガ格名詞が動きの引き起こし手ではなく21、他 者の力によって、ある状態へと変化する主体を表す文である。」と定義して、 主体から客体への働きかけの意味を持たない他動詞文を状態変化主主体の 他動詞文と呼んでいる。つまり、これらの文の特徴は意図性を持たず、構文 から見ると一般の他動詞文とは区別しがたい。 また、天野(2002)は「状態変化主体他動詞文」の成立条件として、次の ことを挙げている。 (Ⅰ)a.述語の他動詞が主体の動きと客体の変化の両方の意味を表し、主体 の意志性を無化することが可能な動詞である。 b.事態の直接の引き起こし手を言語的に明示することが可能である。 (Ⅱ)ガ格名詞句とヲ格名詞句が密接な意味的関係を持つと解釈されなけれ ばならない。 佐藤(2005)は天野が提出したの二つの制約について、(Ⅰa)における「述 語の他動詞が主体の動きと客体の変化の両方の意味」を表す動詞を変化他動 詞と考えている。また、「主体の意志性を無化すること」というのは意志性 が弱い動詞であることと解釈し、例えば「殺す」などの動詞はこのタイプの 文にならないと述べる。しかし、実際佐藤は「あやまって殺した」といった 言い方が何ら不自然な文ではないとして、反例を挙げ、その意志性の強弱を 認定する根拠は不明であるとも主張している。 (Ⅰb)の場合は、例(25)における「空襲で」といった原因を表す部分を 明示することが可能である。さらに、(Ⅱ)における「密接な意味的関係」 の制約とは「Y の変化が X にも影響を及ぼし X 自身の変化を招くような、密 接な関係にあると解釈されうるもの」 (X はガ格名詞句、Y はヲ格名詞句) (天 野氏によると、主体 X と客体 Y は『ある事態を所有する』という意味をもつ 全体部分の関係になければならない)ということである。故に、次の例(28) 21. 経験者主体である。 19.
(26) (29)は成立するが、(30)は非文になるわけである。 (28). 勇二は教師に殴られて前歯を折った。. (29). 気の毐にも、田中さんは昨日の台風で屋根を飛ばしたそうだ。 (天野 1995). 例(28)の「前歯」は「勇二」の「前歯」で、(29)の「屋根」は「田中さ ん」の所有物である。両者の場合友を書く名詞句(Y)の変化ガが書く名詞 句(X)の状態変化を招く。 (30)*尾川氏は落雷で木を焼いた。 (天野 2002) 天野氏によると、例(30)が成立しないのは、X である「尾川氏」と Y で ある「木」との関連性が明白ではなく、そして「木」が「焼ける」という変 化状態が主体「尾川氏」自身の状況について何も説明していないからである。 2.4.1.2 因果関係の「責任」説:中右(1998) 中右(1998)は、使役事象における人間の意図しない場合について、<A >プロトタイプ的な<使役行為>を表す使役構文及びそこから拡張した<B >意図しない結果を表す使役構文には、行為者がなんらかの「責任」を問わ れる共通性があると言及している。後者の例を挙げてみると、 (31)<使役行為>から拡張した意図しない結果を表す使役構文: (a)太郎は友達とキャッチボールしていて窓を壊した/壊してしまった。 (b)花子はりんごの皮を剥いていて指を切った/切ってしまった。 中右によれば、この<A><B>両種類の主語は、次の(32)のような単一 の意味のスキーマ22における共に参与者 W を具現化したものと考えることが 可能である。また、行為 X に相当するのは、テ節(英語なら while 節)など が明示的ないし暗示的に表現する行為(ここでは「ボールを一定の方向に投 げる」、「りんごの皮を剥く」)であると述べられている。 22. 中右(1998)はこのスキーマを<使役行為>のスキーマ、W を<使役行為者>のスキーマ、. X を<基礎行為>のスキーマとそれぞれ称している。 20.
(27) (32). <W(主語)が意図的に遂行する行為 X の直接の結果として、Y(目的語)に (含意される)変化 Z が生じる> 中右は、これは、「人は自ら意図的に行った行為の直接の結果に対して、 その結果自体を意図したか否かにかかわらず、何らかの責任を問われる」と いうことで、両タイプとも「W は Z に対する<責任>の主体である」という 形を持ち、<A>のプロトタイプ的な使役行為者と<B>の主語のようなプロ トタイプ的でない使役行為者に共通する<責任>のスキーマを特徴づける ことができると主張している。 そして、さらなる拡張として次の例が挙げられる。 (33)靖は(うっかり/思わず)皿を落とした/落としてしまった。 (34)夫は時々癇癪を起こします。 前述した<使役行為>のスキーマでは、含意される事態 Z の生起の直接の 原因は参与者 W(主語)が行為 X を意図的に遂行することであったが、 (33) (34)のような文の場合、含意される事態 Z の生起の直接の原因は、参与者 W(主語)が事態 Z の生起を阻止すべく行為 X’. を遂行する(例(34)の. 場合は自分の感情を抑制すること)ことができるのに、それを遂行しないと いうことである。23「X’. を遂行しない」ことを表していると思われる動詞. いわば「負の作為」を表す動詞であると定義している。 (33’). b.*このテーブルは皿を落とした/落としてしまった。. また、 「責任」についても前と同じく、 (33)などの主語は当然「責任」の 主体と見なされることになる。しかし、中右は、以下の(33’)が不適格で ある理由を、「テーブルは(地震か何かのせいで)皿が落ちることを未然に 23. 中右によれば、(29)とはここの場合は行為の遂行の有無という点で正反対ではあるが、後 者のように行為 X’ を遂行することができる立場にありながら遂行しないことは、両者それ ぞれは意図的に「X’ を遂行する」と意図的に「X’ を遂行しない」ことであるという観点 から考えると、前者と等価([ X=-X’])であるとも考えられる。 21.
(28) 防ぐことができるとは(よほど特殊な場合は別として)考えられていないた め、テーブルから皿が落ちるという事態にこのスキーマを適用することが不 可能であると感じられるからであろう」24と説明している。(下線筆者) 2.5. 本研究における非意図的他動詞文の条件設定. まず、筆者は、非意図的な他動詞文の生成においては、ただ一様のプロセス だけですべての事象状況を解釈することができるとは言いがたいと思う。場合 によって、動詞そのものが非意図性を表すことができるという語彙的なレベル もあり、構文全体により後に他動詞文の意図性がなくなるという統語的なレベ ルであるものも見られる。 非意図的な他動詞文を考察するためには、前述した 2.2 の典型的な他動詞文 の特徴を参考にしながら、さらに 2.4 節における「所有」説(「密接な意味的 関係」など)と「責任」説(結果事象のコントロール性など)の定義を取り上 げ、事象連鎖過程および意図性と多義性・制約の関連性を解明したいと考える。 まず、ここで非意図的な他動詞文の出現条件として、広義的には、以下の①~ ③と設定する。 ① 主体であるガ格名詞は有情物 ② 意図性が欠けること(=意図性) ③ 対象格であるヲ格を取ること(移動格であるヲ格を除く) さらに、次の④~⑥の各条件が出現することにより、非意図的な他動詞文の 性質が変わると考える。. 24. パルデシ(2007:187)は、非意図的事象が他動詞文を用いて表現される場合に対し、同じ く「責任」説を採用し、さらに以下のように説明している。「主語が使役事象(E1)において、 結果事象(E2)に対する十分な予防策をとっていれば、結果事象(E2)がさけられたというふ うに認識される。換言すると、回避することができるはずの E2 が実現してしまったために、 それに対して主語が責任を負うものと解釈される」と述べている。つまり、もし非意図的事象 に、その結果事象(E2)が主語にはコントロールできないものだと思われた場合に、他動詞文 としては表現されないと主張している。 鄭(2009)はパルデシ(2007)の提案した概念を受け継げ、さらにそれを発展させる。しか し、「所有」説の場合と同じく、問題点がまったくないとはいえないと指摘している。鄭氏に よると、パルデシによる説明では「サッカーの試合中に転んで左足を折った」の場合、主語が 引起し手として理解できる状況なら問題はないが、前節の例(1)のように結果事象の引き起 こし手が主語ではなくて、外的原因などである場合は説明が難しくなるという問題点も見られ る。また、「宝くじを当てた」24のような事象は明らかに主語のコントロール以外のものであ るが、非意図的な他動詞文としての成立は可能である。 22.
(29) ④ 事象過程に対するコントロール能力の有無(=コントロール性) ⑤ ガ格・ヲ格名詞の密接な意味的関係 ⑥ ガ格・ヲ格名詞の物理的・心理的状態あるいは変化を被る(=受影性) ④の「コントロール性」については、意図性とかなり近い特徴としての存在 てあるが、性質上から見れば実に違うものと視すべきであると考え、次章以降 でさらに詳しく説明する。その中の⑤⑥の条件については、再帰性か受影性の 問題に関わって互いに関連していると考えられる。ある場合には、非意図的な 他動詞文が被害あるいはマイナスの意味25を帯びることは、これらの条件がど う働いているかに反映し、なんらかの規則が潜んでいるのではないかと思われ る。 これからは主に、以上提出した各条件を用いて、違う性質の持つ非意図的な 他動詞文を類型化してさらにつきとめていきたいと思う。しかし、従来典型の 他動詞事象連鎖の因果関係とは、原因(「動作主-行為」)と結果(「対象-状 態変化」)、換言すると②の「意図性」と⑥の「受影性」の二段階性の連鎖過程 であるが、筆者の考えでは、さらに④の「コントロール性」を入れる必要があ ると主張したい。つまり、「意図性→コントロール性⇒受影性」の三段階性を 持つ事象連鎖は、非意図的な他動詞文が示す多様性をより適切に説明できると 考える。 2.6 従来の研究における問題点 前述してきたように、従来非典型かつ非意図的な他動詞文を唱える主張は説 明に不十分なおそれがあると考える。本節では、それについて各々の問題点を 提出したいと思う。 まず、吉村(2004)は、アクション・チェイン(action chain)というのは チェイン(鎖)のようにアクション(行為)が連鎖するありさまで、さらに動 作主や対象などの参加項をひとつの鎖、行為や出来事などを鎖のつながりと見 なせると述べている。また、認知言語学においてはそれが他動性の関連する概 念として事象を説明するためのモデルであると定義している。 25. 彭飛(1990)は 他動詞の下位分類に、(Ⅰ)状態変化およびその結果を表す、(Ⅱ)非意 図的行為による、(Ⅲ)有生名詞を主格とする、 (Ⅳ)マイナスの意味が込められている、(Ⅴ) 「~ヲ」を伴って客体をとる他動詞文であるという五条件を満たす文を「マイナスの意味の他 動詞文」と称している。 23.
(30) 以下の例(35)を挙げ、図①とあわせて説明する。 (35)テロリストが大統領を射殺する。 図①. エネルギー 動作主 (テロリスト). 状態変化 対象 (大統領). 結果. 例(35)と図①では、テロリストは動作主を表していて、ピストルなどの手 段によってエネルギー(ここの場合は発射された弾を指す)を対象である大統 領に伝達して働きかける。そして、銃撃された大統領は大きな影響を被って、 死という結果を受けて、最後死んだ状態になった。以上の一連の過程「動作主 -行為-対象-状態変化-結果」は、例(35)という事象が進行した状況を表 している。このように、原因(「動作主-行為」)と結果(「対象-状態変化」) によって構成された事象は因果関係(cause-and-effect relationship)を成 しているといえる。また、他動詞に相対する自動詞の場合については、吉村は 「死ぬ」を例として(36)と図②を挙げている。 (36)大統領が死んだ。 図②. 状態変化 対象 (大統領). 結果. まず、例(35) (と図①)と比べると、例(36) (図②)からわかるのは動作 主の部分、そして事象における状態変化を促すエネルギーが見当たらないこと である。吉村によると、これは因果関係の原因(「動作主-行為」)を省き、結 果(「対象-状態変化」)のところだけをプロファイル26(profile)するからで. 26. 認知言語学では、一定の部分を強調する概念化の仕方はプロファイルと称されている。 24.
(31) ある27。 ここで問題になるのは、事象の因果関係の前後部分を有する一般の他動詞事 象とは異なって、本研究における非意図的な他動詞事象は意味上むしろ自動詞 のように因果関係の「結果」部分を強調すると見えることである。とはいえ、 自動詞とまったく同じ事象構造を持つとはいえないから、別の仕組みをもつと いう可能性があると考えてもよいのではないかと筆者は主張したい。 中右(1998)は、なんらかの因果関係を持ち、使役動詞28を述語動詞とする という構文を使役構文と定義している。例えば、以下の例(37a)と(38a)が 見られる。 (37)a.私はドアを開けた。 b.ドアが開いた。 (38)a.花子は太郎を殺した。 b.太郎が死んだ。 さらに、これらの文の意味がどういう意味で因果関係に関与しているかは、 (37b)(38b)と対照することによって直ちに明らかになると指摘している。 中右によると、それらの間には、前者が後者を意味として含む(含意する) という関係がある(たとえば、 (37a)の表す事態が生じていれば、 (37b)の表 す事態も必ず生じているという含意関係である)。つまり、前者が起こす事態 (X)と後者の表す事態(Y)との間に、X が原因となって Y が生じるという因 果関係の成立を表していると主張されている。中右は(37)-(38)などの文 を、因果関係を表している「使役構文」29(causative construction)と呼ん でいる。 また、中右は、このような因果性を持つ使役構文の性質について、以下の 4 つの特徴があると述べている。 (39)使役構文の表す因果関係の共通した性質:(下線は筆者) <a>原因は主語の行為である。 <b>それがいかなる行為であるのかは明示されない。 27. また、図②のような、図①から区切られた一定の区画部分をスコープと呼んでいる。 中右は、主に英語の causation の意味を含むと考えられるある種の動詞を使役動詞と呼ぶこ とにしている。 29 中右の考えによれば、 日本語の(伝統的な国語学や学校文法における)使役の助動詞を含 む構文も使役構文に入っているが、本論はそれを除いて、述語動詞だけに絞って日本語の他動 詞構文の場合と対照しようとすると思う。 25 28.
(32) <c>結果の部分のみを取り出して単独の文として表現できる。30 <d>主語が<a>の行為を行うのは、<c>の結果を生じさせるためである。 (換言すれば、この場合の因果関係は手段・目的関係でもある。) ここまでに見てきた例においては、因果性と行為の概念が密接に結びついた ことが窺われるが、中右は行為の中にさらに低次行為(lower-order action) と高次行為(higher-order action)という二つの種類があると指摘している。 この両者の差異は、例えば、再び例(37)を例として説明すれば、以下のよう になる。 (40)低次行為と高次行為 低次行為: 「私」→「ドア」を押すなどのなんらかの行為で→「ドア」が開く 行為(X). 事態(Y). 高次行為: 「私」→「ドア」を開ける 行為(Z) つまり、下線の部分は、それぞれ低次行為と高次行為31を表している。この 場合では、中右はXとZとは独立した二つの事態を指しているのではないと述 べ、この二つの行為の関係を「XとYとの間に(ある種の)因果関係が成立す れば、そのXはZで(も)ある」と説明している。たとえば、「ドア」を押す という行為(X)の結果が「ドア」が開くという事態(Y)を起こせば、行為 (X)は「ドア」を開けるという行為(Z)でもある。 そのほかに、中右は、因果性をもつ使役構文のプロトタイプ的意味について 黒田(1975:ch. 11;1992:I-7)、Lakoff(1987:54-55)らが提案した「直 接操作」32と関連づけている。 「直接操作」というのは、因果性のプロトタイプ 30. 日本語の場合においては、(5)の「開ける」と(5’)「開く」(自他対応)、(6)の「殺 す」と(6’)の「死ぬ」のように、形態上か意味上明らかに密接な関係を持たねばならない。 31 中右は前者を基礎行為(basic action)、後者を使役行為(causative action)とも呼んでいる。 32 彼らが直接操作の例として、「(幼児が)瓶を投げる、わざとスプーンを落とす」、灰皿を (自分の手で押して)前方に動かす」などの例を挙げている。さらに「直接操作」の特徴を以 下の A-E のように述べている。 「直接操作」の特徴:(行為者=人間) A.行為者は行為対象に(位置、状態など)何らかの変化を生じさせることを目標としている。 B.行為者は A の目標を達成するために何らかの身体的な動作を行為対象に対して行う。 C.行為者はその身体的動作をコントロールしている(他者等に強制されているわけではない) D.B の動作により、行為者から行為対象にエネルギーが伝達された結果、後者に A の目標通り 26.
(33) を表す概念で、例(37)を例としてみれば、「直接操作」全体は「ドアを開け る」などの高次行為(使役行為)に、B における「身体的動作」は「ドアを押 す」などの低次行為(基礎行為)にそれぞれ相当するということである。さら に中右は、<行為者>という概念に着目することにより、以下のようなプロト タイプ33を意味すると主張しいる。 (41)<(使役)行為者>のプロトタイプ: 自らの力ないしエネルギーを、意図的にかつ自らの責任において、用いるこ とによって、<対象>の位置ないし状態に何らかの変化を生じさせるという 目標を達成する人間である。(下線は筆者) ここで以上のことを踏まえた上で、各説の問題点を提出したいと思う。まず、 因果関係の「責任」説について論じる。(39)のところに反し、非意図的な他 動詞事象の場合は(39-a)や(39-d)のような性質ではなく、むしろ「(39-a’) 原因はかならずしも主語の行為ではない」、 「(39-d’)通常、主語が<a>の行 為を行うのは、<c>の結果を生じさせるためのではない。 (この場合の因果関 係は手段・目的関係にならない。)」などの解釈のほうにより合致していると考 える。原因(「動作主-行為」)結果(「対象-状態変化」)プロトタイプから拡 張したものとみなしてもよいと思うが、拡張の過程についてはまだはっきりし てないと思われる。 責任説の第二の問題点は、因果性をもつ一般の他動詞事象ではほとんど高次 行為が身体的な動作の表す低次行為(「ドアを開ける」→「ドアを(手で)押 して、ドアが開く」)を含んでいる(あるいは含めても解釈できる)が、非意 図的な他動詞事象はかならずしもそうではない。低次行為(基礎行為)とは言 いにくい場合もある(「鳥肌を立てる」→「鳥肌を~して、鳥肌が立つ?」の ような過程を示すとは考えにくい)ということである。すなわち、拡張の仕方 が一様ではなく、尐なくとも従来の使役構文(典型的な他動詞構文)の因果関 係プロセスだけでは解釈しきれないと考えてもよいと思う。 最後は「所有」説の問題点にも触れていきたいと思う。「所有」説の問題点 は、たとえば、例(28)と(28a)のようになぜ自動詞文ではなく他動詞文が. の直ちに生じる。 E.B の動作の実行及びその結果行為対象に生じる D の変化の主たる責任は行為者に帰せられる。 33. Lyons(1977:483-4)による行為者の典型事例(paradigm instance)と関連している。 27.
(34) 選択されるかという点には答えられなくなる。 (28). 勇二は教師に殴られて前歯を折った。. (28a) 勇二は教師に殴られて前歯が折れた。(二重主格文) 2.7. おわりに. 以上の①~⑥の条件を踏まえた上で、第三章では、従来の事象連鎖の因果関 係という二段階性の考え方とはやや違い、④のコントロール性を事象過程のプ ロセスに入れるという拡張した事象連鎖概念により、非意図的事象を再分類す る。第四章では、非意図的な他動詞文の類型を語彙概念構造により、さらなる 検証を行って多義性を考察し、論証していきたいと思う。. 28.
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