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第四章、 非意図的な他動詞文の多義性と制約

4.2 非意図的な他動詞文の LCS と項構造による分析

4.2.2 外項による分類

4.2.2.2 自発的Bタイプ:外項=単純な経験者

4.2.2.2.2 B-2 タイプ:ヲ格の「消失」

次は B-2 タイプについて述べる。このタイプは、B-1 と正反対にガ格名詞 である経験主体(Experience)からヲ格名詞の表す対象(Theme)がなくな るというのが特徴的である。さらに B-1 と比べると、動詞の種類が尐なく、

ほぼ「失くす、失う」などのに限られる。このような動詞はヲ格名詞の表す 対象を含まなくても本来「消失」の意味をもち、意図性としては動詞そのも のが両義的になりにくく、非意図的な読みに偏るという傾向がある。(しか し、「 小論文への苦手意識を失くす」「悪い習慣をなくす」のように、ヲ格 名詞の性質によって意図的な操作が可能であるが、実際なくしたかどうかと は別である。つまりどちらにしても、結果の実現が必然的ではないというこ とである。)B-2 の場合では、B-1 と同じくガ格名詞という主格が事象の所有 者として機能しているが、主格の受影性は(全体部分関係の)ヲ格名詞の消失 によるものである。場合によって、主格に対する損害・マイナスの意味が見 られ、他動性から見れば C タイプにかなり接近している。次は、B-2 に関す る例文を見てみよう。

(28)美香は言葉を失くした。その通りだ、と思う。自分は他所から来てこ この弥栄に加わったのだと、改めて思う。(「群像, 第 62 巻、第 1 号」

大日本雄辯会講談社, 2007)

(29)僅かに隠居領を得られる期待を持てた信盛であるが、過酷な熊野の生 活は気力を無くした体には耐えられなかったようで、翌年七月二十四日

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病死する。没年は五十五歳とのこと。(「織田信忠: 「本能寺の変」に散 った信長の嫡男」近衛龍春 PHP 研究所, 2004)

(30)私も昨夏父を亡くした。ある程度寿命を全うした親の死でさえ相当こ たえたから、夫や子どもを亡くした人はどれほど辛かっただろうと思う。

しかし私の知る限り、彼女たちは時間の経過とともに立ち直り、しっか りと. 31 分の人生を送っている。(「これから女たちへのメッセージ」

今岡朊子 文芸社, 2000)

(31)だから、夢が実現した瞬間に、その夢を喪ってしまうという皮肉なこ とになってしまったのである。そして新たな夢を見出せない若者は、漂 流し始めた。古い夢を喪った大人たちも、それを止めるすべを持ってい ない。(「イーハトーブと満洲国: 宮沢賢治と石原莞爾が描いた理想郷」

宮下隆二 PHP 研究所, 2007)

(32)彼は 9 歲の頃自転車から落ちて 5 分ほど意識を失ったことがあった。

その後、けいれん(痙攣)をともなうてんかん(癲癇)発作を起こすようにな った。(中略) ... はその後新しい記憶を形成する能力を失ったのである。

(「心理学入門: 実例から原理へ」中島信舟 日本文化科学社. 2002 年 6 月)

以上の例文からわかるのは、すべてのガ格名詞が自分の具体的な動作や意 図を持つのではなく、単に対象の喪失などに影響される一種の経験者という ことである。言い換えると、ガ格名詞である主格は元々所有の何かが欠落し ている状態になる。既に前述したように、B-2 の動詞述語の意図性はそれが 接続するヲ格名詞の性質51により左右される。また、手段方法の付加などで、

「自己破産で借金を無くす」「酵素で口臭を失くす」などの場合も意図的な 他動詞文が可能である。以上を用いて、それらを概念構造で対照関係を示す と、次の(33)のようになる。

(33)B-2 が示す概念構造から項構造へのリンク

例:意図的な操作をする場合- 酵素で口臭を失くした。

51筆者の考えでは、このようなヲ格名詞の特徴は、「借金、口臭、苦手意識、悪い習慣」など のようにすべてガ格名詞(いわゆる所有者ともいえる)の一時的な状態に等しい、また、常に マイナス的意味を表すものである。さらに、生まれつき有するのではない。それに引き換え、

B-2 の場合では、「意識、言葉、気力」などが人間本来備わったものであるので(あるいはガ 格名詞の所有者に対し、失くしては困る大切なものである)、それらを意図的に取り除くと極 めて不自然になる。よって、B-2 には非意図性を表す傾向がある。

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B-2 の場合 - 美香が言葉を失くした。

4.2.2.3 Cタイプ 外項=みせかけの経験者

最後はCタイプに入りたいと思う。まず、このタイプは 2 章で天野氏が主張 した「状態変化主体の他動詞文」とある程度一致していると考えるが、さらに 因果関係と LCS で一連のプロセスを明瞭にすると強調したい。このタイプでは、

ガ格名詞が事象の成り立つという過程にまったく参与せず、ただ事象の結果を 一方的に受け取るだけである。その故、他動的なAタイプや自発的なBタイプ と違って、全体受動的な意味を示している。ガ格名詞という主格の性質から見 れば、まずAの動作主としては考えられないが、Bタイプの“経験者”と同じ ものともいえない。これについては、筆者は C タイプの主格いわゆる経験者52が ただ後から述語による下位事象のみを所有すると考え、B タイプの経験者と区 別すべきと主張したい53。(さらに正確に言うと、A-2 のとも違っている)まず 例文を通して検証してみたい。

52 影山(1996)は、このような主格が持つ意味役割を見せかけ経験者と称しているが、B のよ うな経験者との違いについては詳しく言及していない。

53 天野によると、動作主を兼ねる経験者を「経験者 a」と呼び(筆者の A-2 に相当)、事象を 引き起こし手でないものを「経験者 b」(筆者の C に相当)と称しているが、B タイプの経験 者はその分類基準に言及されていない。よって、それらをまとめて再分類する必要があると考 える。

概念構造:

失くす [x DO [x ACT(ON y)]] CONTROL[y BECOME [y BE-NOT-AT placeworld]]

B-2 φ x EXPERENCE[x BECOME [y BE-NOT-AT placex]]

(X⊃Y)

項構造:

< X EX < Y > >

統語構造

への投射: 美香ガ 言葉ヲ

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(34)私たちは空襲で家財道具を焼いた。

(35)勇二は教師に殴られて前歯を折った。

(36)今回の中越地震で自宅の瓦が飛び、隣の駐車場に停めてあった車を壊し ました。(http://oshiete.goo.ne.jp/qa/1055898.html)

(37) 陽子は風で帽子を飛ばした。(中右 実 1998:175)

以上の例は、次のように外在原因を表す補語を除いたら、文全体に C タイプ 特有の受動的な意味が薄くなって、両義的な読みが取れるようになる。たとえ ば、(34a)~(37a)の場合では、事象の成立はガ格名詞の自分の動作による ものともいえるし、状態変化主体の他動詞文と見なす可能性もある。

(34a)私たちが家財道具を焼いた。

(35a)勇二が前歯を折った。

(36a)隣の駐車場に停めてあった車を壊しました。

(37a) 陽子は帽子を飛ばした。

例えば、(35a)は C タイプ以外にすくなくとも以下の二つの読みがある。(ガ 格名詞とヲ格名詞が全体部分関係である場合に限られる)それらはすべて主体 の状態変化を表しているが、天野氏による状態変化主体の他動詞文(主体から の働きかけがない)ではない。

(35b)(勇二が転んで地面にぶつかり、) 勇二が前歯を折った。

→筆者の分類における A-2

(35c)(勇二がわざと虫歯の前歯を揺らし、)勇二が前歯を折った。

→意図的な他動詞文

以上のことから、C タイプを表現するためには外在原因の表層化・顕在化が 常に欠けてはならないということがわかる。(そうでない場合は、文脈などの 情報知識で補い、)前述したように、A-1 は自身が引き起こす自分による別の 原因事象の介入(内的)で非意図的な他動詞事象を促すタイプである。それと 対極の立場として、C タイプは自身が引き起こさず他人による原因事象の介入

(外的)で非意図的な他動詞事象を促すタイプである。以下ではそれを LCS で検証してみる。

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(38)C タイプの非意図的な他動詞事象の場合:

例:勇二は教師に殴られて前歯を折った。

外的原因事象 CAUSE 非意図的な他動詞事象

勇二が教師(x′)に殴られる 勇二(x)が前歯を折った。

教師が勇二を殴って勇二の前歯(y)を折った

↓ ↓ [EVENT1 x′] CAUSE [EVENT2 x]

↓ ↓

x′CONTROL [y BECOME [y BE-AT z]] [y BECOME [y BE-AT z]]

(事象の生起を促す源)

また、ガ格名詞主体が事象に参与する順序としてもほかのタイプとは違って 見える。C の場合では、次の(39)のように表している、

(39)C における外項 x の位置

空襲で x の家が焼けた x が家を焼いた。

外的原因事象 x′⇒下位結果事象 ⇒ 見せかけ経験者 x(統語構造)

この段階ではじめて登場する

A タイプでは、ガ格名詞は最初から動作主として事象過程のもっとも先の順 番にいる。(エネルギー起点としても扱われるわけである)

(40)A における外項 x の位置

x が骨を折る 骨(y)が折れる--(x y、y=x の一部)-- x が骨を折った。

動作主 x (⇒下位結果事象 ⇒ 経験者 x)

以上のことをまとめてみると、C タイプがもつ LCS 仕組みは次のように表示 x EXPERENCE

見せかけ経験者

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できると主張したい。

(41)C が示す概念構造から項構造へのリンク

4.2.3 LCS と事象過程による比較

前の 4.2.1、4.2.2 により各分類の LCS を把握した上で、本節ではまとめて A、B、C 三タイプを全体的にそれぞれ比較し、事象過程の中においてはそれら がどのような対応関係を表すのかについて明らかにしたいと思う。(4.2.1 で

前の 4.2.1、4.2.2 により各分類の LCS を把握した上で、本節ではまとめて A、B、C 三タイプを全体的にそれぞれ比較し、事象過程の中においてはそれら がどのような対応関係を表すのかについて明らかにしたいと思う。(4.2.1 で