第四章、 非意図的な他動詞文の多義性と制約
4.2 非意図的な他動詞文の LCS と項構造による分析
4.2.2 外項による分類
4.2.2.2 自発的Bタイプ:外項=単純な経験者
4.2.2.2.1 B-1 タイプ:対象の「発生」
まず B-1 の例文から見てみよう。
概念構造:
折る [x DO [x ACT ON y ]] CONTROL [ y BECOME [ y BE-AT z]]
(X⊃ Y)
A-2 [ φ [x ACT ON y of x]] CONTROL [y of x BECOME [y of x BE-AT z]]
項構造:
< X AG < Y TH > > + EX (X ⊃ Y、Y=X の身体一部)
統語構造
への投射: 女性ガ 足の骨ヲ
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提案している。その語彙概念構造は以下のように示している。
(23)非対格他動詞としての「出す」
例:木が芽を出す、コンピュータがミスを生じる [z BECOME [y BE AT-IN-z]]
↓ ↓ 対格付与
木が 芽を コンピュータが ミスを
筆者は、影山の非対格他動詞が B タイプとかなり類似していると考えるが、
(23)での主語が無情物という点からすれば、やはり有情物としての場合と は違う性質を持っているはずであると主張したい。主語が無情物であること は、一般的に外項が経験者となる資格がないということを示唆している。そ れに引き換えて、有情物の主語の場合はそれが可能である。さて、B-1 タイ プがどうような概念構造を示しているのか。筆者の考えでは、(24)のよう に示すことができる。
(24)B-1 が示す概念構造から項構造へのリンク
[z BE WITH [y MOVE FROM-z to-z]] 日本語の[教わる]類 [z BE WITH [y BE AT-z] ]
Have
Have や contain、所有構文
z(~movie)y(Woody Allen)z(it) Langacker の背景主語構文
概念構造:
出す [x DO [x ACT(ON y)]]CONTROL [y BECOME [y BE-AT placez]]
B-1 φ x EXPERENCE[x BECOME [y BE-AT placex]](X ⊃ Y)
項構造: サンドイッチ構造
< X EX < Y > >
統語構造
への投射: 選手ガ 汗ヲ
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(24)からわかるのは、ガ格名詞が経験者として下位事象の結果を受けと ることである。つまり、典型的な他動詞文における「手紙を出す」は外項 x が事象を左右する能力があり、行為をなすものであるのに対して、非意図的 な他動詞文である「熱を出す」の場合は、主語が動作主の資格から単なる経 験者に移行し、前章で言及したコントロール性が弱くなることもここから窺 える。また、B-1 事象では、全体部分関係である“X=Y”という制限により、
外項が影響を受けて実際の変化主体となる。故に、LCS においても、[y BECOME]→[x BECOME]という置き換えが見られるわけである。さらに、上の 典型的な他動詞の“z”が不定項であるとは違い、下の B-1 の場合は y の出 現する場所がガ格名詞に限られる。つまり“x”で表さなければならないと いうことを意味する。
そのほかに、A タイプとの違いは、自発的な変化と見なすものが多いので、
原因事象を担う要素(文脈や副詞的補語)がなくても非意図的な他動詞文と して読み取れることである。例えば、「子供が風邪で熱を出す」という例で 検証してみよう。
(25)
例:子供が風邪で熱を出した
子供の風邪で 子供が熱を出した。
原因事象 CAUSE 非意図的な他動詞事象
↓ ↓
[EVENT1 x] CAUSE [EVENT2 x]
↓ x
↓
ひとつまとまった事象として、原因事象の介入なしでも十分
ここまで論じてきたことから、A タイプは、[X DO]の喪失により事象の 概念構造が不完全となり、場合によってほかの原因事象が事象を遂行する動 機となる。B タイプでは、ただヲ格名詞と述語の組み合わせだけで、非意志 性を表すことができ、また概念構造がまとまったものとして、そのような制 限が見られない。例えば、次の(26)と(27)の比較からみると、その差異
x EXPERENCE [x BECOME [y BE-AT x]](x⊃ y)
子供 熱
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がより一層明瞭になると思う。
(26)B-1 の場合
風邪で熱を出した。 (非意志的) 勝手に熱を出した。 (非意志的)
急に熱を出した。 (非意志的)
熱を出した。 (非意志的)
(27)A-1 の場合
よそ見をしてコップを割った。(非意志的)
勝手にコップを割った。 (意志的な場合が多い)
急にコップを割った。 (意志的な場合が多い)
コップを割った。 (両義的な読みが可能)