第二章、 非意図的な他動詞文の認定
2.7 おわりに
以上の①~⑥の条件を踏まえた上で、第三章では、従来の事象連鎖の因果関 係という二段階性の考え方とはやや違い、④のコントロール性を事象過程のプ ロセスに入れるという拡張した事象連鎖概念により、非意図的事象を再分類す る。第四章では、非意図的な他動詞文の類型を語彙概念構造により、さらなる 検証を行って多義性を考察し、論証していきたいと思う。
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第三章 非意図的な他動詞事象における連鎖と分類
3.1 はじめに
通常、一般の典型的な他動詞文(使役構文)では、事象34が常に動作主体の 意図的な行為によって生じられるという特徴が見られるが、非意図的な他動詞 文が持つ事象はそのような性質が欠落している。日本語の場合に、言語として 表現するときには、形態上同じくヲ格を持つ他動詞構文同士であるが、後者が 常に意図性を欠いているという点においては、他動詞構文のプロトタイプから 拡張した非典型的なものだと考えてもよいと思う。その両者の違いを見極める ために、それぞれの事象構造における行為連鎖と因果関係を分析することを欠 かしてはいけないと考える。筆者は本章で主に、従来の二段階性の因果関係概 念とは違って、それにさらにコントロール性を入れるという三段階性の観点で 非意図的な他動詞事象連鎖を新たに検討したいと思う。また、前者が持つ他動 詞事象と区別するために、以後後者のことを非意図的な他動詞事象と称する。
本章は、まず 3.2 では、非意図的他動詞の事象連鎖が持つ他動性の意味特徴 から紹介することにより、さらに筆者が提案した三段階性の連鎖とそれを<意 志性>、<コントロール性>と<受影性>にする理由について論じていきたい。
3.3 では、非意図的な他動詞文における事象の連鎖過程を説明することにより、
さらに分類し個別に紹介していく。最後に、3.4 では、結論を述べる。
3.2 非意図的他動詞の事象連鎖が持つ他動性の意味特徴について
34事象(event)というのは、日常生活の出来事、活動・動作さらに結果状態にいたるまで、
これらをすべて一括して含めるものである。従来認知言語学での分析では、事象の捉え方とし て Langacker(1991)などの学者は、動作主から対象物への働きかけ、そしてその働きかけの 結果によって生じる状態が発生する一連の過程を行為連鎖(action chain)という主張と提案 して、世の中の事象が成す因果関係を説明している。(このような考え方は学者によりそれぞ れの名称があるが、総称的にビリヤードモデル(billiard-ball model)と呼ばれている。)そ して、行為者から結果状態への連鎖という使役行為を基本的スキーマのひとつと設定されてい る点からわかるのは、使役行為を含む構造が典型的な事象であるということである。(その理 由は、影山(1996:47)によると、ビリヤードモデルを提案する学者が英語圏すなわち「スル」
型言語を母語とする人間であることに関連するかもしれないと言及されている。)
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3.2.1 動作主(行為者)のプロトタイプからの拡張
前章からここまで見てきたように、従来典型的な他動詞構文の事象連鎖にお いては、原因(「動作主-行為」)と結果(「対象-状態変化」)という因果関係 が存在している。黒田(1992:54)は「もともと行為とは、自分の動作で世界 に一定の変化を起こすこと、いわば自分自身が世界の変化の原因になること」
と述べ、動作主(行為者)が事象の中に原因となることと指摘している。つま り、原因である主語は、動作や行為を行う動作主(行為者)として事象の過程 に参与しているともいえる。吉村(2004)は、認知言語学における動作主が意 図と働きかけを持った参与者であると考え、さらに動作主が有する意味属性を 次のようにまとめている。
(1)「動作主カテゴリー」を構成する意味属性
(a)対象と区別できるはっきりとした個体である。
(b)事態の発生に対して「責任」を負っている。
(c)文の話題となる。
(d)意図的に行為し、事態をコントロールする力を持っている。
(e)物理的な接触を介して対象に影響を与える(=受影性)
(f)対象に対して支配的な立場にある。
吉村によれば、(1)のすべての特徴を満たしている主語は動作主のプロトタ イプであると言える。例えば、例(2)における主語の「ジョン」のようであ る。
(2)ジョンは棒で窓を割った。(吉村 2004)
(3)人がいない場所の電気は消し、長時間の外出時は電気便座も電源を切っ た。(毎日新聞 2005 年)
(4)ラムは(わざと)コップを割った。(作例)
(5)市教委と校長によると、昨年11月8日、校長はグラウンドで行われた 朝会で、「がまの油売り」の口上を実演。居合用日本刀の模造刀(刃渡り約 80センチ)を数回振り、長さ約20センチの大根を切った。(毎日新聞 2005 年)
しかし、非意図的な他動詞事象の場合は他動性の周辺的な成員であるので、
主語が(10)のような動作主のプロトタイプにはなりにくい。前章で述べたよ
31 章で Hopper and Thompson(1980)が提案している「他動性の 10 の意味的 特徴」を参照)意図的であるために、その前提として通常、意志性を有する
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に反映しているのは意志性のみではなく、ほかの他動性特徴(とのかかわり)
についても考慮する必要があると考える。
従来意志性に関わる研究として、大鹿(1987)は文の「意志性」について、
以下のような説明をしている。
“大鹿(1987)
さて、文における意志という場合それは取りも直さず主語の意志で あり、述語はそれに応じる意志性を持っている。このような場合、文
に意志性があると述べてきたのであるが、それは文の意味に即してい えば文の意味する事態の出来が主語に由来するということである。
(中略)それは事態出来の原因者が主語であるということでもあり、
事態そのものは結果であるということでもある。(下線は筆者)“
以上からわかるのは、主語の指示対象が「そうしたい」と思って「そうす る」という意味で、事態の原因者となるということである。そこから、意志と いうものが事態の原因に深く関わっていると再び説明してくれる。また、金水
(2009)はそれを命題内(scope within proposition)の意味と主張し、日本 語の「意志性」を対象として、さらに意志性の階層性を次のように提案してい る。
(7)意志性の階層性35:
例えば、例(8)を挙げてみると、以下のような意志性階層を示している。
(8)泥棒が鍵を壊した。
35 金水は、主として意志性の階層性を用いることにより、「シテアル」構文の表す意志性を 把握している。また、その中の意志性3(主観的意志)は益岡(1987)が提案した「B型シテ アル構文」の固有の意味で、その場合の主語は必ず一人称者(疑問文なら二人称者も可)でな ければならない。(しかし、埋め込み文にすれば三人称も可能になる)
発話現場的 意志性3 (主観的意志)
命題外的 意志性2 命題内的:意志性1
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しかし、(9)といった事態は意志性1を含まないから、意志性2までの読み ができなくなる。
(9)今日、私の部屋で鍵を失くした。(作例)
金水によれば、意志性1とは事象の中で主体によってコントロールされ、与 えられる因果関係の一つを指すことである。また、意志性2に埋め込み可能な もののみを意志性1とすると主張している。逆に言えば、意志性2を読み取ろ うとすることができるものである。しかし、例(9)の「(鍵)を失くす」とい う事態において主体による因果関係が見られるが、主体が持つ事態のコントロ ール性はそれほどなく、意志性2も読み取りがたい。この点から見れば、(9)
は意志性1の範疇に入らないと考えられる。
ここまで述べてきたものをふまえて、筆者は次の二点を主張したい。
① 意志性は他動性のプロトタイプの特徴の一つであるが、それだけでかならず 他動詞節のコード化ができるとはいえない。非意図的な他動詞文のように、
意志性がみられないが、他動詞構文の形態をとることができる。この場合に は、むしろ意志性よりほかの他動性特徴(特に受影性)の影響が大きいと思 われる。
② 意志性には、例(8)のような主体のコントロールによる因果関係の意志性 1(意志性 2 にまで拡張できるもの)が見られるが、例(9)のような主体の 完全なるコントロールができないものもある(意志性 2 を読み取る可能性が ない)。言い換えれば、非意志性の場合においては、意志性1の喪失による 非意志性と、もともと意志性1を含まない非意志性という二種類が観察され る。(動詞そのものの性質にも関っていると考える。つまり、意志性の喪失 は統語的特徴によるものと語彙自身によるものという二つに分けられると 考える。)
この二点の理由によって、非意図的な他動詞事象の中においては意志性と受
この二点の理由によって、非意図的な他動詞事象の中においては意志性と受