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VoiP と Sp の結合の仕方について

第二章 ヴォイスの構造について

2.5 VoiP と Sp の結合の仕方について

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55 形図を簡略して示すと、

(17)b’.

になるが、星の分析によると「EventPの主要部が事象解釈に関わる素性を担って いる」63ので、Spと違って名詞句でないことは明らかである。また、日本語は主 要部後置言語なので、名詞句であるSpをSpPの主要部とすると、(17b)ではなく

(17)b’’[SpP [VoiP NP[EA] [Voi’ vP Voi]] Sp]

のような構造になってしまう。故に、①の考えは無理である。

一方、②を取る文献は井上(2009)に見られる。井上(2009)によると、Kiss

(2002)64はハンガリー語の主語の位置について、(17 c)のような樹形図で分析 している。井上の説明によると、TopPの指定部は「SUBJ(主語)の位置として いる」ので、名詞句である。これをそのままSpの分析に応用すれば、(17b)の ような構造になるが、SpPに主要部がない。主要部がなければ、そもそも句を形 成できないはずなので、②にもやはり問題がある。

63 星自身の注によると、「しかしながら、事象に関する素性を担う機能範疇が EventP でな ければならないという理論的な理由はない……軽動詞である v が事象に関する素性を担い、

事象述語(eventuality predicates)として振る舞う可能性もあり、その場合には軽動詞として 抽象的な CAUSE という事象述語が生起していれば、その動詞は被影響性を示す動詞とみな すことができる」と述べ、また本文にも「中日間接受身の違いは(i)受身動詞という語彙範疇

(lexical category)の違い、(ii)Event という機能範疇(functional category)に指定されている 素性の違いに還元できるということになる。これは、言語の統語構造や統語操作は普遍的 であり、言語間の差異は素性の束となってレキシコンに蓄えられている語彙範疇や機能範 疇にあるという極小主義プログラム(Minimalist Program)に沿ったパラメータ理論の初期 の考え方と符号(ママ)する」と述べている。筆者は、非能動態である受身・可能・自発など についてそれぞれの違いを示すのに、素性は有効な手段であると考えているが、「統語構造」

にそぐわないものに出会うと、それを素性扱いすればいいというのは、生成文法にとって は一つの憂慮すべき傾向として考えるべきではないか、と思われる。このやり方では「統 語構造」の純粋性を保持することができるが、「語彙範疇」や「機能範疇」は膨らむ一方で、

しまいにはカオスになるのではないか、と危惧しているのである。

64 Kiss, Katalin(2002)The EPP in a Topic-Prominent Language. In P. Svenonius (ed.) Subjects,

Expletives, and the EPP, 107-124. Oxford University Press.

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(17)c.

最後に、Sp を名詞句ではなく、「抽象的要素」と見なして SpP の主要部とする 考えである。このような分析を行う文献には長谷川(1999)、三原・平岩(2006)

などがある。長谷川を代表として引用する。

(17)d.

長谷川は、「TopP の主要部にあたる音形を持つ要素は」ないので、「抽象的要 素」としておき、(17d)には「①IP 内部の要素が移動してくる場合」と「②IP の要素とは独立して生起する場合」があり、「いずれの場合も、TopP 以下の文(IP)

は、Topic の要素の存在によって、文脈・会話状況と関連を持ち、その流れに組 み込まれる」と説明している。この分析を応用すれば、ヴォイスの構造は

(17d’)[SpP NP [Sp’ [VoiP NP[EA] [Voi’ vP Voi]] Sp]]

になる。この分析では、Sp をを独立する要素として分析しながら、(17b’,c)の 分析に見られる問題を解消できるが、そもそも句の主要部に「抽象的要素」を 立てるのは、果たして正当な分析といえるのか、という問題がある。

以上、VoiP と Sp の結合に関するいくつかの可能性について検討した。それぞ れ問題があるので、優劣をつけにくいが、本稿では一番無難である(17a)の構

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造を取ることにする。ただし、VoiP の指定部に位置する Sp が、VoiP の主要部に 位置する Voi の性質を規定する、という但し書きを付け加える。

(17)a.[VoiP Sp [Voi’’ NP[EA] [Voi’ vP Voi]]]

ところで、(17a)の構造によって(16a)のような能動を分析すると、

(16)a.太郎が 次郎を 殴る(nagur-φ-φ-u)

a’.[VoiP 太郎ガ [Voi’ [vP 太郎 [v’ [VP 次郎 殴 r] φ]] φ]]

a’’.[VoiP Sp [Voi’ vP Voi]]

のように、Sp が動詞句の NP[EA]なので、VoiP には NP[EA]がない。また、非対格 動詞の場合、

(18)a.子が 死ぬ(sin-φ-φ-u)

a’.[VoiP 子ガ [Voi’ [vP [VP 子 死 n] φ] φ]]

a’’.[VoiP Sp [Voi vP Voi]]

b.親が 子に 死なれる(sin-φ-are-ru)

b’.[VoiP 親ガ [Voi’’ 子ニ [Voi’ [vP [VP 子 死 n] φ] are]]]

b’’.[VoiP Sp [Voi’’ NP[IA] [Voi’ vP Voi]]]

(18a’’)のような能動の場合、Sp が動詞句の NP[IA]であり、VoiP に項がない。

また(18b’’)のような間接受身の場合、Sp が新しい要素の NP[A]であり、VoiP にあるのは NP[IA]である。つまり、状況によって VoiP には vP の NP[EA]が移動し たり NP[IA]が移動したりし、また移動しない場合もあるので、それを単に NP[EA]

か NP[IA]と書くのは不適当である。しかし VoiP に移動するのは常に vP の主語な ので、それを S と呼ぶことにする。するとヴォイスの構造を

(19)a.[VoiP Sp [Voi’’ (S) [Voi’ vP Voi]]]

b.

と一括することができる。

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58 2.6 おわりに

以上でヴォイスの構造を規定したが、動詞句と結合し、さらに時制句を付け て一つの文を作るには、如何にすればいいかという問題は、次章で扱う。

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