日語態的結構分析研究 ―以被動為中心 - 政大學術集成
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(2) 謝辞 この論文の完成にあたり、多くの方からご協力をいただきました。 まず、学部の時から、ずっとご指導・ご鞭撻をなさってきた吉田妙子先生に、 厚くお礼を申し上げたいです。先生の学問に対する熱情・鋭い問題意識を、常 にそばから学ばせていただきました。そして一時期勉強から離れた間でも、先 生から絶えずご心配・ご叱咤をくださったこと、心から感謝しております。 そして、温和で、常に微笑みを湛えてやまない蘇文郎先生から、日本語学の 基礎を学びました。先生のおかげで、言語学の知識だけでなく、その面白さも わかるようになったのです。ここに感謝いたします。 また、于乃明先生を、いつ卒業するかとずっと心配させてしまって、いつも 申し訳なく思い、かつ感謝しております。そして先生の朗らかな人柄、親身な 対応から、筆者は大いに励まされました。 先輩の王蓓淳先生からは、論文の問題点のご指摘、先行文献のご紹介をいた だきました。先輩に多大な迷惑をおかけしてしまいましたが、その甲斐(?) あってこの論文を完成できたと思います。心から感謝いたします。そして先輩 を紹介してくださった吉田先生にも感謝いたします。 ほかに吉田先生が行われた読書会に参加した先生方からも、論文について討 論していただいて、ありがとうございました。そのために論文に不足なところ があることに気付きました。 そして奨学金を提供してくださった真如苑仏教会にも感謝しております。そ のおかげさまで 2009 年の夏、参考文献と論文資料を探すために、日本へ行く ことができました。 また、横山先輩、秉杰、志傑をはじめとする、かつて一緒に勉学した友人た ちにも、お礼を言いたいです。今になってもう久しいことになったが、その時 言語学について楽しく話し合ったことは、今も覚えています。 最後に、何年も勉強を放ったらかして、勝手気ままに過ごした自分を、我慢 強く見守ってきた家族を感謝します。 このように、この論文は多くの方のご協力なしには、とうてい完成できなか ったでしょう。ここで深く感謝の意を表したいと思います。. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. i n U. v.
(3) 日語態的結構分析研究 ―以被動為中心 摘要 本論文旨在透過生成語法的理論,來研究日語態(voice)的結構。在本論文 中,一方面將動詞述語句視為「動詞句—態—時態(tense)」的一個連續體,一方 面在分析上先將其區分為「動詞句」及「態」的兩個獨立的部份,並利用語彙概 念構造(LCS)‧認知語言學等研究的成果來分析其構造,再將上述的構造與「時 態句」結合起來,藉此探討動詞述語句的內在結構。 本文共分為緒論及四個章節。在緒論,說明本論文的研究目的‧方法‧架構 以及研究範圍。在第一章「論動詞句結構」中,首先將動詞句的結構分析為動詞 詞根及詞綴的部份,論述其各自擁有相異的功能,並對於並非僅僅有對動詞存在 詞綴的部份,就連無對動詞也有詞綴一事加以論證。在第二章「論態的結構」中, 首先將態分為主動態及非主動態兩種,藉此論述態的結構可分析為態詞綴的部分, 以及決定態的種類的名詞句的存在,並將該名詞句稱為「立場(Standpoint; Sp)」 。 在第三章「論動詞句與態的結合—以被動為中心」中,藉由前兩章分析得到的動 詞以及態的結構,以實例說明如何分析主動句‧直接被動句‧間接被動句以及存 現句。最後的第五章為結論。 根據過去生成語法的研究,被動句都是以「格吸收」的方式分析。而本文則 對此方式提出疑問,並以利用「立場」名詞句的分析加以取代。. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. i n U. v. 關鍵字:動詞句、態、主動態、非主動態、詞綴、態詞綴. Ch. engchi.
(4) 日本語におけるヴォイスの構造 ―受身を中心に― 要約 本論の目的は、生成文法の方法を用いて、日本語におけるヴォイスの構造を 研究することである。本稿では、動詞述語文を「動詞句―ヴォイス―時制句」 の連続体と見なしながら、一旦「動詞句」と「ヴォイス」の二つの部分に分け て、語彙概念構造・認知言語学などの知見を取り入れて検討し、それぞれの構 造を明確にし、そしてまた「動詞句」と「ヴォイス」さらに「時制句」を結合 して、その内部構造を明らかにする。 本稿は序章と四つの章で構成される。序章では本稿の研究動機・方法・構成 そして範囲を示す。第一章「動詞句の構造について」では、動詞句を動詞語根 の部分と接辞の部分に分け、それぞれ異なる機能を持つことを示し、そして有 対動詞だけでなく無対動詞にも接辞があることを論証する。第二章「ヴォイス の構造について」では、まずヴォイスを能動態と非能動態に二大別し、それに よってヴォイスには態接辞の部分そして態を規定する名詞句の部分があること を論じ、その名詞句を「立場(Standpoint; Sp)」と名付ける。第三章「動詞句と ヴォイスの結合について―受身を中心に―」では、第一章および第二章で論じ た動詞句とヴォイスの構造を利用して、能動文・直接受身文・間接受身文そし て現象文を如何に分析するかを実例を持って説明する。最後の第五章は結論で ある。 従来の生成文法の研究では、受身文は「格吸収」という手法で分析されてき たが、本稿ではその手法に疑問を呈し、代わりに立場という名詞句を用いて分 析を行った。. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. i n U. v. キーワード:動詞句、ヴォイス、能動態、非能動態、接辞、態接辞.
(5) 目次 序章 0.1 0.2 0.3 0.4. 研究動機と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・01 研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・01 本稿の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・01 研究範囲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02. 第一章 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8. 動詞句の構造について はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・03 先行研究と問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・03 有対動詞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・06 無対動詞-接辞について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 項について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 文法格および意味格の認定について・・・・・・・・・・・・・・・23 ほかの動詞句について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. Nat. y. sit. n. al. er. io. 第二章 ヴォイスの構造について 2.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 2.2 先行研究と問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 2.2.1 類別的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 2.2.2 統合的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 2.2.2.1 水口・小川・定延(1994)・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 2.2.2.2 尾上(1998-99,2003)、川村(2004,2005,2012)・・・・・・・・・34 2.2.3 統語的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2.2.3.1 井上(1976)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 2.2.3.2 長谷川(1999)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 2.2.3.3 三原・平岩(2006)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 2.3 本稿におけるヴォイスの分類および種類の認定について・・・・・・45 2.4 ヴォイスの構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 2.5 VoiP と Sp の結合の仕方について・・・・・・・・・・・・・・・・54 2.6 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58. Ch. engchi. i n U. v.
(6) 第三章 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7. 動詞句とヴォイスの結合について―受身を中心に― はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 文の形成規則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 能動文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61 直接受身文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 間接受身文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71 現象文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82. 第四章 結論 4.1 日本語のヴォイスについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 4.2 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83. 立. 政 治 大. 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. i n U. v.
(7) 序章 本論の目的は、日本語におけるヴォイスの構造を明確にすることである。 0.1 研究動機と目的 日本語のヴォイスというと、直接受身・間接受身・使役をはじめとして、可 能・自発などがあるとされてきた。ヴォイスの研究書では、ヴォイスの定義、 およびその定義によるヴォイスの種類の認定は異なるが、ヴォイスというカテ ゴリーがあること、そのカテゴリーには上述のものなどがあることが自明なこ ととして扱われている点では同じである。 しかし、例えば英語では、ヴォイスには能動と直接受身の対立しか見られな い。このように言語によってヴォイスの数・種類の相違が見られるが、これは ヴォイスの種類を中心(能動・直接受身)と周辺(その他)に分けて見るべき ことなのか、それとも「英語だから」「日本語だから」と割り切るべきなのか、 さらには以上の現象を一括できるようヴォイスそのものを再定義すべきなのか、 などの問題が考えられる。 ところで、普遍文法を標榜する生成文法においては、ヴォイスを再定義する どころか、ヴォイスそのものを捨て、それぞれを「○○構文」として取り扱っ ている。一方、認知言語学では、逆に対格言語だけでなく、能格言語を含めて ヴォイスを捉えようとしている。 このように相反した立場を取る生成文法と認知言語学の方法を、如何に統合 して日本語のヴォイスを考察するべきかを考察することが、本稿の狙いである。. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. i n U. v. 0.2 研究方法 本稿では、上述のように生成文法と認知言語学の知見によって日本語のヴォ イスを考察することであるが、簡単にいうと、認知言語学によって捉えられた ヴォイスの定義を、生成文法による分析の中に取り入れて、これまでの生成文 法と違う分析を提示することである。しかしヴォイスを分析する前に、それの 根幹ともいえる動詞句の構造を明確にしなければならない。そのために従来の 研究をよく吟味し、必要があれば語彙概念構造などの方法を利用して、動詞句、 そしてヴォイスの構造を研究する。 0.3 本稿の構成 本稿の構成を簡潔にまとめると以下のようになる。 序論:研究動機・方法・範囲を示す 1.
(8) 第一章:動詞句の構造を明確にすること 第二章:ヴォイスを規定し、その構造を明確にすること 第三章:以上の構造を用いて、受身を中心に動詞述語文を分析すること 第四章:結論 0.4 研究範囲 本稿は、ヴォイスの研究であるが、実際の分析は能動そして受身を中心とし ている。また、本稿は基本的に共時的研究であるが、動詞句を規定するために、 通時的分析を行うこともある。なお、動詞句の構造を論じるが、複合動詞の場 合を除外する。. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. 2. i n U. v.
(9) 第一章. 動詞句の構造について 1. 1.1 はじめに この章においては動詞句の構造を扱う。1.2 では動詞句の構造に関する先行研 究およびその問題点を検討する。動詞を自他対応の有無という観点から有対動 詞と無対動詞に分け、1.3 では有対動詞について考察し、動詞そのものを動詞語 幹の部分と接辞の部分に分ける必要があることを論じる。1.3 の結論を踏まえて、 1.4 ではそれが無対動詞にも該当するかどうかを検討する。1.5 ではあらためて 動詞句の項について、1.6 では文法格および意味格の認定について、1.7 では 1.6 まで論じなかった動詞句について簡単にふれる。. 政 治 大. 1.2 先行研究と問題点 動詞句の構造は、生成文法の発展につれ、いくつかの形が提示されてきた。 例えば、名詞句と動詞が結合すれば、動詞句になる。これをレベル付き括弧表 示(Labeled Bracketing)で示すと、. 立. ‧. ‧ 國. 學. (1)[VP NP V]. Nat. n. al. er. io. sit. y. になるが、動詞句内主語仮説(VP-Internal Subject Hypothesis)に従えば、先に名 詞句と動詞が結合した要素と、さらに一つの名詞句が結合する。つまり、 (2)[VP NP1 [V’ NP2 V]]. Ch. engchi. i n U. v. になる。その中の NP1 は外項で主格名詞句であり、NP2 は内項で対格名詞句であ る。例えば「太郎がコップを壊す」は、. 1. 序章でも述べたように、ヴォイスを分析する前に、それの根幹ともいえる動詞句の構造を 明確にしなければならないのである。特にレベル付き括弧表示・樹形図を用いて文を分析 する生成文法では、動詞句そのものの構造をただ自明のものとして扱うなら、そもそもヴ ォイスも分析できないはずである。実際、1.3 で考察したように、動詞を語根の部分と接辞 の部分に分け、語根にも接辞にも独自の機能がある、という立場を取るなら、そして外項 名詞句があればそれは接辞を主要部とする句の指定部に位置しなければならない、という 分析が正しいなら、非能格動詞と非対格動詞の構造は同じく[VP NP V]ではなく、1.5 の(51) で示したように更に複雑なもののはずである。また、文法格および意味格の規定・種類を 明確にしなければ、そもそも格付与できるはずがない。故に直ちにヴォイスを論じるので なく、その前に動詞句の構造を考察するのは回り道ではあるが、ヴォイスを論じるのには 避けて通れないことであろう。. 3.
(10) (2’) [VP 太郎 [V’ コップ 壊 s]] と表示する 2。これは動詞句の一番標準的な形であるが、必要に応じてさまざま な形の動詞句も提案されている。例えば三原・平岩(2006) 3は、動詞句を意図 的働きかけを表す部分(νP)と、動作の開始(及び継続や終了)を表す部分(VP) に区分し、動作主主語が前者の領域に生成するとして、主語に意図性がある場 合、音形を持たない抽象的な動詞ν(小動詞;Small Verb)を設定し、それによっ て主語に動作主の意味役割を与える仕事を行う、としている。 (3)[νP 動作主主語 [ν’ [VP 目的語 V] ν]]. 政 治 大. 一方、意図性が関わらない原因主語に νP を設定する必要がないので、. 立. (4)[VP 原因主語 [V’ 目的語 V]]. ‧ 國. 學. ‧. のような構造になる。 また、長谷川(1999)では、結果構文を分析するために、「VP の上にもう一 つの VP(υP と表記)が殻(shell)のように覆っており、υP-VP 全体でこれまで 一つの VP で表してきた構造に対応する」VP シェル構造を採用している。. sit. y. Nat. io. n. al. er. (5)[υP NP1 [υ’ [VP NP2 [V’ XP V]] υ]]. i n U. v. ここの NP1 と NP2 は(2)と同じく、それぞれ外項名詞句と内項名詞句のことで あるが、XP は「結果句」である。例えば「太郎がコップを粉々に壊す」は、. Ch. engchi. (5’)[υP 太郎 [υ’ [VP コップ [V’ 粉々に 壊]] s]] になる。 さらにHoji(1985)は間接目的語を取る構文に注目し、いくつかの例文を論証 している。例えば 4、 2. ここで「壊す」ではなく「壊 s」と書いたのは、語尾「u」「ru」が時制の要素である「時 制辞」として考え、それ自体「時制句(Tense Phrase; TP)」をなしているためである。 3 以下、動詞句構造の提示および説明にあたっていくつかの先行文献を紹介するが、それぞ れの説は当文献の作者によって最初に提出されたか明らかではないので、例えば「三原・ 平岩(2006) 」と書いてもそれは当説の提出者という意味ではなく、あくまで当説の出典の 一つであるという意味に過ぎないことを、ここで説明しておく。 4 (6,7)の日本語は、筆者によって書き換えたものである。. 4.
(11) (6)a.Mary-ga [Johni-no (atarasii) sensei]-ni karei-o syookaisita (koto) メアリが [ジョンiの(新しい)先生]に 彼iを 紹介した(こと) b.*Mary-ga karei-ni [Johni-no (atarasii) sensei]-o syookaisita (koto) *メアリが 彼iに [ジョンiの(新しい)先生]を 紹介した(こと) (6b)が非文なのは、 (7)X cannot be an antecedent of Y if Y c-commands X. (Y が X を c 統御すれば、X が Y の先行詞にならない) という規定に違反するためである。つまり、(6b)の「ジョン」が「彼」の先 行詞にならないのは、「彼」が「ジョンの(新しい)先生」をc統御するからで ある。これは、二重目的語構文の与格名詞句が、対格名詞句より上に位置する、 ということを意味するにほかならない。また、三原・平岩も、束縛変項(Bound Variable)のテストによって、. 立. 政 治 大. ‧ 國. 學. ‧. (8)a.教務課は全ての留学生にチュータを紹介した。 b.教務課はチュータに全ての留学生を紹介した。. Nat. y. sit. n. al. er. io. を論じている。束縛変項とは、「複数の意味を持つ要素にc統御される結果、本 来的には単数の意味を有する実体が複数の意味を帯びるもの」であるが、(8a) の「チュータ」が単数か複数かどちらの解釈も可能であるが、(8b)の「チュ ータ」は一人という解釈しかない。つまり、(8a)の「全ての留学生」が「チ ュータ」をc統御する位置にあるが、逆に(8b)の「全ての留学生」が「チュー タ」をc統御しない位置にある、ということである。 以上の論証により、Hojiは二重目的語構文を. Ch. engchi. i n U. v. (9)[VP NP-ni [V’ NP-o V]] という構造で規定している。 以上、簡単にいくつかの動詞句の構造を紹介したが、しかし、例えば 4 ペー ジ目で述べた結果構文を分析するのに、なぜ長谷川の提案したVPシェルのよう な構造でなければならないのか、つまり構造の必然性がはっきり示されていな い。また、主格および対格といった文法格を持つ名詞句の位置関係については どの動詞句構造においても重点を置かれている一方、 「大阪から」 「ナイフで」 「東 京へ」など、後置詞によって付与される意味格を主要部とする後置詞句につい 5.
(12) ては、Hojiを除けばさほど考慮に入れられていないようである。しかし、文の必 須要素ならぬ付加詞(Adjunct)の場合はともかくとして、項(Argument)であ る後置詞句の位置が示されていない動詞句構造では、日本語の動詞述語文の 種々相を分析するにはやはり限界があるだろう 5。以下、寺村(1982)、小泉他 編(1989)、日本語記述文法研究会(2009)などを参考にし、動詞句の構造を有 対動詞・無対動詞の順番で考察する。 1.3 有対動詞 まず、有対動詞から見よう。有対動詞とは、自動詞か他動詞かを示すマーカ ー 6および、共通の語根を持つ動詞のペアのことである。例えば 7、. 政 治 大. (10)a.太郎が ドアを 閉める(sim-e-ru) b. ドアが 閉まる(sim-ar-u) (11)a.太郎が 魚を 焼く (yak-φ-u). 立. ‧ 國. 學. 5. ‧. 日本語記述文法研究会(2009)によると、動詞述語の文型は[φ]、[ガ]、[ガ、ヲ]、[ガ、 ニ]、[ガ、ト]、[ガ、カラ]、[ニ、ガ]、[ガ、ニ、ヲ]、[ガ、ヲ、ニ]、[ガ、カラ、ヲ]、[ガ、 ヲ、カラ、ニ]の 11 種であるが、文法格だけを持つ文型は 2 種しかない。また、文型ごとに さらに細分化した用法を合わせると 32 種あるが、文法格だけを持つ用法は全部で 11 種なの で、従来の動詞句構造で全体の三分の一強の用法しか表示できないことになる。結果構文 や二重目的格構文を分析するための動詞句構造もあるが、それらの用法を足しても 15 種な ので、やはり全体の半分の用法も表示できない。 6 村木(1991)によると、①語が語形変化の有無によって「語幹-語尾」、または②自立的 な形式かどうかによって「語基-接辞」と分析されている。そして③「たがいに派生関係 にある複数の単語間に共通する形式」は「語根」である。以上の定義によると、例えば他 動詞「切る(kiru)」の場合、①に従えば「kir-u」になり、②に従えば(接辞「ます」を付 けて)やはり「kir-imas-u」となり問題がないが、同じ語根「kir」を有する自動詞「切れる」 だと、①の定義に従う限り「kire-ru」、また②によっても「kire-mas-u」と分析しなければな らない。では、語幹・語基にあり語根にない「e」とは何なのかというと、筆者の知る限り、 特に定まった名称が与えられていないようである。影山(1996)は、他動詞「植える」か ら派生されたとされる「植わる」などの脱使役化自動詞の「-ar-」を「自動詞化接辞」 「接尾 辞」と呼んでいる。つまり「植わる」を「語根-接辞-語尾(uw-ar-u)」として分析するの である。 「ar」を「(i)mas」 「(r)are」などと同列に扱っていいかという疑問が残るが、現時点 より適切な用語が見つからないので、本稿も「植わる」の「ar」や「切れる」の「e」とい った部分を「接辞」と扱い、 「語根-接辞-語尾」で表記することにする。また、影山(1996) に従い自動詞であることを示すマーカーを「自動詞化接辞」、他動詞であることを示すマー カーを「他動詞化接辞」と呼ぶことにする。なお、自動詞と他動詞を合わせていうとき、 単に「自他」と呼ぶことにする。なお、 「(r)are」 「(s)ase」などヴォイスを表す接辞は「受身 接辞」「使役接辞」、または区別せず単に「態接辞」と呼び、 「自動詞化接辞」「他動詞化接 辞」と区別することにする。 7 以下にあげた例は「タ」形ではなく「ル」形で表示したのは、これらの例が文ではなく、 全体として一つの句であることを示すためである。つまりここの「ル」は時制辞ではなく 動詞の辞書形として考える。ただし名称に固執せず、これらの例を文と呼ぶこともある。. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. 6. i n U. v.
(13) b. (12)a.太郎が b.. 魚が 焼ける(yak-e-ru) マンションを 建てる(tat-e-ru) マンションが 建つ (tat-φ-u). (10)の「sim」、(11)の「yak」、そして(12)の「tat」は共通の語根であり、 「e」「ar」 「φ」 8は自他を示すマーカー、つまり接辞である。 また、(10a,11a,12a)など他動詞の場合、主格を取るのは動作主であり、対格 を取るのは対象である。一方、 (10b,11b,12b)のような自動詞の場合は(対格で なく)主格を取るのは対象であり、動作主が示されない。以上のことを踏まえ て、有対動詞の場合、. 政 治 大. (13)a.動詞に共通の語根を持ち、接辞によって自他を示す b.自他を問わず対象を持ち、自動詞であれば対象が主格を持つが、他動詞 であれば対象が対格を持ち、動作主が主格を持つ. 立. ‧ 國. 學. とまとめられるだろう。(13b)は有対動詞だけでなく、すべての動詞に共通す る性質といえるが、(13a)と併せて考えると、. ‧. n. al. er. io. sit. y. Nat. (13)b’.接辞の自他を問わず対象を持ち、そして自動詞化接辞であれば対象が 主格を持つが、他動詞化接辞であれば対象が対格を持ち、動作主が主 格を持つ. i n U. v. と書き換えられる。 「接辞の自他を問わず」というのは、つまり接辞は「対象を 持つ」ことに関与しない、ということであるが、対象が主格または対格を持つ か、動作主が存在するかは接辞の性質によるので、. Ch. engchi. (13)c.自他、動作主の存否、および、対象への対格または主格の付与に関与す るのは接辞であるが、対象の存否に関与するのは語根である と言えるだろう。主格と対格はふつう文法格と呼ばれ、動作主を表し主格を取 る項が外項、対象を表し対格を取る項が内項と呼ばれるので、(13c)はまた. 8. (11)の他動詞、 (12)の自動詞を「yak-u」 「tat-u」ではなく、 「yak-φ-u」 「tat-φ-u」と表 記したのは、一方は接辞によって、他方は語根によって自他を示すというのではなく、音 形を持たないが意味と内容を持つ「φ」として存在するような接辞を想定して、自他とも に接辞によって示すと考えたほうが、形態的にも機能的にもつじつまが合うためである。. 7.
(14) (13)c’.自他、外項の存否、および内項への文法格の付与に関与するのは接辞 であるが、内項の存否に関与するのは語根である と書き直すことができる。続いて次の例を見よう。 (14)a.太郎が. 庭に. 木を. 植える(uw 9-e-ru). b. 庭に 木が 植わる(uw-ar-u) (15)a.太郎が 車に ボールを ぶつける(butuk-e-ru) b. 車に ボールが ぶつかる(butuk-ar-u) (16)a.農民が 大豆から 油を 取る(tor-φ-u) b. 大豆から 油が 取れる(tor-e-ru) (17)a.太郎が 服から ボタンを 外す(hazu-s-u) b. 服から ボタンが 外れる(hazu-re-ru). 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. (14)の「庭に」、(15)の「車に」のような着点、そして(16)の「大豆か ら」、 (17)の「服から」のような起点のような意味格名詞句が、必須項であり、 自他ともに与えられる。また、. io. sit. y. Nat. (12)a’.太郎が(空き地に)マンションを 建てる(tat-e-ru) b’. (空き地に)マンションが 建つ (tat-φ-u). n. al. er. から分かるように、単に「マンションの建設」という出来事にだけ注目するか、 それとも「建設場所」にも目を向けるかは、自動詞であるか他動詞であるかに 関わりがないので、語根によって決まるのでなければならない、ということに なる。つまり、語根が動詞句の表す意味を担う部分である。したがって、. Ch. engchi. i n U. v. (13)d.意味格およびそれを取る項を持つかどうかに関与するのは、語根である である。ところで、授受表現の場合、 (18)a.太郎が 次郎に 数学を 教える(osi-e-ru) b.次郎が 太郎に 数学を 教わる(osow 10-ar-u) 9. 「u-e-ru」ではなく「uw-e-ru」と表記したのは、共通の語根をはっきりと示すための便宜 的処置である。(12)の「tat-φ-u」も、(15)の「butuk-e-ru」 「butuk-ar-u」なども同様。 10 「教わる」の語根「osow」は「教える」の語根「osi」と違うが、それは「osi」の異形態 と考えるべきだろう。. 8.
(15) (19)a.太郎が 次郎に ペットを 預ける(azuk-e-ru) b.次郎が 太郎から ペットを 預かる(azuk-ar-u) (18a,19a)の「次郎」は相手を示す間接目的語であり、その与格は着点である が、(18b)の「太郎」は動作主であり、その与格はむしろ起点と考えるべきで ある。 (19b)にいたっては奪格を取っている。また、 (18b,19b)の「次郎」は相 手でありながら、主格を取っている。 (18,19)のような例は通常の有対動詞ではなく、独自の性質を持っている。 この「独自の性質」とは、次の例を見て分かるように、直接受身の性質である。 (20)a.太郎が 次郎に 本を 渡す(wata-s-u) b.次郎が 太郎に 本を 渡される(wata-s-are-ru). 立. 政 治 大. sit. y. Nat. 11. ‧. ‧ 國. 學. (20b)は(20a)の直接受身であるが、その主格名詞句も与格名詞句も意味 役割が(18b,19b)と同じである。そして(18b,20b)の「太郎に」はまた「太郎 から」と置き換えてもいい。ゆえに、 (18b,19b)も(18a,19a)の直接受身として 考えるべきである。この考えが正しければ、 (18b,19b)はまず(18a,19a)の構造 を持つが、それにはさらに「ar」が付け加えられる、というふうに分析すべきだ ろう 11。ここでは暫定的に、以下のように分析する。より詳しい分析は第三章. n. al. er. io. しかし、この分析では、もとの動詞「預ける」などの「e」をどうやって処理すべきか、 という問題がある。「ar」が付け加えられたために「e」が取り外されるか、それとも「ar」 と融合して見えなくなるか、といくつかの可能性が考えられるが、あるいは「預ける」の 古語である「預く」(aduk-φ-u)に「ar」が付け加えられそのまま「預かる」になる、とも 考えられる。ところが「預く」は下二段動詞であり、その直接受身は「預けらる」なので、 「ar」が動詞の辞書形にそのまま付け加えられたのでなければ、やはり「e」の問題が出て くる。しかし動詞の未然形ではなく辞書形に付け加えたと考えるのであれば、「預かる」が 「預ける」の直接受身の派生形としては考えにくくなる。西尾(1954)は大言海の「(「古 くからある語」である) 〔預かる〕は、〔預けらる〕(下二)が約まって、活用を転じて〔あ づかる〕(ラ、四)となったものである」との説明を引用し、基本的に同意はしているよう だが、「比較的新しく出来た<-aru>式の自動詞〔言付かる〕〔勤まる〕等が一々〔いいつ けらる〕〔つとめらる〕等のプロセスをとって生またものとはとうてい考えられない」とも 述べている。そのほか「あづけある」の約とみる説もあることを付け加え、自分も歴史文 献を調べて「<-aru>式自動詞は……<-eru>他動詞ほどに古くまでは遡り得ない」とい う結論を得、 「他動詞から自動詞への派生(<-eru>→<-aru>)」との考えを出している。 以上のことから、①直接受身「らる」派生説、②「ある」の縮約説、③接辞「ar」派生説、 という三つの考えがあり、「預かる」のような古い「ar」動詞は受身による派生との可能性 があるが、その後「ar」が接辞となり、比較的新しい「ar」動詞は「類推」によって派生し、 「e」が「音韻転形ルール」によって「脱落」する(奥津(1967))、と整理できるだろう。 また、②に関し、影山(1996)は「-ar-」と「形態的に類似する」 「てある構文」を取り上げ、 それらを比較し、 「-ar-の場合、語彙概念構造で抑制された使役主は統語的には完全に存在を 失い、変化対象だけが内項としてリンクされるが、「てある」構文ではゼロの外項が生きて. Ch. engchi. 9. i n U. v.
(16) で行う。 (21)a.[[太郎が次郎にペットを預 k-e-]-ar-] →b.[[太郎が次郎にペットを預 k-φ-]-ar-](古語の形「φ」に変える) →c.[次郎が太郎にペットを預 k-(φ)ar-](「φ」と「ar」が結合する) →d.[次郎が太郎にペットを預 k-ar-] (21b)の手続きが必要なのは、結合してから「e」を音韻規則などによって 取り外すよりも、古語の「φ」に戻してから結合するほうが、余分な規則を立 てずに済むためである。そして、(18-21)の与格と奪格が(14-17)のそれと違 い、格の変換と移動が起こるので、文法格である。また、. 治 政 次郎に 家の留守を 預ける 大 次郎が 立 家の留守を 預かる. ‧ 國. 學. (22)a.太郎が b. (23)a.夫が 妻に 家の台所を 預ける b. 妻が 家の台所を 預かる. ‧. のように、預ける動作主が特に示されない場合もあるが、預けられる相手は必 ず明示されなければならないので、動作主と違って、相手を表す名詞句は語根 によって与えられる、と考えていいだろう。以上のことをまとめると、. io. sit. y. Nat. n. al. er. (13)e.語根は外項以外の項の存否、および意味格の付与に関与するのに対し、 接辞は自他、外項の存否、および文法格の付与に関与する. Ch. engchi. i n U. v. になる。すなわち、有対動詞が語根の部分と接辞の部分に分けられ、語根も接 辞も、それぞれ独自の働きをするので、語根だけでは有対動詞の性質を完全に は示すことができない、ということである。このことを動詞句の構造に反映す るためには、語根と接辞がそれぞれ一つの構造、つまり一つの句をなさなけれ ばならない。そして外項以外の項と意味格の付与は語根を主要部とする語根句 の要素であり、外項と文法格の付与は接辞を主要部とする接辞句の要素である。 語根句と接辞句はともに独立した句なので、それらを結合しなければならない いる」という結論を出しており、実際、格関係からみて、 「次郎にペットが預けてある」が (19b)とかなり違っているので、少なくとも授受構文に関しては②の説に無理があるだろ う。そして①と③についてどちらにおいても決定的な証拠がないので、本稿は、格および 意味役割との類似性から、暫定的に①に従い、これ以上立ち入らないことにする。なお、 以下、便宜的に「預ける」類の授受動詞を「e 授受動詞」、 「預かる」類の授受動詞を「ar 授 受動詞」と呼ぶことにする。. 10.
(17) が、内項に格を付与するのは語根ではなく接辞なので、接辞句が語根句をc統御 するところに位置しなければならない。ここで語根をV、接辞をv 12、外項(external argument)をEA、内項(internal argument)をIA、ほかの項をA 13と略し、動詞句 の構造を示してみる。 (24)a.NP[A] NP[IA] V→VP b.VP v→v’;NP[EA] v’→vP c.[vP NP[EA] [v’ [VP NP[A] NP[IA] V] v]] (24a)について、文法格を取る NP[A]と NP[IA]の位置関係は Hoji(1985)に従 うことになるが、意味格を取る NP[A]はどうだろうか。束縛変項によってテスト すると、. 立. 全ての庭に 木を 植える 庭に 全ての木を 植える 全ての車に ボールを ぶつける 車に 全てのボールを ぶつける. ‧. ‧ 國. 學. (14)a’.太郎が a’’.太郎が (15)a’.太郎が a’’.太郎が. 政 治 大. n. al. er. io. sit. y. Nat. (14a’,15a’)の対格名詞句には束縛変項の解釈があり得る 14が、(14a’’,15a’’) の所格名詞句には単数の解釈しかありえない。したがって意味格を取るNP[A]も NP[IA]をc統御する位置にあるが、NP[IA]が意味格を取るNP[A]をc統御しない位置 にある、ということになる。つまり、NP[A]が文法格を取るか意味格を取るかど うかに関わらず、NP[A]がNP[IA]より上に位置するのである。これを動詞句の構造 に示せば、. Ch. engchi. i n U. v. (24)a’.NP[IA] V→V’;NP[A] V’→VP b.VP v→v’;NP[EA] v’→vP c’.[vP NP[EA] [v’ [VP NP[A] [V’ NP[IA] V]] v]] になる。 15 12. ただし、ここの「v」は小動詞ではなく、あくまで接辞である。 必要に応じて、例えば与格(dative)を取る項の名詞句を NP[A,D]、所格(locative)を取る 項を NP[A,L]というふうに区別する。 14 (14a’)の「木」はむしろ複数でなければならないが、(15a’)の「ボール」は単数でも 複数でもいい。 15 以上で、動詞を語根 V と接辞 v に分けて、それぞれいくつかの機能を担わせた分析を行 ったが、接辞そのものを機能を持たない、ただのマーカーにすぎないとする分析も可能で 13. 11.
(18) 1.4 無対動詞-接辞について 以上で大まかに有対動詞を検討してきた。次は無対自動詞を見ていく。 (25)太郎が. 走る(hasir-u). (25)は、見た目では項が外項だけであり、動詞も接辞がなく語根だけであ る。その見た目のままで分析すると、 (25)は外項である主格名詞句と語根の二 つの要素だけで句を作るということになるので、 (25’)[VP NP[EA] V]. 政 治 大. というような構造をなしている。また、無対他動詞も、 次郎を. 立. 殴る(nagur-u). 學. ‧ 國. (26)太郎が. というふうに、やはり接辞が見られないので、. ‧. (26’)[VP NP[EA] [V’ NP[IA] V]]. Nat. n. al. などの例も、それぞれ. Ch. engchi. sit. 行く(ik-u) 本を 贈る(okur-u). er. io. (27)太郎が 公園に (28)太郎が 次郎に. y. という構造であろう。さらに、. i n U. v. (27’)[VP NP[EA] [V’ NP[A] V]] (28’)[VP NP[EA] [V’’ NP[A] [V’ NP[IA] V]]] というような構造である。しかし、有対動詞の場合、先に (13)e.語根は外項以外の項の存否、および意味格の付与に関与するのに対し、 接辞は自他、外項の存否、および文法格の付与に関与する と分析したように、自他・外項・文法格の付与には接辞が関わるのであるが、 ある。これについては 1.4 の(39)のところ(p.15 後半~p.16)を参照されたい。. 12.
(19) 無対動詞では語根が代わりにその機能を担うのであれば、それでは有対動詞と 無対動詞の語根にはなぜこのような機能の違いがあるのか、ということを考え なければならない。 本稿においては、以上の考えを取らず、無対動詞も「φ」という音形のない 接辞を持つと考え、以下、いくつかの例をあげて論証する。まずは(29)を見 よう。 (29) (校長は)まあ精出して勉強してくれと云って、恭しく大きな印の捺った、 辞令を渡した。(夏目漱石『坊っちゃん』;括弧の内容は筆者による) (29)の「捺った」は「おさった」、つまり「おさる」という形の自動詞であ るが、どの辞書にもこの単語が載っていない。代わりに「捺す」という他動詞 が載っている。(29)の「印の捺った」は、「印の捺してあった」とでも書かれ るべきだろうが、「おさる」が用いられている。つまり、. 學. (30)a.校長が b.. ‧ 國. 立. 政 治 大. 印を 捺す(os-u) 印が 捺さる(os-ar-u). ‧. n. al. er. io. sit. y. Nat. (30a)には語根および語尾し というような自他対立が想定されているだろう 16。 かないとすれば、一方(30a)の他動詞に接辞がなく、他方(30b)の自動詞に 接辞があること、したがって語根に接辞が付けられれば、語根のいくつかの働 きが接辞に奪われることになる、というふうに分析しなければならないが、そ れはとうてい考えにくいだろう。 あるいは、 「捺さる」というのは一時的に用いられただけで、正当な語とは言 えない、とも考えられるだろう。では「試験に受かる」の「受かる」、「指にと げが刺さる」の「刺さる」などはどうだろうか。 「受かる」は西尾(1954)によ ると明治以前の用例が見出されないようである。そして「刺さる」は筆者の調 べる限り、明治十八年に編集された小唄集「四季情歌林」 (大正十年『風流俗謡 集』に再録)の「鏡み詠メて身甲斐性恥じる刺ツた眉毛のひつじ生へ」という 用例しか、文献には見出されない。これらは「受ける」 「刺す」とペアになる有 対自動詞と見なすなら、「受ける」「刺す」もそれぞれ「uke-ru」「sas-u」ではな. Ch. engchi. i n U. v. 16. 影山(1996)はほかに「吊るす→吊るさる」「 (火に)くべる→くばる」 「結ぶ→結ばる」 「抱く→抱かる」の例を宮地(1985)からあげている。そして「捺さる」について、「「捺 さる」が可能なのは、印を捺したあとに印影が残るからであり、同音異義の「押す」は-ar自動詞にならないことに注意したい」と述べている。 宮地幸一(1985)『ある型動詞の諸相―作家の表現を中心として』桜楓社. 13.
(20) く「uk-e-ru」 「sas-φ-u」と分析しなければならない。しかしこの分析が可能なの は、明治ごろになってからであり、明治以前においてそれらは無対他動詞であ ったと見なさなければならない。無対動詞にも接辞があると考えなければ、以 上の現象を、時代の変遷 17によって語根の働きが変化し、その質が変わる、と いうふうに解釈するしかない。 以上は、無対他動詞から無対自動詞が派生される例である。次は無対自動詞 から他動詞が派生される例を見よう。 (31)彼は黙っていたかったが、年寄の車夫が彼を黙らしておかなかった。 (志 賀直哉「雨蛙」) (32) 「貴夫が小さいうち寐小便をして、あの御婆さんを困らしたって事よ」 (夏 目漱石『道草』) (33)ことに貞世の病状が軽くなって行くという報告は激しく葉子を怒らした。 (有島武郎『或る女』) (34)二晩つづきの睡眠不足はわたしの足を大分鈍らしてゐた。 (若山牧水「木 枯紀行」) (35)ひよわなものを、飢えさしてはならない。(泉鏡花「二、三羽――十二、 三羽」). 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. Nat. y. sit. n. al. er. io. (31-35)の「黙らす」「困らす」「怒らす」「鈍らす」「飢えさす」は、もとの 自動詞「黙る」 「困る」 「怒る」 「鈍る」 「飢える」に接辞「(s)as」をつけたもので ある。この接辞「(s)as」は、あるいは他動詞化接辞ではなく使役「(s)ase」の異 形態として考えられるかもしれない。 他動詞か使役かについて、早津(2004)、高見(2007)によると、 (36)a.太郎が b.太郎が. Ch. engchi. i n U. v. 鳥を 飛ばす 風船を 飛ばす. 前者は「鳥を飛ばせる」によっても同じ事態が表現できるが、後者は「*風船 を飛ばせる」とは言えない。すると、前者の「飛ばす」は使役であるが、後者 の「飛ばす」は他動詞である、と区別することができる。これを一応の基準と して考えれば、確かに(31-35)の例は、すべて使役である。しかし、 17. 以上の歴史的現象は、「無対動詞の有対動詞化」として捉えられるのではないだろうか。 そして、動詞は一定で変化しないという静的状態を保つのではなく、時代が経つにつれ用 法が拡張されたり意味が特殊化したりする変化する可能性を持つ、と考えるべきかもしれ ない。「受かる」は(「受ける」と比べて)意味の特殊化が見られるが、 「刺さる」は動作を 表す「刺す」の結果状態を表示するものなので、用法の拡張である。. 14.
(21) (37)(三千代は)用簟笥の環を響かして、……(夏目漱石『それから』) (38) (武井さんは)膝に白い毛糸の球をころばしながら何かを編んでゐた…… (南部修太郎「病院の窓」) の「響かす」「転ばす」は (37’)環を響かせて (38’)毛糸の球をころばせながら に変えれば、非文と言わないまでも意味が違ってくるだろう。例えば(37’)は 「環が響くように動かす」ではなく「響いている環をそのままにしておく」と いう意味になり、 (38’)も「毛糸を出すように毛糸の玉を転げる」よりも「転ん でいる毛糸の玉をそのままにしておく」ように感じられる。つまり「状態の引 き起こし」よりも「状態の放任」の意味が取れるのではないだろうか。ここの 解釈が正しければ、 「響かす」 「転ばす」は他動詞であり、その「as」も使役接辞 ではなく他動詞化接辞である、ということになる。ところで「響く」も「転ぶ」 も無対自動詞なので、ここにも「無対動詞に接辞があるかないか」 「無対動詞と 有対動詞の語根の性質が異なるか」といった問題が出てくる。 さらに、1.3 で扱っている授受動詞である。前節の(19)を再掲する。. 立. 政 治 大. ‧. ‧ 國. 學. sit. y. Nat. er. io. (19)a.太郎が 次郎に ペットを 預ける(azuk-e-ru) b.次郎が 太郎から ペットを 預かる(azuk-ar-u). al. n. v i n Ch 1.3 では、 「預ける」 「預かる」を有対動詞として扱っているが、 しかし「預かる」 engchi U の「ar」は「預ける」の直接受身に由来するとすれば、最初は「預ける」のみ存. 在し、後で「預かる」が派生される、と考えなければならない。すると、 「預け る」が有対動詞ではなく無対動詞である、ということになる。そして「預ける」 の「e」を接辞と認めれば、無対動詞にも接辞がある、ということになる。 以上は簡単に無対動詞の接辞の存在についてふれてきたが、しかし決定的な 証拠を出せたかというと、否と言わねばならない。 「無対動詞に接辞がある」18と いう考えは、あくまで「有対動詞から無対動詞を見る」場合、一つの望ましい 捉え方にすぎない。逆に「無対動詞から有対動詞を見る」場合 19は、 「無対動詞. 18. 以下、 「無対動詞に接辞がある」または「接辞に機能がある」というような考え方を「有 接辞説」、 「無対動詞に接辞がない」または「接辞に機能がない」というような考え方を「無 接辞説」と呼ぶことにする。 19 さらに「有対動詞と無対動詞を別々に扱う」場合が考えられるが、しかしこれは①有対. 15.
(22) に接辞がない」ので、(13e)に書いた外項・文法格の付与も含めて語根の働き になる。そして無対動詞と有対動詞の語根の質の違いを解消するために、有対 動詞の接辞もその機能がなく、あくまで表面的に自動詞であるか他動詞である かを示すマーカーにすぎない、ということにすればいい。以上の考えは (39)語根は項の存否・格の付与に関与し、したがって自他をも決めるが、接 辞は自他を明示するマーカーに過ぎない とまとめられる。無対動詞にだけでなく、有対動詞にも適用できるこの「無接 辞説」は、「有接辞説」よりもすっきりしているかもしれない。実際、(39)が 一番標準的な定義 20のようであり、 (13e)に似た構造を想定したのは筆者の知る. 政 治 大. 限り長谷川(1999)のVPシェル構造しかない 21。 ところで、 「無接辞説」に従うと、一つの動詞が自動詞か他動詞か、それとも 自他とも用いられるかは、あらかじめ語根が決める。有対動詞の語根は自も他 も表示できるが、無対動詞は自か他かの一つしか表示できないので、無対動詞 に付ける接辞があるとすれば、それは態接辞でしかありえないことになる。だ としたら上述の「響かす」 「転ばす」を使役と見なすか、 「響く」 「転ぶ」を有対 自動詞と考えなければならない。前者の場合すでに論じたように使役ではない し、後者の場合それこそ「響く」 「転ぶ」に「φ」接辞があることを認めるよう なものである。一方、 「有接辞説」では、 「響かす」 「転ばす」の他動詞化接辞「as」 は「響く」 「転ぶ」の自動詞化接辞「φ」から拡張し派生したと捉えることがで きる。つまり、 「有接辞説」は、 「無接辞説」を包含できるが、逆は成立しない、 ということである。 以上、 「有接辞説」と「無接辞説」について簡単に論じてみた。以上の理由か ら、本稿は、 「有接辞説」を取ることにし、有対動詞にも無対動詞にも接辞があ ることにする。. 立. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. i n U. v. 動詞と無対動詞の語根の機能が異なること、②時代の変遷によって語根の機能が変化する こと、という問題があるので、便宜的ではあるが適切とは言えないだろう。 20 むしろ、暗黙の了解といったほうがいいかもしれない。 21 長谷川(1999)はこの VP シェル構造について「基本的にはどの動詞にも当てはま」り、 「V には語幹が入り、υ には φ を含めた他動詞形態素なり自動詞形態素なりが入る」とし ているが、無対動詞にも「φ を含めた他動詞形態素なり自動詞形態素なり」が付随するか については明言していない。また、υ を接辞ではなく「動詞」と見なす点も筆者と異なる。. 16.
(23) 1.5 項について 1.4 で無対動詞にも接辞があること、つまり (13)e.語根は外項以外の項の存否、および意味格の付与に関与するのに対し、 接辞は自他、外項の存否、および文法格の付与に関与する は有対動詞だけでなく無対動詞にも適用できることになる。したがって、 (25)太郎が (26)太郎が (27)太郎が (28)太郎が. 走る 次郎を 公園に 次郎に. 殴る 行く 本を. 政 治 大. 贈る. 立. などの構造は(25’-28’)ではなく. ‧ 國. 學. ‧. (cf.(25’)[VP NP[EA] V]) (25’’)[vP NP[EA] [VP V] v] (26’’)[vP NP[EA] [v’ [VP NP[IA] V] v]](cf.(26’)[VP NP[EA] [V’ NP[IA] V]]) (27’’)[vP NP[EA] [v’ [VP NP[A] V] v]](cf.(27’)[VP NP[EA] [V’ NP[A] V]]) (28’’)[vP NP[EA] [v’ [VP NP[A] [V’ NP[IA] V]] v]] (cf.(28’)[VP NP[EA] [V’’ NP[A] [V’ NP[IA] V]]]). io. sit. y. Nat. n. al. er. という構造である。ところで、 (40)太郎が. 死ぬ. Ch. engchi. i n U. v. はどういう構造かという問題は、(40)の主格名詞句は、(25-28)と同じ外項な のか、それとも内項なのか、という問題に置き換えられる。これまで批判なし に「外項=主格名詞句;内項=対格名詞句」または「外項=動作主;内項=対 象」というふうに想定されてきたが、影山(1996,2008)は、動詞を[x ACT (on y)] という活動の部分である上位事象および[BECOME [y BE AT-z]]という過程と状 態の部分である下位事象に分解し、 (41)[x ACT (ON y)] CONTROL [BECOME [y BE AT-z]] という語彙概念構造(Lexical Conceptual Structure; LCS)を出し、外項と内項に ついて 17.
(24) (42)外項規則:上位事象の主語が外項になる 内項規則:下位事象がある場合は BE の主語が、また、下位事象がない場 合は ACT ON の対象が、内項になる という規則を想定している。また、 (43)太郎が. 風邪を. 引く. のような経験者を主語に取る動詞について、 (41)の CONTROL の下位概念とし て EXPERIENCE が CONTROL に取って代わり、経験者主語も外項であるとして いる。すると、外項には使役主(動作主)のほかに経験者がある、ということ になる。 以上のことを踏まえて、. 立. 死ぬ. ‧ 國. 學. (40)太郎が. 政 治 大. ‧. は、 「死ぬ」が「死亡する状態になる」 (つまり[太郎 BE AT-DEAD])という意味 なので、(40)の「太郎」が内項であり、その構造は. Nat. sit. n. al. er. io. である。また、. y. (40’)[vP [VP NP[IA] V] v]. Ch. (44)a.図書館に 本が ある b. 公園に 子供が いる c. 太郎に 子供が いる d. 太郎に 英語が 分かる. engchi. i n U. v. (44a)の「本」は「図書館にある状態」なので、内項であるが、(44b)の「子 供」は自分の意志で「公園にいる」にせよ、親に公園に捨てられた結果「公園 にいる」にせよ、「公園にいる状態」(つまり[子供 BE AT-PARK])であるので、 内項である。 (44a,b)のような存在文と関連して、 (44c)のような所有文、 (44d) のような能力・知覚を表す構文のLCSは[zi BE WITH [y BE AT-zi]](略して[z BE WITH-y])という構造で、ATではなくWITHであるが、これらはすべて「yがzと いう場所にある」ということを意味し、ただそのあり方が「存在」を表すか、 「所. 18.
(25) 有」を表すか、(広い意味での)「状態」を表すかにおいて異なるのである. 22. 。 つまり、(44c)の「子供」も(44d)の「英語」もみな内項である。以上のよう な存在文・所有文などは[ニ、ガ]構文とも呼ぶが、その構造は (44’)[vP [VP NP[A] [V’ NP[IA] V]] v] と一括できる 23。ところで、 (45)a.太郎が うっかり b.太郎が わざと. 転ぶ 転ぶ. 政 治 大. も(44b)同じく、 「太郎」の意志の有無に関わらず、 「転ぶ状態」にあることに 注目すれば、内項である。しかし(45a)の「太郎」は意図せずに転んでしまう のに対し、(45b)の「次郎」は意図して転ぶので、前者は経験者であり後者は 動作主であり、また(45b)の「次郎」はまた転ぶ当人でもあるので、経験者と も言えるはずである。つまり、意思性に注目すれば、両方とも外項としても考 えられるのである。 一項動詞の場合、項が外項であるか、それとも内項であるかというのは、そ の動詞が非能格性を持つか、それとも非対格性を持つかという、非常に大きな 問題である。ここでは深く立ち入ることができないので、簡単にふれるに止ま ることにする。下表(p.20)は、①~⑨は影山(1993,1996)、⑩~⑫は岸本 (2000,2005)、⑬は長谷川(1999)をもとにして整理したものである。 表 1 に従えば、 (25)の「走る」は非能格動詞に属し、その主格名詞句が外項 であることが分かる。ところで(27)の「行く」、 (40)の「死ぬ」、そして(45) の「転ぶ」は明快に分類できないようである。 まず、(27)の「行く」について、⑪意志性によれば非能格動詞に属するが、 ⑥数量詞の解釈における(27’)では非対格動詞と見なさなければならない。. 立. ‧. ‧ 國. 學. n. er. io. sit. y. Nat. al. Ch. engchi. i n U. v. (27)太郎が 公園に 行く (27’)観客がステージの方へいっぱい行った。(岸本(2005)による) 岸本(2005)はこれに対し、「(無生物主語を許す「行く」「帰る」「戻る」など の移動動詞は)もともとは意図性を表さない非対格動詞で、意図性は語用論的 22. 以上の論述は影山(1996,2008)を参考した。 ただし、 (44a,b)の存在構文のニ格は所格であるのに対し、 (44c,d)の所有構文などのニ 格は与格である。 23. 19.
(26) 表1. 非能格・非対格対照一覧表 非能格動詞. 非対格動詞. ①項. 外項. 内項. ②意味役割. 動作主・経験者. 対象. ③名詞化構文の格表示. による(生徒による競争) の(古代都市の崩壊). ④結果構文における修飾. ×(*クタクタに泣く). ○(カチカチに凍る). ⑤動名詞ヲスル. ○(賛成をする). ×(*爆発をする). ⑥数量詞の解釈. 行為量(たくさん歩く). 数量(たくさん死ぬ). ⑦間接受身になる. ○(そんなところにいら ×(*そんなところにあら れては困る) れては困る). ⑧使役受身になる. ○(離婚させられる). ×(*花が咲かされる). 政 治 大 ×(*髪に伸びてもらう) ○(眠りかけの犬) 立×(*吠えかけの犬) ○ ×. ⑨依頼使役になる. ○(手伝ってもらう). ⑩「~カケノ N」 ⑪意志性. ×(一時間/*一時間で歩 ○(*一時間/一時間で死 く) ぬ). ⑬「~テイル」. 動作進行. 結果状態. ‧. ‧ 國. 學. ⑫完結性(telicity). n. al. er. io. sit. y. Nat. な含意から派生する」とし、 (27)のような「行く」は「意志動詞(非能格動詞) と無意志動詞(非対格動詞)の両方の用法があり、環境に応じて区別して使用 され」ると考えている。すると(27)の主格名詞句が外項であるが、 (27’)の主 格名詞句が内項である、ということになる。 つぎ、 (40)の「死ぬ」について、⑦間接受身⑧使役受身になるテストなどに 従えば非能格動詞に属し、⑥数量詞の解釈「人がたくさん死ぬ」⑩「死にかけ の虫」⑫完結性「*一時間/一時間で死ぬ」などに従えば非対格動詞になるが、 高見・久野(2002)は. Ch. engchi. i n U. v. (46)卒論の仕上げの大事な時期に、パソコンに壊れられて困ってしまった。24 などの例を通して、間接受身を作るのに非対格動詞もできることを論じている。. 24. 夏目漱石『明暗』の中には、次の会話がある。 「ひどく降って来たね。この様子じゃまた軽便の路が壊れやしないかね」 彼は仕方なしに津田の耳へも入るような大きな声を出してこう云った。 「なに大丈夫だよ。なんぼ名前が軽便だって、そう軽便に壊れられた日にゃ乗るものが 災難だあね」. 20.
(27) ちなみに「*そんなところにあられては困る」について、 (47)「あんなことが毎日あられてたまるものか」(泉鏡花「義血侠血」) などの例があるので、これによっても「ある」 「いる」を区別することができな い。 また、使役受身に関し、筆者は (48)目の前に小さな花壇があった。赤や黄色の花が疲れたように咲いていた。 陽の当らないビルの裏側で、無理矢理咲かされているような痛ましさが あり、恒夫は目をそらした。(山田太一『遠くの声を捜して』). 治 政 という例を見つけた。確かに使役受身を作る非対格動詞の例がなかなか見つか 大 立 らないが、 (48)のようにまったくないとも言えないので、非能格動詞と非対格 ‧. ‧ 國. 學. 動詞を区別するのに⑦⑧があまり有効とは言えない。つまり、 「死ぬ」は非能格 動詞ではなく非対格動詞であり、その主格名詞句が内項である。 (45)の「転ぶ」について、 (27)の「行く」と同じく非能格動詞と非対格動 詞の両方の用法があると考えれば、(45a)の主格名詞句が内項であり、(45b) の主格名詞句が外項である、と考えることができる。 最後に、. n. al. er. io. sit. y. Nat. (49)太郎が 泣く (50)雨が 降る. Ch. engchi. i n U. v. について考えよう。岸本(2000)は、 (49)の「泣く」に関し⑩「泣きかけの女 の子」が言えるし、かつ⑩と連関して⑪意志性について「意志性を表すことが できる動詞でも「かけ」構文で現れると意志性を表すことができない」という ことから、非対格動詞と考えているが、④結果構文における修飾「*クタクタに 泣く」⑥数量詞の解釈「たくさん泣く」⑫完結性「一時間/*一時間で泣く」⑬ 「泣いている」が動作の進行を表すことを考慮すれば、やはり非能格動詞と考 えたほうがいいだろう。 また(50)の「降る」について、影山(1993)は⑦間接受身「雨に降られる」 にも⑧使役受身「人工降雨で多量の雨が降らされた」にもなることから、そし て岸本(2000)は⑫完結性「雨が一時間/*一時間で降る」ことから、さらに⑬ においても「降っている」が動作の進行を表すので、非能格動詞と考えており、 本稿もそれに従う。ただ、⑥数量詞の解釈「たくさん降る」では行為量よりも 21.
(28) 数量と解釈しやすいこと、⑨依頼使役「*雨に降ってもらう」ができない 25こと、 さらに⑪意志性に関し「雨」に意志性があるとは考えられないので、非能格動 詞に意志性がなくてもいい 26ということなのか、それとも「雨」を天然現象の 擬人化(三上(1972))と見なすか、などの問題があるので、非対格動詞の性質 も帯びていると考えなければならないだろう。 以上で、いくつかの例をもって一項動詞である非能格動詞と非対格動詞につ いて考察し、それによって外項・内項の認定を行おうとしたが、動詞の性質・ 使用場面によって揺れが生じ、はっきりと分類できないことがしばしばあるこ とが分かった。しかし、 (50)の「雨が降る」のほかに、揺れが生じやすいのは すべて主格名詞句が有生物、特に人間の場合、そして意志性の質が一定ではな いかはっきりしないかの動詞に限るようなので、ほかの主格名詞句と動詞なら 表一のテストが有効である、ということができる。その構造は、. 政 治 大. 立. ‧ 國. 學. (51)a.非能格動詞:[vP NP[EA] [VP V] v] b.非対格動詞:[vP [VP NP[IA] V] v]. ‧. とまとめられる 27。 有生物主格名詞句が外項かそれとも内項かに関する問題は、またそれを動作 主・経験者と見なすか、それとも対象と見なすかという問題でもあるが、それ について現時点では文脈によって一々吟味し検討するしかないだろう。そもそ も非能格動詞の主格名詞句の意味役割に動作主のほかに経験者があるが、特に 経験者の場合、「泣く」「転ぶ」のように非対格動詞の性質を持つことがあり、 そのため主格名詞句が経験者なのか対象なのか判明しにくいので、非能格動詞. n. er. io. sit. y. Nat. al. 25. Ch. engchi. i n U. v. ただし、 「……うーん、なるべく雨に降ってもらいたいですな」 (内田康夫『斎王の葬列』) という一例が見つかった。 26 これは、経験者主語の場合にも当たる。 27 ちなみに影山(1996)によると、自動詞には非能格動詞と非対格動詞のほかに、さらに 「使役主を変化対象と同定する」反使役化自動詞、および「使役主を意味構造で抑制し統 語構造に投射しない」脱使役化自動詞の 4 種類がある。反使役化自動詞および脱使役化自 動詞の語彙概念構造はそれぞれ 反使役化:x=y CONTROL [(y) BECOME [y BE AT-z]] 脱使役化:(x→φ) CONTROL [y BECOME [y BE AT-z]] であるが、これを動詞句の構造に反映すれば、 反使役化:[vP φi [v’ [VP NP[IA]i V] v]] 脱使役化:[vP φ [v’ [VP NP[IA] V] v]] と表示できるかもしれない。(i は同じ要素であることを示すためのインデックスである). 22.
(29) における経験者を、動作主と分けて見るべきだろう。そしてその定義の更なる 精密化が望まれることである 28。 1.6 文法格および意味格の認定について 1.3 において、 (18)a.太郎が 次郎に 数学を 教える b.次郎が 太郎に 数学を 教わる (19)a.太郎が 次郎に ペットを 預ける b.次郎が 太郎から ペットを 預かる. 政 治 大. のような授受動詞の与格と奪格は、格の変換と移動が見られるので、文法格で あるのに対し、. 立. 庭に 木を 植える 庭に 木が 植わる. ‧ 國. 學. (14)a.太郎が b.. ‧. の所格は格の変換と移動がないので、意味格である、と簡単に述べたが、文法 格であるか意味格であるかは格の付与において重要なので、ここでより具体的 に文法格と意味格の認定 29について考察する。まずはヲ格について見よう。. n. al. er. io. 次郎を 殴る 川を 泳ぐ 幸せな日々を. sit. y. Nat. (26)太郎が (52)太郎が (53)太郎が. C送る hengchi. 28. i n U. v. 以下、(27’)のような、意志的な動きではなく一つの事象・出来事として解釈できる場 合を除いて、意志性が認められる(つまり、意識的に行うことができる)ような意志動詞 であれば、移動動詞でも非能格動詞と見なし、意識的に行う場合は「動作主」、非意識的に 行う場合は「経験者」と考え、両方とも外項であることにする。つまり、(45)の「転ぶ」 は(45a)の主格名詞句が内項であり、(45b)が外項である、というのではなく、両方とも 外項であり、ただ(45a)の場合は経験者であり、(45b)は動作主である、という違いがあ るにすぎない。一方、非意志動詞であれば、有生物主格名詞句であっても対象であり、し たがって内項である。例えば「死ぬ」は「死のう」の場合は「自殺する」という意味をす るが、普通は意識的に行うようなことではないので、やはり非対格動詞であり、その主格 名詞句が内項である。 29 日本語記述文法研究会(2009)によると、文法格は「主語や目的語といった文法関係を 表すという文法的な性質が強いもの」であり、 「が」「を」そして「に」の一部があるのに 対し、意味格は「起点や手段といった意味関係を表すという意味的な性質が強いもの」で あり、「で」 「から」「まで」などがある。. 23.
(30) 対象を表す(26)と比べて、(52)のヲ格は「経路」、あるいは(53)と合わ せて「経過域」(日本語記述文法研究会(2009))を表す格である 30。また、 (54)a.太郎が 学校を 出る b.太郎が 学校から 出る のように、起点を表す場合、対格も奪格も使えるが、寺村(1982)によると奪 格の場合名詞句が「物理的な場所」であるのに対し、経路格では「観念的な場 所、ないし制度や状態」としても考えられるので、(54a)は「卒業する」とい う意味が取れる。一方、無生物主語、または意識的な動きではない場合、奪格 が使えるが経路格が使えない。 (55)煙が. 部屋*を/から. 立. 治 政 出る 大. ‧. ‧ 國. 學. 以上の(52-54)の経路格名詞句は普通、直接受身にはならないので、その名 詞句は対象ではなく、したがって内項ではない。つまり意味格である。以上の 動詞句の構造は、. sit. n. al. er. io. と表示できる。 (58)太郎が (59)太郎が. y. Nat. (56=52,53,54) [vP NP[EA] [VP NP[A] V] v] (57=55)[vP [VP NP[IA] [V’ NP[A] V]] v]. Ch. 市役所に 務める 物音に 驚く. engchi. i n U. v. (58)の所格や(59)の起因格 31も直接受身にならないので、意味格である。 そして意志動詞である(58)の主格名詞句が動作主つまり外項なので、構造は (56)と同じであるのに対し、非意志動詞である(59)の主格名詞句が対象つ まり内項なので、構造は(57)と同じである。一方、 (60)犬が. 太郎に. 吠える. 30. 以下、便宜的に経路格と呼ぶことにする。 (59)のニ格は相手を表すのではないので与格ではない。そして場所を表すのではない ので所格でもない。日本語記述文法研究会(2009)ではこのようなニ格は「感情・感覚の 起因」を表すものと分類したので、暫定的に「起因格」と呼ぶことにする。. 31. 24.
(31) は直接受身「太郎が犬に吠えられる」が作れるので、その与格は文法格と考え られる。以上の直接受身に関するテストから、無生物名詞句なら意味格を取り、 有生物名詞句なら文法格を取る、とまとめるができるように見えるが、 (61)太郎が (62)太郎が (63)太郎が (64)太郎が. 次郎に 花子に 次郎に 次郎に. 賛成する 恋する 会う 似る. (61-64)のニ格はすべて与格であるが、 (61,62)は直接受身が作れるのに対し、 (63,64)は作れない。 (61,62)は文法格を、 (63,64)は意味格を取ると考えるべ きだろうか。 (63,64)を除いて以上の例を整理すれば、. 直接受身における格変更. 意味役割. 無生物. × ○. 有生物. 格. 格の性質. 場所・起因. 所格・起因格. 意味格. 相手. ‧. 名詞句. 學. 表2. ‧ 國. 立. 政 治 大. 与格. 文法格. Nat. y. sit. n. al. er. io. のように、かなりはっきりと区別できる。表 2 で文法格に認定された与格がプ ロトタイプ的なもの 32と考えれば、 (63,64)が非プロトタイプ的な与格と考える ことができる。そして(61,63)の主格名詞句が動作主つまり内項なので、その 構造は(56)と同じであるが、(62,64)の動詞「恋する」「似る」は動作・動き というより状態を表す 33ので、主格名詞句が対象つまり内項であり、その構造. Ch. engchi. 32. i n U. v. プロトタイプ的なもの・非プロトタイプ的なものに関する考えは柴谷(1986)の能格言 語における主語の認定に関する論述からヒントを得た。これは主語・目的語の認定にも有 効である。例えば角田(1991)によると、日本語の主語には主格ガ・与格ニ・奪格カラ・ 所格(?)デがあり、目的語には対格ヲ・与格ニ・主格ガがあるが、以上の考えから言う と、主格がプロトタイプ的な主語であり、与格・奪格・所格(?)が非プロトタイプ的な 主語である。そして対格がプロトタイプ的な目的語であり、与格・主格が非プロトタイプ 的な目的語である、とまとめることができる。 33 影山(1996,2008)は Vendler の動詞分類にしたがってそれぞれの LCS を提示している。 影山(2008)によると、 状態動詞:[ ]y BE AT-[ ]z 活動動詞:[ ]x ACT または[ ]x ACT ON-[ ]y 到達動詞:BECOME [[ ]y BE AT-[ ]z] 達成動詞:[ ]x CAUSE [BECOME [[ ]y BE AT-[ ]z]]. 25.
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