日本における標準化戦略の発展
―台湾への示唆を兼ねて―
*呂
建 良
(台湾・国立政治大学国際関係研究センター アジア太平洋研究所博士後研究員)【要約】
経 済のグ ロー バル化 の足 取りが ます ます速 まる 中、世 界市 場は一 体 化に向かい 歩みを進め ている。世 界市場での 展開を効率 的に進 め る ためには、 市場に広く 受け入れら れる共通の 標準をいか に打ち 立 て るかが、産 業の持続的 な発展に向 けた重要な 基軸となっ ている 。 日 本は経済大 国ではある ものの、国 際標準化の 動きへの参 与とい う 点 では、欧米 の主要先進 諸国と比較 して、その 差は相当大 きなも の と なっている 。国際標準 の制定を主 導する提案 の比率、国 際標準 化 機構の事務局引受数はともに、欧米主要国平均の半分にも満たない。 こ れを受け、 日本が新た な世紀を向 かえるに当 たり提示し た一連 の 標 準化戦略で は、その先 進的な技術 を通じ、国 際標準の制 定と改 定 に 参与し、莫 大な経済利 益を追求し つつ、国際 市場のコン トロー ル を 可能にする ことを目指 している。 本研究の目 的は日本が 制定し た 標 準化戦略の 進展に関す る分析であ り、また、 他山の石と しつつ 台 湾の参考と手本としたい。 キーワード:日本、標準化戦略、日本工業規格調査会、国際標準* 本論文は行政院国家科学委員会の特定課題研究計画「新世紀日本標準化戰略之發展: 政府與企業關係的途徑」(計画整理番号:NSC 99-2410-H-004-220-)の研究者向け補助 を受けた研究の成果の一部である。匿名の審査官3 名による指摘と提言に謝意を表す とともに、本文内の誤りや不足については筆者個人がその責を負うものとする。
一 はじめに
経済のグロ ーバル化の 足取りがま すます加速 する中、世 界市場 は 一 体化に向か い歩みを進 めている。 世界市場で の展開を効 率的に 進 め るためには 、市場に広 く受け入れ られる共通 の標準をい かに打 ち 立てるかが、産業の持続的な発展に向けた重要な基軸となっている。 こ のため、知 識経済の時 代において 、戦略性を 持った技術 標準が 国 際 標準化機構 に承認、あ るいは採用 されれば、 これに関連 する産 業 の 国際貿易で の主導権と 知識財産権 を掌握する ことで巨大 な経済 的 利 益をもらた し、ひいて は産業の盛 衰を決定す ることさえ 考えら れ る。 国際市場における競争力を確保するため、1990 年代後半から、特 に21 世紀に入ってから、世界の主要先進各国(米国、英国、ドイツ、 カ ナダなど) や発展途上 国の一部は 、自国の経 済や技術の 発展ニ ー ズ に合わせ、 相次いで自 国の標準化 発展戦略の 制定に取り 組んで い る 。また、国 際標準化作 業に関する 会議に積極 的に参与し 、国際 標 準の制定に影響力を持つことで、自国の権益を守ろうとしている。 日本は経済 大国ではあ るものの、 国際標準化 の動きへの 参与と い う 点では、欧 米の主要先 進諸国と比 較すると、 その差は相 当大き な も のとなって いる。これ を受け、日 本が新たな 世紀を向か えるに 当 た り提示した 一連の標準 化戦略では 、その先進 的な技術を 通じ、 国 際標準化機構(International Organization for Standardization、ISO)1 や、1 ISO は 1947 年の設立で、電気工学と電子工学の分野を除くすべての工業分野の国際
標準化を担う。本部はスイスのジュネーブに置かれ、メンバー国は164 カ国。詳細
は “ISO members,” ISO, http://www.iso.org/iso/home/about/iso_members.htm を参照のこ と。
国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission、IEC)2 と いった国際 標準化機構 の審議に参 加し、国際 標準の制定 と改定 に 関 与 す る こ と で 日 本 の 意 見 を 十 分 に 反 映 さ せ る こ と を 目 指 し て い る 。また、産 業界が提示 する戦略性 を持った国 際標準提案 をサポ ー ト し、国を挙 げて国際標 準競争に備 え、国際標 準の要衝を 奪う狙 い もある。 台湾と日本 は歴史的に も関わりが 深く、地理 的にも利便 性がよ い こ とから、貿 易・経済の 往来は極め て密接であ る。これに 加え、 日 本 の産業技術 への依存が 高いため、 台湾にとっ て日本の標 準化戦 略 の 動向は観察 に値する。 本稿の研究 目的は日本 が制定した 標準化 戦 略 の進展を分 析し、他山 の石としつ つ台湾の参 考と手本に するこ と である。 本文は以下の 7 節に分け詳しく説明する。第一節の序文では研究 動 機と研究の 目的を説明 し、第二節 ではこれま での日本の 標準化 政 策 を振り返る 。日本の標 準化戦略に ついて、第 三節では背 景、第 四 節 ではその内 容、第五節 では主な担 い手と役割 を分析、説 明する 。 第 六節では台 湾のこれま での標準化 政策を振り 返り、第七 節で日 本 の標準化戦略が台湾に与える示唆を探り、結論とする。
二 標準化政策の歩み
近代の 日本 の標準 化政 策の起 源は 明治後 期か ら始ま った が、1949 年 になって、 日本政府は 工業標準化 法を制定し 、戦後日本 の産業 標 準 化 の 動 き は 完 全 に 一 本 化 さ れ た 。 同 時 に 、 日 本 工 業 標 準 調 査 会2 IEC は 1906 年に設立され、電気工学と電子工学の分野における国際標準化を担う。 本部は ISO と同様にジュネーブに置かれ、メンバー国は 82 カ国。詳細は “List of members,” IEC, http://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:5:0.
(Japanese Industrial Standards Committee、JISC)3 が設立され、日本 工業規格(JIS)の審議と調査を担うこととなった。工業標準化法は 第11 条にて主務大臣は、工業標準を制定する時は、あらかじめ調査 会の議決を経なければならない4 と規定した。日本政府は 1956 年、 産 業基盤の整 備、輸出振 興を狙いと して、工業 標準化第一 次長期 計 画 を策定、こ の後、定期 的に長期計 画を改定し 、工業標準 化政策 を 推進することとなった。第二次長期計画は1963 年に策定され、初め て 安全・衛生 の確保およ び消費者保 護に必要な 企画の整備 を目標 に 掲げた5。 1968 年に日本政府が策定した第三次長期計画では、国際標準化へ の 参加、国際 単位系への 統一など、 国際的な動 きへの対応 が中心 と なった。しかし、1974 年の第四次長期計画では、当時最も大きな社 会 問題であっ た産業公害 の防止や消 費者の保護 、労働の安 全に標 準 化の焦点が移った。第五次長期計画が策定されたのは1980 年で、第 二次オイルショック直後、GATT スタンダードコード発効といった要 素 により、省 資源・省エ ネの推進、 国際規格と の整合など が主要 な 政策となった6。 第六次長期計画が策定されたのは1986 年で、その翌年に ISO はそ の 後 の 標 準 化 活 動 に 大 き な 影 響 を 与 え る こ と と な っ た 企 画 を 定 め た。ISO9000 シリーズと呼ばれる品質管理システムに関するマネジ メ ントシステ ム規格であ る。この時 まで、日本 は自国企業 の品質 管
3 JISC の役割と機能については、第五節を参照のこと。 4 「工業標準化法」全文については、以下を参照のこと:「工業標準化法」イーガブ、 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO185.html。 5 江藤学「工業標準化政策の変遷と基準認証政策」『研究 技術 計画』第 22 卷第 1 期 (2007 年 10 月)、13 ページ。 6 同上、13~14 ページ。
理 に強い自信 を持ってお り、この規 格作成にま ったく参与 しなか っ た 。しかし、 この規格が 制定された のち、国際 標準として これに 合 致 することが 国際貿易市 場に参加す るための基 本条件のよ うに扱 わ れることになり、日本企業もこの ISO9000 に適合しているという認 証を取らざるを得なくなってしまった。これ以後、日本はISO、IEC に おける国際 規格への作 成に参与す るとともに 、国内にお ける認 証 シ ステムの整 備に取り組 むこととな った。第七 次長期計画 が策定 さ れた1991 年は、標準化政策のターニングポイントとなった。国際標 準の重要性が日増しに高まり、国内規格の JIS 規格の役割の見直し が必要となったのである7。
1995 年、WTO/TBT 協定(WTO Agreement on Technical Barriers to Trade、WTO 貿易の技術的障害に関する協定)の締結と同時に、日 本の標準化政策も国際標準化対応へと転換した8。翌年の 1996 年に 策定された工業標準化第八次長期計画で、JIS と国際規格との整合化 作業を開始し、JIS 規格の大幅な見直しが行われた。1997 年には工 業標準化法を大きく改正し、JIS 規格の制定には主務大臣が規格構想 を制定した上で、JISC の議決を経ることのほか、利害関係人が工業 標 準の原案を 付して工業 標準を制定 すべきこと を主務大臣 に申し 出 ることができるとした(工業標準化法第12 条)。 1997 年以降、日本政府は毎年、標準化政策に関する提議や報告を 提 出してきた が、内容に さほど大き な違いはな かった。こ れは標 準 化 政策が各界 の高い期待 を受けてい ると同時に 、現在の課 題が現 行 の政策で解決できないことを明らかに示すものであった。このため、
7 同上、14 ページ。
8 Yasuhiro Sakuma, “Japanese Activity for Standardization,” 27 October 2009, p. 11, ITSC:
http://www.itsc.org.sg/upload/download/45/Japanese%20Activity%20for%20Standardization %20(Final)%20rev13.pdf.
2001 年に標準化戦略を策定し、それまでほぼ 5 年ごとに策定されて きた長期計画に代えることとした9。以下の 2 節では 21 世紀の日本 の標準化戦略策定の背景を分析し、内容を説明する。
三 標準化戦略策定の背景
近年来、日 本の標準化 活動が置か れている国 内外の環境 はます ま す厳しくなっている。WTO/TBT 協定の成立や、主要国が標準化活 動 を国家戦略 レベルに引 き上げたこ と、さらに 日本の国際 化標準 へ の参与が少ないことなどで、大きな試練の局面に立たされている。 1 WTO/TBT 協定の成立 1995 年に発効した WTO/TBT 協定は、会員国が必ず関連国際標準 を 、国内の技 術法規およ び標準、適 合性検証手 続きの基礎 としな け ればならないと定めている10。このため、ある技術が国際標準になり 得 るか、商品 標準が国際 標準に適合 するかが、 その製品の 国際競 争 力 に直接影響 し、ひいて はその製品 が円滑に国 際市場に参 入でき る かに関わることになった。WTO/TBT 協定に対応するため、多くの 先 進国が、自 国で開発し た規格を国 際標準に適 合させざる を得な く なり、発展途上国ではISO と IEC が決定した国際標準を国内規格に 取り入れなければならなくなった11。9 江藤学、前掲論文、14 ページ。
10 Shigekazu Fukunaga, “Economic and Social Effects of Standardization,” Presented at 7th
Conference on Standards and Conformance(Cusco, Peru: APEC, 10-11 August 2008), p. 4, http://aimp.apec.org/Documents/2008/SCSC/CONF1/08_scsc_conf1_016.pdf.
11 小高邦夫・梅村敏夫・內川英興「企業における標準知財戦略」『特許研究』第 45 期
2 主要各国の標準化活動
国際標準の 重要性が増 すにつれ、 欧州と米国 は相次いで 国際標 準 を 国際市場で の競争力確 保の重要な 手段とし、 積極的な措 置を取 る よ うになった 。欧州は早 くから標準 化の問題に 対応し、投 票にお け る票数の優勢を背景に、法令上の標準(De jure standard、デジュール 標準)12 の領域で多大な力を発揮している。現在、欧州諸国が占め
る割合は、ISO に参与している国のうち約 4 分の 1、IEC では 4 割に も達する13。また、欧州統合に対応するため、欧州には地域標準化機 構 が あ り 、欧 州 地 域 の標 準 を 統 合す る 。 欧 州標 準 化 委 員会 (Comité Européen de Normalisation 、 ま た は European Committee for Standardization、CEN)は、ISO に対応する地域標準化機構であり、 欧 州 電 気 標 準 化 委 員 会 (Comité Européen de Normalisation Electrotechnique 、 ま た は European Committee for Electrotechnical Standardization、CENELEC)は IEC に対応する地域標準化機構であ る14。 米国の強みは民間主導によるフォーラム標準(Forum standard)15 と、デファクト標準(De facto standard)16 であり、特に情報通信技 術 、電機、電 子などの分 野では大き な支配力を 持っており 、多く の
12 デジュール標準(法令上の標準)とは、ISO、IEC、JISC が制定した標準のように、 国際標準化機構、国の標準化機構など公的標準化機関により策定された標準である。 13 山田肇『標準化戦争への理論武装』(稅務経理協会、2007 年)、178~179 ページ。 14 詳細は、日本規格協会編集『JIS ハンドブック(55)国際標準化』(日本規格協会、 2008 年)、916~920 ページを参照のこと。 15 フォーラム標準とは、DVD 規格、HTML と XML などのネットワーク技術など、関 連する企業が集まって結成した「フォーラム」が中心となって策定した標準である。 16 デファクト標準とは、マイクロソフト Windows システムソフト、VHS 規格などのよ うに、多くが市場占有率など市場の実勢によって事実上の標準とみなされるように なった標準である。
フ ォーラムは すべて拠点 を米国に設 けている。 欧州のデジ ュール 標 準 の地位に対 抗するため 、米国は他 の国際標準 化機構の幹 事とし て の役職者数を積極的に増加させている。このほか、2000 年には「米 国国家標準化戦略(National Standards Strategy for the United States)」 を 策定し、国 家の競争力 強化と、米 国の技術・ 標準の分野 での影 響 力発揮に取り組んでいる。この戦略は2005 年に改定された。 また、中国はWTO/TBT 協定の成立後、技術関連の法規と標準の 整 備や、適合 性評価の手 順調整、国 際標準の迅 速な普及と 採用に 取 り組み、「国家質量監督検験検疫総局標準・技術法規研究センター」 を諮問機関として設置した17。特に、中国は技術標準の作成を国家科 学 技術計画の 重要目標と 定め、研究 開発と標準 化の結び付 きを積 極 的に推進し、中国の技術標準を国際標準とする狙いを定めている。 3 国際標準化活動への日本の参与 国際標準化活動への日本の参加の力は弱く、試練に直面している。 国 際標準化活 動への参与 に関する主 要な指標に は、議長と 幹事の 引 受、および、国際標準提案数の 2 つがあり、これを以下の通り分析 してみる。 (1) 議長と幹事の業務引受 国際標準の 制定におい て、国際標 準化機構の 議長と幹事 は重要 な 役割を演じる18。国際標準化機構での幹事引受数もまた、その国の国
17 詳細は、日本規格協会編集『中国の基準 認証ガイドブック』(日本規格協会、2003 年)、36~47 ページを参照のこと。 18 国際標準は「多数決」による投票で決められる。国際標準化機構は「政治上」多数 票を獲得した技術を国際標準に制定し、優秀な技術を持つものが必ずしも国際標準 となるとは限らない。ゆえに、自国の標準を国際標準とするためには、国際標準化
際 標準化活動 への貢献度 を測る重要 な指標であ る。近年に おいて 日 本によるISO と IEC の専門委員会(Technical Committee、TC)と分 科委員会(Subcommittees、SC)の幹事引受数19 は確実に増加してい る。しかし、2006 年時点で総役職者数 902 人の 6.7%にとどまってお り(表 1 参照)、日本の当時の GDP が世界 2 位という経済規模(世 界全体の GDP の約 11%を占める)20 と技術能力に十分見合うもの ではない。TC や SC の議長、作業グループ(WG)の主査の引受状 況も然りで、さらに強化する必要がある21。主要各国の ISO と IEC における役職者数の推移は、図 1 と図 2 を参照されたい。 (2) 国際標準案の提案件数 国際標準化 活動の活発 さを測るも う一つの指 標は、国際 標準案 の 提案件数である。表 2 が示すように、IEC における日本の提案数の 割合は、2001 年と 2003 年には 20%を超える高さを示しているが、 ISO では 6~8%前後にとどまり、改善の余地を残している。
機構で幹事を引き受けることが極めて重要である。清川寛「国際標準化についての コメント」経済産業研究所、2007 年 12 月、5 ページ、http://www.rieti.go.jp/jp/special/ special_report/data/030.pdf。 19 ISO、IEC の技術業務は、技術委員会により行われている。業務のニーズにより、各 技術委員会は、いくつかの分科委員会を設立することができ、また技術委員会と分 科委員会のもとにいくつかの作業グループ(Working Group、WG)を設立することが できる。 20 国際通貨基金(IMF)の報告によると、2010 年の第 2 四半期に中国の GDP が初めて 日本を上回り、世界第2 の経済大国となり、日本は 3 番目に後退した。 21 知的財産戦略本部『国際標準総合戦略』首相官邸、2006 年 12 月 6 日、31 ページ、 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/061206.pdf。
表1 国際標準化機関における日本の役職者数 ISO IEC JTC122 技術委員会 議長 7/192 4/90 幹事 11/192 7/90 分委員会 議長 28/524 3/79 4/17 幹事 32/524 6/79 4/17 工作小組 主査 115/2145 47/495 12/52 (注)2006 年 2 月時点。 (出典)知的財産戦略本部の2006 年 12 月 6 日付『国際標準総合戦略』、31 ページ。 図1 ISO における各国の幹事国引受数の推移 (出典)知的財産戦略本部の2006 年 12 月 6 日付『国際標準総合戦略』、31 ページ。
22 JTC1(Joint Technical Committee 1、聯合技術委員会 1)は ISO と IEC の管轄下の第一
図2 IEC における各国の幹事国引受数の推移 (出典)知的財産戦略本部の2006 年 12 月 6 日付『国際標準総合戦略』、32 ページ。 表2 ISO、IEC における NP 提案数の推移 ISO IEC 総数 日本 割合 (%) 総数 日本 割合 (%) 2001 年 636 54 8.5 60 12 20.0 2002 年 587 40 6.8 101 12 11.9 2003 年 633 39 6.2 126 32 25.4 (出典)知的財産戦略本部の2006 年 12 月 6 日付『国際標準総合戦略』、32 ページ。 日本による ISO と IEC の参与度そのものは経済的な実力と合致す る ものではな く、その原 因は以下の 通りと考え られる。①企業の経 営 陣 が 経 営 戦 略 に お け る 国 際 標 準 化 の 重 要 性 の 認 識 が 不 足 し て い る 。②欧米諸国の産業界が国際標準化を自らの課題とみなし、主体 的 に活動に参 加している のに対し、 日本の産業 界は自身を 国際標 準 化 活動の主体 とみなして いない。③国際標準化の専門家の深刻な不
足により、日本の発明技術を直ちに国際標準とすることができない。 ④ISO と IEC は国際標準の決定に一国一票制を採っているが、日本 は アジア太平 洋地域の国 々との交流 と協力が十 分ではなく 、これ ら 組 織への影響 力が小さい 。⑤その他の国々が自国で制定した標準と 技 術法規を用 いて、日本 の良質の製 品と技術を 海外市場か ら駆逐 し ている23。
四 標準化戦略の内容
前述のような背景により、日本は1997 年から一連の対応策を策定 している。主には、1997 年に JISC が通商産業大臣の諮問に基づき、 「 今後の我が 国の国際標 準化政策の 在り方」を 答申した。 また日 本 政府は1999 年 6 月に「21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会」 を 設置、さま ざまな標準 化問題にか かわる基本 方針につい て討議 し た。2000 年 5 月に JISC は、1999 年 6 月からの 7 回にわたる討議の 結果を「21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書報告書」 としてまとめた24。2001 年に JISC の下に設置した標準部会25 が「標 準 化戦略」を まとめ、国 際標準化戦 略を、すべ ての標準化 戦略の う ち最も重要なものとして位置付けた。2004 年には JISC の標準部会が 「 標準化戦略 」に基づき 「国際標準 化活動基盤 強化アクシ ョンプ ラ ン」を策定した。2006 年 11 月、経済産業省は「国際標準化戦略目標」23 経済産業省『国際標準化戦略目標(概要)』日本工業標準調査会、2006 年 11 月 29 日、 http://www.jisc.go.jp/policy/pdf/senryakumokuhyo_gaiyo.pdf。 24 詳細は、21 世紀に向けた標準化課題検討特別委員会『21 世紀に向けた標準化課題検 討 特 別 委 員 会 報 告 書 』 日 本 工 業 標 準 調 査 会 、2000 年 12 年 5 月 29 日 、 http://www.jisc.go.jp/policy/pdf/21century/jiscsc25_honbun.pdf。 25 2001 年 1 月、日本政府機関の改革と調整により、JISC が、国内と国際の標準化の基 本方針の策定を主な任務とする「標準部会」を設立した。
を策定し、同年12 月には、世界で初めて首相が自ら国家の「国際標 準総合戦略」を制定した。2008 年 7 月、JISC は「人材育成政策特別 委 員会報告書 」をまとめ 、今後の標 準化人材の 育成で採る べき手 法 を説明した。2010 年 5 月に首相官邸は「知的財産推進計画 2010」を 策定し、日本が国際標準となり得る 7 大分野を提示した。これら日 本 が提示した 一連の標準 化戦略から 、日本政府 が標準化の 課題を 経 済 政策の中で も極めて重 要なものと とらえてい ることが分 かる。 以 下、日本の標準化戦略の目標と特徴について説明する。 1 標準化戦略の目標 日本の甘利経済産業大臣は2006 年 11 月 29 日、産業界のリーダー に呼び掛け、「国際標準化官民戦略会議」を開き、国際標準化の重要 性 について官 民が直接対 話を行った 。また、初 めて大臣ク ラスに よ る「国際標準化戦略目標」が示された。これは2015 年までに、国際 標 準化活動を 積極的に推 進し、欧米 の主要国家 に引けをと らない 水 準に引き上げるのが狙いである。具体的な目標には(1)国際標準の 提案件数の倍増、(2)ISO と IEC の幹事役職者数で欧米の主要国家 に並ぶ、の2 つが挙げられている26。文書には具体的な数字は記され ていないが、現状からみて、国際標準の提案件数はだいたい60 件か ら120 件に、ISO と IEC の幹事役職者数は 60 人から 100 人に増やす ことを目指すとみられる27。また、2010 年 5 月 21 日に発表された「知 的財産推進計画2010」では、2020 年までに日本の役職者数を 150 人
26 詳細は、経済産業省『国際標準化戦略目標』日本工業標準調査会、2006 年 11 月 29 日、1 ページ、http://www.jisc.go.jp/policy/pdf/senryakumokuhyo.pdfを参照。 27 経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット『我が国の基準認証政策の紹介』日本 工業標準調査会、2008 年 9 月、4 ページ、http://www.jisc.go.jp/policy/seisaku/zenbun.pdf。
にするとの目標を定めている28。 2 標準化戦略の特徴 前述の「標 準化戦略」 と「国際標 準化活動基 盤強化アク ション プ ラン」、「国際標準化戦 略目標」、「国際標準総 合戦略」、「人材育成政 策特別委員会報告書」、「知的財産推進計画2010」といった文書から、 日本の標準化戦略の特徴をいくつかまとめることができる。 (1) 産業界の意識改革 企業経営陣 の国際標準 化の重要性 に対する認 識が不足し ている こ と から、産業 界の意識を 改革する必 要性が生ま れ、ビジネ スリー ダ ーに国際標準化活動を重視させるよう促進した29。関連省庁の大臣が 懇談会を開き、国際標準の重要性に対する理解を深めてもらうべく、 企業のリーダーや商工業団体と直接対話を行った30。国際標準化活動 と は企業の経 営戦略と密 接な関連が あるため、 これを強化 するに は 産 業界の自主 的な措置が 欠かせない 。また、国 際標準化活 動には 各 産 業ごとの実 際の状況に 基づいた上 で発展戦略 を策定する 必要が あ る が、この実 情を最も理 解している のは産業界 に他ならな い。こ の
28 知的財産戦略本部『知的財産推進計画 2010』首相官邸、2010 年 5 月 21 日、7 ページ、 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/2010keikaku.pdf。 29 先進諸国と比較し、日本は電子分野の企業で国際標準化活動に参与する能力が高い が、その他の分野の企業ではこの能力が不足している。この理由は一般的に、日本 企業が国内市場にしか目を向けず。国内で適用される標準を制定しながら国際標準 を重視しないからとみられている。矢野友三郎・平林良人『新世界標準ISO マネジ メント:品質(第一世代)・環境(第二世代)から社会的責任(第三世代)へ』(日 科技連、2003 年)、18~19 ページ。
30 “Policy on International Standardization in Japan,ˮ JISC, p. 3, http://www.jisc.go.jp/eng/
ため、研究・開発力のある企業が「国際標準総合戦略」に基づいて、 企 業自身の標 準化発展戦 略を策定し 、国際標準 化活動を進 める総 合 部 門の設置を 奨励した。 日本政府は 補助金制度 を活用しな がら、 産 業 界が世界市 場や技術先 進分野で優 位に立てる ような国際 標準の 提 案を提示するようサポートする31。 (2) 国際標準化活動の支援 日本は、日本と利害関係のあるISO や IEC での審議プロセスに積 極 的に参加し 、国際標準 の核心的領 域での役割 を拡大する 必要が あ る。ある外国の標準がISO や IEC の標準となる可能性が予想できる と きには、原 則的にこれ に一致する 日本工業規 格を速やか に制定 す べ きである。 また、国際 社会への貢 献と自国の 発言権の強 化とい う 観 点から、日 本の産業界 と学界は積 極的に国際 標準化機構 の議長 や 幹 事を引き受 けなければ ならない。 国際標準化 の動向を系 統的に 把 握するために、日本の在外公館や日本貿易振興機構(Japan External Trade Organization、JETRO)32 といった機関を活用し、引き続きフ ォ ーラム標準 や世界各国 の国際標準 化政策に関 する措置な ど国際 標 準化の情報収集作業を系統的に進めるべきである33。日本が国際標準 となることが期待される「先端医療(IPS 細胞、ゲノム、先端医療機 器 )」、「 水 」、「 次 世 代 自 動 車 」、「 鉄 道 」、「 エ ネ ル ギ ー マ ネ ジ メ ン ト
31 知的財産戦略本部、前掲『国際標準総合戦略』、6~10 ページ;経済産業省、前掲『国 際標準化戦略目標』、2 ページ。 32 日本貿易振興機構は日本経済産業省のもとの独立行政法人であり、主に、日本の貿 易振興業務、発展途上国経済に関連した研究に従事している。 33 知的財産戦略本部、前掲『国際標準総合戦略』、11~13 ページ;経済産業省、前掲『国 際標準化戦略目標』、3 ページ;日本工業標準調査会標準部会『標準化戦略(総論編)』 日本工業標準調査会、2001 年 8 月 31 日、14~18 ページ、http://www.jisc.go.jp/policy/pdf/ hyoujun_senryaku_h13.pdf。
(スマートグリッド、創エネ・省エネ技術、蓄電池)」、「コンテンツ メディア(クラウド、3D、デジタルサイネージ、次世代ブラウザ)」、 「ロボット」といった7 大分野を重点的に支援する34。 (3) 国際標準化人材の育成 国際標準化 問題に関与 する人材は 技術的な知 識のほか、 特許に 関 連 する知識や 、語学力、 交渉力、標 準化活動に 長期的に参 与する こ と によって得 られる人脈 などさまざ まな知識と 経験が求め られる 。 近 年、国際標 準化の人材 の高齢化と 若手人材の 育成の遅れ を懸念 す る声が高まり、貴重な経験を若者に伝え、21 世紀の国際標準化人材 を 育成するこ とが当面の 急務となっ ている。こ のため、国 際標準 化 活動の経験者を臨機応変に活かし、講師を担当させ、21 世紀の国際 標 準化人材を 育成するこ とを目的と した「国際 標準化人材 育成校 」 を 創設する。 また、大学 の理・工学 部を中心に 、学生に対 して基 本 的 な国際標準 教育を行い 、大学での モデル教材 の作成を奨 励する 必 要 がある。次 に、企業や 日本知的財 産協会や日 本弁理士会 などの 技 術 者、知的財 産関連従事 者、弁理士 を対照に、 国際標準の 研修を 実 施する35。最後に、2020 年までに、国際標準化機構の議長や調査員 となる実力を備えた若手の標準化専門家800 人を育成する36。
34 知的財産戦略本部、前掲『知的財産推進計画 2010』、7 ページ。 35 知的財産戦略本部、前掲『国際標準総合戦略』、14~16 ページ;経済産業省、前掲『国 際標準化戦略目標』、4 ページ;日本工業標準調査会標準部会、前掲『標準化戦略(総 論編)』、18 ページ;日本工業標準調査会『人材育成政策特別委員会報告書~今後の 標準化人材育成のあり方について~』日本工業標準調査会、2008 年 7 月 16 日、2~14 ページ、http://www.jisc.go.jp/policy/pdf/jinzaihoukokusyo.pdf。 36 知的財産戦略本部、前掲『知的財産推進計画 2010』、7 ページ。
(4) アジア太平洋地域での協力強化
国際標準化 機構は一国 一票制の投 票で国際標 準を決定す るため 、 ア ジア太平洋 各国との協 力関係は欠 かせない。 アジア太平 洋地域 に は現在、太平洋地域標準会議(Pacific Area Standards Congress、PASC)37 と
ア ジ ア ・ 太 平 洋 電 気 通 信 標 準 化 機 関 (Asia-Pacific Telecommunity Standardisation Program、ASTAP)38 など国際標準化の協力を目的と し た、地域の 標準化機関 があるもの の、アジア 太平洋諸国 の多く は 国 際標準化活 動の経験に 乏しい上、 各国の技術 レベルには 大きな 隔 た りがある。 このため、 アジア太平 洋諸国の国 際標準化活 動のレ ベ ル 向上や、現 在の協力体 制の強化を 図り、国際 標準の共同 提案や 不 適 切な標準提 案への対応 で協調し、 アジア太平 洋地域の国 際標準 化 の基盤整備をリードするための中長期戦略を策定する39。
五 主な担い手の役割
日本の標準 化戦略の進 め方をより 明確にする ため、その 主な担 い 手 の役割を明 らかにする 必要がある 。以下、日 本の標準化 戦略の 主37 PASC は太平洋地域諸国の標準化組織が自由意志で参加するフォーラムで、国際標準 化活動をその主要な目的としている。特にISO と IEC における重要な課題と意思決 定に関して討議し、情報交換や政策の協調を通じて、地域内の国家の利益を守るこ とを目指す。 38 ASTAP は ア ジ ア 太 平 洋 地 域 の ア ジ ア ・ 太 平 洋 電 気 通 信 共 同 体 ( Asia-Pacific Telecommunity、APT)の活動を支援するための標準化組織である。アジア太平洋地 域における情報通信技術分野の標準化活動を強化し、国際標準の策定の参与を目指 す。 39 知的財産戦略本部、前掲『国際標準総合戦略』、17~16 ページ;経済産業省、前掲『国 際標準化戦略目標』、4~5 ページ;日本工業標準調査会標準部会、前掲『標準化戦略 (総論編)』、19 ページ;日本工業標準調査会標準部会『国際標準化活動基盤強化ア クションプラン』日本工業標準調査会、2004 年 6 月、13~14 ページ、http://www.jisc. go.jp/policy/pdf/action_plan_all.pdf。
な 文書と実際 の状況に基 づいて、主 な担い手の 現在の取り 組みと 今 後発揮する役割を整理する。 1 政府 日本政府( 経済産業省 が中心)は 国際標準原 案に関する 調査と 研 究 経費、国際 会議出席の 旅費、人材 育成費用な どについて 助成す る と 同時に、基 礎研究や環 境、安全、 福祉など市 場原理が作 用しに く い分野で国際標準化活動を推進する。次に国立の研究機関と協力し、 研究開発と国際標準の一体化を実現する。広報活動においては、2005 年から日本の日本経済団体連合会40 と共同で、企業経営者と第一線 の 管理者を対 象にした座 談会を開催 している。 また、標準 化に貢 献 の あった専門 家や団体に 対し、経済 産業大臣が 表彰を行う ほか、 対 外的には世界貿易機関(WTO)やアジア太平洋経済協力(APEC)、 アジア欧州会合(Asia-Europe Meeting、ASEM)といった政府レベル の標準化に関連する国際会議に参加している41。 2 日本規格協会
日本規格協会(Japanese Standards Association、JSA)はもともと経 済 産業省が所 管していた 一般財団法 人であり、 主な業務は 標準化 に 関 する刊行物 の出版、日 本工業規格 の規格票の 作成と発行 、各種 の 標準化広報活動、企業に対するコンサルティングと技術指導の提供、
40 正式名「社団法人日本経済団体連合会」は、日本商工会議所、経済同友会と共に、 日本三大経済団体と称され、一部の東京証券取引所上場企業を中心とした企業によ り構成されている。 41 詳細は、日本工業標準調査会標準部会『国際標準化アクションプラン(総論)』日本 工 業 標 準 調 査 会 、2007 年 6 月 19 日 、 5 ペー ジ 、 http://www.jisc.go.jp/jisc/data/ hyouzyunbukai/jiscsc42/3souron.pdf。
日 本規格協会 標準化文献 賞の授与、 国際会議の 参加団体へ の経費 補 助などとなっている。JSA 自身も国内審議団体として国際標準案の 制定を行う。 3 日本工業標準調査会(JISC) JISC は経済産業省が設置した審議調査会であり、工業標準化法に 基 づき工業標 準に関連す る審議調査 を行う。具 体的には、 日本工 業 規格の制定と改定について審議を行い、工業標準、JIS マーク制度、 認 証検査事務 といった工 業標準化の 促進に関連 する作業に ついて 大 臣に提言し、諮問を受ける42。1952 年には ISO に、1953 年には IEC に加盟し、日本を代表して国際標準の開発に参与する。 4 企業 国際標準化 活動と企業 の経営戦略 には密接な 関連性があ り、各 業 界の実際の状況を最も理解するのは企業そのものであろう。そこで、 日 本政府は一 定の研究開 発力のある 企業が自身 の総合標準 化発展 戦 略 を策定し、 国際標準化 活動に取り 組む総合部 門を設立す ること を 奨励してい る43。企業か ら提示され る国際標準 原案は、JISC への直 接提案、あるいは国内の審議団体を通じJISC に提案され、JISC の ISO とIEC での代表を通じ国際標準化機構へと伝達される。 5 国内審議団体 国内審議団 体のメンバ ーは上述の 関連企業の ほか、以下 の三つ の 組織がある。
42 「JISC の紹介」日本工業標準調査会、http://www.jisc.go.jp/jisc/index.html。 43 知的財産戦略本部、前掲『国際標準総合戦略』、7、9 ページ。
(1) 業界団体:日本には各業界が組織する協会や学会、民間団体が あり、業界内で統一が必要な標準の制定や、JIS 標準の研究、原 案作成など引き受けている。具体的には日本自動車標準化組織、 日 本電 子材料 工業 会、日 本石 油学界 など がある 。こ れら団 体の 中 には 、専門 的な 標準化 部門 を持つ もの もあり 、技 術部門 が標 準化事業を引き受けるものもある。 (2) 大学と学会:国際標準化活動において、大学と学会の関係者は 一 定の 役割を 担っ ている 。具 体的に は研 究成果 の国 際標準 化、 学 会に よる国 際標 準化機 構の 幹事や 国内 審議団 体の 担当作 業、 大学教授がISO や IEC の国際議長または国内対策委員会の委員 長 を担 当して の活 動の取 り組 みなど があ る。ま た、 政府あ るい は 日本 規格協 会が 開発し た教 材での 標準 化教育 、大 学と学 会の 研 究者 が標準 化関 連の研 究に 従事す るな ど、す べて 一定の 成果 を継続的に上げている44。 (3) 産業技術総合研究所:産業技術総合研究所(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology、AIST)の前身は工業 技 術院 などで あり 、標準 の推 進や研 究開 発計画 と標 準の統 合の 促進、国際標準化人材の育成に取り組む。将来的にはAIST の研 究 者は 引き続 き現 在の研 究事 業と国 際標 準化機 構の 幹事を 引き 受 ける ほか、 日本 の産業 競争 力を強 化す るとい う観 点から 、国 際 標準 化にお ける 新興科 学技 術分野 を発 掘し、 国際 標準化 活動 に 従事 する人 材リ ソース (議 長、主 査、 幹事な ど) を育成 する ことが求められる45。 日本のISO と IEC の体制参与においては、各国を代表する機関が
44 同上、3 ページ。 45 同上、4 ページ。
国際標準制定に関わっており46、日本の代表機構は JISC である。実 際 の会議にお いては、企 業や業界団 体、大学、 産業技術総 合研究 所 などの研究機関から構成される国内の審議団体がJISC の名義で個別 にISC と IEC の技術委員会に参加している。経済産業省の基準認証 ユニットがJISC の主務部門であり、日本規格協会を通じて民間の国 際標準化活動を支援している47。日本のISO、IEC への参与体制は、 図 3 を参照されたい。 日本が2006 年に「国際標準化戦略目標」を策定して以来、ISO や IEC の幹事引き受けのみならず、国際標準提案件数においてもゆる やかに伸びている。日本がISO と IEC で引き受ける幹事の合計人数 は2006 年には 63 人、2007 年は 67 人、2008 年と 2009 年は 74 人、 2010 年は 73 人となっている。年間平均提案件数は 2004 年から 2006 年は94 件、2005 年から 2007 年は 96 件、2006 年から 2008 年は 102 件、2007 年から 2009 年は 112 件、2008 年から 2010 年は 125 件とな っている48。しかし、日本の国際標準化戦略の目標は極めて高く、2015 年 までに欧米 の主要国と 並ぶ水準を 目指してい る。ここか ら、日 本 が 今後も政府 と民間がさ らに積極的 に国際標準 化競争に取 り組み 、 国 際標準化の 舞台におい て欧米の主 要国と対等 な立場に立 ち、国 の 経済発展と産業の国際競争力の拡大に努めることが予見される。
46 各国の代表機関例;米国国家規格協会(American National Standard Institution、ANSI)、
ドイツ規格協会(Deutsches Institut für Normung e.V.、DIN)、カナダ規格評議会 (Standards Council of Canada、SCC)、英国規格協会(British Standards Institution、BSI)。
47 知的財産戦略本部、前掲『国際標準総合戦略』、29 ページ。
48 「『国際幹事引受数』及び『国際標準提案件数』」日本工業標準調査会、1 ページ、
図3 ISO、IEC に関する日本の国際標準化体制 (出典)知的財産戦略本部の2006 年 12 月 6 日付『国際標準総合戦略』29 ページより筆 者作成。
六 台湾の標準化政策の発展
台湾の国家標準の推進のスタートは1946 年に公布された「標準法」 で あり、これ に伴って経 済部中央標 準局が設立 され全国で の標準 推 進を担ってきた。後に、1996 年と 1998 年の二度にわたって国家標準制定弁法が改正され、標準制定の質の向上を図った。また、1997 年 に標準法を改正し、国家標準の位置付けを確立し、WTO 加入に向け た 実質的なニ ーズに対応 した。時代 の変化と国 際的な発展 の流れ に 伴 い、経済部 は中央標準 局の標準に 関連する業 務と商品検 験局の 業 務を統合し、「経済部標準検験局」を設立した。主な狙いは標準、検 査 、度量衡、 適合性評価 の認証体制 の関連業務 を管理する ことで あ り、これら業務はWTO の貿易の技術的障害に関する協定が規定する 分 野に対応す るものでも ある。この ため関連業 務部門を統 合する こ と で、一本化 された意思 疎通・協調 メカニズム が確立され 、台湾 の 国家標準が新たなマイルストーンへと歩みを進めることとなった49。 2006 年まで、台湾の標準化業務は戦略レベルの先進性やマクロ研 究 が欠けてお り、台湾の 標準化活動 が、経済・ 貿易活動の 調整や 技 術 の拡散、産 業の高度化 促進、人々 のくらしの 保障や環境 保護を 実 現 するといっ た面で、実 質的な貢献 やサポート を提供する ことが で きなかった。このため、経済部標準検験局は2006 年末に「国家標準 発 展策略白皮 書(国家標 準発展戦略 白書)」を まとめた。 その狙 い は 産業界が国 内外の標準 化活動に参 与する力量 を拡大し、 これを 深 め ることで、 特定の標準 制定の主導 権を握り、 民間の標準 化作業 へ の 参与を奨励 し、標準を 技術の研究 開発や市場 開拓、経済 ・貿易 活 動、環境保護、福祉などにより大きな貢献をもたらすことにあった50。 「国家標準発展戦略白書」は以下 7 大戦略目標と推奨行動を定め た。(1)標準の内容の市場化、(2)標準の先端化、(3)標準体系 の有機化、(4)標準の影響の生活化、(5)標準知識の専門化、(6)
49 經濟部標準檢驗局「國家標準化體系」http://www.bsmi.gov.tw/wSite/ct?xItem=16583 &ctNode=4005。 50 羅友謙・吳秋文「從策略制高點暨國外發展趨勢思考我國標準化發展政策(下篇)」『品 質月刊』第44 卷第 2 期(2008 年 1 月)、頁 62。
標準効果の可視化、(7)標準事務の情報化51 である。 一方で、中台関係は2009 年 12 月 22 日に行われた第 4 次窓口機関 ト ップ会談「 江陳会談」 で、「両岸 検査測定基 準認証協力 」協議 に 調印し、産業の発展と消費の安全に関する新たな局面を切り拓いた。 こ れは、両岸 が標準や計 量、検査、 検証、認証 、消費財の 安全と い った 5 つの項目で交流と協力を進め、経済・貿易におけるウィンウ ィ ンの局面を 切り拓き、 共同で消費 者の権益確 保に関する 堅実な 基 礎を打ち立てたことを意味する。今後、台湾は、共同でLED や太陽 光発電、FPD、車載情報通信製品など新興産業の安全や性能の検査、 検証の標準の確立に向け、中国大陸に働きかけていく52。現在、国内 の産官学研の各界はすでに、「大中華の新興・高成長市場を活用し、 影 響力ある技 術標準を確 立し、世界 レベルの技 術と製品、 ブラン ド を推進する」ことで共通認識を確立している53。
七 結論に代えて―日本の標準化戦略が台湾に与える
示唆
これまで検 討した内容 を通じ、わ れわれは日 本の標準化 戦略の 実 施 から、台湾 の参考およ び手本とす る価値のあ る部分を採 り入れ る こ とができる 。具体的に は、日本の 標準化戦略 が台湾に与 える示 唆 には以下の面がある。 第一に、標 準化活動に おいてもっ と積極的な 役割を担う よう民 間 企 業を奨励す ることであ る。市場経 済が健全に 発展するに つれ、 日51 中華民國國家資訊基本建設產業發展協進會『國家標準發展策略白皮書』(經濟部標準 檢驗局、2006 年)、頁 A-3-63~A-3-79。 52 『經濟日報』2009 年 12 月 23 日、版 A3。 53 李仁芳・吳明機「臺灣電子資訊產業參與國際與大中華技術標準之策略」『遠景基金會 季刊』第8 卷第 2 期(2007 年 4 月)、頁 133。
本 の標準化政 策の発展の プロセスに おいて、日 本の標準制 定は初 期 の 政府による 法律での規 範から民間 企業と業界 団体の主体 的な標 準 案の提出へと移行している54。今後の標準制定において民間の作用を よ り発揮させ るため、日 本政府は今 後も企業や 業界団体に よる標 準 案 の策定をサ ポートし、 産業界の国 際標準化活 動への参与 を奨励 し て いく。しか し、日本は 国際標準と なる潜在力 を持った技 術を備 え る が、多くが ハイテク産 業や新興産 業が中心と なっている 。これ ら の 技術は投入 資金が多額 で、高リス ク、誕生サ イクルが長 いとい う 面 がある割に は、収益潜 在力を推し 量ることが 難しいため 、一般 の 民 間企業が軽 率に足を踏 み入れたが らない領域 であり、政 府はさ ま ざ まな政策ツ ールで科学 研究と技術 開発を支援 している。 一方で 、 台湾の標準化活動は政府が主導55 しているものの、産業界は自身だ け が利益の所 在を最も理 解している 。このため 標準制定へ の参与 に つ いては、民 間企業の自 主的な措置 が欠かせな い。ゆえに 、台湾 政 府 は民間の標 準化作業へ の参与を奨 励し、産業 界が標準化 活動に お い てより積極 的かつ能動 的に役割を 果たし、よ り大きな経 済効果 を 発揮できるようにすべきである56。 第二に、国 際標準の制 定に関わる よう方策を 講じること である 。 日 本の標準化 戦略の目標 は、積極的 に国際標準 化活動を推 進する こ とにある。具体的な目標は国際標準機関での提案件数や、ISO と IEC
54 Shogo Sakakura, “National Strategies for International Standardization in Japan and the
Roles of Japanese Standards Association,ˮ CICC, p. 3, http://www.cicc.or.jp/japanese/ hyoujyunka/j-af15/15-5.pdf.
55 林詩騰「日本標準體系運作現況與標準策略」公務出國報告資訊網、2006 年 9 月 27 日、
頁11、http://report.nat.gov.tw/ReportFront/report_detail.jspx?sysId=C09502476。
56 中華民國國家資訊基本建設產業發展協進會『國家標準發展策略研究計畫』(經濟部
で の幹事を担 う役職者数 を拡大する ことである 。台湾は国 連のメ ン バーではないため、ISO や IEC といった主要な国際標準制定機関に 加 盟すること はできず、 国内市場の 規模も小さ く、企業は 中小企 業 が 中心で、国 際標準の制 定に関わる ことは難し い。このた め、現 在 の 台湾の市場 規模と政治 ・経済的な 実力を考慮 し、海外企 業と戦 略 提 携すること で、一緒に 国際標準の 制定に参与 するならば 比較的 実 現の可能性は高いと思われる57。さらに、国内での専門家育成では、 台 湾が競争優 位性を持つ 領域で行い 、連絡担当 者の事務を 引き受 け る などしなが ら、発言権 と主導権の 獲得に努め ることがで きるで あ ろう58。 第三に、産業界の標準化事務を重視する意識を高めることである。 日 本政府は産 業界の意識 改革の重要 性に着目し 、標準化戦 略に関 す る 文書の多く で、繰り返 し企業の経 営陣の国際 標準化の重 要性に 対 す る認識が不 足している と指摘して いる。日本 政府は関連 の閣僚 が 懇 談会を開き 、企業リー ダーや商工 団体と直接 対話し、企 業の国 際 標 準の重要性 に対する理 解を高めて いる。一方 、台湾産業 界のリ ー ダ ーは、国際 標準の制定 に関わるこ とが、産業 界に極めて 大きな 利 益 をもたらす と繰り返し ているもの の、個別の 企業におい て国際 標 準 化活動を企 業の研究開 発部門にお ける重要な 活動と見な してい る か と言うと、 実情には失 望せざるを 得ない。国 内で一流の 電子・ 情 報 企業であっ ても、従業 員を国際標 準制定の会 議に派遣す るケー ス は極めてまれである59。次に、わが国の産業界はまるで特許出願だけ を 重視してお り、特許関 連部門を設 置している のに対し、 標準に 関
57 李仁芳・吳明機、前掲論文、頁 132-133、頁 160。 58 林詩騰、前掲文、頁 11。 59 李仁芳・吳明機、前掲論文、頁 140。
し ては重視す る姿勢がみ られない。 わが国は今 後、企業に 対して 標 準 化に取り組 むよう推進 し人材を育 成し、標準 化の効用を アピー ル し 、徐々に産 業界が標準 化を意識す るような環 境づくりを 通じ、 標 準 化活動への 参加を企業 の意思決定 者の自覚的 な行為にす るよう 促 し 、持続的な 影響力を持 つ企業文化 へと推進す ることが考 慮でき る であろう60。 第四に、業 界標準を制 定する審議 団体の育成 がある。日 本には 関 連 企業や業界 団体、大学 や学会、産 業技術総合 研究所とい った、 業 界内で統一が必要な標準の制定と JIS 標準の研究や原案作成といっ た作業を担う審議団体が数多く存在する。一方台湾の標準化活動は、 経 済部標準検 験局がつか さどり、審 議団体によ る標準案の 提出は ま だ 始まったば かりで、標 準を審議す る民間団体 はほとんど なく、 具 体的には電機電子環境発展協会61 のみであると言ってもよい。ゆえ に 、台湾政府 は法人団体 の育成や、 業界団体設 立といった 方向を 目 指 し、台湾の 標準化事業 を担う体制 を強化し、 政府の標準 化活動 の 助力とすることができるであろう。 翻 訳 : 津村 あお い ( フリ ーラ ン ス 翻訳 者) ( 寄 稿 :2012 年 10 月 8 日、採用:2013 年 1 月 11 日)
60 林詩騰、前掲文、頁 13~14。 61 林能中「推動國家標準國際化之涵義及效益」『國家政策季刊』第 3 卷第 2 期(2004 年 6 月)、頁 122。
日本標準化戰略之發展
―兼論對臺灣的啟示―
呂
建 良
(臺灣・國立政治大學國際關係研究中心亞太所博士後研究員)【摘要】
由 於經 濟全球 化進 程不斷 加快 ,世界 市場 持續走 向一 體化。 為確 保 全球市場的 有效營運, 如何建構市 場普遍接受 的共同標準 ,乃成 為 產 業持續發展 的重要基礎 。日本是經 濟強國,但 在參與國際 標準化 活 動 方面與歐美 主要先進國 家相比卻存 在較大的差 距,無論是 主導制 定 國 際標準提案 比例,還是 承擔國際標 準化組織秘 書處工作的 數量, 還 未 達到歐美主 要國家平均 數量的一半 ,為此日本 從新世紀開 始便提 出 一 系列的標準 化戰略,企 圖透過其先 進的技術, 參與國際標 準的制 定 和 修訂,以謀 求龐大的經 濟利益,並 控制國際市 場。本文的 研究目 的 即 在分析日本 制定標準化 戰略之發展 ,希望日本 的他山之石 可以作 為 臺灣的參考與借鏡。 關鍵字:日本、標準化戰略、日本工業標準調查會、國際標準The Development of Japan’s Standardization
Strategy: Implications for Taiwan
Chien-Liang Lu
Postdoctoral Fellow, Asia-Pacific Division,
Institute of International Relations, National Chengchi University
【
Abstract】
Because the advancement of economic globalization speeds up unceasingly, the world market continues to move toward conformity. In order to let the global market operate effectively, common standards generally accepted by the market are the important basis of the industrial development. Although Japan is an economical giant, Japan has fell behind European countries and the U.S. in the setting of international standard. Regardless of the proportion of international standard’s proposals, or the personnel number in secretariat of international standardization organization, Japan has not achieved half of that of European countries and the U.S.’s average. Therefore, since the 21st century Japan started to propose a series of standardization strategies. Japan hopes to participate in international standard setting by her advanced technology, seek the huge economic interest and control the global market. The purpose of this paper is to discuss Japan’s standardization strategy, hoping to offer insights and implications for Taiwan.
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