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日本民主党の農家戸別所得補償制度と食料安全保障 日本民主黨的農家戶別所得補償制度與糧食安全保障

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日本民主党の農家戸別所得補償制度と

食料安全保障

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燿 廷

(淡江大学国際企業研究所・アジア研究所副教授)

【要約】

世界食料需給の逼迫情勢は2000 年以後顕在化してきている。地球 温 暖化による 異常気象か ら生じる農 産物の被害 が広がり、 世界穀 物 備 蓄が戦後最 低の水準に 陥り、穀物 輸出国が国 内食料の優 先供給 の た め輸出制限 を施し、食 料の純輸入 国、特に低 所得国の社 会的・ 政 治 的な不安を 引き起こし た。平時に 安定的な輸 入と国内食 料供給 能 力 を確保し、 不測時に的 確な対応を 可能とする 総合的な食 料安全 保 障政策が消費者の関心の的となったのみならず、改めて各国の食料・ 農業政策の要となった。 本 論文の 目的 は、日 本の 食料安 全保 障の政 策理 念と施 策を 検討す る 研究計画の 一部として 、民主党新 政権の食料 安全保障政 策を検 討 す ることであ る。まず民 主党の新し い農業政策 の目玉であ る戸別 所 得補償制度に焦点を当て、2010 年度から実施された米戸別所得補償

1 本論文は「民主黨執政後日本政治、經濟與外交政策之轉變」シンポジウム(台北: 国立政治大学現代日本研究センター・財団法人日本交流協会主催、2010 年 9 月 18~19 日)にて発表された論文の一部を書き直したものである。

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モデル対策と2011 年度に実施される農家戸別所得補償制度の内容を 究 明する。そ して農家戸 別所得補償 制度の展開 をめぐって 、その 影 響 と問題点、 農家の生産 意欲や食料 供給への影 響、食料自 給率向 上 の効果を分析する。 キーワード:食料・農業・農村基本法、食料安全保障、食料自給率、 米戸別所得補償モデル事業、戸別所得補償制度

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一 はじめに

2010 年 8 月 5 日にロシア政府は当月 15 日から 12 月までに小麦等 の 穀物輸出を 一時的に禁 止すること に踏み切っ た。その背 景には 、 35 度を超える記録的な猛暑と少雨による干ばつ被害の広がりによっ て、ロシア中南部とウラル地方の穀倉地帯約1,000 万ヘクタールが収 獲不能となったことがある。これにより、今穀物年度(2010 年 7 月 から2011 年 6 月)の予想収穫高は昨年度より 26% 減の 6,700 トン と、2003 年以来の低水準に落ち込むことが予測されたため、ロシア 国 内の小麦等 、穀物価格 の急騰を抑 えることを 目的として 一時禁 止 に踏み切った。ロシアには2,000 万トンの穀物在庫があり、在庫を放 出 すれば問題 は生じない としていた が、国内価 格の急騰を 受け、 政 府は国内対策を優先し、輸出禁止に転じた。 ロ シアの 穀物 輸出、 特に 世界輸 出の 約一割 を占 めてい たロ シアの 小 麦輸出の一 時禁止を受 けて、米国 シカゴ商品 取引所の小 麦先物 相 場は5 日朝、8.3% 値上がり、ストップ高まで上昇した。年初の価格 と比べると、45% の上昇となり、とうもろこし、大豆等主要穀物の 価 格も軒並み 上昇した。 世界食料価 格の急騰が 再び世界の 関心を 集 め、2008 年世界穀物価格の暴騰を呼び起こした。 世界食料需給の逼迫情勢は2000 年以後顕在化してきている。穀物 輸 出国と輸入 国の偏在化 が特に食料 純輸入国の 食料供給の 不安を 引 き 起こし、食 料安全保障 は消費者の 関心の的と なったみな らず、 改 めて各国の食料・農業政策の的となった。 本 論文は 日本 食料安 全保 障の政 策理 念と施 策を 検討す る研 究計画 の 一部であり 、その目的 は民主党新 政権による 日本新農政 の食料 安 全 保障政策を 検討するこ とである。 まず日本の 政権交代に よる民 主 党 の新農政、 特にその目 玉政策であ る戸別所得 補償制度に 焦点を 当

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て る。そして 農家戸別所 得補償制度 の展開をめ ぐって、そ の影響 と 問題点、特に食料自給率の向上について検討を試みる。

二 民主党の農業目玉政策―戸別所得補償制度

1 新食料・農業・農村基本計画(2010 年 3 月) 戦後日本農政の転換点と称される食料・農業・農村基本法が1999 年 に 制定されて から、策定 された基本 計画に基づ く様々な施 策の取 り 組 みにより一 定の成果は 現れている ものの、食 料自給率の 低迷、 消 費 者の食に対 する信頼の 低下、農業 所得、農業 者や農地の 減少、 農 村活力の低下等、日本の農業と農村は厳しい状況におかれている。 こうしたなかで、政権交代により、民主党は自民党政権が2005 年 に策定したの基本計画を大幅に変更し、2010 年 3 月に改定版新食料・ 農業・農村基本計画を公表した。 民 主党は 食料 ・農業 ・農村 政策を 国家 戦略の 一環 と位置 付け 、2010 年3 月には大幅な政策転換を図ることを目的として、「国民全体で農 業・ 農村を支え る社会」の 創造を目指 して、新食 料・農業・農村基 本 計画が策定された。 ま ず、取 り組 むべき 施策 の基本 的方 針とし て「 再生産 可能 な経営 を確 保する政策 への転換 」、「多 様な用 途・需要に 対応して生 産拡 大 と付 加価値を高 める取り組 みを後押し する政策へ の転換」、「意欲 あ る多 様な農業者 を育成・確 保する政策 への転換 」、「優 良農地 の確 保 と有 効利用を実 現し得る政 策の確立 」、「活 力ある 農山漁村の 再生 に 向け た施策の総 合化」、「安 心を実感で きる食生活 の実現に向 けた 政 策の確立」等を取り上げている。 新食料・農業・農村基本計画では、2020 年度の食料供給熱量総合自 給率目標を50% にまで引き上げ、また品目別自給率における目標を 新たに設定し直した。一人一日当たりの総供給熱量は2020 年で 2,460

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キロカロリーと、2015 年 2,480 キロカロリーより少なく、蛋白質: 脂質:炭水化物のPFC 比は 13:27:60 と想定されている。 民 主党は 食料 自給率 の目 標設定 に意 欲的で ある 。まず 、供 給カロ リ ー 総 合 自 給 率 は 、 自 民 党 時 代 の 基 本 計 画 -2015 年 ま で に 自 給 率 45%(将来的に 50%)を実現するとした目標設定-より強気であり、 2020 年までに 50% とする目標を設定した。品目別では、米、畜産 物 、乳製品の 輸入開放が 逆転不可能 な状況であ るため、自 給率水 準 の 設定は自民 党時代とあ まり変わら ない。大豆 と小麦は、 創設し た 戸 別所得補償 制度との絡 みで、自民 党時代より 大幅に引き 上げ、 大 豆が17%(自民党 6%)、小麦 34%(同 14%)と、1960 年代の高水準 を 凌ぐほどの 強気である 。これが民 主党農政の 精粋または 特徴で あ る。(表 1 参照) 表 1 日本食料自給率の推移と計画目標値 (単位:%) 1965 1975 1985 1995 2005 2008 2015 年目標 2020 年目標 供給熱量総合 73 54 53 43 40 41 45 50 飼料用含む穀物 62 40 31 30 28 28 ― ― 主食穀物 80 69 69 65 61 60 ― ― 米 95 110 107 104 95 95 96 96 小麦 28 4 14 7 14 14 14 34 大豆 11 4 5 2 5 6 6 17 野菜 100 99 95 85 79 82 88 85 果実 90 84 77 49 41 41 46 41 牛乳・乳製品 86 81 85 72 68 70 75 71 牛肉 95 81 72 39 43 44 39 45 豚肉 100 86 86 62 50 52 73 55 鶏肉 97 97 92 69 67 70 75 73 鶏卵 100 97 98 96 95 96 99 96 魚介類 100 99 93 57 51 53 69 ―

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(注)2015 年目標は 2005 年の基本計画、2020 年目標は 2010 年の新基本計画に示され たものである。 (出典)農林水産省「食料・農業・農村基本計画」(2005 年)、http://www.maff.go.jp/ j/keikaku/k_aratana/pdf/20050325_honbun.pdf;農林水産省「食料・農業・農村基 本計画」(2010 年)、http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/pdf/kihon_keikaku_ 22.pdf;農林水産省「食料自給率の推移」(2010 年)、http://www.maff.go.jp/ j/keikaku/k_aratana/pdf/santei_data.pdf。 食 料 安 定 供 給 の 確 保 に お け る 施 策 と し て は 、「 食 の 安 全 と 消 費 者 の信頼 の確保 」、「国産農産物 を軸とした 食と農の結 び付きの強 化」、 「食 品産業の持 続的な発展 と新たな展 開」、「総合 的な食料安 全保 障 の確 立」、「輸入 国としての 食料安定供 給の重要性 を踏まえた 国際 交 渉への対応」等がとりあげられた。 農 業の持 続的 発展に 関す る施策 にお いては 、民 主党農 政の 目玉政 策 で あ る 戸 別 所 得 補 償 制 度 の 創 設 の 理 由 と し て 、「 食 料 自 給 率 の 向 上 と多面的機 能性の維持 を図るため には、兼業 農家や小規 模農家 を 含 む意欲ある 全ての農業 者が農業を 継続し、経 営発展に取 り組め る 環境を整備することが必要である」との点が挙げられた。 民主党が打ち出した新しい農業経営対策は、2005 年に策定された 基 本計画の農 業従事者明 確化の考え を転換して 戸別所得補 償制度 を 創 設し、全て の農業者が 農業を継続 し、経営発 展に取り組 める環 境 を整備することとなった。また未然防止の考えに基づき、「食の安全 と 消費者の信 頼の確保」 はトレーサ ビリティ等 食品供給行 程に重 点 を 置くことと した。バイ オマス等の 資源と産業 を結びつけ 、地域 ビ ジネスの展開等を図る一方、集落機能の維持と地域資源・環境の保全 を推進し、農山漁村活性化ビジョンを策定することとした。 国 民食生 活の 変化や 少子 高齢化 社会 など構 造的 なコメ 離れ の中、 民主党新政権の主張・マニフェストを反映して、農家に補助金を出す

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戸別所得補償制度は2010 年度からスタートしている。 2 米戸別所得補償モデル事業ならびに戸別所得補償制度 民 主党政 権は その農 業政 策の目 玉と して戸 別所 得補償 制度 を創設 し た。新制度 は放棄耕地 を有効利用 し、食料自 給率を高め 、多面 的 機 能性の維持 を図ること に政策の重 点を置き、 民主党政権 は、小 規 模農 家を含め意 欲ある全て の農業者が 農業を継続 できる環境 を整え 、 農 業の産業と しての持続 性を回復す るために策 定したと説 明した 。 戸別所得補償制度の本格実施に向けて、まず2010 年度から、戸別所 得補償モデル対策が始まっている。 (1) 2010 年度の米戸別所得補償モデル対策 米 戸別所 得補 償モデ ル対 策は、 農地 面積の 過半 を占め 、農 業の中 心的 な役割を果 たしてきた 水田農業を 対象として 水田を有効 活用し 、 食 料自給率向 上の重点と なる麦・大 豆・米粉用 米・飼料用 米等の 生 産 を拡大させ るための支 援(水田利 活用自給力 向上事業) と、麦 ・ 大 豆等の生産 拡大に取り 組む前提と して、水田 農業の経営 を安定 さ せ 、自給率向 上に取組む 環境を作り 上げていく ための支援 (米戸 別 所得補償モデル事業)を一体化して行うものである。2010 年度は実 施予算額として5,618 億円を確保した。 まず、水田利活用自給力向上事業は水田を有効活用し、麦・大豆・ 米 粉用米・飼 料用米等の 自給率向上 を図るため に国全体で 取り組 む べき作物(戦略作物)の生産を行う農業者・集落営農に対して、主食 用 米を生産す る場合と同 等の所得を 確保し得る 水準の交付 金を直 接 支 払いにより 交付し、戦 略作物の全 国的な生産 拡大を推進 する。 ま た 、野菜や雑 穀等、各地 域で各々の 特色を活か した作物生 産が行 わ れ ている実態 を踏まえ、 地域の実情 に応じて柔 軟に交付対 象作物 や

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単 価を設定で きる仕組み を設け、戦 略作物以外 の作物生産 につい て も 支援してい く。そして 、これまで 米の需給調 整に参加し てこな か っ た者も段階 的に戦略作 物の生産に 取り組める よう、米の 生産数 量 目標の達成に関わらず、交付金を交付することとしている。 2010 年度、戦略作物の交付単価は、作付面積 10 アール当たり、麦・ 大豆・飼料作物に対し 3 万 5 千円、米粉用米・飼料用米・バイオ燃 料用米等に対し8 万円、そば・菜種・加工用米に対し 2 万円とする。 戦 略作物以外 のその他の 作物につい ては、交付 対象となる 作物と 単 価は都道府県単位で設定するが、10 アール当たり 1 万円を基本とし て 、作付面積 に対して交 付する。二 毛作の交付 対象となる 戦略作 物 は、作付面積に対して10 アール当たり 1 万 5 千円を交付する。(表 2 参照) 表 2 2010 年度水田利活用自給力向上事業の所得交付単価 1 戦略作物の交付単価 麦、大豆、飼料作物 3.5 万円/10a 米粉用・飼料用・バイオ燃料用米、WCS 用稲 8.0 万円/10a そば、菜種、加工用米 2.0 万円/10a 2 二毛作助成(主食用米と戦略作物、戦略作物同士) 1.5 万円/10a 3 その他の作物(都道府県で作物と単価を決定) 1.0 万円/10a (出典)農林水産省『食料・農業・農村白書(平成22 年版)』(佐伯印刷、2010 年)、22 ページ。 民 主党が 新設 する米 戸別 所得補 償モ デル事 業は 、標準 的な 生産費 (過去7 年中庸 5 年の平均)が標準的な販売価格(過去 3 年の平均) を 上回る作物 に補助金を 出す制度で ある。生産 費が収入を 上回っ て い るのが日本 の稲作の姿 であり、こ の赤字部分 を埋めるの が狙い で

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あ る。価格水 準の動向に 関わらず、 生産調整( 減反)に参 加した 或 いは 前年の出荷 ・販売実績の あった販売 農家・集落営 農に対して 、 同 事業はその赤字差額分を定額補償として10 アールに対し 1 万 5 千円 を主食用米の作付面積(自家消費用・贈答用等分として 10 アールを 控 除)に応じ て支給する 。価格下落 への補てん もある。当 年産の 販 売 価格が標準 的な販売価 格を下回る 場合、その 差額分を基 に「変 動 部分」を算定して、交付する。(図 1 を参照) 図 1 2010 年度米戸別所得補償モデル事業の仕組み (注)標準生産費用:過去7 年中庸 5 年の平均費用。 標準販売価格:過去3 年の平均価格。 定額補償:1.5 万円/10a(*主食用米の作付面積)。 変動補填:当年販売価格が標準販売価格を下回った場合、その差額分を基に変動 補償分を算定、交付する。 (出所)農林水産省『食料・農業・農村白書(平成22 年版)』(佐伯印刷、2010 年)、 22 ページ。 農 家生産 費は 過去数 年間 に支払 った 肥料、 農薬 、地代 経費 に労働 費(農村雇用労賃を稲作の労働時間にかけた)の 8 割を加えた額、 2008 年に 1 俵(60 キロ)当たり 1 万 4 千円と計算された。生産費と

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農家販売価格との差は、2008 年で 2 千円の計算となり、それに単収 を掛けて面積当たり換算して10 アール当たり約 1 万 5 千円を戸別所 得補償の単価とした。 変動補てんは、農家生産費の 1 万 4 千円に対する実質手取り額が 保 証される前 提で、販売 価格が標準 的販売価格 を下回る場 合、そ の 価 格差額を補 償する。販 売価格が標 準的販売価 格を上回る 場合、 農 家の実質手取り額はその販売価格に60 キロ当たり 2 千円を加える額 と なる。戸別 所得補償を 受ければ、 農家は現在 の販売価格 を上回 る 所得が得られる2 変 動補て んは 米の所 得補 償交付 金の 所得補 償を 補完す るも のであ る。この変動差額の部分は、当年米価が標準価格より60 キロ当たり 100 円下がると、全国で 117 億円が支出される計算になる3 ま た全国 一律 の交付 金単 価とす るこ の制度 の狙 いは、 規模 拡大や コ スト削減の 努力をした 農家や、販 売価格を高 める努力を 行った 地 域 ほど、その 所得は増え る仕組みで あると民主 党政権は説 明して い る。 (2) 2011 年度の戸別所得補償制度 2011 年度に本格実施される農業者戸別所得補償制度は、田と畑の 作 物対象別に 分けて設計 され、農家 に交付金を 与えること にして い る 。つまり制 度の本格実 施に当たっ て、適用対 象は田から 畑に拡 充 し た。また総 合自給率向 上、生産調 整、地域農 業振興のた めに、 水 田 利活用事業 と米戸別所 得補償モデ ル事業の拡 充以外に、 農業の 持

2 山下一仁『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社、2010 年)、247 ページ。 3 「政府戸別補償で農家支援 競争力向上は期待薄く価格への影響不透明」『日本経 済新聞(Web 刊)』2010 年 7 月 25 日、http://www.nikkei.com/news/category/related- article/tc/g=96959996889DE3E3E4E2EAEBEAE2E0E6E2E5E0E2E3E2869195E2E2E2。

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続 的発展と多 面的機能性 の発揮と促 進に、営農 継続、農業 資源の 維 持 ・管理、環境保 全、中山間 地域等条件 不利地支援 、作物品質 重視 、 不作付地の再生利用などの支援と助成措置を新設または拡充した。 Ⅰ 水田 水田では、2010 年度と同様に、水田利活用事業と米戸別所得補償 事業と一体化した制度を援用し、拡充した。 水 田利活 用事 業は戦 略作 物に対 する 交付金 、二 毛作助 成以 外に、 耕 畜連携事業 と産地資金 助成を新設 した。戦略 作物、二毛 作助成 に 対する交付単価は2010 年度のモデル事業と同様であり、新設した耕 畜連携事業に対して、交付単価は 1.3 万円/10a を設定した。(表 3 参照) 表 3 2011 年度水田利活用自給力向上事業の所得交付単価 1. 戦略作物の交付単価 麦、大豆、飼料作物 3.5 万円/10a 米粉用・飼料用・バイオ燃料用米、WCS 用稲 8.0 万円/10a そば、菜種、加工用米 2.0 万円/10a 2. 二毛作助成(主食用米と戦略作物、戦略作物同士) 1.5 万円/10a 3. 耕畜連携事業 1.3 万円/10a 4. 産地資金の助成 (出典)農林水産省「23 年度概算要求資料-農業者戸別所得補償制度概算要求の骨子」 2010 年 8 月 31 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/h23_gaisan_ kossi.pdf。 「産地資金」は、2010 年度での激変緩和措置(260 億円規模)と 1.0 万円/10a のその他作物の助成(204 億円)を一体化して、新た

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に 430 億円規模の資金を創設するものである。自給率の向上・地域 農 業の振興を 図る上で重 要な作物に 対する支援 、麦、大豆 等の戦 略 作 物の団地化 、ブロック ローテーシ ョンの導入 への支援、 集落営 農 に 対する支援 、生産性向 上に向けた 技術導入に 対する支援 等の使 途 に 応じて、都 道府県の判 断で畑地も 対象に出来 るよう資金 が分配 さ れる。 米戸別所得補償制度は2010 年度米戸別所得補償モデル事業と同じ く、引き続き定額部分と価格変動補てん交付金の 2 つ部分に分けら れる。生産調整(減反)に参加した或いは前年の出荷・販売実績のあ った販売農家・集落営農に対して、定額部分の所得補償は、10 アール に対し1 万 5 千円を主食用米の作付面積(自家消費用・贈答用等分と して10 アールを控除)に応じて支給する。米価変動補てん交付金は、 当 年産販売価 格が標準的 な販売価格 を下回った 場合に、そ の差額 を 基に10 アール当たり単価で補てんする。標準的な販売価格は全国平 均の相対取引価格の過去5 年、2006 年産から 2010 年産の中、最高と 最低を除いた3 年平均から流通経費を除いたものである。 Ⅱ 畑 畑 では、 新た に創設 され た畑作 物の 所得補 償交 付金は 数量 払と面 積 払を併用し た仕組みで あり、結果 的に、数量 払と面積払 のいず れ か 高い額が支 払われるこ とになる。 交付金の支 払い方は、 面積払 を 先 に支払い、 その後、対 象作物の販 売数量が明 らかになっ た段階 で 数 量払の額を 確定し、追 加にて支払 う仕組みと する。数量 払の交 付 単 価について は、自給率 向上に向け て生産拡大 を図る必要 がある こ と から、全算 入生産費を ベースに標 準的な生産 をし、標準 的な販 売 価格との差額分を60 キログラム(又は 1 トン)当たりの単価で設定 する。

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所 得補償 の基 準(ベ ース )は標 準的 な生産 に要 する費 用( 全国平 均 )と販売価 格(全国平 均)との差 額分を基本 として算定 する。 自 給 率向上のた めに畑作物 の生産拡大 を図る必要 があること から、 生 産に要する費用は、全算入生産費(直近 3 年平均)を使用する。全 算入生産費のなかには、経営費・自己資本利子・自作地地代以外に、 家族労働費の10 割を含めたものを基準とする。販売価格は、作柄や 需給状況による年ごとの変動を平準化するため、過去 5 年中庸 3 年 平 均の販売価 格を使用す る。それに よって算出 された交付 単価は 現 行の経営所得安定対策より、小麦・大豆が高く、てん菜、でん粉原料 用馬鈴薯が低く設定されている。(表 4 参照) 表 4 畑作物の戸別所得補償交付単価 戸別所得補償 (参考)現在の経営所得安定対 策における平均的な単価 数量単価 (参考)面積換算 数量換算 面積換算 小麦 6,360 円/60kg 43,700 円/10a 6,250 円/60kg 40,400 円/10a 大豆 11,430 円/60kg 38,700 円/10a 8,540 円/60kg 28,900 円/10a てん菜 6,410 円/t 40,300 円/10a 7,170 円/t 41,300 円/10a で ん 粉 原 料 用馬鈴薯 11,600 円/t 51,500 円/10a 12,160 円/t 52,900 円/10a (出典)農林水産省「23 年度概算要求資料-農業者戸別所得補償制度概算要求の骨子」 2010 年 8 月 31 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/h23_gaisan_ kossi.pdf。 Ⅲ 営農継続支払 そして新たに営農継続支払を創設する。 収 入の大 幅な 減少が あっ た場合 でも 、田と 畑の 農地を 農地 として 保 全し、営農 を継続する ために必要 な最低限の 経費が賄え る水準 を 「営農継続支払」として面積払の交付単価は 10a 当たりの単価で設 定 する。営農 継続支払単 価は小麦、 大豆、てん 菜とでん粉 原料用 馬

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鈴薯の4 作物共通で、2.0 万円/10 アールを交付する。営農継続支払 は 、現在の経 営所得安定 対策のよう な過去実績 ではなく、 当年産 の 作 付面積に対 して支払う こととする 。そして、 生産数量に 関係な く 支 払うため、 捨てづくり を行う交付 対象者への 交付を防ぐ 措置と し て 、交付対象 者について 、共済加入 者または、 集団で麦、 大豆等 の 生産に取り組む農業者(ブロックローテーション・集落営農)とし、 これ以外の者に対しては、生産数量に応じた数量払のみを行う。 こ の他に 、中 山間地 域等 直接支 払、 農地・ 水保 全管理 支払 、環境 保全型農業支払、品質などの加算措置による交付金がある。 Ⅳ 中山間地域等直接支払 中 山間地 域等 の条件 不利 地につ いて は、中 山間 地域等 直接 支払の 対象となる。中山間地域等直接支払制度は、基本的に維持されるが、 条 件不利地域 において戸 別所得補償 制度を補完 する制度と して適 切 なものとなるよう拡充した。中山間地域等(8 法地域)農用地面積は 約 200 万 ha、急傾斜と緩傾斜等の面積は約 80 万 ha、平地は約 120 万ha がある。都道府県が策定した傾斜地と同等の条件不利基準に該 当 する地域を 対象に、離 島等の平地 についても 傾斜地と同 等の扱 い が 適用できる ようにする 。交付金の 使途に制限 はなく、協 定参加 者 の合意で決定可能であるが、集落で行う共同活動については、農地・ 水保全管理支払で行うことを基本とし、交付金の2 分の 1 以上は個 人に支払うことを原則とする。 所 得補償 制度 によっ て拡 充され た特 点は離 島等 の平地 への 適用、 単 価の引き上 げ、国費負 担率の引き 上げ(特認 農用地の国 費負担 率 を1/3 から 1/2 に引き上げ)、個人支払の改善(すべての対象農業者 に 適用)など である。単 価の引き上 げは緩傾斜 単価に限定 されて い た特認農用地について、条件不利性により急傾斜単価に、田は8,000

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円から21,000 円へ、畑は 3,500 円から 11,500 円へと引き上げた。(表 5 参照) 表 5 中山間地域等(8 法地域)直接支払 田 畑(草地等含む) 急傾斜 21,000 円/10a 19.9 万 ha 11,500 円/10a 8.7 万 ha 緩傾斜等 8,000 円/10a 16.7 万 ha 3,500 円/10a 35.0 万 ha 平地 53.1 万 ha 71.1 万 ha (出典)農林水産省「23 年度概算要求資料-農業者戸別所得補償制度概算要求の骨子」 2010 年 8 月 31 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/h23_gaisan_ kossi.pdf。 Ⅴ 農地・水保全管理支払 農地・水保全管理支払を新設する。 これまでの農地・農業用水等の資源の日常の保全管理活動に加え、 集 落が行う農 地周りの水 路・農道等 の補修・更 新などの活 動に対 し て 新たに支援 することに より、長寿 命化対策の 強化を図る 等の見 直 し を行う。環 境保全型農 業に対する 支援を切り 離して、集 落共同 で の 資源保全の 取組に特化 し、名称を 「農地・水 保全管理支 払」に 変 更する。 これまでの農地・農業用水等の資源の日常の保全管理活動に加え、 集落の手による農地周りの水路・農道等の長寿命化メニュー(補修・ 更 新)を追加 、寿命化対 策を実施す る集落につ いては、単 価をア ッ プ する。現行 の「農地・ 水・保全向 上対策」に 長寿命化対 策を付 け 加え、支払いは従って寿命化対策支援を追加して、田は府県で8,800 円、北海道で6,800 円、畑は府県で 4,800 円、北海道で 1,800 円とな る。(表 6 を参照)

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表 6 農地・水保全管理支払

現行農地・水・環境保全向上対策の支援単価 長寿命化対策の支援単価

府県 北海道 府県 北海道

田 4,400 円/10a 3,400 円/10a 4,400 円/10a 3,400 円/10a 畑 2,800 円/10a 1,200 円/10a 2,000 円/10a 600 円/10a 草地 400 円/10a 200 円/10a 400 円/10a 400 円/10a

(出典)農林水産省「23 年度概算要求資料-農業者戸別所得補償制度概算要求の骨子」 2010 年 8 月 31 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/h23_gaisan_ kossi.pdf。 Ⅵ 環境保全型農業直接支払 環境保全型農業直接支払を新設する。 そ れは地 球温 暖化防 止等 に効果 の高 い営農 活動 に取り 組む 農業者 等に対して直接支援を行うための「環境保全型農業支払」を創設し、 集 落共同で農 地・農業用 水等の保全 管理を実施 しているか どうか に かかわらず、化学肥料・農薬を原則 5 割以上低減する農業者等が、 より環境保全効果の高い取組を行った場合に直接支援を行う。 地 球温暖 化防 止等に 効果 の高い 営農 活動の 実施 に係る 追加 的なコ ストを基に国地方の負担割合を1:1 として国の支援単価を設定する。 2011 年度に国の支援単価は 4,000 円/10 アールと設定したため、従 って農家には合計8,000 円/10 アールが交付されることとなる。 Ⅶ 品質などの加算措置による交付金 加 算措置 は品 質加算 、再 生利用 加算 、集落 営農 の法人 化加 算、緑 肥輪作加算、その他などがある。 麦 ・大豆 等の 畑作物 につ いては 、地 域間・ 農業 者間の 品質 の格差 が 大きい一方 で、輸入品 との競合か ら販売価格 が低く抑え られ、 市 場評価だけでは品質向上のインセンティブが働かない。このために、

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品 質加算が創 設され、畑 作物につい ては、数量 払の交付単 価にお い て 、品質に応 じて単価の 増減を行う こととして いる。小麦 は被害 粒 の 割合や粒揃 いの違いで 等級、蛋白 質の含有率 等の違いで ランク を 区 分し、大豆 は被害粒の 割合や粒揃 いの違いで 等級、一般 と特定 加 工 の用途別に 要される原 形の違いで 区分し、て ん菜は糖度 の高低 で 区 分し、でん 粉馬鈴薯は でん粉含有 量の高低で 区分して品 質単価 を 加算する。 再 生利用 加算 は、地 域の 不作付 地等 の解消 計画 に従っ て、 不作付 地 等に自給率 向上効果の 高い麦、大 豆、そば及 びなたねを 作付け た 場合に、営農地の条件に応じて一定額(1~3 万円/10 アール)を 5 年間加算する。 集 落営農 の法 人化加 算は 、集落 営農 が地域 農業 の中核 的役 割を果 た すためには 、その経営 基盤を強化 し、6次産 業化の主体 になる こ と が重要であ ることから 、集落営農 が法人化す る際の事務 費等と し て、2 千円/10 アールを1年限りで加算する。 緑肥輪作加算は、豆類が栽培できず 3 年輪作しかできない地域等 に対して、輪作作物の間に 1 年休んで地力の維持・向上につながる 作物を栽培し、畑にすき込む場合(休閑緑肥)に、1.0 万円/10 アー ルを支払う。

三 戸別農家所得補償制度の評価と問題

1 戸別農家所得補償制度の所得効果 2011 年度戸別農家所得補償制度の本格実施の影響による品目別所 得の試算は以下の通りである。まず、10 アール当たり戸別所得補償 交付金の大小順は飼料用米(わら利用耕畜連携助成)93 千円、米粉 用米80 千円、飼料用米 80 千円、小麦(田)79 千円、大豆(田)74 千円、加工用米20 千円、主食用米(需給調整参加)15 千円である(表

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7 参照)。 表 7 米と転作作物における所得試算比較(2011 年度戸別農家所得 補償制度の本格実施のイメージ) (単位:千円/10 アール(a)) 販 売 収 入 販売 収入 (流 通経 費除 く) 戸別 所得 補償 交付 金 う ち 畑 作 物 うち 水田 活用 収入 合計 経営 費( 副産 物価 格差 引) 所得 ① ② ③=①+② ④ ③-④ 小麦(田) 12 79 44 35 91 45 46 大豆(田) 21 74 39 35 95 42 53 米粉用米 42 25 80 - 80 105 62 43 飼料用米 20 9 80 - 80 89 62 28 飼料用米(わら利用耕畜 連携助成含む) 20 9 93 - 93 102 62 41 加工用米 65 20 - 20 85 62 23 需給調整参加 106 15 - - 121 80 41 主食 用米 需給調整非参加 106 - - - 106 80 26 (出典)農林水産省「23 年度概算要求資料-農業者戸別所得補償制度概算要求の骨子」 2010 年 8 月 31 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/h23_gaisan_ kossi.pdf。 販売収入( 流通経費除 く)に戸別 所得補償交 付金を足し た総収 入 に経営費(副産物収入除く)を引いたものは面積当たり所得である。 2011 年の戸別所得補償制度の実施により、10 アール当たりの品目別 所得は試算によると大小順に大豆(田)53 千円、小麦(田)46 千円、 米粉用米43 千円、主食用米(需給調整参加)41 千円、飼料用米(わ ら利用耕畜連携助成)41 千円、飼料用米 28 千円、主食用米(需給調 整不参加)28 千円、加工用米 23 千円のとなる。 この結果は 日本政府の 政策方向つ まり食料総 合自給率向 上、米 需

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給 調整と地域 農業振興の ために、大 豆、小麦、 米粉用米、 飼料用 米 ( わら利用耕 畜連携助成 )等非主食 用米穀物の 増産そして 主食用 米 の減反の生産調整に誘導する形跡を表すものである。 2 経営の自由と労働費の確保 2010 年度よりコメから始める米戸別所得補償モデル事業は減反に 協 力した農家 が対象とな っている。 但し、転作 して麦や飼 料米な ど を 作る際には 、市町村か ら割り振ら れた面積ま で減反しな くても 補 助 金が出る。 また今まで に生産調整 の罰則、つ まり減反に 協力し な け れば国が支 援する農家 として認定 せず、低利 融資を受け られな い と した措置も とりやめ、 用水路など の整備で減 反目標が達 成され て いない地域を後回しにする方針も改められた4。つまり、戸別所得補 償制度では国が行う生産調整に参加するか、しないかを選択できる。 参 加しなくて も、生産者 への支援で 国が差をつ けるような ペナル テ ィーはなくなった。生源寺真一教授は、「経営の自由度が増したとい える 」、「 参加・ 不参加に伴 う地域内の 対立が解消 される方向 とな っ たこと」を評価した5 ま た、米 戸別 所得補 償制 度の生 産費 計算は 全算 入生産 費か ら自己 資本利子と自作地地代を除外し、家族労働費部分の 8 割を含めたも のを基準とする。付加価値のうち労働費の 8 割を確保することがこ の 政策の最大 の特徴であ り、その意 味での所得 補償なので ある。 こ

4 赤松広隆民主党元農相は減反が本格的に始まった 1970 年までさかのぼり「40 年ぶり の大転換」と自賛する。赤松農林水産大臣談話「農業の立て直しと食と地域の再生 に向けて」2009 年 12 月 22 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/danwa.pdf。 5 「専門家の見方 戸別補償で経営の自由増す 生源寺真一・東京大学教授」『日本経 済新聞(Web 刊)』2010 年 7 月 25 日、http://www.nikkei.com/news/category/related- article/tc/g=96959996889DE3E3E4E2EBE3E1E2E0E6E2E5E0E2E3E2869195E2E2E2。

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の家族労働費 8 割補填は失業保険等を参考にしたと言われている6 そして2011 年度の戸別所得補償制度には、新たに設けられる畑作物 所 得補償の生 産費計算は 、その全算 入生産費の なかに、経 営費・ 自 己資本利子・自作地地代以外に、家族労働費の10 割を含めたものを 基準とする。農家家族労働費の確保がこの制度の特徴である。 3 所得補償制度の影響と問題 米 余りの 中で スター トし た戸別 所得 補償制 度は 、果た して 食料自 給 率の向上そ して農家の 生産意欲や 食料農産物 の需給にど のよう な インパクトを与えるのか。 (1) 食料自給率の向上になるか 民主党政権は 2010 年 3 月に閣議決定した今後 10 年の農業政策の あ り方を示す 「食料・農 業・農村基 本計画」で 、食料自給 率(カ ロ リーベース、2008 年は 41%)を 20 年度には 50% に引き上げる目標 を設定した。戸別所得補償制度の導入などで、全国に約20 万ヘクタ ー ルある不作 付け田(調 整水田)の 解消や二毛 作の奨励等 の「か つ て ない大胆な 水田農業へ のテコ入れ 」を通じて 、自給率を 向上さ せ ると赤松広隆前農相はその理由を説明した。 農水省の試算では食料自給率を1% 引き上げるのに、大豆なら 26 万トン(面積で 15 万ヘクタール)、主食用米の過剰作付けを吸収す る狙いで奨励する米粉用米でも34 万トン(同 5 万ヘクタール)の増 産が必要とされる。 戸別所得補償制度は、麦や大豆には 10 アール当たり 3 万 5 千円、 輸 入小麦の代 替品になる 米粉やトウ モロコシ代 替品として の飼料 米

6 本間正義『現代日本農業の政策過程』(慶応義塾大学出版会、2010)、193~194 ページ。

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には同8 万円の補助金を出す制度である。従って、食料自給率を 1% 引き上げるには、大豆への転作に 525 億円規模の転作財源が必要と な り、水田で 最も作りや すいと農水 省が奨励す る米粉用米 の栽培 を 増やすには400 億円規模の転作財源が必要となる計算である。 そして、飼料米へ転作することで自給率を 1% 上げるには、飼料 米のカロリーは主食用米の約10 分の 1 しかないため、カロリーベー スの換算で主食米作付面積の7 倍、48 万ヘクタールが必要となり、 3,840 億円規模の転作財源が要される。 2010 年 3 月に民主党政権の新たな食料・農業・農村基本計画が掲げ た2020 年自給率 50%の目標を達成するには、必要とされる財政負担 は、総額約 1 兆円になると試算される。(表 8 参照)所要額は 2010 年 度現行米農 家戸別所得 補償モデル 対策、経営 所得安定対 策の対 策 内 容を前提に 食料自給率 向上への寄 与度の高い 土地利用型 作物で 試 算したものである。 しかし、40% しかない自給率の現行水準に於いて、2011 年度戸別 所得補償制度を本格的に実施することだけで、所要予算額はすでに1 兆円の規模に達している。 転 作財源 の視 点から 、所 得補償 制度 を通じ て、 麦や大 豆の 完全自 給を追求することは不可能なことである7。米粉用米や飼料米の栽培 を 増やして自 給率を向上 させるにも 、財源不足 の壁にぶち 当たり 、 合 理性を欠い ている。所 得補償モデ ル事業によ る水田転作 促進後 の 食料自給率向上の道筋並びに効果は明確なものではない。

7 民主党はマニフェストに主要穀物等の完全自給を目指すと掲げている。

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表 8 日本食料自給率 50% が達成された場合の財政負担試算 生産量 (万トン) 面積 (万ヘクタール) 所要額 (億円) (参考) 主食用米・ 加工用米 855 158 3,650 2010 年度概算決定額等 1.水田利活用自給力向上事 業2167 億円 新規需要米 (米粉用米、 飼料用米) 120 16 1,300 2.米戸別所得補償モデル事 業3371 億円 小麦 180 40 2,100 3.水田・畑作経営所得安定 対策2330 億円 大豆 60 30 1,600 4.さとうきび等経営安定対策(注 3)312 億円 その他 - - 1,700 合計 - - 10,350 8,180 億円 8,180 億円 (注)1. 食料自給率向上への寄与度の高い土地利用型作物で試算した所要額は、戸別所 得補償モデル対策、経営所得安定対策の現行対策の内容を前提に試算しており、 今後本格実施に向け検討を行う戸別所得補償の内容等によって額が変動する ものである。また、戸別所得補償制度の対象品目を予断するものではない。 2. その他は、大麦・はだか麦、甘味資源作物・でん粉原料作物、そば、なたね、 飼料作物である。 3. 2010 年産のさとうきび及びでん粉原料用かんしょに係る生産者交付金の所要 見込み額である。 (出典)農林水産省「食料自給率50% が達成された場合の財政負担試算」(2010 年)、 http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/pdf/zaisei_hutan.pdf。 一方、消費者の立場から見ると、多くの財政・社会コストを掛けて 穀物の完全自給を求めることは最も重要な政策目標ではない。また、 自給 率の向上に は、国産の 問題だけで はなく、パ ン・パスタ ・うど ん に 使われる小 麦つまり食 生活に適し た穀物品種 等の質的な 問題の ほ うが消費者にとってより重要な問題であるといえる。 (2) 所得補償による巨額な財政負担 主食用米は余っているのに、なぜ補助金で支えるのか。農水省は、

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稲作の赤字が目立っているとした上で「担い手は高齢化しており、5 ~10 年後に急速に減る。その時に対策を講じても間に合わない」と 説 明する。戸 別所得補償 制度は、農 業を続けて もらう安全 網的な 政 策属性であることが分かる。 戸別所得補償関連に投入する2010 年度総額 5,618 億円の予算は、 うち6 割がコメ農家の赤字を補てんする所得補償財源、残る 4 割が 食 料自給率を 向上させる ため、水田 で主食用米 以外の作物 を栽培 す る転作を補助する財源である。年間2,000 億円前後であった水田農業 向け補助金は 2 倍以上に膨らみ、そのほとんどが米農家の赤字補て んに費やされた。 し かし、 巨額 な財政 負担 がかか る所 得補償 は持 続可能 な政 策とな るかどうかは疑わしいと言わざるを得ない。 2010 年度米農家に支払う補助金は 2009 年度当初予算の 2 倍以上、 5,618 億円に急激に膨らみ、2011 年度の制度の本格実施には、対象を 小麦などにも拡大されるに伴い、2011(平成 23)年度農林水産予算 概算要求によると、戸別所得補償制度関連予算は 1 兆円以上の規模 が必要になるとの試算である。 表 9 に示されている農林水産予算概算要求によると、2011 年度農 業者戸別所得補償制度の予算だけで7,959 億円、中山間地域等直接支 払い交付金などを含めると、9,159 億円、そして戸別所得補償制度の 本格実施に導入円滑化の特別対策などを含めると、10,205 億円の予 算が要求される。 ま た、農 家の 生産意 欲を 高める ため に、生 産調 整に関 する 罰則を 廃 止するが、 一方、農家 をますます 補助金頼み にさせると の懸念 も ある。

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表 9 2011(平成 23)年度農林水産予算概算要求の重点事項 (億円) 所要額 農林水産予算概算要求総額 24,875 24,517* 1. 戸別所得補償制度の本格実施 10,205 1-1 農業者戸別所得補償制度交付金 9,160 ① 農業者戸別所得補償制度 7,959 米及び畑作物の所得補償交付金 4,209 水田活用の所得補償交付金 2,233 米価変動補てん交付金(24 年度予算計上) 1,391 推進事業等 116 ② 中山間地域等直接支払交付金 270 ③ 農地・水保全管理支払交付金 286 ④ 環境保全型農業直接支援対策 48 ⑤ 甘味資源作物・国内産糖交付金等 597 1-2 その他の戸別所得補償制度の導入円滑化のための特別対策 1,045 ① 戦略作物生産拡大関連基盤緊急整備事業 220 ② 戦略作物生産拡大関連施設緊急整備事業 128 ③ 鳥獣被害緊急対策事業 100 ④ 甘味資源作物に係る戸別所得補償制度移行緊急対策 223 ⑤ 戸別所得補償実施円滑化基盤整備 374 2. 農業生産基盤等の整備 2,574 3. 生産対策の充実・強化 2,257 4. 農山漁村の 6 次産業化対策 327 5. 食の安全・消費者の信頼確保対策 37 6. 技術開発 21 7. 森林・林業対策 673 8. 水産対策 712 (注)*2010 年予算総額。 ( 出 典 ) 農 林 水 産 省 「 平 成 23 年度農 林水産 予算概 算要求 の概要 」(2010 年)、 http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/yosan/pdf/100831-01.pdf。 2010 年民主党・山田正彦前農水相は参院予算委員会で戸別所得補 償の差額補てんの財源に関する主なやりとりにて「2009 年度産は在 庫量が多くなっているが、2010 年度産は生産数量目標に参加してい る農家が昨年に比べてかなり多く、(財源の)心配ない」、「財務相予

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算内で対応可能」と答弁した8 民 主党の 戸別 所得補 償政 策は減 反参 加した 農家 に対し て、 自民党 の 減反補助金 (米作収益 と麦、大豆 への転作収 益との差額 に相当 ) に 加えて、米 作面積に応 じて戸別所 得補償費が 支払われる 。戸別 所 得 補償制度の 減反に参加 すると、稲 作農家は、 自民党時代 より所 得 が 増えること となる。農 家はこれか ら安心して 米作りがで きるよ う に なるが、そ のために交 付金が膨ら み、その財 政負担は心 配の種 と なるのである。 民 主党の マニ フェス トに 掲げた 本来 の政策 の狙 いはこ れま での米 の減反政策を廃止し、直接所得補償政策に移行することである9。し かし、民主党は2008 年 6 月に次の内閣で米価安定と食料自給率向上 の 基本条件と して、米の 需給調整を 確実に実施 する必要性 を明確 に 述 べた。それ は、減反を 廃止して米 価を下げる と補償単価 が大き く な り、戸別所 得補償総額 による財政 負担が巨額 になること を避け る た めである。 食料自給率 の向上を目 指すため、 米以外の作 物の生 産 目 標は一定数 量以上の生 産が条件と なるが、米 は生産過剰 により 、 形を変えた生産調整が維持されることとなった。 減 反は米 生産 カルテ ルに よる価 格支 持の政 策で ある。 民主 党の戸 別所得補償政策は価格支持政策を維持・強化したまま、財政支出を加 え るものであ る。消費減 退で米価が 低下し続け る現実のな か、米 戸 別所得補償単価は上昇し、財政負担は増加し続ける可能性が大きい。

8 「戸別所得補償の差額補てんの財源は 財務相予算内で対応可能」『日本経済新聞 (Web 刊)』2010 年 8 月 5 日、http://www.nikkei.com/news/category/related-article/tc/g =96959996889DE3E0E0E1E0EBE4E2E2E6E2EAE0E2E3E29FE3E2E6E2E2。 9 山下一仁、前掲書、245~247 ページ。

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(3) 変形する米の生産調整 2010 年から始まった米農家戸別所得補償モデル事業への申請受付 がその 6 月末で終わり、農水省が締め切った時点での制度への生産 者の加入数は132 万件であると公表した。2009 年の米生産調整(減 反)の推定参加数である 118 万件を超えたため、主食用米の減産が 進み需給は引き締まることとなると推測される。 ちなみに、2010 年産の主食用米の需要(813 万トン)を満たすに は237 万ヘクタール(2008 年)の水田のうち 154 万ヘクタールの生 産 で足りる。 従って、米 の生産調整 は行わなけ ればならな い。米 戸 別 所得補償モ デル事業の 実施を機に 、政府が策 案した米の 生産調 整 メ カニズムに 参加する農 業者が増加 し、全面協 力する地域 や農家 も ある。 か かる生産調 整に参加す る農家の意 欲を引き起 こした主な 原因は 、 戸 別所得補償 制度は農家 を長年縛っ てきた生産 調整(減反 )のル ー ル を変えたこ とである。 つまり、主 食用米の減 反は続ける が、減 反 に 協力しない 農家に対し 、補助金を 出さないと いった従来 の罰則 規 定 をなくした 。しかも、 主食用米の 過剰作付け を少しでも 減らす た め に、所得補 償は減反目 標を達成で きない農家 でも転作の ための 補 助金利用を認めている。 簡 単に言 えば 、減反 した 農地で 米は 作れな かっ た自民 党政 権時代 の 減反政策と 異なり、転 作で主食用 米以外の作 物を作れば 、補助 金 が もらえる。 米を思い切 り作ってい い政策であ るため、減 反に反 対 し続けてきた農民や農業経営者は一転して生産調整に参加した。 ま た、モ デル 事業の 補助 金は非 主食 用米等 穀物 類に手 厚い ことか ら 、生産調整 における主 食用米減反 の転作は米 粉用・飼料 用米、 加 工用米の増産にまわされる可能性が大きい。 め ん等の 加工 に利用 でき る米粉 用米 は戸別 所得 補償制 度で 作付面

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積10 アール当たり 8 万円を交付する誘因に応じて、減反に反対し続 けてきた秋田県「大潟村あきたこまち生産者協会」の涌井徹社長は、 米 粉米を増産 してめんな どに加工す る新ビジネ スで発展す る道を 探 ることで、一転して生産調整に参加した。 加 工用米 は、 主食用 米と 同じ品 種で 、せん べい やみそ のほ か清酒 や焼酎などの加工用途に使われ、戸別所得補償制度で作付面積10 ア ールに対して2 万円を補助する。一方、2009 年 4 月に米トレーサビ リティー法の成立により、2011 年 7 月から米を使う加工業界は原料 米 の産地を袋 に記載する よう義務付 けられる。 国産の加工 用米の 需 要 が高まって きており、 主食用米の 市場が縮小 する中で、 加工用 米 のビジネスが注目を集めている。 他方、大豆農家は、10 アールあたり 3 万 5 千円の大豆補助金が自 民党時代の5 万円より減少したことに、主食用米生産の 1 万 5 千円 定 額補償と価 格下落への 補てんとを 見比べた結 果、米転作 にシフ ト する動きが見られる。全国2 位の大豆生産県である佐賀県の 2010 年 大豆耕作面積は前年比 1 割減り、その分米の生産が増えていると報 道されている。 米 戸別所 得補 償モデ ル事 業実施 後の 生産調 整は 米余り をも たらす 過 剰作付け解 消にまでは 至らないよ うである。 調整面積が 明らか に なっていないため、価格への影響も不明確である。米の需要が減り、 価 格の低下が 進む中で、 これまでに 減反で需給 調整を進め 、農家 の 大 規模化で効 率をあげる としながら も、結果と して耕作放 棄地は 増 え 、農業収入 の減少が続 いた。農家 を直接補償 する制度は 減反や 農 道 整備に比べ ると、確実 に現金が入 るメリット がある。農 家の収 入 に 直接結びつ く戸別所得 補償制度の 影響は生産 の調整方向 に及び 、 そ の 影 響 力 は 深 刻 且 つ 強 大 に な り そ う で あ る 。( 日 本 経 済 新 聞 Web 刊 2010 年 5 月 3 日の報道では、取材班が全国 45 人のコメ農家に聞

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いたところ、38 人が所得補償を受け取ると答えている。) (4) 農業の生産性向上につながらない 戸 別所得 補償 制度は 、日 本農業 の競 争力を 向上 させる 構造 改革を 促す効果は低いとの見方が多い。 同 制 度 の 最 大 の 問 題 は 保 護 す る 農 家 の 選 別 を 避 け た 点 に あ る 。 2010 年度戸別所得補償モデル事業の対象は、規模は問わず、兼業農 家も含む180 万戸の米農家である。 つ まり、 戸別 所得補 償政 策は食 料自 給率の 向上 を実現 する ための 農地集積や大規模化による農業構造改革の考えを持っていない。 米 価が下 がっ ても、 小規 模零細 兼業 農家は 戸別 所得補 償制 度の加 入 によって、 生産費に見 合う収入が 確保される ため営農を 続ける 。 従 って、農地 は流動化せ ず、規模拡 大による経 営競争力の 向上は 出 来ない。 特に水田農業において小規模零細農家の存続によって、耕作地が 1 ヘクタール未満の小規模農家が 7 割を占める農業構造はますます硬 直 化してしま うこととな る。農業構 造改革なく して関税引 き下げ に 踏み切れば、戸別所得補償政策の財政支出が膨らむばかりで あ る10。 ま た全国 一律 の交付 金単 価は規 模拡 大やコ スト 削減を 努め た農家 や 、販売価格 を高める努 力を行った 地域ほど、 所得は増え る仕組 み で あると農水 省が解説し た。しかし 、全国一律 に同額の米 補償単 価 で は、生産費 が全国平均 より低い北 海道や東北 地方等では 差額補 て ん 以上の収入 が確保され 、一方、生 産費の高い 四国や中国 地方で は 所得補償をもってしても生産費を賄うことが出来なくなる11。地域間

10 本間正義、前掲書、195~196 ページ。 11 同上、360 ページ。

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の 生産性また は生産費の 格差は、努 力によって 克服できる ものも あ れば、出来ないものもある。販売価格または付加価値を高めるには、 競争 メカニズム を生かした 市場環境に しか原動力 が生まれて こない 。 一 律保護の土 壌では競争 に太刀打ち できる農家 、農業経営 者が育 た ない。 競 争メカ ニズ ムを生 かさ ないで 、所 得補償 の名 義で幅 広く 保護し 続 けることは 農家を補助 金漬けにす るだけで、 市場開放や 減反廃 止 等の自由化による内外圧に耐えられる農家の育成が出来ない。 生 源寺真 一東 京大学 教授 は「農 政が 時の政 権の 事情で 頻繁 に変わ り 、政策その ものが農業 発展のリス クになる事 態は避けな ければ な ら ない。農業 を存続させ ていく上で 、担い手を どう育てる か真剣 に 考えるべきだ」と述べている12 (5) 農地流動性の低下 所 得補償 が広 がれば 、土 地を貸 す農 家が減 り、 農地流 動性 が低下 するかもしれない。周囲の農家から耕作放棄地や小規模農地を借り、 耕 作面積を徐 々に拡大し ながら大規 模化を進め て効率を高 めてき た 農 家や農業経 営者は米農 家戸別所得 補償モデル 事業の実施 につら れ て、借用農地の地主から借地返還の要求に迫られている。 岩 手県北 上市 で米や 大豆 、野菜 の栽 培を手 がけ る照井 耕一 西部開 発農産社長(65)は、2009 年 11 月以降、借りている農地の地主から 「自分で飼料米を栽培することにした」、貸していた土地を返してほ しいと相次いで告げられた。約600 人の地主のうち 12 人が 2010 年 3 月までに土地返還を要求してきたという13

12 注 5、前掲資料。 13 「戸別補償の憂うつ政策転換に揺れる(1)」『日本経済新聞(Web 刊)』2010 年 5

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(6) 集落営農組合の解散 「戸別所得補償制度の実施により、組合が果たすべき役割はなくな っ た」という ことで、集 落営農組合 が相次いで 解散した。 米生産 の 秋田県大仙市では、2009 年末から集落営農組合の解散が相次いだ。 自 民党政 権下 で所得 を安 定させ るた めの補 助金 を受け るに は、一 定 以上の農地 を耕作する ることなど が条件であ った。小規 模な農 家 が そのための農地集積ま たは農機具 の共同使用 や農薬や肥 料の共 同 購 入などを目 的に作った 組織が集落 営農である 。戸別所得 補償制 度 で は小規模農 家も直接補 助金を受け 取ることが 出来、集落 営農を 通 す必要がなくなった。 (7) WTO 農業協定との政策的整合性 米 戸別所 得補 償モデ ル事 業では 、ま ず定額 補償 部分は 、生 産調整 を 条件にした 直接支払い であるが、 標準的な生 産に要する 費用が 保 証 価格として 機能する。 そして変動 補てん部分 は、保証価 格と市 場 価 格(当年産 の販売価格 )の差額が 補てんされ る。従って 、固定 部 分を含む戸別所得補償の全てが黄色政策(Amber box)となる。 つまり、戸別所得補償制度は不足払い制度であり、WTO が削減を 求める価格支持政策の復活に他ならない。その支払額はWTO 協定上、 削減対象であるだけではなく、支払い総額の上限が設けられている。 つまり、WTO 農業交渉で想定される日本の国内支持額の上限は 1.3 兆円程度であり、所得補償制度が米以外の品目に拡大されるならば、 この上限にすぐに達することとなる14

月3 日、http://www.nikkei.com/news/category/related-article/tc/g=96958A9C93819FE0E0 EAE2E2E68DE0EAE2E6E0E2E3E2819A93E2E2E2。 14 本間正義、前掲書、361~362 ページ。

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所得補償制度はWTO 農業協定からみると、価格支持政策に帰属さ れ る可能性が 大きい。世 界の農業政 策の流れに 逆行するよ うな政 策 を執り行うことは、必ずWTO 農業協定の制約を受けることとなる。 そ れを避ける ために、米 所得補償事 業の定額補 償と価格変 動の補 て んの設計については、WTO 農業協定の国内支持政策規定との乖離の 調整を検討し直す必要がある。

四 むすび

民 主党は 戸別 所得補 償制 度を米 生産 調整等 日本 農業政 策の 大転換 と 標榜してい る。自民党 時代では生 産調整に参 加した農家 しか米 減 反 による麦、 大豆転作補 助などの支 援を受けら れなかった 。また 米 の 生産調整の 仕組みが変 更されると 、それに従 って麦、大 豆等の 生 産 量も変動す るので、実 需者の安定 供給が阻害 され、自給 率の向 上 に 繋がりにく いという問 題があった 。そして米 生産調整に 参加し た 農 家の努力で 米価が維持 されること により、参 加しなかっ た農家 が ヤ ミ米流通で より多くの メリットを 受け取ると の弊害、不 平も生 じ て いた。民主 党の戸別所 得補償制度 はこうした 問題の解消 をその 参 加条件の設計に取り組んだ。 しかし、戸別所得補償制度の制度自体については、「自給率の向上 を求 めるのにな ぜ麦・大豆 モデル事業 を行わない か」、「米余 りの な か、 なぜ米農家 に所得補償 をするのか 」、「 なぜ無 差別に、サ ラリ ー マン農家にまで所得補償をするのか」といった疑問に対して、「自給 率 向上の要は 、水田農業 の担い手の 経営安定を 通じて水田 の転作 物 の増 産を図る 」、「米 の定額 助成により 、担い手の 経営安定を 図り 、 将来 の構造改革 につなげて いく」、「農 業経営の担 い手が一気 に出 現 す るのは難し いが、サラ リーマン農 家を後押し して、担い 手を育 成 し ていくのが 現実的」な どの説明が 提出された が、本格的 な所得 直

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接 支払い制度 への転換で はなく、単 なる政治的 な選挙対策 である 懸 念が払拭されないままである。 2011 年度の戸別所得補償制度は環境保全・資源保全等外部経済性 の 働きに配慮 して助成を 拡充するが 、補助金頼 みの農家が 持続的 に 発 展し、そし て国内食料 供給力の確 保を可能と する農業の 担い手 に な れるとは考 えられない 。また、米 所得補償事 業の定額補 償と変 動 補てんの策定については、WTO 農業協定の国内支持政策規定との乖 離を調整することが緊急な検討課題となっている。 (寄稿:2010 年 12 月 13 日、採用:2011 年 4 月 24 日)

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日本民主黨的農家戶別所得補償制度與

糧食安全保障

任 燿 廷

(淡江大學國際企業研究所・亞洲研究所副教授)

【摘要】

邁入21 世紀後世界糧食的供需明顯呈現緊迫的狀態。地球暖化、氣 候 異常減損農 產的收成, 世界穀物安 全庫存下降 至戰後的低 水準, 穀 物 主要出口國 在優先考量 國內安定供 給前提下又 相繼限制穀 物出口 , 此 進而引發特 別是低所得 糧食進口國 家的社會紛 亂與政治動 盪。在 國 民 對糧食的安 全保障表達 強烈關心下 ,各國政府 紛紛將平時 確保安 定 進 口及國內糧 食供給能力 ,緊急時也 能妥適對應 的整合性糧 食安全 政 策再次列為其農業、糧食政策的首要目標。 作 為日本 糧食 安全保 障政 策理念 與施 策研究 的一 部分, 本文 的目的 是 探討日本民 主黨新政權 的糧食安全 保障政策。 首先檢討日 本民主 黨 新農政的核心—2010 年施行的米戶別所得補償模式對策及 2011 年開 始 實施的農家 戶別所得補 償制度。接 著檢討此新 制度的實施 所造成 的 影 響及問題點 ,對農家生 產意願及糧 食供給的影 響,對提升 糧食自 給 率的效果等。 關 鍵字:糧食 ‧農業‧農 村基本法、 糧食安全保 障、糧食自 給率、 米 戶別所得補償模式事業、戶別所得補償制度

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Income Compensation System for

Farming Households

Introduced by the Democratic Party and

Food Security of Japan

Eau-tin Jen

Associate Professor of Graduate Institute of International Business and Graduate Institute of Asian Studies at TamKang University

Abstract】

The global food supply-demand balance has been very tight since 2000. Climate change due to global warming has brought extensive damage to crop harvests. The world grain safety stock has reached the lowest ever level since WWII. Major grain exporters have given priorities to their own domestic markets and chosen to limit grain exports. The limitation has de-stabilized social and political situations in low-income nations. It has become pivotal for consumers and also legislators to pursue a consistent and effective policy which under normal circumstances, ensures stable food import and secures domestic food supply capacity, and in emergencies, responds appropriately.

I analyze a new food security policy introduced by the new government led by the Democratic Party of Japan. First, I explain the contents of model projects of Income Compensation for Rice Farmers adopted in 2010 and Income Compensation System for Faming Households implemented in 2011, especially focusing on the latter system which is a new and main agricultural policy introduced by DP. Second, I analyze the effects and problems of the program in practice, pointing out effects on farmers’ willingness to produce and food supply and effectiveness of efforts to improve the food self-sufficiency ratio in Japan.

Keywords: The Basic Law on food, agriculture, Rural Areas, food security,

food self-sufficiency ratio, model project of income compensation for rice farmers, income compensation system for farming households

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〈参考文献〉 「(専門家の見方)戸別補償で経営の自由増す 生源寺真一・東京大学教授」『日本経 済新聞(Web 刊)』2010 年 7 月 25 日、http://www.nikkei.com/news/category/related- article/tc/g=96959996889DE3E3E4E2EBE3E1E2E0E6E2E5E0E2E3E2869195E2E2E2。 「戸別所得補償の差額補てんの財源は 財務相予算内で対応可能」『日本経済新聞(Web 刊 )』2010 年 8 月 5 日、http://www.nikkei.com/news/category/related-article/tc/g= 96959996889DE3E0E0E1E0EBE4E2E2E6E2EAE0E2E3E29FE3E2E6E2E2。 「戸別補償の憂うつ政策転換に揺れる(1)」『日本経済新聞(Web 刊)』2010 年 5 月 3 日、http://www.nikkei.com/news/category/related-article/tc/g=96958A9C93819FE0E0EA E2E2E68DE0EAE2E6E0E2E3E2819A93E2E2E2。 「政府戸別補償で農家支援 競争力向上は期待薄く価格への影響不透明」『日本経済新 聞(Web 刊)』2010 年 7 月 25 日、http://www.nikkei.com/news/category/related-article/ tc/g=96959996889DE3E3E4E2EAEBEAE2E0E6E2E5E0E2E3E2869195E2E2E2。 赤松農林水産大臣談話「農業の立て直しと食と地域の再生に向けて」2009 年 12 月 22 日、 http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/danwa.pdf。 農林水産省「23 年度概算要求資料-農業者戸別所得補償制度概算要求の骨子」2010 年 8 月31 日、http://www.maff.go.jp/j/seisaku/kobetu_hosyo/pdf/h23_gaisan_kossi.pdf。 ______「食料・農業・農村基本計画」(2010 年)、http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/ pdf/kihon_keikaku_22.pdf。 ______「食料・農業・農村基本計画」(2005 年)、http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/ pdf/20050325_honbun.pdf。 ______「食料自給率 50%が達成された場合の財政負担試算」(2010 年)、http://www.maff. go.jp/j/keikaku/k_aratana/pdf/zaisei_hutan.pdf。 ______「食料自給率の推移」(2010 年)、http://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/pdf/ santei_data.pdf。 ______「平成 23 年度農林水産予算概算要求の概要」(2010 年)、http://www.maff.go.jp/ j/press/kanbo/yosan/pdf/100831-01.pdf。 ______『食料・農業・農村白書(平成 22 年版)』(佐伯印刷、2010 年)。 本間正義『現代日本農業の政策過程』(慶応義塾大学出版会、2010)。 山下一仁『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社、2010 年)。

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數據

表 6  農地・水保全管理支払
表 8  日本食料自給率 50% が達成された場合の財政負担試算  生産量 (万トン) 面積 (万ヘクタール) 所要額 (億円) (参考) 主食用米・  加工用米 855 158  3,650 2010 年度概算決定額等  1.水田利活用自給力向上事 業 2167 億円 新規需要米 (米粉用米、  飼料用米) 120 16  1,300 2.米戸別所得補償モデル事 業 3371 億円  小麦 180 40  2,100 3.水田・畑作経営所得安定 対策 2330 億円  大豆  60 30  1,600 4
表 9  2011(平成 23)年度農林水産予算概算要求の重点事項  (億円) 所要額 農林水産予算概算要求総額 24,875 24,517*  1.  戸別所得補償制度の本格実施  10,205 1-1 農業者戸別所得補償制度交付金  9,160 ①   農業者戸別所得補償制度  7,959 米及び畑作物の所得補償交付金  4,209  水田活用の所得補償交付金  2,233  米価変動補てん交付金( 24 年度予算計上)   1,391  推進事業等   116  ②   中山間地域等直接支払交付金

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