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アジアインフラ投資銀行の国際政治経 済分析:権力、利益、知識の駆動とその 国際政治的、経済的含意

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アジアインフラ投資銀行の国際政治経

済分析:権力、利益、知識の駆動とその

国際政治的、経済的含意

長 城

(中華経済研究院WTO 及 RTA センターアシスタントリサーチャー)

【要約】

ア ジアイ ンフ ラ投資 銀行 は中国 が初 めて国 際金 融分野 にお いて主 導 して設立し た国際金融 機関である 。これは戦 後欧米主導 で設立 さ れ た世界銀行 、国際通貨 基金や、日 米で設立し たアジア開 発銀行 な ど の、国際経 済組織によ って構築さ れた従来の 国際経済秩 序に対 す る 新たな挑戦 であり、そ の設立の要 因と本格始 動後に派生 する可 能 性 のある重要 な国際政治 的‧経済的含意は検討に値する。本稿では 国 際政治経済 学の角度か ら、国際関 係論におけ る現実主義 、機能 主 義 、認知主義 を運用し、 各理論的ア プローチに それぞれ対 応する 権 力、利益、知識という 3 つの基本的指向を通して分析を行うことに より、中国がAIIB の推進‧設立に成功した要因、およびそこから派 生 する重要な 国際政治的 ‧経済的含意について具体的な解釈と説明 を行う。 キーワード:アジアインフラ投資銀行(AIIB)、権力、利益、知識

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一 はじめに

「アジアインフラ投資銀行」(Asian Infrastructure Investment Bank,

AIIB)は第 2 次世界大戦以降、世界で初めて米国、欧州、日本など の 先進国では ない国によ って設立さ れた国際金 融機関で、 創設メ ン バ ー は 世 界 五 大 陸 に 及 ぶ 。 そ の 本 質 は 「 ア ジ ア 開 発 銀 行 」(Asian Development Bank, ADB ) や 「 米 州 開 発 銀 行 」( Inter-American Development Bank, IDB)などの地域開発銀行と類似しており、とも

に「政府間」の多国間開発金融機関(multilateral development bank,

MDB)に含まれる。業務内容はアジア地域におけるインフラ建設と

地域の接続の推進に重点を置いている1AIIB は中国が国際金融分野

に おいて初め て主導して 設立した国 際金融機関 であり、戦 後に欧 米

主導で設立された世界銀行(World Bank)、国際通貨基金(International

Monetary Fund, IMF)や日米主導の ADB などの国際経済組織によっ て 構築された 従来の国際 経済秩序に 対する新た な挑戦であ る。そ の 設立要因(causes)の分析、および本格始動後に派生するであろう重 要な国際政治的‧経済的含意は検討に値する。 本稿は国際政治経済学の角度から、中国がAIIB を推進‧設立した 要 因およびそ こから派生 する可能性 のある重要 な国際政治 的‧経済 的含意を分析する。分析には国際関係論における現実主義(realism)、 機能主義(rational functionalism)、認知主義(cognitivism)という 3 つ のアプロー チを運用し 、各理論的 アプローチ にそれぞれ 対応す る 権力(power)、利益(interests)、知識(knowledge)という基本的指 向を通して分析を行っていく。これにより、中国がAIIB の推進‧設

1 中華民國財政部「『我國申請加入亞投行的效益及風險評估』報告」立法院第 8 屆第 7 會期外交及國防委員會第8 次全體委員會議(2015 年 4 月 2 日)、頁 1~2。

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立 に成功した 要因、およ びそこから 派生する重 要な国際政 治的‧経 済的含意について解釈と説明を行う。 本稿の構成は序論と結論を除き次の 4 つのカテゴリーに分かれて いる。1 つ目は関連する国際関係論を整理、検討することで、本稿の 分 析枠組みを 示し、これ により理論 から一般的 な国際制度 や組織 の 形 成要因およ び派生する 可能性のあ る主要な国 際政治的‧経済的含 意を導き出す。2 つ目は AIIB の設立過程と発展状況を説明する。3 つ 目は本稿の 分析枠組み に基づき、 権力、利益 、知識指向 的解釈 か ら、それぞれ中国が AIIB を推進‧設立した要因について分析する。 4 つ目は本稿の分析枠組みで示した権力、利益、知識指向的観点を通 して、AIIB の本格始動後に派生する可能性のある主要な国際政治的 ‧経済的含意を1 つ 1 つ説明していく。 二 理論と分 析枠組み: 国際制度や 組織の形成 要因とそこ から派 生 する可能性のある主要な国際政治的‧経済的含意の分析 冷 戦終結 後、 グロー バル 化や国 際社 会の重 要ア ジェン ダの 多様化 に 伴い、特定 機関の設立 や特定条約 の締結を通 じて、拡大 し続け る グ ローバル‧ガバナンスに対するニーズに対応していかなければな らなくなった。国際機関(international organization)2 の数も増加の 一 途 を た ど っ て お り 、 国 際 団 体 連 合 (Union of International Associations, UIA)の統計によると、2005 年時点での世界の「政府間

2 「国際機関」は行為体の組織であり、通常その行為体は国家であって、国際機関の 多くには「加盟国」としての基準があり、その基準は通常加盟国の権利や負担すべ きコストが規定され、加盟には組織内のその他の加盟国の承認が必要とされる。Beth

A. Simmons and Lisa L. Martin, “International Organizations and Institutions,” In Handbook

of International Relations, Walter Carlsnaes, Thomas Risse, and Beth A Simmons, eds.

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機関」(intergovernmental organization, IGO)の数は 246 に達しており、 2013 年にはさらに 265 にまで増えた。このうち増加数が最も多かっ たのはのは「地域性」の政府間機関で、同期間に178 から 193 に増 加 している。 このことか ら、現在、 国際関係に おける制度 化がど ん ど ん進み、国 際組織或い は機関の国 際政治運営 に対する影 響も高 ま り続けていることが分かる3 国際制度(international institution)4や組織の重要性その影響力 が日に日に重要視されていることから、特に国際関係分野において、 国 際制度や組 織が出現し た要因やそ こから派生 する主要な 含意に つ い て研究した 関連理論は 少なくない 。まず、現 実主義の角 度から 見 る と、伝統的 現実主義者 は国際制度 や組織を国 家権力と利 益の付 帯 現 象 に すぎな い と 考えて い る 。一方 、 新 現実主 義 者 (neorealist)は

国家は「相対的利益の追求者」(relative gains seeker)であるという

仮 設に基づき 、単純にこ の点だけか ら考えると 、国同士は 互いに 密 接 な協力関係 を避ける方 向に発展す ると考えて いる。つま り、現 実 主 義者は正式 な国際組織 は最も権力 のある国が 統轄するの ではな く 強 制力があっ て初めて協 力関係が深 まると強調 し、国際政 治権力 と 国 際システム における国 家利益の変 化は特定の 国際制度や 組織の 形 成を促す主要要因であるとしている。 現 実主義 的ア プロー チに 照らし て解 釈する と、 特定の 国際 制度や

3 Richard Woodward and Michael Davies, “How Many International Organisations Are There?

The Yearbook of International Organizations and its Shortcomings,” The Political Studies

Association (PSA), October 11, 2015, https://www.psa.ac.uk/print/18791.

4 ジョン‧ミアシャイマーによれば、「国際制度」はルールの 1 セットと見なすことが

でき、このルールには国家がどのように協力および競争をするかという方法が規定 さ れ る 。John J. Mearsheimer, “The False Promise of International Institutions,”

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組 織が一旦設 立されると 、そこから 派生する主 要な含意は 少なく と も2 つある。1 つは特定の主導国が国際制度や組織の設立に成功した ら 、それは新 しい国際政 治権力の形 勢と国際シ ステムにお ける国 家 利益の変化の反映にすぎないということである。もう 1 つは新たな 国 際制度や組 織が形成さ れると、そ の中で主導 的地位にあ る国が 権 力 をさらに拡 大し、その アジェンダ 領域におけ る威信、自 主性、 相 対 的利得を高 め、それに より国家利 益を獲得す る可能性が あると い うことである5。 次に、機能 主義的観点 から、国際 協定が提供 する効率な どの機 能 主 義的アプロ ーチに基づ き、国際制 度や組織形 成の要因に ついて 機 能 主義者がよ く言及する 主張を説明 する。機能 主義者は、 各国が 個 別 に合理的な 行動をとる と国家間の 互恵的協力 を妨げる可 能性が あ る が、この時 制度が国を 短期的な誘 惑から約束 を覆すよう な行動 を と ることを避 けるように 、有効的に 誘導するこ とができれ ば、メ ン バ ー国の相互 利益の実現 に役立つと 考えている 。特に、制 度はメ ン バ ー国が期待 する協力案 や取引コス トの削減な どを焦点に でき、 ま た より高い透 明性を確保 するのにも 役立つ。つ まり各国は 特定の ア ジ ェンダに対 する国際共 同行動上の 問題を解決 し、高額な 取引コ ス ト を削減し、 また情報不 足や不均衡 といった問 題の解決の ため、 特 定 の国際制度 や組織を設 立し維持す ることが主 な選択肢と なって い るのである。 機能主義者 の観点に照 らして解釈 すると、特 定の国際制 度や組 織 の設立は少なくとも主に2 つの含意が派生する可能性がある。1 つは

5 Beth A. Simmons and Lisa L. Martin, op.cit., pp. 329~330; 盧業中「主要國際關係理論中

新現實主義、新自由制度主義與建構主義之比較研究」『中山人文社會科學期刊』第9

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国 際制度や組 織の設立後 、運営が上 手くいけば 、その制度 や組織 の メ ンバー国は 特定のアジ ェンダにお ける相互協 力や協調性 が強化 さ れる。もう 1 つは、特定の制度や組織のメンバー国はその国際的な ア ジェンダの 利益に対し て線引きを 行うため、 制度や組織 の設立 は 他 のメンバー 国の影響を 受けること になる。従 って各メン バー国 は 学 習プロセス を通じてそ の制度や組 織における 絶対利得を 追求す る こ とができる ようになり 、協力議題 も他の分野 にまで広が り、協 力 レベルを拡大できる可能性もある6。 最後に認知主義的角度からの国際制度に対する研究は主に 2 つの タイプがある。1 つは弱い認知主義者(weak cognitivists)で、彼ら は 焦点を因果 的信念に置 き、国際制 度を分析す る基礎知識 を強調 し ている。もう1 つは強い認知主義者(strong cognitivists)―国際関係 論 に お け る い わ ゆ る 省 察 主 義 者 (reflectivists )7と 構 成 主 義 者 (constructivists)8―で、彼らはアクターの知識が国際制度形成に及 ぼ す影響に重 心を置いて 研究してい る。その中 でも特に重 視して い る側面は国際関係の社会性に集中している。 このうち、 強い認知主 義者は基本 的に、現実 主義者と機 能主義 者

6 盧業中、前揭論文、頁 27~33。

7 Robert O. Keohane, “International Institutions: Two Approaches,” International Studies Quarterly, Vol. 32, No. 4 (December 1988), pp. 379~396; Steve Smith, “New Approaches to

International Theory,” In John Baylis and Steve Smith, eds., The Globalization of World

Politics (New York: Oxford University Press, 1997), pp. 172~178.

8 Nicholas G. Onuf, World of Our Making: Rules and Rule in Social Theory and International Relations (SC: University of South Carolina Press, 1989); Alexander Wendt, “Anarchy is

What States Make of It: The Social Construction of Power Polities,” International

Organization, Vol. 46 (Spring 1992), pp. 391~425; Alexander E. Wendt, Social Theory of International Politics (Cambridge: Cambridge University Press, 1999); and Peter

Katzenstein, ed., The Culture of National Security: Norms and Identity in World Politics (New York: Columbia University Press, 1996).

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の 国家は合理 的なアクタ ーにすぎな いとする考 えに反対で あり、 そ の 合意、権力 、根本利益 は国際社会 や国際制度 などの主張 に優先 さ れ なければな らないとす る。彼らは 国家と国際 制度の間に は実は 相 互 建設と成形 関係があり 、いかなる 永続的な相 互作用モデ ルであ っ て も最終的に はアクター の自己理解 と他者に対 する印象に 影響さ れ る と考える。 このため、 この種の制 度化の協力 が形成され れば、 ア ク ターの自己 意識は低下 し始める。 そして他者 の正当な利 益に対 す る敬意が増していき、他者の正当な利益を単なる 1 つの要因とは見 なさなくなる可能性も大いにあるとしている。 認 知主義 者の 解釈に よる と国家 はロ ール‧プレイヤーでなければ な らず、政府 が他国に対 して相対的 に負う責任 を認識した とき、 ロ ー ル‧プレイヤーとしての行動モデルが国際レベルで生まれる。こ の とき、国家 コミュニテ ィーは真実 へと変化し 拘束力を備 えるこ と から(たとえ国家がその約束を常に果たしているわけではなくても)、 国 際制度や組 織形成の重 要な要因の 一つとなる ことが分か る。ロ ー ルプレー方式の世界において、国際規範(international norms)は国 が外交政策目標や選択肢を定めるものさしとなる。このとき、国は1 人 のロールプ レイヤーと なり、ただ 一方的に独 自に最大目 標を定 め る のではなく 、ある与え られた状況 の中で適切 で実行可能 と思う も の を選択し対 外政策を決 定する。そ して、国際 制度や組織 の設立 に 参加するかどうか、最終決定を行う9。 基本的に、 認知主義者 的アプロー チから特定 の国際制度 や組織 の 形 成を解釈す れば、一旦 特定の国際 制度や組織 が設立する と、そ こ

9 Andreas Hasenclever, Peter Mayer and Volker Rittberger, “Integrating Theories of

International Regimes,” Review of International Studies, Vol. 26, No. 1 (Jan., 2000), pp. 10~12.

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から少なくとも2 つの含意が派生することが分かる。1 つは、ある国 際制度や組織と関係する特定の共有知識(shared knowledge)が、そ の 国際制度や 組織により 、特定のア ジェンダ領 域において 強化さ れ る。また、主導国が散布した理念(idea)に対して各国が認知レベル に おいて支持 を高めるこ とで、主導 国の発言権 およびその 論述の 影 響力が高まるのに役立つ。もう 1 つは国際制度や組織が形成され運 営が順調にいけば、メンバー国の共通認識が強化され、誤解が減り、 特 定のアジェ ンダ領域に おけるメン バー国間の 信頼度が高 まる。 た だ 、運営が理 想通りに進 まなければ 、反対の影 響を与える 可能性 も ある10 上述の研究 成果と観点 を受け、本 稿で国際関 係論におい て国際 制 度 や組織の形 成を解釈し た主要な理 論的アプロ ーチ、基本 的指向 、 要 因およびそ こから派生 する可能性 のある主要 な含意を整 理して い く。そして、これに基づき、中国がAIIB を推進‧設立した要因およ び AIIB の本格始動後に派生する可能性のある主要な国際政治的‧ 経 済的含意に ついて分析 を進めるべ く、本稿の 分析枠組み を設定 す る(表1)。

10 盧業中、前揭論文、頁 35~37。

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1 国際関係論の国際制度や組織形成を解釈する主要な理論的ア プローチ、基本的指向、要因および派生する可能性のある 主 要な含意 理論的ア プローチ 基本的 指向 国際制度や組織形成の 要因解釈 派生する可能性のある 主要な含意 現実主義 権力 国際政治権力と国際システムに おける国家利益の変化が特定の 国際制度や組織の形成を促す主 要要因である。  特定の国際制度や組織の設立 は、新しい国際政治権力の形 勢と国際システムにおける国 家利益の変化を反映したにす ぎない。  新たな国際制度や組織の中の 主 導 国 は 権 力 を さ ら に 拡 大 し、そのアジェンダ領域にお ける威信、自主性、相対的利 得を高め、国家利益を獲得す る。 機能主義 利益 各国は特定のアジェンダに対す る国際共同 行 動の問題を 解 決 し、高額な取引コストを削減し、 また情報不足や不均衡といった 問題解決のため、特定の国際制 度や組織の設立と維持を決定す る。  国際制度や組織の設立後運営 が順調にいけば、メンバー国 の特定のアジェンダにおける 相互協力や協調性が強化され る。  特定の制度や組織のメンバー 国は国際的なアジェンダの利 益 に 対 し て 線 引 き を 行 う た め、制度や組織の設立は他の メンバー国の影響を受けるこ とになる。従って各メンバー 国は学習プロセスを通じてそ の制度や組織における絶対利 得を追求することができるよ うになり、協力議題も他の分 野にも広がり、協力レベルが 拡大する可能性もある。 認知主義 (特に強い 認知主義 者) 知識  アクターの知識は国際制度形 成に影響を及ぼし、国と国際 制度の間には相互建設と成形 関係がある。  国 は ロ ー ル プ レ イ ヤ ー で あ  ある国際制度や組織と関係す る特定の共有知識は、その国 際制度や組織により特定のア ジェンダ領域において強化さ れる。また、主導国が散布し

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り、ある与えられた状況の中 で適切で実行可能と思うもの を 選 択 し 対 外 政 策 を 決 定 す る。そして、国際制度や組織 の設立に参加するかどうかの 最終決定を行う。  一国の政府が他国に対して相 対的に負う責任を認識したと き、ロールプレイヤーとして の行動モデルが国際レベルで 生まれる。このとき、国家コ ミュニティーは真実へと変化 し拘束力を備えることから、 国際制度や組織形成の重要な 要因の一つである。 た理念に対して各国が認知レ ベルにおいて支持を高めるこ とで、主導国の発言権および その論述の影響力が高まる。  国際制度や組織が設立し運営 が順調にいけば、メンバー国 の共通認識が強化され、誤解 が減り、特定のアジェンダ領 域においてメンバー国間の信 頼度が高まる。ただ、運営が 理想的でなければ、反対の影 響を与える可能性もある。

(出典)Beth A. Simmons and Lisa L. Martin, op.cit., pp. 329~336; Andreas Hasenclever, Peter Mayer, and Volker Rittberger, Theories of International Regimes, (Cambridge: Cambridge University Press, 1997), pp. 1~7; Andreas Hasenclever, Peter Mayer and Volker Rittberger, “Integrating Theories of International Regimes,” pp. 7~12; 盧業

中、前揭論文、頁24~38 を元に筆者作成。

AIIB 設立のプロセスと発展状況

中国が決定したAIIB の設立に関する計画は、2013 年 10 月、習近 平 国家主席の インドネシ ア訪問中に 発表された 。当時、習 近平主 席 は イ ン ド ネ シ ア の ス シ ロ ‧ バ ン バ ン ‧ ユ ド ヨ ノ 大 統 領 (Susilo Bambang Yudhoyono)と二国間会談を行った。また、インドネシアの 議会で演説した際には、中国はASEAN 諸国との相互連結を図るべく 建設の強化に力を入れると約束した。このため、中国はAIIB 設立を 提唱し、ASEAN 諸国を含むこの地域の発展途上国のインフラを整備 し相互連結を目指すこととなった112014 年 10 月 24 日、AIIB の設

11 「中國印尼關係提升為全面戰略夥伴關係」『人民日報』(北京)、2013 年 10 月 3 日、

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立 をさらに進 めるべく、 中国の強力 な主導の下 、創設メン バーと し て参加の意向を示した21 か国の代表が北京にて「AIIB 設立の覚書」 に署名した12。また、メンバー国数の拡大を考慮し、創設メンバーと し て参加の意 向がある国 にはその後 も窓口を開 放すると発 表し、 創 設メンバーとなるための申請期限を2015 年 3 月 31 日に設定した13 国際金融秩序を主導する米国は当初、中国の提唱するAIIB 設立に 対 して異なる 立場を示し 、今後中国 主導の下で 運営される ことと な るAIIB のガバナンス、透明性、環境保護などの問題に対して疑問を 呈 した。米国 はさらに外 交ルートを 通じて韓国 、オースト ラリア 、 日本などの同盟国をAIIB に参加しないよう説得した14。しかし、2015 年3 月 12 日、イギリスが米国の反対にもかかわらず参加を表明して 以 降、スイス 、フランス 、ドイツ、 イタリア、 オーストリ アを含 む 欧 州主要国が 次々と参加 を表明。韓 国、ロシア 、ブラジル 、オー ス ト ラリアなど も創設メン バーの申請 締め切り前 に駆け込み 参加表 明 を行った15。中国財政部の統計によると、2015 年 4 月 15 日の時点で AIIB の創設メンバーとして参加の意向を示した国は 57 カ国となっ

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2013-10/03/nw.D110000renmrb_20131003_2-01.htm ;「習近平主席在印尼國會發表重要演講」『新華網』(北京)2013 年 10 月 3 日、 http://www.xinhuanet.com/world/xjpynghyj/。 12 「 籌 建 亞 投 行 備 忘 錄 在 北 京 簽 署 」『 中 國 新 聞 網 』 2014 年 10 月 24 日 、 http://www.chinanews.com/gn/2014/10-24/6713714.shtml。 13 Sid Weng「亞投行創始國申請截止、美日拒絕」『關鍵評論』(中文版)2015 年 4 月 1 日、http://www.thenewslens.com/post/145035/。 14 中國安邦集團研究總部「亞投行開始了中美新博弈週期」『金融時報』(中文版)2014 年10 月 27 日、http://www.ftchinese.com/story/001058803#adchannelID=2000。 15 吉密歐「是什麼讓歐洲多國爭相奔向亞投行?」『金融時報』(中文版)2015 年 03 月 27 日、http://big5.ftchinese.com/story/001061279?full=y;米強「各國爭入亞投行令奧巴 馬遭遇尷尬」『金融時報』(中文版)2015 年 04 月 01 日、http://www.ftchinese.com/story/ 001061353。

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た。当初アジアに限られていた地域金融機関は、世界 5 大陸の国々 が参加する国際金融機関へと成長した(表2)16 2015 年 6 月 29 日、AIIB の創設メンバーとして参加の意向を示し た国は 57 カ国のうち、国内での批准手続きを終えた 50 カ国が北京 で「設立協定」に署名し、AIIB の運営に法的効力が発生した17。「設 立協定」第 6 章第 32 条の規定によると、AIIB の本部は中国北京市 に 置かれ、そ の他の地域 に機関或い は事務所を 設置するこ とがで き る。この他、第2 章第 4 条および第 5 条によると AIIB の授権資本は 1000 億ドルで、このうち払込資本が 200 億ドル、未払込資本が 800 億ドルとなっている。また、域内メンバーと域外メンバーは75:25 の配分比率の枠内でGDP に応じて応募する資本を割り当てられ、各 国の出資決定が尊重される。2016 年 1 月半ば時点での中国の公式統 計によると、GDP に応じて割り当てられた授権資本がまだ満額払い 込まれていないことから、応募済資本は981 億 5140 万ドル、未配分 資本は 18 億 4860 万ドルとなっている。創設メンバーに配分する議 決 権の割合に ついては、 中国が発表 したデータ によると、 中国が 総 額の30.34%に当たる 297 億 8040 万ドルの応募済資本を引き受け、 現時点でAIIB への最大の出資国となっていることから、議決権も現 時点で最も高い比率(26.06%)を占めている182016 年 1 月 16 日か ら18 日には開業式典が開催された後、運営が正式に宣言された。2016 年4 月の初めにはさらに 30 余りの国‧地域が参加の意向を示してお

16 王紅茹「亞投行 57 個意向創始成員國或角逐行長副行長席位」『人民網』(北京)2015 年5 月 4 日、http://world.people.com.cn/n/2015/0504/c1002-26945354.html。 17 「50 國政府代表簽署《亞洲基礎設施投資銀行協定》」『人民網』(北京)2015 年 6 月 29 日、http://world.people.com.cn/n/2015/0629/c1002-27223486.html。 18 韓潔、侯麗軍「亞投行啟航十大看點」『新華網』(北京)2016 年 1 月 17 日、http://news. xinhuanet.com/fortune/2016-01/17/c_1117800849.htm。

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り、今後新メンバーを受け入れれば、参加国数は 100 カ国にまで増 える可能性もあると予想される。なおAIIB の初期段階における主な 投 資プロジェ クトはエネ ルギー、交 通、農村開 発、都市開 発およ び 物流の5 分野が中心となる192 AIIB 創設メンバーの地域と国の分布 地域 国 東南アジア 10 カ 国 ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシ ア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベト ナム 北東アジア3 カ国 中国、モンゴル、韓国 南アジア6 カ国 バングラデシュ、インド、モルディブ、ネパール、パキス タン、スリランカ オセアニア2 カ国 オーストラリア、ニュージーランド 中央アジア5 カ国 アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、タジキスタ ン、ウズベキスタン 中東9 カ国 イスラエル、イラン、ヨルダン、クウェート、オマーン、 カタール、サウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦 アフリカ2 カ国 エジプト、南アフリカ共和国 欧州19 カ国 オーストリア、デンマーク、フィンランド、フランス、グ ルジア、ドイツ、アイスランド、イタリア、ルクセンブル ク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルト ガル、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリ ス 南米1 カ国 ブラジル

(出典)Tang Siew Mun, The Politics of the Asian Infrastructure Investment Bank (AIIB) (Singapore: Institute of Southeast Asian Studies, 2015), p. 8.を元に筆者作成。

19 「亞投行成員料增至百個、金立群:香港在候選名單」『大公網』(香港)2016 年 4 月

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四 中国の

AIIB 推進‧設立要因の分析

本稿の表1 にまとめた 3 つの理論的アプローチは中国が AIIB を推 進‧設立した要因と関連があり、主に権力、利益、知識の 3 つの基 本 的指向から 切り込むこ とができる 。それぞれ の具体的な 研究、 分 析は以下の通りである。 1 権力指向的解釈 権力指向の観点から、国際政治権力および現時点でAIIB の創設メ ンバ ーとして参 加の意向を 示している 国の国家利 益の変化を 通して 、 中国がAIIB の推進、設立を実現できた要因を解釈する。まず、国際 政 治権力分布 の変化から 見ると、主 に中国が備 える客観的 なハー ド パ ワーおよび ソフトパワ ーの変化、 および米国 との戦略合 戦から 説 明 できる。中 国のハード パワーとソ フトパワー の変化にお いて、 い わゆる「中国の台頭」20は中国の総合的な国力向上に対する外部から の 1 つの普遍的な結論である。従って、中国主導での新たな地域の 多 国間金融機 関設立の動 きは、中国 のハードパ ワーとソフ トパワ ー が大幅に強化した後の具体的な反映および結果と言える。 ハードパワ ーの面では 、中国はこ れまで軍事 力、経済力 での進 歩 が最も顕著である。Global Firepower(GFP)の世界軍事力ランキン グによれば、2015 年、中国は世界 126 カ国中、米国、ロシアに次い で第3 位であった21。経済においては、中国の GDP は米国に次いで

20 C. Fred Bergsten, Charles Freeman, Nicholas R. Lardy and Derek J. Mitchell, China’s Rise: Challenges and Opportunities (Washington, DC: Peterson Institute for International

Economics, 2008).

21 Global Firepower (GFP), “Countries Ranked by Military Strength (2015),” http://www.

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世界第2 位であり222009 年に日本を抜いている23。また、製品の輸 出においても中国は、2004 年に日本の輸出額を上回りアジアで第 1 位となり、さらに2007 年に米国を、2009 年にはドイツを抜いて世界 第1 位となった。その後、2013 年まで、中国は米国に取って代わっ て世界第1 位の貿易大国に君臨していた24 一方、ソフ トパワーに ついて、国 際政治学者 のジョセフ ‧サミュ エル‧ナイ‧ジュニア(Joseph S. Nye)によると、ソフトパワーとは 一 般的に他者 に影響を与 えることで 自身の望む 結果を得る 能力を 指 し 、主なアプ ローチは説 得と吸引力 であり、強 制や報酬で はない と いう25。この点から見ると、中国は近年、その総合国力の向上ととも に 、サミット 外交、大規 模な大会や 公演、中‧大規模国際フォーラ ム 、学術、文 化、教育に おける協力 、語学学習 、国際アピ ールお よ び インターネ ットによる 宣伝活動な どを通じて 、ソフトパ ワーの 強 化 を精力的に 図っている 。しかし、 世界主要数 カ国で行わ れた人 々 の 嗜好に関す る調査で、 特に先進国 の人々に対 して行った 調査結 果 に よると、中 国のソフト パワーは明 らかに深刻 に不足して いると 思

22 IMF のデータによれば、購買力平価(Purchasing Power Parities, PPP)方式で計算する

と、中国大陸は2014 年の GDP で米国を抜き世界第 1 位の経済大国となっている。

23 係る日米中 3 カ国の名目 GDP の計算方法については、“World Economic Outlook (WEO)

Database,” IMF, October 2015, http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/weodata/ index.aspx を参照。

24 “International Trade Statistics 2015 (Geneva: WTO, 2015),” World Trade Organization

(WTO), p. 25, https://www.wto.org/english/res_e/statis_e/its2015_e/its2015_e.pdf; “Modest Trade Recovery to Continue in 2015 and 2016 Following Three Years of Weak Expansion,” WTO PRESS RELEASE, April 14, 2015, https://www.wto.org/english/news_e/pres15_e/ pr739_e.htm.

25 Joseph S. Nye, Jr., “Public Diplomacy and Soft Power,” The Annals of the American Academy of Political and Social Science, Vol. 616 (March 2008), pp. 94~109.

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われることが明白となった26。このような状況の中、中国が AIIB 設

立 のような政 策イニシア チブを取る ことは、そ のソフトパ ワー不 足 を自然に強化していく作用がある。

米 中二強 の戦 略合戦 を見 ると、 米国 のオバ マ大 統領が 「ア ジアへ

のリバランス」政策を推進し27、地域の経済統合においては「環太平

洋パートナーシップ」(Trans-Pacific Partnership Agreement, TPP)と「環

大 西 洋 貿 易 投 資 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 」(Transatlantic Trade and

Investment Partnership, TTIP)という「2 つの海に跨る経済統合戦略」

を強力に主導して以降、中国はこの 2 つの巨大な地域貿易協定の形 成 後にもたら されかねな い「貿易転 換効果」の 経済リスク を下げ る た め、地政学 と地経学を 用いた対外 戦略の展開 を積極的に 練り始 め た。 先に、中国は 2013 年、「シルクロード経済ベルト」構想と「21 世 紀海上シルクロード」構想を提唱し、2014 年にはこのいわゆる「一 帯 一路」の大 規模な構想 を大々的に 宣伝し始め た。この構 想を通 じ て 、既に発展 を遂げてい る欧州経済 圏と現在成 長著しい東 アジア 経 済 圏とを接続 し、シーパ ワーとラン ドパワーの 両立戦略の 下、世 界 約44 億人、65 カ国を包括し、GDP 総額 21 兆ドルに達するユーラシ ア 大陸を貫く 大規模な経 済貿易計画 を中国主導 で推進する ことで 、 オバマ政権の「リバランス」政策と「2 つの海に跨る経済統合戦略」 に抵抗したい考えである。この中で、AIIB と「シルクロード基金」

26 中華經濟研究院「提升我國公眾外交與國家行銷策略之研究」國家發展委員會委託研

究報告(NDC-DSD-103-008)(2015 年)、頁 92~97; David Shambaugh, “China’s Soft- Power Push: the Search for Respect,” Foreign Affairs (July/August 2015), pp. 99~107.

27 Mark E. Manyin et al., “Pivot to the Pacific? The Obama Administration’s ‘Rebalancing’

Toward Asia,” Congressional Research Service (CRS) Report for Congress, March 28, 2012, pp. 1~29.

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は 「一帯一路 」構想実現 のために欠 かせない国 際金融プラ ットフ ォ ームである。「一帯一路」の推進は、アジアを経て、欧州、さらには ア フリカへと つながる広 大な「友達 圏」を確立 し、日米主 導の国 際 開 発協力金融 システムな どを打ち破 る非常に重 要な指標的 意義を 持 っている。それ故、中国がAIIB の設立を積極的に主導で進める戦略 的誘因を高めているのである28 次に、現時点でAIIB に参加している創設メンバーの国家利益の変 化を見ていきたい。AIIB の域内外メンバーの顔ぶれを見ると、イギ リ ス、フラン ス、ドイツ 、イタリア 、オースト ラリア、韓 国など 、 こ れまで米国 と密接な関 係にあった 多くの国が 、当初米国 に参加 を 反 対されてい たにもかか わらず、そ の意見を聞 かずに続々 と参加 し ていることが分かる。特にイギリスは米国と歴史的に「特別な関係」 にあるが、中国からの投資獲得、人民元取引の拡大、さらには中国、 ア ジア市場な どにおける 商業的利益 のさらなる 獲得を考慮 し、真 っ 先 に参加を決 めた。そし て、これを 皮切りに他 の米国の同 盟国も 中 国が主導して提唱したAIIB への参加を続々と表明した29。ここから、

AIIB は現時点では資金規模でも運営ノウハウでも依然 IMF や ADB などの国際金融機関に匹敵しないものの、「中国の台頭」に反映され

28 葉長城「論中國大陸當前區域經貿戰略布局與亞投行可能扮演之角色」『戰略安全研 析』第121 期(2015 年 6 月)、頁 12~18;隆國強「一帶一路潛力巨大、中國政府正大 力推進」『中國大陸政府網』2015 年 12 月 15 日、http://www.gov.cn/guowuyuan/vom/ 2015-12/15/content_5024294.htm;「習近平:“一帶一路”建設將為中國和沿線國家共同 發展帶來巨大機遇」『新華網』(北京)2015 年 10 月 22 日、http://news.xinhuanet.com/ politics/2015-10/22/c_128343816.htm;Bert Hofman「中國的一帶一路倡議:我們迄今為 止知道什麼」『世界銀行』、2015 年 12 月 7 日、http://blogs.worldbank.org/eastasiapacific/ ch/china-one-belt-one-road-initiative-what-we-know-thus-far。 29 吉迪恩‧拉赫曼「美國盟友倒向亞投行的啟示」『金融時報』(中文版)、2015 年 3 月 18 日、http://m.ftchinese.com/story/001061100。

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る新たな経済的実態とニーズという面においては、AIIB の設立は中 国 が日米欧な どの先進国 が主導する 国際経済秩 序に新たな 挑戦を も たらしたことが分かる。 2 利益指向的解釈 利益指向的アプローチから中国の AIIB 推進‧設立要因を解釈し よ うとすると き、中国自 身の経済需 要と利益、 およびアジ アのイ ン フラ需要という2 つの側面から切り込んだ分析をすることができる。 まず、中国の経済需要と利益の面を3 つ挙げると、1 つ目は生産過剰 や 債務リスク 増加の問題 である。中 国の国内経 済は現在、 生産過 剰 や 債務リスク の増加など の問題を抱 えており、 輸出拡大は 生産過 剰 問題を解決する主要な方法の 1 つとなる。インフラ輸出は中国の輸 出項目の中でも優位にあり、AIIB は中国にとってまさにアジアのイ ン フラ投資の ために長期 融資を提供 してくれる ツールとな るので あ る。AIIB の創設とその機能の実行は、中国が「一帯一路」政策の推 進 により輸出 を拡大し、 国内の生産 過剰問題の 解決を進め るのに 非 常に役に立つ302 つ目は資本輸出の国際プラットフォームの構築で ある。AIIB は中国主導で計画された国際金融機関として、中国が近 年 、国際資本 輸出プラッ トフォーム を建設する ために行っ た重大 な 具体的行動の1 つと言える。AIIB の本格始動は、中国が国内の過剰 資 本を周辺国 へ輸出し、 中国のため の海外市場 における新 たなビ ジ ネ スチャンス を創造、育 成するだけ ではなく、 これまで中 国の外 貨 準 備高が米国 の国債や財 投機関債な ど、ドル資 産に過度に 集中し て い た資産配分 リスクを低 減し、人民 元での対外 投資の多様 化を図 る

30 管清友「為什麼說一帶一路是一號工程」勵以寧、林毅夫與鄭永年等『讀懂一帶一路』 (北京:中信出版社、2015 年)、頁 154~156。

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ことにも役立つのである。そして 3 つ目は周辺地域における人民元 の国際化の推進である。AIIB の設立と関連計画の推進に伴い、中国

は AIIB における主導的影響力を利用して人民元建て決済や直接融

資 を勧め、人 民元のアジ アひいては 世界におけ る流通量を 増大さ せ ている。また、2015 年 10 月に運用を開始した「人民元クロスボーダ

ー決済システム」(Cross-border Inter-bank Payment System, CIPS)と

合 わせて人民 元の国際化 の強化を図 り、人民元 経済圏の中 国周辺 地

域における実質的影響力を高めようとしているものと予想 さ れ る31。

次に、アジ アのインフ ラ需要の面 について見 ていく。ア ジア開 発

銀行研究所(Asian Development Bank Institute, ADBI)の研究報告に

よると、ADB に加盟している 32 の開発途上国が 2010 年から 2020 年の間に必要とするインフラ投資金額は約8 兆 2200 億ドルにも達す る32。しかしADB と世界銀行の資本はそれぞれ 1600 億ドルと 2230 億 ド ルで、かつ 両国際金融 機関が毎年 アジアの国 ‧地域に提供できる 融資規模は合計約200 億ドル程度にすぎない33。将来のアジアの開発 途 上国‧地域のエネルギー、交通、通信、水および衛生設備などを 含 むインフラ 整備には明 らかに足り ない金額で ある。従っ て、ア ジ

31 張燕生、黃益平「一帶一路戰略下對外投資新格局」勵以寧、林毅夫與鄭永年等著『讀 懂一帶一路』(北京:中信出版社、2015 年)、頁 135;葉長城、前揭論文、頁 19~20; 劉翔峯「亞投行加速人民幣國際化」『大公財經』、2015 年 9 月 14 日、http://finance. takungpao.com.hk/mjzl/mjhz/2015-09/3165477_print.html;Stephen Street「專家傳真- CIPS 上路 帶動全球人民幣支付革命」『中時電子報』2015 年 10 月 14 日、http://www. chinatimes.com/newspapers/20151014000072-260202。

32 Biswa Nath Bhattacharyay, “Estimating Demand for Infrastructure in Energy, Transport,

Telecommunications, Water and Sanitation in Asia and the Pacific: 2010-2020,” ADBI Working Paper 248, 2010, pp. 11~12.

33 高長「大陸籌設「亞投行」與臺灣加入「亞投行」之意涵」『展望與探索』、第 13 卷第

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ア の国‧地域全体のインフラ開発における将来の基本的需要にとっ て は、いかに 域内外の各 主要国の労 働力、物資 力、資金を 割り振 っ て 投入するこ とで共同で 地域のイン フラ需要を 満たし、ま た現地 住 民 の生活水準 を改善する ことにより 経済成長を 刺激するか が重要 な 課 題であり、 この課題に 対応するた めには国際 間での共同 行動が 必 要となる。 このような状況の中、中国がAIIB 設立を提唱したことは、客観的 条 件において ちょうど地 域のインフ ラ開発需要 と一致して いたと 言 え よう。また 、アジアの インフラ開 発に参加す る意欲を持 ってい る 国 も、この地 域金融制度 の導入によ り、インフ ラ建設に興 味のあ る 域 内外の主要 国が集まり 、同じ協力 方案に焦点 が当てられ ること を 期 待しており 、制度化さ れた体制の 下、各国の 調整を図り 共同行 動 を とることが メンバー国 の相互利益 を実現する という長期 目標を 達 成することになる。この点に関して、AIIB 協定に示された設立の目 的に「(一)インフラとその他生産性分野への投資を通じ、アジア経 済 の持続可能 な発展を促 し、富を創 造し、イン フラの相互 接続を 改 善する。(二)その他の多国間‧二国間の開発金融機関と密接に協力 し 、域内の協 力とパート ナーシップ 関係を推進 し、発展へ の挑戦 に 対応する」34とあり、この規定からその一端を垣間見ることができる。 つまり、利益指向から中国がAIIB の推進を円滑に進めることができ た 要因を解釈 すると、中 国自身の経 済需要と利 益が見込め るほか 、 この地域金融制度があればメンバー国が 1 つのインフラ建設協力方 案 に焦点がし ぼれ、コス トを削減で き、地域の インフラ建 設を進 め る上での公共財(public goods)が提供されるなど、長期的な経済利 益という点から見ても、AIIB の創設はアジアのインフラ需要を満た

34 「アジアインフラ投資銀行協定」第 1 条を参照。

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すと いう客観的 な開発情勢 へと各国の 足並みを揃 えることが できる 。 こ れも中国が 日米欧主導 の従来の国 際経済秩序 を打ち破り 設立に 成 功した重要な要因の1 つのようだ。 3 知識指向的解釈 知識指向的 アプローチ から中国の AIIB 推進‧設立要因を解釈し よ うとする場 合、基本的 に中国が主 導し創設し た国際金融 機関に 対 す る中国 自身 の認識 と論 述プロ セス から述 べる ことが でき る。1978 年 から振り返 ると、中国 は鄧小平時 代に確立さ れた「改革 開放」 路 線 以降、いか に平和な環 境の中で国 家の発展を 全力で追い 求める か が 、対外政策 の基本主軸 となった。 中国を革命 と閉鎖状態 から開 放 すべく、全力で市場経済システムを発展させた。1989 年に「天安門 事 件」が起こ り欧米諸国 から経済制 裁を受けた が、中国は 「冷静 観 察 、穏住陣腳、沈着応対、韜光養晦、善於守拙、決不当頭、有所作 為」の「二十八字方針」で対応した35。その後、経済が徐々に開放さ れ ていくと、 中国の国際 システムへ の参加も日 に日に深ま ってい っ

た。2001 年、中国は世界貿易機関(World Trade Organization, WTO)

に加盟した後、地域貿易協定(Regional Trade Agreement, RTA)の増

加に対応するため、自由貿易協定(Free Trade Agreement, FTA)締結

への態度も積極的になった。今では多くの主要な貿易相手国と FTA を締結しているだけではなく、過去 30 年余りの GDP 成長率は年平 均約 9.7%、対外貿易成長率は約 46.4%に達し、2013 年には世界最 大の貿易国にまで成長を遂げた。

35 張啟雄、葉長城「從日本第一、中國崛起到 G2:冷戰前後東北亞國際秩序的形成與轉 變」李宇平主編『中國與周邊國家關係』(新北市:稻鄉出版社、2014 年)、頁284~286; 「冷靜觀察、沉著應付、韜光養晦、決不當頭、有所作為」『人民網』(北京)2012 年 10 月 28 日、http://theory.people.com.cn/BIG5/n/2012/1028/c350803-19412863.html。

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中国の客観 的経済力が 高まってく ると、中国 自身の国際 社会に お け る果たすべ き役割に対 する認識に も徐々に変 化が見られ るよう に な った。それ まで中国は 経済が低所 得から中所 得へと進ん でいる 段 階で、欧米主導の国際経済秩序の下、「韜光養晦(才能を隠して、内 に力を蓄える)」という姿勢で自身を国際的ルールの「参加者」と「受 信者」と位置づけていた。しかし、「中国の台頭」を経て、中国は次 第に国際ルールの「制定者」になる認識と自信を持ち始めていった。 近 年、中国自 身の主観的 認識、およ び国際社会 の「友達圏 」の中 で 中 国はその国 力に見合っ た国際的な 責任を果た すべきだと いう論 調 を受けて、中国の国際経済貿易における論述(発言/主張/言葉)と具 体的 行動も、国 際ルールの 「参加者」 から「制定 者」、「貢献 者」 へ とシフトしていく中で明らかに変化してきた36 2013 年、米国が TPP と TTIP からなる「2 つの海に跨る経済統合 戦 略」を強力 に推し進め 、勢い盛ん なころ、中 国は地政学 と地経 学 上 、意識とや り方を変え てやり直さ なければ、 国内の経済 需要は 満 たせず、また、市場開放度の極めて高いTPP や EU と締結する TTIP のような高い基準のRTA には当面参加できないことから、経済貿易 へ の影響も避 けることが できないと 実感してい た。そこで 、中国 は 2013 年 9 月、「一帯一路」の戦略的ビジョンを初めて正式に打ち出し37 同年10 月には習近平主席がインドネシアを訪問した際 AIIB 設立計

36 林毅夫「一帶一路、讓中國市場經濟體系更完善」勵以寧、林毅夫與鄭永年等著『讀 懂一帶一路』(北京:中信出版社、2015 年)、頁 3~6;梁國勇「一帶一路的棋局觀」 勵以寧、林毅夫與鄭永年等著『讀懂一帶一路』(北京:中信出版社、2015 年)、頁 50~51。 37 習近平「弘揚人民友誼、共創美好未來:在納扎爾巴耶夫大學的演講」『中國大陸政府 網』2013 年 9 月 8 日、http://big5.gov.cn/gate/big5/www.gov.cn/ldhd/2013-09/08/content_ 2483565.htm。

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画を発表した。2014 年 10 月、中国がホスト国となった APEC 首脳会 議を前に、中国はAIIB の設立覚書の調印を行ううことを決めた。続 いて、習近平主席は2014 年 11 月、APEC‧CEO サミットで「持続的 な 発展を求め 、アジア太 平洋の夢を 共に築く」 と題した基 調演説 を 行 った。その 演説では、 中国をもは や国際ルー ルの中のた だの「 参 加 者」として 位置づけて おらず、逆 に大国がよ り大きな責 任を負 う べ きだと認識 し始めてい ることが十 分に反映さ れている内 容とな っ ていた。また、公共財の視点から、「中国は総合的な国力の増大に従 い 、アジア太 平洋並びに 世界に対し さらに多く の公共財を 提供、 と り わけ地域協 力のさらな る進展のた め新たな取 り組みや新 しいア イ デ アを提案す る能力と意 志を持つよ うになった 。中国は各 国とと も に 『一帯一路 』建設を推 進し、より 深く地域協 力のプロセ スに関 与 し 、アジア太 平洋地域の 相互接続、 発展と繁栄 のために新 たな貢 献 を果たすことを希望する」と強調した。さらには「AIIB の準備作業 は実質的な一歩を踏み出し、……、中国は 400 億ドルを拠出してシ ルクロード基金を設立し、『一帯一路』沿線国のインフラ建設、資源 開 発、産業協 力など、関 連プロジェ クトに投資 や資金調達 のサポ ー トを提供する」と宣言した38。 「一帯一路」戦略と AIIB 創設の推進、「シルクロード基金」設立 な どの行動は 、中国の総 合的な国力 の上昇を客 観的に明ら かにし た だ けではなく 、中国の主 観的な認識 においても 、自身をそ れまで 国 際ルールの「参加者」や「受信者」という立場に置いていたのを、「制 定者」へと調整したことを反映している。この他、AIIB 創設への動 き は、中国が 意識と認識 の上で、さ らに多くの 公共財を提 供した い

38 「謀求持久發展、共築亞太夢想」『新華網』(北京)2014 年 11 月 9 日、http://news. xinhuanet.com/world/2014-11/09/c_1113174791.htm。

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と いう「大国 意識」へと 既に進んで いることの 現れを象徴 してい る だ けではなく 、中国が国 際経済貿易 分野におい て果たすべ き役割 の 変化に対するAIIB メンバー国の支持も反映している。特に、多くの TPP メンバーでも TTIP メンバーでもない AIIB メンバー国にとって、 AIIB への参加はその認識において TPP と TTIP の 2 大地域経済統合 体に参加できないバランスをとるための主な対応策の 1 つとなって いる39

AIIB 運営後に派生する可能性のある主要な国際政

治的‧経済的含意

1 権力指向的観点 権力指向的観点から切り込むと、AIIB が正式に運営した後に派生 する可能性のある主要な国際政治的‧経済的含意は2 つある。まず、 AIIB は現在の日米欧主導の国際経済秩序を打ち破り正式に設立する こ とができた が、これは 中国がその 国際経済地 位に匹敵す る国際 政 治 権力を追い 求めている こととその 実力とを反 映している 。中国 の GDP は 2013 年に世界の GDP の 12.3%、アジアの GDP の約 40%を 占めたが、IMF での議決権は 3.81%、ADB での議決権は 5.474%に す ぎず、実際 の経済地位 とかなりの ギャップが 存在する。 中国は 日 米 欧などの主 要国が主導 する現行の 国際経済制 度は、中国 が世界 経 済 において持 つべき発言 権が反映さ れていない だけでなく 、同時 に 中 国が世界並 びに東アジ ア諸国に対 して貢献で きる能力も 制限し て い ると考えて いるが、こ れらの国際 制度が中国 の国際経済 力の拡 大

39 湯敏「一帶一路彰顯大國心態」勵以寧、林毅夫與鄭永年等著『讀懂一帶一路』(北京: 中信出版社、2015 年)、頁 7~12。

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を妨げていることは疑いを入れない。そこで、中国はAIIB の計画‧ 設立に際し、自主性と相互尊重の原則を出発点とし、各国のGDP に 基 づいて域内 メンバーと 域外メンバ ーの権益の バランスを 図ると 主 張 した。中国 はこのよう な議決権の 計算原則こ そ、アジア 諸国に 対 す る公平、公 正、透明、 対等な対応 に値すると 考え、また このや り 方は AIIB の創設メンバーとして参加の意向を示していた国々の支 持と反響も得られた40。制度設計の権力バランスという観点から見る と、欧州19 カ国の AIIB 参加は、AIIB を「地域の」金融機関からよ り 広範囲かつ 包括的な国 際金融機関 へとシフト させた。さ らに、 当 該 組織が最終 的に中国一 国が完全に 支配する国 際金融機関 に陥っ て しまうのではないかという AIIB に参加する小国の懸念も減らした ことも注目に値する41。換言すると、従来の国際経済秩序の維持にと って、AIIB の正式な設立と運営は中国の従来の国際経済システムに 対す る挑戦が新 たな段階に 入ったこと を意味して いるだけで はなく 、 同 時にいかに 新たな国際 経済システ ムを再構築 することで 各国の 経 済 貿易の需要 を満たして いくのかと いう課題に おいても、 米国と そ の 同盟国の利 益に新たな 変化と分布 が出現して いることも 意味し て いる。 次に、権力指向的観点においてAIIB 運営後のもう 1 つの直接的な 解釈をすれば、AIIB の設立はしばらくの間は規模においても実力に おいても AIIB を上回る世界銀行と IMF が世界金融秩序に及ぼす絶 大 な影響力を 揺るがすこ とはできず 、また、米 国と米ドル の世界 金 融 業務におけ る主導的地 位も現時点 で中国や人 民元が完全 に取っ て

40 蔣序懷「基於人民幣國際化視角的亞投行(AIIB)與東亞貨幣金融合作」『學術研究』 (北京)、第7 期(2015 年)、頁 91。

41 Tang Siew Mun, The Politics of the Asian Infrastructure Investment Bank (AIIB) (Singapore:

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代われるものではない42。しかし、中国は AIIB の運営プラットフォ ームを通して、日米などからの制限を受けず、AIIB 計画の実行とい う 名の下に、 正々堂々と その経済影 響力を拡大 し、多国間 チャネ ル を 通じて中国 のアジアや 世界に対す る経済的影 響レベルと 範囲を 増 大 することが できる。こ れにより、 中国の国際 金融ガバナ ンス分 野 に おける威信 、自主性、 実質的利益 が高まり、 また、これ まで中 国 資 本や製品が アジアやア フリカの発 展途上国で 急速に拡大 したこ と から、「中国脅威論」や「新植民地主義」などと批判や反感を買って いたが、この二の舞も避けることができる43 2 利益指向的観点 利益指向的角度から分析すると、AIIB が本格始動した後派生する 可能性のある主要な国際政治的‧経済的含意も 2 つある。まず、ア ジ アの将来の インフラ投 資を考えた とき、その 需要と不足 分のギ ャ ップとがかなり大きいことが推定される。現在、世界銀行、ADB、 AIIB が提供できる投資額をもっても、その需要を完全に満たすこと は 難しい。た だ、アジア 地域のイン フラ投資需 要に対応し 、イン フ ラ整備を推進するという点から言うと、AIIB は金融プラットフォー ムや 協力の相乗 効果を促進 する役割を 果たすこと ができるこ とから 、 AIIB メンバー国がインフラ投資と開発を行う上で協力や協調性を強 化するのに貢献する。例えば、基本的に、AIIB への融資依頼者は最 終的に元本と利息を返済する必要があるが、AIIB の融資は各メンバ

42 賽明成「顛覆中國?透視亞投行債券與帶路基金」『問題與研究』(中文版)、第 54 卷 第2 期(2015 年 6 月)、頁 151~158。

43 Jianmin Jin, “The True Intent Behind China’s AIIB Strategy,” Fujitsu Research Institute

(FTI), August 25, 2015, http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/en/column/message/2015/2015- 08-25.html.

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ー 国のソブリ ン債によっ て担保しな ければなら ない。この やり方 は AIIB と各国政府の協力をより密接なものにする。その上、投資計画 の資金ソースは複数に及ぶため、AIIB は政府、商工業界、多国間開 発 金融機関を 含む資本市 場と協力を 強化する必 要がある。 つまり 、 上 述した協力 、協調に関 する各業務 の実施はア ジア域内外 の資本 を 地 域のインフ ラ建設に投 入させると ともに、ア ジア全体の インフ ラ 投資状況の改善と発展にもつながる44 また、中国の現在の経済規模は世界第2 位で、AIIB での議決権も 26.06%と最も高い比率を占めているが、AIIB という国際金融機関を 運 営してく上 で、このよ うな客観的 経済力と議 決権比率の 高さは 、 今 後の円滑な 運営を保障 するもので はない。欧 米諸国など と比べ る と 、中国はこ れまで国際 金融機関業 務を執行し た経験がな いので 、 発展レベルの格差が大きい AIIB メンバー国の利益や意見をいかに 調整するかは、中国がAIIB の運営を通して物事の捉え方、見識、知 識 、制度計画 力を養うこ とにかかっ ている。も ちろん、中 国を含 め

たAIIB メンバー国にとっては、AIIB も「BRICS 新開発銀行」(BRICS

Development Bank)以外で、日米欧が主導メンバーではないもう 1 つの新国際金融制度であり、中国と他のAIIB 主要メンバー国は AIIB の 業務遂行を 機に、互い に協調、協 力し合う学 習プロセス を展開 し なければならない。特に、中国にとっては、AIIB の運営が最終的に 各メンバー国の利益に配慮できなくなり、同時に、AIIB が中国の利 益 のためだけ のサービス 機関に陥っ たら、他の メンバー国 の反発 ひ

44 Xu Hongcai, “AIIB Will Play the Role of Financial Leverage and Synergy in Asian

Infrastructure Investment,” presented for MDBs and the G20 Development Agenda--T20 Shanghai Conference (Shanghai: Shanghai Institutes for International Studies (SIIS), the Institute of World Economics and Politics of CASS, and Chongyang Institute for Financial Studies of Renmin University of China (RDCY), February 26, 2016), pp. 1~2.

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い ては脱退を 招き、当該 機構の存続 と成功にと って不利に なるこ と は間違いない45。この点に関しては中国も認識しており、AIIB の開 業 式 典 の あ い さ つ で 習 近 平 主 席 は 次 の よ う に 述 べ て い る 。「 中 国 は 世 界の開発体 系の積極的 な参与者で あり、受益 者であり、 建設的 な 貢献者でもある。AIIB 設立の提唱は、中国がより多くの責任を請け 負 い、既存の 国際経済体 系の改善を 後押しし、 世界に公共 財を提 供 す るための建 設的な行動 であり、各 国の互恵‧ウィンウィンの実現 に役立つ46。」この他、AIIB は他の多国間開発金融機関との協力拡大 に関して具体的な進展があった。2016 年 4 月には世界銀行と協調融 資枠組みについて初の合意書を交わした。2016 年 5 月には ADB と 協調融資に向けた覚書を結んだ。ADB とは将来の協調融資プロジェ ク ト の た め の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の 構 築 を 視 野 に 入 れ て い る 。 将 来 AIIB 内や各メンバー国間、および AIIB 外や他の多国間開発金融機 関 との協力を 同時に進め る流れが持 続できれば 、その投資 協力の た め のアジェン ダはインフ ラ建設プロ ジェクトか ら衛生、教 育、環 境 保 護、公益な ど、他の分 野への徐々 に拡大して いく可能性 があり 、 これによりAIIB の協力分野と範囲は拡大する47 3 知識指向的観点 知識指向的な角度から見ると、AIIB が正式に運営を開始した後派

45 王維嘉「亞投行面臨的五大挑戰」『金融時報』(中文版)2015 年 3 月 25 日、http://www. ftchinese.com/story/001061209?full=y。 46 習近平「在亞洲基礎設施投資銀行開業儀式上的致辭」『新華網』(北京)2016 年 1 月 16 日、http://news.xinhuanet.com/politics/2016-01/16/c_1117796389.htm。 47 「世行與亞投行簽署首個聯合融資協定」『經濟參考報』(北京)2016 年 4 月 15 日、

http://jjckb.xinhuanet.com/2016-04/15/c_135279792.htm ; “ADB, AIIB Sign MOU to Strengthen Cooperation for Sustainable Growth,” Asian Development Bank, May 2, 2016, http://www.adb.org/news/adb-aiib-sign-mou-strengthen-cooperation-sustainable-growth.

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生する可能性のある主要な国際政治的‧経済的含意は、中国がAIIB プ ラットフォ ームを通し て国際経済 分野におけ る発言権と 論述の 影 響力を強化する可能性があること、およびAIIB 組織自体の理念の推 進と実施という 2 つの面から分析することができる。まず、中国は そ の全面的な 台頭以降、 高まり続け る国際政治 的‧経済的地位に対 し 、どのよう な新たな論 述を提起し てきたのだ ろうか。中 国は一 方 で中 国の台頭を 周辺諸国に 脅威ではな く機会とと らえさせる ことで 、 改 革と発展を 目指す上で の平和な環 境を作り出 し、もう一 方でこ れ に より中国の 国際社会に おける発言 権と論述の 影響力を高 めるこ と ができることを重要な対外政策目標の 1 つとして、歴代主導者たち は これを常に 推し進めて きた。胡錦 濤政権時代 、中国は「 平和的 台 頭」論に取って代わる「平和的発展」論を提起し、「睦隣、安隣、富 隣(隣国と仲良くし、隣国を安定させ、隣国を豊かにする)」を周辺 外 交政策に掲 げて、中国 の改革開放 と近代化の 成功のため により 良 い国際環境を作り出そうとした48。2005 年にはさらに、外部の「中 国脅威論」に対する懸念を払拭し、「責任ある大国」イメージを樹立 し、中国の対外論述および価値観の影響レベルと範囲を高めるため、 胡錦涛主席は「和諧世界(調和のとれた世界)」という概念を初めて 打 ち出し、中 国は他のア ジア‧アフリカ諸国といっしょに「異なる 文 明との友好 的な交流、 平等な対話 、発展と繁 栄を推進し 、調和 の とれた世界を共に築く」ことができると考えた49。 習近平の主席就任後、中国は長年の急速な経済発展を経たことで、

48 韓鋒「中國『睦鄰、安鄰和富鄰』政策解讀」『中國評論新聞網』2006 年 5 月 16 日、 http://hk.crntt.com/crn-webapp/doc/docDetailCreate.jsp?coluid=0&kindid=0&docid=100142 235。 49 「胡錦濤在亞非峰會上的講話全文」『新華網』(北京)2005 年 4 月 22 日、http://big5. xinhuanet.com/gate/big5/news.xinhuanet.com/world/2005-04/22/content_2865173.htm。

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小康社会(ややゆとりある社会)の構築という目標に向かう中、徐々 に 段階的な具 体的成果を 挙げ始め、 故に民族と しての一定 の自信 も 蓄積していった。2012 年、中国は「中華民族の偉大な復興の実現が、 近 代以降の中 華民族の最 も偉大な夢 である」と いう、いわ ゆる「 中 国の夢」を提唱した。そして、これにより中国が目下「国家の富強、 民 族の振興、 人民の幸福 の実現」と いう近代化 国家へと邁 進して い るイメージが形成されることを望んだ502014 年 5 月、中国の対外 政 策に関する 新たな論述 の影響レベ ルと範囲を 拡大すべく 、習近 平 は 「中国の平 和的発展は アジアから 始まり、ア ジアを拠り 所とし 、 アジアに幸福をもたらす」との発言を基に、「中国国民は各国と共に 努 力して、長 期的平和、 共同発展と いうアジア の夢を実現 するこ と を望んでいる」と強調した。2014 年 11 月、APEC‧CEO サミットの 期 間 中 に は さ ら に 範 囲 を 広 げ 、「 ア ジ ア 太 平 洋 の 大 家 族 の 精 神 と 運 命 共同体とい う意識を堅 持し、平和 、発展、協 力、ウィン ウィン と い う時代の潮 流に順応し 、アジア太 平洋の繁栄 と進歩のた めに共 に 力を尽くそう」と、「アジアの夢」の概念を初めて詳しく述べた。AIIB の 創立と本格 始動はまさ に、中国が 今「一帯一 路」を総合 戦略と し て 、世界に発 信している 「アジアの 夢」の重要 政策ツール なので あ る51。中国は今後「アジアの夢」と「一帯一路」建設の理念を、AIIB と 各メンバー 国或いは他 の多国間開 発金融機関 との協調投 資プロ ジ ェ クトや活動 を通して実 現すること で、中国の 国際間に関 する新 ガ バ ナンス制度 論が国際経 済需要によ り適したも のであると いうメ ン バ ー国の支持 と合意を勝 ち取ること ができるだ けでなく、 同時に 中

50 冷溶「什麼是中國夢、怎樣理解中國夢」『人民日報』(北京)2013 年 04 月 26 日、 http://opinion.people.com.cn/n/2013/0426/c1003-21285328.html。 51 鄧晨曦「中國夢、亞洲夢之後、習近平為何又提出『亞太夢』」『中國網』2014 年 11 月 10 日、http://big5.cri.cn/gate/big5/gb.cri.cn/42071/2014/11/10/7371s4760458.htm。

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国 を国際経済 システム論 の「参加者 」から、シ ステムの価 値観と 論 述 を創造する 「制定者」 へとシフト させ、さら に中国の国 際経済 シ ス テムにおけ る発言権、 アジェンダ 設定、論述 の影響力も 徐々に 高 めていくことができる。 次に、AIIB 組織自体の理念の推進と実施の面を見ていくと、前述 したように中国は AIIB の計画プロセスにおいて、「アジア太平洋地 域 の相互接続 、発展と繁 栄のために 新たな貢献 を果たす」 という 構 想に基づいて AIIB の設立を推進していると繰り返し強調していた。 従 って、中国 に国際経済 分野におい て、有能で 責任を負い かつ自 ら 公共財を提供する本当の大国の役割を果たさせるには、AIIB の規則 の 策定や運営 の際に、公 平性、専門 性、包括性 、多角性、 透明性 、 革新性などの特質に注意する必要がある。そうすることで、AIIB メ ン バー国の組 織に対する 共通認識を 強化し、メ ンバー国同 士の或 い は外部の AIIB に対する誤解を大幅に減らせると同時に、AIIB と他 の多国間開発金融機関との協力と相互作用を強化することで、AIIB は 最終的に地 域或いは世 界のインフ ラ建設など 、関連分野 の発展 に 大いに貢献することができる52。現在、AIIB は「リーン(効率的)、 クリ ーン(廉潔 )、グリーン (環境にや さしい)」を 核心的な価 値 観 と し、腐敗を 絶対に容認 しないと強 調している 。また、専 門性と 効 率 が高く、廉 潔なプラッ トフォーム に作り上げ ると宣言し た。中 国 は大国としての風格を示すため、AIIB 設立初期段階では中国国内の イ ンフラ建設 プロジェク トへの投資 をサポート するための 資金調 達 は行わないと特に強調した。ただ、AIIB で初めて協力する他の多国

52 「規則決定亞投行成敗」『中國評論新聞網』2015 年 5 月 3 日、http://hk.crntt.com/doc/ 1037/3/6/2/103736282.html?coluid=7&kindid=0&docid=103736282;薑躍春「亞投行開業 為亞洲和世界經濟注入活力」『中國日報中文網』2016 年 1 月 16 日、http://world. chinadaily.com.cn/2016-01/16/content_23115986.htm。

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間 開発金融機 関の投資プ ロジェクト と単独で運 営するプロ ジェク ト が まだ批准さ れていない のでなけれ ば、それは 執行の初期 段階で あ り、AIIB メンバー国も増えていく可能性もある。今後、AIIB の運営 と その実際の 効果が当初 設定した理 念と目標を 達成できる かどう か は観察する必要がある53。

六 おわりに

本稿は国際関係論の現実主義、機能主義、認知主義の 3 つの分析 ア プローチの 国際制度や 組織に対す る形成要因 の解釈を行 った。 そ の中で、各理論のアプローチに対応する権力、利益、知識の 3 つの 基本的指向を用いて分析を行った。その結果、中国がAIIB を推進‧ 設 立すること となった主 な国際政治 経済要因に 対し比較的 詳細な 解 釈を行うことができるほか、AIIB の正式な開業‧運営後に派生する 可 能性のある 重要な国際 政治的‧経済的含意についても説明できる ことが分かった。まず、権力指向的観点から見ると、AIIB 設立の成 功 は中国の軍 事と経済の ハードパワ ーが大幅に 向上したと いう国 際 状 況を反映し ており、ま た、中国の ソフトパワ ー不足の問 題にと っ ても、AIIB の設立と運営は一定のプラスの影響を発揮する。この他、 米中二強の戦略合戦という面から言うと、中国が「一帯一路」、AIIB、 「 シルクロー ド基金」な どの政策を 推進してい るのは、主 に米国 の 「アジアへのリバランス」と「2 つの海に跨る経済統合戦略」という

53 王觀‧吳秋余「亞投行首任行長:打造專業高效廉潔的亞投行」『人民日報』(北京) 2016 年 1 月 18 日、http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2016-01/18/nw.D110000renmrb_ 20160118_4-03.htm;王萌萌「亞投行有望於 6 月批准首批項目」『新華網』(北京)2016 年4 月 14 日、http://news.xinhuanet.com/fortune/2016-04/14/c_1118621285.htm;原田逸 策「亞投行陸續確定多個融資項目」『日經中文網』2016 年 5 月 12 日、http://zh.cn. nikkei.com/politicsaeconomy/investtrade/19525-20160512.html。

數據

表 1  国際関係論の国際制度や組織形成を解釈する主要な理論的ア プローチ、基本的指向、要因および派生する可能性のある 主 要な含意 理論的ア プローチ 基本的指向 国際制度や組織形成の要因解釈 派生する可能性のある主要な含意 現実主義 権力 国際政治権力と国際システムにおける国家利益の変化が特定の 国際制度や組織の形成を促す主 要要因である。    特定の国際制度や組織の設立は、新しい国際政治権力の形勢と国際システムにおける国家利益の変化を反映したにすぎない。 新たな国際制度や組織の中の主 導 国 は

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