日本版グリーン革命の構築
蔡
錫 勲
(淡江大学アジア研究所日本研究組准教授)【要約】
日 本の産 業発 展は、 戦後 の造船 や鉄 鋼業と いっ た「重 厚長 大」産 業から、1980 年代には家電などの「軽薄短小」産業に移り変わり、 現 在は環境を 重視する「 軽薄炭省」 の新時代を 迎えている 。では 、 日 本は優れた 環境・エネ ルギー技術 を持ってい るが、それ だけで 戦 略的世界標準を獲得できるのであろうか。ましてや、「世界標準を取 れば市場が取れる」というわけではないのである。 結論として、グリーン革命は20 世紀型文明の行き詰まりと石油中 心 経済の限界 を示してい る。日本の 環境・エネ ルギー技術 は日本 の み ならず、全 世界の共通 資産である 。経済発展 と環境汚染 は決し て ト レードオフ の関係では ない。日本 が環境への 対応から利 益が得 ら れ ることを示 せるなら、 発展途上国 はそれを見 て素早くキ ャッチ ア ップするであろう。 キーワード:軽薄炭省、温室効果ガス、鳩山イニシアチブ、太陽光 発電、世界標準一 はじめに
日 本の産 業発 展は、 戦後 の造船 や鉄 鋼業と いっ た「重 厚長 大」産 業から、1980 年代には家電などの「軽薄短小」産業に移り変わり、 現在は環境を重視する「軽薄炭省」の新時代を迎えている。「軽薄炭 省 」とは、軽 量化、薄型 、低炭素社 会と省エネ の頭文字を 取った 略 語 である。現 在、日本政 府は「需要 の創造によ る成長力の 強化」 と い う方針を打 ち出し、特 に環境・エ ネルギー分 野に投資す ること に よ って経済、 雇用と生活 の質を立て 直そうとし ており、野 党もこ の 環 境ビジネス や低炭素社 会への方向 性に賛成し ている。こ れが、 日 本 版グリーン 革命であり 、日本は省 エネ家電や 電気自動車 などに よ るグリーン革命という21 世紀の新産業革命にその将来を託している。 これはまさに官民一体による産業構造の転換である1。 そ れでは 、日 本は優 れた 環境・ エネ ルギー 技術 を持っ てい るが、 そ れだけで戦 略的世界標 準を獲得す ることがで きるのであ ろうか 。 ま してや「世 界標準を獲 得すれば市 場が取れる 」というわ けでは な いのである2。本論では、日本の地球温暖化対策の追い風に乗った日 本版グリーン革命の構築を明らかにする。二 環境・エネルギー産業の創造
古 くから 言わ れてい るよ うに、 日本 は石油 、天 然ガス 、鉱 物など1 飯田哲也・田中優・筒井信隆・吉田文和『日本版グリーン革命で経済・雇用を立て 直す』(洋泉社、2009 年);寺島実郎・飯田哲也・NHK 取材班『グリーン・ニューデ ィール―環境投資は世界経済を救えるか』(NHK 出版、2009 年);村沢義久『日本経 済の勝ち方―太陽エネルギー革命』(文藝春秋、2009 年)。 2 一橋大学イノベーション研究センター編「『世界標準』が変える競争」『一橋ビジネ スレビュー』WIN.57 巻 3 号(2009 年 12 月)。
の 天然資源に 恵まれてい ないため、 その自給率 はゼロに近 く、国 際 競争力を保ち続けるための資源・エネルギーの確保が問われている。 さ らに、米国 発の世界金 融危機をき っかけに、 世界経済が 大変革 期 を 迎える中、 日本も米国 のグリーン ・ニューデ ィール政策 を参考 と し 、環境・エ ネルギー分 野への投資 と産業育成 による雇用 の創出 と 経 済の安定化 を目指そう としている 。日本政府 は時々刻々 と変化 す る 世界経済の 流れを見極 めながら、 産業界の声 を逐次吸い 上げ、 環 境・エネルギー政策に反映している(表 1)。そして、米国のグリー ン ・ニューデ ィール政策 とアジア勢 の興起とい う二つの波 は日本 の 環境・エネルギー政策に影響を与えている3。 表 1 グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略 1. 「世界最高の技術」を活かす 2. 総合的な政策パッケージにより世界ナンバーワンの環境・エネルギー大 国へ 3. グリーン・イノベーションによる成長とそれを支える資源確保の推進 4. 快適性・生活の質の向上によるライフスタイルの変革 5. 老朽化した建築物の建替え・改修の促進等による「緑の都市」化 6. 地方から経済社会構造を変革するモデル ≪グリーン・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト≫ 1. 「固定価格買取制度」の導入等による再生可能エネルギー・急拡大 2. 「環境未来都市」構想 3. 森林・林業再生プラン (出典)「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」閣議決定、2010 年 6 月 18 日、 http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf、15~17、38~39 ペー ジに基づき著者整理。
3 東京財団『日本の資源・エネルギー外交の優先課題 ― Ⅱ 環境・エネルギー技術をツ ールとした東アジア戦略への2 つの提言』(東京財団、2010 年)。
1 低炭素経済へ 地 球温暖 化は 刻一刻 と進 行して おり 、産業 構造 の転換 が求 められ て いる。エコ ノミーとエ コロジーは どちらも重 要であり、 企業は 積 極 的な姿勢で エコロジー 対策を行い つつある。 この背景と しては 、 地 球 温 暖 化 を 巡 る 世 界 的 な 議 論 の 高 ま り や CSR( Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)の社会的要請の高まり、消費者 の 環境意識の 高まりなど がある。企 業はもはや この潮流に 抗する こ と はできず、 発想を転換 して前向き に対応して いる。そし て、企 業 は 環境をビジ ネスシステ ムの原点と し、社会的 責任を拡大 すると と もに、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷低減を図っている。 こ こに低 炭素 経済の 胎動 が見ら れる 。製品 や技 術に対 する 環境に 配 慮した視点 が盛り込ま れ、企業は 同時に、グ リーン投資 を引き 上 げ ざるを得な くなった。 従来製品や 競合製品に 比べて優れ た製品 に 「 グリーンラ ベル」を付 けるなど、 相次いでグ リーンプロ ダクト に 力を入れるようになった。一方、言うまでもなく、企業は性能を徐々 に 向上させな がらも、価 格を下げる 努力も行っ ている。環 境対策 と 利 益向上は決 してトレー ドオフの関 係にあるわ けではなく 、両立 す ることも可能なのである。 日 本政府 と企 業の間 には 、低炭 素経 済の実 現に 向けて 次の ような コ ンセンサス がある。日 本の製造業 は世界経済 において確 固たる 地 位を構築してきたが、資源が乏しい日本は現在、21 世紀の切り札と な りうる環境 対応技術と いう新しい フロンティ アに投資し ており 、 今 後、環境に 基づいた技 術の裾野が 広がるであ ろう。エコ 社会時 代 に 光る環境・ エネルギー の技術は資 源小国日本 の強さとな りうる で あ ろう。省エ ネの推進や 再生可能エ ネルギーの 導入は環境 問題を 解 決 するだけで なく、持続 可能な社会 と企業発展 を実現して いくた め にも、避けては通れない課題である。
環 境・エ ネル ギーの 分野 にて、 日本 は世界 最高 水準の 技術 を保有 し ている。こ の分野は新 たな日本の 力となり、 国際的に主 導的な 役 割 を担うこと も可能とし 、その技術 はものを生 産するとい う目的 だ け ではなく、 自然環境を 保持し、子 孫によりよ い環境を残 すこと も 念 頭に置いて いる。発展 途上国は常 に経済発展 を優先し、 環境保 全 や 資源浪費の 問題に関し て先送りに しがちであ るが、環境 問題は グ ロ ーバルでか つ早急に対 処すべき問 題であり、 日本の技術 は環境 破 壊 に 歯 止 め を か け る と い う 意 味 か ら も 重 要 で あ り 、 日 本 は グ リ ー ン ・イノベー ションを中 心とした技 術開発に更 に磨きをか けるこ と により、地球環境という大きな課題の解決に貢献していくであろう。 2 温室効果ガス排出量 25%削減はチャンスであるのか 日本は本気で温暖化対策をチャンスとしてとらえ、挑戦している。 鳩山政権(2009 年 9 月~2010 年 6 月)は地球温暖化対策を産業の未 来として捉え、鳩山イニシアチブは20 世紀型成長の限界を突破する 新 産業革命を 起こし、ク リーンとグ リーンの大 市場を切り 開こう と し ていた。で は、この鳩 山イニシア チブは日本 にとってチ ャンス な のであろうか。 温 室効果 ガス の排出 削減 と関連 産業 の育成 は国 家発展 の戦 略であ り、企業の発展方向でもある。「ものづくり大国」である日本は、エ ネ ルギーの使 用効率が非 常に高く、 省資源・省 エネによる 生産技 術 も 非常に良い ものを持っ ている。そ のため、地 球温暖化対 策は日 本 の新たな成長戦略と位置づけることができる。 鳩山首相(当時)は 2009 年 9 月 22 日の国連一般演説において、 新しい日本政府は、温室効果ガスの削減目標として、1990 年比で言 えば2020 年までに 25%削減を目指すという非常に高い目標を掲げ、 途 上国に対し 国際交渉の 進展状況を 注視しなが ら、これま でと同 等
以上の資金的、技術的な支援を行う用意があることを述べた。また、 そ の前提とし て、すべて の主要国に よる公平か つ実効性の ある国 際 的枠 組みの構築 及び意欲的 な目標の合 意が不可欠 であると説 明した 。 こ の演説内容 は直ちに会 場の諸国代 表から喝采 を浴び、鳩 山首相 も 満 足の笑みを 見せた。日 米外相会談 においても 、気候変動 は喫緊 の 重 要な課題で あるとの考 えで一致し た。この鳩 山イニシア チブは 日 本 の外交政策 の一部を担 うにとどま らず、日本 のものづく りの将 来 の方向性を示すものでもあるといえる。 実 際には 、こ の国際 公約 はほと んど 科学的 な精 査もな いま まに発 表 されたため 、日本国内 では、その 可否をめぐ って活発な 議論が 交 わ された。確 かに、25%削減の合意づくりは容易ではなく、産業界 の 反発も強い 。反対派は 、これは乾 いた雑巾か ら水をもう 一度絞 り 取 るような難 問であると 批判してい る。しかも 、温室効果 ガス排 出 量 の世界第一 位は中国、 第二位は米 国であり、 両国とも積 極的な 姿 勢 を見せてい ない。中国 はもし積極 的な削減目 標を国際社 会に約 束 す るならば、 経済成長の 重すぎる足 枷になるで あろうと懸 念して い る。日本の排出量は僅かであるため、仮に1990 年比 25%削減を達成 したとしても、世界全体の排出量は僅かしか減少しないことになる。 一方、小宮山宏・東大前総長らは、温室効果ガス排出量 25%削減 は 日本のチャ ンスである と確信して いる。日本 の製造業の 歴史を 振 り返るならば、日本は 70 年代の二度の石油危機と 80 年代の円高の 克 服を経て、 世界のモデ ルとなる経 済大国とな った。日本 が温室 効 果ガスの25%削減という高いハードルを掲げることにより、国内外 の 結束を強め ることは、 日本のもの づくりにの 新たな成長 をもた ら す ことになる というわけ である。日 本主導の低 炭素社会の 実現は 世 界 にとっても 持続可能な 社会の構築 におけるモ デルとする ことが で きる。
また、25%削減という目標はすべての企業に 25%削減の義務が課 さ れると誤解 されがちで あるが、25%削減とは各分野における努力 を 総合した国 全体の目標 値である。 また、温室 効果ガスと いって も 数 種類あり、 その排出の 要因もさま ざまである 。その中で も、そ の 大半が化石燃料の燃焼により排出されるCO2の影響が最も大きい。 東 京大学 の福 士謙介 准教 授によ ると 、社会 全体 のサス テナ ビリテ ィ(Sustainability)は平和、生活の質、人間の成熟化によって維持さ れている4。日本における試行の後、その結果は東南アジアに応用す る ことができ る。25%削減に向けた炭素税の導入は一つの良い例で あ る。省エネ に関しては 、家庭内の エアコン、 冷蔵庫のエ ネルギ ー 消 費などにま だ削減の余 地があり、 これは白物 家電のビジ ネスチ ャ ン スに繋がる 。また、現 在、ガソリ ン車は急速 にエコカー へと転 換 し つつある。 既存の自動 車メーカー にとっては 、生産技術 が比較 的 に 高くなく、 参入障壁が 低い電気自 動車時代の 到来は憂慮 すべき 大 きな挑戦である。しかし、変化は基本的にチャンスであるといえる。 ま た、小 宮山 宏・東 大前 総長は 温室 効果ガ ス削 減に基 づく 成長戦 略を次のように述べている。「日本は成熟国家になり、人工物に対す る 欲求が飽和 しつつある 。車、テレ ビ、エアコ ンなどの耐 久消費 財 は すでに全国 世帯に普及 している。 道路や水道 などのイン フラも ほ ぼ 整備されつ つある。こ れが日本の 内需不足の 本質である 。その 代 わ りに、物的 需要は新規 需要から買 い替えや建 て替えへと シフト し つ つある。一 方、発展途 上国や新興 国では、こ うした耐久 消費財 に 対 する欲求度 が高いため 、多くの日 本企業がこ れらの外需 に向い て い る。しかし 、中国、イ ンドなどの 経済発展の 速度は現在 の先進 国 が 経験してい る速度より 速い。これ らの旺盛な 外需市場で も、い つ
4 2010 年 7 月 15 日、東京大学におけるインタビュー。
か人工物が飽和し、需要不足が顕在化するであろう」5。 さらに、日本のエネルギー消費の構造は「ものづくり」「日々のく ら し 」「 エ ネ ル ギ ー 転 換 」 の 三 つ に 分 け ら れ る6。 各 消 費 量 を 分 析 し た結果、輸送、家庭とオフィスを含む「日々のくらし」から CO2を 削減することが重視されている。また、「日々のくらし」の中の輸送 に 関しては、 自動車の役 割がよく議 論されてお り、ハイブ リッド 車 や 電気自動車 の導入によ る改善効果 が大きく見 込まれる。 また、 家 庭におけるエネルギー消費のうち、約30%が給湯、同じく約 30%が 冷暖房、約10%が照明、約 10%が冷蔵庫である。それらを合わせる と約80%となり、削減できる部分も大きい。その主な方法は買い替 え や建て替え である。つ まり、省エ ネ家電の購 入が「もの づくり 」 の 市場を創り 、雇用を創 出する。さ らに、省エ ネによる電 気代の 節 約 は家計の負 担を減らす ことができ 、また、買 い替え・建 て替え は 生 活の質の向 上につなが る。日本の 戦略は「も のづくり」 で良い も の をつくり、 これらのも のを活用し て「日々の くらし」の 中で無 駄 を削減していくことである7。 小 宮山氏 は自 宅で低 炭素 化を実 践し 、数値 化さ れた結 果に より、 そ の可能性を 証明した。 通称「小宮 山エコハウ ス」は建て 替えの 際 に 、高断熱に 特に重点を 置き、屋根 の上の太陽 電池、ヒー トポン プ 給 湯器、当時 最新型の省 エネタイプ のエアコン 、冷蔵庫の 買い替 え と ハイブリッ ド車への乗 り換えなど を導入する ことにより 、家庭 と 輸送でエネルギー消費量を 8 割以上減らす結果となった。これらの 投資費用は12 年で償還が可能であり、この「小宮山エコハウス」は
5 小宮山宏「課題先進国『日本』が果たすべき役割」『一橋ビジネスレビュー』58 巻 1 号、(2010 年 6 月)。 6 小宮山宏「課題先進国『日本』が果たすべき役割」、14 ページ。 7 注 5、前掲論文。
省 エネ、創エ ネと蓄エネ の組合せで 新たなエコ 産業の枠組 みづく り に素晴らしい視点を提供している。 さ らに、 小宮 山氏は 東京 大学総 長時 代に、 東京 大学が 単一 事業所 と し て は 東 京 都 内 で も 最 大 級 の CO2 発 生 源 と 言 わ れ て い た た め 、 「 行動する大 学」にチャ レンジした 。東京大学 は照明を交 換し、 窓 ガ ラスを複層 ガラスに替 えた。また 、二重の窓 のおかげで 、部屋 の 温 度が均一化 し、冬でも 窓際の人は 寒いと感じ なくなり、 言うま で も なく、結露 も騒音もな くなった。 結果として 、研究生活 の質が 上 がり、東京大学はオフィス効率化のモデルとなった。 小 宮山氏 は全 体とし て、 国家モ デル の転換 の必 要性を 主張 してい る 。つまり、 途上国モデ ルとは国が 主導して産 業を振興す ること に より、GDP が増加し、暮らしがよくなることである。一方、先進国 モ デ ル と は 暮 ら し を よ く し よ う と す る こ と に よ り 新 産 業 が 興 り 、 GDP が増えて、国が強くなるものである。「小宮山エコハウス」は「暮 らしをよくする」の具体例である。 ま た 、 東 京 大 学 の 金 子 祥 三 特 任 教 授 は 真 水 対 策 を 主 張 し て い る8。 つ まり、各国 は国益を追 求するため に、利己主 義をむき出 しにし た り 、権謀術数 を用いたり しており、 その中で、 日本は真水 対策で イ ノ ベーション を実現すべ きである、 という主張 である。真 水対策 と は、「海外との排出権取引などを行わない、国内のみで行う策」であ る 。この対策 は日本の産 業構造を変 革させる可 能性を秘め ている 。 し かし、日本 産業界の能 力を超えす ぎた規制は 、国内の生 産縮小 や 工場の海外移転に繋がりかねないという注意すべき点もある。
8 金子祥三「温室効果ガス削減ー真水対策で日本のイノベーション実現を」『一橋ビジ ネスレビュー』58 巻 1 号(東洋経済新報社、2010 年)、22-44 ページ。。
3 各政党の地球温暖化対策 2007 年 6 月 1 日、閣議は「自然共生の伝統と、先進的な環境・エ ネ ルギー技術 で『環境立 国』として の日本モデ ルを確立し 、世界 に 発信していく」という方向性を明示した「21 世紀環境立国戦略」を 議決し、日本国内に環境政策の方向性を打ち出した。 2007 年 10 月 1 日午後、福田首相(当時)は衆議院本会議で、就任 後初の所信表明演説を行い、「環境を考えた社会への転換」というサ ブタイトルを掲げ、以下のように述べた。 「地球環境問題への取り組みは待ったなしです。従来の、大量 生 産 、大量消費 を良しとす る社会から 決別し、つ くったもの を世代 を 超 えて長持ち させて大事 に使う『持 続可能社会 』へと舵を 切り替 え ていかなければなりません。住宅の寿命を延ばす『200 年住宅』に向 け た取り組み は、廃棄物 を減量し、 資源を節約 し、国民の 住宅に 対 す る負担を軽 減するとい う点で、持 続可能社会 の実現に向 けた具 体 的 な政策の第 一歩です。 地球環境に 優しく、国 民負担も軽 減でき る 暮らしへの転換という発想を、あらゆる部門で展開すべきです。」 地球温暖化対策については、2009 年版の民主党マニフェストにて、 以下のように明記している9。 42. 地球温暖化対策を強力に促進する 【政策目的】 ○ 国際社会と協調して地球温暖化に歯止めをかけ、次世代に良好 な環境を引き継ぐ。 ○ CO2等排出量について、2020 年までに 25%減(1990 年比)、
9 『民主党マニフェスト(2009 年版)』http://www.dpj.or.jp/policies/manifesto2009、21 ペ ージ。
2050 年までに 60%超減(同前)を目標とする。 【具体策】 ○ 『 ポ ス ト 京 都 』 の 温 暖 化 ガ ス 抑 制 の 国 際 的 枠 組 み に 米 国 ・ 中 国・インドなど主要排出国の参加を促し、主導的な環境外交を 展開する。 ○ キ ャ ッ プ & ト レ ー ド 方 式 に よ る 実 効 あ る 国 内 排 出 量 取 引 市 場 を創設する。 ○ 地球温暖化対策税の導入を検討する。その際、地方財政に配慮 しつつ、特定の産業に過度の負担とならないように留意した制 度設計を行う。 ○ 家電製品等の供給・販売に際して、CO2排出に関する情報を通 知するなど『CO2の見える化』を推進する。 自民党も2010 年版のマニフェストで地球温暖化対策を詳しく説明 している。その要点の一部は次の通りである。 ・ 緑の地球と豊かな自然を継承 ・ 温室効果ガス削減のための全く新しい国際的枠組みを提唱 ・ 温暖化ガス排出量を 20 年までに 05 年比で 15%削減 ・ 再生可能エネルギーを20%まで引き上げ ・ 原子力政策の推進 ・ エネルギーセキュリティ(安全保障)政策の実現 ・ 石油・石炭・天然ガス等基幹エネルギーの確保 ・ エコカー世界最速普及とモーダルシフト ・ エコハウス化の加速 ・ 国全体を低炭素化へ動かす仕組みの検討 ・ 環境ビジネスの推進 ・ 環境分野における新ターゲティング・ポリシーの展開
・ 低炭素社会を進める人づくりと環境教育の推進 2010 年 7 月の参議院議員選挙では、みんなの党が大躍進し、注目 さ れている。 マニフェス トとして「 経済成長戦 略で雇用を 増やす 」 を掲げ、日本版グリーン革命については次のように述べている。 「グリーン・グロース(『緑の成長』=環境制約による成長)を実 現 。風力、太 陽光、バイ オマスなど の再生可能 エネルギー の利用 促 進 、省エネ技 術への投資 、排出量取 引市場の創 設などによ り、日 本 の 温室効果ガ ス排出量の 削減目標の 達成をテコ とし『緑の 成長』 を 促進。特に電気自動車の開発に重点。」 4 エコポイント制度 日 本政府 は、 エコポ イン ト制度 で家 電、車 、住 宅三大 分野 を直接 支えている。経済産業省によると、家電エコポイント制度とは、「地 球 温暖化対策 、経済の活 性化及び地 上デジタル 対応テレビ の普及 を 図 るため、グ リーン家電 の購入によ り様々な商 品・サービ スと交 換 可能な家電エコポイントが取得できるもの」10である。 ま ず、家 電エ コポイ ント である が、 すでに 明ら かな成 果が 出てい る。電子情報技術産業協会(JEITA)が 2010 年 4 月 22 日発表した 2009 年度の薄型テレビ日本国内出荷台数は、前年度比 57.3%増の 1,588 万 7,000 台と、初めて 1,500 万台を超えた。デジタル家電全体 の出荷額も13.1%増の 3 兆 2468 億円と過去最高であった11。 次に、エコカー減税・補助金であるが、その趣旨とは、「環境性能
10 「家電エコポイント制度とは」経済産業省、http://eco-points.jp/whats/index.html。 11 『読売新聞』2010 年 4 月 22 日、http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100422- OYT1T01033.htm?from=main1。
の 改善が進ん できた最新 の車の需要 減、自動車 ユーザーの 保有期 間 の 長期化への 対応は、環 境対策の観 点から重要 。裾野の広 い自動 車 産 業の活性化 は、景気の 早期回復の ためにも不 可欠。環境 性能の 良 い 新車の購入 促進策によ り、環境対 策と景気対 策を効果的 に実現 す る」12というものであった。 村 沢義久 氏は 「燃や さな い文明 (電 気自動 車と 太陽光 発電 を中心 とした社会)論」という持論に基づき、「ビッグ・スリーからスモー ル・ハンドレッドの時代へ」13と自動車産業の将来について指摘して おり、電気自動車は「究極の車」になる可能性が高くなって い る14。 し たがっ て、 自動車 をゼ ロ・ベ ース で考え る必 要性が あり 、今ま で の延長線上 で考えてい ては、企業 が生き延び ることはで きない で あ ろう。自動 車産業もパ ソコン産業 と同じ運命 をたどるか もしれ な い 。実際、ハ イブリッド 車の次は電 気自動車の 時代になる であろ う と 考えられて おり、電気 自動車が自 動車産業に 革命を起こ す可能 性 は 高く、常識 を破る飛躍 的な進化も 考えられる 。その闘い はすで に 始 まっている のである。 電気自動車 の時代にな ると、既存 の自動 車 業 界だけがず っと自動車 産業を囲い 込める時代 ではなくな る。既 存 の メーカーで はない、例 えばモータ ーや電池を 得意とする 企業が 参
12 「 環境対 応車へ の買い 換え・ 購入に 対する 補助制 度につ いて」 経済産 業省 、 http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/kaikae.html。 13 東京大学特任教授である村沢義久が、2009 年 3 月、その著書『日本経済の勝ち方― 太陽エネルギー革命』(文藝春秋)などで、今後の自動車業界の見通しに関して使っ た表現。その意味するところは、ガソリン車と比較して構造が単純な電気自動車時 代になると、「ビッグスリー」に代表される既存の大手メーカーによる寡占状態が終 わり、「百社単位」のベンチャー企業或いは異業種からの新規参入企業が出てくる、 というもの。 14 村沢義久『電気自動車―「燃やさない文明」への大転換』(ちくまプリマー新書、2010 年)。
入 してくる可 能性があり 、新しい自 動車メーカ ーが誕生し 、古い 自 動車メーカーが淘汰される可能性もある15。例えば、京都大学の電気 自動車がすでに注目されている。また、中国政府は2009 年 3 月に「自 動 車産業調整 振興計画」 を公表し、 次世代自動 車導入計画 を進め て いる。 最 後に、 経済 産業省 によ る住宅 エコ ポイン トの 趣旨は 次の とおり である。「平成 21 年 12 月 8 日に、『明日の安心と成長のための緊急 経済対策』が閣議決定され、『住宅版エコポイント制度の創設』が盛 り込まれました。平成 21 年度第 2 次補正予算の成立を条件にして、 エ コリフォー ム又はエコ 住宅の新築 をされた方 は、様々な 商品・ サ ービスと交換可能なエコポイントを取得できることになりま す 」16。 5 太陽光発電 太 陽光発 電は 不況の 中で 次世代 の成 長事業 とし て注目 を集 めてい る。 太陽光発電 は無尽蔵な 太陽光を利 用し、CO2 の排出 を抑制 する ク リーンな発 電方式とし て日本政府 に推進され ている。政 府は太 陽 光 発電に補助 金制度を導 入し、また 余剰電力は 電力会社が 買取る 政 策によって、パネルを設置する家庭を増やそうとしている。 産 業界も 太陽 光発電 の市 場に力 を注 いでい る。 例えば 、シ ャープ は世界のソーラーカンパニーを目指し、“The sun is the answer.”とい うキャッチフレーズを打ち出した。京セラは「太陽光発電は京セラ」 と 掲げている 。それは経 済成長と環 境を両立さ せるビジネ スモデ ル である。
15 注 11、前掲資料。 16 「住宅エコポイントの概要について」経済産業省、http://www.meti.go.jp/topic/data/ houseecop2009.html。
し かし、 太陽 光発電 シス テム導 入に 関して は、 いくつ かの 矛盾点 が挙げられている。 福士謙介准教授は以下のように指摘している17。「日本政府が示し て いるように 、もし家庭 へのシステ ム導入にお いて投資し たコス ト を 回収できる というのが 事実である ならば、な ぜ電力会社 が自ら の 資金にて各家庭に設置しないのか」という点である。 ま た、早 稲田 大学の 細矢 淳客員 研究 員も太 陽光 発電導 入の 矛盾点 について以下のように説明している18。「まず、日本は寒く、太陽光 が 強くないた め発電量が 少ない。そ して、日本 の電力会社 では原 子 力 発電による 発電能力が 余っている ため、電力 会社はむし ろ電力 を 売 りたい状況 にある。そ の背景とし て、原子力 発電のコス トが低 い と いうこと、 そして原子 力による発 電は、安定 した運転ス ピード を 維 持しなけれ ばならず、 昼夜の使用 量(需要量 )によって 急に発 電 量 を 上 げ た り 下 げ た り す る こ と は で き な い と い う 現 状 が 挙 げ ら れ る」。 京 都大学 の若 林直樹 教授 は、太 陽光 発電に 関す る日本 の状 況とし て、「この太陽光発電の効率は高くないが、その関連産業の育成に繋 がっ ている、つ まり、CO2削減対 策を契 機にするこ とは大きな 産業 革命のチャンスである」と捉えている。 か つては 、太 陽光発 電は 日本の お家 芸であ り、 日本は 国策 として 技術開発をリードし、自ら市場を開拓してきた。太陽光発電は1990 年 代に生産量 で世界一の 地位を獲得 し、特にシ ャープは太 陽電池 生 産 の業績で世 界トップを 維持してい た。技術や 人材を厚く 蓄積し て き たため、容 易には海外 企業に追い 抜かれるこ とはないと 思われ て
17 2010 年 7 月 15 日、東京大学におけるインタビュー。 18 2010 年 7 月 24 日、東京高田馬場駅におけるインタビュー。
きた。しかし、残念ながら、2000 年代半ばから世界市場が急速に拡 大 しているに もかかわら ず、日本の シェアは後 退している 。世界 市 場 シェアにて トップの座 に君臨して いたシャー プもその座 から転 落 してしまった。2005 年度をもって日本政府が補助金を廃止して以来、 日 本がリード してきた太 陽光発電市 場が冷え込 み始めた。 まるで 日 本 の経験した 半導体や液 晶産業の二 の舞のよう である。こ れはま さ に「政策の失敗」であった19。 一 方、ド イツ が国策 によ り日本 を追 い抜き 、ま た、ド イツ の政策 を 学んだスペ インなど他 のヨーロッ パ諸国、そ して米国、 中国、 韓 国 、台湾とい った国々が 太陽光発電 市場の拡大 政策を図っ てきた 。 多 くの新興企 業は参入障 壁も比較的 低いターン キー方式、 つまり 、 代金を払えば、「カギを回す」だけで運転できる状態の工場設備の導 入 により急速 にこの事業 に参入する ことができ た。また、 新興企 業 は こうした方 法で量産ま での時間を 短縮し、市 場の変化に 素早く 対 応 したほか、 低性能で安 価な製品で 市場を奪っ た。これら の新興 企 業は太陽光発電版の「スモール・ハンドレッド」と呼ばれている。 こ の新興 国の 市場参 入ル ートは 台湾 の半導 体メ ーカー がフ ァンド リ ーのビジネ スモデルで 半導体産業 に参入した 例と類似し ている 。 当 時、日本側 はこのビジ ネスモデル に対して、 資金さえあ れば誰 で も 生産設備を 購入し、す ぐに生産で きると軽視 した。結果 として 、 台 湾の半導体 業界はこの ビジネスモ デルで世界 的な地位を 築き、 日 本も衝撃を受けた。 市 場開発 には 政府に よる 補助金 など の支援 策が 欠かせ ない 。日本 政 府はこのド イツショッ クを真剣に 受け止めて 反省し、補 助金復 活
19 一橋大学イノベーション研究センター編「グリーン・イノベーション」『一橋ビジネ スレビュー』SUM.58 巻 1 号(2010 年 6 月)。
な どの政策転 換によって 市場崩壊の 一歩手前で 太陽光発電 産業を 救 う こととなっ た。今後、 この市場が 飽和に近づ き、成熟期 に到達 す る と、利益ポ テンシャル の低い業界 になる可能 性が高い。 淘汰の 時 期 に入ると、 コスト競争 が主な競争 の土俵にな るであろう 。結局 、 太 陽光発電産 業もパソコ ン産業が衰 退したよう に、その運 命から 逃 れ られないか もしれない 。それ故、 日本の太陽 光発電産業 が持続 的 イ ノベーショ ンにより収 益を伸ばす ためには、 イノベーシ ョンを 偶 然 や運任せに してはなら ない。携帯 電話産業に おけるスマ ートフ ォ ン のように、 スマート太 陽光発電が ゲームの変 革者となる かもし れ ない。 前述の細矢研究員によると20、日本政府はユニクロが中国などの海 外 市場でいく ら利益をあ げるかより 、ソニーや 東芝の技術 開発力 の 向 上に対して 興味を持つ ようである 。日本はも のづくりが 好きで あ り 、常に日本 が技術先進 国というブ ランドで外 貨を稼ぐこ とを好 ん で きた。もし 太陽光発電 の世界シェ アが低下し たのであれ ば、技 術 力 のイメージ に傷をつけ る恐れがあ る。そのた め、日本政 府はエ コ 産 業を後押し し、技術力 の世界的地 位を維持す るためのブ ランド 戦 略 を立て、こ の技術的ブ ランド力で 外貨を稼い でいるので ある。 ま た 、山田尚史 ジェトロ貿 易開発部主 査もこの技 術力に関す る国家 政 策的ブランド戦略を認めている21。 以 上から 明ら かなよ うに 、日本 は国 際競争 力を 持ちう るよ うな太 陽 光発電の地 位を急速に 確立しよう という産業 構造変革の 国家政 策 を採用している。
20 2010 年 7 月 24 日、東京高田馬場駅におけるインタビュー。 21 同上。
三 日本版世界標準化の戦略
小 宮山前 東大 総長は 、日 本が「 課題 先進国 」で あると 主張 し続け て いる。日本 の産業発展 には、欧米 の製品やビ ジネスモデ ルを日 本 に 導入して、 それぞれ日 本流にアレ ンジし、再 度外国に輸 出して き た という経緯 がある。現 在、日本は キャッチア ップ型から フロン ト ラ ンナー型へ と変身した ため、欧米 から模倣で きることは 少なく な っ た。その代 わり、日本 は「課題先 進国」にな り、自ら解 決のモ デ ル を模索し、 それを海外 に移転しよ うとしてい る。キャッ チアッ プ 型 とは、世界 各国の既存 標準を日本 国内の産業 に取り入れ 比較し な が ら改善し、 日本にとっ て最大利益 を追求する ものである 。フロ ン ト ランナー型 とは、日本 の技術や規 格を世界各 国において 標準化 す ることである22。 なぜ日本は世界標準化に取り組むのか。そのメリットは市場拡大、 コ ストダウン 、そして将 来における 産業発展の 行方がある 。日本 政 府 は産業界の 意見をまと め、産業発 展の方向性 を示す。そ れは各 産 業 における競 争力を結合 し、力の分 散を防ぐた めである。 標準化 戦 略 はもはや単 なる互換性 や規格統一 のためでは なく、技術 発展の プ ラ ットフォー ムを決める ことである 。その標準 には、デフ ァクト 標 準 、デジュー ル標準とフ ォーラム標 準がある。 その中で、 各国の 政 府 が最も力を 入れている のはデジュ ール標準で ある。標準 化の形 成 に は、一社一 国の力では 足りない場 合も多いた め、他社や 他国と の 提 携関係づく りが成否を 決めるカギ となってく るが、企業 間の話 し 合 いによる排 他行為は独 占禁止法に 抵触する可 能性が高く 、また 、22 小宮山宏『「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ』(中央公 論新社、2007 年)。
官 民一体態勢 の構築に手 間取るなら ば、その交 渉力を弱め ること に なる(図1)23。 図 1 日本版世界標準化の戦略 (出典)著者作成。 東京財団によると、日本はデジュール標準における 4 つの課題に
23 世界標準の競争戦略については「『世界標準』が変える競争」『一橋ビジネスレビュ ー』2009 年 WIN.57 巻 3 号を参照のこと。
直面している24。 ・ 日本はそもそも標準化すべき技術項目について企業間の合意 を促す機会(場)が十分でないこと。 ・ 企業間の合意形成をもとに標準化案を作成していく仕組みが 十分でないこと。 ・ 日本は EU のようなに国際標準化に先駆けて域内標準を進め ることのできるテリトリー(経済域)を持っていないこと。 ・ 国際標準機関での標準化のプロセス、及び投票において日本 のパートナーとなってくれる仲間が少ないこと。 で は、何 を標 準化す るの か。太 陽光 発電、 リチ ウムイ オン 電池、 次 世代自動車 、スマート グリッド( 次世代送電 網)などの 環境・ エ ネ ルギー技術 の普及が世 界的に進む 中、その技 術の世界標 準化、 特 に ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)等でのデジュ ール標準の規格化の動きが活発化している。しかし、良い技術≠標準 化 という図式 の現実があ る。どんな に高い技術 を持ってい ても標 準 化 できなけれ ば国際競争 で不利にさ らされ、逆 に、たとえ 技術レ ベ ル が低くても 標準化さえ できれば、 国際競争に て有利とな る。そ の た め、各国は 自国に有利 な形で世界 標準化を構 築し、自国 の技術 と 製 品を普及さ せようと動 いており、 これは、技 術力を売り 物にし て いる日本にとっては油断できない事態となっている25。 残 念なが ら、 国際ル ール づくり にお ける日 本の 発言力 は弱 く、ガ ラ パゴス化が 見られる現 状はルール づくりの弱 さの結果で ある。 日 本 では、国内 予選に勝ち 抜けば世界 でメダルを 取れるとい う発想 が
24 注 3、前掲書、10 ページ。 25 2010 年 7 月 22 日、東京財団における平沼光研究員へのインタビューによる。
ま だ残ってお り、国内で 標準化を実 行すれば、 海外でも通 用する と 思 い込んでし まう傾向に ある。ガラ パゴス化の 問題が示し ている よ う に、この考 え方はすで に通用しな い。これか らは最初か ら世界 標 準 化を念頭に 戦略を策定 しなければ 規格の標準 化競争で負 けてし ま うのである。 日 本はも のづ くり大 国と いう国 家戦 略を策 定し 、一所 懸命 世界に ア ピールして いる。経済 産業省は毎 年『ものづ くり白書( 製造基 盤 白 書)』にて 日本の製造 業における 政策を示し ており、そ の内容 は ま た、日本の 製造業を高 度化し、弱 まっている 地方産業へ の処方 箋 で もある。も のづくり大 国の政策は 民主党も自 民党も示し ている コ ン センサスで ある。各政 党のマニフ ェストにて も取り上げ られて い る ため、どの 政党が政権 を握っても その方向性 が変わるこ とはな い と 考えられる 。米国発の 世界金融危 機の中で、 実体経済を 伴わな い マネーゲームより、ものづくりの重要性が再確認されている。 与謝野馨前特命担当大臣は「日本が目指すべきはものづくり大国」 であると述べた26。藤本隆宏東京大学教授も「ものづくりは製造業を 超えた生産思想」であると指摘している27。 日本は温室効果ガスの排出問題も、「ものづくり技術」によって解 決できると主張している。これは、日本が属する東アジアで、環境・ エ ネルギー分 野の優れた 技術を持っ ているとい う自らの優 位性を 発 揮 する絶好の チャンスで ある。その チャンスを 活用するた めには 、 日 本政府は民 間企業とと もに、新た な資源・エ ネルギー外 交戦略 を 構 築する必要 性がある。 日本は国際 的な協力関 係によって 、技術 の 世 界標準化と 国際普及を 図っている が、当然、 世界各国も 自国の 経
26 2008 年 7 月 16 日、東京財団におけるインタビューによる。 27 2008 年 8 月 6 日、筆者インタビューによる。
済 発展を促進 する流れに おいて、こ れらの分野 への投資と 産業育 成 に より、自国 の技術を他 国に先駆け 一早く世界 標準化し、 国際市 場 への展開を有利に進めようとしている28。 ヨ ーロッ パと 米国が 自ら の政治 力で 、将来 、環 境・エ ネル ギー技 術 の市場とな る中国市場 などとの関 係を強化し ようとする 一方、 中 国 はその市場 力でヨーロ ッパや米国 に対する発 言力を強め ており 、 同 時に、自国 発案の技術 を世界標準 化しようと いう動きも 見せ始 め て いる。世界 標準化競争 において優 位に立つに は、技術の 普及先 と なる 市場力を備 えた国をど れだけ自国 側に取り込 むかがカギ となり 、 ASEAN 諸国も中国のように将来、大きな市場となると予測されてい る。日本はその中で、例えば、東京都の関係者が2010 年 8 月、マレ ー シアにて東 京水道の技 術とノウハ ウをアピー ルし、新た なニー ズ を 掘り起こそ うとするな ど、優れた 技術力を活 用し、将来 大きな 市 場 となる東ア ジア諸国に おいて、技 術供与や共 同開発を進 め、日 本 と 東アジアと の技術的連 携を強化す ることで世 界標準化を 一緒に 進 めようとしている29。一方、東アジア諸国では日本の環境・エネルギ ー 技術に対す る期待が高 まっている が、コスト が高いため 、なか な か手に届かないという状況にある。 日 本の技 術力 の現状 とし ては、 太陽 光発電 、電 気自動 車な どの分 野 において国 際的な競争 力を有して いるが、そ の高い技術 力を維 持 す るためには 、技術を製 品化するた めに必要な レアメタル 資源の 確 保 、技術の国 際普及化・ 世界標準化 、外資によ る日本企業 の技術 狩 り への対処だ けではなく 、外交的な 課題への対 処が必要と なって い
28 注 3、前掲書、5~14 ページ。 29 同上。
る30。 2010 年 7 月の参議院議員選挙の自民党マニフェストでは、戦略的 世界標準の獲得に関する政策を次のように記載している。 「 わが国 産業 が国際 市場 で有利 に戦 うため には 、工業 製品 におけ る『国際標準』の獲得が重要であり、『どの分野の工業製品』が『ど の ような標準 』を求めて いるのかの 的確な情報 収集を行わ なくて は な りません。 そのため、 政府が率先 して、こう した情報収 集に努 め る と同時に、 その情報を 企業にも伝 え、政府と 産業がタッ グを組 ん で 国際標準の 獲得に積極 的に取り組 む体制を整 備します。 特に、 成 長 著しいアジ アをターゲ ットとした 技術支援を 通じ、例え ば、ア ジ ア 標準を世界 標準とする ような『戦 略的標準獲 得』にも果 敢に取 り 組みます31」。 東 アジア の経 済成長 と所 得倍増 は日 本の成 長機 会を拡 大し 、日本 が 環境・エネ ルギーの課 題を克服す ることで、 その過程と 成果か ら 得 られたソリ ューション を通して東 アジア、ひ いては世界 に大き な 影 響を与える ことができ る。急速な 経済成長を 遂げ、環境 分野へ の ニ ーズが高ま っている中 国は無視す ることがで きない。近 年、日 中 関 係は戦略的 互恵関係を キーワード に、新たな 共存共栄の モデル を 模 索し続けて いる。酸性 雨、砂塵嵐 などの越境 汚染問題の 解決は 両 国 の国益に合 致しており 、環境分野 は日中が戦 略的互恵関 係を構 築 し やすい分野 であるとい える。その ため、日本 は中国との 環境共 生
30 注 3、前掲書。例えば、財団法人交流協会と台日商務交流協進会は、従来から貿易・ 経済のみならず技術交流の促進を図っており、2011 年 3 月 7 日に台北国際会議中心 で「日本における電気自動車(EV)の開発状況とスマートコミュニティ戦略」の産 学連携セミナーを開催した。 31 自民党『マニフェスト(2010 年版)』http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/j_file2010. pdf、4 ページ。
に 向けて、各 課題に対す る検証・改 善を行いつ つ、新たな 戦略的 展 開を考えている。
四 むすび
日 本は世 界的 にリー ドし ている 低炭 素産業 革命 で世界 を席 捲する と いう経済復 活の夢を実 現しようと している。 しかも、日 本国内 で は 、すでにグ リーン版構 造改革が進 行されてい る。大自然 のあり が た さを感じる 人が増えて おり、資源 を消費する ビジネスモ デルか ら 自 然 を 尊 重 す る ビ ジ ネ ス モ デ ル へ の 転 換 が 進 ん で い る 。 日 本 の 環 境・エネルギーの技術は日本のみならず、全世界の共通資産である。 環 境重視のも のづくりは 日本経済の 未来にとど まらず、東 アジア の 繁 栄と汚染問 題の改善に 効果的なリ ーダーシッ プを果たす 切り札 と なるであろう。 日 本は技 術立 国を誇 りと し、世 界に 新しい 価値 を提供 し続 け、各 企 業は成長を 遂げてきた 。現在、世 界は環境問 題に限らず 人口動 態 の変化や新興国の急速な都市化により、多くの課題に直面している。 発 想を変える ならば、こ の変化には 膨大な需要 が潜在して いる可 能 性 がある。技 術力を持っ ている日本 企業にとっ ては、大き なチャ ン ス である。こ の世界市場 では、スピ ード、コス ト、開発力 が問わ れ て おり、東ア ジア諸国の 産業構造の 高度化には 、日本技術 の導入 は 欠 かせない。 特に、日本 の環境技術 は東アジア 諸国が喉か ら手が 出 る ほど手に入 れたいと望 んでいるも のである。 東アジア諸 国の長 所 は 低コストで あり、双方 がその補完 関係を活か すことによ り、日 本 に産業空洞化をもたらすことなく、win-win の成果を遂げることがで きるであろう。 し かし、 市場 の需要 がな いまま 、社 会貢献 のた めだけ に行 うので あ れば、どこ かで負担や 無理が生じ てくる。し たがって、 いかに 利益 を確保でき るビジネス モデルを創 りうるかが 重要となり 、日本 政 府 は日本企業 の技術力を 国際的な競 争力の向上 に繫げるために、 企 業を支援し、二人三脚の官民協力関係にて進めて行こうとしている。 最 後に、 国内 技術を 世界 にオー プン 化する こと により 市場 形成・ 拡 大とコスト ダウン効果 を狙うこと も考えられ るが、世界 標準化 に よ り技術の海 外流出のリ スクが生じ ることも考 えられる。 このよ う な 中、日本は 環境・エネ ルギー技術 の世界標準 化をどのよ うに構 築 し 、どのよう に公開し、 その結果と してどのよ うに市場を 獲得し て いくかを綿密に計画することが問われている。 (寄稿:2010 年 11 月 29 日、採用 2011 年 8 月 26 日)
日本版綠色革命之構築
蔡 錫 勲
(淡江大學亞洲研究所日本組副教授)【摘要】
日 本的產 業發 展,從 戰後 主要包 括煙 囪工業 的造 船和鋼 鐵業 等「重 厚長大」產業,1980 年代起變遷為家電等的「輕薄短小」產業,現在 迎 接著重視環 境的「輕薄 炭省」新時 代。雖然日 本擁有先進 的環境 與 能 源技術,是 否能藉此獲 得戰略性的 世界標準呢 ?況且,獲 得世界 標 準並不代表就能取得世界市場。 結論是,綠色革命意味著 20 世紀形式文明的停頓和以石油為中心的 經 濟發展之界 限。日本的 環境與能源 技術是日本 和全世界共 同資產 。 經 濟發展和環 境污染絕對 不是二選一 的取捨關係 。如果日本 能夠證 明 從保護環境中獲得利益的話,發展中國家將會快速地追趕。 關鍵字:輕薄炭省、溫室效應、鳩山倡議、太陽能發電、世界標準The Construction of Japanese Green
Revolution
Hsi-Hsun Tsai
Graduate Institute of Asian Studies, Tamkang University, Associate Professor
【
Abstract】
In the 1980s, postwar Japanese industries comprised of mainly smokestack industries, such as shipbuilding, iron and steel industries, were replaced by “light-thin-short-small” industries, such as consumer electronics. Now, Japanese industries have entered a new “light-thin and CO2-saving” era in which protection
of the environment is prioritized. Having more advanced environmental and energy technologies, can Japan take this advantage to meet the requirements of strategic global standards and further dominate the market ?
The conclusion is: the green revolution implies a standstill of civilizations of the 20th century as well as the limits in the oil-centered economic development.
Japan’s environmental and energy technologies are common assets of all nations around the world. Economic development and environmental pollution are undoubtedly not in an “either-or” trade-off relation. If Japan can prove that profits can be created from environmental protection, developing countries will quickly catch up.
Keywords: Light-thin and CO2-saving, Greenhouse effect, Hatoyama initiative,
〈参考文献〉 「家電エコポイント制度とは」経済産業省、http://eco-points.jp/whats/index.html。 「 環 境 対 応 車 へ の 買 い 換 え ・ 購 入 に 対 す る 補 助 制 度 に つ い て 」 経 済 産 業 省 、 http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/kaikae.html。 「 住 宅 エ コ ポ イ ン ト の 概 要 に つ い て 」 経 済 産 業 省 、http://www.meti.go.jp/topic/data/ houseecop2009.html。 「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ~」閣議決定、2010 年 6 月 18 日、15~17、 38~39 ページ、http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf。 『読売新聞』2010 年 4 月 22 日、http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100422-OYT1T 01033.htm?from=main1。 飯田哲也・田中優・筒井信隆・吉田文和『日本版グリーン革命で経済・雇用を立て直す』 (洋泉社、2009 年)。 経済産業省・厚生労働省・文部科学省編『ものづくり白書』(経済産業調査会、各年版)。 小宮山宏「課題先進国『日本』が果たすべき役割」『一橋ビジネスレビュー』58 巻 1 号、 (2010 年 6 月)。 ______『「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ』(中央公論新社、 2007 年)。 自民党『マニフェスト(2010 年版)』http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/j_file2010.pdf。 寺島実郎・飯田哲也・NHK 取材班『グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を 救えるか』(NHK 出版、2009 年)。 東京財団『日本の資源・エネルギー外交の優先課題Ⅱ―環境・エネルギー技術をツール とした東アジア戦略への2 つの提言』(東京財団、2010 年)。 村沢義久『日本経済の勝ち方―太陽エネルギー革命』(文藝春秋、2009 年)。 ______『電気自動車―『燃やさない文明』への大転換』(ちくまプリマー新書、2010 年)。 一橋大学イノベーション研究センター編「グリーン・イノベーション」『一橋ビジネス レビュー』SUM.58 巻 1 号(2010 年 6 月)。 ______「『世界標準』が変える競争」『一橋ビジネスレビュー』2009 年 WIN.57 巻 3 号 (2009 年 12 月)。 民主党『マニフェスト(2010 年版)』http://www.dpj.or.jp/policies/manifesto2010。 ______『マニフェスト(2009 年版)』http://www.dpj.or.jp/policies/manifesto2009。 みんなの党『選挙公約(2010 年)』http://www.your-party.jp/policy/manifest.html。