2012 年台湾総統選分析
張 傳 賢
(台湾・中央研究院政治学研究所助研究員)湯 晏 甄
(台湾・台湾大学政治学科博士課程)【要約】
台湾では 2012 年 1 月 14 日、総統選挙と立法委員選挙の同日選挙が 初めて行われた。今回の総統選は大接戦となり、国民党は現職の馬英 九総統政権に対する満足度が大幅に下がるという危機に加え、体勢立 て直しで臨む民進党の高まる勢力に立ち向わねばならなかった。また、 親民党などとのいわゆる「泛藍(青)」勢力の統合にも失敗し、選挙 情勢を 乱す ように 立候 補した 親民 党の宋 楚瑜 主席が キャ スティ ング ボートを握ることとなった。各候補者が選挙戦で激しい戦いを交わし つつ、たびたびネガティブ・キャンペーンや政策での対決が繰り広げ られた。国民党と民進党の今回の戦いにおいて、最も際立った政策の 違いは両岸に関する部分である。国民党は「92 年コンセンサス」が両 岸の和 平の 発展の 維持 および 企業 が安心 して 成長で きる 唯一の 条件 であると強調した。一方、民進党は「92 年コンセンサス」を否定する とともに、「台湾コンセンサス」を提示し、民主的な手続きで国内の 共通認識を達成したいと呼び掛けた。両党が両岸問題で繰り広げた熾 烈な攻防によって、台湾の多くの大手企業家が「92 年コンセンサス」 の支持を表明するに及んだ。最終的に、馬英九総統が民進党の蔡英文 主席を破り再選を果たし、選挙結果はあらためて台湾における「青陣 営」と「緑陣営」の勢力図を示すこととなった。 キーワード:2012 年選挙、同日選挙、双首長制、政治勢力図一 はじめに
2012 年の中華民国第 13 代総統選挙は 1 月 14 日に行われた。今回 の 選挙には注 目すべき点 がいくつか 挙げられる 。まず、今 回の総 統 選は第 8 回立法委員選挙と同時に行われ、台湾の民主化以降で初め て の総統選と 立法委員の 同日選挙と なった。次 に、前回の 総統選 で 惨 敗を喫した 挫折から民 主進歩党( 以下、民進 党)を率い て同党 を 立 ち上がらせ た蔡英文主 席は、世論 調査での満 足度が日増 しに低 下 す る 馬 英 九 総 統 の 再 選 に と っ て 大 き な 壁 と な っ た 。 第 三 に 、「 泛 藍 ( 青)」勢力 の統合に失 敗するとい う状況のも と、親民党 の宋楚 瑜 主席の参戦が 2000 年の総統選を再現するかのように、中国国民党(以 下 、国民党) が再び政権 を失う要素 となるかど うかがあっ た。第 四 に 、今回の選 挙において 鍵となる論 点は何かで ある。最後 に、馬 総 統が再選を果たし勝利を収めたが、得票率はこれまでの青陣営 55%、 緑陣営 45%という基本的な支持率とほぼ変わらなかったことをどう 理 解するかで ある。本論 は今回の総 統選につい て、選挙戦 の過程 を 順に追いつつ、青陣営・緑陣営の台湾政治の勢力図を検討・分析し、 選挙の全貌を読み解くものである。二 総統と立法委員の同日選挙
総統選と立法委員を同日選挙とする提案のきっかけは、2010 年の 5 直轄市長選挙の結果にさかのぼる。国民党が 5 大都市部で民進党に 総得票数で 40 万票少なかったことから、青陣営と緑陣営の勢力図に 変 化がもたら されたほか 、国民党内 部からも総 統選と立法 委員選 を 同日選挙とすべきとの提言が出された1。この議論は与野党間で総統1 單厚之・鄭閔聲「藍營建議:總統立委選戰二合一」『中國時報』2010 年 11 月 29 日、
選 に向けた最 初の攻防戦 を引き起こ し、両党内 部や学術界 でも討 論 が行われた。「コートテール現象(coattail effect)」説に基けば、総統 選 と議会選が 同時に行わ れると、総 統選の有力 候補が所属 政党の 議 員候補の勢力を盛り立てることがしばしばある2。そこで、野党の民 進 党は、同日 選挙によっ て国民党に 有利な選挙 情勢になる のでは な いかと懸念した3。ただ、国民党の内部ですら南部と北部の立法委員 で は同日選挙 に対する意 見が分かれ た。南部の 国民党委員 の大多 数 は 、中部から 南部の選挙 区で苦戦が 予想される と考え、同 日選挙 で は総統・立法委員とも厳しい戦いになるとの見方を示した4。世論の 期待や民進党内部でも特に表立った反対がなかったことを受け5、中 央選挙委員会はついに 2011 年 4 月 19 日、総統選と立法委員選を同 日選挙とすることを正式に決定した。 社 会の世 論や 政党の 合意 のもと 、同 日選挙 は憲 法や現 行の 選挙法 の 改正も必要 なく中央選 挙委員会で 承認された ものの、こ の決定 が 及 ぼす影響に ついては依 然として重 視すべきも のがある。 まずは 立 憲政治の体制面からみた場合、同日選挙を実施すると、第 13 代総統 は、従来の 3 月 20 日前後から約 2 ヶ月繰り上げた日程で選出される が、就任は 5 月 20 日になってからのこととなる。このとき、馬総統
第 A2 版。 2
Calvert, Randall and John Ferejohn, “Coattail Voting in Recent Presidential Elections,”
American Political Science Review, Vol. 77, No. 2 (June 1983), p.407.
3 朱真楷「併選。綠:禍福相倚」『中國時報』2011 年 3 月 1 日。 4 王正寧「總統立委朝併選方向規畫。藍營高層已有初步共識、併選不需修法、交由中 選會決定、藍委北部支持南部反對」『中國時報』2011 年 3 月 1 日。 5 管婺媛「《政治長短調》中選會民調:逾半贊成併選」『中國時報』2011 年 4 月 6 日; 朱真楷・仇佩芬「總統立委併選、民進黨不反對、但強調制度化與配套、不能有政治 算計、且憲政空窗期過長問題、須立法謹慎因應。國民黨籲勿再搞陰謀論。」『中國時 報』2011 年 3 月 7 日、第 A4 版。
が再選されなかった場合、憲政面で 4 カ月もの間にわたる権力の空 転 期が出現し てしまう。 制度が完全 に整備され ないもと、 かよう に 長 い政権移行 期間は、政 策や行政、 政令、各建 設プロジェ クトの 推 進 や引き継ぎ において、 大きな問題 を引き起こ す可能性が ある。 馬 総 統が再選を 果たしたと しても、同 日選挙が台 湾の立憲政 治体制 に 与 えうる衝撃 を軽視する ことはでき ない。現行 の憲法は、 総統は 国 家 の元首であ り、行政院 長は各省庁 の長を率い て行政を行 うとと も に 国会に対す る責任を負 うという特 殊な「双首 長制」であ ると規 定 し ている。総 統選と立法 委員選が同 日選挙とな れば、総統 が国会 の 多 数勢力を獲 得するとと もに、行政 院長や閣僚 の任命にか こつけ て 実 際の政治権 力を握りな がらも、行 政の成果に ついて国会 に対す る 責 任を負う必 要がないた め、立憲政 治の上で問 題となる可 能性も あ る 。第三に、 同日選挙は 有権者にと ってもこれ までにない 経験で あ る 。有権者は 投票の際、 総統を選ぶ 票と、小選 挙区制の立 法委員 を 選 ぶ票、比例 代表の政党 を選ぶ票を 同時に受け 取る。この 場合、 各 レ ベルの候補 者に対して 、有権者は どのように 判断を下せ ばいい の であろうか。最後に、総統選の平均投票率(76.33%)は往々にして 立法委員選挙の投票率(59.16%)を上回るため、同日選挙の実施で 総統選に引っ張られる形でもたらされる 2 割近くの票が、立法委員 選挙情勢の不確定性を拡大することは確実である。
三 馬英九に対する信頼の危機と蔡英文率いる民進党
の再起
国 民党と 民進 党の支 持率 の増減 は互 いに打 ち消 しあう 形で 連動し ているため、今回の総統選も極めて激しい選挙戦となった。2008 年 の 総統選で民 進党を破り 政権奪回し た現職の馬 総統が国民 党の候 補 者 となった。 民進党は蔡 英文主席( 当時)と、 蘇貞昌元行 政院長 、許信良元主席の 3 人について党内予備選の世論調査を行い、蔡英文 主席が 42.50%の支持率で第 13 代総統選における民進党公認の候補 者 に決まった 。単純に前 回の総統選 の結果から みると、青 陣営と 緑 陣営の間には 220 万票余りの大きな差が開いており、これを埋める ことは難しいとみられた。陳水扁前総統の国務機密費の不正流用や、 海 外口座を使 った資金洗 浄(マネー ロンダリン グ)、汚職 などが 民 進 党の評判を より落とす 結果につな がっていた 。聯合報系 の世論 調 査センターが 2008 年 8 月 27 日に発表した調査結果によると、民進 党の業績に満足と表明したのはわずか 11%にとどまった。しかし、 馬総統が政権に就いてからの支持も、日を追うごとに低下していた。 一方で蔡英文が 2008 年 5 月に民進党の主席を引き継いでからという も の、同党は 選挙ごとに 勝利を重ね るようにな り、青陣営 と緑陣 営 の 差が縮まっ ていったこ とが背景に あり、今回 の総統選の ゆくえ は 極めて注目を集めるものとなった。 図 1 は「遠見」が実施した調査による 2008 年 3 月の当選以後の馬 総 統に対する 国民の満足 度の推移を 示したもの である。満 足度は 就 任直後は 6 割近くに達し、不満を表明した国民はわずか 1 割前後で あった。しかし、就任 1 カ月後で満足と不満が逆転し、満足度が 4 割を切るほど急激に落ち込んだ一方で、不満は 5 割近くに跳ね上が っ た。また経 済を取り巻 く環境もま すます悪化 していった 。世界 金 融危機によって 2008 年の第 3 四半期と第 4 四半期の経済成長率は、 それぞれマイナス 0.8%、マイナス 8.36%に落ち込み、株式市場にお ける加権指数も就任当日の 9,310 ポイントから 3,955 ポイントに下落 した。経済の後退に伴い、2008 年 10 月の満足度は 23%にまで低下 し た。経済面 で人々が失 望するよう な業績であ ったほか、 自然災 害 に対 する危機の 処理も不適 切だったと して広く人 々の怒りを 買った 。 2009 年 8 月 8 日には台風 8 号(アジア名:モーラコット)が台湾南
部で大きな水害をもたらし、少なくとも 673 人が死亡、26 人が行方 不 明となった 。特に高雄 県甲仙郷( 当時)の小 林村の被害 は最も 深 刻 で、土石流 で数百人が 生き埋めと なった。こ の台湾の気 象観測 史 上 で 最 も 悲 惨 な 自 然 災 害 は 、 馬 政 権 の 満 足 度 を 就 任 以 来 の 最 低 (22.3%)にまで引き下げた。今回の 2 期目の立候補に当たり馬英九 は、2008 年に掲げた「633 公約」の経済政策が 1 期目の任期 4 年間 で は 実 現 で き な い こ と を 認 め た6。 失 業 率 と 物 価 が 同 時 に 上 昇 し 、 2011 年の「悲惨指数(Misery Index)」が過去 27 年での最高値(7.2) を 記録、さら に馬政権に 不満を持つ 人の比率が 高止まりす ること と なった。 図 1 馬英九政権に対する満足度(2008 年 4 月~2011 年 6 月) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 Ap r-0 8 Ju n-0 8 Au g-0 8 Oc t-0 8 De c-0 8 Fe b-0 9 Ap r-0 9 Ju n-0 9 Au g-0 9 Oc t-0 9 De c-0 9 Fe b-1 0 Ap r-1 0 Ju n-1 0 Au g-1 0 Oc t-1 0 De c-1 0 Fe b-1 1 Ap r-1 1 Ju n-1 1 滿意 不滿意 (出典)遠見民調社會經濟調查研究中心、 http://www.gvsrc.net.tw/dispPageBox/GVSRCCP.aspx?ddsPageID=POLITICS&。
6 「633 公約」の 633 とは経済成長率 6%、1 人当たりの国民所得 3 万米ドル、失業率 3%以下を指す。
現 職の総 統に 対する 満足 度は人 々に よる政 策へ の肯定 と政 局の安 定を表す重要な指標であり7、さらには政権の座にある間に行われる 選 挙と、再選 を目指す際 の得票率に も影響を及 ぼす。国民 の馬政 権 に対する信頼の危機は、国民党にとって次なる選挙、特に第 7 回立 法 委員補欠選 挙における 同党公認の 候補者の得 票に作用す るもの で ある8。2008 年の第 7 回立法委員選挙を振り返ると、国民党の勢いは 向かうところ敵なしの様相を見せ、国会で 4 分の 3 の議席数を獲得 した。しかしながら、2009~2011 年にかけ行われた計 7 回の 13 議席 を争う立法委員の補欠選挙9の結果は、2008 年の第 7 回立法委員選挙 とかけ離れたものになった。国民党は 8 議席を失い、わずか 3 議席 を守るにとどまり、国会での議席数は 81 議席から 73 議席に減少し た 。一方、民 進党は蔡英 文のリーダ ーシップの もと徐々に 敗北の 暗 闇から立ち上がっていった。まずは 2009 年 9 月、雲林県の選挙区に お ける立法委 員補欠選挙 で、蔡英文 の主席就任 後初の勝利 を飾り 、
7 Crespi, Irving, “The Case of Presidential Popularity,” in Albert H. Cantril. ed., Polling on the Issues (Washington D.C.: Seven Locks Press, 1980), p.40; Mueller, John E., “Presidential
Popularity from Truman to Johnson,” American Political Science Review, vol. 64, No. 1 (March 1970), p.18; Stimson, James A., “Public Support for American Presidents: A Cycle Model,” Public Opinion Quarterly, Vol. 40, No. 1 (Spring 1976), p.2.
8 中評社「馬英九的滿意度信任度每況愈下」『兩岸網』2010 年 1 月 21 日、http://tw.news. chinayes.com/Content/20100121/KC6XJGX22BEGO.shtml; 王 宗 銘「看 問題 /金 小刀談 「因」、回身一刀遙指馬英九?」『今日新聞網』2010 年 1 月 10 日、http://www.nownews. com/2010/01/10/91-2556496.htm;楊照「馬英九推倒了國民黨的骨牌」『中時電子報』2010 年 1 月 13 日、http://mag.chinatimes.com/mag-cnt.aspx?artid=2818。 9 補欠選挙が行われたのは、立法委員が県市長に当選した、または閣僚となったため に辞職した(南投県の呉敦義、台南市の頼清徳、嘉義県の張花冠、新竹県の邱鏡淳、 桃園県の呉志揚、台東県の黄健庭、花蓮県の傅崐萁、高雄県の陳啓昱)、二重国籍の 発覚で立法委員の身分を喪失した(台北市の李慶安)、選挙時の贈賄により当選無効 となった(苗栗県の李乙廷、雲林県の張碩文、桃園県の廖正井、台中県の江連福) ことが理由である。
支 持 率 も 選 挙 で 負 け を 喫 し た と き を 底 に 、 23.1%にまで上昇した10。 2009 年 12 月 5 日の県市長選挙では、金融危機や県市合併、司法改革、 「八八水災(同年の台風 8 号による水害)」、および米国産骨付き 牛 肉の輸入解 禁といった 事件が、人 々の現政権 に対する怒 りを買 っ たため、民進党は議席の上でわずかに宜蘭県で 1 議席を取り戻した にとどまったが、得票率では国民党を 2.6%上回った。続いて 2010 年の初頭に行われた二度の立法委員補欠選挙では、民進党は一挙に 7 議席中 6 議席を獲得し、立法院での議席数を 34 議席に伸ばした。2010 年 末の五直轄 市選挙では 、それぞれ 台北市と新 北市で立候 補した 蘇 貞 昌と蔡英文 の当選は果 たせなかっ たが、頼清 徳と陳菊が 台南市 と 高雄市で 30 万票近くの大差をつけて勝利した。就任して 9 年の強み を 武器に再選 した台中市 の胡志強市 長ですら、 民進党公認 の蘇嘉 全 にわずか 3 万票の差しかつけることができなかった。中でも、総統 選と立法委員選の前哨戦とみられた 2011 年の 2 議席を争う立法委員 補欠選挙において、民進党は全勝を果たした上、相手に 30%近くの 差 をつけた。 これら一連 の勝利の積 み重ねは、 蔡英文にと っては 党 内 の地位固め につながっ たと同時に 、総統候補 に名乗りを 上げた 党 内 の蘇貞昌ら を破ること につながっ た。さらに 民進党に今 後の挑 戦 に 立ち向かう 自信を持た せ、徐々に 世論調査で も国民党と の距離 を 縮め11、馬総統の再選にも直接の脅威となったのであった12。
10 遠見民調社會經濟調查研究中心「台灣民心指數調查」2009 年 12 月、http://www.gvsrc. net.tw/dispPageBox/GvsrcHP.aspx?ddsPageID=GVSRCCHT。 11 王正寧「民調拉近 藍:虛心參考 綠:符合趨勢」『中國時報』2011 年 8 月 5 日。 12 林恕暉・彭顯鈞・孟慶慈・洪臣宏「立委補選、綠兩席全拿、得票率大勝」『自由時報 電子報』2011 年 3 月 6 日、http://www.libertytimes.com.tw/2011/new/mar/6/today-t1.htm。
四 「泛藍」勢力の統合の失敗と宋楚瑜の立候補
馬 総統の 再選 にとっ ても うひと つの 脅威は 、親 民党な どと の「泛 藍 (青)」勢 力の統合に 失敗したこ とと、親民 党の宋楚瑜 主席が 立 候補したことに起因する。2004 年総統選で、国民党と親民党の連携 に より総統・ 副総統候補 として連戦 と宋楚瑜の ペアが立候 補して 以 降 、国民党や 親民党、新 党が組んで 「泛藍」陣 営として、 国会で の 議 席数の最大 化を図り、 その後も絶 え間なく立 法委員の候 補者指 名 について話し合いを繰り返した。2008 年の選挙制度改革後に初めて 行われた 2008 年の小選挙区・比例代表の並立制による立法委員選挙 を 例に挙げる と、話し合 いの決裂に よる得票の 分散が民進 党の小 選 挙 区選出の議 席数獲得に つながらぬ ようにと、 国民党は親 民党と 新 党にそれぞれ 7 選挙区と 2 選挙区を譲った。これに歩調を合わせ親 民 党は比例代 表の名簿作 成で国民党 と協力した 。しかしな がら、 こ う いった 立法 委員候 補の 指名作 業に おける 協商 メカニ ズム は、 2012 年の総統選前に正式に破局を迎えた。国民党は 2011 年 3 月末から、 親 民党と小選 挙区の立法 委員候補の 指名で協力 する意向を 示して い たが、4 月下旬に作業を終えた第 1 弾の指名以降は親民党との話し合 いによる指名を行っておらず13、比例代表では友好関係にある政党と 協 力していな い。親民党 が、国民党 が相互協力 に向け誠意 を示し て い ないとの認 識を示した ことで、「 馬宋会(馬 宋会談)」 は掛け 声 の 段階にとど まり、遅々 として進ま なかった。 これを受け 、親民 党 の宋楚瑜主席は 6 月初旬、他に先駆ける形で両党の協力は円滑に進13 施曉光・王寓中「下屆立委選戰 國親新準備各玩各的」『自由時報電子報』2011 年 5 月 29 日 http://www.libertytimes.com.tw/2011/new/may/29/today-p1.htm;王正寧・管婺媛 「國親難合 橘營月中提區域立委」『中國時報』2011 年 7 月 6 日、A2 版。
んでおらず、2012 年の小選挙区の立法委員選挙には 10 名以上の候補 を立てると表明14 、8 月末からは宋楚瑜の総統選出馬のために必要な 署名運動を積極的に展開した15。宋楚瑜は 9 月 21 日、林瑞雄とペア を 組んで立候 補すると公 表し、立候 補の届出を 行った。つ いに、 中 央選挙委員会が 11 月 16 日、宋楚瑜・林瑞雄ペアの署名が届出受理 に必要とされている一定数を満たしたと発表したことで、2012 年の 総統選挙が三つ巴で争われることが明らかになった。 宋楚瑜と親民党の実際の勢いは、2000 年の総統選以降では徐々に 衰 退しており 、今回の総 統選でも当 選のチャン スはほとん どない こ と には、いさ さかの疑問 の余地もな かった。た だ、総統選 立候補 の 目 的には親民 党の政党票 (比例代表 )の得票率 を議席獲得 ライン の 5%にまで引き上げるほかに、総統選におけるキャスティングボート を 握る狙いも あったとい えよう。国 民党と民進 党の支持率 の差が か なり縮まっている中で、もし宋楚瑜が 5%以上の得票率を獲得した場 合、民進党の勝利の可能性が極めて高いと認識されていた16。馬英九 の今回の戦いは、勢いに乗った蔡英文の挑戦に立ち向かうと同時に、 宋 楚瑜とも青 陣営の票を 分け合わね ばならない という危機 にも直 面 し ていた。選 挙戦の激し さは国際社 会からも選 挙情勢への 注目を 集 め 、これまで 台湾の選挙 には不介入 を貫いてい た米国すら 、米国 在 台協会(AIT)のダグラス・パール元台北事務所長が投票前日に馬英 九の再選を支持するとの意向を表明し、間接的な干渉かと疑われた。
14 顏若瑾・林逸璋「宋推選將?羅淑蕾:國民黨逼的」『自由時報電子報』2011 年 6 月 9 日、http://www.libertytimes.com.tw/2011/new/jun/9/today-p10.htm。 15 楊毅「橘亮百萬連署擁宋」『中國時報』2011 年 8 月 21 日。 16 陳嘉宏・呂昭隆・管婺媛・楊毅「宋能否拿 5 趴 馬英九生死門」『中國時報』2011 年 12 月 28 日、A1 版。
五 2012 年総統選の選挙戦の流れ
国 民党と 民進 党の支 持率 の増減 は互 いに打 ち消 しあう 形で 連動し て いるため、 今回の総統 選も極めて 激しい選挙 戦となった 。以下 に 国 民党と民進 党の両陣営 の選挙戦の 流れを分析 し、これが いかに 支 持率に作用し選挙結果に影響を及ぼしたかを探りたい17 。 候補者に関し、両党の総統候補は性別18と省籍(外省・本省)で異 なる以外には、学歴や経歴、個性などの特質は極めて類似していた。 副 総統候補の 指名にあた っては、能 力のほかに 、台湾の政 治が長 期 に渡 り「北部は 青陣営」、「南部は緑陣営 」が掌握し ているとい う 現 象 を考慮し、 両党とも総 統候補が台 北市育ちと いうことか ら、本 省 人 でかつ南部 に地盤を築 いている候 補者を立て ることでバ ランス を 取 らねばなら なかった。 そこで、国 民党は本省 籍で、これ まで南 投 県 長や高雄市 長、国民党 秘書長を歴 任した呉敦 義を擁立し た。蔡 主 席 の陣営は、 屏東県県長 や農業委員 会主任委員 、内政部長 の経験 が あり、2010 年の台中市長選で胡志強市長に僅差まで詰め寄った蘇嘉 全 を選んだ。 つまりは、 両陣営とも 副総統候補 の特性に頼 って、 中 南部の支持者固めや新たな票田の開拓を図る狙いがあった。 総 統の両 候補 は特性 が似 通って いた 一方で 、選 挙戦で 打ち 出した17 親民党の宋楚瑜氏の役割は極めて重要であった一方、当選の可能性がほぼないこと と、署名数が一定に達したことで、国民党は親民党に対するローキーな対応により 青軍陣営支持の票が割れないようにし、票が国民党と民進党に集中し、二大対決と なるようにした。 18 今回、民進党が「台湾初の女性総統・蔡英文」を主軸とした一方、国民党公認の馬 英九は最も選挙戦が逼迫した際には夫人の周美青を応援に立たせた。ただ、紙幅に 限りがあることと実証できる調査資料が未公開のため、今回の選挙における両党の 女性に関する上記戦略の展開についての説明、および性別が投票傾向にどう影響し たかの分析が難しいため、簡単な記述にとどめておく。
主軸の違いも限定的であった。蔡英文は「Taiwan Next」、「現在決定 未来(いまが未来を決める)」というスローガンで、新たな世代と変 革 を強調した 。政見では 公平と正義 を特に前面 に押し出し 、国民 党 政 権のもとで 不動産価格 の上昇と同 時に貧富の 差が広がっ ている と 批判、富の再分配を主張した。国家建設では、経済から公平・正義、 環 境保護、教 育、安全保 障戦略まで を包括する 「十年政綱 (十年 政 治要 綱)」を提示 し、「世界に 向かって」 と「公平・ 正義」とい う 二 つの核心理念をすべての主張で貫いた。国民党は「打造幸福台湾(幸 せな 台湾を打ち 立てよう )」と主張し、 両岸関係の 和平発展を 進め 、 人々に安心できる生活をもたらすとともに、「黄金の十年」構想を提 起 し、所得分 配を通じて 貧富の差を 縮小し、社 会における 経済的 弱 者 に手を差し 伸べ思いや りを示すこ とで、公平 ・正義の社 会を打 ち 立 てると宣言 した。上述 の選挙戦の 主軸を見渡 すと、今回 の総統 選 に おける民進 党の主張は これまでと かなり違う 点がいくつ かある 。 第 一に、従来 の「台湾人 アイデンテ ィティ」を 前面に出し た選挙 戦 略と一線を画し、過去の選挙のたびにエスニック・グループの争点が 引き起こしていた社会的な対立を避けた。第二に、2008 年の選挙戦 の 主軸「幸福 経済」で協 調した就業 機会の創出 とは違って 、今回 は 不適 切な政策に よって引き 起こされた 不動産価格 の高騰や所 得分配 、 貧 富の差とい った暮らし の中の問題 に重点を置 いた。民進 党は今 回 の 選挙で、社 会における 公平と分配 における正 義を主軸と し、選 挙 戦 略の展開で もこれを着 実に行った 。これまで 食事券やパ ーティ 、 中 小企業に対 する募金活 動でまかな っていた選 挙費用に関 し、今 回 は 三つ子の姉 弟からの寄 付という話 題に乗せ、 これまでに なかっ た 「 三匹の子ぶ た」運動の 展開に成功 した。つま り、人々に 「子ぶ た (の貯金箱)」の里親になってもらい少額寄付を集めることで、民間 の パワーを結 集させ、大 資本の財団 の資金援助 に頼らない という 決
心 を示した。 同時に、民 進党が市民 社会への思 いやりと公 平・正 義 の 主張を主軸 にしたこと をアピール し、国民党 政府やその 企業、 財 団といった同党の盟友に対抗しようとした。 馬 英九と 蔡英 文の両 陣営 が展開 する 選挙戦 で、 最も違 いが 明らか になったのは両岸関係政策である19 。馬英九は両岸関係において「92 年 コンセンサ ス」の中の 「一個中国 、各自表述 (一つの中 国の解 釈 を各自表明する)」が、両岸の和平の発展維持と、企業が安心して成 長 できる唯一 の条件であ ると主張、 同時に蔡英 文が両岸関 係と海 峡 両岸経済協力枠組み協議(ECFA)に関する立場が揺らぎ、不安定で あるとの疑念を呈した。これに対し、蔡英文は「92 年コンセンサス」 の存在を否定しつつ、「台湾コンセンサス」を提示、民主的な手続き と 立法、住民 投票を通じ 国内の共通 認識を達成 した上で、 この共 通 認 識 を 中 華 人 民 共 和 国 と の 交 渉 の 基 礎 に し た い と 述 べ た 。「 台 湾 コ ン センサス」 の内容が空 虚で不確定 的なもので あるのに対 し、馬 英 九の示す「92 年コンセンサス」はより具体的であるばかりか、両岸 関 係において 、多数の人 々が求める 和平と、経 済の安定的 な発展 の 願いと期待に合致するものであることが極めて明らかである。 政 策上で の戦 いが繰 り広 げられ る一 方、今 回の 総統選 でも 二大陣 営 の間でたび たび攻撃し 合うという 状況が依然 として目立 った。 国 民 党はまず、 民進党の蘇 嘉全の祖先 の墓が農地 を占拠し、 農家用 途
19 民進党の総統選敗北に関し党内部での検討では、両岸政策が最も重要な鍵となった とみている。研究者の呉釗燮、呉介民、およびブルームバークや AP 通信、朝日新聞 などの海外メディアも多くがこういった見方をとった。(民進黨「民進黨中執會新聞 稿」『選舉網』2012 年 2 月 22 日、http://www.election.org.tw/political_1262.htm;趙婉成 「台灣民進黨:兩岸政策有待反省」『美國之音電子報』2012 年 1 月 15 日、http://www. voafanti.com/gate/big5/www.voanews.com/chinese/news/20120115-TAIWAN-PRESIDENTI AL-ELECTION-137374773.html;吳介民「中國因素與台灣民主」『思想』第 11 期(2009 年 2 月)、頁 141~157。
の 土地に豪邸 を不法に建 設したこと を暴露した 。さらに民 進党政 権 下 の第二次金 融改革に絡 み、陳水扁 前総統が有 罪となって からは 、 民進党の汚職イメージを全力でアピールした。民進党はこれに対し、 馬 総統が台北 市長退任前 に急いで承 認したとい う、富邦集 団によ る 台 北市銀行と の合併計画 を再び掘り 返し、馬総 統が財団の 利益に 便 宜 を図ったと の疑いを示 した。しか し、蘇嘉全 の家屋は違 法では あ ったものの、悪質というほどの情況はみられず、900 万元の価値では 豪 邸とも言い 難いもので あった。ま た、台北市 銀行が合併 された 件 も 、これまで と変わり映 えのしない 議論であり 、影響力は 極めて 限 定的であった。そして、相手方陣営へのネガティブキャンペーンは、 効 果がより曖 昧となるば かりか、世 論調査で自 身の支持率 にマイ ナ スの影響を及ぼし、ブーメラン現象(boomerang effects)を引き起こ す ことにもな りかねなか った。つま りは、ネガ ティブキャ ンペー ン を 発動した場 合、攻撃し た相手方に それが捏造 であり、事 実の検 証 を 経ていない と見抜かれ た場合には 、逆に人々 にマイナス のイメ ー ジを抱かれ、面目をつぶすより深刻な結果を招く可能性もある20。今 回 の選挙戦で は、民進党 は「嘸採工 水果月暦( 苦労が水の 泡とな っ た果物のカレンダー)」を作成し、政府が農作物の価格下落に関心を 寄 せ ず 、 農 家 の 汗 が 水 泡 に 帰 し た こ と を 示 そ う と し た 。 し か し 、 2 元 というひど い価格とさ れた柿が実 は誤植で、 使われた写 真は日 本 種 の甘柿であ った。これ は逆に国民 党にとって 攻撃材料と なり、 民 進 党が柿の価 格を下落さ せ農家を陥 れたと主張 した。同様 に、国 民 党 は、蔡英文 が行政院副 院長の職務 に就いてい た期間に国 家発展 基 金 からの投資 を承認、退 任後に投資 先の宇昌生 技董事長に 就任し 、
20 Garramone, Gina M., “Voter Responses to Negative Political Ads,” Journalism Quarterly, vol. 61, No. 2 (1984), p. 251.
家 族を使って この企業に 投資させた との疑いを かけ、公務 員の利 益 回 避の原則と 「回転ドア 条項(公職 を利用した 利益移転に よって 離 職後にこれを受け取ることを禁じた法律)」に違反するばかりか、自 身 と家族の利 益に便宜を 図った疑い があると指 摘した。し かしな が ら 、経済建設 委員会の劉 憶如主任委 員が蔡英文 に疑義を示 した根 拠 と なる文書に は日付の誤 植があり、 これが逆に 民進党によ る「国 民 党 が故意に証 拠を偽造し 、中傷し罪 をなすりつ けた」との 反撃を 許 し、馬英九の世論調査での支持率も一時下落した。 選挙期間中、報道機関各社の世論調査では 2012 年総統選の熾烈な 争 いを容易に みることが できる。も ちろん各社 の調査のタ イミン グ や 内容はまっ たく同じで はないが、 結果はすべ て両者の間 の支持 率 の 差は極めて 小幅で、相 互にリード を許し合っ ていた。選 挙直前 に 行われた最後の世論調査でも、両者の差は 3%の間にとどまった21。 これまで 2008 年の立法委員選や総統選の結果を的確に予測してきた サイト「未来事件交易所」は22 、投票 11 日前の直前予測で、蔡英文 の得票率が、馬英九に対して 7%前後のリードを維持しているとした23。 しかし世論調査の資料は投票日前 10 日間は公表することができず、 その後馬英九と蔡英文の支持率は徐々に開いているようであった24。
21 旺旺中時民調中心「選前最後民調 馬 39.5% 蔡 36.5% 宋 5.8%」『中國時報』2012 年 1 月 3 日、A1 版。 22 未来事件交易所の統計では、投票 30 日前の予測的中率は、おおよそ 85%から 93% を維持している。選挙が近づくにつれ、予測の正確さと的中率ともに上昇している。 詳細は、以下参照:童振源・周子全・林繼文・林馨怡「選舉結果機率之分析-以 2006 年與 2008 年台灣選舉為例」『台灣民主季刊』第 8 卷第 3 期(2011 年 9 月)、頁 155。 23 王宗銘「未來交易所封關預測 蔡英文領先馬英九 7.2 個百分點」『今日新聞網』2012 年 1 月 3 日、http://www.nownews.com/2012/01/03/11490-2772556.htm。 24 民進党の世論調査センターは、選挙敗北報告で、投票直前の 2 週間は世論調査の「キ ーポイント」となるタイミングであり、この時点で馬総統のリードは 8 ポイントま
選 挙戦がカウ ントダウン を迎える重 要な時期に さしかかっ たとき 、 こ れ ま で 総 統 選 で は 常 に 立 場 を 明 ら か に し て い な か っ た 聯 華 電 子 (UMC)の宣明智栄誉副董事長が 100 名の企業家に「92 年コンセン サス」の支持を明らかにするよう呼び掛けた。宏達国際電子(HTC) の王雪紅董事長は投票前夜になって「92 年コンセンサス」の全面支 持 を表明、台 湾には安定 した政府が あってこそ 企業が安心 して発 展 できると強調した。選挙前に多くの企業家が「92 年コンセンサス」 基 礎のもとに 良好な経済 貿易関係を 築くことが できるとの 姿勢を 明 らかにし、長栄集団(エバーグリーン・グループ)の張栄発総裁や、 奇 美実業の廖 錦祥董事長 のような、 これまで緑 陣営と親し い関係 に あった大手財団さえも表立って「92 年コンセンサス」の支持を表明、 こ れが民進党 を極めて不 利な態勢に 追い込んだ ことは疑い もなか っ た25。
六 2012 年総統選の結果
74.38%という投票率のもと、国民党公認候補の馬英九と呉敦義の ペアが 689 万 1,139 票、得票率 51.60%で第 13 代総統・副総統に当 選 し、国民党 が引き続き 政権の座に 就くことと なった。民 進党は 前 回の 2008 年総統選より 65 万票伸ばしたものの、依然 80 万票の差を つ けられ国民 党に敗北し た。当初は 国民党の選 挙情勢に脅 威とな る と予測された親民党の宋楚瑜主席の得票率はわずか 2.77%で、親民 党が比例代表で 5.5%の政党票を獲得したことを考慮すると、親民党で拡大、蔡英文氏は最後の 1 週間でようやくこれを 6 ポイントに縮めたとしている。 中央社「綠檢討 九二共識綁經濟奏效」『聯合新聞網』2012 年 2 月 16 日、http://udn. com/NEWS/NATIONAL/NAT2/6903047.shtml。 25 陳先才「蔡英文輸給九二共識」『美麗島電子報』2012 年 1 月 17 日、http://n.yam.com/ my-formosa/politics/201201/20120117822490.html。
の支持者が宋楚瑜の当選はあり得ないとみて、他の候補者の投票(そ の多くが馬)に回ったことが極めて明らかである。 台 湾全土 の得 票分布 をみ ると、 民進 党が、 北部 で国民 党と の差を 縮め、南部で大勝を見込むとした戦略は失敗に終わった。国民党は、 台北市、新北市、台中市の 3 直轄市で、民進党に 65 万票近い大差を つ けて勝利し た。このほ か、民進党 は蔡英文の 客家人の血 統を強 調 し、「客家妹仔做総統(客家の娘を総統に)」と呼び掛けた。しかし、 客 家人の多い 新竹県・市 と苗栗県で は、国民党 がこれまで と一貫 し た強さを見せ、民進党を 28.5%上回る 24 万 2,000 票近くを獲得した。 民 進党は台南 市と高雄市 では良好な 成果を上げ たが、国民 党を上 回 ったのは 2 市合計で 35 万票近くにとどまり、2010 年末の 5 直轄市選 挙でつけた 70 万票の差にははるかに及ばなかった。全体的にみると、 北部では馬・呉ペアが 100 万票前後上回り、民進党との大きな差を 広 げ、勝利の 基礎とした 。同ペアは 中部では小 幅の勝利、 南部で も 小幅の敗北となり、「北部と中部の守りを固め、南部で決戦」とした 選挙戦の目標を達成した。一方で民進党は中部でも 18 万票近くの差 で 破れ、南部 と国民党に は到底及ば ない北部で 大きく票を 落とし て 劣勢となり、最終的に敗北を喫することとなった。 得 票率か らみ て、今 回の 選挙結 果は 基本的 に、 国民党 と民 進党の こ れまでの長 期にわたっ ての票田、 または基礎 票からそう 遠くな い ものである。図 2 は両党の 2000 年以降の県市長選挙と翌年の直轄市 長 選挙の得票 をまとめ、 総統選と立 法委員選の 結果と比較 したも の で ある。これ をみると、 無所属やそ の他の泡沫 政党の票を 除けば 、 緑陣営の得票率は長期に渡って 39~47%の間、青陣営は 53~60%の 間にあることが明らかである。しかし、2004 年の総統選挙直前に起 きた陳水扁銃撃事件や、2009~2010 年の金融危機や八八水害での対 応 が国民党政 権への不満 を呼んだな ど、特殊な 情況のもと でのみ 、
民 進党は過半 数を獲得す る可能性が 比較的ある と言える。 しかし 、 選 挙が正常な 状況下で行 われる場合 には、自然 と青陣営が 緑陣営 を 上回る基礎票の状態に戻っていくのである。 図二 国民党と民進党の得票率の推移 (出典)中央選挙委員会(http://www.cec.gov.tw/bin/home.php)の資料をもとに筆者作成。
七 台湾の今後の政治のゆくえ
今 回の総 統選 では、 国民 党公認 候補 の馬英 九が 再選を 果た した。 選 挙結果は、 台湾でもと もとある青 ・緑の政治 的勢力図を ふたた び 表 すことにな ったが、い くつかの点 に注目する ことができ るであ ろ う。まず、国民党は北部での守りに成功したが、中部での優勢は徐々に低下しているという点である。1996 年から始まった五度に渡る総 統直接選挙において、民進党は中部での得票率を 18%、37%、50%、 40%、 45%と 徐々に伸ば している。 中部はかつ て一貫して 国民党 の 大 票田とみら れており、 だからこそ 民進党が勢 力を北部に 伸ばす 重 要 な境界線と して固い守 りを敷いて いたが、こ の現象は国 民党に と っ て一種の警 告となった であろう。 次に、民進 党が地方首 長選で の 南 部の各県・ 市における 優勢を、な ぜ総統選に 援用するこ とがで き な いのかとい うことも、 一考に価す るであろう 。人々は陳 水扁政 権 を 経験したの ち、今にな ってもなお 民進党に政 権を預ける ことが で き ないという 考えを抱い ているので あろうか。 あるいは、 民進党 の 国 政選挙にお ける動員力 がやはり国 民党に及ば ないという ことを 示 し ているので あろうか。 こういった 疑問はすべ て、民進党 が政権 の 奪 回を図るな らば解決し なければな らない問題 である。最 後に「 中 国要素」は台湾の歴代の総統選には一定の影響を与えてきたが26、こ
26 呉介民氏の分析(2009)では、「中国要素」の台湾での変遷は、大きく三段階に分け られる。第一段階は 1949 年~1960 年代の冷戦時代の両岸関係の断絶期である。国民 党は中国大陸に対し「共匪(きょうひ)」というイメージを作り上げ、台湾における 国民党統治の正当性を強化した。第二段階は両岸の主権争いの時期であり、1970 年 代初期~1990 年代中期に相当する。中国大陸は国際社会で力任せに地位を認めさせ、 資本主義経済に向かっていった。台湾は民主化の幕開けを迎え、資本家が中国への 投資を開始した。第三段階は 1996 年からこれまでの中国台頭の時期であり、中国が 世界経済に重大な影響を与えるようになっている。うち、1996 年の台湾総統選では 中国のミサイル脅威がターニングポイントとなった。ここから危機が始まり、台湾 の領土・主権や国家アイデンティティの亀裂、「中国要素」の三者がない交ぜとなっ て、台湾の政治や暮らし、毎回の総統選に具体的な影響を及ぼすようになった。(呉 介民「中國因素與台灣民主」『思想』第 11 期(2009 年 2 月)、頁 141-157)。エスニッ クグループの争点が取り沙汰される中、これまで「中国要素」は「台湾を愛する」 立場の敵とはならなかった。しかし、台湾経済が中国大陸への依存を日増しに深め ると同時に、2010 年の海峡両岸経済協力枠組み協議(ECFA)締結を経て、総統選で も「中国要素」の経済面に占める比重が徐々に増している。
れ まで国家の アイデンテ ィティや統 一または独 立の立場と いった 点 で 反応を起こ していたの に比較する と、近年の 「中国要素 」が選 挙 に 与える影響 は、経済問 題における 争点に関わ っているこ とが明 ら かである27。今回、企業家が投票前にこぞって馬総統の再選支持を表 明 したことは 、民進党が 政権を握っ た際に両岸 関係の不確 定性が 中 国 大陸での事 業展開に影 響すること を懸念した ものである 。台湾 の 経 済が大きく 中国大陸市 場に依存し ているとい う現状のも と、両 岸 関 係と経済発 展の関連は 必ずや将来 の総統選に 影響すると いうこ と は 、民進党が 正視して受 け止めなけ ればならな い課題でも あるだ ろ う。 ( 寄稿:2012 年 3 月 7 日、採用:2012 年 5 月 24 日) 翻訳:津村あおい(フリーランス翻訳者)
27 林朝億「綠檢討報告:與中交流 擺脫反中 鎖國印象」『PChome 新聞』2012 年 2 月 22 日 、 http://news.pchome.com.tw/politics/newtalk/20120222/index-13299099719745610001. html。
2012 年台灣總統大選分析
張 傳 賢
(台灣・中央研究院政治學研究所助研究員)湯 晏 甄
(台灣大學政治學系博士候選人)【摘要】
2012 年 1 月 14 日台灣首次舉辦總統與立委合併選舉。這次的總 統 大 選選情相當 緊繃、國民 黨面臨馬英 九施政滿意 度大幅滑落 的危機 、 又 遭遇東山再 起的民進黨 來勢洶洶的 挑戰、加上 泛藍整合失 敗下宋 楚 瑜 的攪局參選 扮演關鍵性 的少數。各 方在競選過 程展開激烈 角力、 不 時 出現負面競 選與政策交 鋒。國民黨 與民進黨此 役最大的政 策差異 是 兩 岸議題、國 民黨強調「 九二共識」 是維繫兩岸 和平發展、 企業安 心 成長的唯一條件。民進黨則是否認「九二共識」並提出「台灣共識」、 希 望 透 過 民 主 程 序 凝 聚 國 內 共 識 。 雙 方 圍 繞 兩 岸 議 題 上 展 開 激 烈 攻 防、甚至激發台灣多數大企業家選前出面表態支持「九二共識」。最後、 馬 英九擊敗蔡 英文而順利 連任、選舉 結果再次呈 現台灣固有 的藍、 綠 政治版圖。 關鍵字:2012 選舉、合併選舉、雙首長制、政治版圖An Analysis of the 2012 Taiwan
Presidential Election
Chuan-hsien Chang
Assistant Research Fellow, the Institute of Political Science, Academia Sinica
Yen-chen Tang
PhD Candidate, the Department of Political Science, National Taiwan University
【Abstract】
On January 14th, 2012, Taiwan held the first concurrent presidential and legislative election in its democratic history. Because of the decline in Ma Ying-jeou’s approval rating, the challenge from the DPP under Tsai Ing-wen’s leadership, and James Soong’s entry into the race of presidency, the presidential campaign became very dramatic. The major difference between the KMT and the DPP’s views was regarding the Cross-Strait relationship. While the former stresses the 92 consensus, the latter replaced it with the Taiwanese consensus. The two parties had serious debates on this issue. Finally, Ma defeated Tsai by 800,000 votes and won his re-election to presidency. This electoral outcome confirmed Taiwan’s current political landscape of Pan-Blue and Pan-Green parties, i.e. KMT vs. DPP.
Keywords: The 2012 election, concurrent election, semi-presidential
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