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第三章 ダロウと終助詞

3.1 ダロウネ

3.1.3 ダロウネについて

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

現はどうなるのだろうか。この二つの用法は話し手と聞き手が持っている情報 の量と関係がなく、発話者が内容を述べる際の相手に対する態度と認められよ う。そのような表現はここで「発話の態度」と仮称する。また、情報の観点を 繰り返してみると、「和らげ」と「詰問」の文はそれぞれ「確認要求」と「同 意要求」に属するはずである。すなわち、「和らげ」と「詰問」はそれぞれ「確 認要求」と「同意要求」から派生した用法と推測できよう。

上のことを整理すれば、下の表になる。

表 8 ネの用法

1. 同意要求(S=H)

情報量の多寡

2. 確認(S>H)

3. 和らげ(同意要求から派生した用法)

発話の態度

4. 詰問(確認から派生した用法)

3.1.3 ダロウネについて

前節でネの用法について検討し、1.同意要求、2.確認、3.和らげ、4.詰問、

四つの用法を挙げた。ダロウと共起する際に、ダロウとネはそれぞれどんな働 きを表わすのか、本節で考察していきたい。まず、例を見てみよう。

(21) 「どこへ行くの」

横尾の問いに、ふりむいて言った。

「そんなこと言えるか。いまからは競争なんだからな」ちょうど客を運 んできたタクシーをつかまえ、乗り込んでUターンさせ、たちまち俺達 の視界から消えてしまった。

「タクシーか……」

横尾が首をふってつぶやいた。

「あの人のことだから、家へまわってお金をもらって、そのまま会社ま で乗りつけるんだろうねえ」

「しかし、それは安易なやり方だと思うな」

亀丸が並べられた自転車を見、むこうのシャッターを降ろしたパチンコ 屋に眼をやり、手の平の百円玉を見つめて言った。

(『かんちがい閉口坊』) (22) 「おまえはまだ知らないだろうね。話しちゃいけないことだけど、自

殺だったらしいの」 (『日本の父 へ』)

上の例で示されるように、(21)は横尾のこれからの行動について、話し手

(亀丸)が推測して、さらにそばにいる聞き手も同じ考えを持っているはずで

‧ 國

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あろうと想定して、聞き手に同感させることを図っているシーンである。すな わち、話し手も聞き手も共に、同じ情報を持っていると話し手は想定し、ネを 用いて相手の「同意」を要求するのである。それに対して、(22)は話し手が、

聞き手が事件について知っているかどうか分からないで、単に一方的に確認す る場合である。情報量から見れば、(22)における情報量は「S<H」のように なっていて、ネは「確認」の用法と思われる。

また、ダロウの部分を見てみると、(21)は話し手と聞き手が両方とも知っ ていることについて、話し手が相手に確認する用法である。すなわち、「確認 要求」を表すダロウである。さらにこの場で、ダロウは「断定を和らげる」とい う効果も認められる。一方、(22)の場合、話し手が聞き手の認識を知らずに、

話し手自身がそう想定するということで、ダロウは「推量」の用法であると考え られる。ここで簡単に下のように整理する。

表 9 ダロウとネの組み合わせ

例 ダロウ ネ

(21) 推量 同意要求

(22) 推量 確認

前例と同じものがよく見られる。例えば、次の(23)は「推量+同意要求」

の形式で、(24)と(25)は「推量+確認」である。このような組み合わせはま さにダロウネの基本的な用法といってもよかろう。

(23) 君の手紙をよくよく拝見した。実のところ、君はこんな手紙を書ける ほどの人物とは思わなかった。こんな言い方は失敬だろうね。

(『塩狩峠 道ありき』) (24) 「肺結核の特効薬は今のところ何もないからね。洞爺のようないい気

候のところで、大気安静療法をするより仕方がないだろうね」

(『氷点』) (25) 「このあたりには宿泊施設もないだろうね」とカガノンが言った。「勿

論、泊まる気なんかないが」 (『アマノン国往還記』) 実は、(21)~(25)におけるネを取り除いても、全文の命題真偽価値はあ まり変わりはない。なぜならば、ネのあらわす機能は、ダロウと重なっている からである。ダロウとネが同時に出てきた場合、ダロウは命題に対して推測を することで、ネは対人機能を果たす、というようにそれぞれ異なった役割を担 っていると考えられる。

次に、命題は疑問詞疑問文の場合、ダロウネはどんな働きをしているのかを 検討してみたい。

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(26) 「北山、君も頭がにぶいね。警部の考えはおそらくこうだと思う。つ まり人間は寝る時たいていは照明を暗くして寝るはずだから、天井の 明かりは消す。そのかわりに枕元のナイトランプをつけるはずだ。と ころが君の部屋のナイトランプは切れていた。それで部屋の中は真っ 暗だったはずだ。すると人間というものはどういったことを連想した り、感じ入ったりするものだろうね。」

「君はいったい何を言いたいんだね。」

(『トリック上の殺人者』) (27) 「大手製薬会社と言えども、利益が上がらなければ、倒産してしまう

から、どうだろうね。他の薬は利益を上げるといっても、兼ね合いが 難しいだろうし。倒産しては元も子もないからね」

「それはそうだね。大手製薬会社が束になっても、世界に三千六百十万 人というエイズ患者に治療薬を提供することは難しい。」

(『世界を翔ける男』)

(26)は、話し手が不確かなことについて推量をして、相手の考えを確認す るというより、むしろ話し手がすでに結論を出していて、聞き手に伝えること を通じて、聞き手の反応を見ることを図っていると言ったほうがよいだろう。

(27)は(26)と似通っていて、「どうだろうね」によって、話し手自身の意 見を言い切ることを避けている。この二つの例では、ネを外して単にダロウだ けの文を見てみると、いずれも独り言のよう自問自答をすることが感じられる。

なぜならば、命題は不確かなものからである。そして、対人機能を有するネを 付加すると、元の独り言のような表現から相手向けの対話文になる。その場合、

ネは聞き手の同意を求めるという機能を果たしている。

また、形式上はいずれも疑問文であるが、意味上は相手に情報を要求するの ではなく、自分の出した意見や判断をぼかす一方、聞き手の様子を覗くという 働きをしている。すなわち、「修辞疑問3」の表現と認められる。なお、こうい う表現は単にダロウかネかの一方が現れるだけではできないため、両者の共起 頻度は高いといえよう。ただし、「疑問詞+ダロウネ」の全てが「修辞疑問文」

とは限らない。純粋な疑問文を表わすことがある。「修辞疑問」を表すかどう かを判断するには文脈が必要である。

他に、同じダロウネの形式で、意味上は「詰問」をしていることもある。例え ば、先の例(17)と下の例(28)である。

3 修辞疑問(Rhetorical Questions)とは、相手の答を求めるのではなく,話し手の意図する内 容を聞き手に納得させるために反語的に疑問文の形にして述べたものをいう。(ロイヤル英文

CD-ROM)

ライスの「量の公理4」の逆用(exploitation)であり、相手に会話に出てこ ない意味、つまり言外の意味を推測させることを企てているといえよう。従っ

1. 量の公理(Maxim of Quantity)

Make your contribution as informative as is required for the current purposes of the exchange.(あなたの貢献を、当のやりとりのその場の目的のために必要なだけの情 報を与えるようなモのにせよ。)

2. 質の公理(Maxim of Quality)

Try to make your contribution one that is true, specifically

(あなたの貢献を真であるものにすべて努めよ、とりわけ):

(ⅰ)do not say what you believe to be false.

(偽りであると思っていることを言うな。)

(ⅱ)do not say that for which you lack adequate evidence.

(十分な根拠のないことを言うな。)

3. 関係の公理(Maxim of Relation)

Make your contribution relevant.

(あなたの貢献を関連のあるモのにせよ。)

4. 様態の公理(Maxim of Manner)

Be perspicuous(明解な言い方にせよ。):

(ⅰ)avoid obscurity.(不明瞭な言い方をせよ。)

(ⅱ)avoid ambiguity.(あいまいな言い方を避けよ。)

(ⅲ)be brief.(簡潔な言い方をせよ。)

(ⅳ)be orderly.(順序だった言い方をせよ。)

最後に、(17)と(28)を見ると、形式は(22)などの例と同じだが、「詰問」

の意味を表している。それは話し手の発話する際に、充分な情報を相手に与え