第三章 ダロウと終助詞
3.2 ダロウヨ
最後に、(17)と(28)を見ると、形式は(22)などの例と同じだが、「詰問」
の意味を表している。それは話し手の発話する際に、充分な情報を相手に与え
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しかし、上述の観点では、次のような例をうまく説明し得ないと思われる。
(29) どうせキミらには分からないだろうよ。トラの存在を信じ、怖がった ところを笑い飛ばされ、なにこいつびびってんのとトケラウ人に侮辱 された者の気持ちなんて分からないだろうよ。
(http://www.namako.to/tokelau/tiger2.html 2009 年 1 月)
上例のように、情報を伝達するというより、むしろ聞き手への嘲り・皮肉 といったものが感じられる。それはヨの基本的な意味と随分違っていると思わ れる。本節では、先行研究を通してヨの意味・機能を把握し、さらにその派生 的意味について検討する。
3.2.2 先行研究
3.2.2.1 伊豆原(1993)伊豆原は、コミュニケーションの観点と構文上の位置からヨを2 類 5 種に分 類している。結論として、ヨ話し手の情報・判断・気持ちなどを一方的に持ち かけるものであり、ヨの使用がくどさや押し付けがましさなどを感じさせるた めである、と伊豆原は述べている。以下、その分類についてまとめて紹介する
5。
D 型:話し手が談話を展開していくとき、話し手の判断や話し手の持ってい る情報を聞き手に持ちかけ、伝えようとするもの。
D-1 型:単独で用いられる。呼びかけである。
例 A:よ、元気。
B:うん、元気。
D-2 型:聞き手の気持に関わりなく一方的に話を進めていくときの持ち かけであり、ぞんざいさ、押しの強さが感じられる。(語末・句 末につく「よ」でA-2 型に対応する)
例 それでミヤザワさんよ、あんたがもうちょいとアメ車をかって くれたらよ、誰もショーウィンドーにレンガ(保護主義)なん かなげこまないように、オレが面倒みてやるからよ。
D-3 型:A-3 型の「ね」に対応するもので「よ」の前には「~んです」
「~わけです」がくることが多い。可能性としては「ね」「よ」
「よね」「φ(何もつかない)6」のいずれが使われてもかまわ
5 伊豆原(1993)はネとヨについて分析しているものである。まず「ね」についてA、B、C という三つのタイプに分類し分析している。次にヨをDとE、二種類に分けて検討する。以下 のまとめは、同論文におけるヨのD、E型に限る。
6 つまり、ゼロ記号。
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ない。
例 ところがええ、当時はですね、もう30 代ですよ、よろしいです か、30 代で脳内出血とかね、あったんですよ。30 代、男ですね。
(はあ)30 代でなくなる人もいたんです。でそれは男なんです よねえ。あと、ガンもね、ほんと沢内はガンが多いんですよ。
D-4 型:文末に置かれ、「よ」の前には「~です」「~ます」がくる。談 話内容を聞き手に持ちかける働きをする。
例 …ですから今でも70 代 80 代のお年寄りにですね、何人子ども 産んだかって聞くと知らない人いますよ
E 型:話し手が、聞き手の(確認の)発話に対して同意もしくは不同意の意 を持ちかけるもの。「よ」の前には「~です」「~ます」がくる。「よ」
がないと断定的な印象が強く、「よ」の使用によって同意あるいは不 同意だという話し手の気持ちを伝えることになる。
例 そうするとその健康台帳作って(ええ)一人一人のですね(一 人一人のですよ)健康管理をし始めていくときに…(同意の例)
例 A:私なんかだめだわ。
B:そんなことないよ。(不同意の例)
ヨの用法をまとめると下のようになる。
表11 ヨの用法 (伊豆原 1993)
類型 談話の進行方向 位置 コミュニケーション機能 D-1 話し手→聞き手 単独 呼びかけ
D-2 話し手→聞き手 語末・句末 持ちかけ D-3 話し手→聞き手 文末 持ちかけ D-4 話し手→聞き手 文末 持ちかけ
E 話し手←聞き手 文末 持ちかけ+同意/不同意
伊豆原の分析では、間投用法のヨも含んで考察してくる。だが、ダロウと共 起しているのは文末のヨしかないので、ここで考察対象をD-3、D-4、E と いう三つの用法に限る。
そして、分類について、D-3 と D-4 はネと対照し分類するもので、ヨの 機能によって分類するわけではないので、D-3 と D-4 におけるヨは同じも のと考えられよう。
また、意味から考えれば、E 型における発話者の同意か不同意かは、いずれ も話し手の判断に属しているので、さらにに分類する必要はないと思われる。
従って、伊豆原のあげたヨの用法は、「話し手の判断や話し手の持っている情 報を聞き手に持ちかけ、伝えようとするもの」と定義すればよいと思われる。
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3.2.2.2 蓮沼(1995)
蓮沼はヨの基本的機能を「認識上の何らかのギャップが存在する文脈で認識 能力の発動を促し、認識形成を誘導する標識である」と考えている。
その中に、「認識のギャップ」は、「気づいていないことや忘れている理由な どで、話し手または聞き手の側に認識の欠落が生じている状況や、両者の間に 情報の把握や発話意図の解釈などをめぐって食い違いや誤解・無理解が生じて いるような状況のこと」を指している。そしてヨによって、そのキャップを補 完・補充すると、蓮沼は考えている。たとえば、「もしもし、切符を落とされ ましたよ」(下線筆者)という例におけるヨは、聞き手の注意を喚起し、それ に気づかせる機能を有している。
蓮沼の指摘のように、話し手と聞き手の間に認識上のギャップ存在している ため、ヨによって、そのギャップを補完する。しかし、このような観点として 3.2.1 の例を説明するのは、やはりふさわしくないと思われる。
3.2.2.3 日本語記述文法研究会(2003)
日本語記述文法研究会(2003)では、ヨは「その文があらわす内容を、聞き 手が知っているべき情報として示すという伝達態度を表す」と定義している。
そして、その用法を下のような五種にまとめている。
1. 聞き手に注意を促す
2. 説明を行う。「のだ」の機能と重なっているため、同時に出る場合は、「よ」
がなくてもそれほど大きな違いがないことが多い。
3. 聞き手に対する非難や皮肉を表わす。この場合、上昇イントネーション をとることが多い。
4. 自分の知識や能力を正当に評価していない聞き手に抗議するニュアンス を強める。この場合は下降イントネーションをとることが多い。
5. 相手からの依頼を受け入れる返答。上昇イントネーションによって、相 手の心理的負担を軽くするようなニュアンスが示される。
それぞれの用法に下の例を挙げられている。(下線筆者)
(30) あ、切符が落ちました{よ/?φ}
(31) [運転者に]赤信号だ{よ/?φ}。ちゃんと前を向いて運転してよ。
(32) A「あれ?こんなところでどうしたんですか」
B「実家がこの近所なんですよ」
(33) A「何を買うの?」
B「新しい本棚です。入りきらない本があふれているんですよ」
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(34) A「うるさいなあ。朝っぱらから何だい?」
B「もう 2 時だよ。朝じゃないぞ」
(35) 君、こんなスピートで突っ込んでくるなんて、自殺行為だよ。
(36) A「君、株のことなんかわかるの?」
B「わかるわよ」
(37) A「君、本当に料理なんてできるの?」
B「できるよ。黙って待ってろ」
(38) A「忙しいところを悪いんだけど、この書類、コピーしてきてくれな い?」
B「いいです{よ/*φ}」
(39) A「無理を言ってるのはわかってるんだけど、手伝ってもらいたいん だ」
B「いい{よ/*φ}。協力しよう。」
上のように、日本語記述文法会は「情報の伝達」機能のほかに、「皮肉」な どのような派生的な機能までも考察している。しかし、ヨの用法の基本的 なものと派生的なものの分類ははっきりしていないと思われる。そのため、以 下、日本語記述文法会の分析に従い、A:話し手 S と聞き手 H の情報構造、B:
ヨの働き方、という2点から、同書の挙げる例を再び検討し、ヨの意味・機能 を把握していきたい。
まず、(30)(31)は「注意を促す」という機能である。その構造は話し手が 持っていて聞き手が持ち得ない情報の構造、つまり、A「話し手絶対優位の S
>H 情報構造」がある。それは、「注意を促す」という形において最も顕著に 現われる。「切符が落ちました」「赤信号だ」ということは、聞き手が知り得な い(あるいは聞き手が注意していない)情報である。聞き手が知らない情報を 与えるからこそ、話し手が聞き手に注意することができる。この用法は、ヨが ないと不自然である。B「ヨは相手に「気づき」を求めるために使われ、聞き 手への働きかけの開始を担う重要なコミュニケーション機能」を果たしている と言える。
次に、(32)と(33)は「説明を行う」という機能で、ヨの用法中に、「聞き 手の知らない情報を伝える」という機能は最も無標なものだろう。「実家がこ の近所である」ことや「入りきらない本があふれている」ことは、聞き手の知 らない情報である。これは、A「情報量における S>H の構造」である。しか し、「聞き手の知らない情報を説明する」という機能は「のだ」も持っている ので、ヨはあってもなくてもよいのである。この場合のヨは、B「情報が聞き 手に向けられていることのマーカー」で、やはりコミュニケーション機能を果
次に、(32)と(33)は「説明を行う」という機能で、ヨの用法中に、「聞き 手の知らない情報を伝える」という機能は最も無標なものだろう。「実家がこ の近所である」ことや「入りきらない本があふれている」ことは、聞き手の知 らない情報である。これは、A「情報量における S>H の構造」である。しか し、「聞き手の知らない情報を説明する」という機能は「のだ」も持っている ので、ヨはあってもなくてもよいのである。この場合のヨは、B「情報が聞き 手に向けられていることのマーカー」で、やはりコミュニケーション機能を果