第三章 ダロウと終助詞
B. 文末
3.5 ダロウネ、ダロウヨ、ダロウガ、ダロウニの比較
國
立 政 治 大 學
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N a tio na
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一見(92)と(93)には後件がないとされるが、実際に省略されるに過ぎな いと思われる。(92)の場合は「床に座った」で、(93)は「何も言わなかった」
などのような後件が推定できよう。また、(89)~(93)と同じく、話し手が 前件の事柄について発話態度が確信を持っていないので、ダロウという推量形 式を使うのである。そしてニは前件と後件の相違を示すほかに、話し手の意外 や疑惑などの気持ちも表している。
(94) 「死体はどうせ見つかるんだ。それなのにどうして服だけ川へ捨てた んだろう?」
「知るもんか」
「川へ捨てるより、どこか山の中へ埋めれば見つからずに済むだろうに
。川へ流したばかりに、いくつかは見つかっちまった」
「気が転倒してたのさ」
加賀見はあまり細かいことにはこだわらない男だった。
(『一日だけの殺し屋』) (95) 「終わりに行くにつれて良くなったぞ。初めからあの調子だったら、
あまり文句も言わずにすんだろうにな」 (『やさしい季節 上』)
(94)と(95)にはいずれも仮定とニの共起表現である。すなわち、起こっ た結果は話し手の想定した前件と相違するものである。この表現では後件が希 薄になり、無関心に扱われることが多く、ダロウニ全体は終助詞的な用法にな ってくると考えられる。その時のダロウは推量の働きを担っていると思われる
まとめてみると、ダロウニは、発話者がある事柄について不確かな態度で扱 う時に、ダロウの推量を用いて発話するのである。また、ニの働きの上で、ダ ロウニには接続助詞や終助詞的な用法がある。意味では前件と後件の相違によ って話し手が不満・意外、愚痴を言うような意味を表している。特に終助詞的 な用法のときに、その気持ちがはっきり感じられる。
3.5 ダロウネ、ダロウヨ、ダロウガ、ダロウニの比較
本節では、前節で得た結果を踏まえてダロウネ、ダロウヨ、ダロウガ、ダロ ウニ、四者の異同について考察していきたい。
考察に入る前に、ここで、山梨(2000)の<参照点起動の推論モデル>に簡 単に触れていきたい。まず、例を見てみよう。
(96) 静かにしたらどうなの?(山梨2000:pp115)
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上例は文型から見れば、疑問文であり、質問の意味がかかわっている。しか し、質問の意味は、依頼の意味を起動するための手がかりとして相対的に背景 化されている。すなわち、表層的には疑問のタイプの文であるが、語用論的に は依頼ないし命令の発話の力が関わっている。図示すれば、質問の意味をMi、
依頼の意味をMj とすると、その解釈は図 15 のように示される。なお、I は解 釈者(Interpreter)で、U は問題の発話(Utterance)、Mi と Mj は解釈のターゲ ットの意味である。Mi の細線と Mi の太線は、前者の意味が後者の意味に対し て相対的に背景化されていることを示している。
Mj Mi Mj
Mi
(山梨 2000:pp115-116)
また、図15 のような背景化が進んでいくなら、一次的な意味(Mi)は失わ れ、二次的な意味(Mj)が文字通りの慣用化された意味としてその表現に入 り込んでいくことになる。上のように、図15 から図 16 へと背景化のプロセス を進んでいくと図17 になる。
前節で考察したように、ダロウが終助詞ネ、ヨ、ガ、ニと共起した場合は単 に二つの意味が相加するわけではなく、両者の結合によって新しい意味が派生 される。これはまさに山梨が挙げたプロセスと軌を一にしているといえよう。
従って、以下は山梨(2000)で提示した<参照点起動の推論モデル>の概念を 踏まえて、ダロウと各終助詞との共起関係について考察してみたい。
3.5.1 ダロウネ
3.5.1.1 推量同意と推量確認
ダロウネでは、推量を表すダロウが、「同意要求」を表すネと「確認」を表すネ が重なって現れるので、二つのパターンに分けられる。まず、「同意要求」の場
図17 I
U Dc
Mj I U U
Dc Dc
図15 図16
I
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合、話し手(S)と聞き手(H)ともほぼ同様の情報量を持つ。つまり【S=H】
という図式が成り立つ。一方、「確認」の場合、聞き手と比べると、話し手の持 っている情報量が少ない。つまり【S<H】という図式が成り立つ。図示する と、図A と図 B のようになる。
図18:同意要求のダロウネ
S H S H
図19:確認要求のダロウネ S は話し手で、H は聞き手である。外側のサークルは情報を示す領域で、矢 印は発話の進行、破線の矢印はその発話によって派生してくる作用(語用論的 意味)を表す。「同意要求」では情報量が【S=H】になるため、図 A のように話 し手と聞き手が情報サークルに置かれている。一方、「確認」では情報量がS<
H になっているため、図 B のように、話し手の一部は情報サークルから外れ ている。
図のように、ダロウネは、話し手が単に聞き手に向って発話するのみならず、
そのあと聞き手のほうから情報を獲得しようとする働きもしている。この段階 では、ダロウとネの役割がはっきり区別でき、それは、話し手が推量した結果 をダロウの形式で聞き手に伝えて、加えてネを以って聞き手に情報を要求する、
ということである。
3.5.1.2 疑問詞+ダロウネ
次に、疑問詞とダロウネが共起する場合である。前節で考察した通り、これ は修辞疑問である場合がある。すなわち、このような表現は聞き手に情報を要 求するのではなく、単に疑問文の形式を以って聞き手に話し手自身の意見など を伝えるものである。図C のように、破線の矢印はもともとダロウネの持っ ている「相手に情報を要求」する機能を示しているが、疑問詞の共起によって その機能を取り消し、一方伝達の表現になってしまうのである。
S H
図20:疑問詞+ダロウネ
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3.5.1.3 「詰問」のだろうね
そして、ダロウネの語用論的用法20-「詰問」を見てみよう。前節で掲げた ように、「詰問」という機能は、推量を表すダロウと確認のネと共起して派生 してくるもので、本来、話し手の推量したことを相手に伝えて確認するという 働きをしている。しかし、状況によって話し手が聞き手に不信感を抱いて発話 する際に、自分の推量した結果を相手に与えるが、相手の返答は、ダロウネ文 の命題部分以外の選択を許さないという非妥協性21を有している。したがって、
図Dのように、情報確認の部分(色の薄い逆矢印)が背景化され、破線の矢印 で表す「詰問」がプロファイルされてくる。
図21:詰問のダロウネ
3.5.2 皮肉のダロウヨ
ダロウヨの場合、話し手が聞き手より多くの情報を持っていて、つまり情報 量の関係は【S>H】になっているので、図 E のように、情報範囲の中に話し 手しかおらず、話し手は情報範囲外の所に置かれている。
また、ダロウヨとダロウネはいずれも聞き手目当ての働きをしているが、異 なっているところは、言及する対象である。それは、推量のダロウが一方的情 報供与のヨと共起する形式が、会話内容の中に出てくる人物にまでも投射され る働きを持っている、ということである。すなわち、ダロウと結びついたヨは 元来の一方的情報供与の働きを通して「皮肉」となり、しかもその対象は聞き 手とは限らず、会話内容中の対象も射程内に入ってくるのである。この場合の ダロウは推測の意味になる。
図22:ダロウヨ
20 3.1.3 ダロウネの分析を参照。
21 例えば、「あのことは大丈夫だろうね?」と質問した場合、話し手は「あのことは大丈夫だ」
という内容以外の返答を受け付けない。
S H
S H 話題の
人物
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3.5.3 非難のダロウガ
ダロウガの場合、ダロウネやダロウヨと異なって、情報範囲の決め手は終助 詞ネかヨではなく、ダロウそのものである。 さらに、非難の発動条件は、確 認要求を表すダロウと終助詞ガとの共起のため、話し手と聞き手が必ず同じ情 報範囲内に置かれていなければならない。なぜならば、終助詞ガがなければ、
ダロウの表わす機能は「確認要求」であり、「確認要求」は、話し手と聞き手 が情報を共有しているものである。従って、話し手と聞き手が同じく情報サー クルに置かれる。
ダロウガの語用論的解釈のプロセスはダロウネと似通っている。それは発話 における確認の働き(色の薄い逆矢印)が、終助詞ガの共起によって背景化さ れて、非難の意味が入り込む(破線の矢印)、という点である。が、ダロウガ は聞き手に直接非難をぶつけて相手に打撃を加えることを目的とするもので あるため、ダロウネと比べて譴責の意味が強く感じられる。
S H
図23:ダロウガ
なお、非難という意味の発生は、相手に突きつけたい事実と現実の結果が逆 接の関係になっていることからくる。すなわち、終助詞ガとの共起がなければ、
ダロウだけでは非難の意味にならない。それ故、ダロウガが表わす非難の意味 は接続助詞としてのガが元々持つ逆接の用法から派生していると思われる。こ
ダロウだけでは非難の意味にならない。それ故、ダロウガが表わす非難の意味 は接続助詞としてのガが元々持つ逆接の用法から派生していると思われる。こ