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接続助詞ガの基本用法と終助詞的な用法への拡張

第三章 ダロウと終助詞

3.3 ダロウガ

3.3.1 ガの終助詞的な用法について

3.3.2.1 接続助詞ガの基本用法と終助詞的な用法への拡張

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

(49) 今日の試合は、がんばったが負けてしまった。

(50) 先日お願いいたしました件ですが、引き受けていただくことはできま せんでしょうか。

(51) すみません、ちょっとお先に失礼させていただきたいんですが。

しかし、上のような分類はやや不適切なところがあると思われる。例(48)

と例(49)は前半と後半の内容が対立していたり、前半のことから予想される 結果と反対のことが後半に述べられていたりする9。『日本語文型辞典』による と、(48)と(49)は同じく「逆接」に分類される。しかし、両者はテ形を使 って言い換えるとその差異がはっきりする。

(48’)彼は学生で、私は社会人だ。

(49’)*今日の試合は、がんばって負けてしまった。

なぜなら、(48’)はただ前件と後件は対比的に並べて示されている10だけな ので、テ形に置き換えても意味もほぼ同じであるのに対して、(49’)は前半と 後半の内容が原因-結果の関係になっているので、むしろ「逆接」のプロトタ イプ的な用法と思われるからである。それ故、(49)は「逆接」であるが、(48)

のような用法は「対比」に分類したほうがよかろう。また、(51)のような表 現は、文末に付けて言語化しないまま言いたいことを仄めかしているので、「言 いよどみ」と名づけられるのだが、この場合、ガの節は「事情説明」となる。

以下で先行研究を踏まえて、また『日本語文型辞典』の分類に従って接続助 詞ガを検討したいと思う。

3.3.2.1 接続助詞ガの基本用法と終助詞的な用法への拡張 A. 対比と逆接

接続助詞のガの用法には、階層性があると思われる。先の『日本語文型辞典』

の例(48)と(49)を見てみよう。

(48) 彼は学生だが、私は社会人だ。

(49) 今日の試合は、がんばったが負けてしまった。

(48)の例は、文脈によって「対比」とも「逆接」とも取れる。単に二人の 職業を比較する場合なら、例(48)は「対比」になるが、もし「若いですね。

あなたたちは学生さんですか。」という問に対する答えとしては、例(48)は 逆接と解釈できる。

9 『日本語文型辞典』p68-69

10 庵功雄等(2000)

‧ 國

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また、「対比」は必ず主語が違うが、「逆接」は主語が同じ場合も違う場合も ある。例えば、(49)である。構文上は「対比」と「逆接」は違うが、意味で は、前件と後件の意味は対立的な関係になっている。よって、「逆接」は広義 の「対比」の一種と言えよう。

図 7 対比と逆接の関係

対比(前件と後件の主語が違う)→逆接にもなる

└→前件と後件の主語が同じ場合もある

「逆接」と「対比」は前件と後件の内容が一見平等に扱われているが、興味深 いことに両者が位置を交替されると、ニュアンスがだいぶ違うようになる。

(52) このおかしはおいしいですが、高いです。

(52’) このおかしは高いですが、おいしいです。

上の例はどちらもおかしについて説明している文であるが、比較してみる と、(51)はおかしの値段に注目しているのに対して、(52’)はおかしの味に 目を向けている、と感じられる。では、「対比」の場合はどうだろうか。

(53) タンさんにはプレゼントをあげましたが、カンさんにはあげませんで した。

(53’)タンさんにはプレゼントをあげませんでしたが、カンさんにはあげ ました。

上の例は、前件と後件を交代してもあまり差がないようであるが、下のよう に場面を加えてみればその差異がはっきりわかる。

(54) A:二人にプレゼントをあげましたか。

B:タンさんにはプレゼントをあげましたが、カンさんにはあげませ んでした。

B:??カンさんにはプレゼントをあげませんでしたが、タンさんには あげました。

何故前件と後件を交代するとニュアンスの違いが出てくるのだろうか。それ は伝えられる情報の量から見れば、前件と後件いずれも等しい量を持っている と思われるが、情報価値上は等価ではないのである。確かに二つの文に分ける と、それぞれ独立の文と認められる。しかし、接続助詞ガを用いて一つの文に

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なすとき、ガによって一種の比較が行われ、前件の文/節がただ比較の基準と して提示され、後件こそ発話者が強調したい部分となる。(54)の状況で説明 すれば、A の質問から分かるのは、B がプレゼントをあげたことである。それ 故、B にとってプレゼントをあげたことより、あげなかったことのほうが情報 価値があると思われるので、後件として発話されるのである。これはまさに石 黒の挙げた「後件比重性」という逆接の性格に合致すると思われる。従って、

「対比」と「逆接」は「後件情報重視」の情報構造になっていると思われる。

B. 前置き

次に、「前置き」を見てみよう。

(55) このあいだお願いした件なんですが、あれ、引き受けていただけます か。

(56) A:日本は物価が高いですからね。

B:私は去年日本へ行ったんですが、それほど高いとも思いませんでし たよ。

「前置き」とは、本題・本論に入る前に関連のあることなどを述べることを いう。実例としては、(55)(56)のように話題の提示や話題の展開の前提とい うことである。いずれも前件が後件の主張の前提となっているが、もしこの「前 置き」がなくなると、

(55’) あれ、引き受けていただけますか。

(56’) A:日本は物価が高いですからね。

B:それほど高いとも思いませんでしたよ。

(55’)では聞き手は心の準備ができていないのですぐ話題にはついていけず、

(56’)はいきなり話題が変わったという唐突感を聞き手に与えるであろう。

この「前置き」の用法が定式化したものが、

(57) もしもし、田中ですが。

という電話における「名乗り」である。電話では顔が見えないので、前置きと して「名乗り」をすることが会話を始める前提になるからである。

C. 事情説明

下のように「前置き」と似通っている表現もある。

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(58) あのー、テレビの音がちょっと大きいんですけど…。

(59) 先生、ちょっと頭が痛いんですが…。

一見後件の内容がない文であるが、実はその後件は文脈から回復できる。

(58)は「小さくしてもらえませんか」、(59)は「帰ってもいいですか」など が隠されていると思われる。これは、ガ・ケドの節で自分に関する状況を前提 として説明し、本当の目的は後件の相手への依頼や訴えを仄めかす、という用 法である。後件の内容に依頼や要求などのことが多く来るので、「前置き」と 区別して「事情説明」と呼ぶことにする。

また、後件の内容をはっきり言語化しないで、わざと相手に思い出させると いうことも「事情説明」の特徴の一つである。

D. 問い返し

「事情説明」と同じく、次の「問い返し」の用法は、後件が省略されるが、

目的は相手に後件の内容を自ら予想させるということである。これは「問い返 し」というディスコースの中で発生することなので、会話文に限られた用法と なり、従ってガでなくケドが多用される。

(60) A:あれっ、どこへ行くんですか?

B:え?家へ帰るんですけど ↑ (どうしてそんなことを聞くんです か?)

(61) A:いいマフラーね。どうしたの?

B:彼のプレゼントだけど ↑11(だから何なの?)

(60)ではBはAがなぜそんなことを聞くのかいぶかっており、(61)ではBは Aの質問をうっとうしく感じている。これは、ケドの中に後件の意図を含ませ ることによって、後件を敢えて発話せずにすんでいるのである。

興味深いことに、この用法が「相手の問いの前提を問い返す」という含みを 持つ時は、イントネーションは上昇調である。もしイントネーションが下降調 に置き換えると、後の「言いさし」の用法になってしまう。

E. 言いさし

今まで触れてきた用法では、いずれも「後件情報重視」と関わっている。し かし、「言いさし」用法は後件を持っていない。「言いさし」とは、形式上で主

11 (29)と(30)が同じく、インドネーションが上昇調の場合は、「そんなことを聞くな」と いう反抗のニュアンスがあるのに対し、平板調の場合は「私の行為に問題があるの?」という 不安を表す。

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節を伴わずに従属節のにで表現される12用法をいう。 下の例は、ガ・ケドに よって「相手の反応を見る」という言いさし用法がされているものである。

(62) A:あの人、結婚してるかしら。

B:さあ、私は独身だと思うけど。

B の発話のガ・ケドの後件を復元するのは不可能である。さらに、ガ・ケド が付けることによって、相手がどのように受け止めるか、話し手が気にしてい る、という含みが覗える。それは、ガを付けた文と付けない文を比較すればよ く分かる。

(63) a.それじゃ、私、帰る。

b.それじゃ、私、帰るけど。

(63)a はただ意志の宣告をしているに過ぎないのに対して、(63)b は聞き手 の反応を期待するニュアンスが感じられる。

なお、後件が表出されないという特徴から考えて、「言いさし」は接続助詞 としての機能が薄れ、終助詞的な用法に移りつつある段階と考えられよう。

F. 非難

最後に非難を表わすガである。この用法はケドは使えず、ガに限られる。例

(47)に戻ってみよう。

(47)「この馬鹿やろう。もののたとえで言ってるんだろうが。」

(47)「この馬鹿やろう。もののたとえで言ってるんだろうが。」