• 沒有找到結果。

3 評価副詞「よく」の機能

3.2 評価副詞「よく」の文法特徴

3.2.3 モダリティ表現との共起制限

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

一方、(33)において、話し手は、「田中さんがあんな早い英語を正確に聞 き取れた」ことに対して、自分の感心・賞賛の気持ちを表す。その文末の述 語動詞が「聞き取れた」なので、評価する焦点は田中さん自身持っている能 力ではなく、過去の事柄である。

したがって、ル形の場合に「よく」が評価するのは、対象の能力・性格・

属性である。それに対して、タ形の場合に「よく」が評価するのは、すでに 発生した事態である。

中右(1979)のモダリティ論によれば、モダリティとは、発話の時点にお いて、その状況に対し話者が示す心理的反応を表現したものである。したが って、すべての評価の「よく」の例文において、評価される事柄が過去のも のであっても、評価の「よく」が表す話し手の心的態度は、あくまでも発話 時点のものである。

3.2.3 モダリティ表現との共起制限

評価の「よく」は、動詞との共起制限がほとんどないが、モダリティ表現 との共起は制限される。上に挙げた評価の「よく」の例文によると、共起す るモダリティ表現は、「ね(ねえ)、よ、な(なあ)、わね、もの(もん)」な どのような伝達態度のモダリティであることがわかる。では、評価の「よく」

はどんなモダリティ表現と共起すると不適格文になるのか。この点について 論述する前に、先にモダリティの種類を説明したいと思う。

『日本語記述文法研究会』(2003)では、モダリティの種類は次のように説 明されている。モダリティを表す要素には、文の伝達的な表し分けに関わる もの、命題が表す事態のとらえ方に関わるもの、文と先行文脈との関係に関 わるもの、聞き手に対する伝え方に関わるものという 4 つのタイプが存在す る。そのタイプがさらにいくつかの種類に分かれるものもある。それぞれの 下位類型がやや複雑なので、ここでモダリティの種類を次のようにまとめる。

‧ 國

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

(34) 叙述のモダリティ 情報系

疑問のモダリティ 文の伝達的な表し 表現類型の

分けを表すもの モダリティ 意志のモダリティ 行為系 勧誘のモダリティ

行為要求のモダリティ モ

感嘆のモダリティ ダ

命題が表す事態の 評価のモダリティ リ とらえ方を表すもの 認識のモダリティ

テ 文と先行文脈との 説明のモダリティ ィ 関係づけを表すもの

聞き手に対する 伝達のモダリティ 丁寧さのモダリティ 伝え方を表すもの 伝達態度のモダリティ

日本語のモダリティは、上のような様々な種類のモダリティによって相互 に関係しながら体系が成されている。文の基本的な性質を決める表現類型の モダリティによって、その文にどんなモダリティが出現できるかが決まる。

では、どの表現類型のモダリティの文に、評価副詞の「よく」が現れるこ とができるか。表現類型のモダリティに基づくと、評価副詞の「よく」の相 互関係は次のようにまとめられる。

(35)表現類型のモダリティと評価副詞の「よく」の相互関係

‧ 國

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

表現類型

情報系 行為系

叙述 疑問 意志 勧誘 行為要求 感嘆 評価の「よく」 ○ × × × × ○

上の表において、○は、その表現類型のモダリティが評価の「よく」と共 起できることを、×は共起できないことを表す。上に述べたように、評価の

「よく」は、命題の担い表している事態の内容の増減に関与せず、事態に対 する話し手の評価的な態度を表したものである。こうした定義上、評価の「よ く」は、疑問や意志、勧誘、行為要求などの表現とは決して共起できない。

それに対して、叙述と感嘆のモダリティが、評価の「よく」の意味と衝突し ないので、平叙文と感嘆文には、評価の「よく」の副詞が自然に付加される。

(36)そんな大事な秘密をよく私に話してくださいました。255(叙述)

(37)なんとまあ~よく探しましたよね!256(感嘆)

『日本語記述文法研究会』(2003)では、評価のモダリティ、認識のモダリ ティ、説明のモダリティは次のように説明されている。

評価のモダリティとは、話し手が何らかの事態を述べ伝えるときに、その 事態に対する話し手の評価的なとらえ方を表すものであり、基本的意味の面 から見ると、「必要」、「許可・許容」、「不必要」、「不許可・非許容」の四つに 分けられる。認識のモダリティとは、事態に対する話し手の認識的なとらえ 方を表すものであり、そのとらえ方としては、「断定」、「推量」、「蓋然性」、

「証拠性」などがある。説明のモダリティとは、文と先行文脈との関係づけ を表すもので、主に「のだ」「わけだ」によって表される。

三つのモダリティは、評価の「よく」の意味と衝突するので、いずれも共 起しにくい。次に伝達のモダリティと評価副詞の「よく」の相互関係を考察 する。次の表と例文を見てみよう。

255 クループ・ジャマシイ『日本語文型辞典』

256 http://blogs.yahoo.co.jp/yevicanidaisuki/26225397.html

‧ 國

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

(38)伝達のモダリティと評価副詞の「よく」の相互関係

伝達のモダリティ

丁寧さのモダリティ 伝達態度のモダリティ 普通体 丁寧体 終助詞

評価の「よく」 ○ ○ ○

(39)本当にみんな、こんな夜遅くまでよく働いてくれたね。257(普通体)

(40)本当にみんな、こんな夜遅くまでよく働いてくれましたね。(丁寧体)

(41)わかりにくい道だったのに、よく間違えませんでしたね。258

(42)あんな情けないこと、よくやるよ。259

(43)親に向かってよくそんなことが言えるな。260

(44)あんな大けがをして、よく死ななかったものだ。261

上の例文によると、評価の「よく」と共起する伝達態度のモダリティ表現 は、伝達を表す「よ」や確認・詠嘆を表す「ね(ねえ)」、「な(なあ)」など の終助詞、及び感嘆を表す「もの(もん)」などのような終助詞相当の形式で あることがわかる。『日本語記述文法研究会』(2003)によれば、丁寧さのモ ダリティは、聞き手や発話状況に応じたスタイルの選択に関わるものである。

基本的スタイルは普通体と丁寧体である。伝達態度のモダリティは、話し手 が発話状況をどのように認識し、聞き手にどのように示そうとしているのか を終助詞によって表すものである。両方とも対人的モダリティに属するので、

(39)~(44)のように、対事的モダリティの「よく」を含む事柄全体を包 み込むことができ、聞き手に対する敬意や伝達、確認などに関わる機能を持 っている。

257 クループ・ジャマシイ『日本語文型辞典』

258 森本順子「副詞的機能とモダリティ―「よく」について」『京都教育大学紀要』

259 クループ・ジャマシイ『日本語文型辞典』

260 飛田良文・浅田秀子『現代副詞用法辞典』

261 『広辞苑』

‧ 國

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

4 まとめ

以上、副詞とモダリティに関する先行研究を踏まえ、評価の「よく」の意 味や働きを考察したことをまとめれば、次のようになる。

(a) 「さいわい、あいにく」などの絶対的な評価に対して、「よく」の評価 は、話し手の判断によってプラス評価かマイナス評価に決められる。

(b) プラス評価の「よく」とマイナス評価の「よく」、両方に共通する点が 二つある。

① 両方とも話し手に評価される事柄が困難、非常識、あるいは話し手 が考えられず、普段の言動に反する、ということを前提とする。

② 両方とも驚きの成分を含んでいる。

(c) 様態、程度、量、頻度の「よく」は、動詞、動詞句をスコープとして修 飾し、焦点を動詞に置く。したがって、それと共起する動詞は副詞の意 味によって限られている。それに対して、評価の「よく」は、焦点を動 詞に置かず、動詞を含む事柄におくので、動詞との共起制限上のルール が非常に緩む。

(d) 評価の「よく」の文における述語動詞はル形とタ形両方ともとることが できる。ル形の場合に「よく」の評価は、対象の能力・性格・属性に向け られる。それに対して、タ形の場合に「よく」が評価するのは、すでに発 生した事態である。

(e) 評価の「よく」の文において、評価される事柄が過去のものであっても、

評価の「よく」が表す話し手の心的態度は、あくまでも発話時点のもので ある。

(f)評価の「よく」のモダリティ表現との共起制限について、次のようにまと められる。

① 評価の「よく」は、命題の担い表している事態の内容の増減に関与 せず、事態に対する話し手の評価的な態度を表したものなので、疑 問や意志、勧誘、行為要求などの表現とは決して共起できず、叙述、

感嘆のモダリティと自然に共起する。

‧ 國

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

② 評価のモダリティ(「必要」、「許可・許容」、「不必要」、「不 許可・非許容」)と認識のモダリティ(「断定」、「推量」、「蓋 然性」、「証拠性」)、説明のモダリティは、評価の「よく」の意 味と衝突するので、いずれも共起しにくい。

③ 評価の「よく」の文末には、「よ」や「ね(ねえ)」、「な(なあ)」

などの終助詞、及び感嘆を表す「もの(もん)」のような終助詞相 当の形式などがある。いずれも対人的モダリティに属し、対事的モ ダリティの「よく」を含む事柄全体を包み込んで、聞き手に対する

などの終助詞、及び感嘆を表す「もの(もん)」のような終助詞相 当の形式などがある。いずれも対人的モダリティに属し、対事的モ ダリティの「よく」を含む事柄全体を包み込んで、聞き手に対する