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3 様態副詞「しっかり」との違い

3.2 共起成分の違い

立 政 治 大 學

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「よく」と「しっかり」をそれぞれ語 A と語 B とすれば、「よく①」の用 法は、用法群 A2 に相当し、「十分に、また確実に物事を行うさま」を表す「し っかり③」の用法は、用法群 B2 に相当すると考える。「よく①」の性質はす でに考察した。次は「しっかり」の性質を分析し「よく①」と「しっかり」

の異同を考察する。

3.1 本質が違う

「よく」と「しっかり」は、ある場合に類似の用法があって入れ替えるこ とができるが、いくつかの相違点があり、まずは「しっかり」と「よく」の 類別を考察する。「しっかり」は、動詞にかかって、動作行為が着実真剣に行 われるさまや、物事が堅固であるいは堅実なさまなどを修飾する働きを持ち、

様態副詞に属する。様態副詞は、程度副詞や頻度副詞や結果副詞などに比べ て、語彙的に雑多なタイプを持つ副詞である。しかし、様態副詞についての 全体的でまとまった研究は、非常に少ない。管見のかぎりでは、仁田(2000)

を除けばほとんど存していない。仁田(2000)は、様態副詞の類いを大きく

<動き様態の副詞>と<主体状態の副詞>とに分けている。「しっかり」は、

様態副詞の中核的な存在である<動き様態の副詞>のうちの<動きの勢い・

強さを表すもの>と分類されている。23一方、「よく」は、「お酒をよく飲ん だ」「よく歩いた」のように、「オ酒ヲ[X]飲ンダ」/「[X]歩イタ」という 構文に挿入できるが、形容詞を修飾できないから、量程度副詞ではなく、基 本的に様態副詞である。しかしながら、多くの場合に「よく」は確かに、程 度性を持つ語を修飾して、その属性・状態の程度限定を行いうる。そしてあ る場合に程度を表すのみならず、量副詞が果たす働きをも担っている。した がって、様態副詞にある条件が揃うと、程度副詞、量副詞のように使えると いえるであろう。

3.2 共起成分の違い

23 さらに、仁田(2002)は、「久子は、信一にしっかりとしがみついていた。」などの下線部 が、密着性を色濃く出しながら、動きの勢い・強さに関わっているタイプであり、「しっか り見て買ってらっしゃいよ」などになると、既に密着性から距離を置き、動きの勢い・強さ や程度性の表現になっているものである、と説明している。

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次は共起成分の違いを述べる。「しっかり」と共起する動詞を考察する前に、

先に日本語の動詞分類について説明する。吉田(2005)は、湯(2003)の立 場に従い、日本語の動詞分類が次のように分けられると指摘している。

(18)

a. 能格動詞:自他両様の機能を有する動詞。

「開く」「閉じる」など。

b. 非能格動詞:従来の自動詞:意志性の動詞。

「歩く」「立つ」など。

c. 対格動詞:従来の他動詞。 意志性の動詞

① 典型的他動詞:「本を読む」など。

② 非典型的他動詞:「熱を出す」など。

d. 非対格動詞:非意志性の自動詞。 非意志性の動詞

「落ちる」「死ぬ」「転ぶ」など。

では、「しっかり」はどんなタイプの動詞と共起するのか。検索エンジン Google や Himawari のコーパスなどを用い、共起する動詞を検索したが、ほ とんど全部のタイプの動詞と共起することができそうである。

(19) 脚を[しっかり/≒よく]24開いて立ち、まず首を左右にまげる。25

(20) 牛乳は茶葉が[しっかり/≒よく]開いてから入れる。26

(21) 立っている時はなにかに寄りかかるような立ち方ではなく、両足で

[しっかり/*よく]立つ。27

(22) このままの運動習慣で、[しっかり/≠よく]歩いて気力体力を充実 させ、自分のやりたいことを積極的に続けていきましょう。28

(23) 「元気を出して、これからも、[しっかり/*よく]がんばってね―」

24 例文中の記号、≒は意味が似ていることを示し、*は不適格であることを示し、≠は意味が 違うことを示す。

25 古屋三郎『1年の体育』

26 http://www.d2.dion.ne.jp/~chisa708/image1/tea-oisi.html

27 東照二『社会言語学入門』

28 黒田恵美子『いつもの歩き方を変えるだけでキレイになる!』

34 http://detail.chiebukur o.yah oo.co.jp/qa/question_detail.php?qid=146833779

35 http://www.hosp.go.jp/~sokayama/clinic/are/check.html

36 湯谷純明『ストロークカットをマスターする』

37 大越俊夫『こう考えると、人生は変わるよ』

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幅は極めて広いといえる。また、「しっかり」がプラス・マイナスのイメージ がない語ということも分かる。(7)~(13)の例文において、「よく①」と共 起する動詞は、いずれも「しっかり」と共起でき、しかももとの意味といく らも違わず、両方とも動作が十分に行われることを表す。しかし逆に、(19)

~(31)の「しっかり」が用いられる例を見ると、全部「よく」に置き換え ることができるわけではない。2.2 で考察したように、「よく①」と共起する 動詞は、意志動詞且つ「動作を重ねれば重ねるほど結果がよくなる」という 性質を有しなければならない。「しっかり」と比べて、「よく①」と共起する 動詞は、ずいぶん限られている。したがって、(19)~(31)において、「し っかり」を「よく」に入れ替えても意味が大きく変わらない動詞は、やはり

「よく①」の共起成分の要求に応じなければならない。

では、「しっかり」と共起する「作る」、「建てる」、「彫る」などの生産動詞 は、「よく①」と共起できるのか。次の例を見てみよう。

(32) 晴夫は「そうだよ。ゆっくり休んで、子供達との思い出を[しっか り/*よく]作りなさいや。私は明日忙しいから寝るよ」と床についた。

38

(33) 「[しっかり/*よく]建てて、長く住む」― 家づくりは「良質な ストック形成」の時代へ。 39

(34) そして、もし、そのお店(実店舗)が気に入ってご注文される場合 には、忘れずに必ず一言[しっかり/*よく]彫って。」と付け加えて ください。40

「作る」、「建てる」、「彫る」などの生産動詞は、一見して「動作を重ねれ ば重ねるほど結果がよくなる」という性質がありそうだが、実際には、「かむ」、

「泡立てる」、「冷ます」などと違って、「よく①」と共起できない。というの は、これらの動作が〈反復性〉の性質を持たず、〈完成性〉の性質を持つから だ。〈反復性〉を有する動詞とは、同じ動作を繰り返すことができる動詞であ

38 山田芝夫『てるてるぼうず』

39 http://www.tokyo816.jp/event/axis/volume1/axis0202.html

40 http://www4.ocn.ne.jp/~tsuda21/kotu.html

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る。たとえば、「話し合う」、「調べる」、「かむ」、「泡立てる」、「冷ます」など である。動作の繰り返しに焦点を絞る〈反復性〉に相対し、〈完成性〉は動作 の完了に重点をおく。次に挙げる生産動詞は、動作の繰り返しに重点を置か ず、生産物を産出するという点に重点をおくから、「よく①」と共起すると、

いずれも不適格文になる。

(35) (程度の)*よく「家を建てる、料理を作る、仏を彫る、鶴を折る、

洋服を縫う、セーターを編む、穴を開ける、トンネルを掘る、ご飯を 炊く…」

したがって、「よく①」と共起する動詞は、〈反復性〉を持つ動作を重ねれ ば重ねるほど結果がよくなる」という性質を持たなければならないといえる であろう。しかし、生産動詞は全部「よく①」と共起しないわけではない。

たとえば、

(36) ステーキをよく焼くことで、肉汁が落ちて脂質と糖質が少なくなっ ている。 41

(37) 離乳食をあげたほうがよくなるという噂もあるので、とりあえ ず「にんじんおかゆ」を よく煮て、よくつぶして、あげてみまし た。42

のような文は「よく①」と共起する実例である。鈴木(1972)によると、「~を」

の語は対象語と言われ、典型的なものは「はたらきかけを受ける対象」にな る。たとえば、「熊を撃ち殺す」など。一方、「ご飯を炊く」、「鶴を折る」な どの例が、「熊を撃ち殺す」のような典型的な例の変種とされ、述語(「炊く」、

「折る」)が生産性の動詞であり、対象(「ご飯」、「鶴」)がその動作によって 生産されたものであり、このような構文における動詞は「生産動詞」と呼ば れている。

41 http://kiroyn.blog.drecom.jp/archive/765

42 http://baby2timerimit.blog89.fc2.com/blog-entry-31.html

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(38) 具体名詞(を格) 生産性の動詞

(生産物) (鈴木 1972:p74)

したがって、「肉をステーキに焼く」の「焼く」は変化動詞で、「特上の肉 でステーキを焼く」の「焼く」は生産動詞である。(36)(37)の「焼く」、「煮 る」は生産動詞でありながら、文脈において、動作の繰り返しに焦点を絞る と認められるので、「よく①」と共起できる。

以上のことから分かるように、「よく①」と共起する場合、動作主が有情物 であること、そして動詞が意志動詞、「〈反復性〉を持つ動作を重ねれば重ね るほど結果がよくなる」という性質を有することが要求されると考えられる。

また、こういう性質からいって、この種の動詞が低から高への程度性とプラ スの意味を持っているということがわかる。

次に挙げる心理現象を表す動詞は、動作主が有情物でありながら、通常動 きの主体が自分の意志でそれを制御できないため、「よく①」と共起しにくい。

そして、これらの心理動詞は、「〈反復性〉を持つ動作を重ねれば重ねるほど 結果がよくなる」という性質を持っていないので、程度の「よく」と共起す ることができない。

(39) (程度の)*よく「飽きる、苛立つ、浮かれる、驚く、怯える、悔 やむ、困る、しょげる、躊躇う、照れる、妬む、腹立つ、迷う、悩む、

苦しむ、心配する、緊張する…」