4 まとめ
2.1 主体の具体的な動作を表す動詞と共起する場合
國
立 政 治 大 學
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N a tio na
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く」などの変化動詞が挙げられる。これらの動詞は、主体の具体的な動作を 表す動詞と、主体の状態・属性を表す動詞という二つのグループに分けられ る。
2.1 主体の具体的な動作を表す動詞と共起する場合
まずは、「よく②」と共起できる、具体的な動作を表す動詞の特徴を考察す る。
(15) 順子は、よくしゃべる人だなと思った。同時に安心感を覚えた。57
(16) 幸恵は船柄の網元の娘で、お嬢さん育ちのはずなのに、性格も口調 もざっくばらんである。しかも、何でもよく食べる。58
(17) 子ども達はよく走る。一人でも走るし、友だちと一緒だともっと走 る。59
前に述べたように、「よく①」と共起できる動詞は、意志動詞且つ「動作を 重ねれば重ねるほど結果がよくなる」という動きの内的性質を有するもので なければならない。しかし、(15)~(17)のような例では、「しゃべる」、「食 べる」、「走る」などは意志動詞でありながら、こういう動きの内的性質を有 するとは考えられない。佐野(2006)で指摘されているように、この場合は 動きの量が増えるだけで、動きそのものの質を高めることはできない。なぜ かというと、これらの動詞が、いくら主体に重ねられることによっても、結 果(客体が変化を受ける程度や対象に対する理解の程度など)が段階的によ くならないからである。例えば、(15)の「しゃべる」という動きは、いくら しゃべっても「しゃべる」量が増えるだけで結果がよくならない。また、(16)
の「食べる」と(17)の「走る」も同様、動作を持続させても「食べる」量 と「走る」量が増えるだけで結果がだんだんよくなるとは認められない。
また、「よく②」と共起する具体的な動作を表す動詞は、「よく①」と共起
57 亀山等『春陽』
58 佐直義治『和田一族の末裔』
59 下住まゆり『あなたのうた』
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する動詞に比べると、両者の間に三つの相違点があるということがわかる。
一つは、「よく②」と共起する動詞は、主体の具体的な動作を表すものである が、実際には、これらの動詞は、「よく①」と共起する動詞と違って、「よく
②」と共起したときに状態・属性を表していると考えられる、ということで ある。60すなわち、(16)の「よく食べる」は全体として、「大食漢だ」を表 すと捉えることができる。(15)の「よくしゃべる」と(17)の「よく走る」
も同様、それぞれ「おしゃべりだ」「走るのが好きだ」など、形容詞に似た働 きを持っている。
もう一つは、「よく①」と共起する動詞は、動きの限界があるのに対して、
「よく②」と共起する動詞は、その限界がない、ということである。前者は、
動作を重ねることによって招来された結果状態が極限に達すると同時に、動 きも限界になる。しかし、後者の動詞は、「よく②」と共起すると、状態・属 性を表し、そしてこの状態・属性の「程度性」に制限がないので、動きの量 の限界もないのである。たとえば、
(18) どんなものでもよくかむこと。よくかんで食べれば胃の負担が少な くなります。61
のような例文において、口の中の食べ物が完全に砕けたときは、「かむ」とい う動作の完遂点である。それに対して、(16)において、「食べる」という動 きの量は無限に増やせる。図示すれば、次のようになる。
(19) 動作 動作 動作 動作 (例:食べる 食べる 食べる 食べる)
ちょっと よく 無限 基準 動きの量は無限
60 同様な指摘は近藤(1986)や佐野(2006)でもされている。
61 河野友美・高山英世共著『高年者食事』
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63 http://www.geocities.co.jp/SweetHome/3906/geoboardlog_old/236.html
64 http://www.geocities.co.jp/SweetHome/3906/geoboardlog_old/236.html
65 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1210814077?fr=rcmd_chie_detail
66 新美南吉『最後の胡弓弾き』