第 4 章 分析と考察
4.4 意味用法
4.4.1 使用された「じゃないか」の用法
まずは、「述べ立て」用法について述べていく。「述べ立て」とい う個人的な意見や評価を表す時、「じゃないか」が頻繁に用いられ たのは、話し手が丁寧に自分の言いたいことを述べ、主観性を回避 することが予想される。その理由は以下の二つから考えられる。
一つ目は、その丁寧さについて、「丁寧に聞き手に疑問の答えを 要求する」という「じゃないか」の典型的な「否定疑問」用法の発 話意図から考えられる。しかしながら、相手に疑問の答えを要求す るのとは違って、ただ自分の考え方を相手に受け入れられるような 軽い反応を求めるだけで、その丁寧さはここから生まれたこともあ り得る。第二に、佐竹(2005)では、若者たちが好む言葉遣いの特 徴の一つは、文末で断定を避ける表現であり、年上に対してよく「じ ゃないですか」を使って表現を和らげ、相手の同意を得てから次に 話を続け、会話をスムーズに進めさせる方法の一つであると述べら れている。もっとも、「じゃないですか」という和らげる表現によ
ましさを感じさせることにもなる。これは、吉川(2002)の「面白 いじゃないですか ↘。」「私、四月一日生まれじゃないですか ↘」な どのような個人的な価値判断を含む個人情報の場合、「じゃないで すか」は独り善がりで強引な表現になるということに一致する。と ころが、「上村コーパス」のインタビュアーとインタビュイーとの 関係は、教師と学生であり、教師は絶対に年上であるとは言えない が、目下の学生が目上の教師に対して、自分の意見を表す際に「で す・だ」などの断定表現を回避し、表現を和らげているに過ぎない。
また、これはインタビューの形で会話を進めているもので、そこで、
「述べ立て」の「じゃないですか」は会話の進め方になるのも否定 できない。
次に、「視覚・現実判断」用法について論じてみたい。NS も NNS も「述べ立て」以外に、この用法がよく使われているが、その使用 実態が異なっている。基本的には、NS と NNS とも、ある現実や事 実を対象として判断を下す場合、「じゃないか」を使用しているが、
NS の方は、常に比較する基準を伴う表現が多いと観察された。比 較する基準とは例えば、表 15 のようなものである。
表 15 NS の「視覚・現実判断」で現れた比較基準
番 例文 比較基準 イントネ
ーション 1
「仕事のその、密度って〈略〉案外、高い
んじゃないかな」(NS8(3)) 日本人の働き方 下降調
2
「日本人は、だらだら長くっていう方も割 りと多いんじゃないでしょうか」(NS8(4))
ドイツ人の働き方 下降調
3
13
「ここに来てからなんだ日本の受験生と
変わんないじゃないか」(NS47(1)) 日本の受験制度 下降調
表 15 の例を見たら分かるように、主語がはっきりと文の中に現 れていないものが多い。1 番はプリンストン大学の学生の勉強する 様子、2 番は現在女子テニス選手の人数、3・4 番はそれぞれドイツ 人・日本人の働き方、5 番は国際基督教大学にあるテニスクラブの やり方、6 番は塾に通っている中学生の人数、7 番はイギリスの休 日数、8 番は小学生がお弁当を持つこと、9・10 番はそれぞれ日本 人の働き振り・ボランティアの仕方、11 番は現在アメリカで部屋を 探すこと、12 番はプリンストン大学の学部生の忙しさ、13 番は西 欧人が絵を書く時の色使い、14 番はモネが描こうとしているもの、
15 番はアメリカの受験制度、という内容である。これらの用例から、
NS がある物事や事実に対して判断をおろす場合、そのこととの比 較基準を出すことが観察された。しかし、NNS の用例ではこの現象 が見られなかったが、今回の調査では NNS の「じゃないか」の使 用が少ないため、何も断言できない。しかも、NS のこの現象は、
ただ下降調の用例だけで現れ、19 例のうち 13 例もある。
そして、NS も NNS も「一般通念」の使用例が見られたが、NS は 16 例あり・NNS は 1 例しかない。また、NS の用法のうち、「一 般通念」の使用率はやや低いものの、自然会話の中で一般の人々が 共通している考え方でも、NS は断定表現より「じゃないか」を使 い、相手の認識を喚起する傾向がある。しかし、NNS の用例では、
このような傾向が観察されなかった。これは、もともと NNS のデ
さらに、「否定疑問」「仮定状況」の二つの用法は、NS の方だけ が用いられ、NNS の用例が見られなかった。それにもかかわらず、
NS の用例にも、この二つの用法はの使用が極めて少なく、「否定疑 問」は 2 例(2.7%)・「仮定状況」はただ 1 例(1.4%)である。
NS による典型的な「否定疑問」用法が少ない原因は、前述のよ うに、「じゃないか」が持つ丁寧さが他の用法に移転し、単なる「否 定疑問」は自分の言うことを相手に押し付けてしまう可能性もある。
また、今度の調査で「否定疑問」の例はインタビューの間にあるロ ールプレイの場合に出ており、「1.うん。いいんじゃない、それも
(NS47(2))」「2.うーん、いいんじゃない(NS47(6))」であり、例 1 は下降調・例 2 は平板調である。この二つの用例とも親しい相手(ロ ールプレイの設定)に対して使い、丁寧よりも無遠慮な感じになる と認められる。これは、吉川(2002)で言う「じゃないか」は場合 によってマイナスイメージになることに擬似する。
最後に、自然会話では「仮定状況」で「じゃないか」の使用率が 極めて低い原因は、この用法は他の表現「例えば・~と、・~とし たら/すると、」などによって言い換えられることにあると考えら れる。