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「じゃないか」のイントネーションとその意味・用法―「上村コーパス」をデータに―

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(1)

東吳大學日本語文學系碩士論文

指導教授:羅濟立 教授

「じゃないか」のイントネーションと その意味・用法

―「上村コーパス」をデータに―

研究生:謝淑芬 撰

中華民國 101 年 6 月

(2)

目次

第 1 章 序論 ………1

1.1 研究動機および目的………1

1.2 考察対象および範囲………5

1.3 研究方法………6

1.4 本論文の構成………7

第 2 章 先行研究 ………8

2.1 蓮沼(1993)(1995)………8

2.2 三宅(1996)………11

2.3 吉川(2002)………16

2.4 張(2004)………17

2.5 三枝(2004)………19

2.6 本研究の「じゃないか」用法の分類………23

第 3 章 「じゃないか」の使用状況………28

3.1 母語話者の「じゃないか」の使用状況 ………28

3.1.1 上昇調 ………30

3.1.2 平板調 ………33

3.1.3 下降調 ………39

(3)

3.2 非母語話者の「じゃないか」の使用状況 ………55

3.2.1 上昇調 ………55

3.2.2 下降調 ………57

3.2.3 まとめ ………61

第 4 章 分析と考察………64

4.1 使用率の比較 ………64

4.2 イントネーションの型 ………66

4.3 イントネーションの型と意味用法 ………68

4.4 意味用法 ………72

4.4.1 使用された「じゃないか」の用法………73

4.4.2 使用されなかった「じゃないか」の用法………77

第 5 章 結論………79

5.1 まとめ ………79

5.2 日本語音声教育への示唆 ………81

5.3 今後の課題 ………84

参考文献 ………86

(4)

表の目次

表 1 「じゃないか」の用法とその例文………8

表 2 ダロウ、デハナイカⅠ類、デハナイカⅡ類、ネの確認要求的 表現の諸相………12

表 3 デハナイカの確認要求的表現およびその例文………13

表4 「ではないか」の用法とその説明………18

表 5 「じゃない」の用法およびその例文、説明………20

表 6 本研究の「じゃないか」の分析基準………24

表 7 NS の上昇調の用例文およびその用法 ………32

表 8 NS の平板調の用例文およびその用法 ………34

表 9 NS の下降調の用例文およびその用法 ………41

表 10 NS の「じゃないか」の使用状況………52

表 11 NNS の上昇調の用例文およびその用法………55

表 12 NNS の下降調の用例文およびその用法………57

表 13 NNS の「じゃないか」の使用状況………61

表 14 NS および NNS の「じゃないか」の用法比較………72

表15 NS の「視覚・現実判断」で現れた比較基準………74

(5)

図の目次

図 1 視覚化した音声表示の例―下降調(NS1「じゃないんでしょう か」)………4 図 2 視覚化した音声表示の例―平板調(NS29「ではないでしょう

か」)………4 図 3 「ではないか」の分類………17 図 4 発話者 NS42 の「じゃないでしょうか」の音声表示(分析結果 は青の線が不完全)………29 図 5 発話者 NS45 の「じゃないか」の音声表示(分析結果は青の線 がなし)………29 図 6 発話者 NS24 の「じゃないんですか」の音声表示(自分の笑い 声で分析結果を影響)………29 図 7 発話者 NS10 の「じゃないか」の音声表示(インタビューアー の声で分析結果を影響)………30 図 8 上昇調 1(発話者 NS32 の「じゃないですか」の音声表示)……31 図 9 上昇調 2(発話者 NS45 の「じゃないかな」の音声表示)………31 図 10 平板調(発話者 NS19 の「じゃないですか」の音声表示)……34 図 11 下降調 1(発話者 NS39 の「じゃないかな」の音声表示)………40 図12 下降調2(発話者NS26 の「じゃないですか」の音声表示)……40

(6)

図 13 NS・NNS「じゃないか」各イントネーションの使用率…………67 図 14 NS・NNS「じゃないか」イントネーションとその用法の使用

種類数………68 図 15 NS・NNS「述べ立て」イントネーションの使用率………70 図 16 NS・NNS「視覚・現実判断」イントネーションの使用率………70 図 17 NS・NNS「一般通念」イントネーションの使用率………70

(7)

中文摘要

本論文旨在探討日語「じゃないか(jyanaika)」之聲調及其意義 與用法間之關聯性,觀察母語話者之使用狀況並檢視日語學習者之學 習情形,以對日語音聲教育中之句調指導提出諫言。

句調中又以語尾聲調最為重要,「じゃないか」之語尾聲調可分為 上昇調、平板調及下降調,並有各種不同用法,代表說話者內在的意 圖與主要感覺,在傳達意義及溝通上扮演了重要的角色。

本研究以「上村語料庫」中 50 名母語話者(以下簡稱 NS)及 50 非母語話者(以下簡稱 NNS)之訪談過程語音資料為對象,分為 NS 及 NNS 兩部份,截取所有「じゃないか」部份後,以語音軟體「PRAAT」

進行分析,釐出各資料為上昇調、平板調或下降調。並以先行研究為 基礎,整合研究過程之發現,制定意義、用法上的分類基準後,對已 進行過語音分析的「じゃないか」實行用法上的分析。最後統整並比 較 NS 與 NNS 之分析結果,考察其差異和原因,進而對「じゃないか」

之學習提出指導步驟。

研究結果顯示,NS 於對話中自然且頻繁地使用「じゃないか」; NNS 的使用率則極低。兩者雖皆以下降調的使用最為頻繁;但 NS 為使 會話順利進行,求取發音之方便性而避免起伏變化大的句調,使得平 板調之使用率亦頗高,相對於此 NNS 卻因平板調無明顯特徵導致學習 困難,而未出現平板調的使用實例;最後 NS 為避免產生質問他人的語 感而避免使用上昇調,因此其使用率極低,但 NNS 卻多誤將「じゃな いか」當作疑問句使用,導致上昇調的使用率頗高。

由以上結果可知,學習者對「じゃないか」的句調及用法需加強 學習,教師可引用指導單字發音之「自我審核」法進行教學。

(8)

Summary

This thesis aims at investigating the connection of the intonation and meanings of the Japanese word, “jyanaika.” By observing how both Japanese native speaker (NS) and non-native speaker (NNS) use the word

“jyanaika,” the author of this thesis formulates a detailed outline of teaching steps for learning “jyanaika.”.

The most important part of intonation is at the end of a sentence.

There are three intonations, which are the rising intonation, the

monotonous intonation, and the falling intonation, for “jyanaika.”. Each of them has different meanings, thus conveying the intention or feelings of the speaker. Therefore, the intonation of “jyanaika” plays an important role in delivering meanings during communication.

First of all, the part of this thesis mainly deals with the idea of

“uemura corpus.” In this corpus, there are 50 audio interviewees of NS and NNS respectively. After eliminating all the “jyanaika” parts and using audio software “PRAAT” to analyze their intonation, I categorize them into the rising intonation, the monotonous intonation, and the falling intonation.

Second, by analyzing the literature and researching through those data, I make a taxonomic pattern to analyze meanings of them. Afterwards, a comparison of NS and NNS is made. The teaching steps for learning

“jyanaika” are presented in the last part of the thesis.

According to this study, firstly, while NS use “jyanaika” often and naturally in conversation, NNS seldom does. Second, both NS and NNS take a falling intonation when using “jyanaika.” Third, to make the conversation

(9)

easier to pronounce. However, it is hard for NNS to pronounce

monotonously because they have difficulty distinguishing the monotonous intonation. Consequently, the NNS data do not show any examples of monotonous intonation when using “jyanaika.” Finally, to avoid sounding like heckling the listener, NS seldom take a rising intonation by using

“jyanaika.” Meanwhile, , NNS misunderstand “jyanaika” as an interrogative sentence; as a result, they often use “jyanaika” with a rising intonation.

In conclusion, NS need more training for using intonations and meanings of “jyanaika.” Teachers are advised to use the method of

“self-examination” when giving an instruction.

Key words: intonation; “jyanaika”; “uemura corpus”; PRAAT; self-examination; individual difference

(10)

第 1 章 序論

1.1 研究動機および目的

森山(1989)、鮎澤(1990)などは、イントネーションとその文の 意味について次のように定義している。日本語のアクセントもイン トネーションも、主として音の高さ(pitch)の変動であると言え、1 イントネーションは、発話の意味なりニュアンスを決定付け、それ ぞれの発話に対して話し手の談話的な意味を積極的に表すものであ るという。イントネーションは発話の意味に深く関わっていること が分かる。

また、仁田(1989)は、日本語の文の基本構造を客体的な出来事 や事柄を表す「言表事態」とモダリティを表す「言表態度」という 二つの層に分けている。2そのモダリティを表す「言表態度」はイン トネーションと深く関連している。例えば、「行かない」「行きませ ん」のように、疑問終助詞の「か」がない文の場合には、文末の「い」

「ん」でピッチが上がれば質問または誘いを表す文だが、下がれば 否定の意思表示になる。ここでは、イントネーションによってはじ

1 アクセントとイントネーションについては諸説あるが、通常、アクセントが語や 文節のレベルの問題とされるのに対し、イントネーションは、文あるいは発話のレ ベルの問題だと考えられている(森山 1989b)。つまり、イントネーションはアク セントより、大きい単位の音の高さの変動を表すことができる。

2 言表態度とは、話し手が、現実との関わりにおいて描き取った一片の世界、文の 意味内容のうち客体的な出来事や事柄を表した部分である。言表事態は、言表事態 の中核である命題核、さらにヴォイスやアスペクトや認め方やテンスなどによって 形成さてれいる。テンスは、言表事態と言表態度との分水嶺的存在である。言表態 度を形成するのがモダリティである(仁田 1989:1)

言表事態 言表態度

(11)

めて話者の発話意図(言表態度)が明らかになるのである。

そして、福岡(1998)は、中国人日本語学習者の学習早期では、

文末のピッチの変動と勧誘の表現意図とを結びつけることが難しく、

勧誘を表す文末のピッチの上昇率が知覚上十分に習得されていない と述べており、イントネーション教育の大切さが示唆されている。

また、イントネーションの分析では、特に文末イントネーション

(いわゆる上昇調・下降調など)に着目することが多い。森山(1999)

は、文末のイントネーションは文の発話的な意味を規定すると、戸 田(2008)は、イントネーションは話者の表現意図・心的態度の伝 達に重要な役割を担っていると述べている。つまり、イントネーシ ョンは、話し手の意思を伝達する機能を持ち、前述の「行かない」

「行きません」という例のように、同じ文であっても、違うイント ネーションにより、発話の意図が異なることになる。

以上のことから、コミュニケーションをする時、イントネーショ ンは話し手から聞き手への意味伝達において重要な働きを持ってい ることが分かった。しかし、イントネーションはどのように意味伝 達に影響を与えるのか、というのは興味深いことがらである。

ところで、会話の中で、「じゃないか」という言葉は頻繁に発話さ れており、そのイントネーションと発話機能も複雑な様相を呈して いる。例えば、自分の意見や考え方を丁寧に相手に伝える場合、「じ ゃないか」はよく耳にし、しばしば使われる表現だと言える。また、

近年、「じゃないか」の使用状況を中心にした研究はないわけでもな い。まず、田野村(1988)「ではないか」の研究がある。田野村(1988)

は、「ではないか」の用法を次のように、「第一類」「第二類」「第三

(12)

第一類:発見の驚き、非難・叱責、認識・想起などを相手に求め るもの

a.よう、山田じゃないか。(発見の驚き)

b.何をする、あぶないじゃないか。(非難・叱責)

c.元気を出せ、また次の機会があるじゃないか。(認識・想起)

第二類:推定などを表す

例:雨でも降るんじゃないか。

第三類:発問、反問、納得などを表す 例:本当にお前が盗んだんじゃないか。

その後、蓮沼(1993・1995)、三宅(1996)、吉村(2002)、三枝(2004)、 宮崎(2000・2005)なども「じゃないか」の用法について考察して いる。ただし、研究者により、「ではないか」「じゃない」「じゃない か」「じゃないですか」など、違う変種で研究テーマにすることが見 られる。本論文は、「じゃないか」のイントネーションを中心に研究 するため、研究するデータは音声データを選定する。そこで、話し 言葉の「じゃないか」で統一する。

なお、吉川(2002)と三枝(2004)の研究では「じゃないか」の イントネーションと意味・用法について触れたが、充分な考察とは 言いがたい。とくに上昇調や下降調などの用語が使われているが、

視覚化した音声表示がないため、読み手にとっては理解しにくいと 思われる。例えば、平板調あるいは下降調というより、図 1 のよう に、下降調を示す方が分かりやすい。

(13)

図 1 視覚化した音声表示の例―下降調(NS1「じゃないんでしょうか」

図 1 の中、縦の赤の点線以降が「じゃないか」の発音部であり、

青の方は「じゃないか」のイントネーションを示す線である。また、

横の赤の点線をイントネーションを判断する時の基準とし、ここの

「じゃないか」は明確に「下降調」ということが分かった。一方、

いわゆる自然下降に聞こえる音声だが、図 2 のような音声分析結

図 2 視覚化した音声表示の例―平板調(NS29「ではないでしょうか」

じゃないんでしょうか

(14)

果から、ここの「じゃないか」は「平板調」だと判断しやすい。従 って、本研究は音声コーパスのデータを対象に、音声分析ソフトを 使用することにより、「じゃないか」の各イントネーションとその意 味・機能の関係を示したい。

音声教育は日本語教育の一環として重要な位置を占めており、本 研究の目的は、「じゃないか」に関する先行研究の成果を踏まえ、「じ ゃないか」のイントネーションの変化による意味変化を明らかにす ることと、日本語の音声教育に役立てようとすることにある。

1.2 考察対象および範囲

本研究は、母語話者及び非母語話者の「じゃないか」という音声 データを分析するため、音声コーパスを用い、データを集める。コ ーパスは、「上村コーパス」を選定し、「じゃないか」の用例を抽出 する。

「上村コーパス」は、北九州私立大学国際環境工学部情報メディ ア工学科上村研究所により構築されたものである。当時、日本では 言語学的な分析結果とともに公開する個人的な小規模コーパス資料 が増加していたが、欧米に匹敵するようなインターネット上で公開 されている大規模汎用コーパスがなかったのである。そのため、日 本語教育向けの基礎資料となる言語データベース構築を目的とし、

1995 年度より、その構築プロジェクトが開始されたのである。この コーパスは、インタビュー実験形式による会話データが収集されて おり、インターネット上3で公開されている。

3 「Hypermedia Corpus of Spoken Japanese」

(15)

また、「上村コーパス」のデータは、母語話者・非母語話者各 50 名の資料であり、年齢や男女比などがバランスよく取れているもの である。そして、OPI4という非母語話者の会話能力判定方法が利用 されたので、自然な発話資料だけではなく、レベル判定の基準も信 憑性のある資料であると言えよう。

さらに、今度の考察対象は「じゃないか」の他、「じゃないですか」

「じゃない(ん)でしょうか」「じゃなかったですか」「ではないか」

「じゃありませんか」など、発音の差異に基づいて生じた変種も考 察範囲に入れる。

1.3 研究方法

まず、「上村コーパス」のホームページ5から会話資料をダウンロ ードし、「じゃないか」のデータを抽出する。次に、音声編集ソフト

(Audacity)で「じゃないか」の部を分割し、音声分析ソフト(PRAAT)

6で分析を行う。そして、分析で得た結果のイントネーションの部に 着目し、母語話者・非母語話者の「じゃないか」の用法を分析し、

比較する。さらに、比較しながら、両方の使用上の差異を考察し、

4 OPI とは、外国語学習者の会話のタスク達成能力を、一般的な能力基準を参照し ながら対面のインタビュー方式で判定するテストである。牧野他(2001:9)を 参照。

5 同注 3。

6 「PRAAT」とは音声の分析、合成、簡単な音声実験のプログラムを実行できるソ フトのことである。フリーウェアのため、誰でも無料で使用することができ、分 析する音声は、ファイル形式が「.WAV」であれば、基本的にどんな音声でも可能 のようである。「PRAAT」で分析できるのは、次のようなことである。

① 音声のスペクトログラムの表示と分析。

② 音声のピッチ曲線の表示と分析。

③ 音声のフォルマントの表示と分析。

④ 音声の周波数の表示と分析。

(16)

その原因を探求する。最後に、考察した結果をもとにまとめて、「じ ゃないか」の日本語音声教育への示唆を提示する。

1.4 本論文の構成

第 1 章では、研究動機および目的、次に考察対象および範囲、そ して研究方法について述べる。第 2 章では、「じゃないか」のイント ネーションとその意味用法についてこれまでの先行研究をまとめて、

本研究の分析する基準とする。第 3 章では、「上村コーパス」から抽 出した「じゃないか」の用例について分析を行い、日本語母語話者 と非母語話者の両部を分け、上昇調・平板調・下降調というイント ネーションおよびその意味用法の使用状況を説明する。第 4 章では、

日本語母語話者と非母語話者の使用状況を照らし合わせて比較し、

項目ごとに考察を試みる。最後に本研究のまとめを第 5 章で示し、

日本語音声教育への示唆および本研究で配慮できなかった点と今後 の課題について述べる。

(17)

第 2 章 先行研究

2.1 蓮沼(1993)(1995)

蓮沼(1995)では、対話における「だろう」「じゃないか」「よね」

の確認用法が考察され、それぞれの相違点も明らかになっている。

本論は「じゃないか」の意味、機能を考察することを目的とするた め、ここでは、ほかの用法との比較を省略し、「じゃないか」の確認 用法に絞ってまとめておく。その用法および例文をまとめてみると、

表 1 のようになる。

表 1 「じゃないか」の用法とその例文

用法 例文

1.

共 通 認 識 の 喚 起

(1)発話の現場で視覚 によって捉えられ

る対象の存在

①[タクシーの運転手に行く先を指示して]

あそこに郵便ポストが見えるじゃないで すか。そのすぐ先の角を右に曲がってく ださい。

(2)共有する過去の経 験の中の要素

②同級生に加藤さんっていたじゃないか。

背の高い男の子。

(3)一般通念

③A:子供って、みんなカレーが好きじゃな いか。

B:そうね。家の子もみんな好きだわ。

(4)仮定的に構築され た(想定した)状況

④仮に 30 人来るとするじゃない。そしたら、

一人 5 千円の会費で、15 万円くらいの予 算でいけるよ。

(18)

︵ 認 識 喚 起

(5)認識形成の要請

⑤だから言ったじゃないの。あの人には気 をつけなさいって。

⑥[帰りの遅い夫を非難して]

妻:遅いじゃないの。

夫:仕方がないじゃないか。仕事が忙し いんだから。

⑦そんなことすれば怒られるのは当然じゃ ないか。

2.認識生成のアピール

⑧妻:このジャケット素敵でしょ。

夫:うんなかなか似合ってるじゃないか。

⑨あら、皆さんお集まりじゃない。

⑩何ともあれ、合格できたんだからめでた いじゃないか。

3.伝聞情報確認 ⑪君の結婚相手、なかなかの美人だそうじ ゃないか。

4.勧誘 ⑫今夜は、思いっきり飲もうじゃないか。

5.決意表明 ⑬受けて立とうじゃないか。

蓮沼(1993)(1995)を踏まえ、作者が作成(下線と網掛けは筆者)

ここには、1.共通認識の喚起(略して言うと認識喚起)、2.認識生 成のアピール、3.伝聞情報確認、4.勧誘、5.決意表明など、「じゃな いか」の五つの用法が見られる。そのうち、1.共通認識の喚起はま た(1)発話の現場で視覚によって捉えられる対象の存在、(2)共有す る過去の経験の中の要素、(3)一般通念、(4)仮定的に構築された状

(19)

1.共通認識の喚起とは、話し手が自分と同様な認識を持つように 聞き手を促し、その成立状態を確認する働きであり、その下位分類 はいずれもこの定義から生成したものである。また、この用法では、

「じゃないか」の使用は「当然認識できるはず」といったニュアン スが強いと認められている。ただし、(5)認識形成の要請は例文⑤~

⑧のように、聞き手に認識を迫り、認識形成を要請する発話意図を 伴い、例文⑤と⑧はさらに非難するニュアンスがある。蓮沼(1995)

は、この用法は「よね」が使えず、「だろう」「じゃないか」に限っ て使用できるため、一項目を立てている。しかし、蓮沼(1993)は、

この項目を共通認識の喚起という用法に入れた。本研究では、「じゃ ないか」と「よね」「だろう」との比較には触れないため、蓮沼(1993)

に基づき、この項目を共通認識の喚起という用法に入れることにす る。

2.認識生成のアピールとは、話し手自身が知識を獲得したことを 詠嘆的に表明するという用法で、今まで気づいていなかったことを 発見した際の驚きや、話し手の個人的な評価や意見を聞き手にアピ ールするような場合に用いられるものである。これは「じゃないか」

の基本的な機能である「話し手の知識獲得の詠嘆的表明」という働 きを最も直接的に反映した用法である。例えば、例文⑧は妻のジャ ケットに夫の評価であり、例文⑨は発見した事態を詠嘆的に表明し ているものであり、例文⑩は発見に伴う詠嘆に加え、自分の認識体 験を聞き手も共有するように訴えかけているというニュアンスがあ る。ここで、聞き手に対する確認の意味は、自分との認識体験の共 有を聞き手に訴えるということに伴い、副次的に派生する表現効果

(20)

3.伝聞情報確認の用法では、話し手の認識体験の表明・アピール というものから、聞き手との情報の一致を確認するものに、機能を 転化させていると考えられ、「じゃないか」の基本的機能(話し手の 知識獲得の詠嘆的表明)は保持されており、確認の意味は、その情 報を聞き手も知っているという話し手の見込みから派生されている ものとしている。

4.勧誘の用法では、「じゃないか」は話し手の意向のアピールとい った話し手からの一方的伝達である。

5.決意表明という用法について蓮沼(1995)では、説明がされて いないが、その例文(例文⑬)から分かるように、これは話し手が 自己意志を表出するものと推測できる。

蓮沼(1995)は以上のように「じゃないか」の確認用法を確立し、

さらに「じゃないか」には、文体や方言、イントネーションの上で、

様々な変種があり、それに応じて、意味・機能に相違があると解釈 している。その変種は例えば、「ではありません/ではないか/じゃ ない(の)/じゃん(か)/やないか/やん(か)」というものと述 べている。しかし、蓮沼は以上のように、用法の違いを提示してい るが、イントネーションによる違いには言及されていない。本研究 は蓮沼の提示している変種を考察の範囲に入れ、イントネーション で表される意味・機能の相違を明らかにしたい。

2.2 三宅(1996)

三宅(1996)は、記述的な考察を目的とし、ダロウ、デハナイカ

(21)

Ⅰ類7、デハナイカⅡ類8、ネの確認要求的表現9の諸相について述べ ている。その諸相を表 2 のようにまとめている。

表 2 ダロウ、デハナイカⅠ類、デハナイカⅡ類、ネの確認要求的表現の諸相

ダロウ デハナイカⅠ類 デハナイカⅡ類 ネ 確

認 要 求

命題確認の

要求 ○ ○ ○

知識確認の

要求 ○ ○

弱い確認要求 ○ ○

同意要求 ○

表 2 から、デハナイカ10は確認要求的表現の「命題確認の要求」「知 識確認の要求」「弱い確認要求」に関わっていることが分かった。本 研究は、ダロウ、ネとの比較には触れないため、ここではそれらの

7 デハナイカⅠ類とは:

①体言だけでなく用言にも接続することができる。

②用言の述語+デハナイカⅠ

③“デハナイノカ”“デハナイカナ/カシラ”の形は不可能である。

④確認要求的表現とはみなせない用法として、「驚きの表示」、つまり、ある知 識(情報)が一種の驚きをもって新規に導入されたことを表す用法がある。

8 デハナイカⅡ類とは:

①体言にしか接続できない。

②用言の述語+の+デハナイカⅡ

③“デハナイノカ”“デハナイカナ/カシラ”の形は絶対Ⅱ類である。

④確認要求的表現とはみなせない用法として、「推測」、つまり、ダロウによっ て表される推量よりも弱い見込みを含意することが表される用法がある。

9 三宅(1996)で考察する「確認要求的表現」とは、広い意味で聞き手に何らかの 確認や同意を求める表現一般を指すものとしている。

10 “ジャナイカ・ジャナイ・ジャナイデスカ・

(22)

確認要求的表現を省略する。デハナイカに関する確認要求的表現の 詳細およびその例文をまとめてみると、表 3 のようになる。

表 3 デハナイカの確認要求的表現およびその例文

確 認 要 求

命題確認の 要求

(デハナイカ

Ⅰ類)

①「お姉ちゃん、会いたいじゃない。今井さんと、す っごく」

②「お宅からは、ずいぶん遠いんじゃありませんか」「い や、たいしたことはありません」

③「失礼ですが、あなたは東京の方じゃありませんか」

「おや、どうしてわかります?」

④「もしかして、黒板純君じゃない?」「中井だよホラ、

小学校で一緒だった!」「…中井君!」

知識確認の 要求

(デハナイカ

Ⅱ類)

潜 在 的 知 識 の 活 性 化

⑤「高木だよ」「高木?」「ホラ東光大学のボクシ ング同好会の高木、大学の時に、よく試合をし たじゃないか?」

⑥「偉そうなことを言ったかね、武彦君が」「旦 那さんに、〈理由を聞きたい〉なんて言ってた じゃありませんか」

⑦「でもたった今、葉子は、他の男だったら飛び つきそうないいことを言ってくれたじゃない か」「…」「別れてほしいなら、いつでも別れて あげる。お金なんかなんもいらない、って」

認 識 の

⑧「あの人、奥さんも子供もいるんだぞ」「知っ てる」「不倫じゃないか」

(23)

一 化 要 求

必要なんてないじゃないか」「恋人がいたらあ なたのこと考えちゃいけないわけ?」

⑩「みっともない。早朝にあんな大声を出してご 近所にも誤解されるじゃないか」

弱い確認要求

(デハナイカ

Ⅰ類)

⑪「おい今日はえらい短いスカートはいてるじゃない か」「へへ」

⑫「食欲あるじゃない、お父さん」「そうか」

⑬「おっ、おいしそうじゃないか」「ありがとう」

⑭「あなたもだんだん世の中のしくみがわかってきた みたいじゃない」「みたいですね」と僕は言った。

⑮「堀口くん、きみはそのパンチ力を恐れられてなか なか相手がみつからず、試合ができないそうじゃな いか」

三宅(1996)を踏まえ、作者が作成(下線と網掛けは筆者)

表 3 で見た「確認要求」とは、話し手にとって不確実なことを聞 き手によって確実にしてもらうための確認を要求するというように 一般化されている。このような確認用法において、確認される対象、

即ち話し手にとって不確実なことは二つの異なったレベルが存在す る。一つは、その対象を命題の真偽とするもので、命題が真である ことの確認を要求するものである。三宅はこれを「命題確認の要求」

と呼んでいる。他の一つは、その対象を命題によって表される知識

(情報)とするもので、当該の知識を聞き手が有していることの確 認を要求する。三宅はこれを「知識確認の要求」と呼んでいる。11

11

(24)

の用法の場合、話し手にとって確実なのは命題の真であるのに対し、

不確実なのはその命題内容を聞き手が知っているかどうかというこ とである。また、この用法は、さらに「潜在的知識の活性化」と「認 識の同一化要求」と、下位分類にすることができる。

まず、「潜在的知識の活性化」とは、聞き手の知識を確認すること によって、話し手と聞き手が潜在的に共有していると思われる知識 を活性化させる機能を有することである。次に、「認識の同一化要求」

とは、聞き手の知識を確認することによって、聞き手に話し手と同 じ認識を持つことを要求するといった機能を有することである。

最後に、ここで言う「弱い確認要求」とは、話し手にとっては確 実に真である命題を聞き手も真であると認めるかどうかの確認を求 めるといったことが表されるものである。この用法と「確認要求」

と比べると確認の要求性は弱いと言え、この場合、何らかの「驚き」

が含意されるという。また、この用法の特徴的なこととして、「実証 的判断」と呼んだタイプの意味が表される形式、ラシイ、ヨウダ、

ミタイダ、(~する)ソウダと共起しやすいということである。この 用法は、狭い意味での確認要求からは外れるものの、広い意味での 確認要求的表現における下位類型の一つとして認められている。

三宅(1996)は、デハナイカの確認要求的表現の詳細を述べてい る。その中、デハナイカの分類(Ⅰ類およびⅡ類)についても言及 している。本研究は、その分類法を援用し、デハナイカⅠ類とⅡ類 の用法を検証し、さらにそのイントネーションの実態も考察する。

(25)

2.3 吉川(2002)

吉川(2002)は、「~じゃないですか」は次の四つの場合に使用さ れることを説明している。まず、一般的既知情報であり、「だって普 段あの、夏休みの宿題とかあるじゃないですか ↘。」(下線は筆者、

以下同じ)のように、相手に情報を確認し、話題転換の機能もつい ている。次に、「染めている時に、ぺったんこ何か塗られるじゃない ですか ↘。」のように、限定的既知情報の場合に使われている。ただ し、新しい情報を提供する際、generational gap(世代間での意識の 差異)、または communication gap(相互理解の欠如)で、若年層は

「~じゃないですか」の使いに抵抗感がないが、中高年層は抵抗感 がある。さらに、二者関係で成立する既知情報であり、「前に話した じゃないですか ↘、その話は。」や「だから言ったじゃないですか ↘」

等のように、「~じゃないですか」表現が婉曲的に相手を詰問や非難 の表現として捉えられている。最後に、「面白いじゃないですか ↘。」

「私、四月一日生まれじゃないですか ↘」等のような個人的な価値 判断を含む個人情報の場合、「~じゃないですか」は独り善がりで強 引な表現になっている。このように、「~じゃないですか」は情報の 確認で配慮表現のようなプラスイメージ、あるいは、相手を非難す るとかウチに強制的に引き込むマイナスイメージを与える可能性が ある。

以上のように、吉川は下降調の「じゃないか」の前接部分に注目 し、その情報内容について考察している。しかし、実際に「じゃな いか」のイントネーションは多様で意味もそのイントネーションに よって変化するため、本研究はこの点について補足する。

(26)

2.4 張(2004)

張(2004)は、「ではないか」の用法には、「命題内容の真偽判断」

「聞き手の存在に対する想定」「問いかけ性」といった条件によって、

「確認要求」「述べ立て」「判断表出」「不確定質問文」「疑念表出」

「自己確認」の用法があると述べている。それらの用法をまとめて おくと、図 3 のようになる。

問いかけ有 確認要求① 聞き手の

想定有 命題内容の

真偽判断成立

問いかけ無 述べ立て② 聞き手の

想定無 問いかけ無 判断表出③

ではないか 問いかけ有 不確定質問文④

聞き手の 想定有 命題内容の

真偽判断不成立

問いかけ無 疑念表出⑤ 聞き手の

想定無 問いかけ無 自己確認⑥

図 3 「ではないか」の分類

図 3 から分かるように、「ではないか」の用法は、三つの条件によ って分類される。命題内容の真偽判断に関する条件、聞き手の存在 に関する条件と、問いかけ性に関する条件である。また①~⑥の用 法の詳細をまとめると、表 4 のようになる。

(27)

表 4 「ではないか」の用法とその説明

用法 例文 説明

①確認要求

「おい、何をするん だ。そんなことした ら、痛いじゃないか」

・聞き手の認識を話し手の認識と同 一化させる用法である

②述べ立て 私って、ピーマン嫌 いじゃないですか。

・話し手の持つ情報を聞き手へ伝達 するという特徴を持つという用法 である

③判断表出

(何かを捜していて) あっ、ここにあるじ ゃないか!

・話し手が発話の現場にある事実を もとに、判断を下す用法だが、聞 き手への伝達性を帯びることはな いである

④不確定質 問文

「失礼ですが、あな たは東京の方じゃあ りませんか」

・話し手は命題内容の不確かな認識 を解消しようと意図し、聞き手に 答えを要求しているものである

・この用法は、これまで「ではない か」の典型的な用法(否定疑問文)

とされてきたものである

⑤疑念表出 え? あの人、学生 じゃないか。

・話し手がその命題内容について真 偽の判断ができないので、疑念を 持ち、話し手への不信感の表明で ある

(28)

⑥自己確認 そうか、あの人学生 ではないか。

・話し手が入手した情報を話し手自 身に確認する独話用法である

・文末の音調は、下降イントネーシ ョンをとる

(下線と網掛けは筆者)

以上のように、張(2004)は「ではないか」の用法を詳しく記述 している。従来、「じゃないか」の用法は、典型的な「不確定質問文

(否定疑問用法)」以外、「確認用法」を中心に研究されてきたが、

張(2004)は「確認要求(確認用法)」の他、「述べ立て」「判断表出」

「疑念表出」「自己確認」などの用法も詳細に説いている。そのため、

本研究は張(2004)および他の研究成果(2.1~2.3 と 2.5)を踏まえ、

分析を行うことにする。

2.5 三枝(2004)

三枝(2004)は、終助詞的に使われる「じゃない」は活用形であ り、文末で「言表態度」を表すものとして用いられるため、その意 味、用法を考察している。考察対象とされた「じゃない」の形には、

「じゃ/では、じゃない、じゃん、じゃないか、じゃないの、じゃ んか、じゃない/ではないですか、じゃ/ではありませんか」のよ うにいくつかのバリエーションがある。その結果、「じゃない」の用 法は大きく、1.確認、2.強め、3.気付かせなどの用法があると述べ ている。その用法と例文、説明を整理してみると、表 5 のようにな る。

(29)

表 5 「じゃない」の用法およびその例文、説明

用法 例文 説明

1.

否 定 疑 問

(1) 名 詞 述 語

① A:あそこに見えるのは実は魚じ ゃないんだ。

B:あれは魚じゃない?

A:うん、魚じゃないんだ。

・上昇調で疑問文として 発話される時、否定の 意味が残す

・「じゃない」の「な」に ストレスが置かれ、イ ントネーションはいっ たん下がって、また上 がる

(2) 否 定 疑 問

②〈池の中を見ながら〉

A:ねえ見て。あそこにいるの、あ れ魚じゃない。

③田中さんは親切そうじゃない?

・否定の意味を持たない

・丁寧な印象を与える

2.

確 認

④このままだと、地球温暖化はもっとひど くなるんじゃない ↗。

⑤〈北海道の人に電話して〉北海道はもう 寒いんじゃない ↗。

⑥…浅見さんは本職のお仕事の方がお忙し いんじゃありませんか ↗。(蜃気楼)

⑦A:クレジットカード作るのに、身分証明 書が必要(なん)じゃない ↗。

B:そうだろうね。

⑧田中さんは親切(なん)じゃない ↗。

⑨A:ねえ、あそこに泳いでいるの、もしか してイルカじゃない ↗。

B:そうかな。よくわかんないな。

・「なんじゃない」「のじ ゃない」の形となれば、

必ず確認用法であり、

「じゃない」との違い は、これは見たり聞い たりしたこれまでの流 れを取り込んでの判断 を確認する

・確認用法の場合、話し 手は命題内容について 確信がない

・命題内容を確認する確 認用法は、すべての活

(30)

⑩彼、北海道に行くんじゃない?

⑪彼、北海道に行ったんじゃない?

⑫この店のクッキーおいしいんじゃない?

用形に接続する

3.

強 め

⑬ありがた迷惑ということだってあるじゃ ないですか ↘。

⑭A:計算、終わりました。

B:この計算、間違ってる(ん)じゃない か ↘。直しておいて下さい。

⑮いずれにしても、一千万円の価値のある マーケットをみすみす見ず知らずの人に 奪われるのは悔しいじゃないですか ↘。

⑯A:田中さん、○○大学に合格したんだって。

B:彼そんなにできたんだ。すごい(ん)

じゃん ↘。

あなたの家はここから近い(ん)じゃない ↘。

⑱安全という話だったけど、実は危険(な ん)じゃないですか ↘。

私が言ったように、証明書もらうには身分を 証明するものが必要(なん)じゃない ↘。

⑳A:ビール飲んでもいい?

B:まだ中学生(なん)じゃない ↘。だめよ。

21A:会議が始まるよ。

B:えっ、今から?〈手帳をみて〉何言っ てるの。5 時から(なん)じゃない ↘。

22A:あら、山田さんじゃない、お久しぶり。

B:お元気ですか。

・話し手の判断を否定形 を用いることによって 強めている

・聞き手の言動、目の前 の現実と話し手の考 え、予想とが食い違っ ている

・驚き、反発や不満、聞 き手に反論する気持ち を表す

・下降調の「強め」の場 合は、用言の後ろに直 接つく

23やってみようじゃない。

24行ってみたいじゃない。

25行くらしい/そう/ようじゃない。

・話し手の意思を宣言す るような場合に、例○23

24のように意志、願望 を表す表現に接続し、

25のように根拠に基づ く推測にも接続する 4.

26あそこに歩道橋が見えるじゃない ↗。晴 れた日は、あそこから富士山が見えるん

・話し手が聞き手の忘れて いること、気づいていな いことを気づかせる用法

(31)

づ か せ

だ。

27A:私たちのクラスに中村って子いたじゃ ない ↗。

B:背が高かった?

A:そう、彼、今モデルしているんだって。

28そこに赤いボールペンがあるじゃない

↗。取ってくれる?

29A:会議は何曜だった?

B:今日が火曜じゃない ↗。だから木曜ね。

とが多い

・話し手、聞き手の目の前 にあるもの、共通の記憶 にあるはずのもの、共通 に想定できるものが対象 のため、話し手が聞き手 に気づかせつつ確認する

・上昇調に発話するが、動 詞、イ形容詞に「の」を 付加する必要はない

・話し手が話をこれで終わ らず、先へ進める働きを 持っている上昇調が特徴

・肯定答えを期待している 点で否定疑問用法に近い 三枝(2004)を踏まえ、作者が作成

(下線と網掛けは筆者、音声記号は三枝による)

表 5 では、三枝(2004)が述べている「じゃない」の三つの用法 の他、もともと名詞述語「だ」の否定形である否定疑問用法も見ら れる。これらの用法は、発話際のイントネーション、「の」の有無、

意味の違いによって区別される。「の」の有無について言えば、上昇 調の場合には、動詞、イ形容詞の後ろには「の」がつき、下降調に はそういう制限はない。すなわち、上昇調では体言しか接続せず、

下降調は体言にも用言にも接続する。また、確認用法は全て上昇調 を取るのに対し、強め用法は全て下降調を取る。下降調の「強め」

の場合は「じゃない」が用言の後ろに直接つくことから、終助詞と 同じように機能していると考えられる。さらに、「じゃない」は、聞 き手の言動、目の前の現実が話し手の考え、予想と食い違うことを 意味する。「じゃない」を使った場合には、話し手聞き手がともに知

(32)

以上のように三枝(2004)の「じゃない」の意味・用法を記述し ているが、上昇調・下降調というイントネーションのとの関連性は 深く説明していないため、本研究は三枝(2004)が提示している「じ ゃないか」の意味・用法を参考とし、イントネーションについての 不足点を補足する。

2.6 本研究の「じゃないか」用法の分類

これまでまとめてきたように、「じゃないか」の用法は少なくない ことが分かった。しかし、その中、用法の名付けが異なるだけで、

解釈が同じ、あるいは類似するものがある。例えば、張(2004)で 言う「不確定質問文」は、三枝(2004)の「否定疑問用法」とは同 じく、「じゃないか」の典型的な否定疑問文を指している。そこで、

この節では、蓮沼(1995)、三宅(1996)、吉川(2002)、張(2004)、 三枝(2004)で言及する「じゃないか」の全ての用法を表 6 のよう に整理し、本研究の分析基準としたい。

(33)

表 6 本研究の「じゃないか」の分析基準

用法 説明

1.

確 認

(1)視覚・現実判断

話し手が発話の現場にある物事やある事実を対 象として判断を下し、聞き手に認識を喚起して 確認する

(2)共有経験 話し手が聞き手に共有する過去の経験の中の要 素を気付かせつつ確認する

(3)一般通念

世間一般の人々が、共通して認められている考 えで、聞き手の認識を喚起したり、確認したり する

(4)仮定状況 想定の上で仮に構築された状況で聞き手に認識 を喚起する

(5)伝聞情報確認

話し手が、聞き手も知っているという見込みか ら、自分と聞き手の認識体験・情報との一致性 を確認する

2.否定疑問 話し手が聞き手に丁寧に疑問の答えを要求する 3.述べ立て 話し手が自分の持つ情報・知識や個人的な価値

判断・意見を聞き手へ伝達する

4.認識形成の要請 話し手が聞き手に認識を迫り、認識形成を要請 し、非難するニュアンスを伴う

5.疑念表出 話し手が聞き手の話す内容について疑念を持 ち、不信感を表明する

6.自己確認 話し手が自身に入手した情報を確認する独話 7.勧誘 話し手が、自分の意向を一方的に聞き手に伝達

する

(34)

表 6 は、本研究の「じゃないか」の用法の分析基準である。先行 研究(2.1~2.5)から引用したものもあるが、類似する意味を結合し て新しく生成した用法もあり、筆者の考え方で解釈を変えたり、意 味を添加したりした用法もある。具体的に言えば、「(3)一般通念」

「(4)仮定状況」「(5)伝聞情報確認」「2.否定疑問用法」「4.認識形成 の要請」「5.疑念表出」「6.自己確認」「7.勧誘」「8.決意表明」は引 用したものであるが、説明する用語や内容は筆者の言葉で統一され、

出されたものである。また、蓮沼(1995)の「共通認識の喚起(認 識喚起)」というものを「確認」で称することにした。

「1.確認」の(1)視覚・現実判断は、話し手が発話の現場にある物 事や事実を対象として判断を下し、聞き手に認識を喚起して確認す る用法である。これは蓮沼(1995)の「発話の現場にある対象につ いての視覚的な認知」と張(2004)の「判断表出12」に近い用法で あるが、蓮沼(1995)の視覚によって捉えられる対象に現実、つま り話し手が明確に把握している現象や事実を加えたものである。ま た、張(2004)の「判断表出」にある「聞き手への伝達性を帯びる ことはない」とは違って、聞き手への伝達性が可能であるとした。

(2)共有経験は、蓮沼(1995)で指摘された「話し手・聞き手の共 有する過去の経験の中の要素」に当たり、三枝(2004)の「気付か せ」で述べられた「話し手が聞き手の忘れていること、気付いてい ないこと気付かせる」ことや「話し手、聞き手の目の前にあるもの、

共通の記憶にあるはずのもの、共通に想定できるものが対象のため、

話し手が聞き手に気づかせつつ確認する」という用法としている。

12 話し手が発話の現場にある事実をもとに、判断を下す用法だが、聞き手への伝

(35)

三枝(2004)の「話し手、聞き手の目の前にあるもの」を別の用法 とし、以上の解釈を踏まえ、ここでは、話し手が聞き手に共有する 過去の経験の中の要素を気付かせつつ確認する用法とする。

(3)一般通念は、蓮沼(1995)のものを引用したものである。これ は吉川(2002)で述べられた「一般的既知情報」と類似する内容で あるが、蓮沼(1995)の説明がより詳しく、理解しやすいので、本 研究では、蓮沼(1995)の「一般通念」を採用することにした。

(4)仮定状況および(5)伝聞情報確認は、蓮沼(1995)での「仮定 的に構築された(想定した)状況」と「話し手の認識体験の表明・

アピールというものから、聞き手との情報の一致を確認するものに、

機能を転化させていると考えられ、確認の意味は、その情報を聞き 手も知っているという話し手の見込みから派生されているもの」か ら援用したものである。ただし、蓮沼(1995)は、(5)伝聞情報確認 を一項目として設けているが、ここでは、相手に確認する意図を持 っているため、「確認要求」の下位分類に入れたのである。

2.否定疑問は、話し手が聞き手に丁寧に疑問の答えを要求する用 法である。これは、三枝(2004)の「否定疑問」および張(2004)

の「不確定質問文」で言われた「じゃないか」の典型的な用法であ り、否定の意味は持っていない。

3.述べ立ては、話し手が自分の持つ情報・知識や個人的な価値判 断・意見を聞き手へ伝達する用法である。これは、張(2004)で言 われた「話し手の持つ情報を聞き手へ伝達するという特徴を持つ」

である「述べ立て」用法を基に、蓮沼(1995)の「認識生成のアピ ール:話し手の知識獲得の詠嘆的表明で、個人的な評価や意見を聞

(36)

の用法は、吉川(2002)で言及された「新しい情報を提供する用法」

と「個人的な価値判断を含む個人情報の場合に使われる用法」も包 括する。

4.認識形成の要請は、蓮沼(1995)から引用したものであり、話 し手が聞き手に認識を迫り、認識形成を要請し、非難するニュアン スを伴う用法である。これは蓮沼(1995)では、「確認用法」の下位 分類とされている。しかし、この用法は相手に事柄を確認する意図 よりも、非難するニュアンスが強いため、「確認用法」から抽出し、

一項目として取り上げることにした。

5.疑念表出と 6.自己確認とも、張(2004)にある用法を援用し、

疑念表出とは、話し手が聞き手の話す内容について疑念を持ち、不 信感を表明する用法であり、自己確認とは、話し手が自身に入手し た情報を確認する独話用法である。

7.勧誘および 8.決意表明は、蓮沼(1995)から引用したものであ り、勧誘とは、話し手が自分の意向を一方的に聞き手に伝達する用 法である。一方、決意表明という用法は、蓮沼(1995)では、詳し く説明されていないため、例文から考察することにより、「話し手が 自己意思を表出する用法」を取り上げた。

(37)

第 3 章 「じゃないか」の使用状況

本章は、「上村コーパス」から抽出した「じゃないか」の用例につ いて分析を行った。森山(1999)では、「早くしないか* / 」「誰 が行くものか* / 」「おいしいじゃないか* / 」という例を挙 げ、これらはいずれも疑問形式でありながら、聞き手への情報要求 の意味はないから、必ず下降調でなければならないと述べている。

確かに、「じゃないか」はこういう場合では、すべて下降調になるも のの、蓮沼(1995)、張(2004)などによると、「じゃないか」の用 法はほかにもいろいろあるので、違うイントネーションも出てくる はずである。今回の調査では、上昇調と平板調と下降調が観察され、

以下、「じゃないか」の使用状況を母語話者と非母語話者の二部を分 けて述べていく。

3.1 母語話者の「じゃないか」の使用状況

母語話者(以下は NS)50 名の発話資料のうち、1 名の資料がダ ウンロードできないため、残りの 49 名の発話資料を調査対象とし、

「じゃないか」の使用が計 110 例見られた。しかし、PRAAT で音声 を分析したら、(1)図 4 と図 5 のように、発話者の声が小さく、後 ろの「じゃないでしょうか」「じゃないか」のイントネーションを表 示する青の線が不完全なものになったり青の線が出なかったりする こと、

(38)

図 4 発話者 NS42 の「じゃないでしょうか」の音声表示(分析結果は青の線が不完全)

図 5 発話者 NS45 の「じゃないか」の音声表示(分析結果は青の線がなし)

(2)図 6 と図 7 のように、発話者が発話しているところ、発話者自 身が笑ったり、インタビューアーの声が入ったりし、音調を表示す る線は急に上がったとか、どちらの声によるものかは分からなくな ったこと、

(39)

図 7 発話者 NS10 の「じゃないか」の音声表示(インタビューアーの声で分析結果を影響)

などの問題を指摘したい。本研究はこれらのデータを除き、残りの 74 例を考察の対象とする。その中、上昇調・平板調・下降調が見ら れ、それぞれ 7 例、24 例、43 例ある。また、今度の調査では、「じ ゃないか」のほか、「じゃない」「じゃない(ん)ですか」「じゃない

(ん)でしょうか」「ではないか」「ではないでしょうか」など、位 相の差異に基づいて生じた変種も観察された。そして、「じゃないか」

と終助詞「な(あ)」や「ね(え)」と併用する用例も多く見られた。

これらは、田野村(1988)の「ではないか」第二類に属し、いずれ も「じゃないか」を原型とするものであるため、位相の差異による 変種や終助詞との併用は「じゃないか」にどのような影響をもたら すかも今度の考察の範囲に入れた。

3.1.1 上昇調

本研究で言う上昇調は、PRAAT で分析を行うことにより、図 8 のような結果が出たものである。

(40)

図 8 上昇調 1(発話者 NS32 の「じゃないですか」の音声表示)

図 8 の縦の赤の点線以降は「じゃないか」の発音部であり、青の方 は「じゃないか」のイントネーションを示す線である。また、横の 赤の点線をイントネーションの変化を判断する基準とし、ここの「じ ゃないか」の文末イントネーションは明らかに上がるものなので、

上昇調だと判断できる。一方、図 9 のような語末がやや上がる傾向 のあるものも、上昇調に入れることにした。

図 9 上昇調 2(発話者 NS45 の「じゃないかな」の音声表示)

今回の調査では、上昇調だと判断した用例は、7 例あり、全体の 約 9%を占めている。そのうち、「じゃないですか」が 2 例、「じゃ ない」「じゃないか」「ではないか」「じゃないかな」「じゃないんで

(41)

分析してみると、表 7 のようになる。

表 7 NS の上昇調の用例文およびその用法13

番 話者 用例 用法

1 NS32(2)

男性、が、(1:うん、うん)中高年の方ですから、

(1:はあはあはあ)そういう意味で、あーの中高 年、が、あの方が、お、ダンスしたくなるんじ ゃないですか。

述べ立て

2 NS45(14)

親切にしてあげる/と、あの、それはすごく、

いいことなんですけれども、(1:うんうん)そ ういう部分で違いはあるんじゃないかなと

(1:うん、なるほどね)私は今思いました。

述べ立て

3 NS47(3) やっぱり、がり勉が/多いんじゃないですか。 視覚・現 実判断

4 NS47(5)

子供相手に日本語教えるとか(1:あー)そう いうことだったらやっぱり自分が(1:うん)

大切にされていいんじゃない?

述べ立て

5 NS48(4)

こういうのが、まあ、あの、親子関係の理想的 な一つのパターンじゃないかと思うんですけ ど。

一般通念

6 NS48(8)

で、ま、かなり優秀な(1:うん)教師は確保 できやすい状態になってきているんではないか とは思うんですが。

視覚・現 実判断

(42)

7 NS49(6)

本来ならばそういった問題もグロ-バルに、

(1:うん)言えるような型あるいは言えるよ うな、組織が(1:うん)できていればいいん でしょうけれども、まあ、実際、そこまでなか なかいかないんじゃないんですかね、まだ。

視覚・現 実判断

表 7 から見ると、用例 1・2・4 番は「述べ立て」、3・6・7 番は「視 覚・現実判断」、5 番は「一般通念」の用法である。

用例 1・2・4 番はそれぞれ、話し手の持つ情報や個人的な意見を 聞き手へ伝達するもので、別に相手に同意を求める意図はないため、

「述べ立て」という用法に属する。

また、用例 3・6・7 番は話者が発話の現場にある事実や現実の状 態、つまり学校で見た事実・教師採用の現在の状態・人種差別問題 の実際をもとに、自分の判断を下すもので、「視覚・現実判断」の用 法に当たる。

そして、用例 5 番は理想的なパターンの一つと言い、前述内容は 親子関係について人間社会で普遍的な認知概念だと認められるため、

確認用法の「一般通念」という用法に該当する。

3.1.2 平板調

ここで言う平板調は、音声分析ソフトで分析を行うことにより、

図 10 のようになったものである。

(43)

図 10 平板調(発話者 NS19 の「じゃないですか」の音声表示)

図 10 を見ると、「じゃないか」の語末イントネーションは、語頭イ ントネーションと比べ、ほぼ同じ高さであるため、平板調だと判断 する。

今度の調査では、平板調の用例は、24 例あり、全体の約 32%を占 めている。そのうち、「じゃないか」が 10 例、「じゃないかな」が 6 例、「じゃないですか」および「ではないか」が 3 例、「じゃない」

と「ではないですかねえ」がそれぞれ 1 例ある。これらの例文をま とめ、その用法を分析してみると、表 8 になる。

表 8 NS の平板調の用例文およびその用法

番 話者 用例 用法

8 NS1(3)

あのーやはり住みやすくするのはそういうこと の、メンタルなことまで、考えないといけない んじゃないかっていうふうな、あのーその時の 感想でしたので、

述べ立て

(44)

9 NS2(2)

やっぱり学校の授業ある程度ついていけないと どんどん遅れていくと(1:うん、うん)面白 くなくなるじゃないですか。

一般通念

10 NS18(1)

今回は、き、「金」をもしかしたら獲れるんでは

ないかと、え、ちょっとたのしみ。 仮定状況

11 NS19(1)

こう、ある、パターンてあるじゃないですか。

(1:はい)あの授業を受けて、(1:うんうん)

テストに向けて、なんて言うんでしょうねえ、

こう、ここを押さえとけば、(1:あはっ)テス トは何とかなるとかっていう、(1:うんうん、

うん)パターンが、段々分かってきて、

述べ立て

12 NS19(2)

で大学でも、あるじゃないですか、(1:うん)

こう、喫煙スペースみたいなの。(1:うん、

うん、うん)で、そういうのを見てくるとなん か、やっぱりはたちとか、そういうのも、嘘っ ぽいし。

視覚・現 実判断

13 NS21(2)

世界、の、なん、ボーダー、やっぱり国、で対 決しますけど、その中の選手交流としては(1:

うん)あのー国のボーダーとかをー(1:うん)

なくすっていうか、人間、ひと、ひとつの人間 として、うん、/スポーツを通して分かり合って いけるんじゃないかと思ってそれはいいこと

一般通念

14 NS23(1)

海外の人達、に、(1:うん)日本語を教えると いうのが、(1:うん)とても、今自分で、まあ

參考文獻

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