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第 1 章 序論

1.1 研究動機および目的

森山(1989)、鮎澤(1990)などは、イントネーションとその文の 意味について次のように定義している。日本語のアクセントもイン トネーションも、主として音の高さ(pitch)の変動であると言え、1 イントネーションは、発話の意味なりニュアンスを決定付け、それ ぞれの発話に対して話し手の談話的な意味を積極的に表すものであ るという。イントネーションは発話の意味に深く関わっていること が分かる。

また、仁田(1989)は、日本語の文の基本構造を客体的な出来事 や事柄を表す「言表事態」とモダリティを表す「言表態度」という 二つの層に分けている。2そのモダリティを表す「言表態度」はイン トネーションと深く関連している。例えば、「行かない」「行きませ ん」のように、疑問終助詞の「か」がない文の場合には、文末の「い」

「ん」でピッチが上がれば質問または誘いを表す文だが、下がれば 否定の意思表示になる。ここでは、イントネーションによってはじ

1 アクセントとイントネーションについては諸説あるが、通常、アクセントが語や 文節のレベルの問題とされるのに対し、イントネーションは、文あるいは発話のレ ベルの問題だと考えられている(森山 1989b)。つまり、イントネーションはアク セントより、大きい単位の音の高さの変動を表すことができる。

2 言表態度とは、話し手が、現実との関わりにおいて描き取った一片の世界、文の 意味内容のうち客体的な出来事や事柄を表した部分である。言表事態は、言表事態 の中核である命題核、さらにヴォイスやアスペクトや認め方やテンスなどによって 形成さてれいる。テンスは、言表事態と言表態度との分水嶺的存在である。言表態 度を形成するのがモダリティである(仁田 1989:1)

言表事態 言表態度

めて話者の発話意図(言表態度)が明らかになるのである。

そして、福岡(1998)は、中国人日本語学習者の学習早期では、

文末のピッチの変動と勧誘の表現意図とを結びつけることが難しく、

勧誘を表す文末のピッチの上昇率が知覚上十分に習得されていない と述べており、イントネーション教育の大切さが示唆されている。

また、イントネーションの分析では、特に文末イントネーション

(いわゆる上昇調・下降調など)に着目することが多い。森山(1999)

は、文末のイントネーションは文の発話的な意味を規定すると、戸 田(2008)は、イントネーションは話者の表現意図・心的態度の伝 達に重要な役割を担っていると述べている。つまり、イントネーシ ョンは、話し手の意思を伝達する機能を持ち、前述の「行かない」

「行きません」という例のように、同じ文であっても、違うイント ネーションにより、発話の意図が異なることになる。

以上のことから、コミュニケーションをする時、イントネーショ ンは話し手から聞き手への意味伝達において重要な働きを持ってい ることが分かった。しかし、イントネーションはどのように意味伝 達に影響を与えるのか、というのは興味深いことがらである。

ところで、会話の中で、「じゃないか」という言葉は頻繁に発話さ れており、そのイントネーションと発話機能も複雑な様相を呈して いる。例えば、自分の意見や考え方を丁寧に相手に伝える場合、「じ ゃないか」はよく耳にし、しばしば使われる表現だと言える。また、

近年、「じゃないか」の使用状況を中心にした研究はないわけでもな い。まず、田野村(1988)「ではないか」の研究がある。田野村(1988)

は、「ではないか」の用法を次のように、「第一類」「第二類」「第三

第一類:発見の驚き、非難・叱責、認識・想起などを相手に求め るもの

a.よう、山田じゃないか。(発見の驚き)

b.何をする、あぶないじゃないか。(非難・叱責)

c.元気を出せ、また次の機会があるじゃないか。(認識・想起)

第二類:推定などを表す

例:雨でも降るんじゃないか。

第三類:発問、反問、納得などを表す 例:本当にお前が盗んだんじゃないか。

その後、蓮沼(1993・1995)、三宅(1996)、吉村(2002)、三枝(2004)、 宮崎(2000・2005)なども「じゃないか」の用法について考察して いる。ただし、研究者により、「ではないか」「じゃない」「じゃない か」「じゃないですか」など、違う変種で研究テーマにすることが見 られる。本論文は、「じゃないか」のイントネーションを中心に研究 するため、研究するデータは音声データを選定する。そこで、話し 言葉の「じゃないか」で統一する。

なお、吉川(2002)と三枝(2004)の研究では「じゃないか」の イントネーションと意味・用法について触れたが、充分な考察とは 言いがたい。とくに上昇調や下降調などの用語が使われているが、

視覚化した音声表示がないため、読み手にとっては理解しにくいと 思われる。例えば、平板調あるいは下降調というより、図 1 のよう に、下降調を示す方が分かりやすい。

図 1 視覚化した音声表示の例―下降調(NS1「じゃないんでしょうか」

図 1 の中、縦の赤の点線以降が「じゃないか」の発音部であり、

青の方は「じゃないか」のイントネーションを示す線である。また、

横の赤の点線をイントネーションを判断する時の基準とし、ここの

「じゃないか」は明確に「下降調」ということが分かった。一方、

いわゆる自然下降に聞こえる音声だが、図 2 のような音声分析結

図 2 視覚化した音声表示の例―平板調(NS29「ではないでしょうか」

じゃないんでしょうか

果から、ここの「じゃないか」は「平板調」だと判断しやすい。従 って、本研究は音声コーパスのデータを対象に、音声分析ソフトを 使用することにより、「じゃないか」の各イントネーションとその意 味・機能の関係を示したい。

音声教育は日本語教育の一環として重要な位置を占めており、本 研究の目的は、「じゃないか」に関する先行研究の成果を踏まえ、「じ ゃないか」のイントネーションの変化による意味変化を明らかにす ることと、日本語の音声教育に役立てようとすることにある。