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(55)「任意のね」のは、話し手が情報を伝達する際に、重要だと考える情 報をハイライトし、聞き手がそれを受容するように働きかける機能を 持つ。
上記が本稿の「任意のね」に対する結論である。この結論は、従来、ネに関 して言われることのあった「強調」や「念押し」といった概念と大差ないもの のようにも感じられるかもしれない。しかし、本稿においては、「強調」や「念 押し」と直感的に述べるのではなく、コーパスの中の文を実際に調査して、「任 意のね」を三つの類型に区分し、その結果として、このように結論したもので ある。
4.2 本稿の結論と先行研究の関係
次に、上述の結論と先行研究の関連について触れておく。
4.2.1 神尾昭雄と「友好的態度」
まず、本節では神尾(1990、1998)による「友好的態度」という点に関して 述べる。2.2節で取り上げたように、神尾(1990、1998)は、「任意のね」の 機能が、話し手が情報を伝える時に、あたかも聞き手もその情報を知っている かのように表現することで、話し手の優しさを感じさせることにあると主張し ている。しかし、本当に聞き手もその情報を知っているかのように表現してい ると言えるのか、という疑念は拭えない。本稿も「任意のね」に丁寧さや優し さ、或いは、「和らげ」といった性格を認めて良いと考える。ただし、本稿は それについて以下のように説明する。「任意のね」と呼ばれているように、「任 意のね」を用いた文は、ネを付けなくても、聞き手にその情報を伝えることは できる。しかし、話し手は「任意のね」によって、これが重要なポイントであ ることを聞き手に示す。このような、聞き手の理解のための働きかけを行うこ とによって、一方的な伝達という感じが緩和され、その結果、丁寧さや優しさ
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が感じられることになるのである。このように、本稿の「任意のね」に対する 分析は、ネの「和らげ」或いは「軽い主張」といった解釈にも適用可能なもの である。
4.2.2 金水敏▪田窪行則と「自己確認」
次に、金水▪田窪(1992)および金水(1992)や、田窪・金水(1996)に見 られる「自己確認」という概念についてである。1.2節で述べたように、これ まで本稿は、考察にあたって「自己確認」と解釈できる例を、いったん区別し てきた。以下、その「自己確認」と解釈できる例について言及していくが、本 稿が調べた範囲で、「自己確認」と解釈できる「任意のね」は、すべてが本稿 の分類した「応答タイプ」、「区切りタイプ」、「前提タイプ」のいずれかに 入ることが判明した。ただし、この三つの分類の中では、特に「応答タイプ」
に「自己確認」と考えられる例が多い。その例として、次の(56)を見る。
(56)JBM 02(日本人男性ベース)とJSM 02(日本人男性同輩)の雑談。便宜 のためJBM 02をAとし、JSM 02をBとする。Aには深い色がついてい る。
ライン番号 発話文番号 発話文終了 話者 発 話 内 容 48 46 * JSM02 あー、それじゃ 2 年生の方‘かた’ですか?。
49 47 * JBM02 そうですね、今 2 年です、はい。
50 48 * JSM02 そうですか。
51 49 * JBM02 ええ。
52 50 * JSM02 どういう感じでやってらっしゃるんですか?=。
53 51 * JSM02
=具体的には「先生 1 姓」先生の…、こう録音 とって、(ええ)それでこう会話にするっていっ た…。
54 52 * JBM02
そうですね、なんかこういうのとって、で、聞 きながらパソコンで起こして、(うーん)で、そ れを使ってこう、分析をするっていう感じ(う
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55 53 * JBM02 あ、そういう感じの研究、でもないんですか?。
56 54 * JSM02 じゃない…ですね。
57 55 * JSM02 あのー、こう、なんていうんですかね、あの、
慇懃無礼あるじゃないですか?。
初対面同性同士雑談(男、女)【音声】/ 201-14-JBM02-JSM02「宇佐美まゆみ 監修(2011)『BTSJ による日本語話し言葉コーパス(2011 年版)』」
ライン番号 56 は、間が置かれていることを意味する「…」という表記から も読み取れるように、話し手が自分自身の認識と照合したうえで、回答するも のと解釈できる。つまり、「自己確認」という性格を持つ「任意のね」の例だ と考えられる。一方、このライン番号 56 は、相手からの質問に回答するもの であるから、本稿が分析してきた「応答タイプ」の「疑問への回答」に属する。
つまり、この(56)におけるライン番号 56 は「自己確認」を行うものと解釈 できる一方、「応答タイプ」とも言える。両者は相互に排他的なのではないと いうことである。このように、本稿の観察する「応答タイプ」には、「自己確 認」の解釈が可能となる例も多数、存在するが、逆に「前提タイプ」の場合は、
「自己確認」とは考えにくい例が多い20。例えば、次の(57)を見る。
(57)JBM 03(日本人男性ベース)と JOM02 (日本人男性同輩)の雑談。便宜の ため JBM 03 を A とし、JOM02 を B とする。A には深い色がついて いる。
ライン番号 発話文番号 発話文終了 話者 発 話 内 容
190 176 * JBM03
んでユーザーが多いってことは、そのウイルス を送りつける本人からターゲットがいっぱい いるってことで(えー)、ウイルス、outlook express に特に作用するウイルスってのはいっ ぱいいるし、あとあれ自体にも結構セキュリテ ィ的に甘いものがあったりするんで、ただそれ を嫌って outlook 以外のものにしようって。
191 177 * JBM03 うちの大学、研究室でも“outlook express 使うな”
20 本稿は 2.3 節においても、既に(2)を示して、「自己確認」とは考えられない例の存在する ことを論じたが、この(2)も「前提タイプ」に属するものである。
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る。ライン番号 196 と 197 では、「ええと」や「やっぱり」といった計算中や 計算完了のシンボルが見られない。その上、普通に考えれば、このような話し 手の経験したことや熟知している事柄を発話する際に、いちいち「自己確認」
をするだろうか。それよりも、この「任意のね」は、聞き手に積極的に伝達し ようとする働きを持つものと見る方が妥当だと考えられる。つまり、(57)の ような「前提タイプ」に属する「任意のね」は「自己確認」と解しがたく、本 稿の結論である(55)の解釈の方が適切なのである。
確認してきたように、「任意のね」の「応答タイプ」には「自己確認」とも 解釈できる例が多いかもしれないが、「前提タイプ」には、「自己確認」と解 釈できる例が極めて少ない。しかし、先述のとおり、本稿の調べる範囲では、
「自己確認」と解釈できる例は、すべてが、先の三つのタイプのどこかに所属 する。つまり、「任意のね」にとって重要なのは、「任意のね」が三つのタイ プのどれかに該当するという点であって、その使用の際に、「自己確認」をす る場合もあれば、しない場合もあるということなのである。結局、「自己確認」
という概念は、すべての「任意のね」の説明にはならないが、本稿の結論は、
「自己確認」を行う「任意のね」をも、その一部として包含しうるということ である。