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立 政 治 大 學

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第 1 章 序論

1.1 研究動機と目的

終助詞ネは日本語の文末形式の一つとして、よく使われている。その用法と しては、一般に「相手に確認する」、「同意を求める」、「同意を示す」など が指摘されている。また、これまで各研究において、様々な角度からネへの探 究が進められた。その成果として、ネは少しずつその姿を明らかにされてきて いる。しかしながら、ネは、それ単独では具体的な意味を観察しえないため、

不明なところも残されていると言わざるを得ない。しかし、単独のネでは意味 を成さないとは言うものの、日本語コーパスにおける文の文脈や、話し手が置 かれている状況などと合わせて観察すれば、ネの意味合いを覗い知ることは可 能である。そして、それらの用例の中には、今まであまり注目されず、十分に は説明されていないネが存在しているのではないだろうか。

一般に、終助詞ネは「必須のね」と「任意のね」の二つに下位分類されてい る1。まず「必須」と「任意」ということが、具体的に何を意味しているのか を確認する。次に「宇佐美まゆみ監修(2011)『BTSJ による日本語話し言葉 コーパス(2011 年版)』」から、「必須のね」の例を引用する2

(1)JF 17(日本人女性)と JF 18(日本人女性)とアルバイトのことを話して いる。便宜のため、JF 17 を A とし、JF 18 を B とする。A には深い色 がついている。

ライン番号 発話文番号 発話文終了 話者 発 話 内 容 19 16 * JF17 <時給が>{>}高いのはね。

20 17 * JF18 そうだよ<ね>{<}。

21 18 * JF17 <魅力>{>}的だよね<笑い>=。

1 本稿の見るところ、「必須のね」と「任意のね」という概念を最初に提示したのは、神尾(1990)

の「情報のなわ張り理論」である。その後、この概念は広く受け入れられ、現在では通説の ようなものになっていると言えるであろう。

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22 19 * JF18 =そうだよね。

23 20 * JF18 どうせやるならね。

24 21 * JF17 うん。

25 22 * JF18 条件いい方が<いいね>{<}。

26 23 * JF17 <そうね>{>}。

謝罪の会話【音声】/ 279-21-JF17-JF18-1「宇佐美まゆみ監修(2011)『BTSJ に よる日本語話し言葉コーパス(2011 年版)』」

ライン番号25と26におけるネが「必須のね」である。ライン番号26の方は、

ここでネを取って「そう」と発話すると、文法的に不適格になると考えられる。

つまり、ここでは文の適格性のためにネが必須と言え、それゆえに「必須のね」

と称されている。一方、ライン番号25の方は、ネを取り除いて「条件がいい方 がいい」と発話しても、一応、適格のように感じられる。しかし、ネのない「条 件がいい方がいい」の場合は、話し手のBが、Aのライン番号19と21の発言を 聞いた上で、自分自身の感想を単に表出している文となるだろう。つまり、ラ イン番号25のように、聞き手に向けて発話している文とは言えなくなるのであ る。このように、一見、ネを取っても不適格とはならないライン番号25におい ても、ネを取れば、文としての性格が根本的に変化してしまう。その意味で、

ライン番号25のような場合でも、「必須のね」と称されるわけである。

次に「任意のね」の例を引く。

(2)JBI 10(日本人ベース依頼)が JSK 10(日本人同輩断り)に電話をかけて、

頼み事をしているシーンである。便宜のため、JBI 10 を A とし、JSK 10 を B とする。A には深い色がついている。

ライン番号 発話文番号 発話文終了 話者 発 話 内 容

13 12 * JBI10

<笑いながら>あのね(うん)、明日なんかあの友、

うーんと実は、国立国語研究所ってわかる?。

14 13 * JSK10 えっ、あ、聞いたことある<けど>{<}。

15 14 * JBI10

<あー>{>}、なんか私がそこでちょっと言語調査 に関する実験を頼まれていて、(うん)それに行

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かなきゃいけなかったんだけど、(うん)ちょっ と急用ができて行けなくなってしまったのね。

16 15 * JSK10 あ、なんかバイト?。

女性同士の断りの電話会話【音声】/ 75-4-JBI10-JSK10「宇佐美まゆみ監修(2011)

『BTSJ による日本語話し言葉コーパス(2011 年版)』」

ライン番号15が「任意のね」の現れる文である。これは、Aが言語調査に行 けなくなった事情を、Bに説明するものと考えられるが、この文からネを取り 除いても、そうした事情説明という性格は変わらない。このように、ネがなく ても、文意に根本的な変更を生じさせないものを、「任意のね」と呼んでいる のである3

次に、「必須のね」「任意のね」の全体像をわかりやすく示すために、船戸 (2012)から引用した(表1)を挙げる。船戸(2012)は、日本語学習者のネの 使用の問題を中心とするものであるため、ネの意味に関しては、各研究におけ る記述のまとめとなっており、深くは考察していない模様である。したがって、

本稿も船戸(2012)の説に従うということではないが、(表1)のような、ネ全 体についての包括的な分類は、ネの全体像を概観する上で有益であろう。次の ページを参照されたい。

3 ネを取ると文意に根本的な変更を生じさせるかどうか、という点に関しては、個人によって 判断が変る可能性もがある。本稿も一つ一つの例に即して、本当にネが取れるのかといった 議論を行うつもりはない。本稿においては、【次のページの(表1)に示されるような、「確 認要求」、「同意要求」、「同意表明」といった解釈が適用できないネ(=「必須のね」ではな

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の基本的な意味は、概ね「同意表明」、「同意要求」、「確認要求」という三 種である。

「同意表明」は(表 1)の例文「うん!!そうですね!」のように、話し手 が、相手の判断と同意見であることを表明するものである。続く「同意要求」

とは次に示すような文のことである。

(3)この問題は難しいね! (船戸 2012:6)

(3)には、話し手が「この問題は難しい」と思い、聞き手にその判断を伝 えて同意を求めるというニュアンスが認められるだろう。そして、以上のよう な「同意要求」と「同意表明」が会話の中で一つのペアになって、やり取りが 進むケースもある。その例として(1)を再掲する。ライン番号25が「同意要 求」、ライン番号26が「同意表明」の例となる。

(1)JF 17(日本人女性)とJF 18(日本人女性)はアルバイトのことを話してい る。便宜のため、JF 17をAとし、JF 18をBとする。Aには深い色がつい ている。

ライン番号 発話文番号 発話文終了 話者 発 話 内 容 19 16 * JF17 <時給が>{>}高いのはね。

20 17 * JF18 そうだよ<ね>{<}。

21 18 * JF17 <魅力>{>}的だよね<笑い>=。

22 19 * JF18 =そうだよね。

23 20 * JF18 どうせやるならね。

24 21 * JF17 うん。

25 22 * JF18 条件いい方が<いいね>{<}。

26 23 * JF17 <そうね>{>}。

謝罪の会話【音声】/ 279-21-JF17-JF18-1「宇佐美まゆみ監修(2011)『BTSJ に よる日本語話し言葉コーパス(2011 年版)』」

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次に「確認要求」の例を示す。

(4)来週のチャットは19時からですね? (船戸2012:6)

(4)は、話し手が、自分より当該情報をよく知っている聞き手に対して、

情報の真偽を確認しており、このような用法が「確認要求」と呼ばれているの である。

次に「任意のね」に移る。(表1)には、「自己確認」という意味が示され ていたが、この「自己確認」とはどのようなものであろうか。

(5)私は野球はあまり見ませんね。 (船戸2012:6)

(5)で言えば、話し手は「私は野球をあまり見ない」という情報が真であ るかどうかに関して、自分の記憶で検索し、それによって得た情報とのマッチ ングを行う。その結果、間違いなく「私は野球をあまり見ない」という判断に 至ったことを表す標識としてネが使われるというのである。

しかしながら、この「任意のね」の意味合いをめぐっては、論によってまっ たく異なる見解が存在する。たとえば、神尾(1998)は(6)を「自己確認」

ではない観点によって説明している。

(6)A:すいません、今日の会議は何時からですか。

B:2時ですね。 (三枝·中西2003:48)

神尾(1998)は、基本的に、ネは聞き手の方が情報を知っている時に使われ る標識だとしている。したがって、多くの場合、ネは聞き手に情報を尋ねると きに使われる。しかし、(6)のネは明らかに話し手の方が情報を知っている。

神尾(1998)は、このような例を、話し手が、あたかも聞き手もその情報を知 っているような体裁で発話することによって、聞き手への友好的な態度を表現

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するものだとしている4。このようなネは「やわらげのね」と言われることも ある。また、神尾(1998)の他にも、「任意のね」の説明として「軽い主張」、

「念を押す気持ち」など、さまざまに提示されており、統一的な見解がないと いうのが現状である。

本稿は、場合によっては、ネに「自己確認」という性格がある可能性を認め るが、「任意のね」はすべて「自己確認」の意味であるとは考えない。例えば、

(表1)の「誤用」というカテゴリーでは、「嫌いなものもありますよ。私は 納豆を食べられないんだね」という文を挙げて、「情報が聞き手のなわ張りに 属しておらず、かつ話し手自身の確認(計算)行為を必要としないものである 際に付加された『ね』」と説明している。そのような場合にはネを付けてはい けないのに、付けているために誤用になるというわけである。しかし、上記の 文を次のように変えると適格な文となる。

(7)嫌いなものもありますよ。私は納豆を食べられないんですね。

(7)嫌いなものもありますよ。私は納豆を食べられないんですね。