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第五章 結論
前述した四人のヨーロッパ人の有した日本に対する見方は、、宣教師や医師 の身分にもかかわらず、当時彼らの生まれたヨーロッパの時代背景と深く関係 がある。例えば、当時はどのような思想が流行っているのか、あるいは国際情 勢はどうのように発展していたのか、などの原因によって、彼らの日本の医学 観は左右された。
フロイスは宣教師として来日した。彼が生まれた16 世紀のヨーロッパでは、
宗教改革の時代であり、この頃欧州の医学は自然観察と実験にもとづく実験主 義は生じたが、病気の原因としていろいろな考え方をあげたほか、神罰を重く みている思想はかなり強かった。医学と占星術や錬金術から離れることができ なかった。そして、解剖学を軽くみる傾向があった。この時代には、もし科学 者や医学者たちが神の存在を否定し、あるいは教会の思想と異なると、すぐ異 端者として見られ、処刑される。1517 年ルターが宗教改革の先頭となると、
カトリック教も腐敗した教会内部を改革すべく、積極的に自己改革を行うよう になった。この頃の社会には「神秘主義」167が流れていた。168中村雄二郎氏の
「カトリック教会の改革」に以下のように書いている。
イエズス会士たちは、超自然的な霊感を受けないものでも、自己の努力と 労苦により完全な状態に達しうることを説いた。こうして、従来は超自然 的な霊感のうちにのみ求められていた力が、人間の意志に与えられること になる。(中略)こうして彼は、イエズス会の活動の精神的源泉となった
『心霊修業』において、人間が組織立った訓練によってその自然的能力を 最高度に発展させうるものとし、とくにその際、彼が感覚と想像力とを積 極的に活用させ、「視覚」、「聴覚」、「嗅覚」、「味覚」、「触覚」という文字 通りの五官の想像力に訴えて、地獄の恐怖と神の裁きの戦慄を極めて現実
167 「神秘主義とは特殊な体験的な境地のうえに立脚した思想の型である。人間の心には、日 常普通の経験では容易に現れることのないような、特異の味わいを含んだ体験が啓けてくる場 合がある。(中略)しかし体験的なものの意義を強調する結果、宗教的になる傾向がある。従 って、宗教神秘主義は、神秘主義のうちでも中心的な位置を占める」(『世界歴史事典』10 平 凡社、1955 年)、P178。
168 「カトリック教会の「宗教改革」運動に抵抗しつつ行われていった自己改革運動の展開は、
このようなイエズス会の活動とならんで大きな成果をあげたのは、「神秘的生活(神秘的霊感 をうけた内的生活)を重視し、「霊性」の強化によって信仰生活の刷新をはかった」。(中村雄 二郎著「カトリック教会の改革」『世界歴史14 近世世界の形成』岩波講座、1967 年)、P459。
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見された。173彼が見た日本の医療は、漢方医である古医方であった。対症療法 を重視するので、病気の症状よりその対応する薬剤を使い、直ちに病気を治す のは西洋医学と古医方の主張である。また、灸治には、効果の発生が外科手術 より遅いと思われ、一方、西洋医学には李朱医学の「養生」の概念が見られな い。しかし、ワクチンを使うのは、もう「予防」の概念が含まれていた。李朱 医学の「病気が起こらないように」、「養生」の概念と少し似ている。また、日 本の温泉に対し、中に含まれる成分を分析した次第にその効能を認める。まさ に、実証主義の代表であるのであろう。
ポンペはオランダ海軍の軍医であり、幕末に来日し、オランダ医学を日本人 に教えた。ポンペが来日した残した言葉を以下に引用したい。
医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を 選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものであ る。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。174
彼は日本の医学だけを見ておらず、日本の医学道徳と倫理も重視した。彼の 言葉は医療の真髄であり、医者たちは常にこの「真髄」を心で銘記し、医学の 道に進むべきである。ポンペとほかの三人(フロイス、ケンペル、シーボルト)
と一番違うところは、医者としての「仁心」であろう。患者はみんな平等な「人 間」として、同じな立場を見て、貧富を問わず治療を与えるべきだと主張した。
また、彼は日本の医学を軽視し、時代遅れの医学と評判した。なぜならば、
彼が来日した頃は、貧弱な幕末であり、政治が崩れそうになり、内憂外患の状 況であったからである。「西洋のほうが優れている」というような優越感を持 つのは仕方のないことであろう。さらに、日本社会の風俗も激しく非難した。
例えば、政府には遊女に対する厳重な監督が必要であり、性的な放縦は性病の 原因となると述べていた。
173 『世界歴史事典』(民族文化、1984)、P278。
174 沼田次郎、荒瀬進共訳『ポンペ日本滞在見聞記-日本における五年間-』(新異国叢書、雄 松堂)、1978 年。
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参考文献 一、史料類
1. エンゲルベルト・ケンペル(Engel ber t Kaempf er )、斉藤信訳『江戸参府 旅行日記』(東洋文庫、1977 年)
2. 松田毅一、川崎桃太訳『フロイス 日本史』12 巻(中央公論社、1977 年)
3. 法政蘭学研究会『オランダ風説書』(日蘭学会、1977 年)
4. 沼田次郎、荒瀬進共訳『ポンペ日本滞在見聞記- 日本における五年間-』
(雄松堂、1978 年)
5. フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルト(Phi l i pp Fr anz Bal t has ar von Si ebol d、斉藤信訳『参府旅行中の日記』(思文閣、1983 年)
6. 松田毅一監訳『十六・七世紀イエズス会日本報告集. 第 1 期』第 1 巻(同 朋舎出版、1987 年)
7. ルイス・フロイス(Luí s Fr ói s )、岡田章雄訳『ヨーロッパ文化と日本文 化』(岩波文庫、1991 年)
8. ルイス・フロイス著(アンリー・ベルナール等編訳『九州三侯遣欧使節行 記. 続編』東洋堂、1949 年)
9. 検夫爾著、坪井信良訳『日本誌』上巻(霞ヶ関出版、1997 年)
10. 検夫爾著、坪井信良訳『日本誌』中巻(霞ヶ関出版、1997 年)
11. 検夫爾著、坪井信良訳『日本誌』下巻(霞ヶ関出版、1997 年)
12. シーボルト、中井 晶夫、斉藤信ほか訳『日本』(雄松堂書店出版、1977 年)
二、論文、論著など
1. 吳秀三著、岩生成一解説『シーボルト先生-其生涯及び功業-』(吐鳳堂、
1926 年)
2. 木村陽上郎『シーボルトと日本の植物』(恒和出版、1981 年)
3. 板沢武雄『シーボルト』(吉川弘文館、1988 年)
4. B. M. ボダルト=ベイリ中直一訳『ケンペルと徳川綱吉』(中央公論社、
1994 年)
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振興会、1957 年)
1. 荒瀬進『蘭医ポムペと登籍人名小記に就いて』(荒瀬進、1949 年)
2. 青木一郎『わが愛する蘭医の伝記』(岐阜県医師会、1981 年)
3. 岡田保造『魔よけ百科 かたちの謎を解く』(丸善、2007 年)
4. 三木鬼外編述『病魔よけ 万民を幸福へ』(大東京寿宝社、1936 年)
100. 安西安周『日本儒医研究』(竜吟社、1943 年)
101. 芳賀登ほか編『日本人物情報大系』第 54 巻(皓星社、2000 年)
102. 亀田一邦『幕末防長儒医の研究』(知泉書館、2006 年)
103. 大塚敬節、矢数道明責任編集『近世漢方医学書集成』57(名著出版、1980 年)
104. 小川鼎三『医学の歴史』(中公新書、1965 年)
105. 日本学士振興会『明治前日本医学史』(日本学士院日本科学史刊行会編、
1955 年)
106. 佐々著『日本の風土病』(法政大学出版局、1960 年)
107. 清水藤太郎『日本薬学史』(南山堂、1950 年)
108. 立川昭二『病気の社会史』(日本放送出版協会、1972 年)
109. 奈良本辰也『南蛮史料の発見』(中央公論社、1965 年)
110. 宮永孝『ポンペ : 日本近代医学の父』(筑摩書房、1985 年)
111. 海老沢有道『南蛮学統の研究 近代日本文化の系譜』(創文社、1958 年)
112. 外山卯三郎『南蛮学考』(国民社創立事務所、1945 年)
113. 松田毅一『日欧のかけはし 南蛮学の窓から』(思文閣出版、1990 年)
114. 富士川游『日本医学史綱要』Ⅰ、Ⅱ(平凡社、1974 年)
115. 日本学術振興会『明治前日本医学史』(日本学士院日本科学史刊行会編、
1955 年)
116. 奥沢康正『京の民間医療信仰』(思文閣、1991 年)
117. 川村純一『病の克服-日本痘瘡史-』(思文閣、1999 年)
118. 吉良枝郎『幕末から廃藩置県までの西洋医学』(築地書館、2005 年)
119. 杉本勲『近世日本の学術』(法政大学、1982 年)
120. 日本史研究会編『講座日本文化史』第五巻(三一書房、1963 年)
121. 『日本歴史 12-近世思想の源流』(学生会、1974 年)
122. 島田勇雄訳注『本朝食鑑』Ⅰ(平凡社、1976 年)
123. ギュンター・ボルンカム、佐竹明訳『新約聖書』(新教出版社、1972 年)
124. W・エプシュタイン、梶田昭訳『新約聖書とタルムードの医学』(時空出版、
1990 年)
125. 神田千里『一向一揆と戦国社会』(吉川弘文館、1998 年)
126. 『仙台市史』特別編 8(アマーティ「伊達政宗遣欧使節記」2010 年)
127. 宗田一『図説日本医療文化史』(思文閣、1989 年)
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三、雑誌記事など
1. 『ツュンベリーとシーボルト』通号 106(日本病院ライブラリー協会編、
2005 年)
2. 『ケンペルとドーム- - 東西比較に潜む時代の位相』57(外国文学 宇都宮 大学外国文学研究会編、2008 年)
3. 『シーボルトを育てた町長崎』通号 570(ながさき経済 2007 年)
4. 『ツュンベリーとシーボルト』通号 106(特別寄稿ほすぴたるらいぶらり あん2005 年)
四、絵図
1. 渋澤敬三編『日本生活絵引』五巻(平凡社、1984 年)
2. 小松茂美編『餓鬼草紙 地獄草紙 病草紙』九相詩絵巻(中央公論社、1987 年)
3. 笹間良彦『復元 江戸生活図鑑』(柏書房、1995 年)