第三章 二項動詞の能動文におけるかき混ぜ
3.4 中国語を母語とする日本語学習者によるかき混ぜ
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立 政 治 大 學
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3.4 中国語を母語とする日本語学習者によるかき混ぜ 3.4.1 参加者
実験に参加した日本語学習者は全員、参加の時点で国立政治大学に在籍して いた。参加者は37 名で、そのうち、男性 13 名、女性 24 名であった。平均年 齢は22 歳 10 ヶ月(標準偏差 1 歳 8 ヶ月)であった。最年長は 26 歳 6 ヶ月で、
最年少は20 歳 2 ヶ月であった。
参加者は全員中国語を母語とする日本語学習者で、26 名は日本語能力試験 N1 に、11 名は N2 に合格した中上級学習者であった。また、日本語学習歴は 平均4 年 2 ヶ月(標準偏差 2 年 1 ヶ月)で、最も長いのは 10 年で、最も短い のは1 年であった。また、37 名のうち、7 名の参加者が日本への留学歴29を持 っている。文正誤判断課題の実験の参加者は予備調査に参加していない。
3.4.2 実験材料
3.3.2 と同じである。予備調査で選出された正しい二項動詞の能動文の各々 のかき混ぜ文を作成した。また、予備調査のインタビューから、二項動詞の能 動文の実験において、およそ実験進行の三分の二の時点から、疲労感が覚える ということが分かった。したがって、文正誤判断課題に用いられる刺激文は 100 文にすることにした。そして、予備調査で用いられた誤ったガヲ能動文と ガニ能動文から、各14 文を選出し、それらのかき混ぜ文を作成した。さらに、
ダミー文として、二項動詞の能動文でない「今日は天気がいい」のような無関 係な文を14 文作った。したがって、刺激文は正しいガヲ能動文 80 文、正しい ガニ能動文50 文、誤ったガヲ能動文 28 文、誤ったガニ能動文 28 文、ダミー 文 14 文となっている。正しい文は「正しい」と、誤った文は「間違い」とい う反応が求められる。
また、同じ命題の文を同じリストに入れると、後ろに来る文の反応時間が短 くなると考えられるため、同じ命題の文の基本語順文とかき混ぜ文が重ならな いよう、二つのリストを作成した。つまり、「杉田が時計を直した」という文 はリストⅠに入れると、「時計を杉田が直した」という文はリストⅡに入れる。
そこで、各リストに、ガヲ能動文は正しい基本語順文 20 文と正しいかき混ぜ 文20 文、誤った基本語順文 7 文とかき混ぜ文 7 文がある。しかし、正しいガ ニ能動文は25 文あるため、等分することができず、リストⅠには正しい基本語
29 日本への留学歴を持つのは 7 名のみであるため、留学歴による文処理の差異については分 析しない。
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順文 12 文とかき混ぜ文 13 文があり、リストⅡには正しい基本語順文 13 文と かき混ぜ文 12 文がある。そして、両リストには誤ったガニ能動文が基本語順 7 文とかき混ぜ文 7 文がある。このほか、両リストには 7 文のダミー文がある。
したがって、各リストは100 文30からなる。二項動詞の能動文の実験に用いら れる刺激文は付録四を参照されたい。
3.4.3 手続き
3.3.3 と同じである。実験のプログラムには、Visual Studio 2015 を使用した。
実験は国立政治大学日本語学科の院生室で行った。院生室が使用中の場合、日 本語学科の視聴室で行った。場所は統一されていなかった。パソコンのスクリ ーン画面の中央にまず、凝視点として「+++++++」が呈示され、600 ミ リ秒後、文が視覚的に提示される。提示された文は日本語の文として正しいか どうかできるだけ速く正確に判断するよう参加者に指示した。文が文法的に正 しく意味をなす場合、その文は「正しい」と、逆の場合、その文は「間違い」
と判断し、マウスでプログラムの「正しい」・「間違い」というボタンを右クリ ックするよう指示した。また、文が同じ順番で提示されると、リストの後ろの 文の反応時間が疲労によって長引く可能性があるため、実験に用いられる100 文はカウンター・バランスを用いて参加者ごとに呈示された。反応時間と正誤 はパソコンで自動的に記録された。また、プログラムの操作に慣れるよう、実 験の前に5 文からなる練習を行った。
そして、参加者に一人ずつ番号を付けた。疲労効果を避けるよう、奇数の参 加者にはまず二項動詞の実験を行い、次に三項動詞の実験を行った。一方、偶 数の参加者にはまず三項動詞の実験を行い、その後、二項動詞の実験を行った。
二項動詞の実験と三項動詞の実験との間に参加者ペースの休憩時間を設けた。
実験の後、参加者にデブリーフィングとアンケートを行った。
3.4.4 結果と考察
実験で得たデータを確認し、37 名参加者のうち、1 名のデータはプログラム のミス31で欠落があると分かった。そこで、その1 名のデータを分析から排除
30 100 文からなる刺激文リストに対する日本語学習者による総計反応時間は平均 6 分間ほど であった。また、凝視点としての「+++++++」の呈示時間を含めて、日本語学習者によ る二項動詞の能動文の文正誤判断課題の実験は約7 分間かかった。
31 刺激文リストの 1 文がプログラムのコーディングに載っていないというミスである。各参 加者の実験が終わった後、データを確認して、このようなミスを発見し、プログラムを直し た。そのため、データに欠落があるのは1 名の参加者のみであった。
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した。したがって、中国語を母語とする日本語学習者による二項動詞の能動文 の分析は36 名のデータで行った。そのうち、男性 13 名、女性 23 名であった。
平均年齢は22 歳 11 ヶ月(標準偏差 1 歳 8 ヶ月)であった。最年長は 26 歳 6 ヶ月で、最年少は20 歳 2 ヶ月であった。26 名は日本語能力試験 N1 に、10 名 はN2 に合格した中上級学習者であった。日本語学習歴は平均 4 年 2 ヶ月(標 準偏差1 年 1 ヶ月)で、最も長いのは 10 年で、最も短いのは 1 年であった。
また、データを確認して、正しいガヲ能動文の1 文には漢字誤変換の問題が あるため、その文を分析から排除した。したがって、正しいガヲ能動文の分析 は39 文で行った。そして、誤ったガニ能動文の 1 文にも漢字誤変換の問題が あり、さらにペアとなっていない文があるため、その 2 文を分析から排除し た。さらに、日本語学習者の参加者の反応時間には25584 ミリ秒(約 25.6 秒)
などのような極端な数値が見られたため、反応時間の分析には、参加者と刺激 文の条件ごとに、ウィンザライズド平均を使った。中国語を母語とする日本語 学習者による二項動詞の能動文の正誤判断課題の実験原始データは付録九を 参照されたい。
中国語を母語とする日本語学習者によるガヲ能動文の反応時間と誤答率は 以下の表16 の通りである。
表16、中国語を母語とする日本語学習者によるガヲ能動文の反応時間と誤答率
文の種類 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 正しい文 基本語順 3001 1158 25.16 15.91
かき混ぜ 3442 1412 45.46 24.07 誤った文 基本語順 3488 1561 50.79 29.46 かき混ぜ 3520 1778 48.02 34.18
中国語を母語とする日本語学習者によるガヲ能動文の反応時間と誤答率に 対して、語順の基本語順・かき混ぜの2 条件について、反復測定による分散分 析を行った。その結果、正しい文の反応時間について、参加者分析と項目分析 両方ともに有意であった(F1(1,35) =8.541、*p =.006 <.05;F2(1,38) =11.375、*p
=.002 <.05)。また、誤答率について、参加者分析も項目分析も有意であった
(F1(1,35) =16.885、*p =.000 <.05;F2(1,38) =33.214、*p =.000 <.05)。したがっ て、正しいガヲ能動文の処理において、かき混ぜ文は基本語順文より長い反応
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が処理に負担をかけることによると思われる。
一方、ガニ能動文の処理について、中国語を母語とする日本語学習者を対象 とした「ガ格」と「ニ格」を取る能動文の実験は上述したように、見当たらな いため、ガニ能動文の結果をガヲ能動文の結果と比較する。正しいガニ能動文 の処理において、正しいガヲ能動文と異なり、基本語順文とかき混ぜ文の反応 時間に有意な差が見られなく、文正誤判断での誤答率にも有意な差が見られな かった。また、誤ったガニ能動文の処理において、かき混ぜ文は基本語順文よ り反応時間が長いが、文正誤判断での誤答率に有意な差が見られなかった。こ のような結果は、ガニ能動文の処理において、構文の種類を判断することが必 要であることによると思われる。さらに、誤った文の処理において意味的スト ラテジーによる名詞句の再確認が必要であることも文処理に負担をかける。そ のため、語順による影響が見られなかったと考えられる。