第三章 二項動詞の能動文におけるかき混ぜ
3.3 日本語母語話者によるかき混ぜ
3.3.4 結果と考察
刺激文の条件ごとに、ウィンザライズド平均(Winsorized mean)24を算出した。
そして、本研究における反応時間についての分析はこのようなウィンザライズ
24 ウィンザライズド平均(Winsorized mean)は刈込平均(Trimmed mean)と類似する平均値の 計算方法である。刈込平均はデータの最大値と最小値を消し、残ったデータのみで平均値を算
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日本語母語話者によるガヲ能動文の反応時間と誤答率の平均25は表 14 の通 りである。
表14、日本語母語話者によるガヲ能動文の反応時間と誤答率
文の種類 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 正しい文 基本語順 2189 628 25.46 14.81
かき混ぜ 2518 1093 31.12 14.91 誤った文 基本語順 2539 1006 57.67 27.59 かき混ぜ 2662 848 56.61 27.01
日本語母語話者によるガヲ能動文の反応時間と誤答率に対して、基本語順・
かき混ぜ語順の 2 条件について反復測定による分散分析を行った。その結果、
正しい文の反応時間について、参加者分析と項目分析ともに有意であった
(F1(1,26) =5.213、*p =.031 <.05;F2(1,38) =7.242、*p =.011 <.05)。また、誤答率 について、参加者分析は有意であったが、項目分析は有意ではなかった
(F1(1,26) =12.191、*p =.002 <.05;F2(1,38) =1.835、p =.184 ns)。
したがって、正しいガヲ能動文の処理において、かき混ぜ文は基本語順文よ り長い反応時間を要すると言える。この結果は 3.1 で立てた予測と一致する。
しかし、文の正誤判断において、基本語順文とかき混ぜ文の誤答率の違いは確 率的に起こる26と言える。つまり、今回の実験から、基本語順文とかき混ぜ文 の文正誤判断での誤答率には差異があるとは言えないということである。この 結果は予測と一致しない。反応時間についての結果は、Tamaoka et al.(2005)
のと同じく、かき混ぜ文は基本語順文より反応時間が長いが、文正誤判断での 誤答率についての結果は、Tamaoka et al.(2005)のかき混ぜ文が基本語順文よ り誤答率が高いことと異なり、かき混ぜ文と基本語順文の誤答率に有意な差が 見られなかった。
また、実験後のアンケートとインタビューから、実験者が日本人でないこと は日本語母語話者の参加者による文処理に影響を与えることがあると分かっ た。日本語母語話者のフィードバックによると、話し手が日本人でない学習者
25 平均値は参加者ごとに算出された平均値と、項目、すなわち文ごとに算出された平均値と 両方あるが、本研究は参加者ごとに算出された平均値をとりあげる。
26 仮説検定において、算出された結果が有意でない場合、その観察における差異は「偶然に生 じるもの」とは否定できない。
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日本語母語話者によるガニ能動文の反応時間と誤答率に対して、語順の基本 語順・かき混ぜ語順の2 条件について反復測定による分散分析を行った。分析 の結果、正しいガニ能動文の反応時間について、参加者分析は有意であるが、
項目分析は有意でなかった(F1(1,26) =4.410、*p =.046 <.05;F2(1,24) =3.744、p
=.065 ns)。また、誤答率について、参加者分析と項目分析は有意ではなかった
(F1(1,26) =.827、p =.372 ns;F2(1,24) =.353、p =.558 ns)。
したがって、正しいガニ能動文の処理において、基本語順文とかき混ぜ文の 反応時間の差も文正誤判断での誤答率の差も確率的に起こると言える。つまり、
今回の実験から、基本語順文とかき混ぜ文に要する反応時間には差異があると は言えず、文正誤判断での誤答率にも差異があるとは言えないということであ る。このような結果は3.1 で立てた予測と一致しない。
村岡ら(2004)は、「ガ格」と「ニ格」を取る能動文を用いて実験を行った が、村岡ら(2004)の分析では「ガ格」と「ヲ格」を取る能動文と「ガ格」と
「ニ格」を取る能動文という二種類の能動文(本研究でいうガヲ能動文とガニ 能動文)を分けて分析していない。すなわち、単純に「ガ格」と「ニ格」を取 る能動文についての分析がないということである。そのため、ガニ能動文の結 果はガヲ能動文と比べる。正しいガヲ能動文の処理と異なり、かき混ぜ文は基 本語順文より反応時間が長くはなく、両方に有意な差がなかった。しかし、誤 答率の結果はガヲ能動文の処理と同じく、基本語順文とかき混ぜ文の誤答率に 有意な差がなかった。
これは、ガニ能動文の処理において、かき混ぜ文のニ格名詞句が文頭に来る 時点では、その文は可能文か主語が省略された三項動詞の能動文か判明できな いことによるのではないかと考えられる。日本語では「ガ格」と「ニ格」を取 る文型には、本研究が用いるガニ能動文のほか、「永井に中国語が話せる」の ような可能文があることに起因すると思われる。可能文は「名詞ニ名詞ガ動詞」
という文型を取り、基本語順は本研究に用いるガニ能動文の基本語順と異なる。
このため、文処理において、ニ格名詞句が文頭に来る時点で、その文はガニ能 動文のかき混ぜ文か可能文の基本語順文かは判明できない。同様に、ガ格名詞 句が文頭に来る時点で、その文はガニ能動文の基本語順文か可能文のかき混ぜ 文かも判明できない。また、ニ格名詞句が文頭に来る時点で、その文は可能文 であると想定される可能性がある一方、「永井にプレゼントをあげた」のよう な主語が省略された三項動詞の能動文の可能性もあると考えられる。
このように、本研究におけるガニ能動文の処理においては、構文の種類の判
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断が必要になる可能性があると思われる。この判断は文処理に負担をかけると 考えられる。そのため、日本語母語話者による正しいガニ能動文の反応時間と 文正誤判断での誤答率には、かき混ぜ文と基本語順文の有意な差が見られなか ったのである。
図5、日本語母語話者による正しいガニ能動 文の反応時間(ミリ秒)
図6、日本語母語話者による正しいガニ能動 文の誤答率(%)
一方、誤ったガニ能動文の場合、反応時間について、参加者分析と項目分析 は有意ではなかった(F1(1,26) =.014、p =.908 ns;F2(1,11) =.053、p =.822 ns)。
そして、誤答率についても、参加者分析と項目分析は有意ではなかった
(F1(1,26) =.422、p =.521 ns;F2(1,11) =.658、p =.435 ns)。
したがって、誤ったガニ能動文の処理において、基本語順文とかき混ぜ文の 反応時間の差も文正誤判断での誤答率の差も確率的に起こると言える。すなわ ち、今回の実験から、基本語順文とかき混ぜ文に要する反応時間には差異があ るとは言えず、文正誤判断での誤答率にも差異があるとは言えないということ である。このような結果は3.1 で立てた予測と一致しない。
上で述べたように、誤ったガヲ能動文の処理と同じく、誤ったガニ能動文の 処理においても意味的ストラテジーによる名詞句の再確認が必要になる。のみ ならず、正しいガニ能動文の処理と同様、構文の種類の判断が必要である。こ の二つのプロセスはともに、文処理に負担をかけるため、誤ったガニ能動文の 処理において、語順による影響が見られなかったと考えられる。つまり、文が 意味をなすかどうかは誤った文の処理に大きな役割を果たしていると思われ る。
2150 2250 2350 2450 2550 2650
基本語順 かき混ぜ
30.00 35.00 40.00
基本語順 かき混ぜ
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図7、日本語母語話者による誤ったガニ能動 文の反応時間(ミリ秒)
図8、日本語母語話者による誤ったガニ能動 文の誤答率(%)
今回の実験で収集された日本語母語話者による二項動詞の能動文の結果は 次のようにまとめられる。正しいガヲ能動文の処理において、Tamaoka et al.
(2005)と同じく、かき混ぜ文は基本語順文より反応時間が長いことが観察さ れた。しかし、文正誤判断での誤答率について、Tamaoka et al.(2005)と異な り、かき混ぜ文と基本語順文に有意な差が見られなかった。誤答率に有意な差 が見られなかったことは、日本語母語話者が実験における刺激文の話し手を想 定しつつ反応した可能性があることに起因すると考えられる。また、誤ったガ ヲ能動文の処理において、基本語順文はかき混ぜ文に要する反応時間には差が 見られず、文正誤判断での誤答率にも差が見られなかった。この結果は、誤っ たガヲ能動文の処理において意味的ストラテジーによる名詞句の再確認が処 理に負担をかけることによると思われる。
一方、ガニ能動文の処理について、単純に「ガ格」と「ニ格」を取る能動文 に対する分析を行った研究は、上で言及したように、見当たらないため、本研 究におけるガニ能動文の結果はガヲ能動文の結果と比べる。正しいガニ能動文 の処理は、正しいガヲ能動文の処理と異なり、基本語順文はかき混ぜ文に要す る反応時間に差が見られず、文正誤判断での誤答率にも差が見られなかった。
また、誤ったガニ能動文の処理において、基本語順文とかき混ぜ文に要する反
また、誤ったガニ能動文の処理において、基本語順文とかき混ぜ文に要する反