第二章 先行研究と理論的な基礎
2.2 先行研究
2.2.1 日本語母語話者を対象とした研究
究において、スクランブル効果(Scrambling effect)2が見られるということは このような統計分析に基づいて判断される。本研究の分析3において、有意水
2.2.1.1 Tamaoka et al.(2005)
Tamaoka et al.(2005)は他動詞能動文(Active Sentences with Transitive Verbs)、
二重目的語能動文(Active Sentences with Ditransitive Verbs)、他動詞受身文
(Passive Sentences with Transitive Verbs)、可能文(Potential Sentences)、使役文
(Causative Sentences)五種類の文を用いて日本語母語話者を対象にして実験
1 以上は『言語研究のための統計入門』(石川ら編 2010:58)と『心理・教育のための統計法
〈第2 版〉』(山内 1998:107)に基づき、まとめたものである。
2 文処理において、かき混ぜ文は基本語順文より遅く処理されることや文正誤判断の時にかき 混ぜ文の誤答率が基本語順文の誤答率より高いことであるという(Tamaoka et al., 2005、玉岡 2005)。
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を行った。そして、実験参加者の反応に対して反復測定7による分散分析
(Repeated measure ANOVA)を行った。
実験に用いられた肯定反応の文(correct “Yes” responses、文が正しいという 反応が求められる)は次の表1 のようなものである。
表1、実験に用いられた肯定反応の文の例(Tamaoka et al., 2005:312-330)
基本語順文 かき混ぜ文
他動詞能動文 友子が太郎をほめた。 太郎を友子がほめた。
二重目的語能動文 太郎が友子にかばんを預けた。 かばんを友子に太郎が預けた。
他動詞受身文 順子が太郎に蹴られた。 太郎に順子が蹴られた。
可能文 高志にギリシャ文字が書けるだろうか。 ギリシャ文字が高志に書けるだろうか。
使役文(対格) 順子が弟子にアトリエを造らせた。 順子がアトリエを弟子に造らせた。
使役文(与格) 順子がアトリエに弟子をこもらせた。 順子が弟子をアトリエにこもらせた。
一方、各実験における否定反応の文(correct “No” responses、文が誤っている という反応が求められる)は次の表2 の通りである。
表2、実験に用いられた否定反応の文(Tamaoka et al., 2005:287-299)8 他動詞能動文 順子が健二を縫った。
二重目的語能動文 和夫が健二に洗濯機を踊った。
他動詞受身文 空が順子に洗濯された。
可能文 雅子が消しゴムに手伝えるだろうか。
実験に用いられる文が正しい文のみなら、参加者が実験において「正しい」
としか反応しない可能性があるため、否定反応の文が加えられた。
以下ではTamaoka et al.(2005)の実験結果を表で示して説明する。
まず、他動詞能動文の処理について、実験の結果、肯定反応の場合、語順は 反応時間(F1(1,27)=58.90、p<.05;F2(1,51)=61.88、p<.05)にも文正誤判断での 誤答率(F1(1,27)=15.71、p<.05;F2(1,51)=17.14、p<.05)にも影響を及ぼすこと
7 実験において、一人の参加者にある条件で複数回の測定を行う実験は反復測定をいう。例え ば、Tamaoka et al.(2005)において、参加者に複数の基本語順文とかき混ぜ文を用いて各条件 での平均値を算出するような実験設計は反復測定の実験である。本研究においても、このよう な実験設計を用いる。
8 基本語順文のみ、使役文の実験において否定反応は用いられていない。
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が観察され、基本語順文は反応時間が短く、誤答率が低いことが明らかとなっ た。一方、否定反応の場合、基本語順文とかき混ぜ文の反応時間(F1(1,27)=14.49、
p<.05;F2(1,31)=0.02、ns)にも、文正誤判断での誤答率(F1(1,27)=0.05、ns;
F2(1,31)=1.56、ns)にも顕著な差異は見られなかった。
表3、他動詞能動文実験の反応時間と誤答率(Tamaoka et al., 2005:288)
反応類型 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 肯定反応 SOV 1209 238 3.02 3.37
OSV 1432 308 9.07 6.96 否定反応 SOV 1297 224 4.91 6.96 OSV 1388 216 9.38 9.95
次に、二重目的語の能動文の結果について、肯定反応の場合、語順は反応時 間(F1(1,27)=56.36、p<.05;F2(1,19)=70.25、p<.05)と文正誤判断での誤答率
(F1(1,27)=10.80、p<.05;F2(1,19)=24.18、p<.05)に影響を与えることが観察さ れ、かき混ぜ文は基本語順文より反応時間が長く、誤答率が高いことが分かっ た。これに対して、否定反応の場合、基本語順文はかき混ぜ文より反応時間が 短い(F1(1,27)=16.07、p<.05;F2(1,19)=8.58、p<.05)が、文正誤判断での誤答率 に顕著な差異は見られなかった(F1(1,27)=3.10、ns;F2(1,19)=3.20、ns)。
表4、二重目的語の能動文実験の反応時間と誤答率(Tamaoka et al., 2005:292)
反応類型 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 肯定反応 SO1O2V 1359 320 1.79 3.90
O2SO1V 1963 643 11.79 17.44 否定反応 SO1O2V 1436 265 1.79 4.76
O2SO1V 1597 398 4.29 10.34
つづいて、他動詞受身文の処理について、肯定反応の場合、語順は反応時間
(F1(1,23)=17.22、p<.05;F2(1,35)=16.23、p<.05)にも文正誤判断での誤答率
(F1(1,23)=10.18、p<.05;F2(1,35)=11.33、p<.05)にも影響を及ぼすことが観察 され、基本語順文はかき混ぜ文より反応時間が短く、誤答率が低いことが分か
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った。一方、否定反応の場合、反応時間(F1(1,23)=2.67、ns;F2(1,19)=2.06、ns)
にも誤答率(F1(1,23)=0.19、ns;F2(1,19)=0.61、ns)にも語順による顕著な影響 が見られなかった。
表5、他動詞受身文実験の反応時間と誤答率(Tamaoka et al., 2005:296)
反応類型 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 肯定反応 SOV 1521 359 1.85 3.54
OSV 1722 497 6.25 8.08 否定反応 SOV 1484 309 10.83 9.74 OSV 1582 399 9.17 10.60
さ ら に 、 可 能 文 の 結 果 に つ い て 、 肯 定 反 応 の 場 合 、 語 順 は 反 応 時 間
(F1(1,23)=25.47、p<.05;F2(1,23)=13.61、p<.05)にも文正誤判断での誤答率
(F1(1,23)=30.54、p<.05;F2(1,23)=89.66、p<.05)にも影響を与えることが観察 され、基本語順文はかき混ぜ文より反応時間が短く、誤答率が低いことが分か った。一方、否定反応の場合、反応時間(F1(1,23)=0.11、ns;F2(1,24)=0.02、ns)
と文正誤判断での誤答率(F1(1,23)=0.85、ns;F2(1,24)=1.21、ns)に語順による 影響が見られなかった。
表6、可能文実験の反応時間と誤答率(Tamaoka et al., 2005:300)
反応類型 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 肯定反応 SOV 1326 299 4.17 7.37
OSV 1542 366 29.86 24.93 否定反応 SOV 1586 349 5.90 6.72
OSV 1602 318 7.99 8.33
最後に、使役文の実験に用いられた動詞には対格動詞と与格動詞9があり、
いずれも名詞句を、すなわち項を三つ取る動詞である。動詞類型(対格動詞か
9 Tamaoka et al.(2005)では、目的語が対格で標示される他動詞は対格動詞で、目的語が与格 で標示される他動詞は与格動詞であるとされている。対格動詞を用いて使役文を作ると、間接 目的語は与格を取る。一方、与格動詞を用いて使役文を作ると、間接目的語は対格を取る。
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与格動詞か)×格標示順序(主格・対格・与格か主格・与格・対格か、つまり、
ガヲニかガニヲか)の条件で反応時間(F1(1,31)=15.517、p<.05;F2(1,31)=15.139、
p<.05)と文正誤判断での誤答率(F1(1,31)=29.524、p<.05;F2(1,31)=35.791、p<.05)
の分散分析の結果、動詞類型と格標示順序による交互作用10が見られた。この 二つの要因が反応時間と文正誤判断での誤答率に与える影響の方向が異なる。
対格動詞の場合では、主格・与格・対格という順(ガニヲ)は主格・対格・与 格という順(ガヲニ)より反応時間が短く、文正誤判断での誤答率が低い。一 方、与格動詞の場合、主格・与格・対格という順(ガニヲ)は主格・対格・与 格という順(ガヲニ)より反応時間が長く、文正誤判断での誤答率が高い。
そこで、Tamaoka et al.(2005)は対格動詞の実験結果と与格動詞の実験結果 について反復測定による分散分析を行った。対格動詞の結果について、格標示 順序は反応時間(F1(1,31)=6.196、p<.05;F2(1,31)=8.841、p<.05)と文正誤判断 での誤答率(F1(1,31)=17.303、p<.05;F2(1,31)=11.597、p<.05)に影響を及ぼし、
主格・対格・与格という順(ガヲニ)の文は主格・与格・対格という順(ガニ ヲ)の文より反応時間が長く、誤答率が高かった。
一方、与格動詞の結果について、格標示順序は反応時間(F1(1,31)=8.836、
p<.05;F2(1,31)=4.155、p<.05)と文正誤判断での誤答率(F1(1,31)=8.986、p<.05;
F2(1,31)=15.274、p<.05)に影響を与えて、主格・与格・対格という順(ガニヲ)
の文は主格・対格・与格という順(ガヲニ)の文より反応時間が長く、文正誤 判断での誤答率が高かった。
表7、使役文実験の反応時間と誤答率(Tamaoka et al., 2005:305)
反応類型 語順 反応時間(ms) 誤答率(%)
平均 標準偏差 平均 標準偏差 対格動詞 S.IO.DO.V 2199 497 10.55 11.93
S.DO.IO.V 2386 559 23.44 16.11 与格動詞 S.IO.DO.V 2166 442 10.55 12.74 S.DO.IO.V 2351 542 20.70 16.98
以上の実験結果から見れば、他動詞能動文、二重目的語能動文、他動詞受身
10 複数の要因の相乗効果である。2 要因以上の実験計画において、一方の要因が他方の要因に 及ぼす影響の「大きさ」または「方向」が一様でないことをいう。(田中・山際 2005:106、
112)。ここでは、「動詞類型」と「格標示順序」二つの要因の相乗効果である。
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文、可能文、使役文の処理において、かき混ぜ文は基本語順文より長い反応時 間を要し、文正誤判断での誤答率が高いことが分かった。
2.2.1.2 村岡ら(2004)
村岡ら(2004:38)は「かき混ぜ文では文中に gap を設定する必要があり、
文頭の目的語という filler 入力時から、gap を探すため処理コストが増大する
(Miyamoto & Takahashi , 2002)」という論点を受け入れて、日本語母語話者を 対象にして、実験を行った。実験において、日本語母語話者による「ヲ格」・
「ニ格」で表す目的語を取る二項動詞の能動文の処理が考察された。
実験に用いられた文は次のようなものである(村岡ら2004:39)。
(1) a. ヲ格名詞句・基本語順 鈴木が/山田を/叩いた。
b. ヲ格名詞句・かき混ぜ語順 山田を/鈴木が/叩いた。
c. ニ格名詞句・基本語順 鈴木が/山田に/会った。
d. ニ格名詞句・かき混ぜ語順 山田に/鈴木が/会った。
“/”は呈示時文節の切れ目
村岡ら(2004)の実験では、(1)のような「ガ格」と「ヲ格」を取る能動文お よび「ガ格」と「ニ格」を取る能動文とダミー文11が用いられ、文はプログラ ムによって参加者に呈示される。参加者は文正誤判断課題を求められ、判断の 反応時間と正誤が記録された。そして、反応時間と誤答率について反復測定に よる分散分析を行った。
分析の結果、反応時間について、語順と格助詞との両要因の交互作用は有意 ではなかった(F1(1,23)=0.103、ns;F2(1,23)=0.041、ns)。両要因の主効果12につ
分析の結果、反応時間について、語順と格助詞との両要因の交互作用は有意 ではなかった(F1(1,23)=0.103、ns;F2(1,23)=0.041、ns)。両要因の主効果12につ