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第二章 先行研究の検証

本論文を展開していく上で、理論的根拠となる主要な先行研究を取り上げ、本章で 確認紹介する。そして、第一節の一と二では、日本の人口減少の最大の要因である少 子高齢化とは何かの定義を行い、更に第二節では、少子化の原因を理論的に分析する 伊達雄高と清水谷論の共同論文を紹介する11。また、第三節では、日本の人口問題を 検証する際に、常に最大の問題を提議する『人口の東京一極集中』を齎す要因を分析 する『集積の経済理論』をいくつか紹介する。実際、若年層の大都市への転出は彼等 が生まれ育った地域の合計特殊出生率12の低下を招くだけでなく、移転先の都市(こ の場合は東京圏)の出生率さえも押し下げる要素を多く含んでいる。何故ならば、都 市部は地方と比べて確保出来る居住空間が格段に狭く、多くの子供を儲けることが難 しい上に、育児や教育により多くの経費がかかるからである。それ故、ここで紹介す る企業側から捉えると大きなメリットである『集積の経済理論』と『人口の一極集中』

が国家全体に齎す大きなデメリットである『合計特殊出生率の低下』の間の整合性を 如何に保つべきかが本論文の主要なテーマの一つである。

第一節

少子高齢化に関する定義と理論

一、 少子化の定義

少子化を論ずる時には、『合計特殊出生率』というフレーズを使わないと、正確な 説明が困難になる。合計特殊出生率とは一人の女性が(15 歳から 49 歳までの再生産 年齢)の間に何人の子供を産むかを統計的に推計した数字である。例えば、2014 年に おける合計特殊出生率を推計する際には、2014 年に 15 歳の女性が産んだ子供の数を 15 歳の女性人口で割り 15 歳の女性の出生率を求め、次に 16 歳の女性が産んだ子供の 数を 16 歳の女性人口で割り 16 歳の女性の出産率を求める計算を順次 49 歳まで各年 齢ごとに行い、15 歳から 49 歳までの女性の出生率を合計した値が 2014 年の合計特殊 出生率となる。そして、2014 年に 15 歳になった女性が、同年における再生産年齢の 女性と同じ確率で子供を産むとすれば、生涯(49 歳まで)の間に何人の子供を産むか という推計値であり、少子化とは、この数値が『人口置換水準』132.08 を下回って人 口が減少することを指す。

11 伊達雄高、清水谷論「日本の出生率低下の要因分析:実証研究サーベイと政策的含意の検証」、内 閣府経済社会総合研究所 ESRI Discussion Paper Series No.94 、2004 年 4 月、

http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis094/e_dis094.html

12 合計特殊出生率(Total Fertility Rate )とは、女性一人当たりの生涯産む子供数の指標を指す。

13 人口置換水準(Replacement Ratio)とは、人口水準を保つことの出来る水準を指す。

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二、 高齢化の定義

総務省 2004 年 10 月 1 日現在の推計によれば、終戦直後 400 万人以下で、総人口の 5%未満に過ぎなかった 65 歳以上の高齢者は 2004 年には 2,490 万人となり、総人口の 19.5%を占めるようになった。そして、国立社会保障・人口問題研究所の 2002 年の推 計によれば、平均寿命の上昇により、2015 年には 3,270 万人、2020 年には 3,450 万人 と増加するが、その後 2020 年から 2030 年にかけて、3,400 万人から 3,500 万人の水準 で頭打ちになると予測されている。

図 2-1:日本の将来推計人口

出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012 年 1 月推計)。

しかし、ここで注目すべきは、高橋伸彰が指摘している二種類の高齢化という概念 である。一つには長寿化により高齢者の数が年々増えていく絶対的高齢化であり、も う一つは総人口に占める高齢者比率の上昇による高齢化、即ち相対的高齢化である14

そして、国立社会保障・人口問題研究所の 2002 年の推計によれば、総人口に占め る高齢者比率は 2030 年に 29.6%に達し、さらに 2050 年には 35.7%まで上昇する見込 みである15。つまり、絶対的高齢化が頭を打っても、少子化に歯止めがかからないか ぎり、相対的な高齢化が続き、年金等の社会保障制度などにより深刻な打撃を与える 可能性が大きいのは、絶対的高齢化よりもむしろ相対的高齢化なのである。

14 高橋伸彰『少子高齢化の死角』(東京:ミネルヴア書房、2006 年)、17~18 頁。

15 高橋伸彰『少子高齢化の死角』(東京:ミネルヴア書房、2006 年)、18 頁。

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第二節 人口経済学における出生率決定理論

本論文は日本の実証研究を主目的としているため、下記の人口経済学における出生率 決定理論を詳細に検討することは別の機会に譲ることにして、ここでは伊達雄高、清 水谷論(2004 年)から最小限の紹介に留めた。16

一、 質、量モデル(Quality-Quantity Model)

出産に関する意思決定に標準的なミクロ経済理論を応用した先駆的な研究の一つ として挙げられるのが Becker Gary である。彼の理論は、所謂質量モデルとして知ら れている。17

Becker によると、出産する子供の数と子供一人当たりのシャドープライスは家計に とって内生的に決定されるため、両者はトレードオフ(家計内生産)の関係にある。

先進国において広く見られる出産率の低下は、子供の『量』(子供の数)に対する需 要の所得弾力性が子供の『質』に対する需要の弾力性を下回ることによって説明でき る。つまり、所得が高くなると、親は子供の数を増やすことよりも、一人の子供によ り高い教育を受けさせることなどを通じて、子供の『質』をたかめようとする。

二、 世代間所得移転と出生行動に関する理論

出産行動に関する理論は、しばしば世代間所得移転と関連付けてきた Becker と Barro あるいは Barro と Becker によるものである18。親の子供に対する利他心(altruism)

を組み入れた『世代間モデル』では、親の効用水準は、出産する子供数と子供の消費 水準に依存するという仮説である。つまり、親の効用関係の中に子孫の効用関数が含 まれており、親は自分の子孫の効用を最大化させるように所得移転や出産行動を決定 する。

三、 人的資本理論(Human Capital Theory)

Becker と Murphy と Tamura は、人的資本についての収益が社会全体で増加してい る場合、親は子供一人当たりの人的資本により多く投資するようになり、出生率が低

16 前掲、伊達雄高、清水谷論。

17 Becker, Gary S.(1960) “An Economic Analysis of Fertility,” Demographic and Economic Change in Developed Countries, a Conference of the Universities, National Bureau Committee for Economic Research.

Princeton , N.J.,Princeton University Press.

18 Becker, Gary S., Barro, Robert J. (1988) “A reformulation of the Economic Theory of Fertility,” The Quarterly Journal of Economics. www.nber.org/papers/w1793

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くなると主張する。具体的な例を挙げれば、大学を卒業することが卒業しない場合に 比べて、将来の所得を大きく変化させるならば、子供の数を少なくしょうとするとい う説である19

四、 相対所得仮説

経済が低成長の場合出産率が低下するという現象を理論づけようと試みたのが著 名な Easterlin の相対所得仮説である。子供の世代が、親世代以上の生活水準を維持し ようとする心理に着目している20。つまり、出産、育児の機会費用(shadow price)が 大きく、子供を多く出産することによって自身の親世代以上の生活水準が維持できな いと判断すれば、子供の数を減らそうとする。逆に、経済が成長している場合には、

親世代の生活水準を維持することが容易であるため、出産の抑制要因が小さくなると 仮定している。

五、 結婚の意志決定に関する理論

Becker(1973)は、結婚することによる利益がその損失を上回る時のみ個人

は結婚を決断すると仮説を立てて以下に述べる三つのタイプの結婚の利益を想定し ている21

第一の利益:夫婦分業によるメリット。つまり、互いにより得意な分野に 特化することで、家計全体としての生産活動が効率化される。

第二の利益:2人で一緒に生活することによりスケールメリットが働き、

生活コストが軽減される。

第三の利益:子供や性的満足のような結婚することによって得られる特殊 な利点。

第三節 大都市集積の経済理論

都市集積の経済は、歴史的にはマーシャル(1890)の外部経済にまで遡る。そこでは、

19 Becker, Gary S., Murphy Kevin M. and Tamura Robert F. (1990) “Human Capital, Fertility and Economic Growth,” Journal of Political Economy 98, no. S5 (1990): 12

20 Easterlin,, R. A. (1969, 1973) “The Easterlin Hypothesis,”

21 Becker, Gary S. (1973) “A Theory of Marriage,” University of Chicago and National Bureau of Economic Research. www.nber.org/chapters/c2970.pdf

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地域経済にとってより重要な生産面における集積の経済は通常、『地域特化の経済性』

(localization economics)と『都市化の経済性』(urbanization economics)の二つに分け て論じられている。地域特化の経済性は特定の地域に同じ種類の産業に属する多くの

第二、 共通の労働市場(Labor Market Pooling):同じ種類の労働力を共有化でき投 入費用や探索費用の削減可能。

第三、 知識・技術の漏出(Knowledge Spillovers):近接していることで他社の技 術を対価なく利用可能。

要するに、都市化の経済性とは、ある特定の都市地域に業績の異なる多くの企業が 集中することによって得られる経済的利益である。その主な理由として、1)専門化、

特化、分業 (Outsourcing and Specialization) 2)労働市場の多様性 (Labor Market Variety) 3)消費市場の大きさ (Large Market Potential)等が考えられる。

たとえば、人口の多い大都会では、労働市場の規模が大きく多種多様な職種がある Marshall, Principles of Economics. An Introductory Volume. 8th ed.(London: Macmillan, 1920)。

たとえば、人口の多い大都会では、労働市場の規模が大きく多種多様な職種がある Marshall, Principles of Economics. An Introductory Volume. 8th ed.(London: Macmillan, 1920)。