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1.1 研究動機

中国語を母語とする日本語学習者(以後「日本語学習者」と称する)は日 本語の文を作る際に、先に中国語で考え、それを日本語に変換する作業を繰り 返すのが一般的であろう。

しかし、次の二つの例文を見てみよう。

(1) 保持謙虛的態度很重要。

→ 謙虚な態度を取り続けるのは大事です。

(2) 進入一流的大學是他的夢想。

→ 一流の大学に入るのは彼の夢です。

「謙虛的態度」「一流的大學」は中国語において修飾連語1と呼ばれ、どちら も「二字二音節形容詞+的(de)+名詞」という形で結合される名詞句である。

しかし、この二つの連語は日本語に置き換えると、前者は「謙虚な態度」、後者 は「一流の大学」になる。上述した例から、中国語において同じ構造を持つ名 詞句は日本語に転換する場合、それぞれ異なる形式で後続の名詞を修飾する用 法が見られる。無論、異なる言語の間に一対一の転換が見られることはもとよ り少ないが、その中から何らかの特徴を見出すことによって、日本語学習者に より習得しやすい方法を提供することができるのではないだろうか

上の二例からも分かるように、中国語では「的」(de)を用いるのは主として 後続の名詞を修飾する時である。言い換えれば、前項の語は修飾・限定の性質 を持ち、一般的に形容詞に当たるものが多いと言えよう。けれども、中国語の

1 輿水優(1985)『中国語の語法の話―中国語文法概論―』p.391

形容詞は日本語において同じく形容詞に属するとは限らない。名詞になる場合 もあれば、動詞になる場合もある。日本語では、異なる品詞に属する語は後続 の名詞を修飾する形も異なるため、正しい日本語の文を書くには品詞を正確に 把握するという重要さがうかがわれる。

また、豊田豊子(1980)、山本紀代(2006)など多くの先行研究は、学習時間 の長い上級レベルの日本語学習者にもかかわらず、漢語を用いて名詞を修飾す る場合、その漢語の品詞の把握に誤りが生じるという現象は確かに存在すると 指摘した。中国語と日本語は字形が同じである漢語が多いため、日本語学習者 にとって大きな助けとなる一方、母国語の影響で日本語を中国語として理解し 使用する誤りが起こる可能性もあると考えられよう。

以上から、本研究では学習者が後続の名詞を修飾する名詞句を作る際、前項 に位置する漢語の中日両言語における品詞転換について考察を加えたい。この 考察を通し、学習者にとって混同しやすい漢語の仕組みを明らかにし、さらに 教育現場において何らかの指導方法に役立てたい所存である。

1.2 研究対象

日本語は中国語と同様、漢字を使用する言葉である。そのため、漢字の学習 歴を有する学習者にとって漢語は比較的習得しやすい部分であろう。しかし、

日本語における漢語は意味や品詞が中国語のそれと一致しているとは限らない。

特に中日両言語において形が同じである漢語は、中国語本来の意味や品詞に影 響されやすく、習得に混乱が生じやすいと考えられよう。

例えば、中日両言語において形が同じである「緊張」という漢語を見てみよ う。「緊張」は中国語と日本語において意味は同じであるが、品詞は異なってい る。中国語では形容詞に属し、「我很緊張」というふうに言うが、日本語では「私

はとても緊張です」とは言えず、「私はとても緊張します」と言うことになる。

それは「緊張」という漢語は日本語において形容詞ではなくサ変動詞に属する ためである。このような品詞が不一致である中日同形同義二字漢語は学習者に とって品詞の把握が難しいと思われる。

一方、中日同形同義二字漢語は中日両言語において同じ品詞に属することに なっても、学習者には必ずしもその語を日本語の文に正確に用いられるとは限 らない。例えば、日本語の形容詞は一般に語形の「-い」のもの(イ形容詞)

の外に、語形の「-な」のもの(ナ形容詞)もある。近年、新たに語形の「-

の」のもの、いわゆる「第三形容詞」という概念が提示され、形容詞として認 められている。中国語の形容詞は「的」(de)という一つの助詞を用いて後続の 名詞を修飾するのに対し、日本語の形容詞は「-い」、「-な」、「-の」のよう に後続の名詞を修飾する形が三つもある。そのため、日本語の文に正しい接続 の形をとることも学習者にとって一つの難関であろう。

よって、本研究は中日同形同義二字漢語を研究対象とする。中国語と日本語 において品詞にズレのあるものだけでなく、ズレのないものでも文に用いる際 に誤りが起きる可能性があるため、研究対象として価値があると考えられる。

1.3 研究目的・方法

本研究の目的は主に以下の三点である。(一)中国語と日本語における同形同 義二字漢語の中で、形容詞の品詞の対応状況を考察し、その傾向を見出す。(二)

品詞のズレが生じるか生じないか、その原因を検討し、それぞれに属する漢語 の仕組みや特徴を明らかにする。(三)漢語習得に注意すべき点を提示し、教育 現場での応用をサポートする。

研究方法は、次の四段階で進める。まず、『日本語能力試験出題基準改訂版』

(2002)(以後「日験出題基準」を称する)1・2 級の語彙表から中日同形同義二 字漢語を抽出する。2

次に、中国語の辞典及びコーパスを利用し、中日同形同義二字漢語が形容詞 に属する語を考察対象としてピックアップする。

そして、日本語の辞典及びコーパスを用いて、中国語では形容詞と記述され る中日同形同義二字漢語が日本語においてどの品詞に所属するかを確認する。

最後に、中国語と日本語における中日同形同義二字漢語の品詞の対応関係を 考察する。各対応タイプに属する語における特徴・傾向を見出す上に、品詞対 応にズレが生じる原因を検討し、学習者にとって混同しやすい漢語の仕組みを 明らかにする。

1.4 本研究の構成

本研究は全五章で構成される。

第一章では、研究動機、研究対象、研究目的・方法、及び本研究の構成を述 べる。

第二章では、中国語と日本語における形容詞とは何かを明らかにし、中日同 形語の品詞問題に関わる先行研究を概観し、問題点を考えてみる。

第三章では、「日験出題基準」を用い、その語彙表に載る 1・2 級の中日同形 同義二字漢語を抽出し、その品詞対応を考察するための調査を行う。

第四章では、第三章の調査結果を踏まえ、中国語と日本語の品詞対応にズレ が生じる原因を検討し、各対応タイプに属する語の特徴を意味の観点から分析 してみる。

2 本研究では日本語学習者に身につけられている傾向の強い漢語を中心に調査する。本来は最新 の資料を用いることが適切であるが、日本語能力試験は 2010 年に改定され試験問題は非公開と なった。また研究目的と照らし合わせた際に「日験出題基準」は、調査範囲として十分適してい るのではないかと考え、これを用いることにした。

第五章では、本研究の研究結果をまとめ、今後の課題と日本語教育現場への 応用を提案する。