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日本語において形容詞の用法が見られないグループ

第四章 考察と分析

4.2 日本語において形容詞の用法が見られないグループ

このグループに属するタイプは【J】と【K】である。前者は日本語において 名詞に属し、後者は動詞・名詞に属する。いずれも日本語において形容詞の用 法がみられないタイプであり、学習者にとって習得しにくいものであると考え られる。以下、両タイプにおける語例の意味合いを考察する。

【J】 [中]形容詞 →[日]名詞 4 語

【K】 [中]形容詞 →[日]動詞・名詞 18 語

【J】[中]形容詞→[日]名詞(4 語)

中国語では形容詞に属し、日本語においては名詞に属する【J】タイプは 4 語 ある。「分類語彙表」において、各語の意味所属は部門別により、以下の表 [J]-1、

表 [J]-2 に分けてまとめる。

38 「固有」は、分類項目では(存在)という意味を持つほか、(特徴)という意味も持っている。

表[J]-1 部門 1[抽象的関係](1 語)

番号 語例 分類項目 中項目

1 均衡 .1340(調和・混乱) .13<様相>

表[J]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](3 語)

番号 語例 分類項目 中項目

1 主観 .3070(意味・問題・趣旨など)

.30<心>

2 反感 .3020(好悪・愛憎)

3 友好

.3020(好悪・愛憎) .3500(交わり)

.30<心>

.35<交わり>

【J】タイプに部門 1[抽象的関係]に属する「均衡」が 1 語と、部門 3[人 間活動-精神及び行為]に属する「主観」「反感」「友好」が 3 語ある。中項目 ではいずれも<心>という意味を有し、分類項目では(好悪・愛憎)という意 味が際立つのである。

日本語では名詞に属する【J】タイプの 4 語は、ガ格をとり主語に、ヲ格をと り目的語になるのが主な用法であるが、接尾辞「的」がつくことによりその側 面や性質を持つことを表すのも可能である。「主観的」「友好的」はその例であ る。しかし、すべての名詞に「的」がつくことができるというわけではないこ とも「均衡」「反感」という 2 例から分かる。「バランスのいい」という言い方 が多用されることで、「均衡」に性質のニュアンスを持たせて後項の名詞を修飾 する必要がなくなるのであろう。「反感」も「相手の行為や考えかたに対して反 発する気持ち」(『角川必携国語辞典』より)という意味から修飾する語より修 飾される語の方になりやすいと考えられる。基本的に名詞に接尾辞「的」がつ くことも可能であるが、その意味や実際の用い方によって「的」がつくことが できない場合もある。

【K】[中]形容詞→[日]動詞・名詞(18 語)

中国語では形容詞に属し、日本語では動詞・名詞に属する【K】タイプは 18 語ある。なお、ここでいう動詞・名詞は一般にサ変動詞とも言われる。

今回の調査における形容詞の用法が見られないグループで語例の数が最も多 いタイプである。「分類語彙表」において、これらの語の意味所属は部門別によ り、表[K]-1、表[K]-2、表[K]-3、表[K]-4 に分けてまとめる。

表[K]-1 部門 1[抽象的関係](5 語)

番号 語例 分類項目 中項目

1 混乱 .1340(調和・混乱) .13<様相>

2 一致

.1342(調節)

.1130(異同・類似)

.13<様相>

.11<類>

3 優越 .1584(限定・優劣)

.15<作用>

4 低下

.1540(上がり・下がり) .1583(進歩/衰退)

5 徹底

.1524(通過・普及) .1921(程度・限度)

.15<作用>

.19<量>

部門 1[抽象的関係]に属する語は「混乱」「一致」「優越」「低下」「徹底」と いう 5 語である。中項目では<様相>、<作用>などに属している。

表[K]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](10 語)

番号 語例 分類項目 中項目

1 疲労 .3003(飢渇・酔い・疲労・睡眠など)

.30<心>

2 憤慨 .3012(恐れ・怒り・悔しさ) 3 恐怖 .3012(恐れ・怒り・悔しさ)

4 悲観

表[K]-3 で示した「乾燥」は日本語において形容詞の用法が見られないこのグ ループにおいて唯一部門 5[自然物及び自然現象]に属する語である。つまり、

このグループも形容詞の用法が見られるグループと同様、部門 1[抽象的関係]

と部門 3[人間活動-精神及び行為]の意味を有している語が殆どであることが 分かった。表[K]-4 では、部門 1 と部門 3 の両部門の意味を持つ語は「緊張」「合 格」2 語ある。中項目では<様相>という意味を有している。

全体的に見ると、最も狭い意味分類にあたる分類項目では、【K】タイプに属 する 18 語の意味は形容詞の用法が見られるグループとの重複が非常に少ないと いうことが分かった。ただし、そのグループに多く見られる分類項目(弛緩、

粗密、繁簡)に属する「緊張」という語は、学習者にとって(Ⅱ)第二形容詞と 間違えやすい語でもあるので、より注意が払われるべきであろう。

また、殆どの語の意味には“変化”という共通の性質があるということも特 徴的であろう。ここの“変化”とは、人の心理や物事の様態が正常な状態から 一時的に逸脱し、ある結果になるという過程を指している。例えば「混乱」と いう語は、混乱していない状態(正常な状態)から逸脱し、最後に「混乱」と いう結果になることを意味する。【K】タイプの語はこのような動的過程が含ま れ、動詞的側面が前面に出たので、日本語では動詞として働くのではないかと 考えられる。

なぜ中国語の形容詞が日本語でサ変動詞になるのかについて、中川正之

(2005)は次の三つの角度を提出し、その原因を考えた。39

① 一時的か恒常的か

語の動作性や意図性を読み取り、恒常的な属性として捉えられるのが 形容詞になりやすく、一時的な行為として捉えられるのが動詞になりや すい。時間性の有無は、品詞には深い関係を持っている。

39 中川正之(2005)『漢語からみえる世界と世間』p.145-162。

② 一点凝視か多点参照か

中国語と日本語では、視点の取り方が本質的に異なっている。中国語 には話者がこと自体のみを凝視して述べる傾向があり、日本語には話者 が他のことを意識しつつ、こと自体のみではなく、それ以外の何かを視 野に入れるのは一般的であろう。

③ 中国語の並列と日本語の修飾

中国語には「緊張」「湾曲」などのように前項と後項が同じ意味をする 並列構造の語が多い。並列構造の特徴は朱徳煕(1982)が指摘するよう に「その意味は要素の算数的総和ではなく比況性である」ことである。40 ところが、日本語はヘッド(Head)41が後項という言語類型であるため、

並列構造が修飾構造に解される傾向がある。

では、【K】タイプの 18 語は上述した三つの角度から分類してみると、以下の ようになると考えられる。

① 一時的か恒常的か → 優越、徹底、合格、楽観、悲観、抽象(6 語)

② 一点凝視か多点参照か → 混乱、一致、疲労、憤慨、恐怖、興奮、

繁盛、乾燥、緊張(9 語)

③ 中国語の並列と日本語の修飾 → 低下、倹約、勤労(3 語)

中国語の形容詞は視点の取り方の違いで日本語の動詞になる語が最も多いと 分かった。しかし、ここでは一つの語が一つの原因につながることに分類して みたが、実は複数の原因を受ける可能性もある。例えば、「緊張」は日本語で動

40 朱徳煕(1982)では「並立式複合詞的每一項的意義不是實指的,而是比況性的,整個結構的 意義不是各項組成成分的意義的機械的總和」と指摘された。ここで引用するのは、中川正之(2002)

で述べられた朱徳煕(1982)の並列語に関わる日本語の説明である。

41 ヘッドとは、二つの要素 X と Y が並んでいる XY の全体の文法的性格を決定する重要な要素を 言う。例えば、「愛妻」はヘッドが前にあり、「愛鳥」はヘッドが後ろにある。ヘッドに関する詳 細は中川正之(2005)『漢語からみえる世界と世間』pp.127-141 を参照。

詞になるには、視点の取り方の他、構造の違いという要因もある。「乾燥」とい う語にはその動作性や意図性も認められる。

また、日本語では一時的・意図的な行為と認識される「徹底」「楽観」「悲観」

「抽象」などの語は、接尾辞「的」を用いることにより、恒常的な属性を持つ ことになることが見受けられる。

まとめていうと、【K】タイプでは過半数を占める部門 3[人間活動-精神及び 行為]において、殆どの語は中項目の<心>に集中していることが見られる。

ところが、最も狭い意味分類の枠である分類項目に目を移してみると、【K】タ イプ各語の意味の所属は形容詞の用法が見られるグループとの重複が非常に少 ない上に、殆どの語の意味には“変化”という共通の性質がある。多くの語に

“変化”という動的過程の意味合いが含まれるのは【K】タイプの特徴であると 言えよう。

4.3 まとめ

本研究の調査結果によると、中国語では形容詞に属する 151 語は日本語にお いて、形容詞の用法が見られるものは 8 割を上回り、見られないものは約 1 割 強を占めていることが分かった。学習者がより有効に誤用を減らすためには、

語の仕組みを明らかにし、特に混同しやすいこの 1 割強のものを把握する必要 があると考えた。

そこで本研究では、全 151 語を日本語において形容詞の用法が見られるもの の 129 語と見られないものの 22 語に分け、さらに品詞の対応傾向によって【A】

~【K】の 11 タイプに細分化したのち、「分類語彙表」を参照し、語例の意味合 いを確認した。

各タイプの意味を考察すると同時に、品詞にズレが生じる原因も意味の観点

から検討した。また、後続の名詞を修飾する際に生じる「-な/-の」のゆれ問題

以下、語例の「分類語彙表」における部門、中項目、分類項目という意味分 類の所属を整理し表示する。しかし、両グループにおけるタイプの意味所属の 傾向を浮き彫りにするため、中項目と分類項目に集中していると見受けられる

以下、語例の「分類語彙表」における部門、中項目、分類項目という意味分 類の所属を整理し表示する。しかし、両グループにおけるタイプの意味所属の 傾向を浮き彫りにするため、中項目と分類項目に集中していると見受けられる