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第二章 先行研究

2.2 中日同形語に関する研究

2.2.3 村木新次郎(2009)

村木新次郎(2009)は、中日両言語の「漢語」の間には、同形語が存在し、

その文法性が共通するものもあれば、相違するものもあると述べている。氏は 両言語に見られる相違のうち、何らかの傾向がみとめられる可能性もあろうと

27 輿水優(1985)『中国語の語法の話―中国語文法概論―』p.187

自他サ 確定、固定 2 ○

形容詞・自動詞・名詞 自サ

進歩、成功 沈黙、平行 優勝

5 ○ 形容詞・他動詞・名詞 他サ 肯定 1 ○ 形容詞・自他動詞・名詞 自サ 活動、団結 2 ○ 形容詞・自他動詞・名詞 自他サ 中和 1 ○

考え、「中国語の形容詞が日本語の動詞に対応する」というのは、そのような傾 向の一つとして調査を行った。

村木新次郎(2009)は、HSK(漢語水平考試)の語彙表と『新編漢語形容詞辞 典』(2003、経済科学出版社)から、中国語で形容詞として使用されるもののう ち、日本語で動詞として用いられるものを拾い出し、それらの各単語が他の品 詞を兼ねるかどうかを調査した。品詞の判定について、中国語は『現代漢語詞 典 第五版』(2006)に、日本語は『岩波国語辞典 第六版』(2000)に従った。

前者は自動詞と他動詞の区別はしていないが、賓語(目的語)をとる用例の有 無によって、自他の区別をした。

中国語の形容詞及び形容詞が自動詞・他動詞を兼ねる単語が、日本語のどの 品詞に所属するかに着目し、整理すると表 2-7 になる。

表 2-7 中国語の形容詞が日本語の動詞と対応する中日同形語

中国語品詞 日本語品詞 語例 語数

形容詞

自動詞

敵対、混乱、緊迫、老成、疲労 平衡、謙遜、曲折、衰弱、熟練 湾曲、一致、卓越、透徹、跋扈 錯乱、低下、煩悶、繁茂、繁盛 憤怒、合格、急迫、焦燥、謹慎 開明、苦悶、苦悩、狂喜、狼狽 疲労、憔悴、勤労、外在、喜悦 一定、優越、円熟、専心、恐怖

40

形容詞・自動詞 簡略 1

自動詞・他動詞 充足、乾燥、固執、貧窮、謙遜

一貫、憤慨、慷慨 8

他動詞 誇張、特定 2

名詞 錯誤、反動、具体 3

村木新次郎(2009)の調査結果から、「中国語で形容詞に所属し、日本語で自 動詞に所属する日中同形語が一定数存在する」ということは言える。しかし、

漢語全体の中でこれらがどの程度を占めるものか分からない。また、氏はその ような関係を持つものの中に、両言語の単語がそれぞれに他の品詞を兼ねるも のがあり、様々なタイプがあるので、単純に一般化することはできないと指摘 している。

村木新次郎(2009)は、この種の同形語の日本語は個々の単語が単一の特徴 を持つものでなく、複数の特徴をあわせもつものがあるのではなかろうかと述 べている。28氏は中日両言語において品詞と意味の関係を典型(プロトタイプ)

としては、以下のような図式を提示した。

28 中川正之(2002)は中国語の形容詞が日本語の動詞と対応する中日同形語の特徴として、<変 化>と<動作(性)>に注目する。前者を(A)常態からの一時的逸脱、(B)変化・進歩、(C)

心的操作としての比較、後者を(D)動作性の読み込みに分類し、個々の単語を(A)~(D)の うちの一種に所属させている。

形容詞・自動詞

形容詞・自動詞 安心、相当 2

自動詞 成熟、腐敗、進歩、矛盾、成功

零落、密集、迂回 8

自動詞・他動詞 閉塞 1

他動詞 自覚 1

形容詞・他動詞

形容詞 不便 1

自動詞 充実、発達、繁栄、孤立、興奮 安定、歓喜、拘泥、困惑 9

自動詞・他動詞 緩和、平均 2

他動詞 保守、抽象、概括 3

形容詞・自動詞・他動詞

自動詞 麻痺、突出、自負、団結 4

自動詞・他動詞 確定 1

他動詞 公開、考究、統一、温存 4

総語数 90

形容詞 → <主体の状態>

自動詞 → <主体の動作・変化>

他動詞 → <主体の動作、客体の変化>

しかし、これらの典型からはずれていて、典型とは異なる意味特徴をもつこ ともある。品詞の共通性は、必ずしも意味上の共通性を保証するものではない と述べている。

村木新次郎(2009)は中日同形語の文法性が相違するものの中で、「形容詞(中 国語)→動詞(日本語)」という傾向に着眼した語彙調査を行った。その分析か ら中国語の形容詞が日本語の自動詞と対応する語が比較的に多く存在するとい う結果が得られたが、漢語全体の観点から検討する必要もあるのではないかと 考えられる。

2.2.4 まとめ

本節では、実例を用いて語彙調査を試みた先行研究、林姿里(1982)、戚国福

(1999)、村木新次郎(2009)を三つ取り上げて検討してみた。その結果は次の 表 2-8 のようにまとめてみる。

表 2-8 林姿里(1982)、戚国福(1999)、村木新次郎(2009)の比較

林姿里(1982)と戚国福(1999)はともに辞典(あるいはその付録)から二 字同形漢語を抽出し、それらの語は中国語においてどの品詞に所属するかとい う視点から考察するものである。辞典(あるいはその付録)から大量の語例を 集め、中日両言語の品詞転換における全体的な傾向を概観することができるが、

分野と使用頻度から見ると、馴染みのない語例が数多く占めていることは否め ないのであろう。それに対し、村木新次郎(2009)は辞典と中国語検定試験の 語彙表を調査範囲とし、そこから中国語において形容詞に属する語を抽出し、

それらの語は日本語においてどの品詞に所属するのかという視点から考察する ものである。しかし、中国語の形容詞が日本語の動詞に対応するという一つの タイプのみ取り上げられ、中国語の形容詞が日本語においてどの品詞に所属す るかについて全般的な傾向が見られない。

また、品詞の判定に関して、いずれの先行研究も辞典を判定基準にするもの である。ところが、辞典だけでなく、コーパスも合わせて考察する方がより実 際の語彙状況に近づけるのではないかと考えられる。

2.3 まとめ

本章では、中国語と日本語における形容詞とは何か、その分類と特徴を整理 する上に、判定方法も考案してみた。また、中日同形語に関する先行研究につ いても検討した。

まず、中国語と日本語における形容詞に関する先行研究を踏まえ、本研究に おける形容詞の範疇を次のように確定した。

 中国語では、文中で担う機能の違いによる分類に従い、一般形容詞と非 述形容詞の二種類にした。

 日本語では、村木新次郎(2012)の分類に従い、(Ⅰ)第一形容詞、(Ⅱ) 第二形容詞、(Ⅲ)第三形容詞、(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞、(Ⅴ)規定用 法のみの形容詞の五種類にした。

本研究における中国語と日本語の形容詞に関する定義、種類、機能につい て、次の表 2-9 のようにまとめてみる。

表 2-9 本研究における中日の形容詞の比較

言語 中国語 日本語

定義

物事の性質・状態や人の 感覚・感情などを表す

事物・事柄の性質・状態や人の感覚・感情 などを表す

分類 一般形容詞 非述形容詞 (Ⅰ) (Ⅱ) (Ⅲ) (Ⅳ) (Ⅴ)

機能

定語、述語、

状語、補語 になり、主 語や賓語に もなる

定語のみ

規定用法 述語用法 修飾用法

規定用法のみ

語例 勤勉 大型 騒々し 曖昧 一流 独特 人造

表 2-9 から分かるように、中国語と日本語における形容詞は大まかに言えば ともに物事の性質・状態や人の感覚・感情などを表す言葉である。分類につい て、それぞれ文中で果たす機能の違いによって、中国語は一般形容詞と非述形 容詞に分けられ、日本語は(Ⅰ)第一形容詞、(Ⅱ)第二形容詞、(Ⅲ)第三形容詞、

(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞、(Ⅴ)規定用法のみの形容詞に分けられる。

機能について、中国語の一般形容詞は定語になることが日本語の規定用法に 相当し、述語になることが述語用法に相当し、状語と補語になることが修飾用

法に相当することが分かった。しかし、中国語の一般形容詞は前述した用法の 他に、主語や賓語にもなることができるという点では、日本語の形容詞と異な っている。日本語の形容詞は主語や目的語になるには「こと」や「の」を用い るとい名詞化の手続きを必要とするのに対し、中国語の形容詞はそのまま主語 や賓語になることが可能であるため、名詞化の手続きを必要としない。これは 中日両言語の形容詞の機能における大きな相違であると言えるだろう。

また形容詞の判定について、中国語では朱徳煕(1982)、輿水優(1985)が指 摘した形容詞と動詞の語法特徴によって形容詞に属する語例を抽出することが できる。それに対し、日本語では辞典のほか、コーパスも用いることにする。

コーパスにおける例文の統語的な特性によって形容詞を判別することができる と考えたためである。

次に、中日同形語に関する研究について、林姿里(1982)、戚国福(1999)、 村木新次郎(2009)を取り上げ、検討してみた。以上三つの先行研究を通し、

中日両言語における形容詞の品詞転換について次の三点が述べられる。

① 形容動詞になる中日同形語を分析する際、語構成という観点からあ まり体系的な結果が見られず、語彙自身が持っている情態性概念に 重点を置くべきである。

② 中国語では形容詞に属する二字漢語動詞は日本語において、形容詞

(ここは広義の形容詞と指す)としては用いられないことがある。

(ここは広義の形容詞と指す)としては用いられないことがある。