國立臺灣大學文學院日本語文學系 碩士論文
Department of Japanese Language and Literature College of Liberal Arts
National Taiwan University Master Thesis
中日同形同義二字漢語の品詞に関する一考察
―形容詞を中心に―
Investigation on the property of the two-character words with the same font and meaning in both Chinese and Japanese
―focus on the adjective―
林佳辰 Jia-Chen Lin
指導教授:林立萍 博士 Advisor: Li-Ping Lin, Ph.D.
中華民國 104 年 2 月
February, 2015
謝 辭
一路走來,終於到了這一步。提起筆的此刻,內心感慨萬千。回想一年前的 現在,甚至連題目都還不確定,隨著時間的逼近,開始茫然失措,壓力之大難以 言喻。然而如今這本論文能夠完成,真的除了感謝還是感謝。感謝太多太多的人,
感謝你們的愛與支持。
首先,最為感謝我的指導教授林立萍老師。從研究方向的確定,大綱架構的 安排,到論文寫作的邏輯思考,感謝老師一步一步地引領著毫無概念的我,時而 鞭策,時而鼓勵,讓我能完成這本碩論。除了學問方面,還教導我為人處事的道 理,而更懂得去重新檢視自己。感謝老師的諄諄教誨,我明白了不論是論文還是 人生,只有反省才能再進步。
同時,感謝兩位口試委員中澤信幸老師和蔡珮菁老師,在提案審查和口試時 給予許多寶貴的意見,實為獲益良多。也感謝徐老師及慧君老師,關心鼓勵的話 語帶來莫大力量。
要謝謝 R99 同學們的打氣扶持,特別是鈺盈在參考文獻方面協助我非常多。
也十分感謝麵包和大嘎,在我六神無主時總是陪伴在身旁。更感謝美緒姐、理繪 姐、友紀和辻同學幫忙修改日文,謝謝你們願意讀如此生澀難懂的內容。此外,
還感謝系辦的大家,一直以來在各方面都受到諸多照顧。因為有你們的關懷與支 持,才能有這本論文的誕生。
畫家雷諾瓦至死都沒有放棄他的畫筆,他說:「痛苦會過去,美會留下。」
很慶幸自己當初也沒有選擇放棄,雖然過程中身心飽受煎熬,但現在回頭想一切 都是值得。由衷感謝老師、朋友、及家人們,今後在人生的道路上我會更加努力。
在此謹將這份論文獻給我的雙親林木富先生、劉秋欒女士,您們的養育之恩感念 在心不敢忘。
有 關 中 日 同 形 同 義 二 字 漢 語 的 詞 性 考 察
― 以 形 容 詞 為 中 心 ―
摘要
有關中日同形同義二字漢語,儘管在中文或在日文的語形和語義相同,而詞 品卻不一致的情形並不罕見。先行研究中也指出:即便是高級程度的日語學習者,
在漢語詞性的掌握上依舊會發生誤用的現象。在中文與日文當中存在著許多語形 相同的漢語,對以中文為母語的日語學習者來說,在學習上的確是帶來很大的幫 助,卻也不能否認容易受母語影響而產生誤用的可能性。
本研究為考察中日同形同義二字漢語在中日文裡的詞品,從『日本語能力試 驗出題基準改訂版』(2002)1.2 級語彙表中抽出中日同形同義二字漢語,再以字 典及語料庫做為中日文詞品的考察基準,針對中文裡屬於形容詞的中日同形同義 二字漢語,調查其轉換成日文後的詞品分布,並考察其類型特徵。
調查結果顯示,中文裡屬於形容詞的中日同形同義二字漢語在日文裡仍保持 形容詞詞性的超過 8 成,其餘的約 1 成半轉變為形容詞以外的詞品。再者,詞品 不一致的這 1 成半的漢語當中,轉變為サ行變格動詞的這一類型漢語數量佔最多。
從語義層面來看,可以得知屬於這一類型的大部分語彙都擁用“變化”這一項共 同特徵。
透過本次考察得知,中日同形同義二字漢語中(中文裡屬於形容詞的部分)
有超過 8 成的漢語在日文裡也含有形容詞的詞性。換言之,只要能掌握住詞性不 一致的 1 成半,尤其是轉變成サ行變格動詞的類型特徵,便能在日語學習上帶來 很大的助益,也可說是本研究中重要的成果所在。
關鍵字:中日同形語、同形同義、二字漢語、詞性、形容詞
Investigation on the property of the two-character words with the same font and meaning in both Chinese and Japanese
--focus on the adjective--
Abstacts
For the 2-character words with the same font and meaning in Chinese and Japanese, in spite of the same font and meaning in both Chinese or Japanese, it is common that their property varies. In Chinese and Japanese, there are many words with the same font. For the Japanese learners whose mother tongue is Chinese, this is doubtlessly a great help. However, it cannot be denied that it is also possible for them to misuse such words due to the influence of their mother language.
This research investigated the word property conversion of the two-character words with the same font and meaning in Chinese and Japanese. Based on the Level 1 and 2 Vocabulary Table in Japanese Language Proficiency Test Question Generation Baseline, Revised Version (2002), we selected the two-character words with the same font and meaning in Chinese and Japanese. Then, with the investigation baseline in accordance with the dictionaries and corpus, as far as the two-character adjective with the same font and meaning in Chinese and Japanese are concerned, we made survey of their properties after they were converted to Japanese, and investigated the characteristics of the word property.
According to the research results, the two-character adjectives with the same font and meaning in Chinese and Japanese that remain adjective in Japanese amount up to 80%. As for the remaining 15% of such adjectives, they have already changed to the property other than adjective. In addition, regarding the 15% of the Chinese words with
different properties before and after converted to Japanese, those that have changed to the nominal verb occupy the most part. To view from the semantic level, it has been learned that most words in such type have the common characteristic of "change."
Through our investigation, it has been found that among the two-character words with the same font and meaning in both Chinese and Japanese (with the property of adjective in Chinese), over 80% of the Chinese words have the adjective property in Japanese. In other words, as long as we can control the 15% of those with inconsistent properties, especially the characteristics of the nominal verbs after conversion, is very helpful for us to learn Japanese, which is the important achievement in this research.
Keywords: the words with the same font in Chinese and Japanese; words with the same font and meaning; two-character Chinese; word property; adjective
中 日 同 形 同 義 二 字 漢 語 の 品 詞 に 関 す る 一 考 察
― 形 容 詞 を 中 心 に ―
要旨
中日同形同義二字漢語については、中国語と日本語において形も意味も同じ であるが、品詞は一致しないということは珍しくない。先行研究では、学習時 間の長い上級レベルの学習者にでも漢語の品詞の把握に誤りが生じる現象が存 在すると指摘された。中国語と日本語は字形が同じである漢語が多いため、日 本語学習者にとって大きな助けとなる反面、母国語の影響で日本語を中国語と して理解し使用する誤りが生じる可能性もあると考えられよう。
本研究は中日両言語における中日同形同義二字漢語の品詞転換について考察 するため、『日本語能力試験出題基準改訂版』(2002)1・2 級の語彙表から中日 同形同義二字漢語を抜き出し、さらに辞典及びコーパスを用いて中日両言語に おける品詞の考察基準とし、中国語では形容詞に属する中日同形同義二字漢語 が日本語においてどの品詞に属するかという品詞対応の調査を行った。
調査結果により、中国語では形容詞に属する中日同形同義二字漢語が、日本 語において形容詞の用法が見られないものは全体のおよそ 1 割強を占めており、
その中ではサ変動詞になるタイプが最も多いことが示された。意味の観点から 考察すると、殆どの語の意味には“変化”という共通の性質があると窺われた。
確かに中国語では形容詞に属し、日本語においても形容詞の用法が見られる ものは 8 割強を占めている。そのため学習者にとって品詞の判断はそれほど問 題にはならないということも示唆される。しかし、今回明らかになった形容詞 の用法が見られない 1 割強、特にサ変動詞になるものを把握することは、今後 日本語習得の上でさらなる助けになると言えるだろう。
キーワード:中日同形語、同形同義、二字漢語、品詞、形容詞
目 次
謝辭 ... I 中文要旨 ... II 英文要旨 ... III 日文要旨 ... V 図目次 ... VIII 表目次 ... IX
第一章 序論 ... 1
1.1 研究動機 ... 1
1.2 研究対象 ... 2
1.3 研究目的・方法 ... 3
1.4 本研究の構成 ... 4
第二章 先行研究 ... 6
2.1 形容詞とは何か ... 6
2.1.1 中国語において ... 6
2.1.1.1 意味、語法特徴、分類 ... 7
2.1.1.2 判定方法 ... 10
2.1.2 日本語において ... 12
2.1.2.1 意味、機能、範疇 ... 12
2.1.2.2 判定方法 ... 16
2.1.3 まとめ ... 18
2.2 中日同形語に関する研究 ... 18
2.2.1 林姿里(1982) ... 19
2.2.2 戚国福(1999) ... 21
2.2.3 村木新次郎(2009) ... 23
2.2.4 まとめ ... 26
2.3 まとめ ... 28
第三章 調査概要 ... 32
3.1 中日同形同義二字漢語の抽出 ... 32
3.2 品詞判定 ... 34
3.2.1 中国語における同形同義語の品詞 ... 34
3.2.2 日本語におけるウ類の同形同義語の品詞 ... 37
3.3 対応傾向 ... 38
第四章 考察と分析 ... 41
4.1 日本語において形容詞の用法が見られるグループ ... 41
4.1.1 意味合い ... 41
4.1.2 「-な/-の」のゆれ ... 63
4.2 日本語において形容詞の用法が見られないグループ ... 68
4.3 まとめ ... 74
第五章 終論 ... 83
5.1 結び ... 83
5.2 今後の課題 ... 87
参考文献 ... 90
付録 ... 94
図 目 次
図 4-1 形容詞の用法が見られるグループにおける部門の所属及び占める割合 ... 79 図 5-1 中日同形同義二字漢語(中国語では形容詞である)の 日本語における
品詞対応の傾向 ... 86
表 目 次
表 2-1 中国語における形容詞と動詞の区別 ... 11
表 2-2 (Ⅲ)第三形容詞及び(Ⅴ)規定用法のみの形容詞の判定基準 ... 16
表 2-3 (Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞の判定基準 ... 17
表 2-4 林姿里(1982)日中同形二字漢語の品詞転換表 ... 20
表 2-5 戚国福(1999)二字漢語動詞と同形の中国語の品詞対応 ... 22
表 2-6 戚国福(1999)二字漢語動詞と同形の中国語の品詞対応[形容詞部分] ... 22
表 2-7 中国語の形容詞が日本語の動詞と対応する中日同形語 ... 24
表 2-8 林姿里(1982)、戚国福(1999)、村木新次郎(2009)の比較 ... 27
表 2-9 本研究における中日の形容詞の比較 ... 29
表 3-1 本研究における中日同形二字漢語の分類結果 ... 34
表 3-2 中国語における<同形同義>語の品詞 ... 36
表 3-3 ウ類(形容詞及び形容詞兼他品詞)の詳細 ... 36
表 3-4 日本語において形容詞に属する 151 語の品詞 ... 37
表 3-5 中日同形同義二字漢語形容詞と同形日本語の品詞対応 ... 38
表[A]-1 部門 1[抽象的関係](8 語) ... 43
表[A]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](14 語) ... 43
表[A]-3 部門 1/3[抽象的関係][人間活動-精神及び行為](1 語) ... 44
表[A]-4 部門 1/3/5[抽象的関係][人間活動-精神及び行為][自然物及び 自然現象](1 語) ... 45
表[B]-1 部門 1[抽象的関係](12 語) ... 46
表[B]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](12 語) ... 47 表[B]-3 部門 1/3/5[抽象的関係][人間活動-精神及び行為][自然物及び
自然現象]1 語 ... 48
表[C]-1 部門 1[抽象的関係](4 語) ... 49
表[C]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](2 語) ... 49
表[D]-1 部門 1[抽象的関係](2 語) ... 50
表[D]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](1 語) ... 50
表[E]-1 部門 1[抽象的関係](13 語) ... 52
表[E]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](3 語) ... 53
表[E]-3 部門 1/3[抽象的関係][人間活動-精神及び行為](2 語) ... 53
表[E]-4 部門 1/5[抽象的関係][自然物及び自然現象](1 語) ... 53
表[F]-1 部門 1[抽象的関係](12 語) ... 54
表[F]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](15 語) ... 55
表[F]-3 部門 5[自然物及び自然現象](1 語) ... 56
表[F]-4 部門 1/3[抽象的関係][人間活動-精神及び行為](5 語) ... 57
表[G]-1 部門 3[人間活動-精神及び行為](1 語) ... 58
表[G]-2 部門 1/3[抽象的関係][人間活動-精神及び行為](1 語) ... 58
表[H]-1 部門 1[抽象的関係](6 語) ... 59
表[H]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](5 語) ... 59
表[H]-3 部門 5[自然物及び自然現象](2 語) ... 60
表[H]-4 部門 4[生産物及び用具](1 語) ... 60
表[H]-5 部門 2/3[人間活動の主体][人間活動-精神及び行為](1 語) .... 60
表[I]-1 部門 1[抽象的関係](1 語) ... 62
表 4-1 NLB における【E】タイプの 19 語の「-な/-の」用例数 ... 64
表 4-2 NLB における【F】タイプの 33 語の「-な/-の」用例数 ... 67
表[J]-1 部門 1[抽象的関係](1 語) ... 69
表[J]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](3 語) ... 69
表[K]-1 部門 1[抽象的関係](5 語) ... 70
表[K]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](10 語) ... 70
表[K]-3 部門 5[自然物及び自然現象](1 語) ... 71
表[K]-4 部門 1/3[抽象的関係][人間活動-精神及び行為](2 語) ... 71
表 4-3 各グループに属するタイプと語例の一覧 ... 75
表 4-4 形容詞の用法が見られるグループにおける 9 タイプの語例の意味分類 ... 76
表 4-5 【E】【F】両タイプにおける「-の」を用いる傾向が高い 15 語の一覧 80 表 4-6 形容詞の用法が見られないグループにおける 2 タイプの語例の意味分類 ... 81
表 5-1 日本語では形容詞の用法がみられるグループの傾向・特徴の整理 ... 84 表 5-2 日本語では形容詞の用法がみられないグループの傾向・特徴の整理 . 85
第 一 章 序 論
1.1 研究動機
中国語を母語とする日本語学習者(以後「日本語学習者」と称する)は日 本語の文を作る際に、先に中国語で考え、それを日本語に変換する作業を繰り 返すのが一般的であろう。
しかし、次の二つの例文を見てみよう。
(1) 保持謙虛的態度很重要。
→ 謙虚な態度を取り続けるのは大事です。
(2) 進入一流的大學是他的夢想。
→ 一流の大学に入るのは彼の夢です。
「謙虛的態度」「一流的大學」は中国語において修飾連語1と呼ばれ、どちら も「二字二音節形容詞+的(de)+名詞」という形で結合される名詞句である。
しかし、この二つの連語は日本語に置き換えると、前者は「謙虚な態度」、後者 は「一流の大学」になる。上述した例から、中国語において同じ構造を持つ名 詞句は日本語に転換する場合、それぞれ異なる形式で後続の名詞を修飾する用 法が見られる。無論、異なる言語の間に一対一の転換が見られることはもとよ り少ないが、その中から何らかの特徴を見出すことによって、日本語学習者に より習得しやすい方法を提供することができるのではないだろうか
上の二例からも分かるように、中国語では「的」(de)を用いるのは主として 後続の名詞を修飾する時である。言い換えれば、前項の語は修飾・限定の性質 を持ち、一般的に形容詞に当たるものが多いと言えよう。けれども、中国語の
1 輿水優(1985)『中国語の語法の話―中国語文法概論―』p.391
形容詞は日本語において同じく形容詞に属するとは限らない。名詞になる場合 もあれば、動詞になる場合もある。日本語では、異なる品詞に属する語は後続 の名詞を修飾する形も異なるため、正しい日本語の文を書くには品詞を正確に 把握するという重要さがうかがわれる。
また、豊田豊子(1980)、山本紀代(2006)など多くの先行研究は、学習時間 の長い上級レベルの日本語学習者にもかかわらず、漢語を用いて名詞を修飾す る場合、その漢語の品詞の把握に誤りが生じるという現象は確かに存在すると 指摘した。中国語と日本語は字形が同じである漢語が多いため、日本語学習者 にとって大きな助けとなる一方、母国語の影響で日本語を中国語として理解し 使用する誤りが起こる可能性もあると考えられよう。
以上から、本研究では学習者が後続の名詞を修飾する名詞句を作る際、前項 に位置する漢語の中日両言語における品詞転換について考察を加えたい。この 考察を通し、学習者にとって混同しやすい漢語の仕組みを明らかにし、さらに 教育現場において何らかの指導方法に役立てたい所存である。
1.2 研究対象
日本語は中国語と同様、漢字を使用する言葉である。そのため、漢字の学習 歴を有する学習者にとって漢語は比較的習得しやすい部分であろう。しかし、
日本語における漢語は意味や品詞が中国語のそれと一致しているとは限らない。
特に中日両言語において形が同じである漢語は、中国語本来の意味や品詞に影 響されやすく、習得に混乱が生じやすいと考えられよう。
例えば、中日両言語において形が同じである「緊張」という漢語を見てみよ う。「緊張」は中国語と日本語において意味は同じであるが、品詞は異なってい る。中国語では形容詞に属し、「我很緊張」というふうに言うが、日本語では「私
はとても緊張です」とは言えず、「私はとても緊張します」と言うことになる。
それは「緊張」という漢語は日本語において形容詞ではなくサ変動詞に属する ためである。このような品詞が不一致である中日同形同義二字漢語は学習者に とって品詞の把握が難しいと思われる。
一方、中日同形同義二字漢語は中日両言語において同じ品詞に属することに なっても、学習者には必ずしもその語を日本語の文に正確に用いられるとは限 らない。例えば、日本語の形容詞は一般に語形の「-い」のもの(イ形容詞)
の外に、語形の「-な」のもの(ナ形容詞)もある。近年、新たに語形の「-
の」のもの、いわゆる「第三形容詞」という概念が提示され、形容詞として認 められている。中国語の形容詞は「的」(de)という一つの助詞を用いて後続の 名詞を修飾するのに対し、日本語の形容詞は「-い」、「-な」、「-の」のよう に後続の名詞を修飾する形が三つもある。そのため、日本語の文に正しい接続 の形をとることも学習者にとって一つの難関であろう。
よって、本研究は中日同形同義二字漢語を研究対象とする。中国語と日本語 において品詞にズレのあるものだけでなく、ズレのないものでも文に用いる際 に誤りが起きる可能性があるため、研究対象として価値があると考えられる。
1.3 研究目的・方法
本研究の目的は主に以下の三点である。(一)中国語と日本語における同形同 義二字漢語の中で、形容詞の品詞の対応状況を考察し、その傾向を見出す。(二)
品詞のズレが生じるか生じないか、その原因を検討し、それぞれに属する漢語 の仕組みや特徴を明らかにする。(三)漢語習得に注意すべき点を提示し、教育 現場での応用をサポートする。
研究方法は、次の四段階で進める。まず、『日本語能力試験出題基準改訂版』
(2002)(以後「日験出題基準」を称する)1・2 級の語彙表から中日同形同義二 字漢語を抽出する。2
次に、中国語の辞典及びコーパスを利用し、中日同形同義二字漢語が形容詞 に属する語を考察対象としてピックアップする。
そして、日本語の辞典及びコーパスを用いて、中国語では形容詞と記述され る中日同形同義二字漢語が日本語においてどの品詞に所属するかを確認する。
最後に、中国語と日本語における中日同形同義二字漢語の品詞の対応関係を 考察する。各対応タイプに属する語における特徴・傾向を見出す上に、品詞対 応にズレが生じる原因を検討し、学習者にとって混同しやすい漢語の仕組みを 明らかにする。
1.4 本研究の構成
本研究は全五章で構成される。
第一章では、研究動機、研究対象、研究目的・方法、及び本研究の構成を述 べる。
第二章では、中国語と日本語における形容詞とは何かを明らかにし、中日同 形語の品詞問題に関わる先行研究を概観し、問題点を考えてみる。
第三章では、「日験出題基準」を用い、その語彙表に載る 1・2 級の中日同形 同義二字漢語を抽出し、その品詞対応を考察するための調査を行う。
第四章では、第三章の調査結果を踏まえ、中国語と日本語の品詞対応にズレ が生じる原因を検討し、各対応タイプに属する語の特徴を意味の観点から分析 してみる。
2 本研究では日本語学習者に身につけられている傾向の強い漢語を中心に調査する。本来は最新 の資料を用いることが適切であるが、日本語能力試験は 2010 年に改定され試験問題は非公開と なった。また研究目的と照らし合わせた際に「日験出題基準」は、調査範囲として十分適してい るのではないかと考え、これを用いることにした。
第五章では、本研究の研究結果をまとめ、今後の課題と日本語教育現場への 応用を提案する。
第 二 章 先 行 研 究
本章では、形容詞と中日同形語の両方面に分けて先行研究を概観する。まず、
中国語と日本語における形容詞とは何かに関する先行研究を検討し、本研究に おける形容詞の範疇を決める。次に、中日同形語に関する調査報告を取り上げ、
その調査方法・結果を検討する上、問題点を考えてみる。
2.1 形容詞とは何か
本節では、中国語と日本語においてそれぞれ形容詞に対する論述を整理し、
その判定方法についても検討してみる。
2.1.1 中国語において
中国語には、品詞が存在するかという論争が古くからあった。本研究ではこ の問題に立ち入らず、中国語には品詞を有する立場から論を進めることにする。
形容詞を一品詞として見なすべきかについては学者によって意見が分かれてい る。例えば、趙元任(1994)と「中央研究院平衡語料庫的内容與説明(修訂版)」
(1998)3などは、中国語の形容詞は単独で述語になることができるという点で 動詞と共通し、動詞の一種と考える。それに対し、輿水優(1985)、潘文娯ら(2000)、 高橋弥守彦(2006)、蔡宗陽(2008)などは、動詞と形容詞をともに述語に属す るものとするが、それぞれの文法的な特性により、異なる品詞として区別する。
本研究では、後者の立場に立ち、形容詞を一品詞として論を進める。
以下、2.1.1.1 で中国語における形容詞の意味、語法特徴、分類を検討し、
2.1.1.2 でその判定方法について考えてみる。
3 台湾中央研究院資訊所・語言所詞庫小組が編集する技術報告 95-02/98-04 号であり、「中央研 究院平衡語料庫」に関する詳細な内容が記されている。
2.1.1.1 意味、語法特徴、分類
Ⅰ、意味
中国語においての形容詞とは何か、次のような言及がある。蔡宗陽(2008)
は「所謂形容詞,是指用來區別或表達、修飾人、事、物的形狀、狀態、性質的 詞。」とし、鹿琮世ら(1988)は「形容詞とは、性質や状態を表す言葉である」
と述べている。すなわち、形容詞とは人や物事の性質や状態を表す言葉である ということが言えるだろう。
Ⅱ、語法特徴
輿水優(1985)と潘文娯ら(2000)によると、形容詞の語法特徴は次の三点 がある。
① 大部分は程度副詞(「很」、「非常」など)の修飾を受ける。
例: 老師很親切。(先生はとても親切です。)
② 後ろに賓語4を置くことができない。
例: 老師親切我。→非文
③ 重ね形を作る場合、その形式に動詞と異なる所がある。5 例: 他那大大方方的舉止,給人留下了好印象。
(彼のおっとりしている立ち振舞は、私達に好印象を与えた。)
中国語の形容詞は、述語になることや助詞「了」を後ろに置くことができる ことなど、語法の面で動詞と共通している部分が多いが、上述した三点は形容 詞の主要な特徴であり、動詞と区分する依拠にもなると言えよう。
4 賓語は中国語の文の成分の一種であり、日本語の目的語に相当する。
5 動詞の重ね形は一般的に ABAB 型である。(例:對這種人,不教訓教訓不行。)それに対し、形 容詞の重ね形は一般的に AABB である。(例:白紙黑字寫得清清楚楚。)
Ⅲ、分類
高橋弥守彦(2006)や潘文娯ら(2000)によると、形容詞はその語が文にお いてどのような成分になるかによって、さらに一般形容詞と非述形容詞6に分け ることができる。
一般形容詞は例(1)~(6)のように、文中では主に定語と述語として用い られるが、状語や補語のほか、主語や賓語にもなる。7また、程度副詞の修飾を 受けることもできる。
(1) 他是一個勇敢的孩子。[定語](彼は勇敢な子供です。)
(2) 這間屋子很安靜。[述語](この部屋はとても静かです。)
(3) 他們認真討論了這個問題。[状語](彼らは真剣にこの問題を討論しま した。)
(4) 她寫字寫得很漂亮。[補語](彼女は字をとてもきれいに書きます。)
(5) 謙虛使人進步。[主語](謙虚さは人を進歩させます。8)
(6) 大家追求美麗。[賓語](みんなは美しさを求めます。)
[以上の例9は高橋弥守彦(2006)より]
ここで中国語の形容詞は主語と賓語になることに注目したい。このように主 語と賓語になり、名詞のような働きをする形容詞を、「形容詞の名詞化」や「名 詞として使われた」ということがあるが、輿水優(1985)は単に主語や賓語の
6 中国語では「非謂形容詞」と称するが、ここでは輿水優(1985)において称する日本語の名称 を用いる。
7 鹿琮世ら(1988)によると、主語、述語、賓語、定語、状語、補語はいずれも中国語の文の成 分である。主語は陳述の対象であり、述語は主語に対する陳述である。賓語は動詞の影響の及ぶ 対象であり、動詞の支配を受けるもので、動詞の後ろの置かれる。定語と状語はともに修飾語の 一種である。前者は連語の中で名詞を修飾するもので、後者は連語の中で動詞と形容詞を修飾す るものである。補語とは、動詞あるいは形容詞の後に置かれる補充成分である。動詞の後ろに置 かれ、主として動作に対して補充説明を加えるものである。 鹿琮世ら(1988)p.11-12 を参照 。
8 高橋弥守彦(2006)では「謙虚な人は進歩する」というふうに訳したが、ここは筆者が元の中 国語の文型を重視したいと考え、この文の日本語訳に使役文を用いたわけである。
9 中国語の形容詞はその構成の上から、単音節形容詞(例:大、快)、二音節形容詞(例:安静、
勇敢)、複合形容詞(例:鮮紅、雪白)、後置成分のついた形容詞(例:亮晶晶、糊里糊塗)の四 種類に分類される。ここでは、二音節形容詞を例として挙げることにした。
位置を占め得ることというだけでは、その形容詞が名詞との兼類になるとは言 いがたいと指摘した。次の例(7)~(9)が示すように、賓語の位置に置かれ た形容詞(「大膽」)は「不」で打ち消すことができるし、程度副詞の修飾を受 けることもできるなど、形容詞の文法的な性質は失われていないため、名詞と するのが適切でなく、あくまでも形容詞であると述べている。10
(7) 我要學習大膽。(私は大胆になるのを学ぶ。)
(8) 我要學習不大膽。(私は大胆にならないのを学ぶ。)
(9) 我要學習更加大膽。(私はより大胆になるのを学ぶ。)
中国語において、形容詞が名詞という品詞を兼ねているかどうかについて、そ の語が主語や賓語になることができるかのみでは判定することはできないと分 かった。11
非述形容詞は文中では定語のみとして用いられ、状語、述語、補語などにな ることができない。程度副詞の修飾を受けることもできず、「区別詞」とも呼ば れる。高橋弥守彦(2006)、潘文娯ら(2000)によると、一般形容詞と異なると ころは次の三点である。
① 一般形容詞の前には、程度を強調する副詞「很」などを用いること ができるが、非述形容詞はそれができない。
例: 【一般形容詞】簡単的方法(○)、很簡単的方法(○)
【非述形容詞】唯一的方法(○)、很唯一的方法(✕)
10 中国語において、形容詞も動詞も主語や賓語の位置に置くことができる。その場合、形式も 変わらないし、動詞や形容詞の特性も失われない。この論述について、朱德熙(1985)「关于动 词形容词“名物化”的问题」では詳しく検討されている。また、高橋弥守彦(2006)もこの言語 現象を「位置優先説」と説き、体言性の枠組み的な意味が加味されるが、形容詞は形容詞で、動 詞は動詞であると主張した。
11 潘文娯ら(2000)はある形容詞が具体的な物事を指し示すことができ、あるいは数量詞や性 質、数量を表す形容詞の修飾を受けることができる時、名詞との兼類になると指摘した。輿水優
(1985)は副詞「很」の修飾を受けるが、動詞「有」の賓語になることができ、数量詞の修飾を 受けるといった特徴を持つものは「名形詞」と呼び、形容詞の下位区分とする。
② 非述形容詞は、「不」ではなく「非」を用いて否定形を作る。
例: 不大型(✕)→非大型 不人造(✕)→非人造
③ 一般形容詞は言語環境があれば単独でも述語になれるが、非述形容 詞が述語のようになる場合は一般には「的」(de)を用いなければな らない。この場合はその前に「是」を用いるので、述語ではなく、
「的」(de)の連語で作る賓語と言うほうが良いだろう。
例:我家有一輛國產汽車12。[定語](我が家には国産自動車が一台ある。) 我家那輛汽車是國產的。(我が家の自動車は国産です。)
2.1.1.2 判定方法
ここでは、中国語に形容詞の判別方法について述べてみる。前にも触れたが、
中国語には品詞が存在するかという論争が古くからあり、形容詞を一品詞とし て見なすべきかについても学者によって意見が分かれている。これは辞典やコ ーパスにおける品詞注記にも反映され、二字の見出し語に品詞標示がない「教 育部重編国語辞典修訂本」13もあれば、一般形容詞と非述形容詞が明記される『東 方中国語辞典』(2004)14や、一般形容詞を状態動詞と記される「中央研究院現 代漢語平衡語料庫」(以後、「漢語平衡語料庫」と称する)もある。
一つの語例が形容詞に属するか、動詞に属するかの判断について、朱徳煕
(1982)、輿水優(1985)は、程度副詞を前に置くことができるか、また賓語を
12 非述形容詞は定語として後ろの名詞を修飾する時、一般的に「的」(de)を用いない。例:國 產汽車、慢性病
13 「教育部重編国語辞典修訂本」は中華民国教育部(日本文部科学省に相当する機構)が編纂 した中国語辞典である。本研究はオンライン辞書(http://dict.revised.moe.edu.tw/index.html )を 参考にする。
14 『東方中国語辞典』において一般形容詞は「形容詞」と、非述形容詞は「区別詞」と注記さ れている。
後ろに置くことができるかによって区別できると指摘している。15本研究はこれ に基づき、さらに語例が形容詞兼動詞に属する可能性も考慮し、次の表 2-1 の ように中国語における形容詞の判定方法を提示する。
表 2-1 中国語における形容詞と動詞の区別
動詞は程度副詞を前に置くことができないか、賓語を後ろにおくことができ るものであるのに対し、形容詞は程度副詞を前に置くことができるが、賓語を 後ろに置くことができないものである。即ち、A-1(例:尊重)、C(例:反抗)、 D(沈没)は動詞に属し、B-1(例:簡単)は形容詞に属する。
また、A-2(例:豊富)と B-2(例:失望)は形容詞兼動詞に属するものであ る。A-2 は形式上 A-1 と同様、程度副詞の修飾を受ける上、後ろに賓語を置くこ ともできる。しかし、A-1 は「我很尊重他」のように程度副詞と賓語を同時にと るのに対し、A-2 は同時にとることができない。例えば、「色彩很豐富」「創作豐 富了他的生命」のように、程度副詞“很”のある時は賓語がなく、賓語“他的 生命”のある時は程度副詞がないと見られ、前者は形容詞、後者は動詞と捉え る。「尊重」などの動詞と違い、「豊富」などの語は形容詞兼動詞と見なすべき であろう。B-2 は直接後ろに賓語を取ることができないものの、「令-」「使-」と いう形で賓語を取ることが可能なので(例:令人失望)、日本語の自動詞と近い 性質を持つと考えられる。
15 朱徳煕(1982)pp.55-57、輿水優(1995)pp.153-157 を参照。
賓 語
可 否
程 度 副 詞
可 A-1:動(例:尊重)
A-2:形/動(例:豊富)
B-1:形(例:簡単)
B-2:形/動(例:失望)
否 C:動(例:反抗) D:動(沈没)
2.1.2 日本語において
以下、2.1.2.1 で日本語における形容詞の意味、機能、範疇を検討し、2.1.2.2 でその判別方法について考えてみる。
2.1.2.1 意味、機能、範疇
Ⅰ、意味
小池清治ら編(1997)『日本語学キーワード辞典』によると、形容詞とは事物・
事柄の性質・状態や人の感覚・感情などを表すものである。飛田良文ら(2007)
はさらに以下のように詳しく説明している。
形容詞とは、(1)客観的な事物・事柄の性質(色彩を含む)・状態を表すととも に、(2)主観的な心に感じる感覚や感情を表す品詞。(p.206)
(『日本語学研究事典』より)
西尾寅弥(1972)は(1)を「属性形容詞」と、(2)を「感情形容詞」と呼び、
意味の面から日本語の形容詞にはこの二種類の下位分類があると述べている。
以上を踏まえ、形容詞というのは、事物の性質・状態という属性を客観的に 表すとともに、人間の感覚・感情という心の活動を主観的に表す言葉であるこ とが分かった。
Ⅱ、機能
『岩波国語辞典 第六版』(2000)によると、形容詞は単独で、つまり動詞や 助動詞の助けを借りずに、述語となり得る。また、その連用形は連用修飾語と して副詞的に働くことができると述べられている。
村木新次郎(2012)も日本語の形容詞には以下の三つの機能が認められると 言及した。
① 名詞を修飾限定する規定用法(「赤いバラ」)
② 述語としての用法(「庭のバラは赤い。」)
③ 動詞述語を修飾限定する修飾用法(「庭のバラが赤く咲いた。」)
以上から、日本語における形容詞の機能は名詞を修飾する規定用法、単独で 述語になり得る用法、動詞に対して副詞と同じような修飾の働きをする修飾用 法、主にこの三つであると言えよう。さらに、村木新次郎(2012)は形容詞に 所属する単語のすべてがこうした 3 機能を備えているというわけではないが、
基本的な機能として見なすことができると指摘している。
Ⅲ、範疇
橋本文法をベースとしている学校文法では、形容詞は終止形がイで終わるも の(例:赤い、暑いなど)を指している。終止形がダで終わるもの(例:静か、
丈夫など)は形及び用法の上に独特の点を有するから、形容詞と見るべきでは なく、形容動詞という一つの品詞とする。
鈴木重幸(1972)は、学校文法ではいわゆる形容詞を第一形容詞、形容動詞 を第二形容詞と呼び、同一の品詞とみなした。その理由は以下のように述べて いる。
いわゆる形容動詞と形容詞とは、語彙的な意味の性格が同じであるだけで なく、品詞を性格づける文論的・連語論的な働き、形態論的なカテゴリーが 共通であって、異なるのは、主に文法的な形の作り方だけだけである。した がって、品詞としては区別すべきではない。(p.428)
仁田義雄(2000)の品詞分類では、イ形容詞(形容詞と呼ばれていたもの)
とナ形容詞(形容動詞と呼ばれていたもの)が設置される。形容動詞は、形容 詞と語形成のあり方の点で異なりを有するものの、語義のタイプや文法機能の あり方においてほとんど異なるところがないという観点で、形容詞の一種とし、
ナ形容詞と呼ぶ。16また、西尾寅弥(1972)は、狭義の形容詞といわゆる形容 動詞を合わせて形容詞と呼ぶという立場で、言語作品を通して大量の用例を集 め、それに基づいて形容詞の意味・用法の記述を行うものである。
さらに、村木新次郎(2012)は鈴木重幸(1972)に従い、第一形容詞と第 二形容詞の他に、「第三形容詞」17「規定用法のみをもつ形容詞」「述語用法 のみをもつ形容詞」を加え、形容詞の範囲の拡大を主張した。18
16 仁田義雄(2000)『日本語の文法1 文の骨格』「単語と単語の類別」p.30
17 村木新次郎(2006)によると、「第三形容詞」とはこれまで一般に(例えば辞書において)名 詞と扱われてきたものの中で統語的な特性から形容詞とみなすべき単語群のことを指す。これら の単語には、以下のような特徴が見られる。
① 主語や目的語にならないか、なりにくい。
② 連体修飾を受けない。
③ 後続の名詞を修飾する規定用法(「どんなに」に対応する属性規定)
として用いられる
④ 述語として用いられる。
⑤ 後続の動詞(時に形容詞)を修飾する修飾用法として用いられる。
以上の①②の特徴は名詞の特徴を持たないことを意味する。③④⑤の特徴は形容詞の特徴である。
「抜群」を例として、③④⑤の特徴を表す例文は次のようである。
子供の頃から船に乗って櫓を漕いでいたので、肩、腰が鍛えられ、抜群の強肩の持ち 主となりました。[規定用法] (『生活習慣病に克つ新常識』)
営業マン「良いデザインでしょう。乗り心地も抜群です。この車なら彼女にもてます よ。」[述語用法] (『成果が即上がる営業のコツ』)
クジラの缶詰は甘辛い味つけで、野外でおにぎりと一緒に食べると抜群にうまい。[修 飾用法] (『翼はいつまでも』)
[国立国語研究所『現代日本語書き言葉均衡コーパス中納言』より]
「抜群」のように、主語や目的語にならない上に、名詞の文法的な特徴である格のシステムも持 たず、さらに連体修飾を受けることもない語は名詞ではなく、形容詞と見るのが正当であると村 木新次郎(2006)が指摘している。
18 村木新次郎(2012)『日本語の品詞体系とその周辺』第 1 部第 2 章を参照。
村木新次郎(2012)が提唱した漢語語彙の品詞分類19からも、形容詞におい て次のような下位分類が見られる。分類を見やすくするため、筆者がそれにロ ーマ数字をつけ、下線を引くことにした。
(Ⅰ)第一形容詞
「-い/く」のパラダイムを持つ。例:仰々し、騒々し、毒々し…
(Ⅱ)第二形容詞
「-な(/に)/だ」のパラダイムを持つもの。例:曖昧、危険、簡単、謙虚…
(Ⅲ)第三形容詞
「-の/に/だ」のパラダイムを持つ(「-に/だ」のいずれかが欠けていることも ある)。ただし、名詞の格のパラダイムである「-が」「-を」を従えないこと、
連体修飾を受けないことを条件とする。例:迫真、抜群、永遠、皆無…
(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞
規定用法で「-な/-の」のゆれを示すものがある。第二形容詞と第三形容詞の両 方、つまり、連体の形式にゆれのある単語は多い。「急速な/の 変化」「軽妙洒 脱な/の 文章」のような例がそうである。例:安心、特別、神聖、単一…
(Ⅴ)規定用法のみの形容詞
規定的な用法だけを持つ、無活用の形容詞である。語形としては、「-Φ」「-な る」「-たる」「-の」がある。「-の」の形式をとるものが最も多い。
例:現行、合理、有機、法定、…
以上の先行研究から分かるように、形式を重視する学校文法で終止形がイで 終わるもののみを形容詞と称することを検討することにより、語自身の意味及 び文中での働きという観点で、形容動詞さらに「第三形容詞」などを形容詞の 枠に入れるべきだという主張から、形容詞の指す範囲を見直しつつある傾向が 見られる。
19 村木新次郎(2012)『日本語の品詞体系とその周辺』p.85-101 を参照。
2.1.2.2 判定方法
村木新次郎(2012)が提唱した形容詞を確認するには、辞典の他にコーパス を用いる必要がある。なぜならコーパスにおける例文の統語的な特性によって これらを判別することができると考えたためである。
例えば、「現代日本語書き言葉均衡コーパス NINJAL-LWP for BCCWJ」(以後、
「書き言葉均衡コーパス NLB」を称する)を利用し、辞典においてともに名詞と 標示される(Ⅲ)第三形容詞と(Ⅴ)規定用法のみの形容詞は、表 2-2 で示した判 定基準を通して抽出することができる。
表 2-2 (Ⅲ)第三形容詞及び(Ⅴ)規定用法のみの形容詞の判定基準 語例 辞典 コーパス(NLB) 村木(2012)
一流
名詞
① 「-が」「-を」の形式:10 例以下
② 「-の」の形式で後続の名詞を限定す る:10 例以上
(「当代一流」のように前要素がくっつい て、一単語となっているものを除く)
③ 述語用法、修飾用法:10 例以上
(いずれか欠けていることもある)
④ 連体修飾を受けることができない
(Ⅲ)第三形容詞
合理 上述した条件①と②のみに該当するもの
(Ⅴ)規定用法のみ の形容詞
均衡
① 「-が」「-を」の形式:10 例以上
② 連体修飾を受けることができる
③ 規定用法、述語用法、修飾用法は無い
名詞
また、(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞は規定用法で「-な/-の」のゆれを示すも のであるが、そのゆれを標記する辞典は一般に少なく、殆どが形容動詞か形容 動詞兼名詞と注記している。しかし『岩波国語辞典 第六版』(2000)は、形容 動詞と認める規準20は明確に示される上に、「-の」の形がある場合も記されてい る。よって(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞を確認するには、これが最も適している 資料であると思われる。
さらに『角川必携国語辞典』(2007)を合わせて参考し、(Ⅳ)第二形容詞/第 三形容詞は表 2-3 で示すように判定することができるだろう。
表 2-3 (Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞の判定基準
語例 『角川必携国語辞典』 『岩波国語辞典 第六版』 村木(2012)
重大 形動 名(ナ・ノ)21 (Ⅳ)
有力 形動 ダ(ナ・ノ)22 (Ⅳ)
独特 名・形動 ダ(ナ・ノ) (Ⅳ)
幸運 名・形動 名(ナ・ノ) (Ⅳ)・名詞
誠実 名・形動 名、ダ(ナ・ノ) (Ⅳ)・名詞
20 『岩波国語辞典』では、次の規準に合うものだけを形容動詞と認め、「ダ(ナ)」と注記した。
(1)「-に」の形が広く(「なる」「する」だけでなく)動詞に対して副詞と同様の連用修飾の働 きをすること。
(2)連体修飾語となる時の形が「-な」であること。
(3)「だろ・だっ・で・に・だ・な・なら」の活用語尾が、原則としてそろっていること。
21 『岩波国語辞典』では、注釈 25 で述べた基準(2)と(3)に合うが、基準(1)に合わない ものを形容動詞と認めず、名詞とした。「名(ナ・ノ)」と注記した。しかし、村木新次郎(2012)
では、このような語を(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞と見なした。
22 『岩波国語辞典』では、注釈 25 で述べた三基準に該当するほか、連体修飾語となる時には「-
の」「-な」どちらの形もあるものを「ダ(ナ・ノ)」と注記した。 しかし、村木新次郎(2012)
では、このような語を(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞と見なした。
2.1.3 まとめ
中国語における形容詞とは、人や物事の性質や状態を表す言葉である。程度 副詞が前に置けること、目的語を後ろに置けないこと、重ね型の形式の相違と いう三点で、語法特徴として動詞と区別することができる。種類は一般的に、
一般形容詞と非述形容詞の二種類に分けられる。前者は定語や述語になること ができ、様々な機能を有することに対し、後者は定語にしかなることができな いのが最も顕著な相違点である。
また、品詞の立場の違いに従い、辞典やコーパスの品詞標示も異なってくる ことがある。朱徳煕(1982)、輿水優(1985)が指摘した形容詞と動詞の語法特 徴に基づき、一つの語例が形容詞に属するかを判定する方法をまとめてみた。
一方、日本語における形容詞とは一般的に事物の客観的な属性と心に感じる 主観的な感情を表す言葉であると言われている。機能について、規定用法、述 語用法、修飾用法が三つあり、文中での基本的な働きとして認められる。
形容詞の意味と機能について、学説が定着しつつあることが先行研究から分 かった。しかし形容詞の範疇について、学説が定まっておらず、イで終わる学 校文法における形容詞から、村木新次郎(2012)が提出した「第三形容詞」ま で、形容詞の指す範囲を拡大する傾向があると言えよう
2.2 中日同形語に関する研究
大河内康憲(1992)によると、「同形語とは、一言でいえば「政治、文化」の ように日・中で字面が同じ単語である」と述べられている。同形語の分類に関 して、一般的に同形同義語、同形類義語、同形異義語という三つのタイプに分 けられる。同形異義語に関する研究(大まかに言えば同形類義語も含む)は同 形漢語の中日両言語における意味や用法の違いを究明するものが多い。一方、
同形同義語に関する研究は、日本語教育と語彙研究の両方面に分けられ、同形 漢語の文法的ズレに焦点を当てている。日本語教育に関して、五味政信ら(2006)、 河住有希子(2005)、山本紀代(2006)など数多くの研究は、中日において品詞 が異なる同形同義語が少なくないため、中国語を母語とする日本語学習者が上 級レベルになっても誤りが起こるものであると指摘してきた。語彙に関して、
林姿里(1982)、戚国福(1999)、村木新次郎(2009)23は実例を用いて調査・分 析を試みた研究である。ここでは、語彙調査を行った上述した三つの研究を取 り上げて詳しく論じたい。
2.2.1 林姿里(1982)
林姿里(1982)は、『現代中日辞典』(1961)の付録として掲げられている「中 日同義複合語対照表」を調査対象とし、そこに載っている約 4300 語24を取り出 し、実際それらの語が中日両言語において同義であるかどうかを辞書によって 確認し、品詞におけるズレの有無も検討した。
品詞の判定基準に関して、日本語の部分は『岩波国語辞典 第三版』(1979)
と『角川新版国語辞典』(1969)に準じ、二冊とも同じであるものだけを認めて 採用する。それに対し、中国語の部分は『岩波中国語辞典』(1963)と『現代中 国語辞典』(1982)に準ずるが、前者の語数が少ないため、やむを得ず後者を中 心にし、一部の語だけを前者で補助する。
林姿里(1982)は、調査対象に当たる約 4300 語の中日同形語が日本語の<名 詞>、<名詞・動詞>、<名詞・形容動詞>である場合、中国語においてどの 品詞に属するかを調査した。なお、品詞対応にズレのあるタイプの中で語数を
23 村木新次郎(2012)『日本語の品詞体系とその周辺』に再録されている。
24 「中日同義複合語対照表」には約 4800 語が載っている。音読できない語と辞書に見つからな い語と品詞標示が一致しない語を除き、約 4300 語残る。
10 語以上有するタイプのみに絞り、それらのタイプに属する語を中国語の語構 成25に基づいて分類し、ズレの原因を検討した。
次の表 2-4 は、筆者が林姿里(1982)の調査結果を中国語の品詞別で整理し 直したものである。林姿里(1982)が取り上げて考察を行った対応タイプは合 計 13 種あり、(★)で示した。
表 2-4 林姿里(1982)日中同形二字漢語の品詞転換表 [語数が 10 語以上のタイプのみ]
表 2-4 の網掛け部分から、中国語では形容詞に属する語は日本語において<
25 林姿里(1982)では、ここで言う語構成は香坂順一『中国語学の基礎知識』の説を骨組みと し、陸志韋氏の『漢語的構詞法』の説を血肉とするものであると述べられている。<連合式><
修飾式><陳述式><支配式><補足式><存在式>という六種類に分ける。
中国語品詞 日本語品詞 語数
名
名詞 2054
★ 名詞・動詞 274
★ 名詞・形容動詞 16 動
名詞・動詞 687
★ 名詞 44
★ 名詞・動詞 11 形
名詞・動詞 187
★ 名詞 99
★ 名詞・動詞 23 名・動 名詞・動詞 675
★ 名詞 138
名・形 名詞・形容動詞 25
★ 名詞 76
動・形
★ 名詞 10
★ 名詞・動詞 32
★ 名詞・形容動詞 17
名・連 ★ 名詞 12
名・動・形 ★ 名詞・動詞 12
名詞>になる語が<名詞・動詞>になる語より多いことが分かった。また、林 姿里(1982)では、次のような考察結果が述べられている。
中日両語における品詞転換に問題のあるものは、日本語の名詞とも形容動 詞ともなりうる場合、全般的に言えば、この類の漢語が品詞転換を行う理由 は、語構成とあまり関係がないが、情態性概念を持つかどうかが関わってい るようである。(下線筆者)
日本語の名詞か動詞になる場合の中日同形語とは違い、形容動詞になる中日 同形語を分析する際、語構成という観点からあまり体系的な結果が見られず、
語彙自身が持っている情態性概念に重点を置くべきであることが示唆される。
2.2.2 戚国福(1999)
戚国福(1999)は、『三省堂国語辞典 第四版』(1992)から中国語と同形で ない単語も含めて 789 語の二字サ行変格活用漢語動詞(以後「二字漢語動詞」
と称する)を取り出し、中日両言語における品詞及び意味のズレを検討した。
品詞判定の基準に関して、日本語は前掲『三省堂国語辞典 第四版』、中国語は
『簡約現代中国語辞典』(1986)とした。その結果、調査できないもの 159 語と 品詞の認定に問題があるもの 27 語を除き、残りの 603 語は次の表 2-5 で示すよ うに、(一)動詞、(二)名詞、(三)形容詞、(四)その他、四類に分けられる。
品詞のズレがないものは 376 語で総語数の 62.4%を占めており、ズレがあるも のは 227 語で総語数の 37.6%を占めている。
表 2-5 戚国福(1999)二字漢語動詞と同形の中国語の品詞対応
また、氏はさらに中国語において形容詞、及びその他26に分類されている形容 詞グループに属するものを抽出し、詳細が次の表 2-6 となっている。
表 2-6 戚国福(1999)二字漢語動詞と同形の中国語の品詞対応[形容詞部分]
26 戚国福(1999)では、(四)その他はさらに<形容詞グループ>(30 語)、<連語グループ>
(6 語)、<副詞グループ>(1 語)、<助動詞グループ>(1 語)の四つのタイプに分けられる。
中国語品詞 漢語動詞 語数(%) ズレ語数(%) 一 動詞
二字サ行 変格活用 漢語動詞
519(86%) 143(23.6%) 二 名詞 39(6.5%) 39(6.5%) 三 形容詞 7(1.2%) 7(1.2%) 四 その他 38(6.3%) 38(6.3%) 合計 603(100%) 227(37.6%)
中国語品詞 漢語品詞 語例 語数 ズレ 小計 ズレ
語数
三 形容詞
自サ
共同、緊張 中立、低下 繁盛
5 ○
7 語 1.2%
7%
1.2%
他サ 所有 1 ○ 自他サ 乾燥 1 ○
四 そ の 他
形 容 詞 グ ル
| プ
形容詞・名詞
自サ 一致、所属 2 ○
30 語 5.0%
30 語 5.0%
自サ・形動 貧乏 1 ○ 他サ 邪魔 1 ○
形容詞・他動詞
自サ
活躍、接近 相当、徹底 満足、繁栄 充実
7 ○
自サ・形動 安心、謙遜
不足、安定 4 ○ 他サ 尊重、否定
浪費、勉強 4 ○
表 2-6 に載っている 37 語は二字漢語動詞が中国語において形容詞及び形容詞 兼他品詞に属するもので、総語数の 6.2%を占めている。対応傾向から見ると、
日本語の漢語動詞になる場合、自動詞になることは他動詞になることより多い ことが分かった。その理由は中国語の形容詞が中国語の自動詞と同じように賓 語を伴うことができず27、日本語の自動詞も「他ノ物事ヲ処分スル性質」を持っ ていないということにあると戚国福(1999)は述べている。
また、この 37 語は中国語において全て形容詞という品詞性を持つものである が、日本語において殆どは二字漢語動詞になることが見られる。つまり、中国 語において形容詞に属するものは日本語において、必ずしも形容詞(ここは広 義の形容詞と指す)としては用いられないことがあると言えよう。戚国福(1999)
はこのような二字漢語動詞について、学習者がそれを形容動詞として誤用する 可能性が高いと指摘している。
2.2.3 村木新次郎(2009)
村木新次郎(2009)は、中日両言語の「漢語」の間には、同形語が存在し、
その文法性が共通するものもあれば、相違するものもあると述べている。氏は 両言語に見られる相違のうち、何らかの傾向がみとめられる可能性もあろうと
27 輿水優(1985)『中国語の語法の話―中国語文法概論―』p.187
自他サ 確定、固定 2 ○
形容詞・自動詞・名詞 自サ
進歩、成功 沈黙、平行 優勝
5 ○ 形容詞・他動詞・名詞 他サ 肯定 1 ○ 形容詞・自他動詞・名詞 自サ 活動、団結 2 ○ 形容詞・自他動詞・名詞 自他サ 中和 1 ○
考え、「中国語の形容詞が日本語の動詞に対応する」というのは、そのような傾 向の一つとして調査を行った。
村木新次郎(2009)は、HSK(漢語水平考試)の語彙表と『新編漢語形容詞辞 典』(2003、経済科学出版社)から、中国語で形容詞として使用されるもののう ち、日本語で動詞として用いられるものを拾い出し、それらの各単語が他の品 詞を兼ねるかどうかを調査した。品詞の判定について、中国語は『現代漢語詞 典 第五版』(2006)に、日本語は『岩波国語辞典 第六版』(2000)に従った。
前者は自動詞と他動詞の区別はしていないが、賓語(目的語)をとる用例の有 無によって、自他の区別をした。
中国語の形容詞及び形容詞が自動詞・他動詞を兼ねる単語が、日本語のどの 品詞に所属するかに着目し、整理すると表 2-7 になる。
表 2-7 中国語の形容詞が日本語の動詞と対応する中日同形語
中国語品詞 日本語品詞 語例 語数
形容詞
自動詞
敵対、混乱、緊迫、老成、疲労 平衡、謙遜、曲折、衰弱、熟練 湾曲、一致、卓越、透徹、跋扈 錯乱、低下、煩悶、繁茂、繁盛 憤怒、合格、急迫、焦燥、謹慎 開明、苦悶、苦悩、狂喜、狼狽 疲労、憔悴、勤労、外在、喜悦 一定、優越、円熟、専心、恐怖
40
形容詞・自動詞 簡略 1
自動詞・他動詞 充足、乾燥、固執、貧窮、謙遜
一貫、憤慨、慷慨 8
他動詞 誇張、特定 2
名詞 錯誤、反動、具体 3
村木新次郎(2009)の調査結果から、「中国語で形容詞に所属し、日本語で自 動詞に所属する日中同形語が一定数存在する」ということは言える。しかし、
漢語全体の中でこれらがどの程度を占めるものか分からない。また、氏はその ような関係を持つものの中に、両言語の単語がそれぞれに他の品詞を兼ねるも のがあり、様々なタイプがあるので、単純に一般化することはできないと指摘 している。
村木新次郎(2009)は、この種の同形語の日本語は個々の単語が単一の特徴 を持つものでなく、複数の特徴をあわせもつものがあるのではなかろうかと述 べている。28氏は中日両言語において品詞と意味の関係を典型(プロトタイプ)
としては、以下のような図式を提示した。
28 中川正之(2002)は中国語の形容詞が日本語の動詞と対応する中日同形語の特徴として、<変 化>と<動作(性)>に注目する。前者を(A)常態からの一時的逸脱、(B)変化・進歩、(C)
心的操作としての比較、後者を(D)動作性の読み込みに分類し、個々の単語を(A)~(D)の うちの一種に所属させている。
形容詞・自動詞
形容詞・自動詞 安心、相当 2
自動詞 成熟、腐敗、進歩、矛盾、成功
零落、密集、迂回 8
自動詞・他動詞 閉塞 1
他動詞 自覚 1
形容詞・他動詞
形容詞 不便 1
自動詞 充実、発達、繁栄、孤立、興奮 安定、歓喜、拘泥、困惑 9
自動詞・他動詞 緩和、平均 2
他動詞 保守、抽象、概括 3
形容詞・自動詞・他動詞
自動詞 麻痺、突出、自負、団結 4
自動詞・他動詞 確定 1
他動詞 公開、考究、統一、温存 4
総語数 90
形容詞 → <主体の状態>
自動詞 → <主体の動作・変化>
他動詞 → <主体の動作、客体の変化>
しかし、これらの典型からはずれていて、典型とは異なる意味特徴をもつこ ともある。品詞の共通性は、必ずしも意味上の共通性を保証するものではない と述べている。
村木新次郎(2009)は中日同形語の文法性が相違するものの中で、「形容詞(中 国語)→動詞(日本語)」という傾向に着眼した語彙調査を行った。その分析か ら中国語の形容詞が日本語の自動詞と対応する語が比較的に多く存在するとい う結果が得られたが、漢語全体の観点から検討する必要もあるのではないかと 考えられる。
2.2.4 まとめ
本節では、実例を用いて語彙調査を試みた先行研究、林姿里(1982)、戚国福
(1999)、村木新次郎(2009)を三つ取り上げて検討してみた。その結果は次の 表 2-8 のようにまとめてみる。
表 2-8 林姿里(1982)、戚国福(1999)、村木新次郎(2009)の比較
林姿里(1982) 戚国福(1999) 村木新次郎(2009)
視 点
日本語→中国語 日本語→中国語 中国語→日本語
調 査 範 囲
「中日同義複合語対照表」
(『現代中日辞典』の付録)
に載っている二字同形漢 語
『三省堂国語辞典』(四版)
から中国語と同形でない 単語も含めての二字サ行 変格活用漢語動詞
HSK(漢語水平考試)の 語彙表と『新編漢語形 容詞辞典』から、中国 語で形容詞、日本語で 動詞として用いられる 二字同形漢語。
調 査 語 数
約 4300 語 603 語 90 語
判 定 基 準
『岩波国語辞典』(三版)
『角川新版国語辞典』
『三省堂国語辞典』
(四版)
『岩波国語辞典』
(六版)
『現代中国語辞典』
『岩波中国語辞典』
『簡約現代中国語辞典』
『現代漢語詞典』
(五版)
分 析 結 果
形容動詞になる二字同形 漢語が品詞転換を行う理 由は、語構成とあまり関係 がないが、情態性概念を持 つかどうかが関わってい るようである。
中国語では形容詞や形容 詞兼他品詞に属する語が 日本語の漢語動詞になる 場合、自動詞になっている ことは他動詞になってい ることより多い。
「中国語で形容詞に所 属し、日本語で自動詞 に所属する日中同形語 が一定数存在する」と いうことは言えるが、
漢語全体をどの程度占 めるかは分からない。