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第二章 先行研究

2.1 形容詞とは何か

2.1.2 日本語において

2.1.2.1 意味、機能、範疇

Ⅰ、意味

小池清治ら編(1997)『日本語学キーワード辞典』によると、形容詞とは事物・

事柄の性質・状態や人の感覚・感情などを表すものである。飛田良文ら(2007)

はさらに以下のように詳しく説明している。

形容詞とは、(1)客観的な事物・事柄の性質(色彩を含む)・状態を表すととも に、(2)主観的な心に感じる感覚や感情を表す品詞。(p.206)

(『日本語学研究事典』より)

西尾寅弥(1972)は(1)を「属性形容詞」と、(2)を「感情形容詞」と呼び、

意味の面から日本語の形容詞にはこの二種類の下位分類があると述べている。

以上を踏まえ、形容詞というのは、事物の性質・状態という属性を客観的に 表すとともに、人間の感覚・感情という心の活動を主観的に表す言葉であるこ とが分かった。

Ⅱ、機能

『岩波国語辞典 第六版』(2000)によると、形容詞は単独で、つまり動詞や 助動詞の助けを借りずに、述語となり得る。また、その連用形は連用修飾語と して副詞的に働くことができると述べられている。

村木新次郎(2012)も日本語の形容詞には以下の三つの機能が認められると 言及した。

① 名詞を修飾限定する規定用法(「赤いバラ」)

② 述語としての用法(「庭のバラは赤い。」)

③ 動詞述語を修飾限定する修飾用法(「庭のバラが赤く咲いた。」)

以上から、日本語における形容詞の機能は名詞を修飾する規定用法、単独で 述語になり得る用法、動詞に対して副詞と同じような修飾の働きをする修飾用 法、主にこの三つであると言えよう。さらに、村木新次郎(2012)は形容詞に 所属する単語のすべてがこうした 3 機能を備えているというわけではないが、

基本的な機能として見なすことができると指摘している。

Ⅲ、範疇

橋本文法をベースとしている学校文法では、形容詞は終止形がイで終わるも の(例:赤い、暑いなど)を指している。終止形がダで終わるもの(例:静か、

丈夫など)は形及び用法の上に独特の点を有するから、形容詞と見るべきでは なく、形容動詞という一つの品詞とする。

鈴木重幸(1972)は、学校文法ではいわゆる形容詞を第一形容詞、形容動詞 を第二形容詞と呼び、同一の品詞とみなした。その理由は以下のように述べて いる。

いわゆる形容動詞と形容詞とは、語彙的な意味の性格が同じであるだけで なく、品詞を性格づける文論的・連語論的な働き、形態論的なカテゴリーが 共通であって、異なるのは、主に文法的な形の作り方だけだけである。した がって、品詞としては区別すべきではない。(p.428)

仁田義雄(2000)の品詞分類では、イ形容詞(形容詞と呼ばれていたもの)

村木新次郎(2012)が提唱した漢語語彙の品詞分類19からも、形容詞におい て次のような下位分類が見られる。分類を見やすくするため、筆者がそれにロ ーマ数字をつけ、下線を引くことにした。

(Ⅰ)第一形容詞

「-い/く」のパラダイムを持つ。例:仰々し、騒々し、毒々し…

(Ⅱ)第二形容詞

「-な(/に)/だ」のパラダイムを持つもの。例:曖昧、危険、簡単、謙虚…

(Ⅲ)第三形容詞

「-の/に/だ」のパラダイムを持つ(「-に/だ」のいずれかが欠けていることも ある)。ただし、名詞の格のパラダイムである「-が」「-を」を従えないこと、

連体修飾を受けないことを条件とする。例:迫真、抜群、永遠、皆無…

(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞

規定用法で「-な/-の」のゆれを示すものがある。第二形容詞と第三形容詞の両 方、つまり、連体の形式にゆれのある単語は多い。「急速な/の 変化」「軽妙洒 脱な/の 文章」のような例がそうである。例:安心、特別、神聖、単一…

(Ⅴ)規定用法のみの形容詞

規定的な用法だけを持つ、無活用の形容詞である。語形としては、「-Φ」「-な る」「-たる」「-の」がある。「-の」の形式をとるものが最も多い。

例:現行、合理、有機、法定、…

以上の先行研究から分かるように、形式を重視する学校文法で終止形がイで 終わるもののみを形容詞と称することを検討することにより、語自身の意味及 び文中での働きという観点で、形容動詞さらに「第三形容詞」などを形容詞の 枠に入れるべきだという主張から、形容詞の指す範囲を見直しつつある傾向が 見られる。

19 村木新次郎(2012)『日本語の品詞体系とその周辺』p.85-101 を参照。

2.1.2.2 判定方法

村木新次郎(2012)が提唱した形容詞を確認するには、辞典の他にコーパス を用いる必要がある。なぜならコーパスにおける例文の統語的な特性によって これらを判別することができると考えたためである。

例えば、「現代日本語書き言葉均衡コーパス NINJAL-LWP for BCCWJ」(以後、

「書き言葉均衡コーパス NLB」を称する)を利用し、辞典においてともに名詞と 標示される(Ⅲ)第三形容詞と(Ⅴ)規定用法のみの形容詞は、表 2-2 で示した判 定基準を通して抽出することができる。

表 2-2 (Ⅲ)第三形容詞及び(Ⅴ)規定用法のみの形容詞の判定基準 語例 辞典 コーパス(NLB) 村木(2012)

一流

名詞

① 「-が」「-を」の形式:10 例以下

② 「-の」の形式で後続の名詞を限定す る:10 例以上

(「当代一流」のように前要素がくっつい て、一単語となっているものを除く)

③ 述語用法、修飾用法:10 例以上

(いずれか欠けていることもある)

④ 連体修飾を受けることができない

(Ⅲ)第三形容詞

合理 上述した条件①と②のみに該当するもの

(Ⅴ)規定用法のみ の形容詞

均衡

① 「-が」「-を」の形式:10 例以上

② 連体修飾を受けることができる

③ 規定用法、述語用法、修飾用法は無い

名詞

また、(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞は規定用法で「-な/-の」のゆれを示すも のであるが、そのゆれを標記する辞典は一般に少なく、殆どが形容動詞か形容 動詞兼名詞と注記している。しかし『岩波国語辞典 第六版』(2000)は、形容 動詞と認める規準20は明確に示される上に、「-の」の形がある場合も記されてい る。よって(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞を確認するには、これが最も適している 資料であると思われる。

さらに『角川必携国語辞典』(2007)を合わせて参考し、(Ⅳ)第二形容詞/第 三形容詞は表 2-3 で示すように判定することができるだろう。

表 2-3 (Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞の判定基準

語例 『角川必携国語辞典』 『岩波国語辞典 第六版』 村木(2012)

重大 形動 名(ナ・ノ)21 (Ⅳ)

有力 形動 ダ(ナ・ノ)22 (Ⅳ)

独特 名・形動 ダ(ナ・ノ) (Ⅳ)

幸運 名・形動 名(ナ・ノ) (Ⅳ)・名詞

誠実 名・形動 名、ダ(ナ・ノ) (Ⅳ)・名詞

20 『岩波国語辞典』では、次の規準に合うものだけを形容動詞と認め、「ダ(ナ)」と注記した。

(1)「-に」の形が広く(「なる」「する」だけでなく)動詞に対して副詞と同様の連用修飾の働 きをすること。

(2)連体修飾語となる時の形が「-な」であること。

(3)「だろ・だっ・で・に・だ・な・なら」の活用語尾が、原則としてそろっていること。

21 『岩波国語辞典』では、注釈 25 で述べた基準(2)と(3)に合うが、基準(1)に合わない ものを形容動詞と認めず、名詞とした。「名(ナ・ノ)」と注記した。しかし、村木新次郎(2012)

では、このような語を(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞と見なした。

22 『岩波国語辞典』では、注釈 25 で述べた三基準に該当するほか、連体修飾語となる時には「-

の」「-な」どちらの形もあるものを「ダ(ナ・ノ)」と注記した。 しかし、村木新次郎(2012)

では、このような語を(Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞と見なした。