第四章 考察と分析
4.1 日本語において形容詞の用法が見られるグループ
4.1.1 意味合い
このグループに属するタイプは【A】~【I】の 9 タイプあり、計 129 語ある。
以下は順を追って考察する。
【A】 [中]形容詞 →[日](Ⅱ)第二形容詞 24 語
【B】 [中]形容詞 →[日](Ⅱ)第二形容詞・名詞 25 語
【C】 [中]形容詞 →[日](Ⅲ)第三形容詞 7 語
【D】 [中]形容詞 →[日](Ⅱ)第三形容詞・名詞 3 語
【E】 [中]形容詞 →[日](Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞 19 語
【F】 [中]形容詞 →[日](Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞・名詞 33 語
【G】 [中]形容詞 →[日](Ⅳ)第二形容詞/第三形容詞・名詞・動詞 2 語
【H】 [中]形容詞 →[日](Ⅴ)規定用法のみの形容詞 15 語
【I】 [中]形容詞 →[日](Ⅴ)規定用法のみの形容詞・動詞 1 語
後述の考察では、各タイプに属する語に対し、「分類語彙表」を用い、意味的 範疇がより広い概念から順に、部門・中項目・分類項目の所属を調べ、表にま とめる。32意味の所属の表記は[ ]を部門、< >を中項目、( )を分類項目と 表す。他のタイプにおいても同じ表記で記す。
【A】[中]形容詞 →[日](Ⅱ)第二形容詞(24 語)
中国語では形容詞に属し、日本語では(Ⅱ)第二形容詞に属する【A】タイプは 24 語ある。「分類語彙表」において、各語の意味所属は部門別により、以下の表 [A]-1、表[A]-2、表[A]-3、表[A]-4 に分けてまとめる。
32 「分類語彙表」によると、分類番号の整数位にあたる体・用・相の各類の中に、大きな意味 的まとまりとして、「抽象的関係」、「人間活動の主体」、「人間活動-精神及び行為」」、「生産物及 び用具」、「自然物及び自然現象」という五つの部門が設けられ、小数点以下一けた目の数字で表 される。(順を追って 1、2、3、4、5 という数字を五つの部門にあてる)各部門はさらに中項目 と分類項目によって細分される。本研究は調査にあたって、各タイプの意味的範疇の傾向を見出 すため、整数位にあたる類を考慮に入れず、語の分類番号の小数点以下一けた目の数字から記す ことにする。
表[A]-1 部門 1[抽象的関係](8 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 円満 .1346(難易・安危)
.13<様相>
2 簡易 .1346(難易・安危) 3 簡単 .1346(難易・安危) 4 強烈 .1400 (力)
.14<力>
5 猛烈 .1400(力)
6 敏感 .1612(毎日・毎度) .16<時間>
7 円滑
.1500(作用・変化)
.1520(進行・過程・経由)
.15<作用>
8 温和 .1915(寒暖) .19<量>
部門 1[抽象的関係]に属する語は 8 語あり、「円満」「簡易」「簡単」「強烈」
「猛烈」「敏感」「円滑」「温和」である。中項目から見ると、<様相>、<力>、
<時間>、<作用>、<量>の五種類に分けられるが、<様相>と<力>に属 する語は比較的多い。特に<様相>に属する 3 語はいずれも(難易・安危)と いう意味を表している。
表[A]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](14 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 痛切 .3001(感覚)
.30<心>
2 曖昧 .3068(詳細・正確・不思議) 3 厳密 .3068(詳細・正確・不思議) 4 頻繁 .3000(心)
5 巧妙 .3421(才能)
.34<行為>
6 頑固 .3420(人柄) 7 軽率 .3420(人柄)
8 強硬 .3430(行為・活動)
.34<行為>
9 大胆 .3430(行為・活動) 10 勇敢 .3430(行為・活動)
11 盛大 .3300(文化・歴史・風俗) .33<生活>
12 謙虚 .3680(待遇・礼など) .36<待遇>
13 率直
.3100(言語) .3420(人柄)
.31<言語>
.34<行為>
14 豪華
.3300(文化・歴史・風俗) .3790(貧富)
.33<生活>
.37<経済>
部門 3[人間活動-精神及び行為]に属する語は 14 語あり、「痛切」「曖昧」
「厳密」「頻繁」「巧妙」「頑固」「軽率」「強硬」「大胆」「勇敢」「盛大」「謙虚」
「率直」「豪華」である。これは部門 1[抽象的関係]に属する語よりほぼ二倍 弱になっている。中項目から見ると、<心>、<行為>、<生活>、<待遇>、
<言語>、<経済>の六種類に分けられる。その中で、<心>と<行為>に属 する語は比較的多い。前者は(詳細・正確・不思議)という意味に、後者の意 味は(人柄)と(行為・活動)という意味に集中するように見られる。
表[A]-3 部門 1/3[抽象的関係][人間活動-精神及び行為](1 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 奇妙
.1331(特徴)
.3068(詳細・正確・不思議)
.13<様相>
.30<心>
表[A]-4 部門 1/3/5[抽象的関係][人間活動-精神及び行為][自然物及び 自然現象](1 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 柔軟
.1500(作用・変化) .3680(待遇・礼など) .5060(材質)
.15<作用>
.36<待遇>
.50<自然>
表[A]-3 と表[A]-4 で示した「奇妙」、「柔軟」という 2 語は、複数の部門の意 味を持つ語である。「奇妙」は部門 1[抽象的関係]と部門 3[人間活動-精神 及び行為]に属し、「柔軟」はこの二つの他に、部門 5[自然物及び自然現象]
にも属している。しかし、中項目と分類項目から見ると、二つの語の所属は別々 であり、重なる部分はないという点では、何らかの傾向があるとは明確に言え ないであろう。
【A】タイプでは、部門 3[人間活動-精神及び行為]に属する語は部門 1[抽 象的関係]に属する語より大幅に上回っていることが見られる。また、語の意 味は<行為>、<心>、<様相>、<力>に集中し、細かく分けると(行為・
活動)、(人柄)、(詳細・正確・不思議)、(難易・安危)、(力)が挙げられる。
【B】[中]形容詞 →[日](Ⅱ)第二形容詞・名詞(25 語)
中国語では形容詞に属し、日本語では(Ⅱ)第二形容詞・名詞に属する【B】タ イプは 25 語ある。「分類語彙表」において、これらの語の意味所属は部門別に より、以下の表[B]-1、表[B]-2、表[B]-3 に分けてまとめる。
表[B]-1 部門 1[抽象的関係](12 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 多様 .1341(弛緩・粗密・繁簡)
.13<様相>
2 簡潔 .1341(弛緩・粗密・繁簡) 3 精巧 .1341(弛緩・粗密・繁簡) 4 単純 .1341(弛緩・粗密・繁簡) 5 複雑 .1341(弛緩・粗密・繁簡) 6 優美 .1345(美醜)
7 危険 .1346(難易・安危) 8 緊急 .1346(難易・安危) 9 単調 .1302(趣・調子)
10 直接 .1110(関係) .11<類>
11 正常 .1030(真偽・是非) .10<真偽>
12 露骨 .1210(出没) .12<存在>
部門 1[抽象的関係]に属する語は 12 語あり、「多様」「簡潔」「精巧」「単純」
「複雑」「優美」「危険」「緊急」「単調」「直接」33「正常」「露骨」である。中項 目から見ると、<様相>、<類>、<真偽>、<存在>の四種類に分けられる が、「直接」と「正常」と「露骨」という 3 語以外、ほかの 9 語はすべて<様相
>に属している。またこの 9 語の中で、(弛緩・粗密・繁簡)という意味を表す 語は最も多く、5 語で半数を占めている。
33 本研究で調査対象になっている 151 語の中で、日本語では(Ⅱ)第二形容詞・名詞・副詞とい う三重品詞を持つ唯一の 1 語である。しかし、「直接」の副詞の働きは後続の名詞を修飾するこ とには関わりを持たないと考え、便宜上この 1 語を独立の一タイプとして立てず、【B】タイプに 入れて考察することにした。
表[B]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](12 語)
った。【B】タイプにおいて部門 3[人間活動-精神及び行為]という意味を持つ ものは多義語がやや多いという可能性があるだろう。
表[B]-3 部門 1/3/5[抽象的関係][人間活動-精神及び行為][自然物及び 自然現象]1 語
番号 語例 分類項目 中項目
1 清潔
.1345(美醜)
.3334/.3330(保健・衛生) .5060(材質)
.13<様相>
.33<生活>
.50<自然>
【B】タイプにおいて複数の部門の意味を持つ語は「清潔」1 語のみである。
中項目から見ると、<様相>、<生活>、<自然>という三つの意味を有する。
全体的に言うと、【B】タイプの 25 語の意味合いは主に[抽象的関係]と[人 間活動-精神及び行為]という両部門に属していると言えよう。二つの部門に 属する語数も同じである。しかし、前者は語の意味から見ると<様相>に集中 し、すべて一義語であるが、後者は<心>に集中し、多義語がやや多いという 相違が見られる。
【C】[中]形容詞 →[日](Ⅲ)第三形容詞(7 語)
中国語では形容詞に属し、日本語では(Ⅲ)第三形容詞に属する【C】タイプは、
基本的に文において主語や目的語になりにくい上、「の」を用いて後続の名詞を 限定することが原則となっている。【C】タイプに属する語は 7 語あり、その中 で「慢性」と「唯一」は中国語において一般形容詞ではなく、非述形容詞であ ることを、語例の前に * をつけて示す。(他のタイプにある非述形容詞に属す る語も同様に同じ表記で示す)
以下は、「具体」という語は「分類語彙表」に載っていないため、残りの 6 語 の意味所属を調べた結果は部門別により、表[C]-1、表[C]-2 に分けてまとめる。
表[C]-1 部門 1[抽象的関係](4 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 一流 .1101(等級・系列) .11<類>
2 一般
.1130(異同・類似) .1331(特徴)
.1940(一般・全体・部分)
.11<類>
.13<様相>
.19<量>
3 *慢性
.1330(性質) .1611(時機)
.13<様相>
.16<時間>
4 *唯一 .1940(一般・全体・部分) .19<量>
部門 1[抽象的関係]に属する語は 4 語あり、「一流」「一般」「慢性」「唯一」
である。中項目から見ると、<類>、<様相>、<量>に集中するように見ら れる。
表[C]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](2 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 驚異 .3002(感動・興奮) .30<心>
2 万能
.3421(才能)
.3852(扱い・操作・使用)
.34<行為>
.38<事業>
部門 3[人間活動-精神及び行為]に属する語は「驚異」と「万能」という 2 語である。中項目や分類項目から見ると、特に何かの意味に集中するようには 見られない。
【C】タイプは、[抽象的関係]に属する語が 4 語、[人間活動-精神及び行為]
に属する語が 2 語あるが、複数の部門の意味を持つ語はないということが分か った。また、一般形容詞の「一般的」「驚異的」などのように、(Ⅲ)第三形容詞 に接尾辞「的」がつくものもあるが、それに対して非述形容詞の「慢性」「唯一」
などには接尾辞「的」がつく可能性が低いと思われる。語例がやや少ないのは 否めないが、【C】タイプにおいて接尾辞「的」は一般形容詞につきやすく、非 述形容詞につきにくいという傾向があるのではないだろうか。
【D】[中]形容詞→[日](Ⅲ)第三形容詞・名詞(3 語)
中国語では形容詞に属し、日本語では(Ⅲ)第三形容詞・名詞に属する【D】タ イプは 3 語あり、いずれも中国語では非述形容詞である。「分類語彙表」におい て、各語の意味所属を部門別に、次の表[D]-1、表[D]-2 にまとめる。
表[D]-1 部門 1[抽象的関係](2 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 *日常 .1600(時間)
.16<時間>
2 *初歩 .1651(終始)
表[D]-2 部門 3[人間活動-精神及び行為](1 語)
番号 語例 分類項目 中項目
1 *全盛 .3790(貧富) .37<経済>
【D】タイプに属する「日常」「初歩」「全盛」3 語は(Ⅲ)第三形容詞の働きが ある他に、「-が」「-を」の形をとり主語や目的語になるという名詞たる機能 も持っている。
その中で、「日常」「初歩」はともに部門 1[抽象的関係]に属し、中項目では
<時間>に属している。(Ⅲ)第三形容詞に属する【C】タイプの「慢性」と合わ せてみると、中国語では非述形容詞に属する語で、日本語では(Ⅲ)第三形容詞 の品詞性を持つものは、<時間>に関わる意味を持つものが多い可能性がある
<時間>に属している。(Ⅲ)第三形容詞に属する【C】タイプの「慢性」と合わ せてみると、中国語では非述形容詞に属する語で、日本語では(Ⅲ)第三形容詞 の品詞性を持つものは、<時間>に関わる意味を持つものが多い可能性がある