一般の研究史では、中国と日本の喫茶文化の変遷にとどまるのが多いが、製茶方につ いて研究がまだ少ない。ここでの中国と日本の製茶の違いについてさらに追求していき
67 碾茶とは、よしず棚など茶園を覆い、直射日光を避けて栽培し、うま味を増やし苦味を抑えて育てた高級 茶。蒸した葉を揉まないで乾燥したもの。
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たいと思う。
中国の釜炒り茶と日本の蒸し製煎茶が「泡茶」の飲む方式に適しているが、製茶法の 違いによって茶の風味も大きく左右される。現在中国の茶製法として、すべて釜炒り茶 であるが、前述したように各時代の製茶法には違いがある。唐の時代の餅茶と宋の抹茶 は蒸し製法が一般的であったが、宋代半ばごろから釜炒り製法に変わっていき、明の時 代になると、釜炒り製法が主流になって普及していった。釜炒り製法は、茶の葉を釜で 炒ってから、釜から取り出さず手で揉んで三回ほど繰り返して、最後に釜で炒り、乾燥 させる製法である。製造時間が長くかかるが、茶の味が長持ちすることが釜炒り茶製法 の優れた点である。 ここで、小林幸夫先生から中国茶と日本茶のサンプルを頂き、こ68 れを機に中国茶と日本茶の相違を究明したい。まず、中国緑茶の包種茶新品と開封済み で9年経った包種茶と対比してみよう。
外観として、図1の包種茶新品の色はまだ濃いめの緑色で、香りも強く、これに対して 図2の包種茶は新品より緑色が薄くなり黄色みを帯びた茶色になってしまい、茶の葉自 体も縮んで香りも新品ほどに強くはないが、それぞれ熱湯で注いで飲んでみると、
68 『煎茶全書』(主婦の友社、1976)193~198頁。
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図3 包種茶新品 図4 九年経った包種茶
包種茶新品は熱湯を入れても茶の湯が依然として緑色で甘みがあり、古くなった包種茶 は熱湯を注いだあと、図3の新品と違って茶色になってしまったが、包種茶独特の甘み は9年経っても劣ることはない。同じく釜炒り製法で作られた烏龍茶新品(図5)は、
外観として包種茶新品と同じく濃いめの緑色で香りも強い。熱湯を注ぐと(図6)、味 として甘みがあり、水色は黄白色である。
図5烏龍茶新品 図6お湯を注いだ状態
しかし開封してかか3年が経った烏龍茶(図7)と比べてみると、
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図7 開封済で3年が経った烏龍茶 図8 お熱を注いだ状態の烏龍茶
3年経った烏龍茶でも香りが依然として強いが、味として少々苦みが出ている。以上の ように、釜炒りによる殺青は、茶の品質の劣化を緩やかにするができるといえよう。
これに対して、鎌倉時代以降の日本抹茶と近世煎茶はいずれも蒸し製法が主流であ る。商品として出回っている現代の日本煎茶は、前述した「揉み」という工程の上に宇 治製法を導入して出来上がったものである。 ここで蒸し製法で作られた日本煎茶新品69
(図9)と未開封で10年が経った煎茶(図10)を対比してみよう。
図9 日本煎茶新品 図10 未開封で10年が経った日本煎茶
煎茶が開封されて10年が経ったら色が褪せ、香りとして海苔に似た匂いが一段と濃く なる。それぞれ沸騰したお湯で入れて飲んでみると、
69中村羊一郎『茶の民俗学』(名著出版、1992)203頁。
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図11 お湯で注いだ状態の日本煎茶新品 図12 未開封で10年経った日本煎茶のお湯を注いだ状態
水色として、新品は鮮やかな緑色で10年が経った煎茶が黄色みを帯びた緑色になって しまい、沸騰したお湯で注いだため、味としてはいずれも苦い味がする。ちなみに、開 封してわずか一年が経った日本煎茶(図13)でも、新品と違ってすでに緑色でなくな り、同じく沸騰した熱湯で入れたため、苦みが残る味である。
図13 開封されて一年が経った日本煎茶 図14中国茶と日本茶の比較
包種茶と煎茶をあわせて比較してみると(図14)、製法の違いによって、品質の劣化 に関わっている。日本では、茶の発酵を止めるために蒸すことで茶の本来の緑色を維持 することができる反面、保存期間が短縮され品質の劣化を加速するのである。中国明・
清以降の茶は、釜炒り製法によって黄色みを帯びた茶色で、新鮮さとしては緑色の日本 茶に劣るが、品質として日本茶より長持ちであるのが利点である。また、淹れ方によっ て茶の味も大きく左右する。蒸し製煎茶は中国の釜炒り緑茶と違い、70度のやや温め
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の湯を注ぎ飲むことが特徴である。特にレベルの高い抹茶と煎茶には、日本人が好む茶 の風味を維持するために蒸す工程は必要不可欠である。釜炒り製の中国茶は熱湯で淹れ るのが一般的であるが、中国茶と同じ温度のお湯を日本茶に注ぐと苦みが一層強くなっ てしまう。中国茶と日本茶にはそれぞれの異なる淹れ方が存在していることを、当時の ヨーロッパ人が知っているか。続いて茶がヨーロッパに伝わってから、日本茶をどのよ うに認識しているかを中心に究明したい。