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第一章 序論
1.1 研究動機と目的
日常生活においては人と付き合う時、自分のミスや失敗によって相手から非 難されることもあれば、自分の非ではないと思うのに、非難を受け誤解される 場合もある。本研究では、後者の場合を「言われのない非難」と称する。ここ で言う「言われのない非難」の定義について、彭(1992)の定義を参考にし、
本研究では、言われのない非難を「自分が間違っていないと思うが、相手に怒 られた場合」と定義する。
近年、日本語教育の目標は正しいセンテンスを生成するという言語能力では なく、社会言語学的観点から適切なコミュニケーション能力を育成するという 考え方が圧倒的になってきた。コミュニケーション能力を育成するには、語用 言語学と社会語用論を含む語用論的能力を持つべきである。国際交流が盛んで いる現在、日本語学習者は母国でも日本でも実際の接触場面において、社会・
文化の違いや日本人に対して抱いているステレオタイプにより、言語を適切に 運用できないため、日本語母語話者に誤解され、円滑にコミュニケーションを とれない可能性がある。生越(1997)は、誤解や摩擦を避けるためには、言語 行動のパターンの違いなどを明らかにし、事前にその違いを教育することが欠 かせないと指摘している。
日本語学習者の言語行動の特徴を取り上げた研究について、その中で多くの 研究は「依頼」、「謝罪」、「断り」、「感謝」など、特定の言語行動に着目し、日 本語学習者による表現の特徴、母語からの影響などを明らかにしてきた。しか し、「言われのない非難」といった特定の場面に対する言語行動の研究は少な い。「言われのない非難」場面において、相手への誤解を解くことや人間関係 を修復することをしようとしても、不適切な表現を使うと、かえって好ましい
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人間関係が維持されない可能性がある。
言われのない非難場面の先行研究では、日本語と他言語による対照研究が中 心であり(池田1993、田中他 2004、呉 2004、阿部他 2006 等)、学習者を対象 とした研究はそれほど多くない(畑佐 2013、末田 2015 等)。台湾人日本語学 習者に関する研究は今のところ見当たらない。直塚(1985)は、日本人は自分 が悪いと思っていなくてもしばしば「すみません」と説明しており、更に、こ れは謝罪のことばというより、あまり深い意味をもたない、一種の挨拶である。
事の是非を話し合う前に、この挨拶をしておくと、相手の心証をよくすること ができ、しばしば事は穏便に解決すると述べている。学習者は日本語を勉強し、
日本の文化に触れる時、日本人は直接的な表現を避け、婉曲な表現を多用し、
また、謝罪や相手への配慮が多いという印象を持つ人が多い。しかし、このよ うな自分の間違いではない場合において、日本人の言語行動は本当に前述のよ うに当てはまるのだろうか。一方、言語構造や文化背景の相違によって、それ ぞれの国や民族の人が誤解に基づく非難への対処方法は異なると考えられる。
言語能力の不足や母語の社会文化と目標言語の社会文化の規範の違いにより、
日本での生活経験が短い学習者や日本人との交流が少ない学習者は不適切な 言語行動をとる可能性があると思われる。
そのため、本研究では、日本語母語話者(以下では「JNS」と呼ぶ)と台湾 人日本語学習者(以下では「JFL」と略す)を対象に、誤解や外的要因に基づ く言われのない非難に対する言語行動を考察する。「言われのない非難」場面 において JNS と JFL はどのように反応するか、どのような意味公式を用いる か、構成要素はどのように組み合わされているか、その状況に対してどのよう な意識を持っているか、また、社会的な要因(相手との親疎・上下関係)によ って対応を変えるかを明らかにしたい。誤解や外的要因に基づく言われのない 非難場面における JNS と JFL の言語行動の特徴と異同を捉え、日本語教育現
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場の指導に応用できればと考える。
1.2 本研究の構成
本研究は全部で五章で構成されている。各章の概要は以下のように示す。
第一章の序論では、研究動機、研究目的及び本研究の構成について述べる。
第二章では、まず、先行研究をめぐって、本研究で扱う「用語」の定義を述 べ、特に、「言われのない非難」はどのように定義するかを概観し、本研究で 扱う「言われのない非難」を定義する。続いて、「言われのない非難」に関す る先行研究を整理し、その問題点と本論の研究課題を述べる。
第三章では、本研究における調査概要の詳細を説明する。また、先行研究を 参考にし、本研究で用いる意味公式及びその分析方法を説明する。
第四章では、調査結果を分析して考察する。
まず、「日本語母語話者」の言語行動の特徴に集中し、「言われのない非難」
の2 つの場面において、「親疎関係」と「上下関係」による意味公式の選択と 構成要素の使用状況を述べる。
次に、「台湾人日本語学習者」の言語行動の特徴に焦点を絞り、「言われのな い非難」の2 つの場面において、「親疎関係」と「上下関係」による意味公式 の選択と構成要素の使用状況を表す。
それから、日本語母語話者と台湾人日本語学習者の間では「言われのない非 難」場面における「親疎関係」と「上下関係」による意味公式の選択と構成要 素の使用を比較し、両者の異同を捉える。
更に、日本語母語話者と台湾人日本語学習者はそれぞれ言われのない非難に 対する意識の結果を整理する。
最後に、日本語母語話者と台湾人日本語学習者はそれぞれ「人間関係」によ る言語行動の変化を考察し、この章をまとめる。
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第五章では、本研究の結論、教育への提案及び今後の課題について述べる。