第二章 先行研究
2.1 本研究における用語の定義について
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第二章 先行研究
本章では、本研究で扱う用語を定義し、また、本研究に関する先行研究を整 理し、その問題点を提示してから、研究課題を具体的に述べる。
2.1 本研究における用語の定義について
まず、「言われのない非難」の定義について言及した先行研究は、彭(1992)、
田中他(2004)、呉(2004)、平川他(2010)などがある。彭(1992)は「相手 が何かのことで叱ったが、自分が間違っていないと思う場合」と定義している。
田中他(2004)は「相手への誤解や第三者または外的要因によって引き起こさ れた状況に怒られた時の反応」と定義している。呉(2004)は「思いがけない 非難」と名付けている。呉(2004)は彭(1992)と田中他(2004)について、
定義が明確にされていないと指摘し、「思いがけない非難」を「自分への誤解、
またはコントロールができない外的環境によって、相手が自分に対して不満を 表明すること」と改めて定義している。一方、心理学研究の領域には、誤解に 基づく非難を扱った研究も見られる。例えば、平川他(2010)は「言われのな い非難」を、「身に覚えはないにもかかわらず、相手や第三者の被った不利益 の原因は自分にあるとみなされて、相手から受ける言われのない非難」と定義 している。
本研究では、彭(1992)の定義を援用し、「言われのない非難」を「自分が 間違っていないと思うが、相手に怒られた場合」と定義し、考察・分析をして いく。
次に、本研究で扱う「意味公式」の定義について、Olshtain & Cohen(1983)
は「特定の意味的基準やストラテジーを満たす単語、句、文から成る単位で、
単体でまたは複数を組み合わせて行為の遂行に用いられるもの」と述べている
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(清水(訳)2009)。藤森(1995)は「異文化間の発話行為の具現化のパターン を比較するのに適した最小機能単位」と定義している。
藤森(1995)の定義によると、「意味公式」は発話行為を分析するにあたっ て重要な単位であり、特に異文化間の発話行為を比較するのに適していること がわかる。一方、Olshtain & Cohen(1983)は「意味公式」の単位を定めたもの である。前述の先行研究の定義を参考に、本研究では、「意味公式」を「異文 化間の発話行為を比較するのに適している単語、句、文から成る最小機能単位」
と定義する。
最後に、本研究では、分析するにあたって必要となる概念である「構成要素」
を、「意味公式の組み合わせ方」と定義する。
2.2 「言われのない非難」に関する先行研究
言われのない非難に関する先行研究では、主に「相手誤解場面」(不満を言 っている人の方に主な責任があろうと思われる場面)と「外的要因場面」(誤 解は主に外的要因によるものであろうと思われる場面)という2 つの場面に対 して調査を実施した。
言われのない非難に関する先行研究では、彭(1992)、池田(1993)、田中他
(2004)、呉(2004)、阿部他(2006)、大浜(2011)、畑佐(2013)と末田(2015)
がある。以下、それぞれの研究を紹介していく。
彭(1992)は多肢選択質問法で、相手誤解場面を取り上げ、日本人大学生と 中国人大学生は謝罪表現にどのような社会的要因(先生、同級生、上司、同僚、
家族)が関与しているかを考察した。結果として、日本人は中国人より疎の関 係にある人、社会的上位者(先生、上司)に対する場合、謝罪する傾向が強い と指摘している。
池田(1993)は談話完成テストで、日本人大学生とアメリカ人留学生を対象
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に、相手誤解場面における対照研究を行い、上下関係により謝罪表現と意味公 式の組み合わせについて分析した。結果としては、「謝罪の使用」について、
日本人はアメリカ人より少ない。また、日本人は目上に対する場合では謝罪表 現を単独で使ったり、責任承認とともに使うことが多く、同等に対する場合で は「約束、三時じゃなかった?」のように、断定を避けて謝る事柄を問題視す る場合が多いと指摘している。
田中他(2004)は日本語母語話者と英語母語話者1を対象に、談話完成テスト と意識調査で、相手誤解・外的要因場面における日英の謝罪表現を考察した。
結果として、相手誤解場面では、日本語母語話者は英語母語話者より、謝罪表 現の使用率がずっと低い。一方、外的要因場面では、日本語母語話者は英語母 語話者より、謝罪表現の使用率が高いことがある。
呉(2004)は談話完成テストと意識調査で、日本人と台湾人(社会人、学生)
を対象にし、相手誤解・外的要因場面における親疎関係(会社の人、客)によ って用いられる意味公式の使用順序を観察して対照研究を行った。結果として は、相手誤解場面において日本人は親疎を問わず、【責任の所在の曖昧化】を 一番多く用いるのに対し、台湾人は親しい相手に対する場合では【責任拒否】
を一番多く用いるが、親しくない相手に対する場合では【直接謝罪行為→責任 拒否】を一番多く用いる。一方、外的要因誤解場面において日本人と台湾人が ともに、親疎を問わず、【直接謝罪行為→原因の説明】の使用が一番多い傾向 がある。また、台湾人は相手との親疎の度合いによって異なる言語行動をとる と述べている。
阿部他(2006)は、日本人(学生と社会人)と中国人(学生)を対象に、談 話完成テストと意識調査で、相手誤解・外的要因場面において日中の謝罪表現 を比較した。結果として、【明確な謝罪】の使用割合には、相手誤解場面でも
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外的要因場面でも中国のほうが高い。意味公式から見た結果について、相手誤 解場面では、日本人は【明確な謝罪】をあまり使わなく、【相手の責任に言及】
を多く使う傾向が見られ、中国人は【責任回避の弁明】を多く使う傾向が見ら れた。一方、外的要因場面では、両者は【責任回避の弁明】の使用が多くなり、
中国人は【責任承認】の使用が少なくなると指摘している。
大浜(2011)は日本人学生を対象とし、談話完成テストで、相手誤解場面に おける上下関係(先生と友人)により意味公式の使用と謝罪表現の差異を明ら かにした。結果としては、意味公式の使用から見ると、目上に対する場合にお いてより多いのは【約束時間に言及】と【確認要求】で、同等に対する場合に おいてより多いのは【謝罪】と【責任追及】である。謝罪表現の差異から見る と、日本人は同等よりも目上の人に謝罪が少ない。また、他の先行研究(田中 他(2004)、阿部他(2006))と比べると、相手誤解場面において本研究での日 本人は謝罪をする人の割合が少ないと指摘している。
畑佐(2013)は英語を母語とする日本語学習者を対象にし、談話完成テスト で相手誤解場面における上下・親疎関係により意味公式と表現形式の異同を調 査した。結果として、英語を母語とする日本語学習者は自分の立場を表明する 傾向が強く、自己の立場や事実を示すために、言い切り表現(平叙文)を用い て明示している。また、目上や疎遠な相手に対する場合では、謝罪をしたり、
相手の主張を容認したりする傾向があると指摘している。
末田(2015)は相手誤解・外的要因場面を取り上げ、談話完成テストと意識 調査で、日本人学生と留学生2の言語行動を上下関係による特徴を比較して考 察した。結果として、「謝罪表現」の使用割合について、全体的から見ると、
相手誤解場面では留学生が一番多いが、外的要因場面では日本人学生が一番多 い。また、日本人学生と留学生がともにその 2 つの場面における「謝罪表現」
2 在日期間が半年以上の中国、韓国、タイ、台湾、カナダ等の国からの学習者である。
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の使用割合は、目上に対する時は同等に対する時より多い。一方、言語行動の 特徴について、相手誤解場面において日本人学生は、目上に対して【責任追及・
否定】、【正当性の主張】、同等に対して【確認】、【働きかけ】を多く使うのに 対し、留学生は、目上に対して【呼びかけ】、同等に対して【謝罪】、【責任承 認】を多く使う。外的要因場面において全体としては主に【謝罪】と【説明】
が使われており、日本人学生と留学生との違いは見られなかったという結果が ある。また、先行研究に比べると、この調査では、日本人の謝罪表現の使用が 少ないとは言えないと指摘している。
以上で述べたことを表1 にまとめる。
表1 は「言われのない非難」に関する先行研究の一覧表である。