日本における産業集積政策の運用
について
―阪神・淡路大震災の復興政策と
特区制度を事例に―
陳
正 達
(台湾・実践大学高雄キャンパス国際貿易学科助理教授)【要約】
近 年、日 本の 地域産 業政 策、と りわ け産業 集積 政策、 特区 制度に に 関する態度 と運用は根 本的な変化 を遂げた。政策は国土 の均衡 あ る 発展、地域 間格差解消 等を目標に 、生産機能 の地方分散 や特定 産 業 への支援を 行うという 従来の国家 主導型から 、地域・民 間主導 型 へ と転換した 。阪神・淡 路大震災後 、特区制度 の成立、運 用はま さ に 日本の地域 産業政策の 転換を先取 りするもの であり、新 産業の 創 出 、国内外企 業の誘致を 通じて当該 地域におけ る産業集積 の形成 を 加速させることが最も重要な政策課題となる。 本 稿は阪 神大 震災後 の復 興政策 、経 済復興 プロ ジェク ト、 特に地 域の 産業集積政 策に密接に 関わる特区 制度の運用 を中心に考 察した 。 兵 庫県、神戸 市は広く産 官学の共同 参画を求め 、特区の設 立によ る 国内外企業のポートアイランドへの進出誘致を通じて IT、運輸・通 信 、医療等の 先端戦略産 業の研究・ 開発、生産 、流通機能 の集積 を 促 進した。こ の中で、エ ンタープラ イズ・ゾー ンと医療産 業都市 構 想は最も成功した産業集積の事例であるといえる。 キ ーワ ード: 阪神・淡路大 震災、特区 、地域産業 政策、産業 集積 、 エンタープライズ・ゾーン、医療産業都市構想一 はじめに
戦後最大の被害をもたらした東日本大震災の発生から約 2 年近く が 経過した。 被災者の生 活支援、瓦 礫の撤去、 倒壊家屋の 処理と い っ た応急措置 が一段落す るなか、被 災地を含む 東北地方の 本格的 な 経 済・産業の 再建が今後 の課題とな っている。 これに際し 、地域 の 特 性を生かし 、かつ実効 力ある推進 体制を築く ことが不可 欠であ る ことは言うまでもない。2011 年 7 月に打ち出された復興基本方針、 12 月に成立した東日本大震災復興特別区域法、そして 2012 年 2 月に 発 足された復 興庁をもっ て、再建に 向けた本格 的な政策基 盤は漸 く 整 備された。 注目すべき は、復興特 区および復 興産業集積 地域の 指 定 に基づく産 業集積の促 進が、これ ら復興政策 の核心に据 えられ て いることである。 特 区制度 の運 用を通 じ産 業集積 の促 進を図 ると いう構 想は 、むろ ん 今回の東日 本大震災を 機に初めて 提起された ものではな い。こ の 制 度は既に阪 神・淡路大 震災(以下 、阪神大震 災)の復興 政策に 導 入 されている 。その経験 より特区制 度の効果は 非常に高く 評価さ れ て おり、今回 の復興戦略 でもまたそ の積極的な 導入、推進 が期待 さ れ る。よって 、東日本大 震災の復興 政策の分析 ・評価には 阪神大 震 災 の経験、と りわけその 復興政策、 特区制度の 枠組み、効 果など を 検討することが極めて重要な課題となる。 本 稿の構 成は 以下の とお りであ る。 まず次 節に て、産 業集 積の概 念 と先行研究 の整理を行 う。続く第 三節では戦 後日本の地 域産業 政 策 及び産業集 積政策の展 開を、時期 ごとに三段 階に分け概 観し、 阪 神 大震災の復 興政策を策 定段階から 検討する。 第四節では 特区制 度 の 中核となる エンタープ ライズ・ゾ ーンと医療 産業都市構 想とい う 二つのプロジェクトの展開と成果を検討する。二 産業集積の概念と先行研究
近 年、産 業集 積の発 展が 関心を 集め 、産官 学の 各領域 で様 々な検 討 が行われて おり、その 論点が多面 化している 。また研究 の対象 も 単 に企業レベ ルのみなら ず、地場産 業問題、あ るいは産業 政策論 へ と広がりを見せている。 産業集積の概念は古くはマーシャル(Marshall, Alfred)に遡る。周 知 のように、 マーシャル は地域的な 産業集積現 象に最も早 く着目 し 理論化を試みた。その主著『経済学原理』第10 章において、地域的 な産業集積を「外部経済の見られる典型事例」として挙げ1、また地 域 的 な 産 業 集 積 に よ り も た ら さ れ る 外 部 経 済 の 効 果 を 重 視 し 、「 あ る 特定の地区 に同種の小 企業が多数 集積する」 産業を「地 域特化 産 業」と位置づけた2。マーシャルの見解によれば、同一産業に属する 複 数企業があ る地域に集 積すると、 持続的な労 働市場が形 成され 、 関 連産業が成 立し、情報 が速やかに 交換される 。また外部 経済化 を 通 じて分業が 成り立ち、 さらに規模 の経済性等 が得られる 。この 一 環した現象が産業集積のメリットとされる。 産 業経済 の視 点から みれ ば、マ ーシ ャルの 産業 集積論 は旧 来的な 大 量生産方式 による規模 の内部経済 と異なり、 外部経済論 や産業 の 分 業論とも言 える。また その重点は 産業集積と いう生産シ ステム の 優 位性に置か れるため、 換言すれば 産業集積を 維持、発展 させる メ カニズムに関する理論である。 またマーシャルは産業集積のメリットに関し、以下の 3 点を指摘 する。1.産業の集積によって形成される専門的技術や技能がいわゆる1 マーシャル、アルフレッド『経済学原理』(Principle of Economics)馬場啓之助訳(東 洋経済新報社、1966 年)、249 ページ。 2 同上、249~251 ページ。
「 生活の知恵 」や内外の 普遍的知識 との幅広い 交流を通し 、当地 の 共通資産となる。2.産業集積の中心地域は様々な中間財、資本財を安 価で容易に入手しうる。3.共通資産、また産業の中心地域に持続的な 労 働市場の形 成が生じれ ば、産業集 積の外部経 済が充分に 働き、 収 獲逓増が期待できる3。 1990 年代以降経済のグローバル化が進むなか、国際競争の激化、 産 業の空洞化 といった問 題が顕著と なり、産業 集積の形成 が産業 発 展上の新たな課題となった。この間、クルーグマン(Krugman, Paul) やポーター(Porter, Michael E.)といった新世代の研究が注目を集め、 日 本の産業集 積研究なら びに後述の 地域産業政 策の策定に も多大 な 影響を与えた4。 ク ルーグマン は前述した マーシャル の外部経済 概念を継承 しつつ 、 外 部経済=収 獲逓増の概 念を取り込 んだ国際貿 易論、景気 循環論 な ど1980 年代の新しい経済学説を用い、地域特化による外部経済と地 域 間貿易との 関係を検証 した。それ によれば、 多様な企業 がある 特 定 の地域に立 地する場合 、企業間ネ ットワーク を通じてイ ノベー シ ョ ンが生じ、 専門家、企 業も地域に 共有され、 外部経済が 機能す る と される。ま たクルーグ マンは、複 数の中心地 と周辺地域 が存在 す る 場合、輸送 費が安く、 かつ規模の 経済性が大 きく、また 国民生 産 に おいて地域 集中化され ない生産の 比率が高い 状況では、 やがて 中 心地は一つに収斂する、という中心地理論も提起する5。
3 同上、252~257 ページ。 4 経済産業省の「産業クラスター」、文部科学省の「知的クラスター」等の国家的なプ ロジェクトはポーターのクラスター概念を取り入れたもの、との指摘がある。原田 誠司「ポーター・クラスター論について-産業集積の競争力と政策の視点-」『長岡 大学 研究論叢』第7 号(2009 年 7 月)、21 ページ。 5 クルーグマン、ポール『脱「国境」の経済学:産業立地と貿易の新理論』(Geography
ポ ー タ ー は 経 営 戦 略 の 観 点 か ら 、 産 業 の ク ラ ス タ ー (Industrial Cluster)を「ある特定の分野における、相互に結びついた企業群と 関 連する諸機 関からなる 地理的に近 接したグル ープであり 、これ ら の 企業群と諸 機関は、共 通性と補完 性によって 結ばれてい る」と 定 義する6。この見解によれば、クラスターとはある特定の分野におい て 商品の生産 ・物流・販 売サービス を提供する 企業、なら びに関 連 す る教育・研 究・行政の 諸機関が集 積する状態 を指す。即 ち、産 業 の 競争優位は 特定の単一 産業におい て生じるの でなく、む しろ相 互 に 結びついた クラスター 全体で生ず ることを意 味する。こ の場合 、 ク ラスターの 中核的産業 が競争優位 に立ち、周 辺の関連・ 支援産 業 との相乗効果で一層深みのある産業構造が形成される。 ポーターは 、特に経済 のグローバ ル化におけ る地域の役 割や国 際 競 争の特性に 注目、個々 の企業レベ ルの競争の みならず国 家の競 争 力においてもまた、産業「立地の役割(Role of Location)」が重要な 条 件であるこ とを示した 。またこの 立場から、 産業集積を 促進す る 「 経済政策の 権限は本質 的に中央政 府ではなく 地方自治体 の手に あ るべき」、と主張した7。 これら欧米 の研究状況 に比べ日本 は遅れをと り、産業集 積の政 策 化に関する議論はようやく1990 年代以降になり興隆をみせた。こう した背景には、1990 年代の経済不況が深刻化し、日本経済を再び成
and Trade)北村行伸・高橋亘・妹尾美起訳(東洋経済新報社、1994 年)。 6 ポーターのクラスター概念を受けて、日本でも「産業クラスター」という用語が頻 繁に使用される。産業集積とクラスターの相違について、イノベーション面や企業 と研究機関との結びつきを重視する研究もあるものの、上述の定義からみられるよ うに、クラスターは本稿が検討する産業集積とほぼ同義と理解されよう。ポーター、 マイケル『競争戦略論Ⅱ』(On Competition)竹内弘高訳(ダイヤモンド社、1999 年)、 70 ページ。 7 同上、70 ページ。
長 軌道に乗せ ることが政 策上の緊急 課題となり 、産官学が こぞっ て 産業 空洞化対策 や地域産業 振興という 観点から産 業集積に着 目する 、 という状況に至ったことが挙げられる。 東 アジア の産 業経済 、工 業集積 を対 象に分 析す る関満 博は 、日本 の 近代工業化 の過程で形 成された、 国内に全て の産業、技 術を保 有 す る自己完結 型の「フル セット型産 業構造」に プロトタイ プ創出 機 能と量産機能という 2 つの機能があるとする。前者は東京圏等の先 進 地域を中心 に、新製品 の開発、研 究開発機能 等の特性を 示し、 ま た後者は「発展途上国的性格」を帯びる地方圏を拠点に、「確立され た技術、設備による成熟商品の量産」的機能を示す8。この地方圏の 量産機能は、現在の用語で言えば「地方の産業集積」と表現しうる。 1990 年代以降、日本企業の海外進出により「フルセット型産業構造」 が 急速に解体 され、また 「成熟商品 の量産機能 」と産業の 基盤技 術 を もつ地方圏 は東アジア 諸国との競 争に直面、 衰退の一途 を辿る 。 こ れら地域産 業をめぐる 最大の危機 に対し、関 は、地方圏 では個 々 の 地域が特定 領域の技術 を集中的に 発展させ、 周辺地域と の連携 を 通 じて加工部 門の集積を 加速させる こと、また 政策面では 、東京 圏 の 成熟産業部 門を中心と した組織的 地方移転を 実施し、新 たな加 工 拠点を形成させることを提唱している9。 関と同様、清成忠男も日本では産業集積の解体が進行しつつある、 と の認識を持 つ。解体の 原因は地域 内分業から 、地域間分 業、国 際 間 分業が進み 自己完結性 を失いつつ あるためと される。清 成によ れ ば 、衰退しつ つある産業 集積を復活 させ経済力 を挽回する には、 研
8 関満博『フルセット型産業構造を超えて:東アジア新時代のなかの日本産業』(中公 新書、1993 年)、36、39~51 ページ。 9 同上、175 ページ。
究 開発やデザ インの拠点 の構築、周 辺地域に生 産のコアと なる機 能 を 創出させ、 産業界と研 究型大学の 連携を伴っ たプロダク トイノ ベ ー ションを引 き起こす必 要がある。 清成の言う コア機能と は、資 本 財、高機能部品の開発と生産を意味する。
三 日本の地域産業政策と阪神大震災後の経済復興戦略
本節では、まず日本の地域産業政策を1990 年代以降の産業集積政 策 との関連に おいて検討 する。続い て阪神大震 災の被災状 況を概 観 し 、兵庫県な らびに神戸 市の復興戦 略と経済復 興プロジェ クトを 考 察する。 1 日本地域産業政策と産業集積 産 業 政 策 の 定 義 は 従 来 よ り 必 ず し も 明 確 で は な い 。 そ の 政 策 目 的 ・手段の多 様性から、 単純な概念 化が困難で あることが その原 因 にある。本稿ではさしあたり産業政策を「産業間の資源配分や、個々 の 産業の私企 業によるあ る種の経済 活動の水準 を、そのよ うな政 策 が 行われない 場合とは異 なったもの に変えるた めに行われ る政府 の 政策を指す」10という小宮隆太郎の見解、ならびに地域主義的見地か ら 地域産業政 策を「地域 レベルでの 産業政策」 と定義した 清成忠 男 の主張11を採用し、地域開発に密接に関わる地域産業政策と産業集積 の展開を概観する。 戦後日本の地域産業政策は高度成長期の1960 年代に始まった。そ の展開過程は政策の目標に準じ、大まかに以下の3 つに区分しうる。 すなわち、1.高度経済成長期(1960~70 年代)の生産機能分散・誘10 小宮隆太郎『現代日本経済研究』(東京大学出版会、1975 年)、3~8 ページ。 11 清成忠男『地域産業政策』(東京大学出版会、1986 年)、1~9 ページ。
致期、2.石油危機以降(1980~90 年代中期)の内発的発展志向期、 3.地域競争力形成の促進期(1990 年代中期~現在)である。 1945 年の終戦から 1960 年代にかけ、日本は経済発展を政策の最優 先課題とし、既存の工業地帯(京浜、中京、阪神、北九州)の復旧・ 拡 大のみなら ず、新たな 工業地帯創 設へ向け集 中的な工業 化政策 を 実 施、これら 先進工業地 帯に一層の 工業集積が 進行する結 果とな っ た 。これに伴 い、農村か らの人口の 流入と集中 的な工場立 地によ る 過 密の弊害、 ならびに環 境破壊、地 域間の生産 性・所得格 差の拡 大 といった新たな社会問題が発生した。 こ れら問 題の 解決へ 向け 、大都 市へ の過剰 な集 中を抑 制し 、産業 の地方分散を推進することが政策の目標となった12。過密地域、とり わ け都市部で の工場、大 学の新設・ 増設を制限 し、地方に 工場を 新 設 ・移転する 事業者の支 援を目指し た各種の措 置、法令等 が制定 さ れた。「全国総合開発計画」(1962 年)、「工場等制限法」(1959、1964 年)、「工業整備特別地域整備促進法」(1964 年)、「工場再配置促 進法」(1972 年)、「工場立地法」(1973 年)などが挙げられる。この 時 期の地域産 業政策の重 心は、地方 の産業基盤 整備、とり わけ工 場 誘 致を通じた 産業集積の 形成にあっ た。この側 面からすれ ば、地 方 の産業振興とは即ち「工場誘致」と同義と言える。 石 油危機 以降 、日本 の重 化学工 業は 国際競 争力 を失い 、産 業の知 識 集約化、省 エネルギー 化への構造 転換を迫ら れた。その 結果、 地 域 産業政策は 従来の工場 誘致から、 産業のハイ テク化・情 報化と い っ た産業構造 の高度化に よる国際競 争力の強化 を目指すこ とを余 儀
12 吉村英俊「イノベーションの視点からみた地域産業政策の変遷と方途」吉村英俊編 『地域イノベーションの視点からみた北部九州地域の自立の方向性に関する研究』 (北九州市立大学、2007 年)、77 ページ、http://www.kitakyu-u.ac.jp/iurps/publication/03_ economy/2007/innovation_1.pdf。
なくされた。これら日本産業政策の方向転換に象徴される1980 年代 は「テクノポリス政策」の時代とも言える13。 こ の時期 の政 策課題 は先 端サー ビス 産業の 育成 ・集積 (民 活法) の みならず、 これまで過 度集中した 工場の地方 移転、産官 学の連 携 に より新技術 ・新製品の 開発、また 新規の起業 、地域の産 業集積 の 高 度化を促し 、地域経済 の発展(テ クノポリス 法)を図る ことに あ っ た。具体的 には「高度 技術工業集 積地域開発 促進法(テ クノポ リ ス法)」(1983 年)、「民活法・リサーチコア構想」(1986 年)及 び「頭脳立地法」(1988 年)の制定が挙げられる。 テ クノポ リス 政策は ハイ テク産 業集 積の典 型で あった シリ コンバ レ ーモデルの 日本への導 入であり、 地域産業集 積政策の原 点とも 言 える14。しかし、当時の日本にはアメリカのような研究型大学が存在 せ ず、また当 初の想定に 反し、産官 学の連携や 官僚・支援 組織間 の 協 調も充分に は機能せず 、結果、日 本のテクノ ポリス政策 は所期 の 成果を挙げるには至らなかった15。 バ ブルの 崩壊 後、周 知の ように 日本 経済は 長期 不況に 陥る 。経済 の グローバル 化、多国籍 企業の海外 進出が引き 金となった 東アジ ア 諸 国経済の台 頭、その競 争の激化に 直面したこ とで、既に 顕在化 し つ つあった産 業の空洞化 や競争力の 衰退といっ た状況への 危機感 は 一 層先鋭化す る。このよ うな状況の 下、産業集 積への政策 的関心 は 産業の空洞化への対処、地域産業の振興へと傾注するものとなった。 こ の時期の『 通商白書』 や『中小企 業白書』に おける産業 集積に 関
13 原田誠司「経済成長戦略と地域優位-『新しい産業集積』の形成へ-」『地域研究』 第8 号(2008 年)、79 ページ。 14 吉村英俊、前掲論文、77~78 ページ。 15 原田誠司、前掲論文「経済成長戦略と地域優位-『新しい産業集積』の形成へ-」、 79 ページ。
す る記述が際 立って多い ことも、政 策サイドに おける関心 の高さ を 物語っている16。 具体的には「中小企業集積活性化法」(1992 年)、「中小企業創造活 動促進法」(1995 年)、「地域産業集積活性化法」(1997 年)、「新事業 創出促進法」(1998 年、通称、地域プラットフォーム法)等の制定が 挙げられる。2001 年度より経産省の産業クラスター政策、文科省の 知 的クラスタ ー政策が始 動した。こ のうち特筆 すべき政策 は新事 業 創出促進法の成立である。同法は地域産業政策の策定・推進方式を、 従 来の国家主 導による資 源配分から 、地方自治 体主導への 転換を 促 す 。各産業支 援組織を統 合し、事業 計画の立案 から生産・ 販売ま で の 総合的支援 体制(地域 プラットフ ォーム)の 構築を地方 自治体 で 遂 行させるこ とにより、 優れた効率 化が図れる もの、とい う斬新 な 見地に立つ17。 2002 年の都市再生措置法の制定を契機に、特区制度の運用及びそ の 効果の見直 しが必要と なった。日 本政府は地 域活性化と 雇用創 出 を 促進するた めに、公平 性重視とい う従来の姿 勢を一変さ せる。 即 ち 構造改革特 区の設置を 従来とは対 照的に、積 極的に推進 する方 針 へ と転換した 。これをも って特区制 度の運用を 通じ産業集 積の形 成 を促進させるという構想が本格的な展開を開始する18。2006 年に策
16 例えば『中小企業白書』平成 6 年版では、産業集積の類型を大都市圏加工型、企業 城下町型、産地型に分け、各類型集積の分析を特集。『中小企業白書』の平成8 年版 と平成9 年版においても、「モノづくり基盤の衰退問題」にかかわる産業集積地域の 構造変化が検討されている。そのほか平成九年版の『通商白書』ではクルーグマン の見解に基づき、産業集積の基本要因や集積相互の連携について詳述している。 17 吉村英俊、前掲論文、79 ページ。 18 加藤恵正「国内外企業の立地推進」兵庫県『復興 10 年総括検証・提言報告』(復興 10 年 委 員 会 、 2005 年 )、 242 ペ ー ジ 、 http://web.pref.hyogo.jp/wd33/documents/ 000039157.pdf。
定され、今後10 年間の日本政府の基本方針として位置づけられた「新 経 済成長戦略 」とその政 策大綱の「 経済成長戦 略大綱」で は、地 域 産 業政策を成 長戦略を支 える「地域 活性化戦略 」と銘打ち 、産業 集 積の形成・活性化によって「地域の生み出す付加価値を増大」させ、 「 優良な雇用 機会」を確 保し、最終 的に「自立 的で競争力 の高い 地 域の実現を図る」19ことを提起、地域経済・産業の自立的発展を政策 の最優先課題に据えている。日本政府は「新成長戦略」を2010 年 6 月 に閣議決定 し、その中 で、いわば 「政策課題 の突破口」 として 国 と 地方の政策 資源を総合 的に集中し 推進するこ とを謳った 「総合 特 区」の創設を盛り込んだ。「総合特区」が認定された地域では、規制 緩 和、特例措 置や税制・ 金融優遇等 が実施され 、将来的に 経済成 長 の牽引役となる産業や企業の集積形成を図られる20。 こ の一連 の政 策・法 令制 定の背 景に は、経 済の グロー バル 化、国 際 市場での競 争激化とい う昨今の状 況において は、まさに 産業集 積 こ そ地域の競 争力及びそ の優位形成 の源泉であ る、との認 識が日 本 の 政策当局、 企業および 有識者に広 く浸透した ことにある 。従っ て 現 在の地域産 業政策の焦 点は、衰退 傾向が顕著 な地域産業 競争力 の 再 構築にあり 、これまで の政策不備 がもたらし た弊害の克 服、創 業 支 援、ベンチ ャー企業の 育成、また 支援組織の 再編を積極 的に推 進 し、新たな産業集積の形成と地域経済の振興を試みることにある。 こ のよう に、 日本の 地域 産業政 策は 抜本的 な変 化を遂 げた 。国土 均 衡発展、地 域間格差解 消等を目標 に、生産機 能の地方分 散や特 定 産 業への支援 を行うとい う従来の国 家主導型か ら、地域で の産業 空
19 原田誠司、前掲論文「経済成長戦略と地域優位-「新しい産業集積」の形成へー」、 80~83 ページ。 20 神戸市「関西の自治体との国際戦略総合特区共同申請」2011 年 9 月、http://www. city.kobe.lg.jp/information/press/2011/09/20110928040201.html。
洞 化対策、競 争力強化、 また地域の 自立的発展 という課題 に重点 を 置 き、地域で の新規産業 と雇用機会 を創出し、 多業種・異 分野の 産 業 発展を求め る、という 地域・民間 主導型へと 転換した。 後述す る 阪 神大震災後 に施行され た兵庫県と 神戸市の特 区制度では 、当時 の 認 識不足もあ り、政府サ イドの充分 な支援体制 が整わなか ったこ と も 事実である 。とはいえ 、阪神大震 災の復興問 題が日本地 域産業 政 策に おける転換 点となり、 その後「構 造改革特区 」、「 総合特 区」 の 創 出等といっ た一国多制 度を目指す 潮流を加速 させたこと が強調 さ れ るべきであ る。この意 味において 、兵庫県、 神戸市の「 特区」 制 度 と産業集積 政策は、ま さに今後の 日本地域政 策の先駆け に位置 づ け られるもの であり、そ の経験が東 日本大震災 後の「復興 特区」 制 度にも多大な影響を与えていることは疑いの余地がない。 2 震災概況と兵庫県・神戸市の経済復興戦略 1995 年 1 月 17 日、淡路島北部を震源地とするマグニチュード 7. 3 の阪神大震災が発生した。同地震は日本で初めての都市直下型地震 であり、死者が 6,402 人、建築物の倒壊が全半壊、焼損を合わせて 546,301 棟に及ぶ戦後最大の被害をもたらした(当時)21。国土庁(当 時)、兵庫県の推計によれば、被害総額は9.6 兆から 9.9 兆円にも達 した。その内訳は、被害金額全体の約 6 割に達した建築物等の被害 6.3 兆円、これに社会基盤施設の損失が続き 2.2 兆円、被害総額の約 22%を占めた。ライフライン施設、農林水産業等の被害は残りの 11.5 ~19.2%と計上された(表 1 を参照)。またこれら被害の発生した主
21 兵庫県『阪神・淡路大震災の復旧・復興の状況について』(兵庫県、2011 年)、1 ペー ジ、http://web.pref.hyogo.lg.jp/wd33/documents/fukkyu-fukko2012-12.pdf。
要地域は神戸市を中心とする兵庫県南部の旧10 市 10 町である22。と りわけ神戸市に損害が集中し、その被害は死者数の 71%、建築物損 害の64.8%(全壊)及び被害金額の 69.5%に及び、最大の被災地域と なった23。これらの事実を鑑み、ここでは神戸市の復興問題を中心に 検討する。 神 戸市の 震災 前の経 済状 況を概 観す れば、 伝統 的な港 湾部 門と重 化 学工業がこ れまで産業 構造の柱と なっていた 。石油危機 以降の 構 造 不況で主要 産業の生産 縮小が相次 ぐ事態とな るが、神戸 市はそ の 対応としてポートアイランド第1 期の「ファッションタウン」構想、 ハ ー バ ー ラ ン ド 第 1 期 の 開 発 や 神 戸 空 港 の 開 設 等 を 積 極 的 に 推 進 し、産業構造の抜本的転換を試みた。 表 1 阪神・淡路大震災の被害金額構成 項目 国土庁推計(1995 年 2 月) 兵庫県推計(1995 年 4 月) 被害金額 比率 被害金額 比率 建築物等 6.3 兆円 65.6% 5.8 兆円 58.6% ライフライン施設 0.6 兆円 6.3% 0.6 兆円 6.1% 社会基盤施設 2.2 兆円 22.9% 2.2 兆円 22.2% その他 農林水産 0.5 兆円 5.2% 0.1 兆円 1% その他 1.2 兆円 12.1% 総計 9.6 兆円 100% 9.9 兆円 100% (出典)内閣府政策統括官室『地域の経済 2011-震災からの復興、地域の再生ー』(国 立印刷局、2011 年)、第 2-2-1 表、http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr11/pdf/chr11_ zu2-2.pdf。
22 神戸、尼崎、明石、西宮、洲本、芦屋、伊丹、宝塚、三木、川西の 10 市と津名、淡 路、北淡、一宮、五色、東浦、緑、西淡、三原、南淡の10 町。 23 兵庫県、前掲資料、1~2 ページ、及び神戸市「阪神・淡路大震災 被災状況及び復 興への取り組み状況」(2012 年)、1 ページ、http://www.city.kobe.lg.jp/safety/hanshina waji/revival/promote/img/hisaijyoukyou240101.pdf のデーターにより計算したものであ る。
ま さにこ れら 新たな 試み の途上 に震 災が発 生し た。神 戸周 辺地域 に 立地する重 化学工業は 従来からの 不況で既に 自力で復旧 するだ け の 資金力を失 い、生産か らの撤退を 余儀なくさ れた。住友 ゴム工 業 の 神戸工場閉 鎖、川崎製 鉄のカラー 鉄板生産か らの撤退、 川崎重 工 業 の造船機能 の移転等が 挙げられる 。またこれ まで神戸経 済のお よ そ 4 割に寄与した神戸港と関連の部門は壊滅的打撃を受け、本格的 復旧までには2 年以上がかかると予想された24。地場産業のケミカル シューズ、淡路瓦も震災と風評被害で大幅な生産減少を強いられた25。 こ うした状況 の下で、兵 庫県と神戸 市の経済戦 略は更なる 抜本的 な 転換を迫られることとなった 図 1 は震災後の復興推進体制と主要な復興計画を示す。阪神・淡 路復興委員会の報告では、復興10 ヵ年計画は「地元が主体となり… …具体的に実施すべき施策をまとめたもの」であり、また「県、市、 町 がそれぞれ 主体的に実 現可能性の あるものと して策定」 された 復 興計画は「国としても承認しうるものである」と強調されている26。 上 述の提言に 従い、復興 計画の主導 は旧来の各 省庁から兵 庫県、 神 戸 市等の地方 自治体に委 ねられ、国 の役割は当 該計画の合 理性を 確 認し、資金・行政面から支援するのみに後退している。 ま た復興 計画 が長・ 中・ 短の三 期に 区分さ れる 。復興 本部 、推進
24 遠州尋美「阪神大震災と神戸経済」『日本福祉大学広報 NFU』49 号(1995 年)、42 ~45 ページを参照。 25 震災前(1994 年)と比較すると、ケミカルシューズの生産量は約 60%、淡路瓦の生 産量は20%以上減少した。塚本芳昭『阪神・淡路産業復興支援に係る事後評価書』(経 済産業省、2005 年)、3 ページ、http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286890/www.meti. go.jp/policy/policy_management/16fy-jigo-hyoka/hannsinnawaji/16fy-jigo-hannsinnawagi.p df。 26 提言 8-1~3。阪神・淡路復興委員会『阪神・淡路復興委員会 報告』(兵庫県、1995 年)、18 ページ、http://web.pref.hyogo.jp/wd33/documents/000037472.pdf。
会 議はこれま での取り組 みと成果に ついて横断 的な検証を 行った 上 で 、引き継ぐ べき施策の 内容、戦略 の方向を検 討・修正し 、さら に 次段階の計画を策定した。 図 1 阪神大震災の復旧・復興推進体制と主な復興計画 ( 出 典 )兵 庫 県『阪 神・淡 路 大 震災 の復 旧・復興 の 状況 に つ いて 』(兵 庫 県 、2011 年 )、3 ~ 5 ペ ー ジ 、 http://web.pref.hyogo.lg.jp/wd33/documents/fukkyu- fukko2012-12.pdf に基づき作成。
1998 年、インフラ、住宅、産業の復旧に関する「緊急復興 3 ヵ年 計 画」の終了 に伴い、阪 神・淡路震 災復興計画 推進委員会 が「創 造 的 復興への戦 略」という 総括提言を 行った。こ の提言の中 で、新 産 業 構造の形成 (環境・福 祉等の成熟 型新産業の 導入・育成 、情報 通 信関連産業の振興、起業家支援システムの充実、「新産業構造形成プ ロジェクト」の推進)、国際経済文化機能ネットワーク形成の促進(内 外 企業・国際 機関・国際 会議等の誘 致促進、国 際交流拠点 機能の 充 実)、神戸エンタープライズ・ゾーン構想の一層の推進等を含む総じ て 7 つの具体的な項目が提起された。これをベースに 1998 年 3 月、 兵庫県は新たに「阪神・淡路震災復興計画推進方策」を発表した27。 こ れをもって 兵庫県、神 戸市の産業 復興計画の 策定は完了 、主要 な 復興プロジェクトもほぼ出揃う形となった。 図 2 は兵庫県、神戸市の産業復興政策、経済復興プロジェクトで あ る。この図 が示すよう に、新規産 業創出に関 連する各プ ロジェ ク トの大半は、震災後、新たに開発されたポートアイランド第 2 期に 集 中する。当 初、東部新 都心の再開 発計画とし て提出され た「医 療 産 業都市構想 」も産業集 積の効果を 考慮して、 後に同地区 が追加 さ れ た。また地 場産業、中 小企業の援 助を除けば 、神戸市の 復興プ ロ ジ ェクトは医 療、ハイテ ク産業等の 育成から観 光、商業・ 国際通 商 拠 点の創設ま で、単純な 産業復興の 範疇を超え た多面的経 済振興 計 画 といえる。 戦略目標の 選定と資源 の集中配分 の視点から 見れば 、 神 戸市の戦略 は産業集積 の形成によ る地域経済 活性化、産 業の高 度 化 に重心を置 かれている ものの、計 画の方向性 があまりに 多面的 か つ 多岐に渡り 、成果を得 るまでにな お幾多の試 行錯誤が繰 り返さ れ
27 藤本建夫「震災からの産業復興の現状と政策的対応」藤本建夫編『阪神大震災と経 済再建』(勁草書房、1999 年)、58~59 ページ。
る こととなっ た。とりわ け「上海・ 長江交易促 進プロジェ クト」 と 「 神 戸 国 際 マ ル チ メ デ ィ ア 文 化 都 市 構 想 」(Kobe International Multimedia & Entertainment City、以下、KIMEC 構想)が当初、各界 か ら高く評価 されたにも かかわらず 、結局中途 で挫折した ことと な り、神戸の経済振興に大きな打撃を与えるものとなった。 図 2 兵庫県、神戸市の産業復興政策、経済復興プロジェクト ( 注 ) 太字 部分 は 神 戸市 と兵 庫 県 の復 興計 画 に おけ る共 通 項 目 ( 出 典)兵 庫県、前 掲資 料、9~10 ページ;神戸都市問題研究所・産業復興研究 会 、 前 掲資 料、153~154、164 ページより筆者修正整理。
「 上海・ 長江 交易促 進プ ロジェ クト 」は阪 神・ 淡路復 興委 員会の 提 言に基づき 復興特定事 業として選 定され、最 も早く展開 された プ ロジェクトの一つである(1996 年)。その目的は中国の長江経済圏と 阪 神経済圏を 結びつける こと、とり わけ上海の 国際金融セ ンター と 神 戸の発展を 連動させる 事を通じて 神戸経済の 活性化・国 際化を 推 進することにある28。しかし中国経済の成長に伴い長江地域の道路整 備 が急速に発 展するにつ れて、プロ ジェクトの 中核とされ た日本 専 用船 舶による直 接貿易に対 する中国側 の需要が予 想通りに増 加せず 、 ま た三峡ダム 開発におけ る日本企業 の受注が達 成されない 等、幾 多 の想定外の展開が生じた。これを受け2004 年より同計画の大幅な修 正が迫られるが29、もはや事態の改善は予想しえず、2012 年 3 月に 推 進組織であ った「神戸 ・阪神‐ 長江中下流域交流促進協議会」が 解散を決定するに至った30。 これに対しKIMEC 構想は郵政省(当時)の予算支援(136 億円) を 受け、デジ タル映像研 究所を中心 に、関連産 業の基盤整 備、デ ジ タ ル映像通信 の研究開発 、次世代総 合防災情報 通信ネット ワーク 研 究開発など、情報・通信分野の事業化を図るものである31。1997 年 か ら提起され 、なかでも マルチメデ ィア関連施 設を集積さ せる体 験 型 テーマパー ク建設を目 指す「キメ ックワール ド」計画は プロジ ェ ク の中核的存 在であった 。当初、川 崎重工業、 さくら銀行 (当時 )
28 神戸都市問題研究所・震災復興政策研究会「産業復興と神戸経済」『都市政策』第 87 号(1997 年)、153 ページ。 29 「検証 復興の 10 年」『神戸新聞』2004 年 5 月 12 日、http://www.kobe-np.co.jp/ rensai/10ykensho/01.html。 30 「日中の交流促進組織、解散へ 神戸に事務局」『神戸新聞』2011 年 5 月 25 日、 http://www.47news.jp/localnews/hyogo/2011/05/post_20110525142251.html。 31 神戸都市問題研究所・震災復興政策研究会、前掲資料、153~154 ページ
をはじめ、関西圏の大手企業、銀行など77 社が事業化研究会(1997 年 設立)に参 加したが、 相次ぐ大手 企業や証券 会社の破綻 により 多 く のスポ ンサ ーが消 え、2004 年頃に同事業化研究会も解散に至り、 「キメックワールド」計画も中止に追い込まれた。結局、KIMEC 構 想 自体も本来 の計画内容 を大幅に変 更、その支 援対象をア ニメー シ ョン分野のクリエーターの発掘・育成ならびに IT・通信産業の研究 開発へと転換することとなった32。
四 復興戦略下の「特区」制度の運用と効果
上述した「上海・長江交易促進プロジェクト」、KIMEC 構想の挫 折 とは対照的 に、地域集 積の優位性 を生かし、 特区制度を 創設す る 産 業集積政策 はむしろ一 定の成果を 挙げている 。政策の成 功はと り わ け目標の明 確性、政策 措置の効率 的運用など に起因する 。以下 で は、産業集積政策の 2 つの柱、即ちエンタープライズ・ゾーンと医 療産業都市構想を検討する。 1 エンタープライズ・ゾーンの発展と成果 新 産業・ 新市 場の創 出を 規制緩 和を 通じて 促し つつ、 当該 地域の 産 業集積形成 を加速させ ることは、 震災後、兵 庫県、神戸 市の産 業 復 興戦略にお いて極めて 重要な課題 となった。 こうした視 点から 、 財 界や学界が いち早く提 議したのが エンタープ ライズ・ゾ ーン( 起 業ゾーン)構想である。震災直後、1980 年代イギリスで実施された 大 都市衰退へ の対応策か ら発想を得 て規制緩和 、税制負担 の軽減 お よ び情報・通 信の自由化 を中心とし た提案(ひ ょうご創生 研究会 、32 「核の集客施設挫折 KIMEC 構想」『神戸新聞』2004 年 5 月 12 日、http://www.kobe- np.co.jp/kobenews/keizai04/0512jc40990.html。
神 戸市起業ゾ ーン研究会 )や神戸港 を自由貿易 地域(フリ ー・ト レ ー ド・ゾーン )に指定す る提言(神 戸経済同友 会)などが 既に存 在 し た。これら の要望、主 張は内容的 には様々で あったが、 経済・ 産 業 復興へ向け 、地域なら びに期間限 定で通商、 産業政策上 の特例 措 置を求めることで共通している33。また、阪神・淡路復興委員会の報 告においても、「新産業、新市場を開発するため……起業家を支援し て 、経済復興 に新しい局 面の創出を 促進する」 重要性を強 調、関 連 の提言を行っている34。 同年6 月に公表された『神戸市復興計画』では、「神戸の産業構造 の 高度化の促 進」として エンタープ ライズ・ゾ ーンの設置 が提起 さ れ た。またほ ぼ同時期に 兵庫県も「 国内外から の投資や外 国企業 の 誘 致を促進す るため、… …優遇措置 等を行う制 度として」 エンタ ー プライズ・ゾーン構想の検討を開始した35。こうして上述した提案、 提 言ならびに 民活法の被 災地特例措 置やフォー リン・アク セス・ ゾ ーン法(Foreign Access Zone、FAZ 法)の拡充など、政府の支援措置 を統合し、新開発のポートアイランド第 2 期に経済・産業復興プロ ジ ェ ク ト を 集 中 投 入 し て 相 乗 効 果 を 促 す 、 と い う エ ン タ ー プ ラ イ ズ・ゾーン構想が形成されるに至る36。 1997 年 1 月、兵庫県、神戸市は各自の「産業復興推進条例」、「神 戸起業ゾーン条例」を実施した。表 2 は両条例優遇措置の概要を示 し ている。両 条例の優遇 措置内容を 要約すると 、地方税の 減免、 補
33 神戸市・神戸都市問題研究所『阪神・淡路大震災 神戸復興誌』(神戸市震災復興本 部総括局復興推進部企画課、2000 年)、517 ページ、http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/ eqb/book/4-674/pdf/084_chapter16_07.pdf 34 提言 6-4。阪神・淡路復興委員会、前掲報告、15 ページ。 35 加藤恵正、前掲報告、232 ページ。 36 神戸市・神戸都市問題研究所、前掲書、517 ページ。
助金及び利子補給等の 3 種である。特筆すべきは、それが地方自治 体 の独自財源 により自主 的判断で制 定・実施さ れたことで ある。 こ れ に対し、通 常行われる 政府の国税 軽減、地方 交付税交付 金など の 諸 措置が見受 けられない 。これは当 時の日本政 府が「特区 」制度 の 効果 を充分に認 識できず 、「全国的な公 平性」、即ち 「一国一制 度 」 に固執したため、その支援を承認しなかったことに起因する37。 「神戸起業ゾーン条例」の目的は、ポートアイランド第 2 期を中・ 長 期的な産業 復興の拠点 とし、将来 性が認めら れ、かつ雇 用効果 が 高 く、また地 場産業、地 域経済との 関連度が高 い分野に属 する企 業 の立地を促進することにある38。条例では神戸経済の高度化を先導し 優 遇すべき分 野として、 生活文化、 情報通信、 国際化、集 客及び 物 流の5 分野が選定されている39。また兵庫県の「産業復興推進条例」 も神戸市を含め、被災の 10 市 10 町を対象地域に、医療・福祉、生 活文化、情報・通信、環境、エネルギーの 5 産業を選定し産業集積 の形成を図る40。 両 条例と も時 限立法 につ き、内 容の 修正、 条例 の延長 とそ の改名 が繰り返し行われることとなった。2002 年、外国・外資系企業の進 出 を誘致する 措置の一環 として兵庫 県が「国際 経済拠点」 を新た に 設置、また神戸市も2003 年に「国際経済ゾーン」を設立する。これ に伴い「神戸起業ゾーン条例」は「神戸エンタープライズゾーン条
37 同上、518 ページ。 38 林敏彦「3 年目に入った産業復興の課題」『都市政策』第 87 号(1997 年)、5~10 ペ ージ。 39 その後、医療・健康、環境関連、新製造技術・新素材関連、航空関連の 4 分野を追 加し、対象地域もポートアイランド第 1 期、神戸テクノ・ロジスティックパーク、 HAT 神戸に拡大された。 40 林敏彦、前掲論文、9 ページ。
表 2 「神戸起業ゾーン条例」、「産業復興推進条例」優遇措置の概要 優遇項目 神戸起業ゾーン条例 産業復興 推進条例 特定 事業 中核施設 税制 関連 固定資産税 都市計画税 3 年間 1/2 を軽減 (土地・建物・償却資産) 税率:1.7%→0.85% 課税特例により 所得時:1/2 を軽 減(土地・建物) 限度額2 億円 不動産取得 税 所得時:1/2 を軽減(土地・建物) 税率:3%→1.5%(限度額 2 億円) 事業所税 資産割額:3 年間 1/2 軽減 600 円/㎡/年→300 円/㎡/年 補 助 関連 進出調査費 補助 国内企業:補助率3/4(限度額 300 万円/1 社) 外国企業:補助率11/12(限度額 550 万円/1 社) オフィス賃 貸料補助 補助額:2500 円/㎡/月 期間:3 年間 限度額:500 万円/年/1 社 オフィス賃貸料 補助 補助額:2500 円 /㎡ 限度額:500 万 円/年 期間:3 年間 神戸国際ビジネスサポートセンターに入居する特 定事業を行う外国・外資系企業は、さらに3 年間 1000 円/㎡/月の補助 期間:2005 年 3 月末まで 建築費補助 設計費及び建設費の10%補助 限度額:10 億円 雇用創出型 産業集積促 進補助 新規地元雇用者に対する補助:60~120 万円/人 新エネルギー設備に対する補助: 経費の1/2 限度額:3 億円 先端技術型事業に係わる設備投資額が100 億円以上、補助率 3%以内、 補助限度額: 単年度10 億円(総額 30 億円限度)* 融 資 等 企業誘致促 進融資制度 限度額:総投資額の80%かつ 10 億円(但し中核施設 15 億円) 期間:最長15 年(うち据置 2 年) 利率:2.5%(固定金利) 利子補給 上記融資制度を超える部分につき、建設費の25% 以内に対して1%以内の利子補給 ( 注 )*「産業復興推進条例」のみ。 ( 出 典 )神 戸市 ・ 神 戸都 市問 題 研 究所 、前 掲 書 、519 ページ。
例」と名称が変更された41。2006 年、条例の対象地域をハイテク産 業 、開発・研 究及び流通 機能の集積 を図る「神 戸複合産業 団地」 に 拡 大、これを もってほぼ 神戸の重点 産業とその 立地地域が エンタ ー プライズ・ゾーンに包括された。 2002 年以降、日本の地域政策が特区制度の運用を全般的に見直し、 「 構造改革特 区」の設置 を積極的に 推進すると いった動き に呼応 し て 、神戸市は エンタープ ライズ・ゾ ーンと医療 産業都市構 想をベ ー スに特区の設置を政府へ提案した。これを受け、2003 年「国際みな と 経済特区」 が「先端医 療産業特区 」と共に特 区の第一号 として 認 定された42。2010 年以降、前節で検討した「新成長戦略」に基づく 「 総合特区制 度」の創設 に合わせて 、神戸市は 医療産業都 市構想 を 継 承する「神 戸国際先端 医療特区」 と、復旧済 みの神戸港 を活用 す る「阪神港国際コンテナ戦略港湾総合特区」の設立を政府に求めた。 2011 年 9 月、上述の提案を足掛かりに、関西地域の各自治体(京都 府 、大阪府等 )と共同で 「関西イノ ベーション 国際戦略総 合特区 」 の申請を行い、これを 2011 年 12 月に政府が正式に認定する運びと なった43。 「 国際み なと 経済特 区」 と「阪 神港 国際コ ンテ ナ戦略 港湾 総合特 区 」の対象地 域はエンタ ープライズ ・ゾーンと ほぼ等しく 、ポー ト
41 2005 年 4 月、再び条例名を現在の「神戸エンタープライズゾーン及び神戸国際経済 ゾーンにおける支援措置に関する条例」に変更した。神戸市、前掲報告「阪神・淡 路大震災 被災状況及び復興への取り組み状況」、16 ページを参照。 42 大野利彦「『先端医療産業特』と『国際みなと経済特区』について―神戸市の 2 つの 特区の、実現までの道のりと、今後の展望―」『兵庫経済』第 80 号(2003 年)、23 ~24 ページ。 43 神戸市「関西イノベーション国際戦略総合特区の指定について~関西からイノベー シ ョ ン を 次 々 に 生 み 出 す 仕 組 み を つ く っ て い き ま す ~ 」2011 年 12 月 、 http://www.city.kobe.lg.jp/information/project/iryo/img/20111222tokkusitei-press.pdf。
ア イランドを 中心に東部 新都心、臨 港地区等が 追加されて いる。 ま た 政策内容は 基本的に港 湾物流・集 荷機能強化 、先端産業 、外資 系 企 業の誘致等 に関する税 制面での優 遇、資金助 成及び各種 規制の 緩 和 である。よ って、これ らの提案は 従来発展の 延長線上に あり、 そ の拡大を図ったものと言えよう。 「 神戸エ ンタ ープラ イズ ゾーン 条例 」に基 づき 認定さ れた 特定事 業数は2011 年 11 月までに 563 社に達した44。数次にわたり対象地域 の 追加・拡大 が行われて おり、時系 列的に企業 の長期的進 出状況 を 把 握すること は困難であ る。このた め、以下で は特区の核 心であ る ポートアイランド地域(第1、2 期)に限定し、帝国データバンクの 統計45から当地域における企業の立地動向、業種構成を明らかにする。 図 3 が示すように、1997 年から 2012 年の 15 年間におけるポート アイランド地域の立地企業数は、まず増加基調で推移するが46、その 後、世界的な金融危機も影響し2008 年を境に減少に転じた。医療関 連企業を除けば、2010 年にはおよそ 300 社の進出が認められる。 確 かに進 出企 業数か ら見 れば、 ポー トアイ ラン ド地域 があ たかも 緩 やかな成長 を遂げてい るかのよう に見える。 しかし業種 構成の 面 で は多様な変 化が生じて おり、かつ て過半数を 占める卸売 ・小売 業 の割合は1990 年代末から次第に低下し、現在では総企業数の 30%程 度 に止まって いる。一方 、戦略産業 として選定 された運輸 ・通信 業
44 神戸市、前掲報告「阪神・淡路大震災 被災状況及び復興への取り組み状況」、16 ペ ージを参照。 45 帝国データバンク産業調査部「地域分析(2011-010):神戸ポートアイランドに本社 を置く企業の立地動向」『産業調査分析レポートSPECIA』2011-005 号(2011 年)、3 ~6 ページ、http://www.tdb.co.jp/report/specia/pdf/spe_b110501.pdf。 46 1997 年以前、既に約 200 社の企業が存在するが、これらはポートアイランド第 1 期 へ進出企業である。
の比重は1990 年代後半の 10%台から次第に増加し、2010 年には第 2 位の 26.9%へと増大している。こうした運輸・通信業成長の背景に は、KIMEC 構想が「キメックワールド」計画を中止、IT・通信産業 の 研究開発へ と路線転換 する影響、 また陸運と 海運の結節 点とす る 神 戸港の復旧 完成により ポートアイ ランド地域 が運輸業に 適した 地 理的条件を備えていることが挙げられる。 製造業とサービス業は運輸・通信業ほどではないにせよ、2000 年 以 降もその比 重を保持し 、或いは拡 大傾向とな っている。 これら の 現状を考慮するならば、「産業構造の高度化」を謳ったエンタープラ イズ・ゾーンはその所期目標を達成した、と評価できよう。 2 医療産業都市構想の発展と産業集積 産業集積政 策の第二の 焦点は医療 産業都市構 想である。 これに 関 しては、とりわけWHO 健康開発総合研究センター(以下、WHO 神 戸 センター) の開設が医 療関連産業 の集積形成 の契機とな った。 震 災直後の1995 年 10 月に策定された「第 4 次神戸市基本計画」では、 産 業復興プロ ジェクトの 枠組みにお ける医療産 業都市構想 の早期 実 現に、「WHO 神戸センターを核に……健康福祉産業を図る」ことが 既 に記された 。その後、 阪神・淡路 復興委員会 も同構想を 正式に 復 興特定事業に選定した47。医療関連産業が選択された背景には、これ ま で化学工業 の下請けと して育てて きた機械金 属、新素材 関連産 業 等 への相乗・ 波及効果、 また関西地 域にある「 豊富な医療 関連の 技 術 資源」の活 用が期待さ れたという 事情がある 。ここで言 う医療 関 連 の技術資源 とは、神戸 市に所在す る病院、既 存産業(機 械金属 工
47 尾羽沢信一「神戸市『医療産業都市構想』に見るクラスター形成と川崎への示唆」『専 修大学都市政策研究センター論文集』第1 号(2005 年)、313~314 ページ。
業 、電子・化 学工業等) の集積、な らびに関西 地域の大学 、研究 機 関(京都大学、大阪大学、神戸大学医学部及び研究所)、研究者、関 連施設等地域の物的・人的資源を指す48。 図 3 ポートアイランドに立地する企業、医療関連企業の推移 ( 注 )ポー ト アイ ラ ン ドに 立地 す る 企業 数は 医 療 関連 企業 を 除 いた もの で あ る。 ( 出 典 )ポー トア イ ラ ンド に立 地 す る企 業部 分:帝 国デ ータ バ ン ク産 業調 査 部 、 前 掲 論 文、3 ページ。医療関連企業部分の統計:帝国データバンク産業 調 査 部 、「 地 域 分 析 神 戸 医 療 産 業 都 市 を 形 成 す る 企 業 の 実 態 」『 産 業 調 査 分 析レ ポー トSPECIA』2011-006 号(2011 年)、3 ページ、http://www. tdb.co.jp/report/specia/pdf/spe_b110401.pdf、より作成。 1998 年、神戸市は医療産業都市構想を発表、同年 10 月に神戸医療 産 業都市構想 懇談会が結 成する。こ こで重点分 野・戦略の 方針が 検 討 され、医薬 品の臨床研 究支援、再 生医療等の 臨床応用、 医療機 器 の研究開発という 3 つの重点研究分野は設定された。また上述した
48 神戸市・神戸都市問題研究所、前掲書、529 ページ。
懇談会の 3 回の報告を踏まえて、関西地域の大学、研究機関や日本 国 内外の医療 関連企業、 厚生労働省 、経産省、 兵庫県を始 めとす る 政 府(中央、 地方)機関 など広く産 官学の参画 を求めて構 想を強 力 に推進する主体として、1999 年 8 月に神戸医療産業都市構想研究会 (2011 年、神戸医療産業都市(国際先端医療特区)統括本部会議と 発 展改組)が 成立した。 同研究会の 下で、映像 医学センタ ー、臨 床 研究支援センター、都市インフラ整備および再生医学など、4 つの産 官 学共同参画 のワーキン ググループ が設置され 、構想の早 期具体 化 には、不可欠となる産官学の各領域における緊密連携を図った。 1999 年に先端医療センターの事業化、理化学研究所の発生・再生 科学総合研究センターの神戸開設が決まったことを契機に、「新産業 構造形成プロジェクト関連の復興特定事業」(2000 年 2 月)、「都市 再 生 プ ロ ジ ェ ク ト 」(2001 年 8 月 )、「 知 的 ク ラ ス タ ー 創 成 事 業 」 (2002 年 4 月)等、一連の国家的な復興・集積計画に選定され、基 礎 研究から臨 床応用まで の一貫した 医療産業集 積の構想は 急速に 具 体化する運びとなった49。 産 業集積 政策 の推進 にあ たり、 当初 は神戸 市が 戦略の 策定 、事業 化 における主 導的役割を 担った。し かし、その 後の展開と 事業規 模 の拡大につれて、兵庫県、神戸市ならびに民間企業の共同出資50に基 づき、2000 年 3 月に先端医療振興財団が設立された。以後、同財団 が 新分野への 参入、産官 学の協調・ 連携、企業 ・研究機関 の誘致 等 を全般的に統括するようになった51。さらに医療産業に関する事業化
49 日本貿易振興機構(JETRO)経済分析部日本経済情報課『日本の地域クラスター事 例調査(札幌、浜松、神戸、北九州)』(日本貿易振興機構、2004 年)、26 ページ、 http://www.jetro.go.jp/jfile/report/05000700/05000700_002_BUP_0.pdf。 50 出資の内訳は神戸市 5000 万円、兵庫県 2500 万円、民間企業等 4650 万円。 51 日本貿易振興機構(JETRO)経済分析部日本経済情報課、前掲書、28 ページ。
の 決定、進出 企業への重 点的支援の みならず、 関連組織の 人事調 整 と いった各部 門の行政機 能も財団内 部へと組織 化されるに 至り、 先 端 医療振興財 団は政策の 実質上の推 進組織とな った。また 産業集 積 の 形成に必要 となる研究 開発に関し ては、経済 産業省と神 戸市の 補 正 予算から創 設された「 先端医療セ ンター」が 中核研究機 関とし て 域 内の関連研 究施設と関 西地域の大 学・研究機 関のネット ワーク 連 携を担当している。 2001 年 4 月、神戸市は医療関連分野を「エンタープライズ・ゾー ン条例」の対象に追加し、進出企業に対して地方税の軽減、雇用(賃 金)・賃貸料補助等の優遇措置を行うほか(表 2 を参照)、ポートア イランド第 2 期に立地する企業に対し、賃貸料減額制度、土地譲渡 代金の長期分割制度等の導入を追加的に実施した52。2002 年 10 月、 産 業集積の形 成を一層加 速させるた め、一定の 要件を満た す医療 関 連企業を対象に、10 年間の土地賃貸料を免除するパイロットエンタ ープライズ・ゾーンを設置した。また2011 年 3 月、神戸市は「エン タ ープライズ ・ゾーン条 例」の改定 ・延長に際 し、産業の 高度化 を 先 導する分野 である医療 ・健康・福 祉関連企業 の進出に対 し、固 定 資産税、都市計画税の軽減等、更なる優遇措置を決定した53。また研 究開発分野においても、2002 年 4 月「神戸市医療分野等研究開発費 補助制度」を制定し、企業負担の軽減を目指した。2003 年 4 月、前 述の「先端医療産業特区」が成立、さらに神戸市は2010 年 9 月、「先 端医 療産業特区 」の発展を 基礎に「神 戸国際先端 医療特区 」、「ひ ょ うご神戸医療・サイエンス国際特区」(兵庫県と連名)を提案、政府
52 その他、1997 年に実施した兵庫県の産業復興条例も医療・福祉分野を選定し、新産 業の集積を図る。尾羽沢信一、前掲論文、319 ページ。 53 神戸市、前掲報告、15~16 ページ。
に最先端医療技術の研究開発及び実用化・事業化に必要な環境整備、 生 産・物流コ ストの大幅 削減、専門 人材の育成 ・確保、ベ ンチャ ー 企業に関する配当課税の免除など、5 分野・32 項目にわたる支援措 置の実施を求めた54。そして現在、「関西イノベーション国際戦略総 合 特区」の分 業構想にお いて、神戸 市は以下の 役目を担う ものと 位 置づけられた。1.関西域内における大学・研究所・企業等の資源を有 機 的に連結さ せつつ、医 薬品、診断 ・医療機器 、先端医療 技術及 び 再生医療・細胞治療等の 6 分野の研究開発、事業化・市場化を目指 す。2. 32 事業 127 項目の規制緩和・関連制度創設に重点的に取り組 み、イノベーションの創出を図る55。そして今後産業発展の趨勢やア ジア諸国の新興バイオクラスターの台頭に鑑み、神戸市は2011 年 4 月、日本の成長戦略の重点に掲げられた「ライフ・イノベーション」 の グローバル 拠点となり 、バイオメ ディカル産 業集積の更 なる発 展 を 目指す関連 政策・戦略 を検討する 「神戸医療 産業都市戦 略会議 」 を設置した。 このように最初の提起より既に14 年が経過した現在、医療産業都 市 構想は神戸 市、兵庫県 の強力な推 進により飛 躍的発展を 遂げ、 日 本 最大の医療 産業の集積 へと成長し 、各経済復 興プロジェ クトの 中 でも最も成功した産業集積政策となった。先述した図 3 が示すよう に 、医療産業 都市構想へ 参加し、ポ ートアイラ ンドに進出 する企 業 数は、プロジェクトが開始した1998 年以降増加基調で推移し、特に
54 神戸市「神戸国際先端医療特区(ライフ・イノベーションのグローバル拠点化)に ついて」2010 年 9 月、http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2010/09/img/sogotokku. pdf。 55 神戸市、前掲「関西イノベーション国際戦略総合特区の指定について~関西からイ ノベーションを次々に生み出す仕組みをつくっていきます~」、5 ページを参照。
インフラの整備が完了した2006 年を境に企業進出は急速に高まった56。 2012 年 8 月、参加企業数は 220 社に達した。この内、日本企業は 194 社でその全体に占める割合は 88%、外国企業はアメリカ(10 社)、 ドイツ(5 社)を筆頭に、計 8 ヶ国 26 社が参入した57。また神戸医 療産業都市経済効果委員会の調査によれば、2010 年度の医療産業都 市による税収効果は35 億円、全体の経済効果は 1,041 億円に上った。 2005 年度の経済効果(409 億円)と比較すれば実に約 2.5 倍の増大 となり、関西圏全体に2,223 億円の経済効果を創出したと推計されて いる58。
五 むすび
本稿は阪神 大震災後の 復興政策、 経済復興プ ロジェクト 、特に 地 域の 産業集積政 策に密接に 関わる特区 制度の運用 を中心に考 察した 。 この特区制度の成功要因に関し、以下の点を整理する。 第1 に、特区制度は地域産業政策の転換を先取りするものである。 国 土の均衡あ る発展、既 存産業支援 および地域 間格差の解 消を目 標 と する従来型 の産業政策 から一転、地域におけ る新規産業 と雇用 の 創 出を目指し 、根本的に 地域の産業 構造高度化 へと政策の 照準を 定 め た。これら 政策目標の 達成には、 特区の戦略 的規制誘導 (規制 緩 和)、金融・税制の優遇措置による産業集積の形成を促すことが不可56 帝国データバンク産業調査部、前掲「地域分析 神戸医療産業都市を形成する企業 の実態」、3 ページ。 57 その他イギリス、ベルギー、韓国、中国およびスイスからそれぞれ 2 社、フランス が1 社参加。神戸市「神戸医療産業都市構想における企業・団体の集積状況」(2012 年8 月)、http://www.kobe-lsc.jp/list/listing_companies.pdf。 58 加藤恵正「神戸医療クラスターの経済的インパクト~経済効果推計~〈報告〉」(神 戸市、2012 年 6 月)、http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2012/06/img/20120614 041701-1.pdf。
欠となる。 第 2 に、政策手法の変化である。地域の産業集積政策は従来型の 国 家主導によ る財政・金 融支援型か ら、地方自 治体・民間 主導に よ る 規制緩和型 に転換した 。これによ り各自治体 が既存の枠 組みに と ら われること なく、地域 の需要・特 性にかなっ た独自の政 策的試 み を 発揮しうる ものとなっ た。兵庫県 、神戸市の 再三にわた る要請 に も かかわらず 、日本政府 から充分な 政策支援を 受けられな かったエ ン タープライ ズ・ゾーン と医療産業 都市構想の 双方が、む しろ地 方 自治体主導で大きな成果を挙げたことはまさに象徴的である。 第 3 に、国際化、世界市場の重視である。経済のグローバル化の 進 展とともに 、日本の「 フルセット 型産業構造 」の解体が 進行、 地 域 産業の衰退 が加速した 。地域産業 振興へ向け 、兵庫県、 神戸市 は 国 内企業のみ ならず、復 旧済みの神 戸港の優位 を利用して 外国・ 外 資 系企業の積 極的な誘致 を試みた。 特区制度へ の外資導入 により 世 界 市場へのア クセスが強 化され、医 療関連産業 等を国際生 産ネッ ト ワ ークに連結 させ、特区 の更なる発 展が図られ る。注目に 値する の は 、東日本大 震災の復興 政策におい ても、この 国際化戦略 が継承 さ れている点である。2012 年 7 月までに日本(ジェトロ)は国内外で 計 21 都市 27 回の説明会を開催し、外資の誘致体制を積極的に推進 している。 最後に、特 区制度の経 験を東日本 大震災の復 興へ今後如 何に活 用 し うるかとの 問題が残る 。阪神大震 災では都市 部ならびに 一部の 周 辺 地域に被害 が集中した ため、復興 に関する情 報の伝達、 意志の 決 定 、復興戦略 産業の選定 は、兵庫県 、神戸市の 間で速やか に行う こ とが可能であった。これに対し、東日本大震災は北海道、東北地方、 北関東等、実に 7 道県にも及ぶ広域に甚大な被害をもたらし、各地 方自治体の連 携を通じた 政策の制定 はより複雑 なものとな る。地 方
自 治体のみな らず中央政 府-国の関 与も含め、 各地域にお ける利 害 関 係の調整、 資源の効率 的配分及び 各特区の有 機的連結等 、その 成 否は今後の復興の行方を左右する重大な要因となるであろう。
日本產業集聚政策之運用
―以阪神‧淡路大地震後之復興政策與
特區制度為例―
陳 正 達
(實踐大學高雄校區國際貿易學系助理教授)【摘要】
過去的20 年間,日本的地區性產業政策,特別是在產業集聚概念 的 引進、運用 上有了極大 的轉變;從 以往由政府 中央主導、 規劃, 藉 由 財政‧金融 措施以減少 城鄉經濟差 距、抒解產 業過度集中 的傳統 方 式,轉變為由地方政府‧民間企業進行主導、規劃。在1995 年阪神‧ 淡 路大地震發 生後,特區 制度藉由促 進新興產業 、企業與工 廠的進 駐 來加速該地區之產業集聚的成立、發展已經成為最重要的政策模式。 本 文探 討日本 阪神 ‧淡路 大地 震發生 後, 特區制 度的 政策形 成過 程 與產生之效 果;發現震 災後之復興 戰略,特別 是產業集聚 政策就 是 最 早 體 現 上 述 轉 變 的 具 體 事 例 。 產 業 集 聚 政 策 作 為 重 建 戰 略 的 一 部 份 ,主要規劃 用來加速兵 庫縣與神戶 市的產業、 經濟復興。 兵庫縣 與 神 戶市透過政 策實施與產 官學合作以 促進具有未 來發展、成 長前景 之 戰略產業,例如IT、資訊與通訊、醫療等產業進駐神戶 Port Island 地 區 ,設 立研發 、製 造、流 通部 門。作 為政 策重心 之特 區制度—企業特 區、醫療都市構想計畫就是其中最成功的案例。關 鍵字:阪神 ‧淡路大地 震、復興政 策、產業集 聚、企業特 區、醫 療 都市構想、東日本大地震
Japan’s Industrial Cluster Policy: Case study
of the Industrial Reconstruction Policy after
the Great Hanshin-Awaji Earthquake
Cheng-Ta Chen
Assistant Professor, Department of International Trade, Shih Chien University, Kaohsiung Campus
【
Abstract】
In the past 20 years, the performance of regional industrial policy in Japan, made a dramatic turnaround from government-initiated to private-sector initiative especially after the introduction of the concept of industrial clusters. After the Great Hanshin-Awaji Earthquake, the special zone system promoted emerging industries, new businesses, and new facilities, becoming the most important policy tool for accelerating formation and development of regional industrial clusters.
The purpose of this paper is to investigate the effect and policy formation process of the special zone system after the Great Hanshin-Awaji Earthquake. The major finding of the analytical result is reconstruction strategy, especially since industrial cluster policy is designed to revitalize Hyogo and Kobe’s industry and economy. Hyogo and Kobe endeavored in cooperation with industrial, academic and government organizations for the creation of research, production and distribution complexes on the Kobe Port Island for the advancement of strategic industries, like information and communications, medical industry, which are considered as growth strategic industries in 21st century. Enterprise zone and the Kobe biomedical
innovation cluster are the most successful cases.
Keywords: the Great Hanshin-Awaji Earthquake, industrial reconstruction
strategy, industrial cluster, special zone, enterprise zone, Kobe Medical Industry Development Project