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(21)a. [S母が[VP料理を作る]] b. [S[VP料理ができた]]
S S NP1 VP NP1 VP 母が NP2 V NP2 V
料理を 作る 料理が できた
また、N ガデキルが可能を表す場合、ニ格は必ず有情物である。この有情物 は能力の所有者15であり、常に助詞ニが伴う。
以上より、可能だけが場所を表す名詞句が欠けているように見える。では、
場所を表す場合はどうなるのであろうか。場所を表す場合はデ格名詞句で表す のである。場所を表すデ格名詞句のみならず、下記のような「この時代で」と いう時間副詞句などが伴われる可能文は「状況可能」と呼ばれている。状況可 能については第 5 章で詳しく論じる。
(22)この時代でこの場所で何ができるだろう。
(http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=k-170517-087)
ここまで、デキルの諸意味のニ格名詞句を中心に見てきたが、まとめれば次 のようになる。生起を表す N ガデキルは、ニ格名詞句にヒト・トコロを指定 し、ニ格名詞句の意味役割は場所である。次に、完成を表す N ガデキルはニ 格名詞句にトコロを指定し、ニ格名詞句が場所の意味役割を担う。最後に、可 能を表す N ガデキルはニ格名詞句にヒトを指定し、ニ格名詞句が能力の所有 者である。場所を表す場合、デ格名詞句を用いる。
このように、N ガデキルの意味が異なれば、ニ格名詞句と場所を表す格も異 なってくる。このことが、筆者が用例を取り扱う際の、意味判断の基準となる。
2.2 デキルの多義性
本節では、デキルの多義性について考察する。前章で見たように、本論文で 考察するデキルの意味は<生起>、<完成>、<可能>である。この三つの意 味についても 1.1.1 節でその歴史的変化を見た。本節では認知言語学のアプロ ーチを用いてデキルの意味のネットワークを明らかにする。
デキルは「無から有になる」という生起の意味が原義である。そして、歴史 の流れに伴い、デキルが完成と可能などの意味も表すようになる。生起のイメ
15
益岡(2000:238)では、 「属性の持ち主」といえる点で「属性主」と呼んでいる。但し、
これはあまり見受けられない呼び方であるため、本論文では使わない。
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ージ・スキーマは次のように図示できる。
(23)デキル<生起>のイメージ・スキーマ16 lm lm
t
外円はランドマーク(landmark:lm)であり、N ガデキル文のニ格に相当する。
太線の〇はトラジェクター(trajector:tr)17であり、N ガデキル文のガ格名詞 句に相当する。最初のランドマークには点線の〇があるが、これはまだ生起し ていないトラジェクターを示している。点線の〇と太線の〇の間の点線は同一 のものであることを示し、矢印は時間の流れを示している。要するに、このイ メージ・スキーマは lm に何もない状態から tr が生じるということを示してい るのである。
このスキーマが事例化した、「ニキビができる」のような文における、モノ の生起がプロトタイプであり、デキルは「妊娠」か「誕生」(拡張義 1)、完成
(拡張義 2)、可能(拡張義 3)も表し得る点で、プロトタイプからの意味の拡 張が見られる18。
16
イメージ・スキーマの描き方として、筆者は定延(2012)と岡(2003)を参照にしている。
定延(2012:109)では「カビが生えた」といったようなナル的なデキゴトは次のようなイメ ージ・スキーマを持つと述べている。
(i)
一方、岡(2003:131)では、「頬にニキビができた」という文を例に「Y に X ができる」
文は次のようなイメージ・スキーマを持つと書いている。
(ii)
17
トラジェクターとは言語表現において最も際立つものであるので、典型的には主語がこれ に当たる。一方、ランドマークは、トラジェクターの次に際立つものであるので、典型的には 目的語がこれに当たる。 (河上 1996)
18
デキルにはさらに多くの意味用法があるが、ここでは「子供ができる」という<生起>、
<完成>、<可能>の三つに絞る。
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(24)デキルの意味19
<無から有になる>
ニキビができる 子供ができる
:事例化 :意味の拡張 スキーマ的意味:無から有になる
プロトタイプ的意味:ニキビができる。
拡張義 1:子供ができる。
拡張義 2:仏像ができる。
拡張義 3:車の運転ができる。
まず、拡張義 1 の「子供ができる」におけるデキルの意味について見る。「子 供ができる」というのは「妊娠」と「誕生」の二つの意味がある。いずれの場 合も、子供がトラジェクターであるが、ランドマークは違う。前者の場合、女 性のお腹がランドマークであるのに対し、後者の場合、この世界がランドマー クである。つまり、ランドマークが二つあると想定し、次のように図示できる。
点線は lm1 における tr と lm2 における tr が同一であることを示している。破 線は妊娠の場合の認知範囲である。そして、lm2 は実線の四角であり、これが
「世界」を表示するため、lm1(母体)も lm2 の中にある。誕生の場合、lm1 の中にある tr が lm1 を出て lm2 に現れる。
(25)「子供ができる」のイメージ・スキーマ
lm1 lm1 lm2 tr t
次に、拡張義 2 の「仏像ができる」は、「動作主が仏像を作る」ということ が前提となっている<完成>の意味である。この前提は、認知言語学では「ベ ース(base)」と呼ばれ、「語の意味を生む際にその前提として概念化されるも の」(河上 1996:20)である。ベースを考慮に入れて、完成は次のように図示 できる。左側の斜線の〇は変項であり、ここでは動作主である。変項から点線 の〇までの矢印は関係であり、ここでは動作主が何かを作るという「作り手と 作られる側」の関係を示している。この動作主と関係はベースであり、言語形 式に現れない前提である。そして、実線の四角は「仏像ができる」という言語
19
この書き方は吉村(2004:99)を参照にしている。但し、吉村では、プロタイプ的意味と 周辺的意味としているが、 「子供ができる」 、 「仏像ができる」と「車の運転ができる」などは よく使われている意味なので、 「周辺的意味」となれば、よく使われない意味となる。それを 避けるため、 「拡張義」としたのである。
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形式の認知範囲である。つまり、完成は lm に何もない状態から tr があるとい う状態になることに注目するのである。このイメージ・スキーマから見れば完 成が生起から派生した意味であることが裏付けられる。
(26)デキル<完成>のイメージ・スキーマ base lm lm
最後に、拡張義 3 の「車の運転ができる」について、これは可能の意味を表 している。可能は、生起と完成のような時間の流れにおける出来事と異なり、
時間的展開のない状態である。この<可能>という意味はどのように生起から 派生したのであろうか。眞野・影山(2009)によれば、出来事には時間軸があ り時間による展開もある一方、状態には時間軸はあるものの展開がないという。
そして、出来事と状態はそれぞれ次のように図示できる。
(27)a. 出来事 b. 状態 〇 → (〇)
時間軸 展開あり
時間軸あり
展開なし (ibid.:49)
この考え方を踏まえた上で、<可能>のイメージ・スキーマは、生起した状 態を凍結したと考えられ、次のように想定できる。破線の矢印は展開のない時 間軸を表示する。
(28)デキル<可能>のイメージ・スキーマ lm
t 時間軸あり、展開なし
以上のことをまとめ、デキルの意味のネットワークを次のページに掲げる。
上記のように、デキルは<無から有になる>という生起の意味から<妊娠>か
<誕生>の意味、更に、<完成>、<可能>の意味へ派生していくのである。
○ tr
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tr t‧ 國
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(29)デキルの意味のネットワーク
<妊娠> <誕生>
lm1 lm1 lm2
t
中心的スキーマ:<生起> <可能>
lm lm lm
t t
<完成>
base lm lm