2.3 クオリア構造
2.3.3 語彙概念構造
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立 政 治 大 學
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ルの語彙概念構造を規定していきたい。
2.3.3 語彙概念構造
語彙概念構造は、述語分解(predicate decomposition)によって意味を分析す る方法である(影山 1996)。本研究で導入する語彙概念構造は影山(1996)(1999)
によるものである。影山(1996:84)(1999:90)によれば、語彙概念構造の 基本形は次のようになる。2.2.1 節で見たように x, y, z は変項を表すが、通常、
x は統辞上の外項、y は統辞上の内項である。z は状態であるが、静止位置も 状態の一種と考えられる。但し、z の記述は状態と位置から一つのみ指定でき る。つまり、状態と位置を両方記述することはできないのである。
(39)A. 状態・位置:[STATE y BE AT-z]
B. 状態変化・位置変化:[EVENT y BECOME [STATE y BE AT-z]]
C. 活動:[EVENT x ACT (ON-y)]
D. 使役:
[
EVENT x(ACT(ON-y))] CONTROL [
EVENTBECOME [y BE AT-z]]
外項 x を C 持つ活動は「上位事象(super-event)」、内項 y しか持たない A 状 態・位置と B 状態変化・位置変化は「下位事象(sub-event)」と呼ばれている。
D 使役は上位事象と下位事象から合成した事象である。ここで、使役としてい るものは、文法項目の使役「(さ)せる」ではなく、「上位事象が下位事象の成 立を直接的に左右する(影山 1996:86)」ことである。これら A~D はちょう ど Vendler の動詞四分類に対応している。つまり、状態動詞は A、到達動詞は B、活動動詞は C、達成動詞は D の構造をしているということである。
(40) 達成
上位事象 CONTROL 下位事象 ACT BECOME STATE 活動 到達
BE
状態 (影山 1996:90)
デキルが Vendler の動詞四分類に当てはめてその LCS が想定できると考えら れる。では、デキルは Vendler の動詞四分類のいずれに当てはまるのであろう か。生起と完成のデキルは、動作性を保ち、前者は無から有にナルという状態 変化、後者は何らかの事象が終了時点に達するという状態変化であるため、い ずれも到達動詞であると考えられる。また、可能を表すデキルは状態動詞であ
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ると考えられる。
次に、デキルの LCS を想定しながら項構造への連結と統辞構造への投射で 具体例により検証を行う。まず、生起を表すデキルは到達動詞の LCS を持つ と考えられるが、無から有になるという状態変化であるため、次のように BECOME の前には変項がないことに注目したい。これは、本来ある物が状態 変化する場合には、BECOME の前に y があるが、デキルを含めた出現・発生 系の動詞の場合、y は本来ないものなので、BECOME の前に表示されないの が理にかなっている31。また、繰り返し述べるが、変項の z は状態と位置のい ずれしか表さないので、次に示すように、ニ名詞句がある場合に項構造に Zト
コロという項があるが、それがなければ、LCS の z は WORLD となる。
(41)デキル<生起>の意味構造
語彙概念構造: [EVENT BECOME [STATE y BE AT-z]]
項構造: <(Zトコロ)<Yモノ>>
統辞構造への投射: 顔にニキビが
また、完成を表すデキルは生起と同じように、到達動詞の LCS を持つとい うことに問題はない。但し、完成ということの成立点と思われる z は、生起と 異なり、次に示すように FINISHED と想定する。勿論、z がどのような状態な のかは共起する語によって異なるので、まとめでは z のままにしておく。
(42)デキル<完成>の意味構造
LCS: [EVENT y BECOME [STATE y BE AT-FINISHED]]
項構造: <Y>>
統辞構造への投射: 食事の支度が
最後に、可能を表すデキルの LCS について考察する。能力を表す動詞の LCS は管見の限り二通りある。一つは、y がニ格、z がガ格で表示される考え方で ある(影山 2009:61-62)。この考え方であれば、「彼に英会話ができる」とい う文では、「彼」が内項 y、「英会話」が z であり、「彼(y)は「英会話(z)
ができる状態にある」という解釈となる。
(43)デキル<可能>の意味構造
31
出現・発生系の動詞の LCS は影山(1996:109-110)で詳しく述べられている。
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語彙概念構造: [STATE y BE AT-z]
項構造: <Yヒト<Z>>
統辞構造への投射: 彼に英会話が
しかし、本研究はこの考え方を採用しない。なぜなら、経験者主を表すニ格 名詞句は場所格と関わっていると考えられる32からである。このことは既に 2.1 節で見た。また、2.2 節で多義性について分析した際、経験者主がランドマー クに相当し、ニ格名詞句が z 項であることを見た。
また、岡(2002)では、次のような「テイルを付加した文において、存在物 が現れてくる」という観点で、存在構文33に基づいた観点からデキル文を捉え ようとしている。
(44)a. 頬にニキビができている(⊃頬にニキビがある34)
b. 論文ができている(=論文が完成してそこにある)(ibid.:130)
そして、岡はデキル可能文に関しても、次の例を挙げ、「中国語を話すこと」
がヒトに生起し、最終的に可能の意味になると考えている。
(45)鈴木さんは中国語を話すことができる。 (ibid.:131)
本研究は基本的に岡と同じ立場にあるが、デキル可能文については存在文に 留まらず、能力の所有に発展したと考える。つまり、ニ格名詞句におけるヒト は能力の存在するトコロであり、能力を有する能力所有者でもあるということ である。存在文と所有文はいずれも動詞「アル」が用いられる点で共通してい るが、後者が「N を持つ」に言い換えられる点で異なっている。
(46)a. 田中さんには三人の子どもがある。
b. 田中さんは三人の子どもを持っている。 (金水 2003:38)
同様に、次に挙げる a のデキル可能文は、b と c の所有文に言い換えられる。
但し、換言に当たり、「の能力」を補う必要がある。
32
三原(1994:132)でも、 「直感的にこのニには場所を表すニとの親和性が感じられる」と 述べている。また、影山(1999:70)でも「「できる」というのは「能力がある」という存在 を表す」と指摘している。同じ立場として、熊代(2002)がある。
33
存在構文とは「場所ニ N ガアル・イル」のような構文のことである。
34
⊃は集合論の記号であるが、A⊃B は、 「B が A の部分集合である」ことを示している。岡
では明記していないが、おそらく含意という意味で使われていると考えられる。
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(47)a. 鈴木さんに中国語ができる。
b. 鈴木さんに中国語の能力がある。
c. 鈴木さんは中国語の能力を持っている。
したがって、本研究では可能文が、能力を有するということで所有文の一種 であるとみなす。その上で、次から所有文の概念構造を考える。影山(1996)
では、“BE WITH”が所有“HAVE”の意味を表すとしている35。本論文では、そ の考えを踏襲し、可能を表すデキルの LCS を次のように想定する。つまり、
次のように、z はニ格名詞句に対応し、ガ格名詞句は y に対応するものとする。
(48)デキル<可能>の意味構造
語彙概念構造: [STATE z BE WITH y]
項構造: < (Zヒト)<Yコト>>
統辞構造への投射: (彼に)英会話が
このように、生起、完成、可能の意味のいずれも y がガ格名詞句と対応する という画一的な規定ができる。以上のことをまとめると、デキルの LCS は次 のようになる。
(49)デキルの LCS:
a. 生起:[EVENT BECOME [STATE y BE AT-z]]
b. 完成:x→∅ CONTROL [EVENT y BECOME [STATE y BE AT-z]]
c. 可能:[STATE z BE WITH y]
本節ではデキルの LCS を上記のように規定した。次節からは、デキルの意 味構造について規定する。
35