國
立 政 治 大 學
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第 4 章 N ガデキル動詞句
本章では、前章で分類した名詞を N ガデキル動詞句に当てはめ、どの場合 にどのような意味を表すかを考察する。まず、生成語彙論の共合成という意味 生成デバイスについて述べる。次に、Nコトガデキル、Nモノガデキルと Nモノゴト ガデキルという順序で見ていく。
4.1 共合成とタイプ強制
本節では、「共合成」(cocomposition)とタイプ強制(type coercion)という 意味生成のプロセスについて先行研究を用いて説明する。但し、本研究で取り 込むクオリア構造と共合成は、小野(2005)と非常に異なっているため、記述 に出入りがあるということに注意されたい。
4.1.1 先行研究:小野(2005)
共合成とは、「動詞の不完全指定された意味表示を補語名詞の語彙情報によ って補完する意味生成のプロセス」(小野 2005:49)である。以下、小野(2005:
48-50)が挙げた“begin the book”という例を見よう。まず、小野は動詞の“begin”
のクオリア構造は次のように想定している。
(88)“begin”のクオリア構造 ARGSTR=ARG1=x:human =ARG2=y:event
QUALIA=FORM=P(x)40
=AGEN=begin_act(x, y)41
注目したいのは、形式役割に無指定(P(x))になっているという点である。
形式役割における無指定は、補語名詞の語彙情報によって補完されるのである。
次に、“book”のクオリア構造は次のように想定されている。(筆者が Pustejovsky
(1995:101)を参照に一部修正)
(89)“book”のクオリア構造
40
Pustejovsky(1995)と小野(2005)では、事象も項として扱われている。
41
本来、小野(2005)では、begin の形式役割と主体役割は次のようになっている。
FORM=P(e
2, x)
AGEN=begin_act (e
1, x, y)
e
1と e
2はそれぞれ process と state であるが、これらが入っている形式役割と主体役割は、
「x が何かをするという状態事象」と「人間(x)が事象(y)を始める process 事象」という
意味で解釈される。つまり、 “e
1”ないし“e
2”の存在は、項としてではなく、その役割が事
象であることを示しているだけである。紛らわしいため、本研究ではその記述方法を採用しな
いので、注意していただきたい。
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ARGSTR=ARG1=x:物理的な物 =ARG2=y:情報
=ARG3=z:書き手 =ARG4=w:読み手 CONS=bound_pages (x)
FORM=print_matter (x) TELIC=read (w, y) AGEN=write (z, y)
動詞“begin”と名詞“book”は共合成するが、begin は第 2 項として事象を 指定している。しかし、book は事象ではなくモノであるため、「動詞の選択制 限と名詞の属性とのミスマッチ」(小野 2005:50)が生じる。名詞 book が持 つ語彙情報のほかの側面を参照するため、目的役割と主体役割が重要となる。
そこで、タイプ強制(type coercion)というプロセスにより、モノ名詞がコト 名詞に転換され、最終的に“begin the book”という動詞句の意味が生成される のである。
(90)“begin the book”のクオリア構造 EVENTSTR=E1=e1:活動 =E2=e2:状態
ARGSTR=ARG1=x:human =ARG2=y:event
QUALIA=FORM=read (x, y)
=AGEN=begin_act(x, y)
このように、“begin the book”という動詞句の意味は動詞“begin”と名詞“book”
から共合成により生成される。これは本研究の N ガデキル動詞句で応用でき るプロセスとみなす。
しかし、この共合成のプロセスには修正すべき問題点がある。それについて 次節で論じたい。
4.1.2 問題点と仮定
前節で共合成のプロセスを見たが、どの場合にどの役割を不完成指定にする のかということが疑問としてあげられる。このことについて Pustejovsky(1995)
も小野(2005)も明記していない。そこで、本研究で取り込む共合成のプロセ スは「動詞の不完全指定された意味表示を補語名詞の語彙情報によって補完す るプロセス」だけではなく、動詞と名詞における語彙的情報の断片が共合成し た動詞句に取り入れられるプロセスでもあると再定義する。
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前節で見たように、本研究の中心問題-どの場合に N ガデキル動詞句が生 起、完成、可能のいずれを表すか―もタイプ強制により解決できるように思わ れる。そこで、筆者は次のように仮定を立てる。
(91)デキル<生起>はモノ名詞を指定する。デキル<完成>とデキル<可能>はコ ト名詞を指定する。そうでない場合、タイプ強制が適用する。。
ここで実際に、「ニキビができる」という例で共合成してみよう。まず、ニ キビのクオリア構造を次に想定する。
(92)ニキビのクオリア構造
CONS=皮膚に包まれる白い吹き出物 FORM=モノ(y)
TELIC= - AGEN= -
また、デキル<生起>の意味構造を以下に再掲する。デキル<生起>はモノ名詞を 指定すると仮定したため、項構造の Y に下付き文字でモノをつけておく。
(93)項構造:<Yモノ>
CONS= [EVENT BECOME [STATE y BE AT-z]]
FORM=event:状態変化 TELIC= -
AGEN= -
上記の例では、ニキビとデキルが共合成し、次のようなクオリア構造になる と考えられる。次のように、ニキビが定項として構成役割に埋め込まれている。
(94)ニキビができる
CONS=[EVENT BECOME [STATE ニキビ BE AT-皮膚]]
FORM=event:状態変化 TELIC= -
AGEN= -
このように、N ガデキル動詞句の意味は名詞とデキルが共合成することで生 成される。ところが、最も疑問に思うのは、タイプ強制が適用される条件であ る。これが明らかになれば、以上の仮定は成立しない。例えば、「急用ができ る」というようなコトの生起は、タイプ強制が適用されて生起の意味が生成さ
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れたと考えられるが、「車の運転」もコト名詞であるが、「車の運転ができる」
は可能の意味を生成する。また、以上の仮定では、完成と可能は一致している ため、名詞が完成と可能の意味を指定する条件は何なのかも問題である。した がって、タイプ強制の条件を含め、次節から Nコトガできルから考察したい。
なお、これまでクオリア構造に規定において、LCS 的に書いてきたが、便宜 上、これ以降は影山(2011)の書き方を取り入れる場合もある。