4.3 N モノ ガデキル
4.3.2 可能を表す N モノ ガデキル
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つまり、主体役割に動作主がそれを作ろうとすることが記載されていれば、タ イプ強制が適用されるということである。したがって、(123)に修正した仮定 をまた次のように修正する。
(128)デキル<完成>は達成動名詞のコト名詞を指定する。モノ名詞の場合、
主体役割に動作主がそれを作ろうとするという前提がある場合に かつその場合にのみ、タイプ強制が適用される。
以上で、<生起>と<完成>を表す N モノガデキル構文を見てきたが、<生 起>を表すか、<完成>を表すかはクオリア構造の主体役割に動作主が意図的 に Nモノを作ろうとするか否かで決めることが明らかになったのである。
4.3.2 可能を表す N
モノガデキル筆者の仮定では、デキル<可能>はコト名詞を指定するが、モノ名詞の場合、
タイプ強制が適用されデキル<可能>と共合成するのだという想定である。そ こで、本節では、タイプ強制が適用される条件を探る。まず、次の用例の中で、
「息ができる」のみ、可能の意味を表す用例以外見当たらない。
(129)a. 息ができず、声も出せない。
(逢坂剛著 『熱き血の誇り』, 2002, 913)
b. 大和一隻で、十分に相手ができる。
(竹内誠著 『太平洋最終決戦・不沈空母「硫黄島」』, 2002, 913)
c. いまだにメールができません。(Yahoo!知恵袋, 2005, 携帯電話、モバイル)
d. いつもなら日曜日はゲームなんですが今日は親が家にいるんで ゲームが出来ません。
(Yahoo!ブログ, 2008, レジャー)
e. 英語ができる女性はたしかに知的に見えます。
(緒方明著 『ミキハウス症候群』, 1993, 367)
f. もちろん言葉ができるのにこしたことはない。
(九里徳泰著 『冒険王への 100 の戦術』, 2000, 786)
g. 何でこんな簡単な問題ができないの!
(Yahoo!ブログ, 2008, 教育)
h. 今まで演奏しきれなかった曲が出来るようになる。
(文芸ポスト, 2005, 文学/芸術)
i. 事務のパートを募集していて休日など勤務時間も子供がいる私 には条件が良いなと思ったのですがやはり今の時代、パソコンが 出来る事が条件ですよね?
(Yahoo!知恵袋, 2005, 資格、習い事)
j. いつまでたっても,数学ができるようにはなりません。
(新井紀子著 『ハッピーになれる算数』, 2005, 411)
なぜ「息」は可能の意味しか捉えられないのであろうか。以下、そのクオリ
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ア構造を見る。四つの役割をまとめて言えば、「息」は生命体が生きるために 気を吸ったり吐いたりする生理現象である。すでに、4.2.1 節で生起と完成を 表す N モノガデキル構文を見たが、クオリア構造の主体役割に動作主の存在が あれば、完成の意味を表しうることが明らかになった。しかし、「息」はその 反例である。
(130)「息」のクオリア構造 CONS=気(y)
FORM=モノゴト(y)
TELIC=生命体(x)が生きるために息をする。
AGEN=生命体(x)が気(y)を吸ったり吐いたりする。
なぜ「息」は可能の意味しか表さないのであろうか。これは動機づけがない ことが原因として考えられる。つまり、「息」というものは、積極的に作るも のではなく、生きていく限り必ず作られるものであるため、生起か完成の意味 を表す動機づけがないのである。
次に、「相手」のクオリア構造を次のように想定する。
(131)「相手」のクオリア構造
CONS=最低一人の人間(x)
FORM=ヒト(x)
TELIC=最低一人の人間(x)が誰かと対抗する…
AGEN=最低一人の人間(x)が誰かの相手になる。
「相手」は人間であるが、この人間は誰かと対抗するために、その誰かの相手 になる。つまり、「相手ができる」は「対抗ができる」という意味がある。(129b)
の用例で説明すれば、「大和一隻で、十分に対抗できる」と言い換えられる。
また、「メール」のクオリア構造を次のように想定する。これは、メールと いうものは文字から構成され、人が情報を伝達するためにメールを作成する、
ということを表している。
(132)「メール」のクオリア構造 CONS=文字(y)
FOMR=モノ(y)
TELIC=人(x)がメール(y)により情報を伝達するため AGEN=人(x)がメール(y)を作成する。
以上の三つの例を見れば、タイプ強制が適用される条件は、目的役割にある
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のではないかと思えてくる。これを検証すべく、もう少し例を見てみる。すで に見たように、「ゲーム」という語はモノゴト名詞であるが、モノ名詞の場合、
ゲームソフトを指す。以下、「ゲーム」のクオリア構造を再掲するが、モノ名 詞の意味を中心に見るため、形式役割には「モノ」と書き換える。下記のよう に、「ゲーム」の目的役割にも、人がゲームにより何等かのことをする、とい うことが記載されている。
(133)「ゲーム」のクオリア構造(=108 部分修正して再掲)
CONS=最低一人の人間(x)、ゲームの道具…
FORM=モノ(y)
TELIC=人がゲーム(y)で楽しむ/勝負をする…
AGEN=ゲーム会社の社員(x)がゲームソフト(y)を作る。
また、主体役割に作り手が意図的にゲームを作ることが記載されているので、
「ゲームができる・できた」は<完成>の意味も表す。
(134)ミクシィが新しいコミュニケーションを考えたら、ゲームができ た。
(http://news.mynavi.jp/series/workreport03/001/)
次に、「〇〇語」と「言葉」のクオリア構造は次のように想定できる。「○○
語」と「言葉」は歴史の成り行きで出来たものであるが、人はこれによりコミ ュニケーションを取ることが「〇〇語」ないし「言葉」の目的・機能である。
(135)「〇〇語」と「言葉」のクオリア構造 CONS=音声、文字、文法規則、意味…
FORM=モノ(y)
TELIC=人が○○語(y)か言葉(y)によりコミュニケーションを 取る。
AGEN=歴史の成り行き
また、「問題」はモノ名詞ではあるが、次にあげるように、PROBLEM とし ての問題と、QUESTION としての問題、即ち試験問題という二義性がある。
(136)a. AVI形式の動画をTMPGEnc Plus 2.5を使い mpgに変換したいんですが・・・少し問題が出来ました。。。
(Yahoo!知恵袋, 2005, パソコン、周辺機器)
b. 何でこんな簡単な問題ができないの!
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前者の「問題ができる」は生起の意味を、後者は可能の意味を表している。
以下、それぞれのクオリア構造を次のように想定する。
(137)「問題」のクオリア構造
PROBLEM QUESTION CONS= 何らかの事柄 文字、記号…
FORM= モノ(y) モノ(y)
TELIC= ― 学生(s)が問題(y)を解く AGEN= ― 教員(x)が問題(y)を作成する まず、PROBLEM としての問題は何らかの事柄から構成され、自然に生じる ものである。自然に生じるので目的役割がない。一方、QUESTION としての 問題は教員が学生に解いてもらうように作成するものである。つまり、目的役 割がタイプ強制の条件にあてはまる。そこで、(91)の仮定を以下のように修 正する。
(138)デキル<可能>もコト名詞を指定する。モノ名詞の場合、目的役割に 人がそのモノにより何等かのことをする場合かつその場合にのみ、
タイプ強制が適用される。
最後に、検証としてパソコンという語のクオリア構造を見る。目的役割に人 がパソコンにより何等かのことをすることが記載されている。
(139)「パソコン」のクオリア構造
CONS=スクリーン、キーボード、マウス、ディスク…
FORM=モノ(y)
TELIC=人(x)がパソコン(y)によりゲームをしたり文書を作成 したりする
AGEN=人(x)がパソコン(y)を作る
実際に、「パソコン」とデキル<可能>と共合成すれば、次のようになる。
(140)「パソコンができる」のクオリア構造 CONS=[STATE z BE WITH y]
FORM=event:状態
TELIC=[EVENT x ACT WITH y]
AGEN=[EVENT x MAKE y]
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上記のように、目的役割には動作主が y によって何らかのことをするという ことが記されている。これで、(138)に修正した仮定が立証できたわけである。
これも 4.2.2 節で観察したように目的役割は可能の意味を指定するということ と一致している。