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デキルの意味構造

2.3 クオリア構造

2.3.4 デキルの意味構造

立 政 治 大 學

N a tio na

l C h engchi U ni ve rs it y

2.3.4 デキルの意味構造

ここまで、クオリア構造、項構造、事象のタイプと語彙概念構造を見てきた が、次からは生起、完成、可能という順にデキルの意味構造を想定した上で、

統一的な規定を試みる。まず、生起を表すデキルの意味構造を次のように想定 する。

(50)デキル<生起>の意味構造 項構造:<Y>

構成役割:[EVENT BECOME [STATE y BE AT-z]]

形式役割:event:状態変化 目的役割:-

主体役割:-

すでに見たように、構成役割はその動詞の LCS であり、生起の LCS は上記 のように規定した。また、形式役割はその動詞の事象のタイプであり、生起の デキルが表すのは状態変化という事象であり、生起を表すデキルは、人の意志 などが関わらない非対格動詞であるため、目的役割がないと考えられる。最後 に、主体役割はその動詞が表す事象の前提または背景状況であるが、LCS の上 位事象でもあるので、ここでは未指定にしておく。

次に、完成を表すデキルの意味構造は次のように規定する。完成のデキルは 構成役割と形式役割では生起と全く同様であるが、主体役割は異なっている。

完成の場合、主体役割に動作主(x)が何かを作る(または、する)という前 提が記載されている。これが生起と完成の最も顕著な違いである。

(51)デキル<完成>の意味構造 項構造:<Y>

構成役割:[EVENT y BECOME [STATE y BE AT-z]]

形式役割:event:状態変化 目的役割: -

主体役割:[EVENT x ACT (ON-y)]

可能を表すデキルの意味構造を次のように規定する。まず、これまで見てき たように、可能の形式役割は生起や完成と異なり、状態である。次に、その目 的役割は人(x)がその能力(y)で何等かのことをするというように考えられ る。ここで注意したいのは、経験者主(z)と動作主(x)はそれぞれ異なる変 項で表示しているが、実際は同一者、即ち「経験者主=動作主」なのである。

また、その主体役割は、生起と同様に、上位事象がないので、未指定にしてお く。

‧ 國

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(52)デキル<可能>の意味構造 項構造:<Zヒト<Y>>

構成役割:[STATE z BE WITH y]

形式役割:event:状態

目的役割:[EVENT x ACT WITH y]

主体役割:-

上記のように、デキルの諸意味に相応した意味構造をここまで見てきたが、

まとめると次のようになる。

(53)デキルの意味構造

N ガデキル

2.2 節でデキルの意味のネットワークを明らかにしたように、完成は主体役 割に動作主が N を作るという前提が記載されている点で生起と異なっている。

しかし、可能は主体役割を除き、すべての役割が生起と異なっているため、意 味構造からは生起から派生したとは思われないかもしれない。故に、生起、完 成、可能の意味構造は、上記のように、それぞれ独立した意味で N ガデキル という形式に存在すると示している。N ガデキルは生起、完成、可能の三つの 意味を有するが、どの場合にどの意味を表すのかはガ格名詞句、即ち N が決 めるのではないかと考えられる。詳しくは第 4 章で考察する。

<完成>

A-S:<Y>

CON:[

EVENT

y BECOME [

STATE

y BE AT-z]]

FOR:event:状態変化 TEL: -

AGE:[

EVENT

x ACT (ON-y)]

<生起>

A-S:<(Z

トコロ

)<Y>>

CON:[

EVENT

BECOME [

STATE

y BE AT-z]]

FOR:event:状態変化 TEL:-

AGE:-

<可能>

A-S:<(Z

ヒト

)<Y>>

CON:[

STATE

z BE WITH y]

FOR:event:状態

TEL:[

EVENT

x ACT WITH y]

AGE:-

‧ 國

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2.4 まとめ

本章では、デキルの文法的振る舞い、多義性と意味構造について考察した。

その結果、まずデキルは生起、完成、可能の意味を問わず、ガ格名詞句を有す るが、N ガデキル全体の意味が異なれば、ニ格名詞句の名詞範疇と意味役割も 異なることがわかった。そのことは次のようにまとめることができる。

(54)

次に、デキルの多義性について認知言語学の枠組みで考察した。その結果、

生起の<無から有になる>という中心的スキーマから<完成>と<可能>の 意味が派生したことが明らかになった。

最後に、デキルの項構造、事象のタイプと語彙概念構造などを想定した上で、

その意味構造も規定した。名詞と共起する場合、この意味構造の内容はどのよ うに働いてくるのかは第 4 章で詳しく論じる。

ニ格名詞句の名詞 ニ格名詞句の意味役割

生起 ヒト・トコロ 場所

完成 トコロ 場所

可能 ヒト 能力の所有者

(場所を表す場合、デ格名詞句)

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第 3 章 モノ名詞とコト名詞

前章では N ガデキルの意味を指定するのは N なのではないかと推測した。

具体的には、その N がモノ名詞かコト名詞かにより意味が変わってくると考 えられるということを述べた。先行研究では、コト名詞のみが N ガデキルで 可能を表すとされてきた。しかし、実際に、モノ名詞でも可能を表す場合もあ るため、本研究では N ガデキルの N について改めて考察する。

但し、N ガデキル動詞句単位で考察する前に、本章では NINJAL-LWP for BCCWJ(以下、「NLB」)36というコーパスで、N ガデキルにおける名詞につい てデータを集め、集めたデータをモノ名詞とコト名詞に分類する。