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第 5 章では、完成と可能の両義性を持つ N ガデキルを中心に、構文レベル で付加部の有無、否定接辞のナイとテンス・アスペクトの観点から考察した。
更に、完成を表す N ガデキルが後接する言語形式について、可能と対照に考 察を試みた。その結果、完成と可能は時間的展開の有無で大きく異なっている という結論にたどり着いた。
6.2 今後の課題
本研究では、N ガデキル構文について、語レベル、句レベルと文レベルに分 けて考察したが、いくつか問題点が残っている。
まず、意味が N ガデキル動詞句の段階で決まると主張してきたが、ガ格名 詞句が欠けている場合では、意味はどのように指定されるのかが問題である。
次に、第 3 章では行ったモノ名詞とコト名詞に分類する作業が大きな問題で ある。筆者は先行研究に基づき、モノ名詞とコト名詞について定義し、その定 義に沿った統辞的テストで分類の作業を行った。しかし、分類の際、相当迷い があったので、より良い分類法について引き続き、研究したい。
また、デキルには生起、完成、可能の三つの意味のみならず、小泉ら(1989)
でまとめたように、「人柄が円満である」という四つ目の意味用法がある。こ の意味用法は、必ずしも N ガデキルという形式ではないため、本研究の考察 対象から除外した。今後では、N ガデキル問う形式に拘らずにデキルを主要部 とするデキル文全般を射程に入れたい。
最後に、最も大きな問題点は実現可能である。コト名詞かモノ名詞を問わず、
N ガデキル動詞句で、次のように、名詞が修飾語句を受ける例がある。
(184)a. 広島のかたきを討つつもりだった。最高のゲームができた。韓 国戦は相手の出方がわからなかったから敗れたが、これからは 全部、見てわかっているので、相手に応じたメンバーで戦って いけるはずだ。
b. そんなわけで、体調万全じゃなかったのが残念でしたが、取り 合えず一部ではあったけれど、良いゲームが出来たよねってこ とで、、 (=109 掲)
これは従来、実現可能として取り扱われた言語表現であるが、本研究では完 成であるという考え方を提案した。つまり、ゲームというのは、終了時点まで 行って初めてひとまとまりとして成り立つという考えである。その考え方にお いては実現可能か完成なのか、言い切れないかもしれない。また、本論文で言 う完成は実現可能と似通っているところがあるが、その異同について立ち入る 余裕がなかったため、「ADJ+N ガデキル動詞句」については今後の課題とする。
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参考文献
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井島正博(1991)「可能文の多層的分析」仁田義雄(編)『日本語のヴォイスと 他動性』くろしお出版 .
井上和子(1976)『変形文法と日本語』大修館書店 池上嘉彦(2000)『「日本語論」への招待』講談社
上野誠司・影山太郎(2001)「移動と経路の表現」影山太郎(編)『動詞の意味 と構文』大修館書店
上原 聡(2007)「認知語形成論」上原聡・熊代文子(著)『音韻・形態のメカ ニズム』研究社
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法論への存在論的アプローチ―」山梨正明ほか(編)『認知 言語学論考 N0.2』ひつじ書房
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小野尚之(2005)『生成語彙意味論』くろしお出版 影山太郎(1993)『文法と語形成』ひつじ書房
影山太郎(1996)『動詞意味論―言語と認知の接点―』くろしお出版 影山太郎(1999)『形態論と意味』くろしお出版
影山太郎(編)(2001)『動詞の意味と構文』大修館書店
影山太郎(2005)「辞書的知識と語用論的知識―語彙概念構造とクオリア構造 の融合にむけて―」影山太郎(編)『レキシコンフォーラム No. 1』ひつじ書房
影山太郎(2010)「動詞の文法から名詞の文法へ」『日本語学』Vol. 29-11 影山太郎(2011)「モノ名詞とデキゴト名詞」影山太郎(編)『名詞の意味と構
文』大修館書店
河上誓作(1996)『認知言語学の基礎』研究社
金水 敏(2003)「所有表現の歴史的変化」『月刊言語』Vol. 32-11.大修館書店 熊代敏行(2002)「日本語の「に‐が」構文と分裂主語性」西村義樹(編)『認
知言語学 I:事象構造』東京大学出版会
小泉保・船城道雄・本田皛治・仁田義雄・塚本秀樹(編)(1989)『日本語基本 動詞用法辞典』大修館書店
定延利之(2012)「「体験」型デキゴトをめぐる研究の経緯と新展開」影山太郎・
沈力(編)『日中理論言語学の新展望 2 意味と構文』くろし お出版
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渋谷勝己(1993)「日本語可能表現の諸相と発展」『大阪大学文学部紀要』33 杉岡洋子・影山太郎(2011)「名詞化と項の受け継ぎ」影山太郎(編)『名詞の
意味と構文』大修館書店
杉本孝司(1998)『意味論 1―形式意味論―』くろしお出版
蘇 文郎(1990)『各種表現の日中語対照研究-格表現、存在表現、可能表現 を中心に-』大新書局
田中聡子(1996)「動詞「みる」の多義構造」『言語研究』110
寺村秀夫(1981)「「モノ」と「コト」」『馬淵和夫博士退官記念国語学論集』大 修館書店
寺村秀夫(1982)『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』くろしお出版
富田隆行(1991)『これだけは知っておきたい日本語教育のための―基礎表現 50 とその教え方』凡人社
仁田義雄(1997)『日本語文法研究序説―日本語の記述文法を目指して―』く ろしお出版
仁田義雄(2010)『語彙的統語論の概念から』ひつじ書店
日本語記述文法研究会(編)(2009)『現代日本語文法 2―第 3 部格と構文、第 4 部ヴォイス』くろしお出版
前田富祺(1983)「できる」佐藤喜代治(編)『講座日本語の語彙 11』明治書 院
益岡隆志(1987)『命題の文法―日本語文法序説』くろしお出版 益岡隆志(2000)『日本語文法の諸相』くろしお出版
益岡隆志(2013)『日本語構文意味論』くろしお出版
益岡隆志・田窪行則(1992)『基礎日本語部文法―改訂版―』くろしお出版 眞野美穂・影山太郎(2009)「状態と属性―形容詞類の働き」影山太郎(編)
『形容詞・副詞の意味と構文』大修館書店
三原健一(1994)『日本語の統語構造―生成文法理論とその応用』松柏社 森山卓郎(1988)『日本語動詞述語文の研究』明治書院
ヤコブセン・ウェスリー・M(1989)「他動性とプロトタイプ論」久野暲・柴 谷方良(編)『日本語学の新展開』くろしお出版
山梨正明(2000)『認知言語学原理』くろしお出版
山梨正明(2009)『認知構文論―文法のゲシュタルト性』大修館書店
吉村公宏(2003)「認知語彙論」吉村公宏(編)『認知音韻・形態論』大修館 吉村公宏(2004)『はじめての認知言語学』研究社
林 青樺(2009)『現代日本語におけるヴォイスの諸相―事象のあり方との関 わりから―』くろしお出版
Givón, Thomas (1984) Syntax, Vol. 1. John Benjamins
Pustejovsky, James (1995) The Generative Lexicon. MIT Press, Cambridge, MA.
Vendler, Zeno (1957) “Verbs and Time.” The Philosophical Review, 66(2): 143-160.
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付録
記号に対する説明:
[1] 指示対象:指示対象に△と〇があれば、モノ名詞とみなす。
〇:図示しやすい(具体的な)モノ
△:図示しにくい(抽象的な)モノ
×:図示不可 [2] 数え方:
個数と回数以外に、「人、件、本」などの助数詞を書く。念のため、判断 基準として扱わない「つ」も書いておく。
[3] 場所格:
ニ:主にモノ名詞と共起するが、コト名詞の場合もある。
デ:コト名詞のみ共起する。
―:場所格がある用例が見当たらない。
[4] 行う/前/中/後/の際:〇は共起可能;×は共起不可 [5] の上:
空間:モノ名詞の場合、空間における「上」を表す。
時間:コト名詞の場合、時間軸における前後関係を示す。
△:以上の意味でない意味を表す場合。
―:共起する用例が見当たらない。
[6] 結果:モノ、コト、モノゴトの三パターンがある。
表 A. モノ名詞とコト名詞の分類
番号 名詞 指示対象 数え方 場所格 行う 前 中 後 の際 の上 結果
1 仕事 △ 件、回数 ニ 〇 〇 〇 〇 〇 △ モノゴト
2 子(供) 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
3 もの・物 〇 個数 ニ × × × × × 空間 モノ
4 人 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
5 (お)話 △ 話・つ ニ 〇 × 〇 〇 〇 △ モノゴト
6 生活 × ― デ 〇 × 〇 〇 〇 △ コト
7 準備 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 △ コト
8 確認 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
9 友達 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
10 判断 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
11 時間 △ ― ニ × × × × × ― モノ
12 対応 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
13 食事 〇 回数 ニ 〇 〇 〇 〇 〇 空間 モノゴト
14 勉強 × 回数 デ 〇 〇 〇 〇 〇 △ コト
15 活動 × 回数 デ 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
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番号 名詞 指示対象 数え方 場所格 行う 前 中 後 の際 の上 結果
16 会話 × 回数 デ 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
17 用意 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
18 彼女 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
19 余裕 △ ― ニ × × × × × ― モノ
20 制度 △ ― ニ × × × × × ― モノ
21 ○○方 × つ ニ × × × × × ― モノ
22 (行)列 〇 列、本 ニ × × × × × 空間 モノ
23 操作 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 △ コト
24 関係 △ ― ニ × × × × × ― モノ
25 ○○性 △ ― ニ × × × × × ― モノ
26 作業 × 回数 デ 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
27 設定 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
28 息 △ 回数 ニ × × × × × ― モノゴト
29 我慢 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 △ コト
30 彼(氏) 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
31 行動 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
32 人間 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
33 取り引き × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 △ コト
34 隙間 〇 箇所 ニ × × × × × 空間 モノ
35 ○○語 〇 国語 ニ × × × × × ― モノ
36 説明 × 回数 ニ 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
37 請求 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
38 管理 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
39 計算 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
40 ○○法 △ つ ニ × × × × × ― モノ
41 法律 △ 件 ニ × × × × × ― モノ
42 体験 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 △ コト
43 恋人 〇 人 ニ × × × × × ― モノ
44 返事 〇 件、通 ニ 〇 〇 〇 〇 〇 ― モノゴト
45 交換 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
46 調整 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
47 利用 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
48 店 〇 軒 ニ × × × × × 空間 モノ
49 理解 × 回数 ― 〇 × × 〇 〇 時間 コト
50 運動 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 ― コト
51 処理 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
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番号 名詞 指示対象 数え方 場所格 行う 前 中 後 の際 の上 結果
52 選択 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
53 相手 〇 人 ニ × × × × × 空間 モノ
54 表現 △ つ ニ 〇 ― ― ― 〇 ― モノゴト
55 呼吸 × 回数 ― 〇 ― 〇 〇 〇 ― コト
56 意味 △ つ ニ × × × × × ― モノ
57 入力 × 回数 ― 〇 〇 〇 〇 〇 時間 コト
58 言葉 〇 つ、語 ニ × × × × × △ モノ
59 読み書き × 回数 ― 〇 × 〇 × 〇 ― コト
60 ○○会 △ 回数、つ ニ、デ 〇 〇 〇 〇 〇 ― モノゴト
60 ○○会 △ 回数、つ ニ、デ 〇 〇 〇 〇 〇 ― モノゴト