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実例の分析 - B「否定的判断」言語化の在り方 -

立 政 治 大 學

N a tio na

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やうで御座います」ツて……餘りぢやア有りませんか、ネー貴君、な んぼ私が不器用だツて餘りぢやアありませんか。」

『浮雲』

(17) (貞)「おとぼけなさるなヨ。しれたこと。しの原さんのヨー」

(山)「アアあのおてんばか。僕がしばらく行かなかったから。英書の質問 に出かけてきたんだろう。あの西洋好きにも困るよ。傍へよるとな んだか毛唐人くさくって。」

(貞)「オヤいつ傍へよって。」

(山)「そりゃアなにサ。毎日毎日けいこに行くから。あのちぢれっ毛の前 がみをつきつけられつけていらア。」

(貞)「だけれどこうしていてもそんな別品がきちゃア気が気じゃアないワ」

とすこしわらいながら。「ほんとに姉女房は心配だワ。だけれどキッ トうしろぐらいことはないのエ。後暗いことは。エエ。」

『藪の鶯』

例(15)は、酔っ払って帰ってきた貫一が靴も脱がずにそのまま玄関で寝だし たことに対し、婚約者のお宮が注意するものである。ここでは、お宮の「玄関 で寝ることは望ましくない」という判断を伝える文に、女性語「わ」が現れて いるのである。続く例(16)は、お鍋が以前、化粧をした際に、その姿を見た御 新造から、客人が居るにも関わらず悪口を言われ、それが嫌だったということ を、第三者の文三に語っている。ここでは、お鍋の「(客人がいる前で)悪口を 言われることは望ましくない」という感情を伝える文に、女性語「わ」が用い られている。最後の例(17)は、お貞が内縁の夫の山中と、山中を尋ねて来た篠 原の娘について、話している場面である。お貞は、わざわざ家にまで尋ねて来 た篠原の娘に関して、やましい事はないのかと山中に尋ねている。ここでは、

お貞の「山中と篠原の娘が親しくなることは望ましくない」という判断を伝え る文に、女性語「わ」が現れているわけである。

3.4 実例の分析 - B「否定的判断」言語化の在り方 - 3.4.1 【B イ 1】 「否定的判断それ自体」

話し手の事柄に対する「否定的判断」がストレートに言語化されているタイ プである。

‧ 國

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(18)(俊)「アア驚いてよ。球ちやん酷いわ貴方は。」

(球)「だつて貴方餘り茫然としてゐるんですもの、何を見てゐたの。」

『秋袷』

(19) (貫)「宮さん、お前さん如何したの。ええ何處か不快なのかい。」

……… 中略 ………

(宮)「奈何したのだが私にも解らないけれど、……私は此二三日如何した のだか……變に色々な事を考へて、何だか世の中が滿らなくなつて、

唯悲くなつて來るのよ。人間と云ふものは今日恁して生きてゐても、

何時死んで了ふか解らないのね。恁して居れば、可樂な事もある代 に辛い事や、悲しい事や、苦しい事なんぞ有つて、二つ好い事は無 し、考れば考るほど私は世の中が心細いわ。」

『金色夜叉』

(20) (清)「兄貴が見たら氣が違ふかも知れなからうよ。ねえ、お弓さん餘り遊 ばない樣にねえ。」

(弓)「何方が遊ばれたんだか貴郎は御存じないでせうよねえ。小妻さんに 何樣に外聞が惡かつたか何處かの人は御存じありますまいよねえ。」

と、お弓は手酌で又一杯重ねて、猪口を清二郎に獻しながら、「私 が當家へ如何して來たんだか、貴郎にや何せ解りますまいよねえ。

實に口惜いわ。」

『河内屋』

例(18)は、お球が、急に姉のお俊を驚かせたという場面である。ここでは、

その「お球がお俊を驚かせた」ことを対象に、話し手・お俊の「酷い」という 判断が言語化されており、そこに女性語「わ」が接続している。続く例(19)は、

お宮が貫一に世の中への不満を語るものである。ここでは、「世の中には、良い ことよりも悪いことのほうが多い」という事柄に対して、話し手・お宮の「心 細い」という判断が言語化されており、それを伝える文に女性語「わ」が現れ る。最後の例(20)は、お弓と清二郎の会話である。以前、遊郭で働いていたお 弓は、かねてから清二郎に思いを寄せていたが、現在は、清二郎の兄・重吉の 妾として、清二郎とも同居している。清二郎は兄を憚ってお弓を遠ざけようと するが、お弓は、そのような、清二郎の冷たい態度を嘆いている。ここでは、

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そうした、意中の相手に自分の心情を理解してもらえないことを対象に、お弓 の「口惜しい」という判断が語られ、そこに女性語「わ」が出現しているので ある。

3.4.2 【B イ 2】 「否定的判断に相当する事柄」

(21) (貫)「お前が得心せんものなら、此地へ來るに就いて僕に一言も言はんと 云ふ法は無からう。家を出るのが突然で、其暇が無かつたなら、後 から手紙を寄來すが可いぢやないか。出抜いて家を出るばかりか、

何の便も為ん處を見れば、始から富山と出會ふ手筈になつてゐたの だ。(後略)」

……… 中略 ………

(宮)「然う言はれて了ふと、私は何とも言へないけれど、富山さんと逢ふ の、約束してあつたと云ふのは、其は全く貫一さんの邪推よ。私等 が此地に來てゐるのを聞いて、富山さんが後から尋ねて來たのだ わ。」

『金色夜叉』

(22)

(宮)「(前略)いつかあなたの作文ネー。私は暗誦しておりますヨ……。聖

賢の教えも得手勝手に取りなして聞く時は。身を乱だすこともある べし。いやしき賤が小歌も心をとめて聞く時は。おしえにならざる はなし。げにその地にあらざれば。これをううれども生ぜず。その 人にあらざれば。これを語れども聞えず……。私は大へんこの作文 が好きですから。お手本にしてだまっていましたワ。」

(服)「お記憶のよいこと。私くしすらわすれてしまいました。(後略)」

『藪の鶯』

例(21)では、貫一が、何も告げずに自分のもとを去った元婚約者のお宮を探 し当て、罵っている。貫一は、もとからお宮は富山と示し合わせて姿を消した のだろう、と問い詰めるが、お宮は、富山は後から尋ねて来ただけだと反論す る。ここで、話し手・お宮が「否定的判断」を下しているのは、「富山とお宮が 示し合わせてここに来た」という貫一の主張である。それへの「否定的判断」

がそのまま言語化されれば、たとえば「それは違うわ」といったものになるだ

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ろうが、ここでは、そうした「否定的判断」そのままが言語化されているので はない。「富山が後から尋ねて来た」ことという事柄を提示することによって、

「否定的判断」を伝えるのと同然になっているのである。即ち、(21)は「否定 的判断に相当する事柄」に女性語「わ」が接続したものということになる。続 く例(22)は、宮崎が、昔、学校で服部が詠んだ詩を黙って手本にしていたと、

服部本人に明かしている。ここで、話し手・宮崎が「否定的判断」を下してい る対象は、「服部の詩を手本にして、黙っていた」ことという宮崎自身の行動で ある。例(22)では、その事柄自体の提示によって、事柄に対する否定的判断(た とえば「勝手に人のものを参考にするのは、その人に対して申し訳なかった」

などの)を伝えたのと同じことになっている。そんな事柄が言語化される文に 女性語「わ」が現れているのだった。

3.4.3 【B イ 3】 「否定的判断の対象となる事柄」

「わ」には「否定的判断」ではなく、その対象となる事柄自体に接続する例 も見られる。次の(23)から(25)はその例である。

(23) 君江「(前略)全く此世の中が厭になつた苦い苦い涙を溢して居たのよ。さ うするとね、乳母、笑つちやアいやよ。いつ來てらつしやつたのか、

ふいと顔を舉ると、若い立派な情の深さうな方が、可愛らしい目を して、ぢツと私を見て立つて居らつしやつたの。私や全く眞赤にな つて、逃やうとしたけれど極りが惡くつて、それも出來なかつたし、

俯いて了ふと――その方はね、乳母。三週間許逗留のお積で、呉の方 から大佐を尋ねてお出になつたのだツて仰しやつて、私がなぜ泣い てるツて親切に聞いて下さるのよ。アラ、乳母、笑つてるわ……そ れなら話してあげないから」

『乳姉妹』

(24) 算盤を彈いてゐるお上さんが隣の間から聲を掛ける。

(妻)「あなた、年末もとうとう足りなかつたのね。」

(夫)「さうかなあ。もつと旨く遣り繰つて行かれないかい。」

(妻)「そんな事を仰やつたて、わたしのせいばかりぢやないわ。本の代も 随分大變あつてよ。(後略)」

‧ 國

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一しょにお咄しをするワ」とバタバタたべながらかけて行く。

『藪の鶯』

例(26)は、ドリンコ―ト侯爵のヱロル夫人に対する扱いが酷いと、侯爵の妹 であるロリーデル夫人が侯爵を非難している場面である。ここでのロリーデル 夫人は「侯爵がヱロル夫人のことを大切にしていない」ことに対して、「否定的 判断」を下しているわけである。そして、ロリーデル夫人は、その「否定的判 断」をふまえて、「侯爵がヱロル夫人を大切にしないならば、ロリーデル家にヱ ロル夫人を迎えよう」という判断を提示している。つまり、この女性語「わ」

は「否定的判断」を背景に、そこから新たに展開された判断に接続する例だと 考えられよう。続く例(27)では、お宮が、婚約者である貫一と別れ、別の男と の結婚を決める。そのことへの申し訳ないという思いが、ここでの「否定的判 断」であるが、それをふまえて、お宮は「会わせる顔がないので、貫一には会

は「否定的判断」を背景に、そこから新たに展開された判断に接続する例だと 考えられよう。続く例(27)では、お宮が、婚約者である貫一と別れ、別の男と の結婚を決める。そのことへの申し訳ないという思いが、ここでの「否定的判 断」であるが、それをふまえて、お宮は「会わせる顔がないので、貫一には会